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2020年5月13日(水)

新型コロナ 災害避難をどうする

新型コロナ 災害避難をどうする

自然災害と隣り合わせの日本。新型コロナウイルスの流行下、避難所のあり方が問われている。災害から命を守るために、緊急的な避難は絶対に必要!しかしながら「3密」状態になりやすい避難所では、過去にも感染症の流行が起こっている。私たちの命を守るために、私たちが今できることは?今回、NHKは実験を行い、避難所の床に溜まる飛沫が感染のリスクを引き上げることがわかった。自治体の中には、避難所のキャパシティを広げるべく、民間の倉庫や学校の空き教室なども新たな避難所とするところも。各地の具体的な方法を紹介する。

出演者

  • 櫻井 滋さん (岩手医科大学 教授)
  • 石井光太さん (作家)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

もしも自然災害が起きたら 新型コロナと避難所

3月、北海道の標茶町で、ことしの避難の難しさが浮き彫りになりました。
大雨、融雪による川の増水で、200人あまりの住民が体育館に避難。
対応に当たった町の職員は。

標茶町 担当者 伊藤正明さん
「時間もなかったので、なるべく隣の人と間隔をあけて座ってもらう。シートの上を2メートル間隔でテープを貼りました。通常の避難所運営だけでは、当然 対策にならない。」

避難者の数は多くなかったので、なんとか人と人との距離を保つことができました。


過去に大きな水害や地震を経験した地域でも、具体的な対応策が打ち出せずにいます。

九州北部豪雨で被災 福岡県朝倉市地区長 井福喜嗣さん
「3年連続で大雨がきて、今年もあるんじゃないか。『密接』『密集』を避けるのはちょっと無理かなと思う。」

北海道胆振東部地震で被災 厚真町住民課 中村信宏さん
「小さな自治体だけで対応できるのかが一番心配。ただ、まずは危険な地域から出ていただいて、避難所に避難していただくことを最優先することが大切。」


多くの自治体が心配している、避難所での感染リスク。
実は この不安、今に始まったことではありません。
かつて、感染症との闘いを余儀なくされたのが、東日本大震災でおよそ200人が避難した宮城県名取市 館腰小学校の避難所です。

感染制御を専門とする遠藤史郎医師が当時、避難所内でインフルエンザウイルスの対応に当たりました。
体育館の中は12のグループに分けられ、15人ずつが過ごしていましたが、感染拡大が予期せぬ形で起こりました。

東北医科薬科大学病院 遠藤史郎病院教授
「一つの区画内だけで(感染の)広がりを見せると思っていたが、位置的にも離れた区画の方々からインフルエンザがたくさん出た。」

1つのブロックで1人の感染が発覚。翌日には、離れた場所にあるグループから次々と感染者が見つかりました。

数日のうちに感染者は15人ほどに。人々の支え合いが、皮肉にも人の行き来を多くし、クラスターの発生につながってしまったのです。

東北医科薬科大学病院 遠藤史郎病院教授
「避難所の中でコミュニケーションをとろうとすること自体が、感染症の発症には逆効果になってしまった。」


飛沫(ひまつ)感染のおそれがある、新型コロナウイルス。
避難所内で、どこに感染リスクがあるのか。
今回 NHKは、室内環境学を専門とする関根嘉香教授の監修のもと、実験を行いました。

実験のために用意されたのが、特殊なカメラと空気圧で飛沫を発生させる装置です。人のくしゃみと同じ量の飛沫を無風状態の部屋で飛ばします。

口から放たれる飛沫は1.5mほど先に集中して落下。飛沫にウイルスが含まれていれば、床では24時間以上は感染力を持つと考えられています。

その上を人が歩くと、ホコリなどに付着した飛沫も一緒に舞い上がります。

さらに、くしゃみやせきなどで空気が動くだけでも、ホコリは床から20cmほどの高さにまで舞い上がることが分かりました。

東海大学理学部 関根嘉香教授
「特に体育館のように かたい床、ツルツルの床面では長く生き続ける。ただよう空気の中のウイルスも(注意が)大事ですが、避難所の場合は、まずは床面に落ちた飛沫の対策が重要。」


どうすれば、避難所を感染リスクの少ない環境に保てるのか。
それを研究しているのが、災害看護が専門、高知県立大学の神原咲子教授です。今、神原さんは避難所の感染症対策を、急いでマニュアル化しようとしています。

