クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2019年2月12日(火)

個人情報格付け社会 ~恋も金回りもスコア次第!?~

個人情報格付け社会 ~恋も金回りもスコア次第!?~

学歴や職業、購買履歴に交友関係…こうした個人情報をAIが解析、点数化し一人ひとりを「格付け」するシステムが世界に広まっている。中国では格付けスコアを基準に結婚相手を探す人や、家賃が当面無料になる恩恵を受ける人が現れるなど社会の隅々に浸透。日本でも、睡眠時間や食生活、読書や散歩の習慣といった多様な個人情報からAIが割り出したスコアによって、低金利で融資を受けられる新たなサービスが始まり若い利用者が増えている。「個人情報格付け社会」の到来で、世界や私たちの暮らしはどう変わるのか迫る。

出演者

  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 鎌倉千秋 (キャスター)

金回りも恋も点数次第!? 巨大企業が個人を格付け

今、中国では、ある数字が恋愛やビジネスをも左右します。

これは、その人がどれだけ信用できるかを点数化したもの。

「ゴマ信用」と呼ばれるシステム。今や中国では、7億人がこの点数で格付けされているといいます。
進めているのは中国最大のネット通販会社・アリババグループ。ジャック・マー会長は、ゴマ信用が社会を根底から変えると断言します。

アリババ CEO ジャック・マー
「私たちはシステムを利用する全ての人を、点数で格付けをします。将来、女性の母親はこう言うでしょう。『うちの娘と付き合いたいなら、君のゴマ信用の点数を見せてごらん』。」

浙江省で飲料水の販売会社を営む、李春さん。15年前、専門学校を卒業後、会社を設立。借金に頼らない堅実な経営が、高い点数につながったと感じています。

「これからもずっと高い信用力でいたいです。」

点数を決めるのは、細かな個人の情報です。買い物履歴や、アリババが手がける金融ローンの支払い状況、さらに学歴など、ゴマ粒のようないくつもの情報をAIが分析。950点満点で点数化します。
点数に応じた格付けは5段階。350から500点の人は「やや劣る」とされ、李さんのように700点以上の人は、「大変良い」とされます。

点数しだいで、利用者はアリババが提携する企業や団体から、さまざまなサービスを受けられます。例えば550点以上の人は、街なかで携帯の充電が無料。さらに点数が高いと、病院の予約が優先され、低い金利でローンが組めるなどの優遇が受けられます。一方、アリババは金払いのよい消費者を絞り込み、効率的なセールスや取り引きが行えるといいます。

今、ゴマ信用の点数は利用者の人生にまで影響を及ぼしています。713点の張琳さんが真剣にのぞいているのは、婚活サイト。

張琳さん
「私は友達でも交際相手でも、より信用の点数を重視しているの。」

理想の相手も点数しだい。そこに、ある男性から連絡が。張さんがした質問は…。

“あなたのゴマ信用の点数は?”

その1分後…。

張琳さん
「“733点”。比較的信用がある人かな。」

自分より点数が高い人と知り、張さんは、この男性と連絡を取り続けることにしました。

張琳さん
「信用の点数は人格そのものです。とてもファッショナブルでいいシステムだと思う。頼れる彼氏を見つけたいわ。」

ゴマ信用の点数で、大きなビジネスチャンスをつかむ人もいます。飲料水を販売するあの李さんから、ひとつき後、連絡があり再び訪ねました。

「こんにちは。会社の場所が変わりましたね?」

李春さん
「引っ越したばかりなんです。お入りください。」

会社を新しい場所に移したといいます。

「こんなに広い場所、家賃は高いですよね?」

李春さん
「とても高いですが、私はお金を払っていません。」

李さんの高い点数に目をつけたビルのオーナーが、出世払いを前提に、しばらく無料で事務所を貸してくれたのです。

ビルのオーナー
「彼女は779点、私は759点です。同じレベルの人間だ。だから彼女は堅実で誠実だと見て、無償で事務所を貸したのです。将来、彼女のビジネスは成功する。それを期待しています。」

李春さん
「昔なら、こうした大きな場所を借りるにはコネや抵当がなければ無理でした。時代は変わりました。本当に幸運でした。」

なぜ中国で、これほど急速にゴマ信用が広まったのか。これまで中国では、政府の有力者とのコネが重視され、裏金も横行。個人を評価する、より客観的で公平な基準が求められていたと専門家はいいます。

杭州師範大学 曹明富教授
「近年、経済が飛躍的に発展した一方で、中国全体で道徳の問題が顕著になりました。(AIなどの)技術を使って信用を管理すれば、公平になります。新しい技術が私たちに利便性を与えてくれたのです。」

