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2019年2月6日(水)

“チャイナ・ショック” は起きるのか? ~米中貿易摩擦の裏側で~

“チャイナ・ショック” は起きるのか? ~米中貿易摩擦の裏側で~

「尋常でない変化が起きている」。先月、日本電産・永守会長は、中国市場の需要急落への“危機感”を表明。今月に入り、他のメーカーでも業績の下方修正が相次いでいる。私たちの年金基金の運用や、不動産価格に大きく影響する中国経済の行方。危機はどこまで深刻なのか?米中貿易摩擦による影響は?番組では、中国製造業の最前線を緊急取材。専門家を交えて、懸念が拡がる中国経済の現状を読み解く。

出演者

  • 麻木久仁子さん (タレント)
  • 細川昌彦さん (中部大学特任教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 鎌倉千秋 (キャスター)

企業 消費 年金… 広がる日本への影響

中国経済の減速の波が日本に。

デパート業界では先月(1月)大手5社全てで、外国人旅行者への売り上げが前の年を下回り、危機感を強めています。

松屋 顧客戦略部 服部延弘部長
「(中国人相手なら)黙っていて、ものが売れるという時代はもうない。昨年同様の売り上げを確保することは非常に大変、難しいことだと理解している。」

中国経済の先行き懸念もあり、去年(2018年)秋から世界中の株価が下落。日本の年金基金による運用の赤字幅は14兆8,000億円、過去最大となりました。

さらに、日本を代表する経営者は、中国市場の落ち込みを受けて強い警戒感を示しました。

日本電産 永守重信会長
「私は46年間経営しているが、月単位でこれだけ、リーマンショックのときは全体的に一気に半分になったが、月単位でこれだけどんどんと落ちたのは、おそらく経営していて初めて。初めて経験することはやはり注意しないと。甘く見てはいけない。」

今週本格化している決算発表では、売り上げの予想を下方修正する企業が相次いでいます。

パナソニック 梅田博和CFO
「米中貿易摩擦の影響を受け、中国設備投資需要が減速し、モーターを中心にメカトロニクスが大きく減収減益となった。」

思わぬ受注キャンセル 見えてきた深刻さ

今、中国経済に何が起きているのか。中国で自動車メーカー向けに機械部品を作る企業です。先週金曜日、中国工場の幹部と緊急の会議が行われていました。

南武 野村伯英社長
「そちら(中国)の受注状況はいかがですか?」

南武 営業部 吉富英明部長
「購入まで進められないという話がありました。」

鎌倉:今の現状は、どのように分析されているのか、どういうふうに見ていますか?

吉富営業部長
「お客さんを回ると、『不景気だ』とおっしゃる。中国人営業マンの報告でも同じような報告を受けています。」

野村社長
「今まで以上に難しいかじ取り。営業戦略を変えていかないといけないと思っている。」

中国で、ものが行き渡ってきた影響が、この企業の中国工場にも…。工場を訪ねてみると、行き場を失った部品がそのままになっていました。

吉富営業部長
「急きょ出荷を止めてほしいと。最終エンドの自動車メーカーが販売不振なので、今のところ金型が必要なくなった。だから1回、プロジェクトを凍結したいと。今までは、ほとんどなかった。」

大型の受注が突然キャンセルされたのです。

吉富営業部長
「お客さんの言葉で印象的なのは、『リーマンショック以上に仕事がない』。『本当に不景気で困っている』という言葉を、みなさんおっしゃるので、それだけ深刻なんだなと。」

今や世界最大の自動車市場となった中国。ところが去年、中国国内の販売台数は28年ぶりに減少に転じました。

自動車メーカーの中には、急きょ、開発のための設備投資を中止するところが現れ、その影響が日本の部品メーカーにも及び始めているというのです。

鎌倉:こちらが御社のもので、前年比、同月に比べると89%、1割減。

野村社長
「1割減ですね。」

去年は過去最高の売り上げを記録しましたが、中国工場の1月の売り上げは、前の年と比べて1割減少していました。てこ入れのため、本社から営業部長を中国へ長期派遣。顧客の課題解決や製品のメンテナンスなど、サービスにも力を入れ、売り上げの落ち込みを挽回しようとしています。

鎌倉:消費がこれから伸びていかないなかで、その戦略は?

