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2019年7月30日(火)

“顔見知り”からの性暴力 ~被害者の苦しみ 知ってますか?~

“顔見知り”からの性暴力 ~被害者の苦しみ 知ってますか?~

「性暴力の実態を知ってほしい」。被害者たちが声をあげる中、取材班は名古屋市の性暴力救援センターに2か月間密着。日々舞い込む相談の8割以上は、友人、同僚、身内など“顔見知り”からの被害だ。加害者が身近な人ゆえに、被害者は抵抗できず、周囲に打ち明けても理解されず、自分を責め、何重にも苦しみ続ける実態が見えてきた。誰の身近でも起こり得る現実を伝える。

出演者

  • にのみやさをりさん (写真家・性暴力被害者)
  • 小西聖子さん (精神科医・武蔵野大学教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

苦しみ続ける被害者たち

年間、のべ1,500件の相談が寄せられる性暴力被害の支援窓口があります。病院内に設置された「性暴力救援センター 日赤なごや なごみ」。SANE(セイン=性暴力被害者支援看護職)と呼ばれる性暴力被害者支援専門の看護師、医師、支援員、医療ソーシャルワーカーたちが24時間、対応しています。「被害の実態を知ってほしい」と、取材に応じてくれました。

「はい、日赤なごや なごみです。」

この日、会社の同僚から被害を受けたという女性から電話がありました。

支援員
「つきあっているわけではない。あなたとしてはやりたくなかったけどされてしまった。妊娠のこともご心配になっている。」

センター長で看護師の片岡さんは、被害から72時間以内に来るよう伝えました。妊娠を防ぐ、緊急避妊薬を服用するためです。
電話の直後、センターを訪れた女性に片岡さんは、体の痛みや傷はないか確認し、被害の詳細を聞き取りました。どのような経緯で起きたのか。被害者が特定されない範囲で、教えてもらいました。

加害者は会社で女性の指導係を務める、妻子ある男性。出張先で同じビジネスホテルに泊まった夜、部屋を訪ねてきました。女性は職場での関係が悪くなることを恐れて、部屋に入れたと言います。しばらく話をしていましたが、突然、男性に体を触られ、抵抗することができませんでした。

性暴力救援センター 日赤なごや なごみ 片岡笑美子センター長
「突然なのでどうしていいものかと、頭がパニックになるんだと思います。仕事の延長であったり、コミュニケーションを取るという状況だと思うんだけど(性行為があると)全然想定していない。」

片岡さんたちは、妊娠を心配していた女性を院内の産婦人科へつなぎました。
医師は避妊薬を処方。さらに、警察の捜査で重要な被害の証拠となる精液を採取しました。

産婦人科医師
「綿棒で組織をぬぐってくるかたちで。」

採取できるのはおよそ1週間以内。被害にあったばかりの女性には大きな苦痛です。

名古屋第二赤十字病院 産婦人科 加藤紀子医師
「負担があってすごく本人さんにとってはつらい悲しいことだと思うんです。
加害者にとっては一時的なものであっても、それを受ける被害者にとってはずっと心に残る。」

このとき女性は、警察に相談することを躊躇(ちゅうちょ)していました。「男性を部屋に入れた自分も悪い」という気持ちがあったからです。自らを責める女性に片岡さんは、「あなたの望まない性的な行為は性暴力」と伝えました。

性暴力救援センター 日赤なごや なごみ 片岡笑美子センター長
「それは性暴力ですよと。同意でないとか強要されたとか、対等な立場でない中で行われていれば、それは性暴力と私たちは定義しているので。」

片岡さんたちは、女性に弁護士を紹介しました。
なごみは、ワンストップ支援センターとして弁護士や警察などと連携し、被害者をサポートしています。
4年前の開設以来、医療、法律、カウンセリングなどの支援を受けた被害者や家族は750人を超えます。

周囲の対応が 被害者をさらに苦しめる

顔見知りからの性暴力。被害者は周りの対応によって、さらに苦しめられます。
アユミさんです。被害の直後、親しい友人に打ち明けると、繰り返し問い詰められ傷ついていました。

アユミさん(仮名・30代)
「『なんでそのとき男と一緒にいたの』とか『なんでそこに行っちゃったの』って何回も言われたんです。」

加害者は、なじみの飲食店で知り合った男性。アユミさんが信頼している店長の知り合いでした。その日、仕事の疲れもあって、アユミさんはひどく酔ってしまったと言います。意識がもうろうとする中、男性と店を出て帰ろうとしますが、ふらつくアユミさんに男性は、睡眠をとったほうがいいと勧めます。

