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2019年6月20日(木)

香港 “200万人デモ”の衝撃~進む“中国化” 広がる波紋~

香港 “200万人デモ”の衝撃~進む“中国化” 広がる波紋~

香港から中国本土へ、犯罪容疑者の引き渡しを可能にする「容疑者引き渡し条例」改正案。先週末の反対デモには主催者発表で200万人近くが参加した。市民が訴えるのは中国に取り込まれることへの不安。現地で取材すると、法制度以外にも“中国化”が進む日常が見えてきた。デモをきっかけに浮き彫りになった香港の“中国化”は世界に、日本に、どんな影響をもたらすのか?中国の思惑やアメリカの見解なども交え、深掘りする。

出演者

  • 興梠一郎さん (神田外語大学・教授)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

密着取材で見えた!“中国化”への不安

デモに参加した男性です。
長年、観光業に携わり、香港の街を見続けてきた男性。今、その姿が急速に変貌していると感じています。

観光業に携わる男性
「ここの買い物客の9割以上が中国本土から来ている人たちです。まるで中国の広州にいるような気がします。」

この繁華街で買い物をする客のほとんどは、中国本土からやって来た観光客や、移住者たちだといいます。香港の通貨は香港ドル。しかし、ここ数年、中国の人民元を引き出すことができるATMも登場。

合原:中国のお金が出てきました。

人民元を使える店も増えています。

合原:人民元で使えますか?

店員
「Yes,OK.」

合原:いつから人民元を使えるようにしているんですか?

店員
「うちの店はずっと使えます。中国のお客さんが多いですから。人民元を使える店はとても多いです。」

香港は、中国本土から毎年5万人の移住者を受け入れ続けています。現在、750万の人口のうち、およそ150万人が、この30年あまりで中国本土から来た人たちです。

観光業に携わる男性
「中国本土から不動産物件を買いに来る人が多いです。」

中国からの移住者は、不動産の価格にも大きな影響を及ぼしています。

合原:こちら、不動産情報が載っている新聞なんですけども、中を見てみますと、どれも物件1億円を超えるものばかりなんです。

中国の富裕層が投資目的で高層マンションを次々と購入した結果、この10年余りで不動産価格は急騰。アメリカの大手不動産企業によると、香港の住宅価格は平均1億3,000万円。世界の都市で最も高いと言われています。

観光業に携わる男性
「香港に中国本土の人が多いことが気に入らないとは言っていませんが、私たちの生活は厳しくなっています。彼らに場所を占拠されてしまいました。中国への憎しみや反感は正直強くなっています。」

確実に大きくなっている中国の存在感。そうした中、今年(2019年)4月、香港政府が議会に提出したのが「容疑者引き渡し条例」の改正案でした。現在、香港は中国本土との間で、犯罪人の引き渡し協定を結んでいません。そのため、事件を起こした容疑者が香港に逃亡してきた場合、仮に中国政府が求めても、身柄を引き渡す必要はありません。

しかし、条例が改正されると、香港から中国本土にも身柄の引き渡しが可能になります。

これに猛反発したのが、今回のデモでした。

デモを呼びかけた民主派団体 梁穎敏さん
「多くの市民は香港が中国の町の1つになることを恐れています。香港人を守ってくれる土台が破壊されてなくなってしまいます。」

中国からの圧力は、デモの前から始まっていたと指摘する人がいます。週刊誌の記者をしている、24歳の男性です。

ここ数年、香港の言論の自由が急速に失われていると感じています。

雑誌記者
「習近平が中国の国家主席になった頃からひどくなりました。メディアの言論に対する統制を強めていったのです。記事で書ける内容が制限され、使う言葉も注意しなければなりません。」

男性がそれを強く感じるようになったのは4年前、香港の書店で起きたある問題でした。中国共産党に批判的な本を取り扱った書店の関係者5人が、相次いで行方不明になり、その後、中国当局に拘束されていたことが明らかになったのです。男性の周りでも同じような問題が起きたといいます。中国政府に批判的な記事を書いた記者が、中国本土に行った際に逮捕されたというのです。

雑誌記者
「香港のメディア全体にとって大きなプレッシャーです。政府を批判したら、いつ別件で逮捕されてもおかしくありません。」

合原:言論の自由がなくなることに対して、どう感じますか?

