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2020年5月7日(木)

新型コロナ どうする?“暮らしの危機” ~“長期戦”の中で~

新型コロナ どうする?“暮らしの危機” ~“長期戦”の中で~

給与が激減し、住宅ローンや家賃が払えない。仕送りやアルバイトがなくなり、このままだと学費が払えず退学しかない…。緊急事態宣言が5月末まで延長された中、暮らしが立ち行かない瀬戸際に追い込まれる人たちが急増。公的な支援も行き届かない中で、支援の窓口には悲鳴の声が殺到している。また休校が延長となり、子どもたちへの心や学習へのさらなる影響を懸念する声も高まっている。暮らしの危機をどう乗り越えていけばいいのか。支援策の情報も交えて伝えていく。

出演者

  • 猪股 正さん (弁護士)
  • 尾木直樹さん (教育評論家)
  • 武田真一 (キャスター) 、 小山 径 (アナウンサー)

収入激減 住宅ローンが払えない

新型コロナウイルスの影響で収入が激減し、住宅ローンが返せなくなったという男性です。都内でタクシー運転手として働いていましたが、会社は4月から休業。
ふだん月40万円あった手取りは…。

タクシー運転手の男性(30代)
「マイナスなんです。」

4月はマイナス5000円という衝撃の数字でした。
男性は歩合制で働くため、社会保険料と住民税を引くと金額がマイナスになってしまうのです。

タクシー運転手の男性(30代)
「仕事して、お金払っている状態です。もう何もかもが計算が狂いますね。」

12年前に2700万円で購入したマンション。2人の子どもに財産として残してあげたいと考えていました。

しかし、月8万円のローンの返済もままならない状態に陥ってしまいました。

男性は3か月分の返済を猶予してもらいたいと、先週、金融機関に相談しました。国は金融機関に対し、生活に困窮した人のローンの返済に柔軟に対応するよう求めており、男性は猶予が認められました。

しかし、生活費にも事欠く状況。
地域の社会福祉協議会から、緊急の小口融資20万円を借り入れてしのいでいます。

タクシー運転手の男性(30代)
「命綱ですね。もう収入は見込めないので。なんとか、つないでいけたらなと。ただ、それが尽きるのも時間の問題。」


住宅ローンの返済に行き詰まる中で、自己破産に追い込まれる人も出ています。
千葉県のアパレルショップに勤めている男性です。
会社が休業となり、手取りで20万円台だった収入が大きく減りました。もともとローンの返済に余裕がなく、半年前から滞納しがちだった男性。自宅を売却するしかなくなりましたが、不動産会社の担当者から思わぬことを聞かされます。

不動産会社「明誠商事」 飛田芳幸さん
「コロナの影響でですね、物件の売却に関しても結構マイナスな影響が出ていまして。いま現在の売れる金額だと1000万円くらいかなと。」

アパレルショップで働く男性(40代)
「なるほど。」

1~2年前なら1400万円の値がついていた自宅。不動産会社によれば、住宅ローンの返済に行き詰まり、自宅を手放したい人が増えており、住宅価格が下がっていると言うのです。

不動産会社「明誠商事」 飛田芳幸さん
「売却したいっていう方の相談は相当増えると思います。何かしら打開策がないと値段が下がる一方だと思います。」

1000万円での売却となると、自宅を手放しても500万円の借金が残ります。男性は自己破産するしかなくなり、その手続きをいま進めています。

アパレルショップで働く男性(40代)
「コロナの影響で より先が見えなくなってしまった状況だったので、自己破産につながっていったのかなと。どう生活していいかがわからないですね、正直。」


急増する問い合わせに対し、この不動産会社では、返済が滞る前に金融機関に相談するようアドバイスしています。
対応策は、返済を一時的に猶予してもらうことや月々の返済額を減らして返済期間を延ばすことなどです。

不動産会社「リスタート」 峯元 竜さん
「消費者金融とか、金利の高いところで借りて、それを住宅ローンにあてることは絶対にしないでください。自粛が延びた場合、大変な状況になるので、貯蓄を崩さないということがすごく大事だと思います。」

学生が苦境に 支援する側にも危機

親の仕送りが減り、アルバイトもできない学生たちにも危機が及んでいます。

学生団体が全国の大学生などを対象に行ったアンケート調査。1200人から回答があり、5人に1人が退学を検討しているという深刻な事態が明らかになりました。

調査をした学生団体の代表
「すごい深刻な状況で、今 現実に『来月どうしよう』『来月の生活費が出せない』という人もいる。」

大学4年生の狩野慎太朗さん。
共働きの両親に迷惑をかけないよう、自分で学費や生活費を賄ってきました。
主な収入は貸与型の奨学金、月6万円と寿司屋でのアルバイト代12万円。支出は月5万円の家賃や食費など、合わせて12万円でした。そして、黒字分の6万円を学費などに充てていたのです。

