クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2020年1月8日(水)

中東緊迫 どうなる今後

中東緊迫 どうなる今後

イランによる米基地攻撃によって緊迫の度合いを増す中東情勢。果たして今後どうなるのか?トランプ大統領の次の一手は?イランのシナリオは?そして報復の応酬は避けられるのか?アメリカとイランの思惑と今後の注目点を、両国の内実に詳しい人たちへの独自取材などを交えて、専門家と占う。

出演者

  • 保坂修司さん (日本エネルギー経済研究所 研究理事)
  • 渡部恒雄さん (笹川平和財団 上席研究員)
  • 武田真一 (キャスター)

アメリカは報復するのか そしてイランは

トランプ大統領は今、何を考えているのか。
政権の内情に詳しい、元政府高官に接触しました。トランプ大統領が就任する前、政権移行チームに安全保障政策を助言する立場にあった、スティーブン・イェーツ氏です。

アメリカ元政府高官 スティーブン・イェーツ氏
「トランプ大統領の考え方は、従来の指導者とは異なる。政策を作り直すことに一切ちゅうちょしない。これまでの政策では、イランの非核化に効果がなく、不安定化も進んだ。次に何が起きるか見てみよう。」

今回の、イランによる突然の報復。
その直前、トランプ大統領はこう警告していました。

アメリカ トランプ大統領
「ソレイマニ司令官は怪物だ。怪物は死んだ。」

「アメリカは攻撃準備は出来ている?」

アメリカ トランプ大統領
「必要ならば、こちらも報復する準備は完璧だ。」


トランプ大統領の姿勢について、アメリカの世論は意見が分かれています。

街の声
「驚きはなかった。私はトランプを100%支持する。」

「(攻撃後であっても)大統領を支持する。アメリカが強ければ強いほど、世界は安全になるし、アメリカ市民を守ることがトランプ大統領の役割だ。」

「やりすぎだ。彼の行動は、全く合理的でなく過激だ。正しいやり方ではない。」

では、トランプ大統領は次の一手をどう考えているのか。
明治大学の海野素央教授です。
トランプ氏が日々投稿するツイートを詳細に分析しています。

明治大学 教授 海野素央さん
「『All is well』と、すべて大丈夫だというのは、トランプ大統領はコントロールできている。たとえ戦争になっても、自分は強い指揮官である。強いリーダーであるということ。自分はコントロールできると、イランを。だから問題ないんだ、すべてうまくいくんだ、ということを特に支持者に発信している。」

トランプ氏が今回の行動に出た背景には、再選を目指す大統領選があると指摘します。

明治大学 教授 海野素央さん
「これが、2012年10月10日のツイート。」

着目したのが、トランプ氏が大統領になる前、2012年の2つのツイートです。いずれも、再選を目指す当時のオバマ大統領が、支持率向上のためにイランを攻撃するのではないかと指摘する内容です。

明治大学 教授 海野素央さん
「いまトランプ大統領は、(当時のオバマ氏と同様に)再選の選挙を戦っている。つまり、このツイッターの意味するところは、トランプ大統領は再選に勝つために、自分がイランを攻撃するオプションを持っているということ。」

一方、トランプ政権の内情に詳しいイェーツ氏は、イランへの軍事行動と選挙は関係がないといいます。

アメリカ元政府高官 スティーブン・イェーツ氏
「(大統領選のある)11月はかなり先だ。1月に起きたことを、11月に覚えている人などいない。純粋に、いまイランを攻撃する必要があると判断したのだ。」

一方のイラン。
国営テレビによれば、革命防衛隊の幹部は「今回の攻撃は第1ステップだ」と述べ、さらなる報復措置に踏み切る可能性を示唆しました。

NHKの取材に応じた、イラン革命防衛隊の元司令官。
今回殺害されたソレイマニ氏と同じ任務についていた人物です。
アメリカに打撃を与えるだけの、ミサイルやドローンの技術を蓄積させていると語りました。

イラン革命防衛隊 キャナニモガダム元司令官
「イランの科学者たちがイラン国内各地に研究センターをつくり、巡航ミサイルや潜水艦の製造能力を持つようになっている。今は最先端の地対空ミサイルと、弾道ミサイルの開発に取り組んでいる。」

果たして今後どうなるのか。
さらに探っていきます。


武田:アメリカとイランの攻撃の応酬。今後どうなるのか。
スタジオにお越しいただきました2人の専門家が注目するポイントです。
まず、アメリカの安全保障政策に詳しい渡部さんは、「トランプ政権、一枚岩になれるか」ということが今後の鍵だとおっしゃいますけど、どういうことでしょうか。

