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2019年4月24日(水)

ファンファーストで売り上げ10倍! スポーツに学ぶ最新戦略

ファンファーストで売り上げ10倍! スポーツに学ぶ最新戦略

人口減少時代でも急成長を遂げるスポーツビジネスの秘密とは。パ・リーグが観客動員数の過去最高を更新、Bリーグでは3年で売り上げが10倍に。躍進の原動力は会場に足を運ぶコアファンを大切にしてリピート率を高める戦略だ。さらに、放映権ビジネスの主役がドメスティックなテレビ局からグローバルなネット企業に転換する流れも巧みに取り込んでいる。Jリーグはインターネットメディアに放映権を高額で販売。潤沢な分配金でアジア各国のスター選手を獲得、その母国ではファンが中継を楽しむ時代に。この新たなビジネスモデルの可能性を探る。

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)
  • 平田正俊さん (パフォーム インベストメント ジャパン)
  • 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)

ファンファースト!売り上げ10倍の新戦略

武田:広く万人受けをねらうのではなく、熱烈なコアファンを最優先する「ファンファースト戦略」。
実はファンファースト戦略は、さまざまな分野で注目を集めています。自動車メーカーではファンミーティングに集まった2,000人のコアファンと、核となるコンセプトを決めて、軽快な走りに特化したスポーツカーを生み出しました。そしてこちらの菓子メーカーでは、1年をかけて、コアファンと味やパッケージまで開発しました。

商品の価値を深く理解するお得意さんの意見から、より多くの人に受け入れられる商品が生まれ、業績も上向くというんです。このファンファースト戦略、今、取り組みが進んでいるのが、スポーツビジネスです。

コアファンでビジネスをどう成長?

バスケBリーグ・千葉ジェッツの本拠地。リーグナンバー1の売り上げと観客動員数を誇ります。

高山
「まだ試合まで3時間近くあるんですけど、けっこう人でにぎわっていますよ。すごい。」

会場を埋める熱烈なファンの多くは、女性や若い人たちです。チームには、日本代表の司令塔、富樫勇樹選手が所属。昨シーズン準優勝の強豪です。
コアファンを引き付けるのは、強さかと思いきや…

観客
「わたし、バスケ全然、ルールとかも知らないんですけど、一緒に盛り上がれるところ(が好き)。」

「試合もおもしろいんですけど、試合以外のエンターテインメントもおもしろい。」

試合以外の魅力とは何か?実際に体感してみました。
試合開始1時間前。始まったのは、照明や音響を駆使したオープニングセレモニー。多いときは演出に1,000万円をかけるといいます。

高山
「なんか楽しいんですけど、バスケを見にきた気分を忘れちゃいますね。」

そして、いよいよ試合開始。まるでライブ会場のような一体感です。
プレーが止まると、すかさずチアリーダーがパフォーマンス。

高山
「さきほど売店で買った、このぴかぴか光る…。見てください、すごい!」


手に着けたライトは、演出に合わせて点滅。同じ地域にある、ディズニーランドにも負けない体験を目指しています。

高山
「息つく暇が無い。」

こうした演出に魅力を感じ、集まってくるファンの人々。その内訳を見てみると、8割がリピーター。3割以上が、年6回以上訪れる熱烈なコアファンなんです。

コアファンが繰り返し訪れたくなる戦略とは

コアファンが繰り返し訪れたくなる戦略は、ほかにも。

千葉ジェッツ社長の島田慎二さんです。かつては旅行会社を経営するなど、ビジネスの世界で生きてきました。島田社長が最も重要視しているのが、コアファンとの対話です。

毎年、抽せんで選ばれた15人と飲み会を開催するなど、ファンがどんなことを求めているのかを聞き、細やかなサービスを実現してきました。
例えば、「小さな子どもがいても観戦を楽しみたい」というファンの声を受けた、託児所。

