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2020年4月7日(火)

緊急事態宣言 経済悪化をどう食い止める?

緊急事態宣言 経済悪化をどう食い止める?

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、幅広い業種の企業から悲鳴があがる中、今後の日本経済、そして世界経済はどうなっていくのかを深めていく。今回の”コロナ・ショック”が、リーマンショックと違うのは「金融発」の危機ではなく、人やモノの動きが停滞したことで、「実体経済」が先に痛んでいる、ということだ。北海道や愛知県の信用金庫には、客が急減し売り上げが大幅に落ち込んだ外食産業や小売りなどの企業から相談が殺到。資金繰りに苦しむ中で、綱渡りの日々が続いている。一方、中国発のサプライチェーンの寸断に悩んでいた製造業でも、新たな悩みに直面している。中国での生産が2月中旬に再開して喜んだのも束の間、今度は、欧米で人の移動が大幅に制限され、欧米向けの生産や輸出が思うようにできなくなっているのだ。こうした悪循環は、アメリカやヨーロッパでも起きており、「世界で同時に人が移動できなくなる」という異常事態が経済を直撃しているのだ。番組では、国内外の企業の実態をルポし、今後の日本経済、そして世界経済の行方を考える。

出演者

  • 大槻奈那さん (マネックス証券チーフアナリスト兼名古屋商科大学大学院 教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

対応迫られるデパート 内部にカメラが

緊急事態宣言で休業要請の対象となるデパート。
この店では、すでに3月の売り上げが1年前と比べておよそ40%減少しています。客を呼び込みたいところですが「3密」を避けるため、イベントの中止も余儀なくされています。

イベント企画 担当者
「このアニメイベントが中止。あさってからのも中止。着物の催事も中止。」

松屋 顧客戦略部 服部延弘担当部長
「お客様の数が極端に減ってしまった。ふだんこのくらいの時間ですと、おそらく2倍以上のお客様がいらっしゃっていただいている。」

新型コロナウイルスの感染者が増える中、さらに難しい対応が求められています。
東京都の外出自粛要請を受けて、3月の最終週の土日を休業。次の土日の営業についても同じ対応をとることを決めました。

松屋 横関直樹常務執行役員
「街の雰囲気を見ていても、なかなかいま現状が厳しいという中では、休業というのが正しい判断だと思われます。」

松屋 帯刀保憲副社長
「お客様、従業員の安全安心を含めた上、地域のお話を聞くと、やはりここは休業というほうがいいと。」

土日は他の曜日に比べ、大きな売り上げを見込んでいました。

松屋 秋田正紀社長
「業績にも影響いたしますし、どうやって経費を絞って利益を確保していくかは、これからさらに詰めていかなければならない。」

臨時休業の影響は自社の社員だけでなく、入居する400以上のテナントにも及びます。

「今度の土日が臨時休業というのが正式に決まりましたので。」

「正直お店は開けてほしいです。やっていれば、必ず来てくださるお客様はゼロはないですから。」

初めて経験する緊急事態宣言。感染拡大がいつ収まるのか。先の見えない状況に頭を悩ませています。

松屋 横関直樹常務執行役員
「非常に大きな決断を強いられるのかなと考えています。(緊急事態宣言の)内容を確認させていただいて、お客様と取引先、全従業員、社員、取引先の従業員も含めて、その方々の安心と安全を最大限考慮した上で(方針を)決定していきたいと考えています。どうやって経営を継続できるのか議論をしている。」

資金繰りに奔走…最前線で何が?

きょう出された緊急事態宣言。
1か月以上前に、いち早く独自に宣言を出したのが北海道です。
観光が主な産業である洞爺湖町。
インバウンドが激減していたうえに国内の観光客の動きも止まり、影響は深刻になっています。