アユミさん
「(店長が)男にその彼女はちゃんと安全に送ってねみたいなこと言ってたんで、たぶんそうしてくれるんだろうなって思って。」

しかし、向かったのはラブホテルでした。被害の経緯を聞いた友人は、アユミさんの体を気遣いながらも、「なぜ男性と行動をともにしたのか」、何度も尋ねました。

アユミさん
「質問をされるだけでグサグサ傷つく。傷つけるつもりはもちろん向こうはないと思うんですけど。」

その後、アユミさんは警察にも相談します。しかし、被害届は受理されませんでした。再び警察と話したときのやり取りを、アユミさんは録音していました。

アユミさん
「(部屋に入ると)すぐに寝ちゃったと思うんですけど、でもちょっとしたら男が私の上に乗ってきて、無理やり挿入しようとしてきたので、陰茎をつかんで中に入れないようにしました。抵抗していたけど、無理やり挿入されて。」

しかし警察は、事件として扱うのは難しいと伝えました。

警察官
「ラブホテルってセックスする所なんですよ、男の人と女の人が。一緒にラブホテルに行ってくれた、だからOKだろうって考えるのが普通だと思うんですよ。フロントに人がいる、お客さんもいる、助けを呼べる。なぜ呼ばなかったんですか?」

アユミさん
「頭がまわってませんでした。」

警察官
「『なんで私の事件やってくれないんだ』って言われる方もいっぱいいます。なぜかと言うと、やっぱり本人に責任がある。原因がある。それができない原因が。」

アユミさん
「じゃあほぼ結論は出てるってことですか?」

警察官
「ほぼ結論は出てます、正直。実際に犯罪を構成するかといったら構成しません。」

被害届は、受理されませんでした。
心ない対応を受け続ける中、なごみを訪れたアユミさんは自分を責めるようになっていました。

アユミさん
「そんなに飲んだ自分が悪いと思うし、ついて行った自分が悪いと思うし、帰らなかった自分が悪いと思います。」

自分に落ち度があったと言い続けるアユミさん。カウンセリングを担当する長江美代子さんは、強く語りました。

カウンセリングを担当する日本福祉大学教授 長江美代子さん
「どれもこれも、あれも、(被害者の)落ち度として挙げられたりするかもしれないけど、でも、どれ1つ、レイプをしてもいいっていう理由にはならないんですよね。それがなぜか同意したことになってしまう。おかしいですよね。」

なごみは連携する弁護士をアユミさんに紹介。改めて警察に提出した被害届は、受理されました。

長期間 続く苦しみ “人生がなくなった・・・”

性暴力は、何十年にもわたって繰り返し被害者を苦しめ続けます。
40代のマキさん。高校生のとき、レイプ被害に遭いました。

マキさん(仮名・40代)
「二度三度って傷ついていって。生きてるのも苦しかったですし、すごく苦しかったですね。」

相手は、当時、近所に住んでいた同級生。その後、姿を見かけるたびに被害の記憶がよみがえり、学校に行けなくなりました。加害者が顔見知りだっため、友人には打ち明けづらく、家族からは被害を忘れるよう言われたこともありました。10年以上、ひきこもる日々が続きました。次第にマキさんは、「被害はなかった」と思い込むようになります。何年たっても込み上げてくる怒りや悲しみの感情を押し殺すためです。しかし、その反動が体の不調として現れました。

マキさん
「血液の中にガラスの破片がいっぱい入ってる。血液をずっと流れてるみたいな。微弱の痛い電気がずっと流れてるような。」

これは、心の痛みをごまかすため、体に痛みを感じようとする「回避」という症状です。

カウンセリングを担当する日本福祉大学教授 長江美代子さん
「なかったことにしたい気持ちとの闘いがずっと続くんですよね。そのつらさと比べたら、身体の痛み、動けないほど痛くてもそっちのほうがマシっていう。」

マキさん
「私の人生ってなんだったんだろうって、本当に思ったりして、ほんとに取り戻せないものがいっぱいあって、人生が、私なくなっちゃったじゃんって」

身近な人による性暴力が被害者をいかに苦しめるか。より深く、話を聞きます。

被害の8割 何重にも苦しむ現実

ゲスト にのみやさをりさん(写真家)

武田:自分の人生がなくなってしまうという言葉、胸に響きましたが、スタジオには、ご自身も被害者で現在写真家として活動されている、にのみやさをりさんにお越しいただきました。
にのみやさんは24歳の時に、職場の上司から被害に遭ったということです。顔見知りだからこその苦しみ。今、ご覧いただいて、にのみやさんご自身はどういうふうにお感じになったんでしょうか。