トイレには、綿棒などのアメニティグッズをそろえました。
コアファンの要望に徹底して応え、居心地のよい空間の実現に全力を注いでいます。

観客
「社長、大好き。」

「島田社長!」

高山
「名前も知ってる!」

観客
「困っていることがあったら聞いて、改善してくれるので。それくらい距離も近い。」

さらに、コアファンを頻繁に呼び込むために作ったものの一つが、ポイント制度。会場でしかもらえません。

1回来場すると30ポイント。会場でグッズや食べ物を購入すると、100円ごとに1ポイントたまり…。憧れの選手と並んで写真撮影ができるなど、さまざまな特典と交換できます。

観客
「どうしても今日撮りたかったので、がんばっていろいろ買って。」

高山
「買い物ポイントで?」

観客
「買い物ポイントと、いろいろ食べました。」

千葉ジェッツ 社長 島田慎二さん
「ちゃんと経営して、ちゃんとサービスできる状況にして、そのクオリティを磨いていくことが、結局ファンを増やしていくことにつながる唯一無二の本質。すべての源泉はファンの力だと思っています。」

頻繁に訪れるコアファンは、新たなコアファンを育てます。

観客
「友達が『観戦行かない?』って誘ってくれて、ドはまりしました。ほぼ毎回。」

「一緒です。一緒の友達から誘ってもらって。」

こうした動きを支えているのが、SNSです。コアファンたちが、みずからの感動体験を発信。友人の口コミを重視する人たちを引き付けています。

千葉ジェッツ 社長 島田慎二さん
「ディズニーランドや劇団四季でもそうですし、やはり何度でも見たいと思わなければ成り立たない。いわゆるロングランというやつです。」

コアファンを大事にする新たなビジネスモデル。どう思いますか?

新たなビジネス どう思う?

ゲスト宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授)
ゲスト石井光太さん(作家)

武田:社長がファンと飲みに行く、そこまでやるかと思うんですけれども。スペインのFCバルセロナのコアファンでもある宮田さん、ファンを大事にするって、基本の「き」ですよね。何が新しいんでしょうか?

宮田さん:これはスポーツだけではなくて、映画にも言えます。例えば今まで、ファンよりも、有名な監督やプロデューサー、クリエーター主体のものづくりをしてきた。SNS、インターネットもマーケティングには使うけれども、(彼らは)天才だし、数十人、数百人が人生をかけて作っているものだから、これがいいに違いないんだと。こういうものづくりが、今まさに「ネットフリックス」が登場したことによって、データを使ってファン、ユーザーの顔を見て、例えばニューヨークにやって来たマイノリティー、この人を主人公にしてものづくりをする。ただ、これが一定の水準以上にいくと、全世界でも共有できる。そしてアカデミー賞を取るというところにも至った、このファンとの連動によるものづくりというところは、まさに新しいものかなと思います。

高山:ファンからも、いろんな世界が開けていくということで、実はファンファーストで経営がV字回復したといえば、プロ野球の横浜DeNAベイスターズなんですが、元球団社長の池田純さんによると、「ファンファーストとは、テレビの放映権料に頼らず、ビジネスとして自立するために必要。勝っても負けても客を満足させ、利益が上がることを目指す」。

具体的にベイスターズはどうだったのかというと、年間の観客動員数と、地上波のテレビの放送の回数なのですが、実はテレビの放送というのは、2004年ごろから減っていくんですね。連動するように、訪れるお客さんも減っていきました。そこでファンファースト、スタジアムでイニング間にイベントを開いたり、あと限定のユニフォームを配ったり。そういうことをコツコツやって、このように右肩上がりで、観客動員だけではなくて、ファンクラブも7年で14.4倍、劇的に伸びていったんですね。

収入のバランスはどんなふうに変わったのかというイメージです。放映権料が減った分、チケット、グッズなどファンからの収入で支える構造に変えていったわけですね。

武田:私たちも「クローズアップ現代+」を今までご覧になったことがない方にも見ていただきたいと切に願っているんですけれども、石井さんはどうですか?コアファンを意識して書くのか、今まで読んだことがない方に向けて、読んでほしいと思っているのか、どちらですか?

