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2019年1月30日(水)

“ゴーン・ショック” 第2幕 どうなる日産の今後

“ゴーン・ショック” 第2幕 どうなる日産の今後

日産カルロス・ゴーン前会長の勾留が長期化する中、“ゴーン後”をめぐる水面下の綱引きが始まっている。日産への影響力を確保したいルノー、経営統合も視野に入れてきた株主のフランス政府、そして経営の自主性を守りたい日産・・・。カギを握るのがルノー新会長に指名されたジャンドミニク・スナール氏だ。フランス最優秀の経営者とも言われた氏が、一体どんな青写真を描いているのか?一方、ゴーン前会長の新たな疑惑も次々と浮上。中東を舞台とした“不透明な金の動き”を追跡した。

出演者

  • 中西孝樹さん (ナカニシ自動車産業リサーチ)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター) 、 鎌倉千秋 (キャスター)

日産・ルノー ついにトップ会談へ “ゴーン・ショック”第2幕

明日(31日)から開かれる会議で、日産はルノーとのトップ会談に臨み、今後の提携関係について議論を始めようとしています。その鍵を握るのが、先週ルノーの新会長に就任した、ジャンドミニク・スナール氏です。

フランスを代表する世界第2のタイヤメーカー、ミシュランでCEOを務め、フランス政府とも深い関係を築いてきました。
日産はルノーの15%の株式を持っているのに対し、ルノーは日産の43.4%の株式を持ち、ルノーだけに議決権があります。両方の会長に就いていたゴーン氏が退いたことで、両社の主導権争いが表面化。今月(1月)ルノーの筆頭株主フランス政府は、日産と経営統合させたい意向を日本政府に伝えました。資本関係で優位に立つ、ルノーのスナール新会長の出方が注目されているのです。
スナール氏とはどんな人物なのか。3年前、フランスの最優秀経営者に表彰されたスナール氏。協調性を重視する経営だと評価されました。

ジャンドミニク・スナール氏
「私は現場にすべて任せました。困難を乗り越えられたのは社員たちのおかげでした。」

前の政権で経済相を務め、スナール氏をよく知る、ミシェル・サパン氏です。人望が厚く、日産との信頼関係を回復するのにふさわしい人物だと評価しています。

ミシェル・サパン前経済相
「スナール氏はフランスの経営者の中で最も偉大な人物で信頼できる男です。独裁的で自分ですべてを決めてしまうゴーン前会長と違った変化を期待できるでしょう。」

一方で、取材を進めると、スナール氏のしたたかな一面も見えてきました。ミシュランでスナール氏と労使交渉を重ねてきた、労働組合の代表、ジャンクリストフ・ラウルド氏。スナール氏は、従業員への配慮を示しながらも、株主からの要望を巧みに実現してきたといいます。

ミシュラン労働組合 代表 ジャンクリストフ・ラウルド氏
「とても手ごわい交渉人です。株主の利益を守ろうとするでしょう。(交渉の際に)会社の財政が苦しいということをうまく主張し組合に圧力をかけてきました。別の工場に投資することと引き換えに、工場の閉鎖を迫ってきたのです。我々は最低限を守るのが精いっぱいで、受け入れるしかありませんでした。」

手ごわい交渉人でもあるというスナール氏。ルノーの筆頭株主のフランス政府が、新会長に据えた思惑はどこにあるのか。

フランスでは今、高い失業率や広がる格差に国民の怒りが高まっています。国内に多くの雇用をもたらしてきた、国を代表する企業であるルノー。マクロン政権は、日産との提携関係を強化することで、国益を守りたいと考えているのです。
コンサルタントとして、ルノーとフランス政府の関係を長年見続けてきた、ロイック・ドゥサン氏です。フランス政府は、スナール氏の手腕を使って、筆頭株主としての意向を実現させるだろうと見ています。

株主コンサルタント ロイック・ドゥサン氏
「フランス政府はルノーの大株主として力を行使したいと思っているでしょう。国益をいかにして守るかを第一に考え、特に雇用問題を最も重視しています。日産との提携関係では、どこの工場で生産するかということにまで影響を及ぼそうとしているのです。」

もう一つ、フランス政府にとって、日産との提携関係を強化したい理由があります。自動車業界が100年に一度の転換期を迎える中、日産が持つ高い技術力を生かして、ルノーの競争力を高めたいという思惑もあるのです。

フランス ルメール経済相
「ルノーの新会長の役割は、日産との提携を強化し、電気自動車や自動運転の分野に投資できるようにすることです。スナール新会長なら必ずやってくれるでしょう。」

