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2019年2月28日(木)

徹底分析!米朝首脳会談~なぜ“合意”に至らなかったのか?~

徹底分析!米朝首脳会談~なぜ“合意”に至らなかったのか?~

二度目となった米朝首脳会談。北朝鮮の非核化へ向けた具体的な措置とその見返りをめぐって話し合われたが、合意には至らなかった。北朝鮮との間では、過去にも非核化に向けた合意が結ばれてはほごにされてきた歴史があり、今回改めて、非核化へ向けたハードルがいかに高いかが浮き彫りになった。番組では、なぜ合意に至らなかったのかを分析。今後の課題と日本への影響を考える。

出演者

  • 秋山信将さん (一橋大学 国際・公共政策大学院長)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター) 、 田中泉 (キャスター)

事態打開のカギはどこに?

ゲスト 秋山信将さん(一橋大学 国際・公共政策大学院長)

武田:注目された米朝首脳会談。結局、合意には至りませんでした。
この事態を前に進めるためのカギが一体何なのか、スタジオの3人にこのようなポイントを挙げてもらいました。

まず、核問題と安全保障が専門の秋山さんは「“非核化”の認識、ズレを埋める」。

秋山さん:アメリカと北朝鮮の間で、“非核化”の意味するところが違っているような気がします。アメリカは、過去の核、それから現在の核、そして未来の核、全てをなくすということを目標にしています。

武田:それは、われわれが一般的に抱いている非核化のイメージですよね。

秋山さん:完全に核兵器にかかわる活動を廃棄するということだと思うんですけれども、北朝鮮は、ニョンビョンの廃棄に応じる。これは非常に象徴的なものではありますけれども、基本的には象徴にすぎなくて、今後の核活動に関して規制が加えられるのではないということだと思うんですよね。ですから、北朝鮮が目指しているところというのは、自らの核の能力を温存し、アメリカと北朝鮮の間では、核保有国どうしの、ある意味、対等な関係。これは核の軍備管理、つまり核の能力を限定するけれども、それは基本的には、核保有国どうしの安全保障に資するものであるという考え方ではないかと思います。

田中:今、秋山さんからもお話ありましたけれども、ニョンビョンとは、北朝鮮にとって、核開発で大きな役割を担ってきた場所です。1986年に稼働し、出力5,000キロワットの実験用原子炉などを備えています。いわば核開発の総本山です。

武田:このニョンビョンだけでは、アメリカは「制裁解除には値しない」としたわけですね。これ以外というのは、どういうことが考えられるんですか?

秋山さん:ニョンビョンの核施設で、これまで、濃縮ウラン、それからプルトニウムを生産してきたわけですけれども、これ以外の場所に、濃縮ウランを製造する施設があるかもしれない。それから、より重要なのは、すでに保有している核弾頭であるとか、それから核物質、これについて今回、話題にも上っていないということで、これらを対応しなければ、本当の非核化にはつながらないということだと思います。

武田:北朝鮮は、ニョンビョンについては査察、さらには廃棄ということに応じようとした可能性があるんだけれども、そのほかについては、そ上に上げようとはしなかったと?

秋山さん:これは「核の能力を温存したい」という意思の表れかというふうに思います。

田中:今、北朝鮮の核施設やミサイルの発射場は、分かっているだけで10か所以上あります。ただ、それだけではなくて、国際社会に申告していない核施設もあると見られています。その一つが、カンソンにある施設です。専門家の分析では、大規模なウラン濃縮施設ではないかと見られています。さらに、アメリカのシンクタンクの調査では、弾道ミサイルの秘密基地がおよそ20か所あるとされているんです。

武田:いわば、こういった場所を北朝鮮は隠してるということなんですか?

秋山さん:ある意味でニョンビョンというのは、役割を終えた施設と。これからも、安全保障上、使える施設、あるいは使わなければいけないというものに関しては、北朝鮮は今のところ、査察に応じる、あるいは申告をするという気配はないと思います。

武田:申告にも応じないというのは、なぜなんでしょうか?

秋山:やはりそれは、北朝鮮としては今、アメリカや、われわれが定義するような非核化に応じる意思がなくて、核というのは、自らの安全保障にとって、あるいは政権の維持にとって非常に重要な道具、ツールであるというふうに考えているからです。

武田:そして、池畑記者がポイントに挙げたのが「過去との決別」。これはどういうことでしょうか?