雑誌記者
「とても大きな衝撃です。言論の自由があってこそ香港なのです。」

今回のデモに参加した人たちも、監視の目を気にしながら行動していたといいます。この男性は、当局に行動を把握されることを恐れ、スマートフォンの位置情報をオフに。

さらに、デモに関するやり取りは、セキュリティーが強固だというロシアのSNSを使うようにしています。

デモに参加した男性
「ご存じのように中国のSNSは監視されていると言われています。中国でビジネスをするときは使わなければならないこともあります。でも普段は使いたくありません。」

当初、男性の母親は、危険を伴うデモへの参加に反対していました。しかし、“中国化”が進む中、リスクを背負って行動する息子を後押しする気持ちが日に日に高まっていったといいます。

男性の母親
「いまは息子の行動を支持します。いま声をあげないと、これからチャンスはなくなるから。行動しなければ、次の世代に希望はないわ。」

デモに参加した男性
「自由と安全は保証されるべきです。立ち上がらなければ、すべて失います。どのみち死ぬのなら戦いますよ。それがいまなのです。」

日本に…世界に…広がる“中国化”の波紋

“中国化”が進むことで、香港の金融センターとしての地位が揺るぎかねないという懸念も広がっています。香港は、中国返還後も一国二制度によって自由な経済活動が認められ、世界中のビジネスマンを引き付けてきました。

「香港からシンガポールなどに、オフィスの一部を移転しようという企業がたくさんあると聞いています。」

「このまま香港の“中国化”が進めば、トランプ大統領も、香港は中国と一体化すると考えるようになるでしょう。そうなれば、アメリカと中国の貿易戦争にも影響が出るかもしれません。」

こうした動きに、香港でビジネスを展開する日本人たちも不安を抱いています。35年にわたり香港で暮らす、日本料理店の経営者、吉田寛さんです。

店に来る常連客から、香港の将来を危ぶむ声をよく聞くようになったといいます。

日本料理店 経営 吉田寛さん
「金融関係の人、富裕層の人たちが、ご自分の持っている資産などを移動し始めることは考えられます。実際にいま、移動し始めていると聞いていますし、台湾に移民しようかという人もいるので、大切なお客さまが逃げると、もちろん商売には直接的に非常に大きな影響があります。」

現在、香港には2万5,000人以上の日本人が暮らしています。日本人同士の集まりでも、“中国化”の影響を実感する声が次々と聞かれました。

香港在住の日本人
「地元の学校に行っている子どもがいます。中国大陸からたくさんの人が香港に来て、香港で教育を受けたいということで、進学とか、香港人の子どもがなかなか入りにくくなるという現状があるみたいで。」

日本企業の駐在員
「中国で商社の社員さんが1〜2年くらい拘束されてたみたいな話もあって、私も一駐在員としては、そういうことがもしかしたら起きるのかなとか、そういうことは心配ですけど。」

急速に進む“中国化”への反発が生んだデモ。人々が抱く不安の根源に迫ります。

“中国化”の不安 その根源は?

ゲスト 興梠一郎さん(神田外語大学・教授)

武田:香港の人たちが不安を高めてきた出来事、現代中国に詳しい興梠さんが挙げたのは、こちらです。まず、2014年、行政長官の選挙で、中国共産党に批判的な候補を事実上排除するという決定がなされました。この時、反発した人々による、この「雨傘運動」に発展しました。

その翌年、中国共産党に批判的な本を扱っていた書店の店主らが中国当局に拘束されるという問題が起きました。

さらに去年(2018年)中国本土とを結ぶ高速鉄道の駅で、中国政府の税関や警察が業務に当たるようになったという出来事もありました。

こうして見てみると、“中国化”は着実に進んでいるように見えるんですけれども、香港の人たちが感じている脅威の根源はどういうところにあるんでしょうか?

