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2019年6月5日(水)

「マンモス復活」狂騒曲の舞台裏

「マンモス復活」狂騒曲の舞台裏

「1万年前に絶滅したはずのマンモスが現代によみがえる。」そんな夢のような話がいま、現実味を帯びている。今年3月、近畿大学が、永久凍土で見つかったマンモスの死骸から“まだ生きている細胞の核”を発見。「マンモス復活」研究の大きな進展は世界に衝撃を与えた。こうしたプロジェクトは、アメリカ・ロシア・韓国など世界中で進んでいる。一方、マンモス復活の鍵を握る“生物を再生する技術”を使って、ペットをよみがえらせるというビジネスも登場。1千万円という費用にもかかわらず、日本を含む世界から注文が相次いでいる。「死んだ愛犬に生き返ってほしい。」深い愛情がもたらす、生命操作の代償とは?過熱するマンモス復活ブームを入口に、先端科学の最前線を取材する。

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)

マンモスが復活する!? 驚きの舞台裏

ブームの震源は、極寒の地、ロシア連邦サハ共和国。北極海に面し、冬の気温はマイナス30度以下。

雪がとける短い夏の間、この地を目指して多くのハンターがやって来ます。お目当ては、永久凍土の下に眠るマンモスの死骸。凍った土の中から、牙や体を掘り起こしていきます。突然のマンモスブームに沸くシベリア。

「すごいぞ、これは!」

その背景には、意外な理由が…。

マンモス博物館 セルゲイ・ヒョードロフ館長
「第一の原因は地球温暖化で、たくさんのマンモスが見つかるようになりました。第二の理由は中国市場でマンモスがとても高額になっていることがあります。」

中国・北京。発掘されたマンモスが高値で取り引きされる場所がありました。「マンモスの牙」と書かれた店。

店内には、牙を用いた彫刻品が大量に売られています。

貴重な牙には5,000万円の値が。贈答品として人気が高まっているといいます。

一方、牙以外は、マンモス復活を目指す各国の研究者が買い取ります。発掘ブームによって増える保存状態のいいマンモスの死骸が、研究を加速させているのです。

高山:マンモス復活にかけるキーパーソンは紀伊半島にいました。

和歌山県の近畿大学。25年前からマンモスの研究を続けています。

高山:マンモスを復活させるために、どんな研究が行われているんですか?

近畿大学 先端技術総合研究所 加藤博己教授
「今までやってきた研究は基本的に、マンモスを体細胞クローンの技術を使って復活させる研究をしてきました。」

ワシが説明するぞう。体細胞クローンには生きたゾウが必要なんじゃ。まず、ゾウの卵子の核とマンモスのを入れ替えるんだぞう。

入れ替えた卵子に刺激を与え、分裂を始めたところで、母親となるゾウの体の中に戻すんじゃ。うまくいけば、ゾウからマンモスが生まれるというのが作戦なのだぞう。

近畿大学がクローン技術に取り組み出したのは1997年。しかし、なかなか状態のよい細胞が見つからず、復活の可能性は見えませんでした。そこに転機が訪れます。ロシアで、極めて状態のいいマンモスが見つかったのです。「YUKA」と名付けられた、このマンモス。近畿大学の研究チームも、この細胞を入手しました。

「こちらがマンモスの筋肉組織になります。赤い部分がだいぶ残っている形。」

高山:これまで見つかった物の中でも史上最高というか。

「すごい驚きました。ものが全く違う。これだったら(より進んだ研究が)できるかもしれない。」

研究チームは、まずマンモスの細胞核をマウスの卵子に移植しました。すると、細胞が分裂するための準備「紡すい体」が出来始めたのです。これは、マンモスの核が活動する力を残していることを意味します。

近畿大学 生物理工学部 山縣一夫准教授
「夜中に動画を見たときに『うおぉぉッ!!』って。世界で誰も今までやったことのない実験。大興奮です。」

しかし、本来なら卵子は分裂を始めるはずなのに、実験を重ねても一向に進みませんでした。詳しく調べてみると、核の中のDNAが大きく壊れていました。これでは、マンモスのクローンを作ることはできません。