フランス側の動きに、日産はどう対応しようとしているのか。日産の西川社長が提携関係を維持する上で強調したのは、日産の経営の自主性でした。

日産 西川廣人社長
「お互いに自立性を尊重しながらウィンウィンの関係をシナジー(相乗効果)を最大化していく。安定的に安心して(経営を)行える環境を作る。」

しかし、日産の現役幹部を取材すると、経営統合も持ち出したフランス政府に対する強い危機感があることが分かってきました。

(取材メモ)

“国益を守りたいというフランス政府の考えは変わらない。これからも経営統合を主張してくるよ。”

“ルノーと日産、お互いにけんかはしたくない。でもお互いに自分の主張は通したい。難しい駆け引きだ。”

日産・ルノー ついにトップ会談へ 両社の思惑は?交渉の行方は?

ゲスト 中西孝樹さん(ナカニシ自動車産業リサーチ)

武田:自動車アナリストとして、日産の取材を続けている中西さん。
資本関係を見ますと、ルノーは圧倒的に日産に対して強い立場にあるわけですよね。そこにフランス政府は、新しい会長としてスナール氏を据えた。これは、ルノーが経営統合に向けて動き出したのか、日産を飲み込もうとまでしているのかどうか、このあたり、どうお考えですか?

中西さん:ルノーとフランス政府にすれば、日産と経営統合を進めていくというのは、ここ数年、既定路線として進めてきた話ですので、これは今さらに何か変わるということではないと思います。ただ、今回のゴーン氏の問題を受けて、ルノーの経営、今、非常に揺さぶられているという状況ですので、やはり経営を安定化させるということは最優先課題になりますので、すぐに何かが起こるというふうには私は思ってはいません。スナール氏自身は、非常に実績を持った、優秀な経営者だと思いますので、もし仮にそういった結果、経営統合を求めているのであれば、まずは融和路線から始まって、対話を重視しながら、牙があってもそれは隠す。そういう戦略を取ってくるというふうに考えられると思います。いずれにせよ日産のほうも、まだ経営は固まっていませんので、どういった形のガバナンスが保てるのか、次の会長が誰になるのか、こういったところが非常に重要なファクターになってくるんじゃないでしょうか。

武田:その会長人事、気になりますけれども、かつてはこうなっていました。ゴーン前会長は、日産、ルノー、三菱自動車、それぞれの会長を務めつつ、この3社連合のトップにも就いていたわけです。

では、ゴーン前会長が退いたあとの空席を巡る駆け引きはどういうふうになりそうですか?

中西さん:日産としては譲れない部分もあるでしょうけれども、恐らくこのアライアンスのトップである会長は、やはりルノー側が指名をする可能性が高いと思いますので、新しく次期会長のスナール氏が座る可能性が高い。それだけではなくて、日産の会長、あるいは西川社長に次ぐCEOのポジション、こういったところも43%の資本を持っていますので、資本の論理に立って、そういったポジションを要求してくる可能性が高いと、私は思います。

武田:そうすると、今までと変わらないということになるわけですか?

中西さん:ただ、日産の経営のほうは、今はガバナンス、第三者委員会ということで、3月末をメドに何らかの答申が出てくると。もう少し透明性のあるガバナンス体制を取るということになりますと、日産側の会長職というのは、新しい第三者がなる可能性はあると思います。

武田:そして、経済部の小坂記者。
日産の西川社長も会見では、提携関係を重視するという姿勢は見せているようですけれども、本音はどうなんでしょうか?

小坂隆治記者(経済部):日産は、経営統合については拒否をする姿勢を示しています。経営が一体化すれば、フランス政府の影響力が強まってしまうからです。ただ、日産としても提携そのものは維持したい立場です。ルノーとの提携があるからこそ、部品の調達とか開発を一緒にすることができますし、自動運転とか車の電動化といった巨額な投資が必要ですから、規模のメリットというのは十分にあります。ただ、それでもルノーが経営統合に向けて強硬策に出た場合は、日産は返す刀で、資本関係を見直すために、逆にルノーの株式を売却してしまうとか、そういった動きに出かねません。今後の焦点は、ゴーン前会長の後任を含む日産の新しい経営体制になるんですが、6月下旬の日産の定時の株主総会に向けては、両社の駆け引きというのは続くことになります。

武田:では、パリの藤井記者にも聞いてみたいと思います。
明日から開かれる3社の会議に合わせて、西川社長とスナール新会長のトップ会談も行われる見通しになっていますね。スナール新会長はどう出るんでしょうか?