にのみやさをりさん:VTRの中で、自分を責め、人生がなくなってしまったという言葉は私自身も思ったことがありましたし、たまらない思いをしながら見ていました。私の被害は信頼している上司からだったんですけども、無理やり、ある日突然襲われたんです。人間って信頼関係で結ばれてるじゃないですか。それが全部崩されるんですよね、顔見知りっていうことは。だから、幼いころに培った人間関係の基本っていうのが全部、木っ端みじんになってしまう。

武田:自分が信頼していた身近な人からの被害だったということは、やはり大きく傷つけられた点。

にのみやさん:当時は、傷つけられたってことさえもが分からなかった。全部自分が悪いんだと思ってましたね。仕事ができる上司をこんな状況にしたのは自分なんだと思ったし、自分があの時さっさと仕事を終わらせてさっさと帰っていたら、こんな状況は起こらなかったし、何もかもがとにかく自分のせいだと思ってました。

武田:でも、当然そうじゃないはずですよね。

にのみやさん:そうじゃないって思えるようになるのに、20何年かかりましたね。

武田:もうおひと方、精神科医で東京の性暴力救援センターと連携して被害者の支援を行っている小西さん。性暴力の8割が顔見知りからの被害という実態に、私、本当に大きな衝撃を受けたんですけれども。

ゲスト 小西聖子さん(精神科医・武蔵野大学教授)

小西聖子さん:たぶん、どこもそうだと思いますね。知り合いというか、非常に近い人ですよね。そういう人からの被害が、7、8割というのが普通だと思います。

今まで信頼してたり、これからも一緒にやっていかなくちゃいけないような人から被害を受けて信用ができなくなる。とっても苦しい。そもそも被害だと思って言うことができない人がたくさんいます。

武田:それからもう1つ、VTRでは警察に相談した時のやり取りがありましたけれども、傷ついて相談に来ている被害者に、どうしてあんな言葉がかけられるんだろう、私は正直憤りを感じたんですけれども。

小西さん:そうですね。たぶん警察庁に聞けば、そういうことを言わない教育を一生懸命やってるって言うと思うんです。実際にやっておられるんだけど、でも、現場には、ああいうことを言ってしまう警察官が実際にまだいるのも確かですね。法律的に、これはちょっと証拠がないなとか、扱えないなと思った時点で。法的には難しいケースっていうことは当然あります。だけど、それは被害がなかったということとは違いますから、性暴力を広く定義すれば同意がないところで性行為が行われれば、セックスだけでなく、さまざまな侵入的な行為があれば、それは全部性暴力というふうに言っていいと思うんですね。

武田:もしかしたら、あなたも悪いんじゃないのというような、そういう思いっていうのは、何も警察だけじゃなくて、世の中に、私たちの間にもある感覚ではないかとも思ったんですが。

にのみやさん:むしろあると思います。一時被害がレイプそのものだとして、セカンドレイプというのが周りの人からの言葉ですよね。お前にだって非はあっただろうみたいな。それが被害者を、さらにさらに追いつめてるような気がします。だから、レイプの被害もつらいのに、その次に言葉の被害を受けて、これって同等の痛みなんですよ。だから、何重にも何重にも、生きれば生きるほど、レイプを受け続けてるような苦しみですね。

“社会を変えたい” 声を上げ始めた被害者たち

これまで、何重にも苦しみ続けてきた性暴力の被害者たち。社会を変えようと、声を上げ始めています。

デモの参加者
「被害者は何度殺されたらいいんでしょうか。」
「次の世代に絶対に、同じような苦しい思いを悔しい思いをしてほしくありません。」
「すべて奪われるのが性暴力です。もうこんなこと本当に嫌なので、こうやって集まって来た人たちの声が、きちんと社会を変えるようやっていきましょう。」

国の調査では、無理やりに性交などをされた経験のある人のうち、「誰にも相談しなかった」と答えた人は半数以上。なかなか声を上げにくい現実があります。

性暴力に対する社会の認識を変えるため、名古屋の性暴力救援センター「なごみ」は、市内の高校で授業を始めています。一年生を対象に、マスターベーションや避妊の正しい方法などふだん学校では取り上げない内容にも踏み込みます。

さらに、恋人同士でも性暴力が起こりうる危うさを伝えています。

性暴力救援センター なごみのスタッフ
「合意はなし、それから金銭のやりとりはなし、これはなんでしょう、合意していない。お金もない。そうです、レイプと言ってくれました。強制性交です。人の気持ちを考えなくて自分が意のままにしていいんだという勝手な解釈をしている人がいるんです。人は選ぶ権利があります。それから拒む権利もあります、嫌と言っていいんです。考え中もありです。そういった権利があるんですよ、一人一人にね。」

