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2019年9月12日(木)

消費の現場に異変?! 消費税2%アップで何が起きるか

消費の現場に異変?! 消費税2%アップで何が起きるか

10月1日の消費税率引き上げまで1か月を切った。今回は駆け込み需要があまり起きていないなど、消費の現場に“異変”が生じている。番組では千葉県のスーパーに密着、1円2円に敏感な消費者を前に、増税の影響をどう抑えるか模索する姿を取材した。また専門家によると軽減税率の導入やキャッシュレス決済のポイント還元などによって今回の増税では「知識次第で得もすれば大きな負担にもなる」という。消費増税がもたらす“変化”にどう備えるべきか伝える。

出演者

  • 矢嶋康次さん (ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト)
  • 風呂内亜矢さん (ファイナンシャルプランナー)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

消費低迷の中…奔走するスーパーに密着

8月中旬、私たちが密着を始めたのは千葉県市原市にあるT☆MART。地域に根ざした家族経営のスーパーです。ここ数年、売り上げが減り続け、客数も減少しています。こうした中、迎える今回の増税に危機感を抱いています。

T☆MART 取締役 高橋喜則さん
「“税金が上がる”みたいな意識をお客様は持っていると思うので、そこで消費が鈍ってしまうとお店にも影響があるかなと思います。」

消費低迷の要因の1つとなっているのが、今年(2019年)に入って相次ぐ商品の値上げです。原材料費や物流費の高騰を背景に牛乳・即席麺は10円程度、お菓子なども値上げされています。

買い物客
「もうすでに(値段が)上がっているんだから。牛乳、紙製品からオイルから、すべてね。」
「あまり無駄なこと(買い物)はしない。これから上がるからって買いだめはしない。」

この日、スーパーを訪れたのは地元の納豆メーカー。納品の際、値上げの相談を持ちかけました。

納豆メーカー
「配送のコストだったり、そういうものがみんなかかってくるので。」

このメーカーの商品は、2年前にもおよそ5円値上げしています。材料費や輸送費の高騰でさらなる値上げを検討せざるを得ないというのです。

T☆MART 取締役 高橋喜則さん
「商売続けていくには利益を出していかないと続けられませんので。10円とか5円とかでも大きいと思うんですけど、できることなら値上げはしたくないですけど。」

この店にとって悩みの種となっているのが、今回初めて導入される軽減税率への対応です。店ではメーカーから送られてくるリストを頼りに、すべての商品の税率をレジに登録しなおす作業に追われています。来月(10月)以降、消費税率は10%に引き上げられますが、食品や飲料には軽減税率が適用されるため8%のまま。商品によって税率が異なる複雑な事態となっているのです。

例えば、酒類となるみりんは10%の増税対象となりますが、アルコール分が少なく酒類ではないみりん風調味料は8%のまま。子ども向けのお菓子も煩雑です。おもちゃ付きのお菓子は8%。お菓子付きのおもちゃは10%。どちらが主体となるかによって税率が変わってくるのです。何が10%で何が8%のままなのか。分かりにくい仕組みが客をさらに慎重にさせ、売り上げに影響が出るのではと店は心配しています。

店員
「複雑すぎて自分たちもわかっていない部分がいっぱいある。お客様が混乱しちゃっているので。」
「10%に上がったら多少の買い控えもあるのかな。」
「どこまでカバーできるかっていうところで。」

T☆MART 取締役 高橋喜則さん
「ただ10月になるとちょっと厳しいね。」

T☆MART 取締役 高橋喜則さん
「また何か新しい問題とかが出てくるのかなとは思いますけど、今わかる範囲で対策はしていかないといけないので。」

“駆け込み”が見られない!?

前回の増税があった5年前、全国各地で駆け込み需要が見られました。今回はその動きが鈍いことも分かりました。東京都内の百貨店です。前回は増税の2か月前から売り上げが一気に伸びたという婦人靴売り場。今回は直前になっても売り上げが伸びていません。

店員
「まだ思ったほどの駆け込みというのは実際なくてですね。もう少し来てほしいですね。」

前回は駆け込み需要が国内全体で4兆円に上ったと試算されていますが、今回はその半分に満たないとみられています。

世代・ライフスタイルの違いで明暗が

今回の増税では、世代によって負担に差が出ることも明らかになりました。番組では、その差が特に大きくなる年金暮らしの高齢者と子育て世帯のケースを比較しました。

年金で生活する塚越染男さん、82歳。週に3回スーパーのイートインスペースで仲間と食事をするのを楽しみにしています。しかし、来月以降は、税率が10%に引き上げられるため負担が増えることになります。

