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2019年10月23日(水)

追跡 関西電力・金品受領の裏で何が?

追跡 関西電力・金品受領の裏で何が?

関西電力の経営幹部ら20人が、福井県高浜町の元助役・森山栄治氏から、多額の金品を受け取っていた問題。調査報告書を公表した岩根社長らは、金品を「断ると返された」と強調した。2011年に起きた、福島第一原子力発電所の事故の後、原発再稼働のトップランナーとも言われた関電。その幹部たちと、元助役との異常な関係は、なぜ、どのように築かれていったのか、内実を知る関係者たちの取材を通して迫っていく。

出演者

  • 大島堅一さん (龍谷大学政策学部 教授)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

独自取材 数十年の持ちつ持たれつの関係

100人を超える、関係者の取材メモ。

口々に語られていたのが、森山氏と関西電力の数十年にわたる、持ちつ持たれつの関係でした。
1984年、高浜町を取材したNHKの番組です。

♪原子力から 未来がひらく

国の交付金など、巨額の原発マネーで変貌する町の姿が記録されています。

「このグラウンド、3億1000万円。」

「これがね、総工費が4億。これからは、これくらいのものを造らないとね。」

関西電力が地元対策の窓口としていたのが、当時の高浜町助役、森山栄治氏でした。

そのときの町長・田中通氏。今回、NHKの取材に応じました。
森山氏と関西電力との深い関係には、“口を出せない状況”だったといいます。

高浜町 元町長 田中通氏
「われわれとは、ランクが違いましたからね。(森山さんが)窓口になっていましたから、私のほうに関電の方がみえたときは、月並みの天気のあいさつとか、深い話とかは、ほとんどなかったような気がします。どちらが町長で、どちらが助役なのか、分からないという話もありました。」

人口1万人ほどの町、高浜町。その町役場に、原発周辺地域出身の実力者として招かれたのが、森山氏でした。どのようにして、町長をもしのぐ力を得たのでしょうか。
高浜原発3、4号機の建設が始まる直前、アメリカで深刻な原発事故が起きました。安全性への不信感が急速に広まり、高浜町でも原発の増設を阻止しようとする、大規模なデモ行進が行われました。森山氏は、原発反対の動きを抑え込むために動いていたといいます。ある関係者の証言です。

“反原発で、ある人物が町長選に出馬しようとしたんだが推薦人だった元町議を降ろして出馬を断念させたんだ。”

さらに、新たに原発を受け入れれば、町に多額のカネが落ちると強調していました。
今回、当時の森山氏の部下が、匿名を条件に取材に応じました。

高浜町役場 元幹部
「(住民から)道路やってくれとか、学校建てるとか、いろいろあるやない、話が。」

取材班
「誘致する代わりに、町民の要望を、話を通した?」

高浜町役場 元幹部
「そう、通したり、そうや。県でも、若狭の土木次長が飛んでくる、(森山)助役が用事があるというと。『ここはこういうふうにやってくれ』って、そういう話はしていましたけど。」

一部の町民の原発への疑問の声に、どう応えるかを議会で問われた森山氏は、こう答弁していました。

“原発の立地に協力してきたことで現在の高浜町が築かれた。反対の行動をとられるということは好ましくない。”

関西電力には、森山氏を頼り、原発の増設を一刻も早く進めたい切実な事情がありました。1970年代の、2度のオイルショックで原油価格が高騰。火力発電のコストが上がり、関西電力は経営危機に陥りました。毎年のように電気料金を値上げする事態となり、原子力発電への移行を急いでいたのです。

こうした中、関西電力は高浜町に不透明なカネを注ぎ込んでいきました。
高浜町議の渡邊孝さんです。関西電力からの多額の寄付金が、役場関係者の個人口座に振り込まれていたことが発覚。議会で追及しました。

高浜町議会議員 渡邊孝氏
「個人名義の口座に入っていたというのは、おかしいじゃないかと。」

町側の説明では、カネは個人口座に入ったものの、漁協に3億7000万円渡したほか、道路や港の整備に5億4000万円使ったということでした。

高浜町議会議員 渡邊孝氏
「しめて、利子を含めて9億2800万円。」

森山氏も、不正な支出はなかったと主張。疑惑は晴れなかったといいます。

高浜町議会議員 渡邊孝氏
「やはりそれは、何かうしろめたいところがあったんだと思いますよ。3・4号機増設に向けて、スムーズに原子力事業を進めるためには、経費だったんじゃないですか。どっちみち原資は電気代ですから、国民のみなさんが払うんですから。関電としては、何も腹痛くないですわね。」