この日、調査に訪れたのが避難所に指定されている体育館です。
神原さんが飛沫への対策として有効とみているのが、段ボールで作れるベッドや間仕切りです。感染リスク軽減に効果があるとされています。
このベッド1つが1人分のスペース。このように周りを囲うことで飛沫を防ぎます。

床から35cm底上げされていることも、床から舞い上がる飛沫を防ぐためには有効です。何より、ベッドを置くことでスペースが確保され、密を回避できる効果もあります。

高知県立大学 看護学部 神原咲子教授
「床の上にいつまでもウイルスがいるという状況が起きると、リスクは高い。できるだけ高さを確保したい。」

さらに注意が必要なのが、接触感染への対応。
手すりやドアノブの徹底的な消毒です。

高知県立大学 看護学部 神原咲子教授
「例えばトイレの(スイッチ)でも、みんなが同じ所を触るから、自分がここを触った後に誰かが触ったら、もしかしたら感染させるかもしれないという考え方が非常に重要。共用のところは(消毒を)気をつける必要がある。」


NHKが行った別の実験です。
手には特殊な塗料。共用部を触ることで、知らず知らずのうちにウイルスを多くの人に広げる可能性があります。

手すりやドアノブ電気のスイッチやエレベーターのボタン。これらは特に多くの人が触れる危険な場所。「ハイタッチサーフェス」と呼ばれ、特に注意が必要なポイントです。

高知県立大学 看護学部 神原咲子教授
「自分だけを守るのではなく、相手にうつさないために自分が先に消毒。ここ(避難所)のみんなが健康な生活を守るという気持ちが大事。」

新型コロナと避難所 生き延びるための術は?

武田:命を守るためには絶対に必要な避難。しかし、新型コロナウイルスの流行で避難を促す行政も逃げなくてはならない。私たち住民も、いざというときにどう行動すべきか、大変難しい問題です。あなたは 今からどう備えますか。今回は、それを一緒に考えていきましょう。
作家の石井さん、ご自身も東日本大震災で避難所など、多く取材されたと思うのですが、どんな問題点を考えていらっしゃいましたか?

ゲスト 石井光太さん(作家)

石井さん:避難所には いろんな人が来ます。高齢者や体が不自由な方、あるいは外国人の方。そういう人というのは、なかなか指示どおりの生活ができなかったりするわけなんですね。そのときに行政のマニュアルの中では、町のお医者さんに定期的に来てもらうとか、ボランティアを駆使する。コロナの状況になってくると、本当にお医者さんが回せるのか、看護師さんが回せるのか、ヘルパーの人は導入できるのか。自治体というのは、今、新しくマニュアルを作り替えなければならないというふうに思っています。

武田:そして、もう一方、東日本大震災などで避難所の感染症対策に携わり、今回、クルーズ船でも感染対策に当たった櫻井さん。私たちも、行政も、考え方を変えていかなくてはならない状況にあるんでしょうか?

ゲスト 櫻井 滋さん(岩手医科大学 教授)

櫻井さん:そうですね。例えば、避難所というのが都市部にあるのか、それとも地方にあるのかによっても全く違うと思うんですけれども、少なくとも、いま日本中が新型コロナウイルスの感染症で燃えている状態だとすれば、外から支援に来ていただけるのにも時間がかかる。そういうことを考えますと、やはり今までの避難所運営ではなくて、地元できちっとできるようなことを少し考えなきゃいけないということだと思いますね。

武田:社会部、災害担当の清木さん。住民は何をしておくべきなのでしょうか。

清木記者:こちら、避難所の中をイメージした図になるんですけど、「感染リスクの高い場所を避ける」というのが重要になっていきます。例えば、この中だと、避難者の方たちが生活するスペースは大人数になってくるとかなり密になりますので、できれば避難者どうしが2m以上のスペースを保った状態で生活をすることが大事になります。掲示板の辺りや炊き出しの辺りも人が集中しやすい場所になりますので、注意が必要です。

また、避難所に持っていってほしいもの。今から準備していただきたいなと思うんですけれども、マスク、体温計、そして、アルコール消毒液。マスクは、もしなければタオルとかバンダナで鼻と口が覆えれば効果があるということなので、そういったものも準備が必要かなと思います。