興梠さん:香港返還の際に、約束されたことが1つずつ切り崩されていっていると。これが、要するに香港を守る壁のようなもので、二制度の壁を保証するものなんですね。中国の中とは違う制度であると。

武田:「香港特別行政区基本法」いわば香港にとっては憲法のようなものなわけですね。

興梠さん:これで見ますと、行政長官選挙というのは、1人1票っていうのを、最終的にやると。最終的にその目標を達成すると。でも、何年待ってもやってくれないということが1つ。あとは言論の自由とか、デモをする権利とかも全部認められているんですね。あとは行政管轄権、司法管轄権、これは香港が独自にある、中国が介入してはいけないということになっているので、これが1つずつ切り崩される事件が相次いで起きているということです。

武田:返還の時に国際社会に約束したことが切り崩されていると。

興梠さん:そういう具体的な事件が起きていて、ダメ押しで、この条例改正があると、もう本当に壁がなくなってしまうと。安全でなくなるということを感じているということですね。

武田:これまでは香港の人たちにとっては、香港の政府が、ある種、壁になってきたわけですよね。

興梠さん:香港の政府が、いわゆる中央政府、中国の政府に抵抗できないということが分かってきたんです。むしろ、一緒になっていることが分かってきたので、今回のデモでも。逮捕を受けて。

武田:今回起きたデモですけれども、人口750万人の香港で200万人の人が参加するという規模にまで達しました。なぜ、これほど激化したんでしょうか?これは、やっぱり今までとはフェーズが変わってきているんですか?

興梠さん:ちょっと政治文化が変わりつつあるというか、政治の二制度がだんだんなくなってきている。今回のデモへの対応は、終わったらすぐに香港政府が「組織的暴動」という言葉を使う。中国側も同じことを言っている。組織的な暴動といっても、じゃあ、どういう組織なのかをはっきり言わない。すぐにそれが分かるんだろうか。あと、「暴動」という言葉ですよね。これがすごく刺激したわけですね。あとは暴力的な対応。これまで香港の警察にはあまり見られなかったことなので。

武田:治安当局が物々しい形で対じしていますけれども、こういうことは今まではなかったんですか?

興梠さん:そうですね。子どもたちが、警察っていうものは、非常にマナーがよくて、こういうことをすると思っていないので、暴動といっても、最初は平和的なデモだったじゃないかと。無理やり抑えつけようとするから、こうなったと。あとは武装していきなり出てくるとか。これがずいぶん刺激している感じですね。

武田:それだけ、中国政府の香港の市民に対する締めつけというのも、やはり強くなってきていると。

興梠さん:要するに「組織的暴動」という言葉自体も、非常に香港の政治文化にそぐわない言葉なので、これは“中国化”の1つのイメージとして捉えられていると思います。

現地取材で見えた市民の不安・反発…

武田:そのデモが行われた香港立法会の前には、取材に当たった合原アナウンサーと若槻支局長がいます。
合原さん、6日間取材してどんなことを感じましたか?

合原:感じたのは、香港市民の強い不安感です。後ろにあります、香港の議会に当たる立法会の入り口の様子です。先ほど、撮影しました。

300人ほどが集まりまして、条例の改正案の完全な撤回などを求めています。200万人が参加したデモから4日経つんですけれども、今も抗議行動がこうして続いていることに、市民の怒りの強さというのを感じます。
若槻支局長、赴任以来、さまざまなデモを取材してきたと思うんですが、今回のデモの特徴というのは何でしょうか?

若槻真知・香港支局長:確かにこれまでの、取材する機会があったデモとは盛り上がり方が全く違っていました。もともと条例改正の話が持ち上がったのは、今年(2019年)2月以降のことです。どんどん反発が広がりまして、市民のふだんの会話にも頻繁にこの問題が話題に上るようになっていました。また今回は、人生初めてデモに参加するといった人たちに加えまして、デモができる最後の機会かもしれないという悲壮な思いを抱えた人たちも多かったように思います。それだけ積み重なった市民の中国への強い不信感と、中国の言いなりになっていると映っていた香港政府への反発が強かったと、私自身も驚きました。

合原:私が印象的だったのは、本当に幅広い世代の人たちが参加をしていたことでした。子どもから若者、高齢者、そして中には生後2か月の赤ちゃんを抱いた家族連れの姿もありました。「今後、香港の自由が狭められるようなことがあったら、子どもを海外に移住させたい」という声もありました。条例の改正案が事実上、廃案に追い込まれましたが、今後もこうした抗議行動というのは続くんでしょうか?

