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2019年4月9日(火)

ドル箱路線が次々と 都市の路線バス減便の衝撃

ドル箱路線が次々と 都市の路線バス減便の衝撃

「あれ、バスが来ない!?」こうした声が今、全国主要都市のバス停で相次いでいる。NHKの取材でこの一年、東京、横浜、京都などで黒字路線、いわゆる“ドル箱”路線が減便していることが判明。地域の足をどう守るかは、地方でなく都会の問題になってきているのだ。背景にあるのが深刻な「運転手不足」。スタジオに減便を行ったバス会社の経営者を招き、本音を直撃。人手不足時代の交通インフラのあり方を掘り下げて考える。

出演者

  • 戸崎肇さん (桜美林大学 教授)
  • 山本宏昭さん (バス会社 社長)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

ドル箱路線が次々と… 暮らしを直撃

栗原
「東京・渋谷駅前のバス停です。実はこの4月から、あちらのバスでもこちらのバスでも、バスの本数が減らされる減便が行われるんです。4月から、7時台と9時台で1本ずつ減便になるんです。」

さらに、新宿、品川、川崎、京都、広島、大阪、福岡など。この1年で、421の路線で減便していることがNHKの調べで分かりました。

それだけではありません。終電後に走る深夜バスの最終便にも、変化が…。深夜1時5分まであったバス。4月から、最終バスの時刻が15分早まりました。

バス利用者(大阪)
「バスを使うのが多くなってきているのに、バスは減数されているので、ちゃんとマーケティングできているのかなと思う。」

バス利用者(福岡)
「帰れないです、家に。バスお願いします。」

ひたひたと進むバス減便。取材を進めると、運賃の値上げを受け入れるか、これまでどおりの利便性を諦めるか、私たち一人一人が選択を迫られていることが見えてきました。

仕事も…学校生活も… 暮らしを直撃

和田悦子さん
「鍵は持った?上着は?」

分刻みで暮らす都会の現役世代にとって、バス減便は死活問題となっています。
和田悦子さんです。通勤途中に利用しているバスが来なくなりました。長女の登校を見届けてから利用するため、7時57分のバスに乗るのが日課でしたが…。

和田悦子さん
「7時57分、ここですね。」

7時台、6本あったバス。5本に減り、57分のバスはなくなっていました。

そこで、8時3分のバスに乗り、保育園へ。しかし、さらなる問題が…。

和田悦子さん
「あ!行っちゃった。」

乗り継ぎがうまくいかず、バス停で待つ時間が最大で10分増えたのです。その後の乗り継ぎも悪く、出社時間を30分遅らさざるをえなくなった和田さん。勤務時間を、毎日30分減らすことになったといいます。

和田悦子さん
「1本遅れるだけでも、そのあとの時刻が変わってきてしまうので、かなり生活に影響が出ると思う。」

バス減便の影響で遅刻する生徒が続出。学校のルールを変更した高校もあります。この高校の生徒たちがバスに乗る、東京都西部の小平駅。

運転手
「次のバスをお待ちいただけますか。」

朝の通学時間帯。10本のバスが、8本に減便。乗り切れなくなる生徒が続出しているのです。

バス利用者
「乗れない日と乗れる日で、運に任せるみたいになってしまうので、乗れなかったら完全にアウト。」

高校は、相次ぐ遅刻者のために新たなルールを設けました。特にバスが遅れがちな雨の日、バス利用者の登校時間は10分遅れてもよいとしたのです。

生活指導部 教員 齋藤和可子さん
「バスが減ってしまうことで、学校生活、勉強の時間が減ってしまったり、大きな問題だと感じています。」

利用者いるのになぜ? バス会社社長を直撃

この高校の生徒たちが利用するバス会社は、乗り切れないほどの利用者がいるのにもかかわらず、なぜ減便するのか。社長の山本宏昭さんに聞きました。

栗原
「これは何ですか?」

バス会社 社長 山本宏昭さん
「交番表、1か月の乗務員のシフト表。」

山本さんは、運転手のシフト表を見せ、減便した訳を説明しました。「不足交番」という文字。運転手の不足を意味します。青で囲んだ部分は、運転手が確保できていないダイヤです。