「困りましたね。本当に困りました。」

地域の中小企業を支えてきた伊達信用金庫・洞爺温泉支店。返済の延期や緊急の融資を求める事業者からの相談が相次ぎ、対応に追われています。

「延滞先、もしくはこれから遅れそうな先の対応、どの業種等に関わらず、件数は日々増えております。」

「約定日までに支払わないお客さんに対しては、しっかり相談にのると。」

この日、信金から融資を受けていた事業者が相談に訪れました。
洞爺湖畔で飲食店などを営む、岡田晋平さんです。

伊達信用金庫 洞爺温泉支店 荒 秀樹支店長
「難しいですよね。」

岡田屋 専務取締役 岡田晋平さん
「そうですね。」

手にしていたのは3月の売り上げの推移。前年に比べて、平均でおよそ7割落ち込んでいました。

祖父が開業して70年以上続く、岡田さんの店。地元の特産品で作る白あんのお汁粉が、観光客の人気を集めてきました。

岡田屋 専務取締役 岡田晋平さん
「借金分返せる数字を作っていかなくちゃと思って計算しているけど、計算のしようがない。どれだけ人が来るのかって、世の中の情勢。行政の一言でがらっと変わっちゃうので。」

2月以降、外国人観光客が減り始めたため、岡田さんは3月に日本政策金融公庫から新たな融資を受けました。しかし、その後もさらに客足が減ったため、運転資金を確保しようと信用金庫にも新たな融資を申し込んだのです。

伊達信用金庫 洞爺温泉支店 荒 秀樹支店長
「まずはしっかり運転資金、確保してもらって、(事業)継続してもらうのが一番かなと思っている。当然、借り入れとなると、今後の返済の負担もあるので。」

岡田屋 専務取締役 岡田晋平さん
「結局、借りるということは返さなくちゃいけないんで。」

返済額が増えることを心配する岡田さん。
信金側の提案は、返済期間を長くすることで月々の返済額を今と同じに抑える方法でした。

岡田屋 専務取締役 岡田晋平さん
「今回うちの中では、かなり大きな借り入れになったと思います。せっかくここまで続けてきたので、なんとかしたい思いもありますし。」


地域の経済を守るため、緊急の融資を次々と実行している伊達信用金庫。

「きょう○○さん(融資を)実行になります。あした△△さん(融資を)実行です。」

しかし、感染拡大が続く中、大きな課題が見えてきています。

伊達信用金庫 洞爺温泉支店 荒 秀樹支店長
「期限までに完済いただく形が望ましい部分かなと思っているので…。」

このまま状況が改善されなければ、返済が滞る取引先が増えるのではないか。それでも、自分たちの役割を全うするため、できるかぎりの支援を続けていこうと考えています。

伊達信用金庫 舘崎雄二理事長
「お客様は、もう本音で言うとね、資金は借りるけど返すめどがないわけですよ。返ってこなかった場合どうなると思います?損失ですよね。コロナの終息なり、経済の復活が見えるまでは、地元のお客さんに関しては徹底的に資金支援をしていくというのが当金庫の考え方。そこでリスクを取っていくということになる。リスクを取るって言い方しかないんじゃないかと。」


この日、信金の担当者が、緊急融資を実行した岡田さんの状況を確認しに訪れました。

「どうですか、その後は。」

岡田屋 専務取締役 岡田晋平さん
「日に日に悪くなっています。」

きょう発表された政府の緊急経済対策には、中小企業などに対して、無利子・無担保の融資や新たな給付金制度の創設などが盛り込まれています。

岡田さんがその対象になるのかどうか、伊達信用金庫によると、まだ詳しい情報がなく、把握できていないということです。

岡田屋 専務取締役 岡田晋平さん
「普通の災害だと、(店を)開けて頑張ってますって言えますけど、今回の件に関しては、出歩かないでと言われているのに、お店開けて待つというのは、実際どうなんだろう。」

苦闘を続ける事業者たち。
今、どんな支援が求められているのでしょうか。

雇用が…資金繰りが…必要な支援は?

武田:きょう出された緊急事態宣言ですが、施設や店舗の使用制限の対象となりますのは、映画館や劇場、デパート、ショッピングモール、そして、ホテルや旅館などです。VTRで紹介したデパートの松屋は、あす8日から当面全館休館を決めました。

経済活動がこれまで以上に制限されることになるため、大きな影響が心配されます。今夜は経済アナリストの大槻奈那さんに、感染拡大を防ぐため、テレビ電話でお話を伺っていきます。よろしくお願いします。

ゲスト 大槻奈那さん(マネックス証券チーフアナリスト兼名古屋商科大学大学院 教授)