関西電力は、問題となった9億円のほかにも、森山氏の助役在任中に28億円もの寄付金を町に投じていました。
古くから森山氏を知る、福井県議会議員の石川与三吉氏です。原発推進を強める関西電力にとって、地元を取りまとめる森山氏は、頭が上がらない存在になっていったといいます。

福井県議会議員 石川与三吉氏
「関電さんは、森山さんに頼ったと、(原発増設に)何のブレーキもかからずにどんどん。お願いすれば難しい問題でも、集落を、ムラの責任者に理解してもらうということが大事。その役をやってらしたんですから、関電さんにとっては、森山さんは生き神様ですよ。」

第1次オイルショックのとき、関西電力の発電量の5%ほどだった原発。高浜原発3、4号機が運転を始めた85年には、およそ5割に上り、関西電力は原発依存を強めていきました。

当時の取締役で、後に社長会長を歴任する秋山喜久氏。原発立地地域に一定のカネが流れることは、やむをえないことだといいます。

関西電力 元会長 秋山喜久氏
「電力会社もよくなるけれども、地元もよくなるということで、地元の発展に協力するようなお金は、協力金として出してますしね。持ちつ持たれつと言ったらおかしいですけれども、共存共栄という思想はあってもいいと思う。」

独自取材 金品受領は20年以上前から

今回、問題となった金品受領は、少なくとも20年以上前から始まっていたことも分かりました。きっかけは、1987年、助役を退任した森山氏を関西電力の子会社、関電プラントが顧問として迎えたことでした。関電プラントは関西電力から原発関連の仕事を請け負っています。さらに、同じ時期、関電プラントから仕事を受注する、ある会社でも森山氏が副社長に就任していたことが新たに明らかになりました。その会社のもとには、高浜町周辺の多くの業者が連なり仕事を得ていました。

発注側にも受注側にも、深く関わるようになった森山氏。町の経済が原発に依存していく中で、その影響力は絶大なものとなっていったといいます。

地元の建設業者
「関西電力に対して、すごい顔が利くと、力を持っていると。フィクサーですよ。黒幕、ドン。」

森山氏に頭を下げたという別の業者は…。

地元の設備会社
「この建物は、割り振りが終わってるから、あんたのとこは来ても無理やでと。だけど、その代わり、もう1個小さいのがあるから、ココには入れてあげようと。(森山)先生の口添えのおかげで、結果的にはそうなった。」

地元の業者からは、手数料などとして、森山氏個人に金銭が渡るようになっていたといいます。

高浜町の土木業者
「まあ、上納金、盆暮れには必ず、最低100万置いとかないとダメなんですと。森山氏が巡回して、車の運転手している人が、順番にそれを持って集金に来られると。仕事をとったら、そこ(受注額)から数%と。」

そして森山氏は、1990年代には関西電力の複数の幹部に金品を渡していたことが取材で分かりました。

就任祝いなどの名目で20万円分の商品券、そして、金貨が手渡されていたといいます。
取材で浮かび上がってきたのは、「原発マネー」を軸に、関西電力と森山氏がもたれ合ってきた構図でした。

独自取材100人以上 新たな事実が!

武田:会見で関西電力が明らかにしたのは、2000年代に入ってからの金品の授受で、2011年の原発事故以降にエスカレートし、総額3億2000万円に上ったということでした。しかし、それより前、90年代には金品を関西電力の幹部に渡していたことが、今回の取材で分かりました。森山氏との関係を深めていった背景の1つには、関西電力の特殊な経営環境があります。関西電力は、ほかの主要な電力会社に比べても、突出して原子力発電の割合が高く、原発事故の前で51%に及んでいました。そこに、深く刺さり込んだ森山氏は、まさに関西電力にとってのキーマンだったのです。

話はこれで終わりません。金品の授受がエスカレートし、両者の関係が抜き差しならないものになっていくきっかけがあったといいます。多くの関係者が語ったのが、2004年。この年に起きた、ある事故でした。

独自取材 なぜ幹部が次々と受領?