近畿大学 生物理工学部 山縣一夫准教授
「なかなかクローンの方法による復活というのは難しい。」

マンモスの復活には、クローン技術以外のアプローチが必要になる。そこで研究チームは、ある方法に着目しました。

近畿大学 先端技術総合研究所 加藤博己教授
「今はある程度のところでDNAの合成ができます。合成のいろいろな技術を使って、マンモスの細胞を合成することができないか。」

マンモスを復活させる新技術とはどんなものか。その最先端を走るのが、アメリカのハーバード大学。

取材班
「ここでは、どんな研究をやっているか教えてくれますか?」

「新しいがんのワクチンをつくろうとしている人がいたり、マンモスを復活させようとしている人たちもいる。クレイジーな研究室よ。」

研究室のボス、ジョージ・チャーチ博士です。

ハーバード大学医学大学院 ジョージ・チャーチ教授
「バラバラになっているマンモスの遺伝子をパソコンの上で組み立て、ゾウの細胞に移植するんだ。すると、マンモスの特徴を持った生物になるんだ。」

チャーチ博士が使っているのは「ゲノム編集」という技術じゃ。ゲノム編集は、遺伝子の狙ったところを切ったり置き換えることができる技術。まず、壊れてバラバラになったマンモスのDNAをコンピューター上で組み立て直すんだぞう。そしたら、ゾウのDNAと見比べるんじゃ。すると、牙や耳など、違うところがたくさん見つかるじゃろう?そしたら、ゲノム編集の出番じゃ。マンモスを手本に、ゾウのDNAを書き換えていくんだぞう。

牙は長く、耳は小さく体の毛は赤くなる。ほれ、だんだんマンモスに見えてきたじゃろ?こうしてDNAを書き換えると、マンモスの特徴を持った生き物が生まれるんだぞう。

ハーバード大学医学大学院 ジョージ・チャーチ教授
「生まれてくるゾウは、フサフサの毛が生え、極寒の地でも活動できる血液、小さい耳、マンモスと多くの共通点を持った生き物になる。」

ゲノム編集によって現実味を帯びてきた、マンモスの復活。チャーチ博士の自信のほどは?

取材班
「本当にそんなことができるんですか?」

ハーバード大学医学大学院 ジョージ・チャーチ教授
「DNAをマンモスに近づけていくことは理論的にも技術的にも、できない理由はない。遅くとも5年から10年以内には、マンモスを見られるだろう。」

高山:こちらが、実寸大のマンモスになりマンモス。おっとっと、すごい迫力。やめて、踏まないで。

体長が3.5メートルほど。実際に復活したら、相当な迫力を体感できるかもしれない。

武田:これが本当に、今、現実に近づいているんですか?

高山:あと数年というところまで来ているマンモス復活の道を振り返ってみたいと思います。まず、始まりは「顕微受精」。これは何かというと、マンモスの死骸からフレッシュな精子と卵子を何とかして見つけ出して、人工的に受精をさせようというチャレンジだったんですが、なかなかフレッシュな精子が見つからずに失敗に終わってしまうんです。次のステージが、近畿大学が長年真剣に取り組んできた体細胞クローンによる復活です。そして最新は、近年注目されている「ゲノム編集」。マンモスと同じ遺伝子を人工的に作ってしまおうという作戦です。

武田:これが、今、アメリカで行われている作戦なんですね。

高山:あと数年と。ここまで来たということなんです。

ゲスト 宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授)
ゲスト 石井光太さん(作家)

武田:私もマンモスを見てみたいとは思うんですけれども、一方で、1万年前に絶滅したものを、このように復活させていいんだろうかという思いもします。この取り組みには、どういう意義があるんでしょう?

宮田さん:チャーチ教授たちの計画は、ツンドラにマンモスがかっ歩する、こういった生態系を構築し、ジュラシックパークならぬ、氷河期パークというものを作ろうとする。この構想においては、マンモス復活はあくまでも手段です。氷河期パークというのが実現するかはともかく、彼らの説明によると、寒冷地でも生存可能な草食動物が復活すれば、土壌が再生され、ツンドラを草原に戻すことができるんじゃないかと。ここからさらに飛躍するんですが、そうした大規模な草原で、地球温暖化から救えというのが彼らの構想です。

武田:壮大な構想があるわけですね。実現できるんでしょうか?