大槻さん:よろしくお願いします。

武田:大槻さんによりますと、こんなデータがあります。中小零細企業の手元の資金がどれくらいあるかということなんですが、全産業では2か月半分、飲食やサービス業は2か月余り、小売業が1か月半、宿泊業は1か月余り分しかないということなんですが、大槻さん、これは本当に大変な状況なんですね。

大槻さん:2月の下旬ぐらいから、実際に行動の自粛などが始まったと考えますと、そこから起算してこの数字を考えてみますと、もしかしたら4月の中旬、5月にならないぐらいから、こういった中小企業が資金的に厳しい状況になってくる可能性があるということなんですね。考えてみますと、全国で中小企業380万。そして、従業員の数にしますと3300万人もの方々が、こうした資金繰りで何らかの影響を受けるという可能性が高いということだと思うんですね。そうなりますと、ここから先、こういったさまざまな対策が出てきましたので、どうやって実行していくかということと、今VTRにもありましたけれども、民間の金融機関がどういった形で地元に寄り添って実行していくか。そこが鍵になってくるんだろうなと思います。

武田:まさに、瀬戸際の状況だということですね。

栗原:以前、取材をした飲食店の方に話を聞きますと、3月の収入がゼロになってしまったという声があるなど、今後どうなるのか本当に不安だという声があるのですが、そうした方々の対策のためのメニューが用意されました。
まず、実質的な無利子・無担保の融資が民間の金融機関でも利用可能になりました。さらに、新たな給付金制度が作られました。これは、一定の程度の収入の減少がある場合に、中小企業に対しては最大200万円。そして、フリーランスなど個人事業主に対しては最大100万円が給付されるというものです。

さらに生活に困っている世帯や個人への支援に関してですけれども、条件はあるんですが、収入が減少した世帯には30万円の給付。そして、児童手当を受給している世帯には、児童1人当たり1万円を上乗せするというものなんです。

武田:大槻さん、総額で108兆円という大変大きなものなんですが、この緊急経済対策どのようにご覧になっていますか。

大槻さん:他国ですでに議会で成立しているところとかもありますので、ようやくという感じもしないではないんですけれども、ご指摘のとおりやっぱり108兆円ということで、この規模を考えてみますと、リーマンの直後に行われたものが事業規模で56.8兆円ですから、これの2倍近いんですよね。過去20年間のさまざまな経済対策を合算した事業規模でもって280兆円ぐらいということなので、今回はそれの3分の1ぐらいになっているわけなんですね。しかも、このGDPに対して、20%というのはG7などでも言っていたような9%ぐらいという数字からしてもやっぱり相当大きくて、ある意味、あらゆる意味で想定外の大きさだったというふうに思います。しかも、こうした形で多岐に渡っていますし、いろいろなところへの配慮が行き渡っているということで、これだけ時間がかかったのもやむを得えないのかなということもあるかと思います。

武田:取材している坪井さん、これは、いかに実行するかということだと思うんですけれども、VTRに出てきたような中小企業の方は本当にせっぱ詰まった状況だと思います。どんな人が、いつになったら受け取ることができるんでしょうか。

坪井記者:まず世帯向けの給付ですけれども、およそ1300万世帯、全体の20%程度の世帯が対象になると想定されています。給付を受けるには、今年2月から6月までの間のいずれかの月で世帯主の月収が、住民税が非課税となる世帯の水準まで落ち込んでいることなどが条件になっています。手続きについてですが、自治体が誰が対象かを選ぶと時間がかかりますので、自分で申告する形を取ります。その際には、収入が減ったことが分かる何らかの書類が必要になります。給付の時期についてですが、来月、5月には始めたいとしています。総務省が担当になるんですけれども、きょうの夕方に急きょ実施本部を立ち上げて、準備を急いでいるという状況です。

武田:中小企業や個人事業主への支援はどうなるんでしょうか。

坪井記者:事業者向けの給付金の条件は、今年の1月から12月までのいずれかの月で、売り上げが去年よりも半分以上減少していることが条件になっています。そうすると、最大200万100万円の給付を受けられると。こちらもなるべく早く給付を始めたいとしています。

武田:これはなるべく早くということなんですね。

栗原:中小企業や個人事業主に対しては、税制面での対策もあるんです。まずは法人税や消費税に関しては、納税の猶予。そして固定資産税の減免。さらに、年金や健康保険など、社会保険料などの支払いが猶予されるなど、26兆円の負担軽減が見込まれるとしています。