池畑修平記者(国際部 朝鮮半島担当デスク):2つのことを指していますけれども、1つは今、秋山さんがおっしゃったとおりで、北朝鮮の核開発、過去、現在、未来に分けると、ニョンビョンという、非常に古くなった施設を廃棄するというのは「これから先はもう造りませんよ」ということにすぎないんです。重要なのは、すでに開発して、自分たちが温存している過去に作った核兵器の廃棄にまで踏み込まないと、なかなかアメリカとは折り合わないということなんですけれども、ある程度、これはキム委員長も分かっていたと思います。そこに踏み込むためには、もう一つの過去、これは言ってみれば、自分の父親、そして祖父が打ち立てた核兵器によってこそ体制を守るという路線。もっと言うと、国の在り方そのものから決別しないと、核兵器の問題も進めないんじゃないかと思います。朝鮮半島というのは、非常に儒教の影響が強いところでして、キム委員長といえど、父や祖父の教えを否定するというのは非常に難しいんです。今、次第に、キム委員長は「北朝鮮も普通の国になっている」というふうにアピールしています。今日も、外国人記者の質問に答えるとか、少しずつ変化は見せていますので、そういう大きな意味での過去との決別も必要ではないかと思います。

武田:そして、髙木記者がポイントに挙げたのが「忍耐力」ということですけれども、これはアメリカ側にとっての忍耐力ということですか?

髙木優記者(国際部 アメリカ担当デスク):トランプ大統領自身にとっての忍耐力という意味ですね。今回、トランプ大統領は何としても成果を上げたいと、強い意気込みで会談に臨みました。といいますのも、国内政治で、ロシア疑惑の捜査などが今、大詰めを迎えていまして、かなり苦境に立たされていると。ですから、外交で成果を上げて、何としても事態を打開したいという思いがあったわけです。ところが、結果はゼロ回答ということで、やはり忍耐力を持って、冷静に、今後の交渉の糸口を探っていけるのかというのがカギだと思います。

武田:今回は一応、その忍耐力を発揮できたということなんですかね。

髙木記者:今回は発揮したと、踏みとどまったということだと思うんですけれども。今回の実情を言いますと、北朝鮮が、アメリカから見ると、あまりに高い要求をしてきたので、見返りのカードを用意していたんだけれども、切りたくても切れずに終わったというのが実情だと思います。トランプ政権は、ニョンビョンの施設の廃棄だけではなくて、さらにプラスアルファ、「北朝鮮が踏み込まないと見返りは与えない」というメッセージを与えてきた。いわばそれが分かっていて、北朝鮮は、さらに高い要求をしてきたということは足元を見られたという側面もあると思います。それでもトランプ大統領が忍耐力を発揮できたのは、大統領を支える側近たちの存在というのがあると思います。ポンペイオ国務長官ですとか、ボルトン補佐官ですね。大統領は今回、政治的な成果を非常に求めていた。いわば焦っていたわけですけれども、こちらの側近たちは、非核化を前に進めるためには何が必要か、そういう視点でずっとやってきたわけです。その間にある温度差というのが非常に懸念されていたわけですが、今回はそこは何とか乗り越えて、側近たちの意見も聞きながら、恐らく判断したんじゃないかと思います。ただ、この忍耐力というのがいつまで続くかということですが、来年(2020年)秋に大統領選挙がありますので、やはりそこら辺、注意深く見ていかないといけないと思います。

武田:アメリカはなぜ合意を見送ったのか。その背景の一つとして考えられるのが、過去に繰り返し約束をほごにしてきた北朝鮮に対するアメリカの不信感です。

なぜ? アメリカ 根強い不信感

長年、北朝鮮との交渉に関わってきた、ジョセフ・デトラニ元朝鮮半島担当特使です。非核化に向けた交渉は、これまでも困難を極めてきたといいます。

元朝鮮半島担当特使 ジョセフ・デトラニ氏
「北朝鮮に厳格な検証の手順を同意させるのは、とても難しいのです。これまでも最大の障害は、合意の検証でした。」

合意に至っても、その検証方法を巡って、対立が繰り返されてきたのです。1994年の「米朝枠組み合意」。この時、北朝鮮はプルトニウムを抽出できる実験炉の凍結を約束。IAEA=国際原子力機関の査察を受け入れました。