野村社長
「今までのやり方じゃ、まずいぞと。右肩上がりの時代の経営感覚を、こういう時代に今までどおりやっていたら、絶対にうまくいかない。お客さんが『なくてはならない』と思ってもらえるようなサービス製品を提供できる会社にならないといけない。」

私たちの暮らしへの影響は? 異変のシグナル

ゲスト 麻木久仁子さん(タレント)

武田:企業も大変だねと、麻木さん、思ったかもしれませんが、実はそうじゃないんです。私たちの暮らしに直結した話なんですね。
企業の業績が伸びていけば給料が増えますよね。すると消費が増えて、そして企業がさらに成長すると。今の日本経済はこういうことを目指しているわけですね。そのために欠かせないのが何かといいますと、中国経済、中国市場なんですね。

麻木さん:VTRを拝見していましたら、「リーマンショック以上」のとか「リーマンショック以来のとか」って。もう「リーマンショック」って聞いただけで、えー!ってなっちゃうんですよ。まだ私たちの国、立ち直ったとも言えないのに、もうひと波が来ちゃうの!?と思うと、身近な生活にどれほどの影響が出るんですか?

武田:リーマンショック以来、日本経済の好循環を回していくためには、中国市場の成長は不可分だったわけですけれども、実は、中国の去年1年間のGDPの伸び率6.6%。これは日本の成長からすると高いように思えますけれども、実はこれ、28年ぶりの低水準だったんです。

麻木さん:私たちの国のほうの循環自体まだうまく回り始めたとは言えないじゃないですか。実質賃金だって上がっていないという話をしている時に。でもそう言いながら、6.6%もあるんだから、まだそんなに、リーマンショックって心配し過ぎなんじゃないの?という気もしますし、どれぐらいの危機感を抱いていいのか、まだちょっとよく分からないんですよ。漠然とした不安が、今、湧き上がってきました。

武田:VTRで見た自動車だけではなくて、もう一つ、私たちに身近な製品の売れ行きが頭打ちになっているんですね。それがこちらの中国国内のスマートフォンの売上高。去年は前の年に比べて15%も少なくなりました。これがどういうことか分かりますか?

麻木さん:私が思いつくのは、「みんながスマートフォンを持っている」ぐらいしか思いつかないです。

武田:もちろんさまざまな見方があるんですけれど、だいぶ中国市場の中でも「モノがいきわたっている」ということもあるようなんですね。

鎌倉:これは今、中国で売られている中国製のスマートフォンなんですけれども、実はこういったスマートフォンが売れなくなってきたことで、日本企業にとっても困ったことになっているんですよ。その理由は、このスマートフォンの中身を見れば分かります。

中国の人がモノを買わなくなると… 日本への影響

通信機器の部品を調査している、柏尾南壮さんです。柏尾さんによりますと、中国製のスマホには日本製の部品が多く使われているといいます。

フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ 柏尾南壮さん
「これは液晶ディスプレイ。これをつくっているのは、ジャパンディスプレイという日本のメーカー。これはCMOSイメージセンサー。カメラでいうとフィルムのような役割を果たす。これをつくっているのはソニー。やや小ぶりな部品、このあたりは村田製作所、TDK、太陽誘電。」

1,400ほどある部品のうち、およそ900が日本製だというんです。

柏尾さん
「大事な品質はまず小さいこと。そしてバッテリーの容量に限りがあるので、電気をあまりくわないことがスマホの高い品質。その分野で日本はダントツに優れている。」

麻木さん:なるほどね。最近、某アメリカ企業のスマホの中身はほとんど中国製だ、みたいなことを聞いたことがあったんですけれど、逆に中国のスマホは、実はメイド・イン・ジャパンと言ってもいいぐらい、日本の優秀な技術が取り入れられているんですね。

武田:こちらのデータもご覧いただきたいんですけれども、日本の輸出品目のうち、自動車に次いで多いのが、スマートフォンなどに使われる半導体等電子部品なんです。その最大の相手国が中国。およそ4分の1を占めているんです。今回、決算で業績予想を下方修正した企業がこれだけあるんですけれども、こういった企業の中でも、スマホなどの電気・機械関連ですとか、自動車関連のメーカーが目立っているということなんですね。

今回、企業を取材した鎌倉さんはどんなこと感じましたか?

鎌倉:私は主に消費の現場を取材してきたんですけれども、そこで感じたのは、現場の人たちが何かしらの「異変のシグナル」を感じ取っているのではないか、ということなんですね。例えば銀座のデパートの方なんですけれども、去年の秋以降、かつてのように、1個何百万もするような高級時計だとかワインだとか、それをばんばん買うような中国人の姿はあまり見かけなくなっただとか、先ほどの自動車の油圧シリンダーを作っている会社は、新車の販売が去年初めて、28年ぶりに下回りましたけれども、中古市場の成熟というところに注目していたんですよ。つまり新しいものをどんどん旺盛に買うような消費スタイルから、だんだんと日本人のような、いいものをじっくり買うような消費行動に変わってきている。そういった「異変のシグナル」を感じたのではないかと。

麻木さん:早いですね。ばかばか買うところから、落ち着いてとか。最近も、日本に来る観光客の方も、買い物よりも日本のいい所を見て回ったり、体験型に変わったなんていうことを聞いたことがありますけれど、ある種、洗練されたんでしょうけれど、お金の使い方の変化がだいぶ早いなっていうか、もう終わり?っていう感じですね。

ゲスト 細川昌彦さん(中部大学特任教授)

武田:それが何を意味するかということなんですが、中国に進出している日本企業のアドバイスもされている細川さん、どういうふうにご覧になっていますか?