バス会社 社長 山本宏昭さん
「人手がどうしても足りない。車があって仕事があるけど、運転手がいないから仕事ができない。」

不足を埋めるため、シフト表には山本さんの名前が…。

栗原
「社長も運転するんですか?」

バス会社 社長 山本宏昭さん
「もちろん。路線でも貸し切りでも、なんでも運転もするし、なんでもします。」

栗原
「何かあったら、社長が補っていく…。」

社長業のかたわら、多いときは1日8時間運転することもあるという山本さん。運転手が、より待遇のいい会社に移り、十分に人手が確保できませんでした。

バス会社 社長 山本宏昭さん
「募集をかけて、あすこそは応募があるぞと、来月になったら人が入って盛り返せるぞって部分の中で、精いっぱいやってきましたけど、『もうこれ以上は』というところ。苦肉の策として、減便っていうことですね。」

421路線で… なぜ深刻な運転手不足?

私たちは、東京都と全国の政令指定都市で路線バスを走らせる、124の事業者を取材しました。確認できた、各地での減便した路線の数です。福岡市で12。広島市で17。京都市で51。東京都で85。仙台市で46。そして、札幌市では56。合計で421路線。その理由の多くは人手不足でした。

なぜ、路線バスの人手不足が深刻なのか。かつて、路線バスの運転手をしていた、40代の男性です。見せてくれたのは、当時の給与明細。1か月でおよそ220時間働いても、給与は手取りで23万円ほどでした。

元路線バスの運転手
「毎月『うわー』っていう感じ。『安すぎない?』みたいな。『ここまでやったのに、これだけ?』みたいな感じ。」

男性は、外国人観光客の増加で需要が高まる高速バスの運転手に転職。年収は、およそ100万円増えたといいます。

元路線バスの運転手
「(路線バスは)給料も安いし、それなりの拘束時間で割に合わない。高速バスでズバーンと行ってしまった方が、止まったり降ろしたりというストレス的なものが、本当にない。精神面でも体力面でも、すごい楽になった。」

路線バス運転手はつらいよ!?

私が今回の取材で痛感したのは、路線バスの運転手の皆さんの負担は想像以上に大きいということでした。
運転席に座らせてもらうと…。

栗原
「ミラーの数が多いんですよ。1、2、3、4、5…。」

複数のミラーで安全を常に確認。さらに、ドアの開閉や運賃箱など多くの装置をすべて1人で操作しなければなりません。運転中、注意を払わなくてはいけないのが、乗客の安全です。突然、小学生がふらつくと…。

運転手
「つかまって。」

「(ブザー音)ちょっと下がってくれますか。」

技術と経験のある運転手が、路線バスを支えてきたのです。

運転手不足で深刻な未来も…

こうした運転手が不足し、経営自体が揺らぎかねないという会社もあります。バス会社の人事担当者が内実を語りました。
会社では、去年(2018年)、運転手の1割が退職。新たに採用するための費用、さらには流出を食い止めるために給与を上げなければならないといいます。こうした新たな人件費が、会社の経営を圧迫するというのです。

関西のバス会社 人事担当者
「このままだと『労務倒産』というんですか、人件費にお金を費やしてしまって、それで会社が潰れてしまうかもしれない。」

さらに、路線バス特有の知られざる問題もあるといいます。東京西部で減便したバス会社社長の、山本さんを直撃します。

利用者いるのに… 路線バス 驚きの実態

ゲスト戸崎肇さん(桜美林大学 教授)
ゲスト山本宏昭さん(バス会社 社長)

武田:社長みずから運転せざるをえないというような状況で、日々の運行というのはちゃんと維持できるんですか?

山本さん:大変な窮地に今、追い込まれていますね。ですから、その中でやれることは、もう私がやると。それでもやりきれない部分がある。でも、頑張っていく部分は、乗っていただけるお客様の「ありがとう」というその言葉に支えられて、よっしゃ!というところで、やっていますけども。

武田:私も驚いたデータがあるんです。山本さんの会社では、観光バスと路線バスの利益が全然違うんです。

ドライバー1人当たり、路線バスは1日775円、観光バスは4万4,000円。なぜ、こんなに違うのかといいますと、売り上げそのものが4倍近く違うんです。これに加え、路線バスの方は人件費や燃料費などでほとんど売り上げが消えてしまうんです。そのため、路線バスを維持するためには、観光にも力を入れていかないといけないということなんです。ただそうすると、路線バスに割く人手が苦しくなるということなんですね。
そもそも、この路線バス、利益が775円。なぜ、こんなにもうからないんですか?