北朝鮮 カン・ソクジュ(姜錫柱)第一外務次官(当時)
「ではまた。」

アメリカ ロバート・ガルーチ大使(当時)
「同じく私も。ではまた。」

しかしその裏では、ウラン濃縮という合意にない違う方法で、ひそかに核開発を続行。結局、IAEAの査察官は国外に追放され、枠組み合意自体も破綻しました。
枠組み合意の失敗を受けて、2003年から始まった6か国協議。デトラニ氏、自らも参加していました。北朝鮮は、全ての核兵器と既存の核計画の放棄を約束。その後、北朝鮮が申告した核施設を査察することを受け入れました。しかし、IAEAが査察しようとしたところ、北朝鮮は反発したのです。

元朝鮮半島担当特使 ジョセフ・デトラニ氏
「査察官が申告していない施設も査察しようとしましたが、北朝鮮は自由に査察することを許可しないということが起きました。まずやるべきことは、検証をどうのように行うのか、そのロードマップや時期について議論をしていくことです。」

朝鮮中央テレビ(2006年10月)
「我々の科学研究部門は、地下核実験を安全に行い成功した。」

北朝鮮は、交渉が行き詰まる中、核実験を強行。結局、合意は破棄されました。それからおよそ10年にわたり、北朝鮮は核・ミサイル開発を推し進めてきたのです。

査察は?申告は? 専門家が分析

武田:これまでも北朝鮮の核開発に関する約束を検証したり、あるいは阻止するということは結局できなかったわけですよね。ましてや、核保有を宣言している今、ますます難しくなっていると。

秋山さん:政治的にも、それから技術的にも難しくなっているというふうに言うことができると思うんです。技術的に言いますと、IAEAの役割というのは、民生用の核の活動であったり、核物質が軍事的に転用されていないかどうかを確認するということで、すでに軍事目的で使われている核物質、あるいは核兵器になっている弾頭はIAEAが検証することができないわけです。ですから、この核弾頭の解体というのは、北朝鮮自身が行うか、あるいは核兵器を今、保有している国が行うと。北朝鮮が行うにしても、核保有国によって検証がされなければいけないというのがあり、また、政治的にいうと、こうした核弾頭の所在を明らかにする、あるいは核物質の所在を明らかにするというのは、万が一、アメリカと北朝鮮が抜き差しならないような対立に陥った場合に、アメリカに対して、攻撃のターゲットのリストを提供するという意味にもなってしまうので、北朝鮮としては受け入れがたいと。さらに安全保障上、こうしたより重要な、機微な情報というものを提供するには、よっぽどの大きな覚悟がなければいけないと思うんですけれども、恐らくそこまでの信頼関係というのは、アメリカと北朝鮮の間で築いていくのは、まだまだ時間がかかるんじゃないかというふうに思っています。

武田:過去のさまざまな、いわゆる北朝鮮に裏切られてきたような歴史は、さらに難しい対応を北朝鮮に求めなければならない、そこも大きな壁の一つということになるわけですね。

秋山さん:今、査察を拒否したという場面が出てきましたけれども、こういうことは今後も起こり得るわけです。これを北朝鮮がどれだけ受け入れられるかということも課題かと思います。

米朝 歩み寄りの道はあるか

武田:この先、どう歩み寄ればいいのか、池畑記者はどう考えますか?

池畑記者:一つは、明らかにこれは北朝鮮の要求の度合いを下げることが必要だと思います。今回、そこに双方が用意していると見られているカードというか、措置がありますけれど、北朝鮮は今回、「南北の経済協力は制裁の例外措置で認めてくれ」ということぐらいは要求すると思ったんですが、いきなり経済制裁、しかも緩和じゃなくて、完全解除、ここまで要求するとは率直に言って思っていませんでした。なので、これは今後、少し要求を下げる必要があると思いました。逆に自分たちの措置に関していいますと、これは先ほどの過去の核兵器につながりますけれども、ニョンビョン廃棄にとどまらず、例えばICBMですとか、これまで申告していない核施設、そこまでもう一回、協議のテーブルに乗せる必要があると。今回、トランプ政権としては、ニョンビョンだけではダメで、ニョンビョン、プラスアルファが必要だということは明確になったので、そこを起点に、もう一回、北朝鮮としても何を出すのか、自分たちの取る措置を検討する必要がありますね。

武田:髙木記者、アメリカ側としては何か歩み寄れるポイントはあるんでしょうか?