武田:経済の悪化が懸念される中で、大きな課題となっているのが、雇用をどう守っていくのかということです。

相次ぐ雇い止め 迫りくる雇用危機

「新型コロナで時間がカットされて、早く帰れって。」

非正規労働者や外国人労働者を支援している労働組合です。

「製造現場ですね。朝普通に言って、仕事の途中に突然言われたんですか?」

今、組合には製造業が減産している影響で労働時間を短縮されたり、雇い止めに遭ったりしたという相談が相次いでいます。

きのう、組合に相談に訪れた日系ブラジル人の男性です。

日系ブラジル人男性
「2つの部品をアームに固定して、溶接する仕事です。」

自動車部品工場で2年半働いてきましたが、雇い止めを通告されました。

日系ブラジル人男性
「クビ(雇い止め)の紙にサイン入れてくださいと言われた。僕の会社は3人クビになった。」

この労働組合によると、弱い立場の派遣労働者や外国籍の労働者が真っ先に影響を受け始めているといいます。

ユニオンみえ 神部 紅書記長
「どこかでこの風船が破裂するような、大きな被害というか、状況というのは生まれるだろうなと。」

先月末に仕事が打ち切りになったというフィリピン人の女性です。

介護施設で働いていた女性
「クビになったので…。」

女性は介護施設でパートとして5年間働いていました。なぜ仕事を続けられないのか、納得できないといいます。

介護施設で働いていた女性
「いちばん悔しいのは(介護していた)おばあちゃんたちに会えないから、みんな(利用者が)好きなので、それが本当に悲しい。」

女性は、3人の子どもを抱え、夫の収入だけで生活していけるのか不安を感じています。

介護施設で働いていた女性
「どうなるかなって考えている。悩む。私どうなるかな、どこが悪いかな、なんでクビになったかな。」

きょう、収入が減少した世帯に現金30万円を給付するという対策が示されました。しかし、組合では、事態が長期化することを見据え、さらなる支援策を講じてほしいといいます。

ユニオンみえ 神部 紅書記長
「労働者の手元に(給付金が)くるまでは、非常にタイムラグが生まれるわけですから。現金で早急にやるべきだと思います。しかもこれは、一時的なものではなくて、何度でも続くことを前提に思い切った施策をとるべき。」

“雇用を守るため…”経営者の決断

雇用を守るために、大きな決断を迫られた経営者もいます。
イベントの企画や人材派遣を主に行ってきた会社の社長、織田敏之さんです。

イベント人材派遣会社 織田敏之社長
「もうイベントに関しては真っ白ですね。9割減ですね。このままの状態が続くと、企業の継続には非常に厳しい状況になってくる。」

「この辺りに、ドッジボールのコートをたてて…」

スポーツや音楽などのイベントに、およそ20年携わってきた織田さん。2月下旬以降、イベント自粛が求められる中、従業員の雇用を守り、どう会社を存続させるのか頭を悩ませています。
まず織田さんは、運転資金をかき集めることにしました。

イベント人材派遣会社 織田敏之社長
「できるだけ長い期間で、ゆっくり返せるような形で。」

複数の金融機関からおよそ1億円の緊急融資を受け、さらに、自分の生命保険も解約しました。

イベント人材派遣会社 織田敏之社長
「うちで働いてくれている子たちの給料を『ちょっと待って』とはいかないものですから。私の責任として、調達しておかないといけないかなと。」

さらに、織田さんは役員を集め、ある決断を伝えることにしました。それは、事態の長期化を見据え、会社の組織を再編する方針。主力のイベント業務にあたっていた社員に、警備など、別の派遣業務をしてもらうことにしたのです。20人いる従業員は1人も解雇せず、会社の経営も維持するための決断でした。

イベント人材派遣会社 織田敏之社長
「少なくとも今はそこ(イベント)に雇用はないし、誰もそこに雇用を望んでいないかなと。どういった形であれ、企業としては生き残っていかなきゃいけませんので。」

雇用を守るために今、何が必要なのか。
スタジオで考えます。

雇用を守るために何が必要か?