山本さん:人がいてもいなくても、この時間はバスを走らせなければいけないので、その経費は当然かかってくるし。運転手さんも1人で済まないから1日、数人いなければいけない。時間帯も、朝早くから遅くまでというと早朝、深夜の割り増しも出てきますし。そういったところでは、すごく経費はかかってきます。売り上げは決まっちゃってる。「よし、今日は頑張って売り上げを上げよう」といっても、宣伝したからといって路線バスに乗っていただけるわけではないので。

武田:もうひと方、バス業界に詳しく、みずからもバスの免許を持っていらっしゃるという戸崎さん。非常に厳しい状況はよく分かったんですけれども、危機的な路線バス会社の状況、ほかにもあるんでしょうか?

戸崎さん:これまでは、バスの問題というのは、地域の問題に限定されていたような感じがしておりました。しかしながら、今までのお話のように、今、本当に都会の方で、バスの運転手さん不足、それによる減便というのは非常に深刻になってきています。

武田:ここはやはり、考えなければいけないんじゃないですか?

戸崎さん:都会の場合には、VTRにもあったように1本とかそういったことですけども、その1本というのが相当なダメージを生活に与えていきます。そうすると利用者も、これはサービスの水準が悪くなってきた。本当に考えなければいけないということで、バスの利用を控えるようになると、最初は1本だったのが、2本、3本と減便しなくてはいけない。最終的には、最初の1本がバス会社の崩壊になっていくということになると思いますね。

都会の路線バスをどう守っていくのか。その難しさがあらわになる事態が、去年、京都市で起きました。
「市バス」と書かれたこの路線バス。実は、京都市は民間のバス会社に運行や車両の管理を委託することでコストを削減し、税金の支出を抑えてきました。ところが去年11月、京都市が運行を委託していた民間会社6社のうち、2社が撤退・縮小を表明したのです。
撤退したバス会社の社長です。委託事業は高速バスなどの事業に比べると、ほとんど利益がなかったといいます。

バス会社 社長 鈴木一也さん
「(バス会社は)地域の公共交通に関して責務を負うのも事実。自治体からの要請もあるし、そのオーダーに応えていかないといけないという思いも強く持っている。そこと、民間企業で収支を考えないといけないので、そのはざまに立って、はっきり言って『どうしようもなかった』というのが答えになると思う。」

運賃値上げ? あなたは? 守る手立ては?

武田:今日から番組に加わる栗原さん。待遇の改善はできないのでしょうか?

栗原:現場を取材していますと、バス会社や運転手一人一人の強い公共的使命ということで成り立っていると思うんですが、それが、もはや限界に来ているというふうにも感じたんです。運転手の待遇を上げるためには、運賃の値上げをどこまで許せるかという議論にまでなってきているんです。

今回の取材で、専門家からは、問題解決のためには運賃の値上げもやむをえないという意見も聞かれました。どこまで値上げが許せるか。普通運賃が210円の、都バスの利用者に聞きました。

バス利用者
「100円以内かなって気がしますけど。どこも人材不足って伺っていますので。」

「上げても50円とかじゃないですか。100円まで上げると、利用してる方から反感を買うのではないか。」

多くの人が「最大100円までなら受け入れられる」と答えました。しかし、若い人たちからは異論も…。

栗原
「運賃を上げたらどうかという話なんですが。」

バス利用者(10代)
「困ります、困ります。」

栗原
「10円とかでも?」

バス利用者(10代)
「ダメです、ダメです。毎日、往復で乗ったら死にますよ。」

では、なぜ運賃の値上げが必要だというのか。バス会社によると、運転手の確保や不足を補うためのIT技術の導入などには、多額の費用がかかるといいます。

東京都は昨年度、4,000万円をかけて、IT技術を用いた自動運転の実証実験を行いました。

アナウンス
“発車します。おつかまりください。”