若槻支局長:さまざまな形で続くのではないかと思います。といいますのも、今回のデモはSNSでつながった多くの若者が参加したのも特徴です。5年前の雨傘運動の時のようなカリスマ的なリーダーというのはいませんで、それぞれがその時々で自分たちの将来のために何をすべきなのか、何ができるのかという思いで行動しています。政府トップの謝罪、事実上の廃案といった結果を得ましたけれども、抗議活動が続いているのは、まだ納得できないという人たちがいるからでして、その人たちがまだ行動したいと思う限り、抗議活動は続くと思います。

武田:この香港情勢ですが、アメリカとの貿易摩擦を抱える中国にとって、アキレス腱になっているという指摘があります。

迫る米中首脳会談 アメリカはどう出る?

アメリカ トランプ大統領
「中国などは長きにわたって、不公平な貿易取引をしてきた。」

貿易交渉をはじめ、中国への強硬姿勢を続けるトランプ大統領。来週開かれるG20大阪サミットに合わせて、習近平国家主席との首脳会談に臨みます。
トランプ政権で国務省の顧問を務めていた、クリスチャン・ウィトン氏です。

香港を巡る問題を取り上げることで、トランプ大統領は交渉を有利に進めることができるとみています。

アメリカ国務省 元顧問 クリスチャン・ウィトン氏
「トランプ大統領がG20で香港の問題を取り上げれば、習主席の立場が悪く見え、圧力もかけられます。良い交渉戦術となりえます。」

香港政府による条例の改正案について、アメリカ議会では、中国の人権問題を調べる委員会が香港の民主派の活動家を招き、調査してきました。

香港の活動家
「香港では、もはや人権と自由が守られていない。」

アメリカ マクガバン下院議員
「この人権問題は中国との貿易交渉の中で大きく取り上げられるべきです。」

迫る米中首脳会談 習主席はどう出る?

トランプ大統領との交渉に臨む、中国の習近平国家主席。近年、香港の統治について、強硬路線を示してきました。

中国 習近平国家主席
「憲法と基本法によって与えられた中央の香港・マカオに対する全面的な管理権をしっかりと握りしめる。」

去年の全人代・全国人民代表大会では、活動報告から「香港人の香港人による統治」という従来の文言を削除。中国が香港政府に対し、影響力を強めようとしている姿勢が浮き彫りになっています。
香港政府と中国政府との関係を長年にわたって分析してきた香港の政治評論家の陶傑さんです。

条例の改正案を巡る香港政府と議会の対応には、中国の存在が重くのしかかっていると指摘します。

香港 政治評論家 陶傑氏
「香港の新中派議員は皆、自分の意思を持っておらず、中国の意向どおりに動いているだけなのです。香港政府は中国の利益も国際情勢も配慮しなければなりません。香港行政の核心は中国が握っているということが露呈してしまったのです。」

長年、香港で研究を続けてきた、倉田徹教授です。

昨日、デモの現場を訪れていました。今回、デモによって、条例の改正案が事実上の廃案に追い込まれたことは、習近平国家主席にとってダメージになったと見ています。

立教大学 法学部 倉田徹教授
「比較的強硬なやり方は、どちらかというと北京の認識では成功をおさめてきたと考えられていたと思います。今回は強硬路線が明確な失敗をした初めてのケースということになると思います。したがって、これは中国政府にとっては、非常に香港政策を立て直さなければならない大きな問題になっていると思います。」

香港を巡り、痛手を負った中国政府。アメリカとの対立が深まる中でも、強気の姿勢を崩そうとはしていません。

中国 王毅外相
「一部の西側勢力がこの問題を利用し、香港で騒ぎをおこし対立をあおっている。香港は中国の内政問題であり、誰の干渉も認めない。」

来週の首脳会談どうなるのでしょうか。

迫る米中首脳会談 アメリカの戦略は

武田:ワシントンの油井支局長に聞きたいと思います。トランプ大統領はどう出るんでしょうか?