しかし、今月はアルバイト収入が0に。父親が働く飲食店も4月から休業しているため、頼ることはできないといいます。

狩野慎太朗さん(21)
「今後がすごい不安というか、4年生なんで、しんどいですね。これで卒業できなかったら苦しいですね。」

大学からは、給付型の奨学金が支給される国の「修学支援制度」の活用を勧められましたが、狩野さんは対象外だと分かりました。共働きの両親の年収を合わせると380万円を超えているため、収入が減っていても支援の対象にはならないのです。収入減に苦しむ学生の多くが国の支援制度の対象になっていないのが実情です。

狩野慎太朗さん(21)
「家賃代とか学費を払えるだけのお金をもらえれば、気持ち的には頑張ることができるので、そういう面で補償してほしいですね。支援してほしいなって思いますね。」


支援団体も前例のない危機に直面しています。
病気や災害などで親を亡くした子どもたちに奨学金を給付する「あしなが育英会」。先月、感染リスクなどを理由に、全国300か所で予定していた募金活動が設立以来初めて中止を余儀なくされました。

あしなが育英会 岡﨑祐吉事務局長
「50年続いたものを途絶えさせてはいけないっていうことで、非常に悔しい思いをしました。単なる募金が集まらないというよりも、遺児の現状を広くみなさん方に伝えていただく機会も失ってしまったと。」

募金活動は支援の輪を広げ、寄付の増加にもつながります。今年度は春と秋の募金活動などで総額40億円を集めることを見込んでいました。しかし、事態が収束しなければ秋の募金活動も中止になるおそれがあり、給付の額や対象を狭めることも検討せざるを得ないといいます。

あしなが育英会 玉井義臣会長
「どんなことがあってもね、どういう状況にあっても、大学に行かせるということだけは彼らに約束したいと思うんですよ。何が何でも私が大学まで行かせるから頑張れと。」

相次ぐ悲鳴 支援が間に合わない

国や自治体の支援を待っていては間に合わない事態も起きています。
NPOや弁護士などが大型連休中に実施した電話による相談会。

弁護士
「4月12日に解雇されて、今 所持金っていくらありますか?」

「本当、500何十円とか。」

弁護士
「500円」

相談者の男性は、国が支給する10万円の給付金を待ち望んでいます。しかし、いつ受け取れるのかは不透明。対応した弁護士は、緊急で資金が得られる生活保護を申請するようアドバイスしました。

弁護士
「すぐに使える制度って、500円の状況で使える制度って、やっぱり生活保護なんですよ。方針としては(連休が明ける)5月7日に生活保護の窓口に申請に行く。」

しかし、“大型連休が明けるのを待っていられない”という切実な声も寄せられました。

「実際に手持ちにどれくらい残ってます、お金。…300円。」

“明日には食料もつきてしまう”という相談。

団体では、積み立てていた基金から2万円を支給することを決定し、その日のうちに直接届けに向かいました。
待ち合わせ場所に現れたのは50代の女性。心臓に持病を抱え、治療代が必要だといいます。しかし、夫の収入が半減したため、貯金は底をついてしまいました。

50代女性
「ちょっともう、こらえてこらえての今日なので。(国が支給する)10万円は助かるとは思うんですけど、でも今なんですよね、やっぱり。」

電話相談を行った 猪股 正弁護士
「そのお金(給付金)が届くのを待っていられない人たちなので、制度が今、収入を失って困窮状態に追い詰められている人たちの状態に追いついていない状況がはっきりと見えているということ。」

緊急事態宣言が延長される中、私たちの暮らしをどう守っていくのか。
スタジオで考えます。

広がる困窮 支援現場で何が

武田:学費が払えないという大学生。住宅ローンが返せないという現役世代。緊急事態宣言が延長される中で電話相談に乗っていた猪股弁護士は、今や、「あらゆる世代・職種で困窮」が広がっているといいます。

小山:その電話相談に寄せられたのは2日間で147件で、世代を見てください。若者から高齢者まで幅広い世代が苦しい状況を訴えました。

武田:猪股さん、暮らしへの打撃はリーマンショックのときと比べても、やはり厳しいとご覧になっていますか。

ゲスト 猪股 正さん(弁護士)

猪股さん:そうですね。私たち実は、2週間前にも同様の電話相談会を開催したんですけれども、その際には所持金がわずかという方は数人だったんですけれども、2週間たつうちにどんどん追い詰められていって、所持金がわずかという方が3人に1人にまで増えているという状況で、本当に日に日にぎりぎりまで追い詰められている方がどんどん増えている深刻な状況だと思います。

武田:これは、やはりリーマンショックのときとは大きく違う?