栗原:非常に厳しい現実が浮き彫りになりましたが、雇用対策として、休業などをしても従業員を解雇しない企業に対しては、雇用調整助成金の拡充を図るとしています。これまで対象ではなかったパートや新入社員も助成するとしています。

武田:坪井さん、この雇用調整助成金は具体的にはどう拡充されるのでしょうか。

坪井記者:雇用を維持するため、今月から6月末まで重点的に支援します。具体的には、特に解雇を行わない場合、休業手当を支払う企業への助成率を中小企業では10分の9に、大企業では4分の3まで引き上げます。また今回の対策では、雇用保険に加入していないパートなどの非正規労働者も対象になります。これは、これまでの対策では初めてのことです。さらに通常は雇用保険に6か月以上加入していることが条件になるんですが、今回は加入期間が短い新入社員も対象に加えます。

武田:大槻さんは、どのように雇用を維持していけばいいのか、どんなポイントを挙げられますか。

大槻さん:今お話があった雇用調整助成金なんですけれども、確かに今回は金額の面でも、対象の面でも、拡充はされたと思うんですけれども、ただ、なかなかこれまでも使われてきているレベル感としてはあんまり高くないんですね。これは、1つには先ほどのVTRにもありましたけれども、手続面ですとか、雇用主のほうに払うということだと、なかなか働いている人に対して直接的に、短期的に、すぐにという形で資金が行き渡らないといった問題もあるんだと思います。あと、もう一つのポイントとして、非正規雇用、それからフリーランスの方々の契約がちょうど3月末だったということもありまして、契約の打ち切りになってしまったようなケースも多く聞いているわけです。今やフリーランスの人口は大体390万人ということで、全労働者に対して6%にも及ぶわけであります。それだけ重要な方々ということなんですけれども、収入が不安定であるという面がありますので、この新型コロナの影響で減収といったことの証明の問題がいろいろ柔軟にはなっているものの、どこまでそれが実態的に補助が受けられるのかといったことは非常に心配をしているところであります。何らかの形で資金を手元に渡すこと、そして、それを継続的にやっていくことということで徐々に回復して、また元のように働いていけるということにつながっていくのかなと思ってます。

武田:雇用をしっかり守るために、準備された制度をちゃんと実効性のあるものにきっちりやっていくと。そこが課題ということですね。

大槻さん:そうですね。これからの実効性スピードが課題だと思います。

武田:日本の今後の経済を考える上で心配なことがあります。それは、世界中の経済も悪化しているということです。
世界最大の経済大国アメリカの今月から6月までのGDP、年率に換算しますと28%以上のマイナスとなり、四半期ベースで統計開始以来、過去最悪になるという見通しが示されました。

こうした影響が、日本にも追い打ちをかけることが懸念されています。

悪化する世界経済 影響は?

アメリカで今、大きな問題になっているのが失業者の急増です。
僅か2週間で、新規の失業保険の申請は1000万件近くに上りました。
ホームレスなどに無料で食料を配るフードバンクを訪ねると、失業した人たちが相次いで訪れていました。

フードバンクを訪れた人
「3週間前に解雇されました。お金がなくても家賃や光熱費などは払わなければなりませんから、食料支援はとても助かります。」

中でも最も就業者が減っているのが飲食業です。

西部・シアトルでレストランを営む、イーサン・ストーウルさんです。
17の店を経営していますが、そのうち10店舗は休業に追い込まれています。

レストラン経営 イーサン・ストーウルさん
「変化はあっという間でした。シアトルで最初の感染者が出ると、一晩で売り上げが80%減ったのです。」

ストーウルさんは先月、苦渋の決断を下しました。350人に上る従業員のうち、8割をいったん解雇したのです。客が戻る見込みが見えてこない現状では、失業保険を受け取ったほうが従業員のためになると考えたからです。

レストラン経営 イーサン・ストーウルさん
「客のチップがなければ彼らの収入は激減します。また彼らを雇えるよう、がんばるしかありません。」


幅広いすそ野を持つ製造業にも、雇用の危機が及んでいます。
航空機大手・ボーイングは先月中旬、自社のサプライヤーは1万7000社、雇用は250万人に上るとして、政府に支援を強く要請しました。