藤井俊宏記者(ヨーロッパ総局):スナール新会長としても、まずはトップどうしで話せる環境を作ろうという姿勢で臨むと見られます。スナール氏は、日産側の真意や本音を、まだ直接は聞いていません。日産がルノーに対して求めている経営の自主性や、より対等な関係は、フランス政府の意向と両立できる範囲のものなのか探ると見られます。

武田:それからゴーン前会長の事件については、フランスではどう見られているんですか?

藤井記者:フランスでもゴーン前会長が、税法上の居住地を国外に移してフランスでの納税を免れていた疑惑などが伝えられていまして、同情論ばかりではありません。とはいえ、勾留が長引いて、取り調べに弁護士の立ち会いが認められないことなど、日本の司法制度に対する批判も根強くあります。

AFP通信元東京支局長 フィリップ・リエス氏
「被疑者が公に反論する機会が十分認められてない日本の司法制度は、先進国のあるべき姿ではありません。さらに日本のビジネス界のイメージも非常に悪くしています。事件が公正に処理されるまで何年かかっても私たちは注目します。」

藤井記者:事件をきっかけにした日本の司法制度に対する批判的な見方は、今後の日本への投資や企業の進出にも影響しかねず、波紋は大きいと感じます。

鎌倉:フランスをはじめ、世界中から注目を集めているゴーン前会長の事件。前会長は今月の11日に特別背任の罪で追起訴され、捜査はいったん区切りを迎えたんですけれども、日産は不正な私的流用を繰り返していたとして社内調査を続けています。また、東京地検特捜部も捜査を継続しています。中でも注目されているのが、「CEOリザーブ」と呼ばれる、これはゴーン前会長の裁量で使える予備費なんです。リコールや災害対応など、緊急時に使うことが想定されているものです。ゴーン前会長は、このCEOリザーブを、知人のサウジアラビア人の会社に不正に支出したとされているんですが、ほかにもレバノンやオマーンの代理店に支払われていたことが、関係者への取材で分かってきました。

追跡!中東の資金ルート 複雑な流れの先になにが?

日産から巨額の資金が流れていた中東のオマーン。私たちは現地に入り、資金の流れを追跡しました。

取材班
「ありましたね。見えてきました。」

まず訪ねたのは、オマーンで日産車を販売する代理店。ここに、CEOリザーブから販売奨励金などとして38億円が支払われていました。取材を進めると、鍵を握る一人の人物が浮かび上がりました。この代理店の幹部、X氏。このX氏の個人口座から支出された15億円がゴーン前会長が使っていたクルーザーの購入費に充てられていた疑いがあることが分かりました。X氏は何者なのか。代理店の関係者に話を聞くと…。

販売代理店の関係者
「彼はインドの有名な大学で経営学を学んでいて、とても優秀な人さ。」

取材から、X氏は長年、代理店の経理を担当していたことが判明。ゴーン前会長とも関係が深く、CEOリザーブの流れを把握していると見られる存在でした。日産の資金がゴーン前会長側に還流した可能性はないのか。X氏の秘書の携帯電話を割り出し、接触を試みました。

取材班
「X氏と話がしたいのですが…。」

X氏の秘書
「Xさんは不在です。インドに帰りました。」

取材班
「インドに?オマーンにはいつ戻られますか?」

X氏の秘書
「全くわかりません。」

私たちは、さらに資金の流れを追いました。すると、クルーザーの購入費に充てられたと見られる15億円は、「GFI」という別の会社を経由していたことが分かりました。X氏は、この会社の代表も務めていたのです。このGFIの登記を調べると、所在地はオマーンではなく、ゴーン前会長が国籍を持つレバノンでした。私たちはレバノンに入り、追跡を続けました。GFIが登記されていた場所を訪ねると、事務所はありませんでした。

活動実態のない、いわば“ペーパーカンパニー”だったのです。以前、ここにあったのは弁護士事務所。その弁護士はゴーン前会長と同じ学校の出身で、親友だったという証言も得られました。周辺で話を聞いてみると…。

「弁護士さんは亡くなったので、今はオフィスを閉じていますよ。」

さらに。

取材班
「全く同じ住所です。」

この住所には、クルーザーの購入に関係したGFIのほかに、別の疑惑に関わった会社も登記されていました。

「フォイノス・インベストメンツ」という名の、事実上のペーパーカンパニー。ゴーン前会長がレバノンで使っていた総額18億円の住宅を所有している会社です。さらに司法省の記録を調べると、この弁護士事務所の住所には、少なくとも7つの会社が登記されていたことが新たに分かりました。構成メンバーはほとんどの会社で重複していました。何の目的でペーパーカンパニーが設立されたのか。取材の終盤、これらの会社に役員として名を連ねる男性に話を聞くことができました。男性はこう語りました。