髙木記者:なくはないと思います。ただ、絶対譲れないラインというのははっきりしていまして、今、池畑記者がおっしゃったとおり、やはり経済制裁の緩和のためには、完全な非核化が前提になると、ここは揺るがないと思います。ただ、全く見返りを与えないとは言っていません。トランプ政権は、ここのところ態度を軟化させていまして、北朝鮮が非核化に何かしら踏み出すからには、例えば連絡事務所の設置とか、人道支援の再開、そういった見返りを与える用意はあるとしています。ただ、それで今回、折り合えなかったわけですから、やはりカギを握ってくるのは、南北の経済協力だと思います。中でも、ケソン工業団地の再開というカードがありますけれども、もしも、アメリカが工業団地の再開を容認すれば、北朝鮮に今、大量の外貨が流れ込み始めるということで、多少なりとも北朝鮮の要求とも合致する部分がありますから、そこら辺が今後、交渉が始まれば、カギになってくるのかなというふうに思います。ただ、それもICBMの廃棄ですとか、ニョンビョンプラスアルファで何かしらの行動を取るということが必要になってくると思いますので、今回の会談の結果を見る限りは、かなり難しい交渉になると思います。

拉致は?日朝関係は?

武田:昨日(27日)この番組で、米朝首脳会談に臨む拉致被害者家族の思いをお伝えしました。期待と、拉致問題が置き去りにされるんじゃないかという複雑な思いに駆られている様子が印象的でした。
この拉致問題については提起はされたのでしょうか?

田中:安倍総理大臣は、米朝首脳会談を終えたアメリカのトランプ大統領と電話で会談し、拉致問題を2回にわたって提起したと説明を受けたと明らかにしています。

武田:池畑記者、今回の会談、結局合意には至らなかったわけですけれども、この先、拉致問題の対応も含めて、日本はどうすべきなんでしょうか?

池畑記者:今回の米朝首脳会談で合意に至らなかった、短期的に見れば、残念ながら、この拉致問題にとっては逆風だと見ざるを得ないと思います。北朝鮮の非核化、それからアメリカとの関係改善というのは、広い意味で言えば、北朝鮮が国際社会に開かれた国になっていくということですから、それは当然、拉致問題解決に資するわけです。残念ながら今回、そこが少し止まってしまったということで、トランプ大統領、2回にわたって拉致問題を提起したというのは朗報かとは思いますが、それを受けて北朝鮮指導部が、じゃあ、アメリカとの関係改善を後回しにして、先に日本政府と交渉しようというふうに判断するかというと、その可能性は決して高くはないと思います。なので、むしろこうなった以上は、日本政府は今まで以上に主体的に動く必要性が出てきたというのが事実だと思います。

武田:髙木記者はどうでしょうか?

髙木記者:今回の結果、必ずしも日本に悪い影響を与えたとは言えないと思います。特に、核問題、非核化を巡って、安易な妥協をトランプ大統領にされるよりは、まだよかったという面もあります。トランプ大統領は、さらに安倍総理大臣の要望をくんで、拉致問題を再び会談で提起したということですし、さらに今回、会談が終わった後の記者会見で、トランプ大統領は何度も、日本、韓国という同盟国の名前を口にしました。やはり同盟国の信頼関係を重視する姿勢の表れとも取れると思います。今回、北朝鮮問題が一筋縄ではいかないということが改めてはっきりしたわけで、一国行動主義を取ってきた大統領ではありますけれども、やはり事態を打開するためには、日米韓3か国の同盟関係というのが、これまでより重要さを増してくる可能性がありますし、北朝鮮問題で日本はこのところ若干存在感の低下が指摘されてきたわけですけれども、関与の度合いを増すチャンスは、むしろこの先、増えるかもしれないと思います。

武田:秋山さんはいかがでしょうか?

秋山さん:中途半端に妥協して、今後、次のステップに進むことが困難になるような合意をしなかったという点で言うと、安全保障上はこれでよかったのかなと思いますが、それは今の短期的な話であって、やはり中長期的には、核兵器をどうやってなくしていくかと、北朝鮮の非核化を進めるというのは、構造的により安全な東アジアを追求するということでもあるので、今後も日本とアメリカがより緊密にコミュニケーションを取りながら、米朝の対話を促すということと、それから日本とアメリカの間の安全保障関係を強固にすることによって、ヘッジをかけると、つまり保険をかけるということをしていく必要があるのかなというふうに思っています。最後の記者会見の中で大統領が日本との関係について、「築き上げた信頼を壊すことはしたくない」ということを言っていて、これは個人的なリーダーどうしの関係ということもそうなんですけれども、日米の当局というか、実務家どうしの対話もしっかりできているということかと思います。

武田:日本の立場にも配慮をした交渉だったということが言えるかもしれないということですね。

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