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2019年1月29日(火)

追跡!カワウソ密輸事件 黒幕は誰だ?

追跡!カワウソ密輸事件 黒幕は誰だ?

いま空前の“カワウソブーム”が起きている。水族館には長蛇の列、全国にカワウソカフェも広がっている。1匹の値段は100万円以上にまで高騰。しかし、一方でカワウソ密輸で逮捕される日本人が相次いでいる。犯人たちは、全員いわば“普通”の人たちだった。なぜ素人が密輸に手を染めるのか。取材を進めると、彼らを「運び屋」として使う、反社会組織の影が見えてきた。ブームの背景に広がる闇に迫る。

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 武田真一 (キャスター) 、 鎌倉千秋 (キャスター)

追跡!カワウソ密輸事件 女子大生がなぜ?

「カワウソを持ち出すのは違法という認識はあったんでしょうか?購入した目的は何なんでしょうか?」

タイの警察に連行される、茶髪の日本人女子大生。容疑はカワウソ10匹の密輸。その手口は…。

空港野生動物検査所 前主任 パカポーンさん
「スーツケースの中に竹カゴが入っていたんです。その中に小さなカワウソが10匹も閉じ込められていました。かわいそうだと思いましたよ。みんな、まだ目もあいていない赤ん坊ですよ。母親からも無理やり離されてね。」

女子大生は取り調べに、“かわいいからペットにするために市場で買った”と答えた。しかし…。

取材班
「彼女はペットにするために持ち帰ろうとしたのでしょうか?」

空港野生動物検査所 前主任 パカポーンさん
「どうでしょうか?たとえペットだとしても、学生が市場の動物商から購入できるはずないのですが…。」

(市場)

「お兄さん、あと2匹だよ!」

売買が規制されているはずのカワウソが、本当にペット市場で手に入るのか。

取材班
「カワウソは売っていますか?」

「ないよ。」

「ないよ。」

タイ国内でも、カワウソの無許可の売買は違法だ。

「違法なものはないよ。」

ところが、カメラを向けずに尋ねてみると…。

「あの人に聞きなよ、髪の長い人。よく知ってるよ。」

取材班
「カワウソを探しているんだけど?」

女性
「カワウソ?カワウソの子ども?何匹欲しいの?」

密売人らしき女性に接触できた。

女性
「(日本円で)1匹3万円だよ。」

取材班
「3万円?」

女性
「ハイ。」

女性が提示した相場は1匹3万円。女子大生は30万円を出して10匹ものカワウソを購入したことになる。10匹を、本当にペットとして飼育しようとしたのか。すると、密売人から衝撃の事実が語られた。

女性
「ここで3万円で買って、日本で売るととても高いんでしょ?1匹60万円だったかな。60万円で転売するんだから、密輸する価値はあるわね。」

日本人は日本で転売するためにカワウソを買いに来ているという。しかも、1匹3万円で仕入れたカワウソが60万円で売れると話した。彼女の口から、買い付けに来る日本人の名前を聞くことができた。

女性
「大阪の○○ジロウ。明日密輸するって言ってたよ。しょっちゅう買いに来るから、お得意様だよ。『運び屋』に渡すんだって。10匹くらい持っていってもらって、運び屋には12万円くらい払うって言ってたかな。」

日本の動物取り引きに詳しい人物は、カワウソ密輸の背後に組織的な犯罪グループがあると指摘する。

動物取扱業者 白輪剛史さん
「最近は、もう全く動物商とは関係のない、動物なんか輸入したことがない人たちが手を染めているのがカワウソの密輸なんですね。運んでいる『運び屋』という全く素人の人たち、その人たちと黒幕がいて、その黒幕との接点っていうのは、そこもわからない状態でやってるような、組織立ってるんです。」

タイで捕まった女子大生は、黒幕に運び屋として使われていたのではないか。執行猶予付きの有罪判決を受け、帰国した女子大生。私たちは直接訪ねてみることにした。

取材班
「NHKの者なんですけれども。」

「はい。」

取材班
「こんにちは、NHKなんですけれども、○○さん、ご在宅でしょうか。」

「いないですけど。」

応対したのは女子大生の母親だった。

取材班
「お話をお伺いできないかと思って。」

女子大生の母親
「けっこうです。」

取材班
「事情だけでも少しお伺いできないかと思っているんですけど。」

女子大生の母親
「もう終わってることですから。」

追跡!カワウソ密輸事件 黒幕は誰だ?

ゲスト 石井光太さん(作家)

武田:今日(29日)のゲストは、ノンフィクション作家の石井光太さんです。世界各地で貧困や社会の底辺で暮らす人々のもとなど、さまざまな現場に足を運んでおられますけれども、麻薬の密輸事件や特殊詐欺なども取材していらっしゃるんですよね。
私はそもそも、このカワウソがブームになっていることとか、ましてや、こんな事件が起きていること自体も全く知らなかったんですけれども、石井さんは今のVTRをご覧になって、どういうふうに捉えられましたか?