石井さん:僕はまず、ビジネスの在り方として、きちんとビジネスを成り立たせるというのはすばらしいことだと思うんですね。ただ一方で、コアファンだけとか、ファンクラブの人だけというのは、僕はうれしくない。例えば本当に僕は文学が好きで、本当に感動してもらいたくて、図書館でいいから読んでもらいたくて、そこに一番の価値を置いて一生懸命書いているんですね。その中で、もし例えば、アマゾンプライム会員限定とか、そうなるとやっぱり、正直な話うれしくないんですね。
プレーヤーというのは、無限の可能性の中で一生懸命頑張っているもの。運営側には、そこも共感してもらいたいなと思うし、やはり限定というのは、あんまりしてもらいたくないなというのが、たぶん正直な気持ちだと思います。

武田:ビジネス的にコアファンのほうが得ですよと言われたら、ちょっと心が揺らいだりしませんか?

石井さん:もちろん、最低限の分はあると思います。最低限成り立たせるという意味では。ただ、やはり僕もそうですし、たぶん、やってる人もそうだと思うんですけれども、どこに一番、価値観を置いているかというと、たぶんビジネスというよりも、やっぱり必死になってやるというところだと思うんですよね。

高山:経営を支えるファンからの収入が集まっているんですけれども、その重要性を改めて示すニュースが先日、飛び込んできました。

ファンファースト! 売り上げ10倍の新戦略

ライジングゼファーフクオカ。資金不足を理由に、B1リーグから降格しました。

ライジングゼファーフクオカ 代表取締役 神田康範さん
「申し訳ありませんでした。」

一体何が問題だったのか、試合会場を訪ねました。

高山
「試合開始まであと45分くらいなんですけども、けっこう空席が多いですね。」

去年(2018年)、社長に就任した神田康範さんです。
この1年、子どもをターゲットにコアファンを獲得しようと手を尽くしてきましたが、平均観客動員数は昨シーズンより伸びたものの、リーグ平均をまだ大きく下回っています。

一方、有力選手を集めるため、支出における人件費の割合は55%と、リーグ平均を大きく上回っています。結果的に、収支に見合わない賃金を選手強化につぎ込んでしまったといいます。

ライジングゼファーフクオカ 代表取締役 神田康範さん
「本当に地道にいくしかないと思っているんですよ。そこからもう1回考えていかないといけないかなと思っています。」

Bリーグでは、財務状況が厳しければ、成績が優秀でも、降格あるいはライセンス剥奪の可能性もあるとしています。

Bリーグ経営戦略グループ 佐野正昭シニアマネージャー
「大企業も今の時代、どういう環境になるかわからないです。100年存続し続けるクラブになるためには、クラブ自信がしっかり自分たちで稼いで、財力、ビジネス力を高めていくことが重要。」


武田:ビジネス力を高めるためにチームを強くする。これも当たり前のような気がするんですけれども、なぜだめなんですか?

高山:Bリーグとしては、勝っても負けても関係なく、ちゃんと来てくれるファン、本物のファンを作ろうとしていたんですね。というのも、従来は、強い選手を連れてくれば経営も安定するという考え方だったのですが、Bリーグはそれを逆にして、ファンの皆さんにしっかりと支えていただくことで、経営を安定させ、そのあとに選手の強化、年俸などのアップにもこれがつながると考えたんです。

お話を伺った神田社長は、強くすることをちょっと急ぎすぎてしまったと。ファンを育てるには、時間がかかるんだなともおっしゃっていました。

武田:勝っても負けても応援するファンはどうやったら育てられるのか。そもそも、そういうファンがいるのか。どうなんでしょう?