宮田さん:一方で、彼ら、ハーバード大学の狙いは、こうした構想の中で技術を磨くということにあります。ゲノム編集だったり、iPS細胞、こういった最先端技術を用いて、このマンモス再生に挑戦する前から、彼らは老化防止とか、移植用臓器の培養というものを進めていたんですね。こういった氷河期パークという大義があれば、最先端技術を磨く場を作れるということになるのかなと思います。

武田:マンモス復活プロジェクトを後押ししているのが、牙の高騰というところもおもしろいなと思ったんですが、石井さんはどう思われますか?

石井さん:これは背景を見なきゃいけないと思うんですけれど、もともとは中国がアフリカで象牙の密輸入というのをたくさんやっていたんですね。それによって、印鑑だとか細工目的で、アフリカゾウがあと1世代で絶滅してしまうぐらいの状況に追い詰められて、しかもその資金が、一部、地元のアフリカのテロ組織に流れていたりした。中国はそういったことに危惧を抱いて規制をかけたんです。そうしたら、そこの人たちが今度は象牙ではなくて、マンモスの牙にいこうとロシアに流れていった。それが今、ゴールドラッシュのような形で、本当にたくさんの人たちが、貧しい人たちも含めて行って、とにかくマンモスの牙を取り続けているという状況が起きているんですね。やはり今、その中で密輸入の事件が起きたりもしています。やはり今、我々がマンモスブームというふうに言いますけれども、実はそれを支えているのが、そういった象牙の系譜から来ているマンモスの牙のブームなんだということは、やっぱり忘れちゃいけないのかなというふうに思っています。

武田:ゾウのDNAを書き換えた動物は、マンモスと言えるんですか?

宮田さん:クローンではなくて、ゲノム編集でゾウから作られるマンモスのような生き物は、やっぱりマンモスではないんです。私の友人の生物学者に言わせれば、「これはカニ味に似せたカニカマを食べながらカニについて語るようなものだ」と。「マンモスの生態に迫ることはできないだろう」と。ただ一方で、先ほどお話したように、チャーチ教授たちの狙いは氷河期パークです。寒冷地で生きることができるようなマンモスライクな生物を再生することができれば、彼らは成功だと考えているんですね。

武田:マンモスもどきでもいいということなんですね。

宮田さん:その中で磨いているゲノム編集という技術は、今、医学でも非常に応用が注目されていて、例えば遺伝子が原因となる糖尿病の治療だったり、あるいは遺伝子変異によって抗がん剤が効かなくなったがん患者さんの治療、こういったことへの挑戦も続いているという注目すべき技術だと思います。

武田:マンモス復活の実現には、あと少し時間がかかりそうですけれども、生物の再生は、すでに身近な動物で実用化されているんです。

マンモス復活? ペット“再生”ビジネスも

韓国に、クローン技術でマンモス復活に取り組む研究所があります。ここでは、研究と同時に、犬のクローンを作ることをビジネスにしています。

「この子犬たちはカナダからの依頼です。」
「ドバイからの依頼です。」

顧客の依頼でペットの犬から作られたクローン犬。世界中から注文が殺到しています。

「1匹の誕生を希望していても、2匹生まれることがあります。みんなを引き取るのか1匹だけなのか、お客さんに選択させます。」

この日も新たな命が。出産は万全を期して帝王切開で行います。

犬の場合、元となるペットの核を、別の犬の卵子に移植すると、2か月でクローン犬が誕生します。費用は1件当たり、日本円でおよそ1,000万円。

「お客さんは誕生の連絡を待っています。この子を見た瞬間、とても喜ぶでしょう。」

元のペットの皮膚の細胞は、液体窒素の中で保存。クローンは何度でも作ることができるといいます。

スアム生命科学研究所 ワン・ジェウン研究員
「オリジナルとは、99.99%同じです。みんな元気に生きていると聞いていますよ。」

これまでに作ったペットのクローンは1,400匹以上。依頼者の多くは先進国の富裕層です。日本からの依頼も…。

一体、どんな人がペットのクローンを求めるのでしょうか。アメリカ・ノースカロライナの高級住宅街。去年(2018年)ペットのクローンを依頼した、会社経営者のブラーディックさん夫婦です。