航空産業の街として知られるカンザス州・ウィチタ。
ボーイング向けの部品メーカーを営むティム・マクギンティーさんは、すでに3割近い従業員を解雇。今後、航空機の需要が回復しないかぎり、雇用を守り続けることはできないといいます。

航空機部品メーカーCEO ティム・マクギンティーさん
「事態が好転する前に、多くの従業員を解雇しなければならないと思います。感染拡大が収まり、外出制限が解除されたとき、人々はこの街でいかに多くの人が職を失ったかに気づくことになるでしょう。」


トランプ政権の経済アドバイザーを務めるスティーブン・ムーア氏は、これ以上失業者を増やさないためにも、企業への継続的な支援が必要だといいます。

トランプ政権 経済アドバイザー スティーブン・ムーア氏
「企業がなければ雇用は生まれず、健全な経済も成り立ちません。大事なことは、感染拡大が収まったとき、企業が経済活動を再開できるよう支援することなのです。」


各国で外出制限が続き、消費が大きく落ち込む中、製造業では多くのメーカーが減産を強いられています。
ドイツ南部に拠点を置く、工業用ファンのメーカーです。
今、生産は通常の半分程度まで落ち込んでいるといいます。

取材班
「工場を閉じるのですか?」

工業用ファンメーカー シュテファン・ブランドルCEO
「来週、1つ閉鎖します。」

2月に取材したときには、中国からの部品の供給が滞り、影響を受けていましたが、当時はまだ生産すれば売り先はありました。
しかし、今では作っても売れない製品が出ています。最終的な納品先であるヨーロッパの自動車メーカーが需要の低迷や従業員が出勤できないことから、軒並み稼働を停止したからです。この会社では政府の雇用対策を活用し、およそ700人の従業員を休ませることを決めました。

工業用ファンメーカー シュテファン・ブランドルCEO
「事業が再開したときのために、しっかりした経営基盤を維持しなければなりません。しかし、このまま事態が長引けば資金不足に陥りかねません。」

日本企業は…頼みの綱は中国?

欧米の経済が日々悪化する中、その影響が日本のメーカーにも及んでいます。
工作機械の売り上げの3割がアメリカ向けの機械メーカー。

「こちらがアメリカに向けて製作途中の機械になります。」

先月下旬、製品の出荷をいったん見合わせてほしいとアメリカから連絡が入りました。

ニイガタマシンテクノ 小林 貴生産部長
「アメリカ経済のほうで景気後退、コロナの影響で全部ストップしてきたので、少し(輸出を)延期してくれないかという話は出始めている。」

この会社の売り上げは、日本が4割、アメリカと中国がそれぞれ3割ずつ。この先、アメリカに加え、日本でも新規の受注が落ち込むおそれがあります。

そこで目をつけたのが、感染拡大が最初に起きた中国。
一時の感染拡大が収まりつつある中国では、企業の負担をおよそ8兆円軽減する経済対策を行っています。

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「今、中国の各地で生産の再開が。」

こうした経済対策の後押しを受け、この会社でも中国からの新規の問い合わせが増えています。

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「急で恐縮なんですけど、(新たな注文が)6台。」

「6台?」

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「6台ほしいという要望が出てきています。」

1台、数千万円の工作機械。中国では月に2台の生産が限界ですが、一度に6台の注文が寄せられたのです。

「これはいつ欲しいの。」

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「1か月、2か月で欲しいと。なんとかこの6台の案件を取りたいと思って。チャンスを失ってしまう。」

「(このままだと注文は)キャンセルだね。」

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「ちょっと待ってよ。それは困るな。」


このままでは、会社の命運を握るビジネスチャンスを逃してしまう。
そこで会社は思い切った決断をします。
先月21日、中国事業のトップが現地へ渡り、指揮を執ることにしたのです。

世界での感染拡大を受け、現在、中国政府は日本人を含む外国人の受け入れを厳しく制限しています。検疫など、徹底した水際対策が待ち受けていました。
入国すると直ちにホテルに隔離され、一歩も外に出られぬまま2週間を過ごしました。

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「日本から持ち込んだPCを使って、デスクワークをできるような形にしています。」

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「隔離施設を出たら、まず現地の工場に出向いて、納期がひっ迫している製品の進捗状況の確認が第一だと思っています。」

そして、きのう、ようやく現地法人に出社しました。

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「今のところ問題は?」

「やっぱり新型コロナウイルスの影響が出ています。」

今後、中国での生産能力を向上させるなどして、新規の注文に対応できるようにするつもりです。

ニイガタマシンテクノ中国法人 松井 裕代表
「(中国の)補助金も含めて、どういった形で設備投資が円滑に出てくるのか、中国が可能性あるんじゃないかと日本の本社は見ている。僕らもそういう期待をしているんですよね。」

世界経済が悪化する中、いま日本に何が必要なのか。
スタジオで議論します。

悪化する世界経済 今後は?