石井さん:僕はそれでもいいと思うんですね。それで、きちんとビジネスを回すことというのは、すごく必要なことだと思います。ただ一方で、プレーヤーというのは必死になって、やっぱり勝つことを目指して、日々努力をして、それだけ夢中になって、たぶん周りの人が思っているよりも一途に頑張っていると思います。そこの絶対的な価値観というのがあるし、それがたぶん、プレーヤーにとってのアイデンティティー、誇りでもあると思うんですよね。僕はその価値観をひっくり返すというのは、よくないんじゃないかと思っています。
だからビジネスとしてきちんと安定させるために、ファンを取り込むということは賛成なんですけれども、クラブがそれを、勝っても負けてもいいということを公言してしまったときに、じゃあ、プレーヤーのアイデンティティーや誇りといったものって、どこに置けばいいんだろうということになってしまうのではないかと思いますね。

武田:FCバルセロナは、なかなか負けることはないと思うんですけれども、どうですか?

宮田さん:私もバルセロナファンとしては、まずやはり勝ってほしいと思います。ただ、スポーツはビジネスであるという側面とともに、やはり「文化」です。例えば、バルセロナは何を大事にしているかというと、勝つことと同時に、それ以上に、独自のスタイル、プレーをすること。あるいはグローバルなチームでありながら、地元の価値を体現するということ。そこに共鳴してくれる14万人のソシオ=会員で民主的にチームを運営していく。やはり、ここのアイデンティティー、誇りに共鳴しながら、チームを一緒に見守っていくんだと、こういった部分も非常に重要かなと考えています。

武田:人口減少の始まった国内だけではなく、海外のコアファンも取り込もうとする動きが今、始まっています。

ファンファースト! 売り上げ急増の新戦略

今、右肩上がりに集客を伸ばすJリーグクラブ。コンサドーレ札幌です。平均入場者数は、この5年で1.8倍に増えています。
そのけん引役の1人が、タイのメッシと呼ばれるチャナティップ選手。身長1メートル58センチ。小柄な体格ながら、昨シーズンはJリーグベストイレブンに選出される活躍。数億円ともいわれる移籍金で獲得しました。

チャナティップ選手
「どさんこの皆さん、サイコー!」

チャナティップ選手は、コンサドーレ札幌に海外から新たなコアファンを呼び込みました。SNSのフォロワーが200万人を超え、タイではアイドル並みの人気を誇るチャナティップ選手。その人気は、毎試合、タイから団体ツアーが組まれるほどです。

タイからの観光客
「チャナティップ選手を応援しに来ました。」

「日本のサッカーをよく見に来ています。また来たいです。」

タイのコアファンを獲得することで、さらに資金も集まり始めました。タイの市場で商品を売りたいと考えた企業スポンサーが増えたのです。

グッズ販売や協賛金も増加し、クラブ収入はチャナティップ選手獲得前と比べ、3倍に伸びました。

北海道コンサドーレ札幌 取締役GM 三上大勝さん
「実際に現地に来ていた方々が語ってくれたほうが、そこには説得力がありますし、その結果、憧れというものになっていって周りの方々を巻き込む大きな要素になるのかなと感じています。」

こうしたアジアのスター選手を呼ぶ戦略は、Jリーグ全体の方針です。アジアに目を向け始めたのは2000年代後半。主力選手が次々と海外に移籍し、Jリーグの入場者数は減少。さらにリーマンショックなどの影響で赤字クラブが急増しました。

Jリーグ 専務理事 木村正明さん
「若年層の人口は今、減ってきていて、海外は逆に人口が増えてきている。人口の多さとかサッカー熱、これをかけ算、さらに平均収入をかけ算すると、アジアの時代が早晩来るわけですから。」

そこで、Jリーグ職員が東南アジアを回り、目立った選手をリストアップ。母国でどの程度人気があるかも入念に調べ上げました。そしてJリーグ各クラブに出向き、選手をあっせんして回ったのです。