あと忘れがちなのが「防寒着」ですね。梅雨の時期も、夜は結構気温が下がりますので、避難者の方が寒いと言ってしまうとなかなか換気がしにくい状況になってしまいますので、防寒着を持っていくというのも重要かなと思います。

武田:櫻井さん、それから行政が何をしていくべきかという点なんですが、段ボールベッドというのはかなり有効なんですね。

櫻井さん:そうですね。東日本大震災の初期のころは、体育館の冷たい床の上にブルーシートを敷いてお休みになっている方がたくさんいらっしゃったんですね。そこに段ボールが持ち込まれて、ついたてのように使ったり、あるいは敷いてベッドのように使ったりと。このアイデアは今どんどんよくなっていて、本当にベッドとしても遜色ないものになっています。それから仕切りがあるということは、飛沫などを防ぐことにも有効だと考えていいと思います。

清木記者:私たちで段ボールベッドを準備するのは難しいですので、今からあらかじめ自治体のほうには準備していただきたいと思います。自治体も備蓄するということは難しいと思いますので、例えば、地域の段ボールの業界団体と協定を結んでおいて、もし災害が起きたら、すぐにそこから避難所に持ってきてもらうということを事前に準備しておくことが重要なのかなと思います。

武田:もう1点、櫻井さん、感染した人が避難所に来るということもあると思うんですけれども、どう対応したらいいのでしょうか。

櫻井さん:避難所っていうのは「人を選んで受け入れる場所ではない」というふうに考えます。ですから、とりあえず入っていただいて、適切な場所に配置するということが1つのアイデアなんですけれども、そのためには、最初から「症状がある人」と、症状はないんだけれども「少し調子が悪い人」とか、あるいは周りに病気の方がいらっしゃるような方、全くそういうこととは関係なく「元気な人」というふうに3つぐらいには分けておいて、「家族単位」で過ごしていただくといったことが必要になるかなと思いますね。

武田:家族の中に感染している方がいても、ということでしょうか。

櫻井さん:そうですね。避難所はコミュニティーを壊してしまいますと、当然、家族間での行き来が出てしまうんですね。ですから、「クラスターを大きくしないための工夫」をしておかなければいけない。そうすると最小単位というのは、面倒を見たり見られたりする家族ということになります。家族が一緒にいても、例えば、手をよく洗うというような予防策は当然ありますので、必要以上に距離を離してしまうということではなくて、「クラスターをなるべく小さく切り分ける」という発想が必要になってくると思います。

武田:適切に分けて過ごしていただくということですけれども、実際には、どのような取り組みがあるのでしょうか?

清木記者:自治体も、まさに今 検討を進めているというところです。例えば、取材している千葉県南房総市なんですけれども、避難者の方に、こうしたチェック項目を聞いてから避難所に入っていただくと。体温を測って熱がないか、せきがないか、のどの痛みがないか、息苦しさがないか、味覚とか嗅覚の障害が出ていないか。

感染の恐れがあるような人には別の部屋に避難してもらうと。これであれば、医療の専門家の方が現場にいなくても、例えば町内会のリーダーの方たちがチェックするといったこともできるのかなと思いました。

武田:なるほど。こうした状況下での避難所のあり方に少しヒントが見えてきた気もするんですけれども。

石井さん:僕自身が櫻井先生にお尋ねしたいのが、例えば避難所の中で、もしクラスターが起きましたと。そうすると、そこにいる感染していない人たちというのは、どこかの施設に移行するんでしょうか?

櫻井さん:これまでの東日本大震災の場合も、熊本地震のときもそうだったんですが、お元気な人を逃がそうという考え方がちょっと起こるんですね。ところが、お元気に見えても、もう感染が生じていると考えますと、その間にほかの避難所に移してしまうと、ほかの避難所でまたクラスターができてしまうんですね。なので、できるだけ1つの避難所の中に病院のような仕組みを作って、「保護する部屋」と「中間的な部屋」と「元気に過ごしてもらえる部屋」というふうに3つぐらいには分けなくてはいけないということは、常識として持っていないといけないと思いますね。そこに、かかりつけの先生たちとのつながりができていれば、避難所の中でも町ができるというか、そういうことが可能だと思います。