猪股さん:そうですね。あのときには「年越し派遣村」という取り組みがあって、そこで貧困が可視化されたところがありますけれども、今回は相談に行くのもなかなか難しい。集まるのも制約があるということで、状況が見えにくいということがあって、それだけに、ステイホームしながら家の中で人知れず追い詰められていく。あるいは、ステイする家がない人は、外をさまよいながらぎりぎりまで追い詰められていってしまうと。そういう状況があって、いま支援が届いていないので本当に心配な状況だと。

小山:政府・自治体などは、このような支援策を打ち出しているんですけれども、行き届いていないという現状も見えてきました。猪股さん、相談を受ける現場ではどう感じていますか。

猪股さん:1つは、必要なときに届いていないという現状があると思います。例えば、政府は新しく10万円の給付金の制度を用意しましたけれども、これが実際に手元に届くのは5月下旬、6月、自治体によっては7月になるかもしれないという状況で、今まさに所持金が尽きようとしていて大変な状況の方は、それでは間に合わないので、ぜひ国の責任でもっと人を投入して、何とか一刻も早くお金が届くように対応していただきたいというふうに思っています。

武田:そんな中で、相談したくてもできない“相談崩壊”という現状も出てきているそうですが、これはどういうことでしょうか。

猪股さん:いま新しいメニューがいくつかできていますけれども、それぞれ窓口が違っている。医療の分野では医療崩壊というふうに言われていますけれども、福祉の分野でも人が足りない、そこにたくさんの相談が殺到するという状況が生まれていて、対応が追いつかないという状況がどんどん深刻化していると思います。

武田:制度を充実させるだけではなくて、対応ももっと早めていかないといけないということですよね。

猪股さん:そのためには人の配置、人を増やすということも とても重要だと思います。

武田:VTRでは、行き詰まったらぜひ“生活保護”をと勧めていらっしゃいましたけれども、これはなかなか ちゅうちょする方も多いのではないかと思うんですよ。そこはどう考えていけばいいのでしょうか。

猪股さん:これまでのいろんな流れの中でちゅうちょされる方が多いんですけれども、今すぐに使える制度が生活保護制度です。ほかの制度では綱渡りの中でどんどん追い詰められてしまう可能性がありますので、ぜひ生活保護制度を積極的に使っていただきたい。今、コロナに合わせて、車の保有の要件など緩和されている部分もありますので、権利ですから堂々と、今こそ支え合うために生活保護制度を使っていただきたいというふうに思っています。残念ながら窓口で誤った対応がなされることもあります。人も少ないですから。そういうときには、ちゅうちょせず相談をして声を上げていただきたい。抱え込まないでいただきたいというふうに思っています。

武田:猪股さん、どうもありがとうございました。

猪股さん:どうもありがとうございました。

武田:緊急事態宣言の延長で見過ごせないのが、休校が続く子どもたちへの影響です。教育の遅れやストレスを心配する声が高まっています。

休校延長 学校・家庭の苦悩

今月いっぱい休校になった愛知県内の小学校です。
教師が直接教えることができない中、先月下旬、保護者に教材を手渡し、学習指導を託すことにしました。

保護者
「今度 親が勉強を教えないといけないので、習っていないことをやらせないといけない。早く(学校が)始まってほしいです。」


多くの学校では、パソコンを持っていない児童がいるためオンラインによる対面指導はできていません。家庭に教育を任せるしかない現実。学校では手探りの対応を迫られています。教科書を家庭で教えてもらうため、独自で資料を作ることにしました。

小学1年 学年主任
「これを家でやってもらうのは、おうちの人に申し訳ないとは思うのですが、資料を作成しています。」

こうした資料を学校のホームページで公開し、“親を手助け”したいと考えています。

しかし、家庭学習では児童の間で学習格差が広がってしまうのではないか心配しています。

小学5年 学年主任
「通常の授業だと、わかる子はうなずきながら聞いてくれるし、わからない子は首をかしげながらやっている様子が目に見てわかるので、こういう形だと なかなか子どもたちの反応が見えないので、どのくらい理解をしていて、できているのかなということがすごく不安です。」


子どもの勉強を託された家庭も不安を募らせています。
この学校に通う、小学5年生の男の子。時間があっても学校の課題にはなかなか取り組もうとしません。
夫婦共働きのため、親が子どもの勉強を見てあげられるのは帰宅後だけです。
しかし、子どもが初めて習うことをどう教えたらいいか、親もトレーニングを受けておらず、自己流でやるしかありません。

母親
「わからない状態のところを勉強で教えるというのは親からすれば難しい、正直。こんなので大丈夫なのかな。」

外出できず、時間を持て余す男の子が夢中になっているのがオンラインゲームです。会うことができない友達と通信でつながり、楽しむことができる時間。自粛生活が続く中でのストレス発散になっています。