“亡くなった弁護士に頼まれて会社の設立に関わっただけで、活動実績はほとんどなかった。いくつものペーパーカンパニーを作る目的?マネーロンダリングの可能性もあるでしょう。”

今回の取材からは、ペーパーカンパニーを介した複雑な資金の流れの一端が見えてきました。

長期化する勾留 ゴーン氏は“疑惑”完全否定

これまで、不正を全面的に否定しているゴーン前会長。こうした点について、次のように主張しているといいます。

“オマーンの代理店へのCEOリザーブは、部下の要請を受けて長年支払ってきた正当な奨励金で、私のCEO退任後も支払われている。クルーザーの購入は日産とは関係がない。レバノンの住宅は治安上の理由で日産が所有する形にしなかっただけで、業務に必要な正当なものだった。”(弁護士取材による)

ペーパーカンパニーと複雑な資金の流れ

鎌倉:現地を取材してきた、社会部の永田記者です。
取材から、複数のペーパーカンパニーが絡んで、資金の流れが非常に複雑だったんですけれども、どこまで実態が見えてきたんですか?

永田知之記者(社会部):高い透明性が求められる日本を代表する企業のトップの周辺に、いくつものペーパーカンパニーが作られ、多額の資金が流れていたことには、まず驚きました。また、私たちが現地で接触したオマーンの代理店の元幹部は「日産からの奨励金の存在は知らなかった」とも証言しました。しかし、取材を拒否されるケースも多く、これ以上、資金の流れに迫ることはできませんでした。

鎌倉:では、今後の捜査はどうなるんでしょうか?

永田記者:特捜部は、中東への巨額の資金がゴーン前会長側に還流していた可能性もあると見て、中東の関係各国に捜査協力の要請をしています。しかし、海外の複雑な資金の流れを解明するのは容易ではなく、捜査は長期化する見通しです。一方、今回の捜査では、事件の詳細が説明されないまま、前会長の勾留が長期化し、先ほどの中継でもありましたように、海外からは「日本の司法制度は閉鎖的だ」という批判も集中しています。また、日産の権力闘争が捜査の発端ではないかという指摘が一部にあることも事実です。世界の注目を集める、過去に例のない事件なだけに、特捜部には、公平・公正な捜査と、より丁寧な説明が求められると思います。

武田:今後の両社の動きですけれども、3月の下旬には、第三者を交えた委員会が、日産のガバナンスについて提言します。4月の中旬には、臨時株主総会。ここではスナール氏の日産の取締役就任が決まる予定です。そして6月には、双方の定時株主総会がありまして、ここで日産の新たな会長人事が決まる予定になっています。

これから日産はどうなっていくのか。中西さんが注目しているポイントはどういう点でしょうか?

中西さん:私が一番注目しているのは、ゴーン容疑者がいつ保釈されるかです。ゴーン容疑者は、日産の組織の刺しどころを知っていると思います。そういう意味においては、反撃というものが予想される。そもそも、これだけの独裁的な疑惑を1人でできるというふうには思いません。独裁というのは1人で成り立つものではない。やはり組織で支えていた部分があると。そういった意味においては、日産の経営、あるいは取締役会、執行役を含めて、いわゆる大きな疑惑があると、私は感じています。

武田:保釈のタイミングで、また日産の内部が揺らぐ可能性もあるということですね。

中西さん:すでに多くのエグゼクティブの一部だとか、あるいは社員が辞めて、少し経営の内部がゴタゴタしているということは否定しがたい。日産というのは、常に問題が経営のトップにあるんですけれども、ゴタゴタには慣れっこだと言いますけれども、これはまさに日産の経営だと100年に1回ぐらいの大きなゴタゴタですので、かなり経営の内部に影響を及ぼす、そういった懸念も大きいと思いますね。

武田:そうしますと、今後の鍵は?

中西さん:やはり、スナール新ルノー会長。彼はフランス政府と、非常にいい関係を持っています。かつ、日産とのコミュニケーションも取れる。彼が究極の難しさを、どういうふうに調整をしてくるのか。彼のコミュニケーション能力、あるいは経営者としての判断というのが非常に重要な要素になってくるだろうというふうに、私は考えています。

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