武田:大槻さん、アメリカ、ヨーロッパが深刻さを増す中で今、中国経済の回復が頼りになってきているということでしたけれども、これ、リーマンショックの後の状況にも似ているように思えるんですね。大槻さんは、どのようにご覧になっていますか。

大槻さん:おっしゃるとおりで、リーマンショックのときというのは影響も少なかったということと、非常に成長が早かった。成長率が高かった中国に、需要国、供給国として頼ってきたというのは非常に大きかったんですね。今回、また別な意味で頼りになってきているなということだと思うんですね。VTRで2週間ということで隔離の話も出てきましたけれども、当初のころから相当厳しく、隔離なり封鎖なりをやってきたことで、ほかの欧米、そして日本に比べて、幸いにも早くに回復をみているということですよね。そもそも大きい需要を持っている国でありますから、そこを頼りにするということは国際的な分散をはかるという意味でも、非常に重要なポイントなんだろうと思います。ただ、ちょっと、この一連のことで少し記憶から遠くなってしまいましたけれども、中国はそもそも今回の件がある前から債務が非常に大きくなっていて、債務が過多であるというふうに言われていたわけなんですが、それにもかかわらず、今回のコロナの支援ということで、大幅な支援策を打ったりですとか、経済対策をやったわけでありますので、ここから先の経済の安定性が担保されているわけでは必ずしもないということだと思います。例えば1月以降、これだけ支援とかをしているにもかかわらず、やはりもともと行き過ぎていたと言われていた不動産会社とかは100社以上、すでに倒産をしているなどといったデータもありますので、ここから先、中国だけに頼るといったことにはならないように分散を進めていくということも必要なんだろうなと思います。

武田:前回のリーマンショックのときは世界協調して危機に立ち向かいましたが、今回はどうでしょうか。そういうことはできるんでしょうか。

大槻さん:今回は逆に、世界的に見るとむしろ分断が進んでしまっているというイメージですよね。地域的に例えばヨーロッパも国境の問題、そして、いろいろな形で協調で債券を出そうといったようなこともあったのですが、それも阻まれてしまったということがありました。そういったことを考えると、分断が特に長引けば長引くほど、隙間を埋めていくのが難しくなってくるのではないかなということを心配しています。そうこうするうちに景気が悪化することで、例えば、金融機関の中に経営破綻、経営危機が訪れるようなことがあると、そこに1つ、金融が流れなくなる目詰まりのところが現れたりしますので、そういったリスクの起こらないような形にしていくことが必要だと思います。まだ、そういったリスクは不安な材料の1つなんじゃないかなと思っています。

武田:最後にひと言、今後さらに必要なことがあるとすると、キーワードを1つだけ挙げていただけますか。

大槻さん:安心感だと思います。感染のこともありますし、きょうテーマになった金融のこともそうです。ここから先も、これからどこまで続くか分からない中で、どれだけの資金を継続的に受けられるというふうに、国民の皆さんに安心してもらえるかということがキーだと思っています。

武田:ありがとうございました。
坪井さん、今後、さらに必要な対策があるとすると、どんなことが考えられますか。

坪井記者:大槻さんもおっしゃいましたが、感染拡大がいつ収束するかもまだ見えていない状況ですので、今回の対策で本当に十分なのかということは今の時点では分かりません。こうしたこともあって政府は、今回の経済対策を実行するための補正予算に1兆5000億円という巨額の予備費を計上して、機動的に対応するとしています。感染が長期化すれば、さらに生活に困窮する人ですとか、事業が立ち行かなくなる企業が出てくる可能性がありますから、政府は今後の状況によっては追加の対策を検討していく必要があると思います。

武田:手を緩めることなく、いち早く継続して支援をということですね。