「これがオリジナルのシナボンです。生後9か月くらいです。」

夫婦には、20年近く共に暮らした猫がいました。


「まるで私たちの子どものようでした。シナボンが15歳ごろから、いつまで生きられるのか心配でした。そして18歳になったとき、本当にクローンをつくりたいと思いました。シナボンなしの人生は考えられませんでした。」

死んだ猫と入れ代わるように生まれた、クローンの猫。付けた名前は、元の猫と同じシナボンでした。

クローンのシナボンが生まれて半年。ある行動に驚かされました。


「オリジナルのシナボンの写真です。いつもイスの上に座っていました。」


「その習慣を新しいシナボンも、すぐに身につけたのです。」

取材班
「元のシナボンがまだ生きているように感じますか?」


「そうね、私にとっては。」


「双子のようです。」


「生まれ変わったような感じもします。」

取材班
「またクローンをつくりますか?」


「たぶんね。きっとそうするわ。」


「しない理由はないね。」


「まるで永遠の命を与えられたように。」

ミーシャ・カウフマンさん
「オリジナルはこの子。彼がいちばん大きいです。」

アメリカ・メリーランド。スポーツジムで働くミーシャさんは、チワワのブルースと、そのクローン4匹を飼っています。

2年前、ミーシャさんは、ブルースのほかにもう1匹犬を飼いたくなりました。その時、出会ったのが、クローン技術です。

ミーシャ・カウフマンさん
「ほかに犬を飼うならブルースのような子が欲しいと思いました。だからクローンのことを知ったとき、『これしかないわ!』と思いました。」

しかし、実際に生まれたのは5匹。1匹は養子に出し、4匹を飼うことにしました。

ミーシャ・カウフマンさん
「4匹はオリジナルと似ているところもあるけど、怒りっぽかったり甘えん坊だったり、性格はちょっとずつ違うわ。」

ミーシャさんにとって、オリジナルのブルースは今でも特別な存在です。

ミーシャ・カウフマンさん
「私の中ではやっぱりブルースがいちばん。たとえクローンでも彼の代わりにはならない。でもほかの子たちもかわいいし、彼らとの毎日は本当に楽しい。明るいし笑わせてくれる。本当にすばらしい子たちです。」

武田:例えば食料を増産するためとか、医学の役に立つためにというふうに、これまで人類は、さまざまな形で生命に手を加えてきたわけですけれども、ペットを愛するがゆえに命を操作する。どこまで許されるのか、ちょっと考えてしまいますけれども、どうですか?

石井さん:失った命を戻したいとか、純粋な気持ちだと思うんですよね、本人たちは。ただ、それにはいろんな裏がある部分もあると思うんです。例えば、今のVTRであれば、クローンを生むお母さんがいるわけですよね。じゃあ、このお母さん犬猫の生きる権利はどうなのか。あるいは双子、三つ子が生まれた時に、その養子に出された犬猫はどうなっていくのかという問題があります。やはり、それを全部無視した上で彼らのビジネスは成り立ってしまっているんですね。逆に言うと、そういったビジネスがあると、それを悪用する人もいると思うんです。クローンの場合、人間には適用されませんけれども、例えば私が取材した中ですと、代理母出産の事件があったんです。5年ほど前に、20代の日本人男性が、タイで分かっているだけで19人の子どもを代理母出産でつくった。それはすごく社会問題、国際問題になったことがあったんです。やはり代理母が悪いわけじゃないんです。だけれども、あることによって、それが悪い人、一部の人たちに悪用されてしまうというケースがあると思うんです。会社、企業というのは、ニーズがあるからビジネスを作るというふうにいうんですけれども、実はよくよく考えなきゃいけないのは、きちんとルール、倫理を作った上でビジネスをやるんだったらいいと思うんですけれど、今、それが逆になってしまっている。倫理とかルールを作らない状態の中で、ビジネスだけを先に走らせてしまっているんですね。そこが一番の問題の根源なのかなというふうには思っています。