油井秀樹支局長(ワシントン支局):アメリカとしては、香港に言論の自由などを認めた「一国二制度」という約束を守るよう、中国にくぎを刺す見通しです。アメリカは中国との貿易交渉の中でも、中国が数々の約束を破ってきたと批判しています。知的財産権の保護や、技術の強制移転の防止などに取り組むと約束しながら、実際は実行してこなかったという不信感が強いんです。今回の香港の問題も、中国が約束を守っていない一例として受け止めています。アメリカにとって貿易交渉の最大の課題は、中国に約束を守らせるための仕組みをどう作るかです。このため首脳会談では、香港問題を取り上げることで、仕組み作りに向けて中国への圧力を強めるものと見られます。アメリカは、自らが中心となって築いてきた、自由や民主主義の価値観に基づく国際的なルールや秩序を、中国が今、脅かしつつあると見ています。今回の香港の問題は、決して香港だけの問題ではない。世界各地で増す中国の影響力の一環として、警戒を強めています。

迫る米中首脳会談 習主席の戦略は

武田:そして中国の出方ですが、香港問題を議題にしようとしているアメリカに対して、興梠さんはこのように見ています。習近平国家主席は「北朝鮮問題をカードにかわそうとしている」ということなんですが、これはどういうことでしょうか?

興梠さん:国際会議の舞台で、この問題が大々的に議論されることは絶対に避けたい。中国は一貫して、香港問題の国際化を嫌がっているわけですね。ですから、より議論しやすい問題として、北朝鮮問題。本質的に何か解決できるわけではないけれども、会談をするにあたって、双方がある程度議論しやすいものを持ってきた。そちらに、世界中のメディアが注目することによって、香港の問題が注目されなくなる。ニュースの扱いも変わってくる。ですから、このG20に行くにあたって、気持ちよく行けていると。そこで恥をかきたくないというのが、やはりあったんじゃないかと。

武田:そういうことで、急きょ、北朝鮮を訪問すると。

興梠さん:唐突でしたよね。

武田:そこにはこういった思惑もあるのではないかということなんですね。としますと、この香港の“中国化”の流れは今後どうなっていくのかということですが、興梠さんは「習主席は絶対に緩めない」といいます。その背景には、習主席の「“1つの”強い中国を目指す」という思いがあるということなんですけれども、これはどういうことになりますか?

興梠さん:これは、国家安全というものと国家の統一というものを同じ位置づけで、チベット、ウイグル、台湾、香港が今、非常に大きな問題になってきている。これを放っておくとバラバラになってしまうという意識。あとは、香港が民主化の震源地になって、ほかの中国の地域がこれをマネしてしまう。デモをやれば、中央政府は折れるんだということを、言うことを聞くんだということが分かってしまうと、まずいわけですね。だから、報道も非常に厳しく、国民に知らせないようにと。これは国際舞台でまた議論されると、余計騒ぎになります。習近平政権になってから、「全面的管轄権」という言葉を使うようになった。香港に対して、全面的に管轄するんだと。これは高度な自治ということと矛盾するわけですね。

武田:あらゆることを管轄すると。

興梠さん:政治的にある意味では、一制度に向けて動いていると。“中国化”と言ってもいい。これはやはり、一番大きな影響を与えるのは、台湾で、台湾の総統選挙がありますから、台湾では今、これが大きく扱われていて、逆に言うと、台湾問題に対して不利に動く習近平政権にとっては、そういうダメージがあるわけですね。ですから、この問題を早くメディアから消し去りたいという思惑がやっぱりかなり強いと思います。

武田:冒頭のVTRでは、香港がアジアの金融センターとしての位置を、このままでは失うんじゃないかという懸念を持っている人たちも出てきましたけれども、そういうリスクがあっても絶対に緩めないんでしょうか?

興梠さん:習近平政権になってから、あらゆる安全の前に「政治安全」という言葉を使っているんですね。

武田:「経済などよりも先に」ということですね。

興梠さん:国家安全法の中で核心的利益っていうものがあるんですよ、領土問題とか。それの一番前に政権維持というものをトップに持ってきています。ですから、こういった民主化の動きは、一党独裁体制に対する大きな脅威ですから、これは何としてでも封じ込めなければいけない。国家安全の問題として捉えていますから、そこを簡単に妥協して緩めてしまうと、あっという間に広がってしまうという危機意識は強いですね。

武田:やっぱり中国本土と、香港の経済的なバランスも変わってきているということも背景にありますかね?

興梠さん:ただ気が付いていないのは、GDPの規模だけで比べても、香港の価値が分かっていない。そこは大きな誤解で、香港での金融センターって、ソフトとして、自由な金融センターと、それを失ってしまうと。もう外資が出ていく、頭脳も出ていく。それに気が付かないとまずいということです。

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