細川さん:経済で見る時、「生産」と「消費」がありますよね。今、お話にあったのは「消費」のほうですよね。この「消費」を見る時は確かに、デパートであんまりものが売れなくなったとかがありますけれども、同時に電子商取引というので、国境を越えてネットでどんどん買っていますし、そうするとトータルとしたら消費はそんなにも落ちていない。それから観光客の行動パターンも、今、麻木さんがおっしゃったように、爆買いからリピーターが増えてきたら、だいぶ行動パターンが変わってきますよね。だから、あまり一面だけ捉えて、消費がガクっと落ちてきたと思う必要もないので、複眼的に物事を見ていく必要があるなと。消費の面はそうだと思いますね。

武田:ただ、中国経済が減速していると言われていますよね。

麻木さん:今出てきたのは、どちらかというと、ものづくりのほうで減速っていっていますけれど、やっぱり中国って人がすごくいっぱいいるから、私のイメージからすると、確かに爆買いしていた人は、今しなくなったかもしれけど、その次の段階の人たち、後からまた追いついて経済状況がよくなった人たちは、そこそこ買わないのかなって、そのへんが不思議で。中間層みたいなところがまだいそうな気がします。

細川さん:「消費」の話と、もう一つ最初「生産」の現場の話がありましたでしょ。むしろ、そっちのほうが深刻なんですよね。中国は今、人件費がどんどん上がっている。そうすると、中国で作るよりも外で作っていくほうが、生産拠点を外に。日本企業だけじゃなくて、中国企業だって外に行こうかとか、そういうこともありますから、全体として生産が落ちている。そうするとリストラが起こったり、それから倒産があったり。

麻木さん:でも、まだ6%以上も成長しているのに?

細川さん:そうなんですが、そういう輸出企業のところは、今、どんどん変調を来しているということで、むしろそっちのほうが深刻でしょうね。

米中対立が深刻化すると… 先行きへの不安

武田:日本経済の好循環が、中国経済の減速で滞るかもしれないという話なんですけれども、もう一つ心配なこと、最近よくお聞きになりませんか。こちら、米中の対立です。

麻木さん:今、対立が深まっているとか、貿易摩擦とかって、最近急に言うようになりましたよね。

武田:貿易摩擦から始まって、アメリカは中国が知的財産を盗んでいるんじゃないかというふうに主張して圧力を強めています。それを象徴するのが、中国の巨大通信機器メーカーのファーウェイを巡る問題です。去年12月、アメリカの要請で、ファーウェイの副会長がカナダで逮捕されて、今、中国は反発を強めています。この対立が世界経済の行方を左右しかねないと見られているんです。

ファーウェイにカメラが… 米中対立で何が

先月、中国・広東省にあるファーウェイの研究開発拠点にカメラが入りました。移動で利用するのは、なんと社員専用の電車です。

馬場健夫支局長(広州支局):こちら、西洋風の列車。実は、ファーウェイの新たな拠点を一周する乗り物なんです。

全従業員18万人のうち、半分近い8万人が研究開発に従事するファーウェイ。敷地は広大で、移動には電車が欠かせません。面積は東京ディズニーランドの、実に2.5倍です。ファーウェイはスマホだけでなく、セキュリティー技術の開発にも力を入れています。展示スペースにあったのは、現在開発が進む顔認識技術。通行人の中から犯罪者など個人を特定することが可能になります。ファーウェイは170か国以上で事業を展開して急成長。スマホ市場では世界第3位のシェアを誇ります。

ファーウェイを創業した、任正非CEO。詐欺などの罪で起訴されている、孟晩舟副会長の父親です。

ファーウェイ 任正非CEO
「われわれは違法なことはしません。たとえ政府から求められたとしても従いません。世界中でファーウェイに勝てる企業はないのです。弊社の製品を使わない国は遅れをとりますよ。」

米中対立が深刻化すると… 先行きへの不安

一方のアメリカ、トランプ大統領。日本時間の今日(6日)行われた一般教書演説で、中国を改めて批判しました。

トランプ大統領
「中国はこれまで何年にもわたって、アメリカの産業を標的にし、知的財産を盗んで、われわれの職と富を奪ってきた。こうしたことは終わりにすると、中国に対して宣言する。」