ゲスト 渡部恒雄さん(笹川平和財団 上席研究員)

渡部さん:一枚岩というのは、トランプ大統領とそれ以外の政権のスタッフ。これが実は、考えていることが同じじゃないんですね。全く違うわけではないんですが。同じところは、イランとの戦争は望んでいない。それから、イランには強硬な姿勢で臨むべきである。ただし、トランプ大統領は中東から軍を引きたいと。これは政権公約でして、シリアからも撤退していますし、撤退に対して反対をしたマティス国防長官やボルトン国家安全担当補佐官は解任されていますので、そういう意味で、ここが違うんですよね。トランプ大統領がやろうとしていることって、アクセルとブレーキを両方踏んでいるようなもので、アクセルはイランに対して強硬な圧力をかけるということですね。今回の司令官を殺害したりと。ブレーキは何かというと、シリアから米軍を撤退させましたよね。それから実はイラクも、それからアフガニスタンからもそうなのですが、全般的に中東への関与は、軍は減らしたいと言っているんです。これは、どう考えても矛盾していますね。

武田:緊張が高まれば当然、増派という機も出てくるわけですね。

渡部さん:ところがアメリカの世論は、大統領選挙でトランプ大統領を支持してくれそうな人は両方支持しているんです。同じ人ではないですが。特にイラク戦争以降、中東に疲れたという人たち、特に中西部のワーキングクラスの人たちなんかでは、もういいじゃないかという部分が大きくて。とはいえ、やはりトランプ大統領を支持しているキリスト教右派、福音派の人たちはイランに対して大変厳しくて、イスラエルとかに同情的なんです。

武田:選挙も見越して、ブレーキとアクセルを両方踏んでいる状態ですね。
一方、イランの出方です。中東情勢に詳しい保坂さんは、「アメリカがもし報復したら…」ということですけど、報復したらどうなるんでしょうか。

ゲスト 保坂修司さん(日本エネルギー経済研究所 研究理事)

保坂さん:アメリカが実際に報復するのかは、まだ今の段階では分かりませんけれども、仮に報復するとするならば、その程度によってイランがどう対応するか、次のイランの手がどうなるのかということが、だいぶ制限されてくると思います。アメリカもそうですが、イランもアメリカとの全面的な衝突は決して望んでいません。ただ、アメリカの報復が仮に大きな死傷者を出すとか、被害を出すとか、文化的、宗教的に象徴的な場所に対する攻撃になるといった場合には、イランとしても引くに引けない可能性が出てきます。そうなった際は、場合によって全面衝突ないしは、それに近いような形になる恐れがあるということです。イランとしては、こぶしを振り上げた状況ですから、それに対して、どういう形でこぶしを下ろせるかという、その余地をアメリカの報復が残してくれるかどうかというのが見るべき点なのではないかと思います。

武田:渡部さんは、今のような見方に対してはどうですか。アメリカの出方、程度が鍵だという…。

渡部さん:どちらもそうですが、特にアメリカがあまりに強く出たら、イランとしては引っ込みがつかないでしょうからね。

武田:今のところはそういう方向?

渡部さん:どちらも明らかに、拡大させないように、エスカレートさせないように動いていることは確かですね。

武田:では、そのアメリカの最新の動きを、ワシントンの油井支局長に聞いてみたいと思います。一夜明けてワシントンはどんな雰囲気なんでしょうか。

ワシントン 油井支局長:こちらは朝8時過ぎです。トランプ大統領はこのあと、イランの報復攻撃を受けて声明を発表する予定ですが、まだ具体的な発表時間はホワイトハウスからは入ってきていません。
トランプ大統領は、イランがアメリカ人やアメリカの資産を攻撃すれば、圧倒的な軍事力で反撃すると警告してきました。国防総省が現在、被害状況を調べていますが、現時点ではアメリカ人の死傷者は報告されていません。このためワシントンでは、事態はいったん収拾する方向で動くのではないかという楽観的な雰囲気も出始めているんです。