2004年に起きた、関西電力美浜原子力発電所の事故。建物内部にあった配管が破損し、高温の蒸気が噴出。作業員5人が死亡しました。

関西電力 藤洋作社長(当時)
「大変ご心配をかけて、申し訳ありません。」

国内の原発で、初めて起きた死亡事故。地元・福井では不信感が高まり、関西電力は、その対応に追われることになります。
事故の翌年、もともと大阪の本店にあった原子力事業本部を美浜町に移転。地域との共生をアピールするため、副社長以下、幹部クラスの社員を常駐させ、現場の権限を強化しました。

原子力事業本部 森本浩志本部長(当時)
「関電は変わったと言ってもらえるように、具体的にひとつひとつ変わった様を見て頂く。」

このとき、原子力事業本部のナンバーツー、本部長代理になったのが、今回辞任した八木誠会長でした。
2006年、大阪本店から事業本部に赴任。そこに頻繁に姿を現すようになったのが、あの森山氏でした。八木氏は、このときから金品の提供を受けるようになったのです。

当時、会社の相談役になっていた秋山喜久元会長。工事発注などの権限を持つ幹部が地元対策にあたるようになったことが、不正を加速させたと考えています。

関西電力 秋山喜久元会長
「本部長とか、社長、会長というのは、参謀本部ですから。参謀が現地に行ったら、すぐ撃たれます。そういったことで慣れていない、慣れていない人のところに仕事がきた。」

その後、原子力事業本部長になった八木氏。さらに出世を重ね、社長、そして会長へと上り詰めます。八木氏の後任として、1億円を超える金品を受領した豊松氏、鈴木氏も、副社長、常務の役職を務めました。原子力事業本部で、森山氏から金品を受け取っていた人物が、社内の要職を占めていたのです。

関西電力元幹部の証言
“八木氏ら原子力事業本部の人間が偉くなるにつれて、森山氏の影響力が増していった。会う頻度も増えるだろうし、金額が大きくなったのはそれが大きい。”

3・11でカネの流れが巨額に

こうしたカネの流れが巨額になっていったのは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故の後でした。

関西電力 岩根茂樹社長
「原子力発電所の早期再稼働に向けて、地元の有力者である森山氏との関係悪化を極力避けて、原子力発電所を安定的に運営したいという思いがありました。」

原発事故後、関西電力の幹部たちが受け取った金品の額は急激に増加。2017年には、年間1億円以上に上りました。

金額が急増した背景には、関西電力が置かれた厳しい状況がありました。事故のあと、関西電力の原発は、次々と運転を停止。4年連続で大幅な赤字に陥りました。当時、社長だった八木氏は原発を再稼働させることに、まい進していきます。再稼働するうえで必要とされた安全対策工事には、高浜原発だけで5400億円あまりをつぎ込むことになりました。関西電力は、こうした工事を森山氏が顧問などを務める会社に大量に発注。その額は、少なくとも214億円に上りました。

森山氏は、億単位の手数料を手にすることになり、幹部たちに提供する金品が急激に増えていったのです。
先日の会見で、関西電力は工事の契約に不適切な点はなかったと強調しました。

関西電力 岩根茂樹社長
「発注した工事につきまして、分析したところ、工事の発注プロセス、発注金額については、適正と評価しております。」

一方で、関西電力のOBたちは、次のように証言しています。

関西電力元幹部の証言
“安全対策工事が急増する中、関電としては森山氏の息のかかった企業に発注したほうが圧倒的に効率がいい。”

“特定の有力者を使って、地元を掌握するという非常に安易なアプローチに、関電は逃げ込んだ。”

ほかの原発立地自治体が、再稼働に向けた地元合意の難しさに直面する中、高浜町ではほとんど反対する声は上がりませんでした。

高浜町議会 議長
「高浜原子力発電3・4号機の再稼働について、議会としての意見の一致をみましたので、お伝えしたいと思います。」

当時、高浜町議会の議長として、地元の合意をまとめた的場輝夫さん。関西電力と森山氏のゆがんだ関係のうえに、町が成り立ってきた現実があるといいます。

高浜町議会 的場輝夫元議長
「原子力発電という、危険を伴う事業を展開していながら、森山氏のような方が、これだけの影響力を振るうのを止めきれなかった、阻止できなかった。疑問を持ってこなかったということがあって、今日のような状況に至った。」

不透明な関係 何が問題か?