武田:避難所で感染を広げない一番のポイントが、やはり3密を避けるということです。ただ、それが難しいのが人口の多い都市部です。具体的な動きが今、始まっています。どんなヒントがあるんでしょうか。

“避難”のあり方を見直せ! 新型コロナと避難所

去年10月、東日本を中心に大きな被害を出した台風19号。
中でも東京・足立区では川の氾濫の危険性が高まり、3万人以上が避難所に殺到。区内135か所に開設された避難所の多くで人があふれました。

特に3密を避けるのが難しい都市部での対応。
足立区では検討が始まっています。
4月下旬、区の担当者は、災害時の避難に詳しい東京大学大学院の松尾一郎さんと話し合いました。

足立区職員
「足立区民は69万人いる。その全てを避難所で収容することはできないというのが現状。ほんとうに悩みの種。」

「限られた公共施設であれば、おのずと避難できる人数が決まっている。」

「これでは、とてもじゃないけどクラスターになってしまう。」

区の職員が悩む最も大きな要因は、やはり、人口に対して用意できるスペースが少なすぎること。
そこで松尾さんは、避難に対する新たな考え方を提案しました。

東京大学大学院 松尾一郎客員教授
「私は多様な避難があると思う。それを分散避難というのか、あるいは“マルチ避難”と呼んでもいい。」

新たに示されたのは“マルチ避難”。避難所以外の安全な場所も選択肢に入れるというものです。それには、鉄筋造りのマンションやホテルなどの宿泊施設、車の中なども含まれます。

マルチ避難の1つに「在宅避難」というものがあります。これは、自宅が浸水の恐れが低い場合、自宅を緊急的な避難場所にするというもの。できれば、1週間程度の備蓄が望まれます。事前に自宅で想定される被害を把握した上でできる避難の方法です。避難所での3密を防ぐのに効果的だと松尾さんは考えています。

早速、区ではハザードマップをもとに、浸水リスクの低い在宅避難が可能なエリアや住宅の検討に着手しました。

足立区職員
「2階建てならば2階にいて、自宅で避難をしてもらう。」

「食事だけではなくトイレの方も、携帯用トイレとかを用意していただかないといけない。」

今後、在宅避難の選択肢を持つよう、住民たちに促せないか考えています。


さらに、3密を避ける避難のために不可欠なのが新たな避難所の確保です。足立区は、地域にある運送会社と連携し、避難所の増設に乗り出しています。

「こちらのフロアを避難所として使っていただく。」

「こちらは赤ちゃんを見るお母さま方に、授乳とかに使っていただければ。」

民間の施設なども利用して、避難所をできるだけ多く増やす予定にしています。

こうした行政の取り組みを受け、住民の意識にも変化が生まれてきています。
足立区長門南部地区で避難所の運営に携わっている、町会長の今坂昭男さんです。浸水のリスクが低い家に、在宅避難への理解を促そうと声がけを始めました。

長門南部地区 町会長 今坂昭男さん
「学校の方も密集ができない、感染が一番怖いわけですから。」

「極力、数を減らさなきゃ しょうがないもんね。」

長門南部地区 町会長 今坂昭男さん
「2階、3階に避難してくださいという形になると思う。」

長門南部地区 町会長 今坂昭男さん
「鉄筋はまだしも、木造の家は決壊したら家が流されてしまう。そういう人たちは避難所に優先して避難させるべき。ただ全員避難してもらうのはキャパシティからも難しいだろうと。我々がやっているのは、“自分の命は自分で守る”が基本。」

松尾さんは、新型コロナウイルスの対策を考えることが、地域全体で防災を見直す機会にもなると考えています。

東京大学大学院 松尾一郎客員教授
「どんな避難形態をとって、行政が必要なこと、住民が必要なこと、それをきちんと役割を示すことが必要。コロナに対する一人一人の感染防止対策と通じるものがあると思います。」

分散型避難、あなたはどう考えますか?

新型コロナと避難所 生き延びるための術は?

武田:「マルチ避難」、避難場所を分散させる「分散型避難」とも呼ばれているそうですけれども、改めてどういうものなんでしょうか?