塚越染男さん
「ここで食えば(10%に)上がるんだよ。どれだけ年金にひびくかだよ。」

塚越さんは妻に先立たれ、現在は独り暮らし。生活費は月10万円ほどの年金で賄っています。塚越さんのひと月あたりの支出です。およそ4万円の家賃に加え、光熱費や食費など合計で10万3,400円。来月以降は光熱費や外食などの税率が上がるため、ひと月451円の負担増。年間では5,412円となる計算です。

家計を維持するために切り詰められそうなのは、外食費。今後はイートインに通う回数も減らさざるを得ないといいます。

塚越染男さん
「楽しみなんだよな。普通考えれば“ぜいたく”なんだ。行かなくても済むんだ、本当は。だけど、生きてる人間としては話がしたいし、話が聞きたいし。」

一方、こちらは子育て中の鎌田菜月さん。会社員の夫と2歳の娘の3人で暮らしています。月々の支出は17万円。増税後は光熱費に外食代、おむつなどの日用品の税率が引き上げられ、月1,664円の負担増。年間では1万9,968円となる計算です。

しかし、今回の増税による税収は子育て世帯への支援策にも使われます。3歳から5歳の子どもの幼稚園、保育園などの利用料が無償化されるのです。鎌田さんは家計を支えるため、週3回、夜8時から焼き肉店でアルバイトをしています。ただ、今の収入では保育園の保育料を賄えないため入園を諦めていました。今回の支援策で、鎌田さんの場合、年間で30万円以上の保育料が無償になる可能性があるのです。

鎌田菜月さん
「(恩恵は)大きいですね。かなり大きくてありがたいことですね。いずれ兄弟は私も欲しいなと思う。心に余裕ができますね。」

同じ働く世代でも、毎日の食事によって増税後の負担は大きく異なります。インターネットを使った英会話スクールを運営するベンチャー企業。エンジニアの向さんと山本さんのふだんの食生活から増税による負担額を計算してみました。その結果は、ほぼゼロの向さん。それに対して山本さんは年間2万7,000円近くの負担増に。一体何が違うのでしょうか。

負担が増えない向さんは、健康志向のお弁当男子。

向晃弘さん
「きのう作ったおじや。あとは好物のブロッコリーと梅干し。」

1週間を通して、昼も夜も自炊。お酒も飲まないため、増税の負担はゼロになります。

一方の山本さんは会社の外へ。お昼は、ほぼ毎日外食を楽しんでいます。夜も外でお酒を飲む機会が多い山本さん。外食は10%に増税されるため年間で2万6,936円もの負担増になる計算です。

山本隼汰さん
「2%だろうと思ってたんですけど、年間で出てくると意外と出るなと。外食するとしても額を抑えるとか、回数を減らす努力をするとかは必要かなと思う。」

暮らしぶりによって大きく変わる増税の負担。家計防衛のコツはどこにあるのでしょうか。

負担増どれだけ?生活防衛は?

武田:今回、家計の中で一体何が増税になるのか。まず、もともと非課税の家賃や保険料は増税の対象外です。軽減税率の対象である食品や飲料は8%に据え置き。一方、酒や外食日用品などは10%になります。その結果どうなるかといいますと、年間の負担増、1人暮らしでおよそ2万4,000円、2人暮らしで3万8,000円、ファミリーだと4万3,000円になるという試算があります。この試算をしたファイナンシャルプランナーの風呂内さん、こうして見てみますと負担、結構増えるなという気もするんですけど、影響をどういうふうにご覧になっていますか?

ゲスト 風呂内亜矢さん (ファイナンシャルプランナー)

風呂内さん:確かに年間4万円以上の負担増となると大きく見えるんですが、一方で総支出額の4分の1を占める食費の大部分が軽減税率で8%据え置きですので、実はこれまでよりは影響値は低いとみられます。

武田:これまでよりは、ということですね。ただ、負担も一方で増える中で家計を守っていくにはどういう工夫ができるんでしょうか?

風呂内さん:4万3,000円分買い物を控えるというのはかなり厳しいものがありますので、おすすめなのは固定費を減らしていく方法です。例えば、家賃の部分。住宅ローンを組まれている方はローンを借り替えるとか、家賃の交渉をしてみることで減るかもしれません。そして、保険料。加入したときには貯蓄がなかったから適正な保険料だったけど、今、貯蓄が十分にあるのであれば、保険を見直したり減らすということもできるかもしれません。

武田:そのままにしてる人って結構多いですよね。

風呂内さん:通信費の部分もかなり見直しやすいかなと思います。格安SIMに切り替えるだったり、大手キャリアのままでもプランを切り替えるだけで月々数千円圧縮することができる比較的容易な項目になります。

前回と違う?消費の実態は

武田:一方、国内全体の消費への影響ですけれども、増税の3年前を100として年間消費の割合をグラフにしたものです。赤い線が前回5%から8%になったときですが、増税の前に急激に伸びて、その後、反動で大きく落ち込みました。ところが、今回は青い線です。増税を前にして、前回ほどの駆け込みは見られません。エコノミストの矢嶋さん、こういった状況をどう見ればいいんでしょう?