高山:動機には、純粋なペット愛だけではなくて、クローンを作るこんな理由、ケースというのもありました。

まずは、アメリカ・テキサスにある、きゅう舎です。こちらには、競走馬、サラブレッドのクローンがいるんです。

オリジナルは、国内の大会で何度も優勝したことがある1億円以上を稼いだ実績のある名馬なんですが、去勢していたために繁殖ができず、まずクローンを作って、それを種馬として子どもを作ることにしたんです。これまでに生まれた子どもというのは、17頭。今後レースで活躍することが期待されているんですね。
さらにこちらは、中国で作られた犬のクローンなんですが、オリジナルは優秀な警察犬です。クローンを使えば、効率的に能力の高い警察犬を生み出すことができると、中国政府の肝いりで力を入れているんですね。

高山:こうした能力や才能を引き継ぐためにクローンで子どもを増やしていくという実例がいくつもあるんですけれども、ただ、どんな立派な理由があっても、人が勝手に命を操っていいのかというふうに警鐘を鳴らす専門家もいるんです。

コロンビア大学 生命倫理学 ロバート・クリッツマン教授
「クローンをつくる人に理解してほしいのは、その背後に犠牲となる動物がいるということです。例えば1匹の健康な犬をつくるために4匹の犬を産む必要があります。そのうち2、3匹は奇形だったり、死んでしまう犬もいます(という研究も)。動物たちの命も尊重すべきです。犬が欲しいという人間の欲望のために、動物にひどい仕打ちをし、悲惨な目にあわせることが許されるとは思いません。」

武田:この方の言う通りだとすると、人間が望む命を生み出すために、ほかの命を犠牲にする、これってある種の生命の選択ですよね。宮田さんはどう考えますか?

宮田さん:先ほどのクリッツマン教授の指摘の通り、クローンペットには母子双方の死産、あるいは遺伝子異常、リスクというのが相当程度あることが課題として残っています。1匹のクローンペットの背景には大きな犠牲があるんですよね。このような課題をはらんだ技術が研究としての規制、枠を外れて、ビジネスとして世に出されると、これは先ほど石井さんがおっしゃった通りなんですが、愛着とか有能さとか、こういったさまざまなニーズにのまれて、拡大をコントロールすることができなくなってしまうんですね。技術を開発するということと、社会の中でどういうふうに使うかと、これは分けて考える必要があるかなと考えています。

武田:マンモス復活って確かにロマンを感じますけれども、議論が十分でないまま技術が進んでいってしまう現状を、少し踏みとどまって考えていかなければいけないですよね。

石井さん:本当にそう思います。やはり科学技術には矛盾もあると思うんですね。ロマンがある裏で、例えば絶滅したマンモスをよみがえらせるために、今、絶滅危惧種のアフリカゾウを危険にさらすとか、あるいは本当に死んだ猫犬を再生させるために、今、生きている猫や犬を危険に追い詰めてしまう。そういった矛盾をはらんでしまうものだと思うんです。ロマンはいいんですけれど、その裏にあるものってなかなか見えてこないですし、議論されないと思うんですね。やはりそこの部分というのは、メディアがどんどん議論する機会を与えなきゃいけない。こういった番組の中で、そのことを見せる裏で、闇の部分を見せて、きちんと議論していく。これが必要なんじゃないのかなというふうに思っています。

武田:宮田さんはいかがでしょう?

宮田さん:今日、科学技術のメリット・デメリットの話をしてきましたが、民主主義社会において、テクノロジーを軸に大きな物事を成し遂げようとする時には、人々、社会の支持が必須になります。例としては、宇宙開発におけるアポロ計画というものがあるんですが、まさにチャーチ教授の掲げるマンモス再生氷河期パークというのは、ここからが正念場になると思います。科学技術には、それぞれ強み、弱みがあるので、重要なのは、これら技術を用いて、我々がどのような社会を目指すかということです。現在のような転換期においては、一部の科学者や政治家だけではなくて、広く社会のメンバーが持ち寄って、ビジョンを考えていくことが必要になるのかなというふうに思います。

武田:少し前まで夢物語と考えていたようなことが、まさに現実として迫ってきているので、これは議論を急がないといけないですよね。