あらかじめ走る路線を設定すると、ハンドルを離しても自動で走行します。

アナウンス
“危ないですので、走行中の立ち上がりや移動はご遠慮ください。”

車内に搭載された複数のカメラは、運転手の目の代わりに。AIが乗客の動きを感知して注意喚起を行います。

ビッグデータを活用して、路線バスをどこにどう走らせるか見直そうという動きも始まっています。福岡市のバス会社が開発を進めているのが、バス一台一台の乗客数をリアルタイムに見るシステムです。

地図上を動いているのは、一台一台のバス。円の大きさは乗客の数、赤は運行が遅れていることを示しています。バスに搭載されたGPSと、乗客のICカードなどが情報源となります。
例えば、通勤ラッシュの時間帯。前の2台は多くの乗客が乗り降りしたため、遅れが出ています。一方、後ろの2台のバスが乗せているのは、10人ほど。運行の間隔に問題があり、無駄を生んでいることが分かりました。

ダイヤ作成担当 下條寛顕さん
「例えば時刻を少し遅くして間隔をあけるとか、後ろにもバスがあるようであれば、減便の対象になる。路線バス自体をより利便性の高いものに変えていけるのではと。」

運転手不足が深刻になる中、私たちはこれまでどおりの利便性を諦めざるをえなくなるかもしれません。
このバス会社は、公共性を重視し、苦肉の策を取りました。

運輸部次長 児玉健さん
「これ、一番収益の大きい便です。」

減便したのは、バスが最も頻繁に行き交う路線。多くの利用者に不便を強いることになり、利益にも影響があるといいます。

栗原
「会社全体の利益が小さくなることもある?」

運輸部次長 児玉健さん
「当然あります。」

一方、郊外の路線は住民への影響が大きいとして、減便はしませんでした。

運輸部次長 児玉健さん
「1日3便が2便になると、生活そのものが成立しなくなるのではないか。減便はできないと判断した。
業務量全体を少し小さくしていく、リサイズしていく。今のこの局面を乗りきる。接続をしていく。なんとか次の世代につなげていく。」

私たちの足を守るには、どうすればいいのでしょうか。

値上げか…利便性か… あなたは?

武田:見えてきたのは、運賃の値上げを受け入れるのか、あるいは利便性を諦めるのか。あるいは、ほかに何か道があるのか。もっと柔軟に運賃を上げるというようなことはできないんですか?

山本さん:それは難しいんです。バス会社が一方的にいくらになりますよということで決まるわけではなくて。一般の商店なら値つけはそのお店側が任されていますけれども、バスの場合はそうではなくて、公共料金ですから、国交省の認可が必要なんです。その認可を申請するにあたって、かなり細かいデータを出すんです。全部のバスの約半月分ぐらいを、何人乗って、誰がどこから乗って、どこで降りたとか、そういう細かいものをやっていって、値上げの根拠というものを認めていただくと。そのデータを作るのに、膨大な手間と費用がかかるわけです。

栗原:今回、改めて調べてみて驚いたんですけれども、実は、この運賃の値上げの歴史を見てみますと、非常に慎重に行われてきたということが分かるんです。

これは都営バスの運賃の推移を表したグラフなんですけれども、最初は大正13年、10銭。ここから始まって、その後、今の平成7年になりますと200円。その後、今の210円になるまでには、実に20年近くかかって値上げをしているということが分かるんです。

武田:なぜ、この値上げに慎重な姿勢なのでしょうか?

戸崎さん:先ほどのお話にもありましたが、10円値上げするのでも、相当、利用者にとっては反発です。ただし10円値上がりしたところで、どこまで事態の改善になるのか本当に改善しようと思ったら、料金を倍にしたり3倍にしないと、やはり本当に優秀なドライバーさんは来ないですね。

武田:自動運転やAIの導入といった技術革新で、一発逆転、状況が劇的に改善するというような可能性は、どうご覧になっていますか?