武田:アメリカの今後の出方を見るうえで、油井支局長はどんなところに注目しているのでしょうか。

ワシントン 油井支局長:イランの出方です。仮にアメリカの被害がほとんどない場合に、さらなる攻撃がないのかという点です。アメリカ政府は目に見える攻撃だけでなく、サイバー攻撃を仕掛けてくる可能性もあると見ていまして、すでに警戒を呼びかけています。さらにアメリカが懸念しているのは、イランが今回の事件を機に、隣国のイラクやシリアで影響力を一層拡大すること。そして、イランが核開発を進めることです。
トランプ大統領の本音は、戦争を避け、中東の争いからは手を引きたいということですが、一方で11月の大統領選挙も見据えて、弱腰の姿勢を見せたくありません。いわば、相反する方針が交錯する中で、イランの出方、そしてアメリカの世論を見極めて、今後の対応を判断するものと見られます。

武田:一方、イランはどう動くのでしょうか。

イランは今後どう出る?注目のポイントが

十数発の弾道ミサイルで、イラクに駐留するアメリカ軍の拠点を攻撃したイラン。その後、ザリーフ外相はツイッターに次のように投稿しました。

“緊張の激化や戦争は望んでいないが
あらゆる攻撃に対して自衛の措置をとる”

一方、最高指導者のハメネイ師は。

イラン最高指導者 ハメネイ師
「昨夜、アメリカに平手打ちを食らわせた。アメリカ軍は、この地域から去るべきだ。」

民衆
「アメリカに死を。」

イランの次の一手は?
革命防衛隊の元司令官、キャナニモガダム氏。
イランは、ミサイルなどの軍事技術を独自に進化させてきたといいます。

イラン革命防衛隊 キャナニモガダム元司令官
「イランの科学者たちがイラン国内各地に研究センターをつくり、巡航ミサイルや潜水艦の製造能力を持つようになっている。今は最先端の地対空ミサイルと、弾道ミサイルの開発に取り組んでいる。」

これまで、ミサイルの発射実験を繰り返してきたイラン。北朝鮮の技術を応用して開発されたとされるものもあります。中東地域のアメリカ軍基地や、親米のイスラエルを射程圏内におさめる弾道ミサイルを保有するまでになっているのです。
そして、ミサイル技術を扱える人材を、革命防衛隊が管理・運営する大学で育ててきたといいます。

イラン革命防衛隊 キャナニモガダム元司令官
「ミサイルの訓練、火砲、電子戦、遠距離通信など、さまざまな専門分野の講座を設けた。大学では、さまざまなレベルの指揮官を育てることができるようになっている。」

さらに、イランは正規軍と革命防衛隊を合わせて総兵力52万人とされ、中東で強力な軍事力を有しています。

イラン ロウハニ大統領
「イランの力を全世界に知らしめたい。」

対するアメリカ。
先月下旬から、原子力空母を中心とする空母打撃群をアラビア海北部に展開しています。また、迎撃ミサイルを運用する部隊など、最新鋭の装備を持つ部隊が中東に派遣されています。

アメリカ トランプ大統領
「われわれの国は、かつてないほど強くなっている。いまが最強だ。」

専門家は、アメリカとイランの軍事力の差は歴然としているといいます。

慶応義塾大学 教授 田中浩一郎さん
「先端兵器の有無、そして、その水準、継戦能力といわれているもの。どれをとっても、イランが正面切ってアメリカと互角に戦えるはずはない。」

こうした中、イランにとって重要な戦略となると見られているのが「非対称戦」。ゲリラ的に、相手に脅威を与える手法です。イランは、これまで中東各地で武装組織を支援したり、反政府勢力に武器を供給したりしてきました。

こうした勢力がテロ攻撃などを仕掛けることで、通常兵器で優位なアメリカやその同盟国に対じすることがねらいです。
中東全域が緊迫する中、事態のエスカレートが懸念されています。


武田:では、テヘランの戸川支局長に聞きたいと思います。戸川さん、今回の報復は、イラン社会の受け止めはどのようになっているんでしょうか。

テヘラン 戸川支局長:市民の間では、すばらしい、さらなる措置をとってほしいくらいだなどと歓迎する声が聞かれます。一方で衝突が拡大することを恐れ、中には国外に逃れようとする人もいます。高揚感とともに、今後への不安が交錯した状況です。

武田:次のイランの出方を見る上で、戸川支局長が注目している点はどんな点でしょうか。

テヘラン 戸川支局長:軍事力を使った報復攻撃が行われた直後ではありますが、今後はアメリカに対じする上での外交も1つの焦点だと思います。イランは今回の攻撃を行う直前、イラク側に作戦を説明していたことが分かっています。司令官殺害を受けてイラクでアメリカ軍に対する撤退要求が強まる中、イランとしては、周辺国との関係に配慮しながら報復を実行した様子がうかがえます。アメリカによる司令官殺害についてイランは、国際法に反する形で行われたと国際社会に訴えていて、アメリカへの非難を繰り返しています。また、中東では司令官の殺害を受けて、イランとつながりのある武装組織の間でも反米意識が高まっています。イランはこうした機会を捉えて、アメリカとの全面的な衝突は避けつつ、周辺国や組織との連携を深めて、中東からのアメリカの影響力の排除をねらっていくものとみられます。