女子生徒
「知識が増えて、もっと考える時間ができて大切な時間になったなと思いました。」

男子生徒
「(被害者は)心も痛いだろうし、とても悲しむと思いました。」

性暴力から自分を、そして大切な人を守るために、何ができるのか考えます。

根底にある社会の無理解 どう変えるのか

武田:何ができるのかということですけれども、私はやはり性暴力の背景に、今の言葉にもあったように、人の気持ちを考えず意のままにしていいという勝手な解釈があるんだということを、もっと広く共有しなければならないと感じましたが。小西さんいかがですか。

小西さん:そうですね。そういう考え方が、今(のVTR)みたいな教育がないままに、若い人にも再生産されてしまうっていうこともあるように思います。

合原明子アナウンサー:「望まない性的行為が性暴力」ということが、まだすべての人に理解されていないということを示す数字があります。LINE社と協力をしまして、10~50代の男女1,000人に実施をしたアンケート調査なんですけども、どういう時に性的な行為への同意があると考えるかを聞きました。「2人きりで飲酒」「2人きりで個室に入る」「露出の多い服装で会う」という項目で、これだけの人が、「同意がある」と捉えていることが分かりました。

小西さん:仕事できないですよね、それじゃあ。

にのみやさん:男と女で、例えばお酒を飲んだら何でも同意なのかって、なんかちょっと、えっ?と思っちゃったんですけど。

小西さん:そうじゃないですよね。例えば、すごい格好で酔っ払って寝てたとしても、襲っちゃいけないことは当然じゃないですか。被害の現実っていうのが、あまりにも社会に見えてないし、間違った常識が通って現実のことが全く表に出てこない。変えていかなくちゃいけないことなんだけどなと思います。

合原:実際に性暴力の被害に遭ってしまった場合に周りの人たちができること、小西先生にポイントをまとめていただきました。2つあります。

小西さん:なんで?って人は言うんですよね。だけどそれが、傷ついてる人にはすごく責められてるように聞こえるので、この言葉をいったん押さえるだけでもすごい違うと思うんだけれども。これは本当に、具体的にそうです。2番目も、ハウツーで直してあげるとかそういうことじゃなく、一緒に困ってくれる人って、一緒にいてくれる人。

武田:一緒に困ってくれる人。

小西さん:うん。が、必要です。1人ではできないから。こう行ったらもう大丈夫っていう正解の道は残念ながらないし。ないけれども、1個ずつ詰まりながら、それでも一緒にやっていってもらったり。

にのみやさん:ただ一緒にいて、一緒に例えばお茶を飲んで、おいしいねって言い合う。それだけでもほっとするんですよね。それが支えになる。次の日生きようっていう。それはすごく思いました。

武田:性暴力に苦しんでいる人たちが身近なところにいる。そして、明日もまた新たにそういう人たちが生まれてくるかもしれない。

合原:決して1人きりで抱え込まずに、お近くのワンストップ支援センターに相談をするようにしていただきたいと思います。全国の都道府県にあります。
(ワンストップ支援センター一覧はこちらから)

小西さん:ワンストップセンターはただ話を聞くところではなく、例えば、警察に一緒に行って本人を支えましょうとか、産婦人科や医療に紹介するとか、そういうのも同行してくれたりするんですね。わりと具体的に一緒に動いてくれるところです。でもワンストップセンターに最初に相談しなさいっていうのは、公式に言えばそうなんだけど、被害者からみたら、それはできないです。今、調査すると、過半数の人がまだ、友達にも親にも、誰にも言ってないんです。だから、最初に言うべきことは、誰でもいいから、あなたが信用できる人に相談してみようです。

さらにもう1つ言うと、その人が先ほどのような考え方をして、あんたどうしてそんなとこ行っちゃったのって言う可能性も結構高いです。だから、1回だめだった時にもう1回別の人にも相談してみようっていうところまでは、ぜひ言いたいと思います。

にのみやさん:本当そう思いますね。私も最初被害を打ち明けた時に、うそ言ってるんでしょって言われて、それで閉じこもっちゃった。それが自分のトラウマを深くさせたところがあるんですね。だから、今、苦しんでる人がいるなら、1度じゃなくて、せめて2度、できれば周りに相談してほしい。打ち明けてほしい。諦めずに。あなたを否定する人もいるかもしれないけれども、でも、あなたを待ってる人も必ずいるはずだからと私は思います。1度じゃなくて。

武田:私たちも、これからも伝え続けていきたいと思ってます。本当に今日はありがとうございました。


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