今や、中国人に大きな影響を及ぼすゴマ信用。一方で、その過熱ぶりが懸念される事態も…。

“点数を獲得するには、できるだけ個人情報を入力し、(アリババの)あらゆるサービスを利用します。給料を全額アリペイに預け、クレジットカードや電子マネーをフルに利用します。”

これは、点数を上げるノウハウを紹介した個人の動画。しかし、これはあくまでうわさや臆測。アリババは、点数を上げる具体的な方法を明かしていません。
うわさは街なかでも拡散し続けています。タクシードライバーの李祝敬さんです。

李祝敬さん
「少し前に何かで見たんだけど、友達の点数が低いと自分の信用にも影響するらしいよ。」

うわさを聞いた李さんは、あまり評判のよくない友達を、最近SNSから削除するようになりました。

李祝敬さん
「この人もちょっと…削除だな。最近この人がお金を借りて、返さないという話を聞いたんだ。だからアリババでもお金を返さないかと思い、削除しました。」

「何年も友達なのに、後悔はしませんか?」

「後悔なんてしません。」

ゲスト宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授)

武田:今日はビッグデータを使って、日本の未来を考える公共政策のプロ、慶應義塾大学の宮田さんとともに考えていきたいと思います。これはそもそも「アリババにとっていいお客さんかどうか」という格付けですよね。それを婚活や友達作り、友達関係にまで応用するのは、さすがに行き過ぎではないかと思うのですが、どうご覧になりましたか?

宮田さん:おっしゃるとおり、やっぱり「個人を格付け」という言葉を聞くと、すごく強烈ですし、新しい管理社会の到来だと、そういう批判ももっともだと思うんです。一方で、これまでもクレジットカードだったり、あるいはマイレージのステータスだったり、あるいは運転免許だったり、われわれは実はこういったスコアを用いて社会を回してきたということがあり、これは実は身近なものでもあったんですが、ここに今回、個人の生活が加わるということが課題であり、可能性があるかもしれません。

武田:鎌倉さんは中国に詳しいということで。なぜ、中国でこんなことになっているんですか?

鎌倉:なぜこれだけ受け入れられているか、まさに水ビジネスで成功した女性の言葉が象徴的だったと思うのですが、あの人は特別高い学歴があったわけでもない、有力者にコネがあったわけでもない、財産も別にたくさんあったわけではないけれども、日々の行いを積み重ねることによって、自分の信用のポイントを上げて、チャンスをつかんだというところなんです。
中国は土地が広大ですよね。多種多様な文化背景のある民族が暮らしていて、知らない人どうしの間に信用を築くのが、ものすごく難しい社会だった。そこに可視化された信用ポイントがあることによって、無用な疑心暗鬼を生まなくて済む。それがこれだけ受け入れられている背景かなと。

武田:今まで評価されなかった人が、評価されるようになってきたということですね。確かに日本でも、おっしゃったように、今、学歴ですとか、どんな会社に勤めているかといったさまざまな個人の格付けというのはこれまでもあったと思うんですけれども、何が新しいんでしょうか?

宮田さん:これまでは減点方式で格付けをしてきたのが多かったんですが、今回、例えば中国では、ごみの分別をすると、その重要度においてポイントがたまると。あるいは環境に優しい行動をすると、その分、バーチャルで木が育って、木が一定以上になると、今度は砂漠に本当に埋められると。人のよい行いというものを、スコアで引き出そうという取り組みが始まっています。さらにそこに、いわゆる自分自身の行動だけではなくて、子どもの進学にも影響するかもしれないということになってくると、お金を超える価値に今後なるかもしれないということも言われ始めています。

武田:信用というものが。

宮田さん:今まで「お金より大切なものはある」ということを皆さんに言ってきたんですけれども、なかなかこれを明確に形にして共有することは難しかったんですが、これがまず信用という形で、国家単位で行われてきたと。資本主義やお金を軸に回ってきたんですが、もしかしたらこのデータによって、価値、信用だったり、それは善行なのかもしれないですが、いろいろな価値が回っていく社会というのが、これから来るかもしれないというところが、注目すべき点かなと思います。

武田:とはいえ、特定の企業が何か1つの価値観で人を評価する、これはちょっと心配でもありますよね。

鎌倉:この先、どのようなことが懸念されるのか、個人情報保護に詳しい専門家に尋ねてきました。

慶應義塾大学 法科大学院 山本龍彦教授
「社会のあり方にも関わってくるので考えなければならない。一気にスコア(点数)をベースにした新たな身分制度にもなりかねない。負のスパイラル。例えば低賃金の職につかざるを得ない、低賃金の職についたことがスコア(点数)を下げる要素になる。ある意味で負のスパイラルが起こってくる。」

武田:信用というものがデータになって、広く共有されるようになったのは確信的だというお話でしたけれども、そうなると信用がない人は、それがどんどん拡散していくということになりますよね。どんなデメリットがあるとお考えですか?