武田:アメリカは中東地域に、主なものだけでも、これだけの部隊を展開しています。
一方のイランは、こういった武装組織とのつながりも指摘されていますが。保坂さん、こうした状況の中、イランはどこまで本気でアメリカと対じしようとしているのでしょうか。

保坂さん:本気で対じしようとは思っていないと思います。勝てるとも思っていないと思いますし、実際、仮にアメリカと全面的な武力衝突になったら、それこそ体制そのものの危機になる可能性もありますので、そこは絶対に避けたいということだと思います。ただ、そのためにアメリカに対して全く反撃しないというのも国民からの支持を失う可能性がありますので、恐らくいくつかの段階、例えばイラク国内でアメリカ軍の基地に対して攻撃を仕掛ける、前回の報復と同じですが。あるいは、イラク国内にいる人民動員隊(シーア派の民兵組織)に攻撃をさせるとか、レバノンのシーア派組織であるヒズボラにイスラエルを攻撃させる、パレスチナのハマスにイスラエルを攻撃させる、イエメンにいるフーシ派に隣国のサウジアラビアに対して攻撃をさせるというような形で、手ごまを使って揺さぶりをかけるということは十分考えられると思います。ただ、ヒズボラやハマスにしても、仮にイスラエルを攻撃した場合には、イスラエルから非常に強力な反撃が、もしかしたらダイレクトにイランにいくかもしれない。これもやはり避けなければなりませんので、このあたりのバランスの取り方は非常に難しい問題があるんだと思います。

武田:イラン国内の状況は国民の受け止めはどうですか?

保坂さん:実は昨年から、イランはかなり大規模な反政府デモが続いていました。これはイランの体制そのものに対する国民からの反発でしたので、その意味でいうと、イランとしては非常に脅威に感じていたと思います。ところが、今回はソレイマニ司令官の殺害によって一時的ではありますけれども、連帯感といいますか、ナショナリズムが高揚して反米意識が高まるという、ある意味で逆の効果が出てきたということも言えます。ただ、イラン全体がソレイマニ、あるいはイランの現体制を支持しているわけではないという点は指摘したほうがいいと思います。

武田:今の状況は、イランの国内の状況をまとめるためには…。

保坂さん:若干プラスには働いたと思っています。

武田:ただ、これがエスカレートしていくと不安定になると。

保坂さん:一過性のものですから、仮に状況が落ち着いた場合は、再び反体制運動が活発する恐れもあります。

武田:日本政府ですけど、中東地域への自衛隊の派遣については、現時点で閣議決定を変更することは想定していないとしています。また、石油のほとんどを日本は中東地域に依存している状況ですが、事態がエスカレートしていった場合、日本への影響はどうなっていくとお考えですか。

保坂さん:安倍首相自身は、もうすぐサウジアラビアやUAEを訪問する予定だったわけですが、外交日程も若干、不透明になってきている。これだけ見ても、日本への影響はかなりあったと思います。また、自衛隊の中東への派遣も、もし仮に中東地域で大きな衝突が始まれば、派遣どころではなくなってしまいますので、この自衛隊の派遣そのものも再考する必要が出てくるのではないかと思います。

武田:今回の事態はイランの核開発そして中東情勢にどう影響をもたらすんでしょうか。

核開発・イラク…さらなる不安要素

<さらなる不安要素① イランの核開発>

今月5日、イラン政府は「核合意に定められた制限に従わず、ウランの濃縮活動を強化する」と発表しました。
高濃縮ウランは核兵器に転用できます。イランが核兵器の開発を進めるのではないかと、世界に不安が広がっています。

EU フォンデアライエン委員長
「イランが核合意の制限に従わないと宣言したことを非常に懸念している。イランには引き続き、核合意に従うよう求めていきたい。」

菅 官房長官
「残念であり、強く懸念している。日本はイランに対し、核合意を順守し、国際原子力機関と完全に協力するよう、改めて強く求めていきたい。」


<さらなる不安要素② 反米姿勢を強めるイラク>

イラク戦争のあと、イラクに駐留してきたアメリカと有志連合の部隊。
イラク議会は今月、その駐留を終わらせるよう求める決議案を可決しました。

イラク ハルブーシー議長
「イラク政府は、国内に駐留している外国の軍隊に撤退を求める。」

イランと同様に、イスラム教シーア派が多数を占めるイラク。
ソレイマニ司令官の殺害を受け、イラクでもアメリカへの反発が広がっているのです。


武田:アメリカはイランの核開発問題、それから中東情勢ですね。アメリカに対する反発も広がっているということですが、長期的にはどのような道筋を描いているのですか?