父親
「このゲームに関しては友だちともしゃべりながらできますし、楽しそうにやっているから、ちょっと許しちゃいますよね。」

これ以上 休校が長引くと、生活サイクルが乱れたり勉強の時間が減ったりしないか、家族の不安は高まるばかりです。

「おうちでは勉強がんばっていますか?」

対応に追われてきた学校では9月入学の議論も始まり、ますます先行きが見通せなくなっています。

北名古屋市立白木小学校 今田靖嗣校長
「もし9月になった場合は、いま行っていることが予習になってしまうのか、それとも、どのような扱いになるのか非常に難しい。子どもたちのためにも、できる限りのことを(日々)取り組んでおります。」

親と子を支えるために、いま何をすべきか。
教育評論家の尾木直樹さんと深めていきます。

続く休校 いま何が必要か

武田:尾木さん、学校でも試行錯誤が続いていますけれども、親としてはこれほど休校が長期にわたりますと、取り戻せるんだろうかとか、その影響はずっと続くんじゃないかと心配になるんですが、尾木さんはどんな危機感をお持ちでしょうか。

ゲスト 尾木直樹さん(教育評論家)

尾木さん:学力格差がものすごく広がってしまい、それが固定化するんじゃないかということが1つですね。もう1つは、いま特に高校生なんかがよく言うんですけれども、自分たちのことを「どうせ自分たちはコロナ世代だ」と。「コロナ世代」という言い方をして、非常に自虐的で大事にされていない、愛されていないという思いから、非常に自己肯定感が低くなっているんですね。自己肯定感が低くなってくると挑戦心もなくなりますし、忍耐力も弱くなってくるんですよ。そういう心の成長への影響が心配ですね。

小山:今の現状について尾木さんは「学校の役割を家庭が担う弊害が大きい」と指摘しています。尾木さんが示した図なんですけれども、本来、学校と家庭はそれぞれの役割を果たしながら協力をしてきた。ところが、現在というのは、学校の円の中に家庭がある、学校の役割を家庭が担わざるを得ない状況になっているということなんですよね。尾木さん、この弊害というのはどういうものがあるんでしょう。

尾木さん:これは先ほどの愛知県のVTRの中でも明らかになっていましたけれども、先生方も「家庭で教えてもらうことができるんだろうか」という不安感ですね。そして、家庭は家庭で、学校から丸投げといったら表現は悪いですけれども、依頼されてきたのを引き受けて「素人なのにやれっこない」というふうに悩んでいました。本来は学校と家庭は違う価値観とスタンスを持っているんですけど、学校の中に家庭が飲み込まれてしまった。価値観が同心円になってしまった。そして、学校の勉強をやってもらうことをお母さんが評価するならまだ分かるんです。学校なんですよ、成績をつけるのは。これは両方が力をなくしてしまう。そして、もう1つ大事なことは、子どもたちの居場所がなくなって、逃げ場もなくなってくると。全部が学校ということになるわけですね。これは非常にまずいと思います。

小山:尾木さんは、オンライン学習を国主導で早期実現するべきだと訴えています。世界的にもOECDが活用すべきだと指針を示しているんですけれども、文部科学省によりますと、同時双方向型のオンライン学習を行ってる自治体は5%にとどまっているという現状なんですね、尾木さん。

尾木さん:そうなんですよね。このオンラインの授業をやるというのは、もう文科省の方針になっているわけで、今年度の3月までにやるといっているので、5月いっぱいぐらいで急いですぐに取り組むべきで、アンケートを取ればその状況は分かるわけですから、全員がそろわなくても そろった段階から始めて、そろっていない子のほうには違う制度でプリントやいろんな形で丁寧に、一人もこぼさずやっていくということが極めて重要で、急がなければいけないと思います。ニューヨークは僅か10日でやりましたからね。

武田:尾木さん、子どもたちにとって一日一日が大切な成長の機会です。それが十分に得られない今、何が求められているんでしょう。

尾木さん:教育よりも子どもたちの命だという声もよく聞くんですけれども、それは事実そうなんですけれども、子どもたちの学ぶ権利があるわけですよ。これを大人や国が保障しなきゃいけないので、そのことをおろそかにするべきではないと。新しい生活様式ということばが今はやってきていますけれども、“新しい学びの様式”、つまり学びの多様化です。喫緊なことで言えば、オンラインをすぐに整備するというのは新しい学びを多様化して、不登校の子たちもそれを気にしなくてもいい。不登校という概念もなくなるだろうと思いますよね。それはすごく重要だと思います。

武田:尾木さん、ありがとうございました。

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