Jリーグ職員
「本当にJリーグのクラブで活躍できる人がいると思うので。現地での注目度もありますし。」

その結果、Jリーグには今までに、タイ、ベトナム、カンボジアなどから18人の有力選手がやって来ました。
こうした戦略の結果、アジアのJリーグファンは確実に増えてきています。

今月(4月)6日。タイのサッカー少年たちが見つめるのは、Jリーグ。この日は、札幌のチャナティップ選手と大分のティティパン選手が対戦する、いわばタイダービー。

子ども
「Jリーグは楽しいです。規律のあるプレースタイルが好きです。」

「チャナティップ選手のように夢を追って、将来Jリーグに行きたいんだ。」

海外にコアファンを増やす可能性は、新たなメディアの出現によってさらに広がろうとしています。
その一つが、インターネット動画配信サービス「ダゾーン」。この運営会社が、10年にわたってJリーグの放映権を獲得。

その金額は2,100億円。これまでテレビや有料放送が支払ってきた金額の4倍に上る額でした。そのうち、JリーグからJ1で3億5,000万円、J2で1億5,000万円が各クラブに分配。選手獲得を後押ししています。
様変わりするスポーツビジネス。その未来はどこに向かうのでしょうか?

スポーツビジネスの未来は?

ゲスト平田正俊さん(パフォーム インベストメント ジャパン)

武田:ダゾーンは今、どういうことをやっているのでしょうか。

高山:国内外のスポーツ中継を配信しているというネットメディアなんですが、例えば、サッカーではJ1だけでなくJ2、J3もすべての試合を中継、配信。そして野球でも、延長戦に入っても試合の終了まで伝えるなど、従来のテレビにはないサービスというのを次々と展開されていらっしゃいます。

武田:ダゾーンを展開する、ネット動画配信会社の平田正俊さんです。J3まで全試合を中継、配信する。ここまでやる、そのねらいはなんでしょうか?

平田さん:私たちもファンファーストの考え方が非常に強い会社でして、私たちができるファンファーストというのは、スポーツファンの方々に、いつでもどこでも、好きなコンテンツを、好きなときにお届けする。これが私たちインターネット配信でしかできないサービスだというふうに思いまして、私たちは日本でダゾーンを立ち上げました。

武田:従来のテレビはどうなんでしょうか?ファンファーストじゃない?

平田さん:そういうふうにおっしゃる方は多いんですけれども、私たちは地上波放送とインターネット配信は共存できると思っていまして、やはり広く、多くの方に情報を届けるという部分でいいますと、やはりテレビというメディアは、日本では非常に強いメディアですので。新しくスポーツを好きになってくれた方々に、深く情報をお伝えすることができるのが、インターネット配信だと思っています。

武田:テレビは入り口で、さらに深くということですね。石井さん、こういったサービス、どうご覧になっていますか?

石井さん:僕自身は本当にすばらしいものだと思っています。これからこういったものって、すごく進んでいくと思います。ただ一方で懸念なのが、弱者にそれが伝わるのかということ。
例えば従来のメディアに比べれば非常に安くなっている。ただ、やはり年間でいうと2万円ぐらいかかってしまうわけですよね。で、インターネット環境が必要だと。そうすると、例えば病院で入院している子どもが見たくても、見られなくなってくるとか、いろいろな状況(がある)。高齢者とか、弱い人が見られなくなってしまう。そこに対して、どのように考えているのでしょうか?

平田さん:今、お話がありましたけれども、従来の有料放送に比べると、現時点での価格帯も非常に安く抑えられていると思っています。ただやはり、ここに関しては私たちも日々努力を続けていて、どういうプライスポイントが一番お客様にとっていいのか、どのコンテンツ料がいいのかというのは、日々調査させていただいています。私たちはそういう意味では、そういう方々に対しても、例えばYouTubeを使って配信するだとか、地上波で放送するであるとか、簡単に言いますと、いろいろな選択肢を広げるというところに、私たちは非常に重きを置いています。

武田:例えば、みんなが見たいと思っている試合を、ほかのYouTubeなんかでも配信すると。

平田さん:無料で放送できるような環境も整えたいというふうに、日々努力しています。ですので、今も数試合は(無料のものが)あるんですよ。

武田:宮田さんはいかがですか?