ゲスト 矢嶋康次さん (ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト)

矢嶋さん:3つぐらい要因があるかなと思います。1つは、前回が消費税が3%で今回は2%の引き上げということで税率が違うということ。2つ目は、今回政府が対策をかなりたくさんやっているということ。それから3つ目。これが少し気になりますが、前回に比べて消費の伸び、力強さが3分の1ぐらいというところなんです。消費税というのは、みんながする消費に対する税なんですね。だから痛税感が高いんです。そうすると痛税感が高いことが、さらにこの先消費を弱くするんじゃないかというのが少し懸念されている状況です。

税収は社会保障へ

栗原:消費が弱まっている中で今回、国は増税に踏み切ったわけですが、その使い道がこちらになります。半分は国の歳入を増やして財政を健全化する「財政再建」に。そして、残りの半分が「幼児教育の無償化」や「低所得の高齢者への給付金」などに充てられるということになっています。

武田:消費増税は社会保障の充実が目的なわけですが、現場では負担が増える世代もあるわけです。あれはどういうふうに見ればいいでしょう?

矢嶋さん:今回、対策も含めて給付と負担のバランスをできるだけとるようにしてるんですけど、円グラフの中にあるように財政再建は将来世代に。幼児無償化のところはお子さんがいらっしゃる世帯。下のところが高齢者というところで、その世代や世帯によって金額が違うのが1つ大きな問題だと思います。戻ってくる金額が違うということです。もう1つは、今回、消費税の対策で、例えば、キャッシュレスをやってるんですが、これができる方とできる事業者で損得が変わってくる。そうすると青いところの高齢者の方が、どちらかというとキャッシュレス等々の対策も含めて恩恵がなかなか受けれないんじゃないかというのが今、懸念されています。

武田:今、話にあったキャッシュレス決済ですが、その活用の方法によっては増税後、私たち消費者の負担に大きな差が出ることも分かってきました。

“キャッシュレス決済”でも明暗が

栗原:こちらのコンビニでは、キャッシュレス決済のキャンペーン。のぼりが1つ、そして、もう1つあります。大々的にキャンペーンが行われています。

今回の増税でポイント還元制度が導入されるキャッシュレス決済。その1つ、スマホ決済に参入する企業が相次いでいます。

「ポイント還元もあったりだとか、キャンペーンやったりとかでご利用いただく可能性は増えてくるかなと。」

今年2月からサービスを開始したこの会社。商店街を回って自社のサービスが使える店を増やそうとしています。

メルペイ 大前宏輔さん
「国が主導するというところで、今まで意識していなかった人もサービスに目を向けてくれるタイミングなのかなと。」

今回のポイント還元制度の仕組みです。消費者が買い物をする際、現金ではなく、スマホ決済やクレジットカード、電子マネーなど、キャッシュレスで決済すれば中小の店舗では5%、コンビニなどでは2%がポイントとして還元されます。国がその資金を主に負担することで消費の冷え込みを抑える狙い。ただ、来年(2020年)6月までの9か月限定の措置です。

このキャッシュレス決済、使い方によっては、増税の負担を減らすことができると指摘する人がいます。都内で自営業を営む菊地崇仁さんです。みずからを「キャッシュレスの達人」と名乗る菊地さん。財布を見せてもらうと…。クレジットカードから電子マネーまでふだん持ち歩いているカードだけでも120枚。さらに、スマホ決済のアプリも20種類ほど。巧みに使いこなしています。

菊地崇仁さん
「キャッシュレスで払うと、払った額は(現金と)同じなんですが、あとでリターンがある。そのリターン分がどんどん積もっていって、大きな金額になってくると。」

菊地さんがおすすめするのは、ポイントのいわば2重取りです。2重取りとは、支払いの際、キャッシュレス決済の会社のポイントだけでなく、店が提供する別のポイントも同時に受け取るテクニックです。

例えば、牛乳と食パン、ヨーグルトで1,034円分の買い物をした場合、店のポイントカードとスマホ決済を同時に利用すると…。

菊地崇仁さん
「ポイントカードとしては4ポイント。決済としては10%のポイントなので103円分のダブルです。2重取りといわれているやつです。基本ですね。」

増税に合わせて国が導入するポイント還元制度を組み合わせれば、3重取りも可能だといいます。

菊地崇仁さん
「年間で本当に10万円とか変わってきますので、やはりキャッシュレスの方が得をする。」

“キャッシュレス決済”で客を呼び込め!