清木記者:川の近くは浸水が想定されるエリア、山の近くは土砂災害が想定されるエリアになります。このような危険のあるエリアに住んでいる場合には、避難所に行く、安全な場所にある知人や親戚の家、ホテルなどに避難することが重要になっていきます。

もし危険なエリアでないのであれば、自宅にとどまるような在宅避難も考えるということが重要になります。ただ難しいのは、足立区のようなところで、区のほとんどが浸水するような想定になっているんですけれども、足立区では今、3m以下の浸水域であれば、自宅の2階以上とかマンションの高い階に在宅避難するように呼びかけられないかということを検討しています。

ただ、非常に難しい課題だなというふうには感じました。

武田:難しいですよね。自分だけは自宅にとどまると決められていても、果たしてそういう判断ができるかどうかと思うんですが、どうなんでしょう。

清木記者:実際に そういった状況になってから考えるのではパニックになってしまいますので、遅いと思います。なので、今から考えておくことが重要で、例えば、手がかりであるハザードマップなどを見て、「自分が住んでいる場所にどういう災害のリスクがあるのか」をきちんと把握した上で、例えば、自分の家の構造がどうか、家族の状況がどうかといったものも踏まえた上で、「どんな避難がベストなのか」を今から考えておくことが重要になってくると思います。自治体もです。長野県では、ホテルとか旅館を避難所として使えるように交渉していたり、徳島県では消防団の詰め所であったりをリストアップして、交渉を進めているということなんですね。ただ、災害というのは水害だけではなくて、地震とか津波もあります。地震の場合は頑丈な建物にまず行くことが重要ですし、津波はすぐに高台に逃げることが重要ですので、自分の地域にどういった災害リスクがあるのかを知ることが重要になってくるかなと思います。

武田:石井さん、どのようにご覧になりましたか?

石井さん:本当に「マルチ避難」というのはすごくいいアイデアだと思いますし、僕たちはそのマニュアルがない時代の中で、おのおの一人一人がどういう対処をしていくのかということを きちんと考えていかなければならない状況にあるんだと思います。例えば、東日本大震災の後、お寺が避難所になったということから、全国のお寺とか宗教施設が連携をとって連絡会議を作って、マニュアルを作っていく。そういった運動というのも起きています。あるいは、車中泊するのではあれば、車中泊に「どういう危険があるのか」、どうすればいいのかということをきちんと自治体が示していく必要があるのではないのかなというふうに思っています。

武田:新型コロナウイルスの流行は非常に長期化することも考えられていますけれども、そういった中で、災害時の対応ということについて、櫻井さんはどのようにご覧になっていますか?

櫻井さん:実は、避難所というのは結果論なんですね。やはり皆さんがいくら考えておいても、そのとおりの被災というのが起こるわけではない。それぞれが、それぞれに逃げおおせるということが重要で、私ども医療従事者は、逃げおおせた方を いかに生き延びさせるかということに腐心します。なので、コロナかコロナでないかというような最初の仕分けというのも100%は絶対に無理だということが分かっているんですね。ですから、感染を起こさない避難所ではなくて、起こっても、それを収拾できると。要するに、「クラスターを大きくしないような工夫」を散りばめていくほうが とても大切だと思っています。避難所の中で、自分の居場所を自宅だとたとえれば、必要以上に皆さんと交わらないとか、あるいは、共用部分について非常に注意をして取り扱う。ご自分の手をいつもきれいにする。シンプルに予防をしていくことがとても大事で、全体として それができれば、たとえ集合しても、ある程度リスクは下げられると思うんです。

武田:清木さんはどうでしょうか。

清木記者:今回 取材した中で、医療関係者の方もボランティア団体の方も、今までの災害のように、何かあったら とにかく支援に行くぞ、わっと行くぞというふうな感じには、これからはちょっと難しいかもしれないとおっしゃっていたんですね。そうなると、やはり支援の手が入らないということになりますので、被災地にいる人たち、被災者が自分自身で何とか自分の身を守る策というのを考えて、生き延びていかなければいけないのではないかといったところは すごく強く感じました。

武田:今、私たちが窮屈な日常生活の中で少しずつ学んでいることが、これから防災に何か生かせるのではないかという気もいたしました。
時と場所を選ばない自然災害。新型コロナウイルスの収束が不透明な今だからこそ、行政、そして私たち自身がしっかりと備えていきたいと思います。
きょうは、どうもありがとうございました。