渡部さん:アメリカの中でもいろんな見方があるのですが、一番問題なのは、政治的に民主党支持派、共和党支持派、あるいはリベラル派と保守派といってもいいですが、ここに共通なものがない。アメリカは政権交代が頻繁に行われますから、政権としては一貫性があっても、アメリカという国では一貫性がないと。実は、トランプ政権でも非常に矛盾が多いのは、やはりイランとの核合意を一方的にアメリカが離脱しているわけですよね。その後どうするかというのは、圧力をかけて、恐らくイランを交渉のテーブルにつけたいと思っていますが、最初に申し上げたとおり、そのためには強力な軍事力とか同盟国とかが必要なんですけど、それもみずから減らしていると。非常に矛盾しているんです。この辺がトランプ政権が批判されていることですが、トランプ政権だけの問題ではなくて、その前の政権からの蓄積と矛盾がこんがらがっていて、そんな簡単に単純な答えが出ないような状況になっているんでしょう。

武田:そうすると、アメリカとしては、中東政策に長期的な一貫したビジョンを描きにくい構造になっていると。

渡部さん:そういうことだと思います。ですから、恐らくトランプ政権はそんな長期的なことは考えていなくて、短期的に、トランプ大統領はとにかく自分の選挙、直近の政治的な利益を上げようとしていますし、それ以外のトランプ政権の人たちも、最悪な状況を防ごうと思って、圧力をかけること自体は重要だと思ってやっていると。これが現状だと思います。

武田:イランは核合意で定められた制限に従わず、ウラン濃縮活動を強化すると、今回発表していますね。核開発は、カードとしてどう使おうとしていますか?

保坂さん:今回の事件で、ある意味、イランが核開発を進めるという口実ができてしまったことは言えると思います。これは、恐らくイランの中の強硬派といわれる人たちを勇気付けたということだと思います。ただ、イランが本気になって核開発に今進むかというと、少なくとも政府レベルでは考えづらいと。むしろ、これをカードとして、特にヨーロッパ諸国に対して揺さぶりをかけるという意味はかなりあるのではないかと思います。日本も含めてですが。

武田:今回の事態が仮にエスカレートした場合に、中東情勢全体への影響はどう見ていますか?

保坂さん:一番大きな影響を受けるとしたらイラクだと思います。イラクの場合は、やっかいなことに、対テロ戦争というもう1つの戦いが進んでいるところですので、イラク自体が混乱した場合には、場合によってはISのようなテロ組織が再び勃興してくるという恐れもあります。レバノンのヒズボラやハマス、フーシ派といった、イランの影響力の強いところが何らかの形で暴発する可能性もありますけれども、同時にイランからの支援が仮に止まるようなことがあれば、彼らの勢力が弱まるということも考えられると思います。

武田:渡部さん、これまでイランの核開発を巡って関与してきた中国やロシア、あるいはヨーロッパ諸国、こういった国々が緊張を緩和するすべはあるのでしょうか?

渡部さん:こういう国の存在が、少なくともアメリカが一方的に力を行使できずに、緊張緩和の要因にはなっていると思いますが、じゃあ、これらの国が積極的な何か平和を導くだけの力と意思があるかといえばないと思いますし、特にロシアが典型的ですが、何か都合が悪いことがあるとブローカーのように介入してきて、自分たちの利益を達成しようとしますが、ロシアにも大きなビジョンがあるとは思えませんし。ほかの国、中国にありますか?ないですよね。ヨーロッパにもその意思がありますか?ないですよね。非常に世界は混とんに向かっている。しかも、一番問題のあるところが中東に集中しているのが現状ではないでしょうか。

武田:国際社会はなかなか、なすすべがないですね。

保坂さん:意外と知られていませんが、ヨーロッパもアメリカも中東の石油には依存しておりません。むしろアジアです。この問題は、我々自身の問題として考える必要があります。

関連キーワード