武田:現場を取材した、福井放送局の橋口さん。森山氏との関係が40年にわたることを考えますと、関西電力が会見で明らかにしたように、金品を受け取っていたのが幹部ら20人、総額3億2000万円だけでとどまるのだろうかという疑問が湧くと思うんですよね。どうなんでしょうか。

橋口記者:そのとおりです。関西電力の調査は去年までの7年間に、主に原子力事業に関わった幹部らだけが対象となりました。しかし、VTRでもありましたように、両者の不透明な関係は、それよりはるか前から始まっていて、金品の授受も、少なくとも1990年代には始まっていました。弁護士で作る第三者委員会は、調査期間や対象を広げて、さらに調査をし直す方針ですが、不透明な金品のやり取りが、どこまで広がっていたかが焦点となると思います。

武田:今回、100人以上の関係者に取材してきましたが、どんな構図が見えてきましたか?

橋口記者:関西電力は、これまで金品を受け取っていた理由を、元助役の特異なキャラクターに押しつけるかのように説明していました。しかし、私たちの取材では、関西電力は原発を推進するために森山氏を頼り、その見返りのような形で原発関連の利権を森山氏に集中させる、持ちつ持たれつの構図が、長年にわたり築き上げられてきた実態が見えてきました。森山氏は関西電力の経営トップに上がる人物に狙いを定めて金品を渡し続けることで、こうした共存共栄の関係を維持しようとしたのではないかと感じました。

武田:関西電力と森山氏が、このようにゆがんだ関係を続けてきた中で、森山氏が顧問などを務める会社が原発関連の工事の多くを受注していたと。ここには、どんな問題点があるんでしょう?

橋口記者:森山氏が相談役や顧問を務めていた会社は、いま分かっているだけで4社。このうち1社は、原発の安全性に大きく関わる、ポンプや配管のメンテナンスを請け負っていたことが新たに分かりました。安定的に原発を運転するには欠かせないものです。関西電力の発注プロセスや契約金額は、本当に適正だったのか、第三者委員会には徹底した調査が求められると思います。

武田:そして、原発と地域経済に詳しい龍谷大学の大島さん。原発工事の発注の透明性に、今回、疑問符がついた格好になっているわけですが、このことの意味、どういうふうに捉えていらっしゃいますか。

ゲスト 大島堅一さん(龍谷大学政策学部 教授)

大島さん:原発は安全第一で運転されるべきもので、特定の人物が絡む業者が受注していたことになるとすれば、やはり、安全性が第一に考えられたかどうかについて、疑問符がつくというふうに思っております。

武田:本来は安全性を担保できる技術力がある会社かどうか、ということが一番重視されなければいけませんね。

大島さん:その意味では、プロセスが問われているというふうに思われます。

何が問われているのか?

武田:大島さんは、今回この関西電力幹部らによる一連の金品受領問題。根本的な問題はどこにあると考えていらっしゃるんでしょうか。

大島さん:福井県というのは、世界でも原発が非常に立地している地域になっています。そういう意味では、今回、電力会社と地元、あるいは国といったものが、お金を通じて絡み合っている構造がかいま見えたんじゃないかと思っています。特に電力会社は、今回分かりましたように、工事の発注をしていますし、関係する団体に協力金や寄付金という形で、多額のお金を支払っています。また、国も原発が立地する自治体に対して、電源三法交付金を支払っています。モデルケースで言いますと、1基あたり1400億円に上るお金になります。そういう意味では、こういったお金の流れというのが、地元の決定過程をゆがめたり、あるいは特定の業者に集中的にお金が流れるようなことがあったりすれば、非常に大きな問題だと考えています。

武田:今、関西電力に求められていることはどんなことでしょうか?

大島さん:徹底した事実の解明が必要になっていると思います。なぜなら、電気料金と税金を原資とする様々な金の在り方というのが問われるからです。特に昨今、原発を持っている電力会社は、電力自由化にともなって情報が秘匿される傾向にありますが、そういった中で、第三者委員会が立ち上げられても、これまでのお金の流れが確実に明らかにされるかどうかは、やはり疑問に思っています。そういう意味では、福島原発事故後に立ち上げられた東京電力の経営に関わる経営・財務調査委員会のような、独立した委員会を立ち上げて、お金の流れを徹底して明らかにする必要があると思います。これは関西電力に限らず、ほかの電力会社についても。電気料金を払う国民にとっても、非常に重要な課題ではないかと考えています。

武田:今回、金品の授受に使われたお金が、もし私たちが払っている電気料金の一部だとすると、これは本当に、一般の方々も無関係ではいられない大きな問題ですよね。

大島さん:そういう意味では、電気料金の還流ですので、こういった不正な流れを、この事件を通して断ち切る必要があると思われます。

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