戸崎さん:劇的にはないと思いますね。まず、都市部が非常に難しいと思います。道路空間は、自転車もありますし、非常にいろいろな突発的な事態がある。そうした中で、車内放送で注意を喚起するとしても、いざ事故が起こったときに、それにその場で対応しなければいけません。ただし、自動運転は、運転者さんの負担を軽減する道はあると思うんですね。

武田:外国から運転手になるような人材を受け入れるというような議論は、されているんですか?

山本さん:それは私どもも考えています。そういうこともなければ、運転手さんそのものの人材、人手がいないのであれば、海外も含めて、そこは補わなければいけないことも出るでしょう。

戸崎さん:外国人の労働力というのは今、非常に求められてます。当然、バスに関してもそうした議論はありますけれども、やはり、バスというのは難しい運転技術を要します。それは、地理的な感覚、国際的な交通ルールの違いもあります。ですから、その点に関しては少し慎重であるべきではないかと思います。ましてや日本の交通事情の中で、難しいお客様の接待をするということがあれば、やはり、外国人の方々がこの業界の中で救世主になるかというと、当面はかなり難しいのかもしれないですよね。

路線バス 大再編時代到来!?

行政主導の下、企業どうしが枠を超えて路線を見直す動きが始まっています。広島市内に路線バスを走らせる会社は、12社。中心部で便数が増える一方、利用客が少ない郊外の路線の維持が経営を圧迫してきました。広島市は、各社に補助金を出してきましたが、年々膨らみ続け、財政の負担になってきました。

バス事業者 交通政策部長 大上明紀さん
「こちらが昨年より運航を開始しました、“エキまちループ”です。」

そこで去年、広島市が民間企業2社に呼びかけ、循環バスの共同運行が始まりました。2社の路線のうち、広島駅が発着点となる中心部の経路が、一部で重なっていました。重なるルートのバスを減らし、繁華街を走る新たなルートを開設。2社が運転手を出し合いながら、より多くの利益を目指します。

広島市 道路交通局 米田英生さん
「やはり事業者の効率性、これも大事。もう一方の利用者の利便性、この2つを両立していくところを目指して、行政が積極的に動いていくことは必要であろうと。」

路線バスの現状について、国は、「バスをはじめとする公共交通は、厳しい状況に置かれているものと認識しています」と回答。その上で、「路線バスの再編、IT技術の導入促進や人材の確保、そして、運賃のあり方などを検討していきたい」としています。

あなたはどう考える? 路線バスの未来

武田:戸崎さん、いかがですか?

戸崎さん:公共性を重視するのであれば、別の財源を、きちんと国として保証していかなければいけない。事業者が自助努力でやるのではなくて、国としてそういったシステムを保障していく体制にしなければいけないのではないでしょうか。

武田:全体の税金のパイが限られている中で、それは本当に可能でしょうか?

戸崎さん:これは、現時点だけの話ではなくて、将来世代に非常に関わってくることです。高齢化社会に対する先行投資という形で、財源は投入すべきであるし、今までであれば、医療政策、福祉政策、交通政策というのは全く分断されているような状況です。しかし、それを融合させて、新たな枠の中で整理していくならば、バスの重要さというのはもっと増える。そうした余地は十分あるというふうに考えています。

武田:例えば海外では、こういった公共交通機関をうまく、公もサポートしながら運営しているような事例というのはあるのでしょうか?

戸崎さん:今、フィンランドを中心として、「MaaS(マース)」といわれる「モビリティ・アズ・ア・サービス」ということがあります。これは、マイカーも含めて、すべての交通機関を、IoTのように情報を一貫して輸送するというような試みです。
バスだけではなくて、いろいろな公共交通機関を中心として情報を共有し、ビッグデータの中で社会的に最適な手段というのを模索していく。そうした中でむだをなくしながら、より皆さんに使いやすいようなシステムというのが、今、模索されています。
バスというのは、「ラストマイル」です。一番、生活に密接なところです。つまり、駅まで行けなかったら、そこから動けない。つまり、末端のところから日本は機能不全に陥っていく。こういったことが危険性としてありうる。それが、バスの事例じゃないでしょうか。

武田:利用者であるわれわれも、しっかりと考えていかなくてはならない問題だと感じました。

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