宮田さん:おっしゃるとおり、やはり負のスパイラルを生むと、山本先生のご指摘が正しいですし、もう1つは、一極化した価値という形で人々が評価されたときに、じゃあ誰がそれは違うんだと言えるのか、というような指摘もあります。その中ではやはり評価軸を多様化していくということもすごく重要なのかなと。
例えば、トマトがあるとします。おいしいトマト、甘いトマトだと高く売れると、今までそういうような価値観もあったんですけれども、例えばミートソース・スパゲティーを作るとなると、酸味のあるトマトのほうがおいしいと。スープを作る、そうすると水分のバランスも違ってくる。やはりおいしいトマトは、やっぱり人々のどう料理するかによっても変わってくると。これは一例でしかないんですが、人々の生き方にもやはり多様な価値があって、この価値を皆でどう作ったり、あるいはどう育てていけるのかということも重要になるのかなというふうに思います。

鎌倉:個人情報によって点数をつけるスコアリング、実はこれ、日本でも始まっているんです。個人情報保護法を守りながら、金融分野を中心に始まった新たなサービスを取材しました。

個人情報で金利が低く!? 金融業 日本初の試み

1年半前、大手銀行と通信会社が、AIによるスコアを使った日本初の金融事業を始めました。個人を1,000点満点で評価。スコアに応じてローンの金利を決める新たな貸金業です。

都内の会社員、北野英吾さんです。キャリアアップの勉強の資金にスコアリングによるローンの利用を検討しています。生年月日などを打ち込んだあと、まずは150の質問に回答。

北野英吾さん
「『お酒を飲みますか?』。これで(スコアが)変わるんですかね。」

「これも面白い。『食材を買うときは何を意識しますか?』。産地、品質、有機野菜、価格。産地はそんなに(気にしない)。有機野菜かな。」

中国のシステムに比べ、学歴や年収のほかに、個人の趣味や性格、食の好みなど細かく情報を求められるのが特徴です。回答をもとに、AIが本人の健康状態や将来性などを総合的に判断。

北野英吾さん
「860点ですね。」

ランクはゴールドで、金利は6.2%。既存の消費者金融より低い設定です。
さらにこのスコアは、努力しだいで上げることもできるといいます。
亀ヶ谷尚也さん、30歳の会社員です。3年前、生活費にと220万円を銀行カードローンで借りました。こまめに返済を続けたものの苦しくなり、さらに別の銀行カードローンで借りようとしたところ、金利は14%。

亀ヶ谷尚也さん
「『うわ(金利が)高いな』と思いましたね。すでに他から200万円以上も借りていると、高い金利になってしまうのかなと。」

そこで、このスコアリングサービスを利用すると…。

「こちらなんですけれども。利率は5.7%、借りられる額は180万円と提示されました。」

実は亀ヶ谷さん、金利を下げるため、さまざまな努力を重ねてきました。最初のスコアは676点。下から2番目のランクでした。そのとき、AIから意外なことを勧められました。それはなんと「散歩」。毎日8,000歩以上歩くと、アプリを通じてAIに報告され、健康に気を配っていることが評価されます。

亀ヶ谷尚也さん
「たまに電車で移動していたような距離でも歩くこともあって、実際3駅分くらい歩いてしまうことも、ざらにあるようになりました。」

睡眠時間も増やしました。毎日10時に寝て、5時に起きる規則正しい生活に。さらに、この会社のAIが勧める、将来のキャリアに役立つ電子書籍を積極的に読むようにしました。
こうした情報を一つ一つAIが吸い上げ、亀ヶ谷さんのランクはゴールドに上がりました。5.7%の金利でつなぎの融資も得られ、昨年末、なんとか借金を完済しました。

亀ヶ谷尚也さん
「人によっては、管理されている感だとか、情報が売られている感が嫌だと思いますけど、僕の場合は努力を認めてもらえるというプラスの捉え方ですので。」

すでに40万人以上が登録している、このサービス。AIによる審査によって、貸倒(かしだおれ)率は人間が行う場合に比べて半分以下になったといいます。

J.Score 大森隆一郎社長
「その人のビッグデータ、情報をいかに大量に数多くいただけるかにかかっている。たくさんの情報を提供していただければ、より正確にその人のことがわかる。だから非常にその方がしっかりしていれば、非常に良い条件を提示することができる。」