アメリカは、孟副会長個人だけでなく、法人としてのファーウェイも詐欺などの罪で起訴。さらに、関連会社がアメリカ企業の機密を盗み出したとしています。

FBI高官
「ファーウェイのような企業の顧客情報は、中国政府によって、どうにでも利用されるおそれがある。」

ファーウェイは否定しているものの、アメリカは安全保障上のリスクがあるとして、各国に製品を使わないよう要請。排除に向けた動きが広がっています。ファーウェイと取り引きしてきた日本企業にも影響が及んでいます。

ソフトバンク 宮川潤一副社長
「技術力がよくて本当に価格も安いファーウェイさんとお付き合いしていきたい気持ちはやまやまですが、最終的には日本政府の方針には従っていきたい。」

アメリカは、来月(3月)1日までに中国が十分な対策を示さなければ、追加の制裁に踏み切るとしています。米中の対立が長期化すれば、成長が続いてきた世界経済に悪影響が広がるのではないか。先月、世界の政治家や経営者が集まるダボス会議では、懸念の声が相次ぎました。

シーメンス ジョー・ケーザーCEO
「貿易戦争ですよ。グローバル化した世界にとっていいことではありません。」

米 投資会社 代表
「欧米や中国の実体経済は、さらに減速するでしょう。」

サントリーホールディングス 新浪剛史社長
「ダボスに来てみんなが言うのは、米中の冷戦になっていると。日本が置かれた立場は大変ですねと、どっちを選ぶんですか。最終的には大変厳しいことが起こる可能性がある。」

麻木さん:どうなんですかね。私はよく分からないんですけれど、経済戦争、貿易戦争に本当の勝者なんているのという気がするんです。どなたかも「グローバル化した社会にとっていいことはない」って言っていましたね。私もそんな「どっちを取る」って言われたって「どっちも大事です」としか言いようがないし、どちらがこけても、日本は無傷じゃないんじゃないのかなって気がするんですけれど。でも、政治的な問題になっちゃうとダメなのかなって。

細川さん:グローバル化した経済は、お互いが組み込まれていますから、なかなか仕分けするのは難しいんですが、やはり安全保障上の懸念というのがものすごく大事で、情報が抜き取られるとか、そういうことをアメリカが懸念しているわけですよね。

武田:米中が争っているのは、AIですとか、あるいは次世代の通信規格「5G」などの「ハイテク覇権」と呼ばれているところなんです。こうしたハイテク分野で世界をリードすることができれば、自動運転ですとか、ロボットなど、こういった産業面にとどまらず、今おっしゃったように、安全保障、軍事技術で優位に立てるんじゃないか。だから米中の対立は、ただの貿易摩擦ではないと。

細川さん:特にファーウェイの場合は、国家主導でやっている経済システムの中核のプレーヤーだと。国家と一体になっているというところがポイントですよね。

麻木さん:でもこれ、どこまでいくんですか?

細川さん:これは長引くと思います。オバマ政権の時から目をつけている話で、根深い問題ですから。

武田:この先は、3月1日までに交渉で合意しなければ、中国にさらに高い関税をかけるというふうになっていますけれども。

細川さん:これは、こういう関税合戦とは、私たちは全く切り離して考えなきゃいけないので、根深い構造問題ですから、トランプ大統領が取り引きしようが、この問題は延々続くと。それからもう一つ大事なのは、我々は経済だけでずっと今まで見てきてましたけれども、安全保障というのが、これからとっても大事な要素になってくるので、新浪さんがおっしゃった、アメリカを取るか中国を取るかではなくて、むしろ経営者自身も安全保障を考えて今後経営していかなければいけない時代になってきたということだと思いますね。

麻木さん:でも一方で、それぞれの国の経済が不安定化すれば、よりその国どうしの対立が強まって、また安全保障上もギスギスするとかって。なんだろう、なんかどこかでちょっと落ち着いて、あくまでも経済的な合理性を忘れないようにしたほうがいいんじゃないのかなという気がするんですけれども、なんとなく今の空気だとね。

武田:安全保障までいってしまうと、何でもかんでも貿易はダメになってしまうんじゃないかという気もします。

細川さん:中国は国家が主導してやっているというところが、我々が戦後の70年間で作ってきた経済システムと異質だというところが、根本的に違うんですね。

麻木さん:でもその国が今、ものすごい影響力を世界の経済で持っているということは無視もできないし。日本はどうしたらいいんですか?

細川さん:だから、取り引きは取り引きでやるところはあるんですが、同時に安全保障も考えながら経営していく。微妙なバランスがこれから難しくなってくる。リスクを考えて、経営者もやらなきゃいけないということですね。

武田:大きな状況を考えながら、やっぱり見てかなければいけない。難しい時代ですね。