私たちが密着していた千葉県のスーパー。キャッシュレス決済に大きな期待を寄せています。独自の電子マネーのカードを導入し、客を囲い込もうというのです。この店は中小の店舗にあたるため増税後、キャッシュレス決済をした客には5%のポイントが還元されます。周囲のライバルは還元率が2%のコンビニや対象外となる大手の店ばかり。ほかよりも高い還元率を強みにしようと考えたのです。

T☆MART 取締役 高橋喜則さん
「他社がやってないことをやるというのは、いいことだなと思ってますので。できるだけお得をして買い物してほしいなというのはあります。」

これまで店を訪れる客の9割は現金での支払いでした。1人でも多くの客に電子マネーのカードを使ってもらおうとキャンペーンを実施。1万円入金すれば300円分上乗せする期間限定の特典を設けました。

店員
「電子マネー、お金を入れて使えるの。もしよければ、今日やると、10,000円入れると300円(上乗せ)。」

電子マネーに戸惑う客にはスタッフが丁寧に説明しました。

スーパーの客
「あまりよくわからないけど、店員の人が教えてくれるから。」
「やっぱりお得っていうと、そっちの方に気持ちが傾きますよね。」

3日間のキャンペーンで目標を上回る400人以上が登録。この店は、キャッシュレス決済を追い風にすることで、増税を乗り切ろうとしています。

T☆MART 取締役 高橋喜則さん
「5%割引になるというのは、すごい大きいことだと思うので、それは強みかなと。どんどん浸透させていければなと思います。」

増税が与える家計への影響。日本経済はどうなっていくのでしょうか?

どう使う?“キャッシュレス決済”

栗原:今回、ポイント還元の対象となるキャッシュレスですけれども、サービスが乱立気味だなと感じる方も多いかもしれませんが、まとめました。まず、お持ちの方も多いと思いますが、クレジットカード。こちらでもポイントが還元されます。そして、銀行口座から直接引き落とされるデビットカード。あとは、交通系などでおなじみのチャージして使う電子マネー。そして、○○ペイなどありますが、QRコードを使ったスマホ決済があるんです。こうして見てみますと、私たちの周りで使っているなと感じるんではないでしょうか。

武田:私もこれ使ってるというのはあると思うんですが、風呂内さん、キャッシュレス決済の活用で増税後の負担に差が出ると聞くと、とたんに不安になるんですが、使い方がなかなか分からないという方はどういうふうに入っていけばいいんでしょうか?

風呂内さん:確かにキャッシュレスを使うと消費が2割増しになるという国内外のデータもあるんです。なので、使い方を気をつけたほうがよくて、2つポイントがあるかと思います。1つ目は、決済スタイルいろいろあるんですけど、いつお金を払う決済手段を選ぼうとしているのかを気にかけていただきたいんです。クレジットカードに代表されるようなあと払いじゃないものを選んでいただきたいんです。前払いか、即払いのもの。具体的には電子マネーが前払いの代表例です。あるいはデビットカード、即払いのタイプのものを選ぶ。使ったときに残高がすぐ減るタイプのものだと支出の管理がしやすいです。

武田:そして、元となる財布は1つに統一。これはどういうことでしょうか?

風呂内さん:いろいろな決済手段というのは、カードとか口座にひもづけて使うことも多いんですけど、最終的な出口を1つに集約させるところが非常に大事なポイントとなります。使ったデータを1つのところにまとめることで自分がいついくら使ったかということをはっきりさせていく使い方がおすすめです。

武田:矢嶋さん、キャッシュレス決済ですが、ポイント還元は来年6月までの時限措置ということです。消費の低迷をそれで食い止められるのか。その後、日本経済はどうなっていくのか?

矢嶋さん:今、少し懸念されていることが、キャッシュレス、お金が国からついている。その期限が6月で切れるんですが、それと合わせて、来年はオリンピックイヤーです。そうすると今の建設の特需とかもおそらくその時期ではほとんどなくなるので、ダブルで政策がなくなる。政策の崖みたいなものが意識されると思うんです。そういう意味では、今回のキャッシュレスを消費税の対策から成長の基盤にどう持っていくかというのが、次のポイントになると思います。キャッシュレスでものすごく大量のデータがこれから入手されますので、企業のほうは効率化を図るとともに新しいサービスを提供することになると思います。そのサービスを使って私たちがキャッシュレスをすることで、おそらくキャッシュレス自体が社会インフラになってくると思うんです。それによって成長の基盤をどんどんと高めていくということが次の政策課題になっていくんだと思います。

武田:6月にくる日本経済の大きな節目にどう対応していくのか。ここはしっかりと見ていかなくてはならないですね。

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