ただし、今のところ、スコアの利用を結婚や就職など、その人の人生に関わるサービスにまで広げる予定はないといいます。

J.Score 大森隆一郎社長
「いろんなビジネスとのアライアンス(提携)のお話も頂戴していますけれども、ややもすると人生の大事なイベントに、このスコアがある意味で格付け的に使われてしまう懸念が非常に大きいので、そこで使い方を誤っていくと、日本の中での信用スコアというものは変な方向に進むリスクがある。」

武田:そういうことを考えているわけですね。ただ、散歩をすると、なぜお金を貸してもらいやすくなるかというのは…。どういう理屈なんですか?

鎌倉:あくまでAIが判断しているので、ブラックボックスの部分も多いんですけれども、散歩を続けるという人は健康に気を遣っている、前向きであるというふうになりますと、長期間返済していける可能性が高いと判断されるんです。もちろんほかの質問や、継続的なやり取りからトータルにその人の傾向や性格を分析するそうなんですけれども。
日本は今、少しずつサービスが始まった段階なんですけれども、先ほどの中国では、企業だけでなく、政府も個人情報による格付けを導入し始めています。

行政も国民を格付け 低ランク者 電車にも乗れず

昨年(2018年)、中国の国有鉄道で撮影されたある動画がネットで話題になりました。

国有鉄道の車内アナウンス
“お客様にお伝えします。切符がないままの乗車、秩序を乱す行為、公共の場所での喫煙は規則により罰せられます。また、その行為は信用情報システムに記録されます。”

中国では政府が、鉄道や公共の場所で国民一人一人を格付けするようになっています。すでに無賃乗車や車内での暴力行為など、秩序を乱すとされた2,000万人以上が、高速鉄道や飛行機の利用を禁止されています。より信用が低い人は、ネットで名前とIDが公表されます。

システムを導入した都市の1つ、北京。日々の細かな行動が個人の信用に影響します。その1つが、自転車の駐輪。駐輪禁止の場所に止めると、監視カメラの顔認証システムで個人を特定。信用の格付けに影響します。システム導入後、北京市では、それまで多かった違法駐輪が減ったといわれています。

「市の景観にとっては良いこと。私たちも協力するべきだと思うよ。」

「もちろん信用は大切です。誠実でない人は嫌いだわ。」

社会の秩序を守り、治安を維持するため、政府は今後もシステムを推進していく方針です。

武田:街がきれいになるということに異論を挟む人は多くはないと思うんですけども、ただ、国や大企業がこれはいい行い、これは悪い行いというふうに決めつけていくということには、ちょっと違うのではないかという気もしますけれども。

鎌倉:まさにそこなんです。個人情報の格付けと政治が結び付くと何が懸念されるのか、専門家の指摘です。個人情報保護に詳しい慶應義塾大学法科大学院・山本教授は、「監視カメラなどと格付けが結び付くと、政府へのデモなど、国民の表現が委縮する可能性がある」と懸念されています。

個人情報格付け社会 データを制す者が勝つ?

武田:これだけ個人情報のデータが世の中を変えるような力があるとすると、それは誰が主役で、どう使っていくのか、大きなテーマですよね。

宮田さん:おっしゃるとおりですね。そういう意味では今、大きな転換点にあります。中国のように、国家が主導するということだったり、アメリカのように企業が主導する、これに対する新しい流れとして、EUでは個人が主役になると、個人を軸にデータを使うという、こういったルールが提案されています。
ただ、実はまだまだ課題があって、今度は個人の同意を個別で取っていくと、経済が止まってしまうんですよね。今まではセキュアの延長で「このデータは私のものです、あなたのものではありません」というルールを作りがちだったんですが、データは実は、共有すればするほど価値が高まる。一方で、信用をなくすと、根こそぎ枯れ果ててしまうと。やはりこの共有財、公共財という側面から新しいルールを日本が作ることができれば、世界に対するインパクトになっていくのかもしれないなと考えています。

武田:企業、国家、あるいは個人、その枠を超えて、公共で利用していく。

宮田さん:あるいはそれぞれの立場が共有をしていくという、そういうルール作り、これが必要な時代ですね。

武田:いずれにしても、何のためにデータを使われているのか、それによってどんな社会を目指すのかは、個人個人がやっぱり納得したいですよね。

宮田さん:やはりこれからは、自分のデータがどう使われるのか、こういったことを説明する権利も必要になるかなと思います。