宮田さん:最近、低価格課金でコンテンツを提供するサービスというのは、いろいろな業界で出てきている。いわゆる「サブスクリプション」と呼ばれていますが、2つ種類があって、1つは、既存のコンテンツに乗っかると、つまり作り手、プレーヤーに投資をしない。一方で、やはり重要なのは、コンテンツを作るクリエーター、選手たちに投資をする、やはりプラットフォーマーであるということ、そういった観点なのかなとは思うんですけれども、この点はいかがですか?

平田さん:私たちは、ファンファーストという考え方と、もう一つ「コンテンツキング」という考え方がありまして、コンテンツを充実させる、つまりはリーグやクラブを強くし、そして発展させるための投資というふうに考えていますので、その両方を成立させるためのサブスクリプションモデルというふうに考えています。

武田:今は大量のお金をJリーグに投入して、それで各クラブに配分されているわけですけれども、これはずっと続けていけるものですか?そこまでJリーグというのは、多くの方がこれからも見続けてくれると?

平田さん:まず、カテゴリーとしては配信権、放映権という形で投資させていただいてますけれども、やはりリーグを盛り上げる、クラブを盛り上げるために投資しているという考え方が、まず一つあります。そして、どのようにビジネスを回していくかということで考えますと、私たちはもちろん、まず日本でのファンを増やしていくことが一番。
そして次は、私たちはグローバルカンパニーですので、そのマーケットを広げていく、日本のコンテンツのみならず、世界で、見てもらえる方が増えることによって、ビジネスは非常に発展していくのではないかというふうに考えているので、続けていきたいと考えています。

武田:大金を投入するというのは結構なことだと思うんですけれども、一方、前半で見てきたように、チームが自分の力で自立していく、ファンを増やしていく、こういった努力を、ある種、阻害するという面はないですか?

平田さん:私もそういう意味では、年間、何百試合といろいろな試合を見させていただいているんですけれども、それはやはりクラブによってだなと思っておりまして、先ほどのように、放映権に頼っているという形を続けていると、そうなってしまうと思うんですが、私たちはある種、放映権をクラブやリーグに入ることによって、それをうまく運用・活用して、自分たちが大きくなっていく。そのようにクラブの方々をサポートしていきたいという考え方がありますので、そこからさらに発展していくことを望んでますね。

武田:ファンを増やしてチームを強くする、もしくはチームを強くすればファンが強くなるのか。これは、どういうふうにお考えですか?

平田さん:やはり数年前までは、クラブを強くしてファンを増やしていくという考え方が主流だったと思うんですが、今はもう世界的に見ても、ファンを増やしていくことによってクラブが強くなるという考え方が多いと思ってます。やはり先ほどもいろいろなコメントがありましたけれども、私が一つ感じているのは、ファンが多いクラブの選手は、自分の能力プラスアルファが出ることが非常に多いので、そうすれば、それを続けることによって、やはりクラブは強くなるというふうに考えています。

武田:なるほど。どうなんでしょう、コアファンを大事にすべきなのか、ライトファンを大事にすべきなのか、どっちですか?

平田さん:私はひと言で言うのであれば、両方、常にやり続ける必要があると思っています。

武田:でも、それは大変じゃないですか?

平田さん:それは企業努力、クラブ努力、リーグ努力をし続けることによって、その2つができる。できないことではないと信じてます。

武田:できないことはない。これからもやり続けていくと。そうすれば持続可能ですか?

平田さん:可能だと信じてますし、私たちはそのために、日々、努力してます。

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