石井さん:僕自身、この番組に出る前にカワウソを保護したりしている業者にインタビューしに行ったんですね。その時に真っ先に言われたのが「お前らがこういったような状況を作り出しているんだ」というふうに言われたんですよ。例えば、テレビで「カワウソがかわいい」ともてはやす、あるいはSNSとかユーチューブで僕たちがそれを支援してしまう。そうすることによって、このビジネスが、この2、3年ぐらいらしいんですけれども、その中で雪だるま式に大きくなってきてしまっている。「それはお前らのせいなんだぞ」という形で言われたんですね。それはやっぱり、カワウソの密輸というと、ものすごく特殊なように感じますけれども、実際、それを支援した時点でビジネスというのはここまで大きくなってしまう。それはやっぱり考えなければいけないことなのかなというふうに思いますね。

武田:「カワウソ、かわいいな」って安易に感じてしまうんですけれども、そこにいわばつけ込まれた事件だと。

鎌倉:タイで捕まった女子大生は取り調べに対して「自分で飼育するつもりだった」というふうに答えていましたけれども、取材を通じて見えてきたのは、彼女が運び屋だったのではないかということです。では、こういった運び屋は、一体どうやって、生きたカワウソを素人が運んでくるのかということですけれども。

武田:竹カゴみたいなのが出てきましたよね。

鎌倉:あの女子大生はそうしていましたけれども、密売人の証言によると、手口の一つ、こういうものがありました。まず、赤ちゃんのカワウソに、たっぷりミルクを飲ませるんですよ。おなかいっぱいにして眠らせちゃうんだそうです。その後は、例えばこういう靴下に入れて、衣類に紛れ込ませて、カワウソをスーツケースに隠して、これを手荷物じゃなくて、預け入れの荷物として飛行機で運んでしまうということなんです。

武田:靴下に入れるというのは何のために入れるんですか?

鎌倉:衣類のように見えるんじゃないかと言われていますけれども、この密輸の過程で死んでしまうカワウソも少なくないということなんです。

武田:こういった手口は、ある種、すごいよくできているといいますか、素人が考えつくことではないですよね。

石井さん:私は逆に、本当にど素人だと思っています。このカワウソの密輸って、ものすごい残酷なものなんです。どういうことかというと、まずカワウソというのは、川の近くに巣を作って住んでいるわけですね。かつ親子で住んでいるわけです。親が1匹いて、大体5、6匹とか子どもが産まれるらしいんです。赤ちゃんのカワウソを盗むためにどうするかというと、まず親のカワウソを殺します。邪魔だからですね。野生のカワウソというのは、かむ力もありますし、ひっかく力もあるので、正直な話、面倒くさいんです。だったらもう殺してしまえということで、親のカワウソを殺します。ものすごく希少動物。にもかかわらず、それを殺してしまう。小さな目も開かないようなカワウソを、全部そのままそっくり持ってくる。その中で、靴下に入れるとか、そういったことで運ぶんですが、業者のある方に聞くと、半分生きていればいいほうだという言い方をしていました。つまり、タイから日本まで飛行機で6時間ちょっとぐらいだと思います。ただ、その前後の時間も含めると、恐らく8時間、9時間、10時間という時間を機内の中で過ごす。その中で大体死んでしまっているんですね。カワウソではないんですけれども、別の国で犬を密輸して死なせちゃうという現場に居合わせたことがあって、たぶんペットを飼っていたら持ち込むのにすごくいろんな手続きがあるので面倒くさいといって、やったんでしょうね。同じように荷物の中に入れて。それを見た時に、本当にまだ覚えているんですけれども、その犬がものすごく苦しそうな顔をして、自分の身体と同じぐらいのうんちをしていたんですよ。ゆるんで、苦しみの中で。非常に残酷なことを言っていますけれども、やはり生きたものをそうやって強引に隠して運んで殺すというのは、それだけものすごく残酷なことなんですね。それが本当に、いわゆる「かわいい」と言われている市場の中で、平然と裏で行われているというのが現実なのかなというふうに思います。

武田:今、日本には、カワウソブームと言われて、たくさんのカワウソが入ってきているわけですけれども、これはどうやって日本に入ってきたものなんですか?

鎌倉:これはタイ政府の許可を得て輸入するという制度はあるんですけれども、でも実際に許可が下りるということはほとんどないんですね。2000年以降にタイから正規に輸入されたカワウソは、実はゼロなんです。タイから正規に入ってきたものはゼロなんですよ。インドネシアなどから輸入する方法もあるんですけれども、これは素人、一般の人に許可が出るということはほとんどなくて、また、許可が下りたとしても値段が高いので、タイでの密輸のように、何十倍も値段で、売るときに利益が出るというようなことはないんです。

武田:本当にごく僅かな許可された分だけが入ってきているということなんですね。
タイでは取り引きすることは違法というふうに言われていましたけれども、国内ではどうなんでしょうか?

鎌倉:日本では、飼育は禁止されていないんですね。販売については、販売するのはいいんですが、それが密輸されたものであるかどうかを確認する有効な手だてがないという現状で、どういうことかというと、どこから持ち込まれたものなのか証明する義務がなくて、ここが国際社会から規制が甘いと非難を受けているところなんですね。国際的なNGOの調査では、東南アジアで押収された違法なカワウソの実に半数以上が日本向けに送られようとしていたと。日本はカワウソロンダリングの国というふうに指摘されていて、それを世界自然保護基金・WWFジャパンは「恐ろしく無規制な状態だ」と強く非難している状況なんですね。インドなどは、カワウソの取り引きそのものを禁止して、パンダと同じレベルの厳しい規制をかけるべきではないかということも言っているんです。石井さんも、これはど素人ではないかと、先ほどの手口を見ておっしゃっていましたけれども、では、そういった一般の人たちをカワウソの密輸に誘い込んだ黒幕というのは一体どんな人物なのか。国内で起きた事件を追跡しました。

※カワウソはインドネシアから正式な手続きで輸入

都内の雑居ビルの一室。16匹のカワウソと、直に触れ合うことができ料金は1時間2,600円。
この店を舞台に事件が起きたのは半年ほど前。きっかけは若い男からの電話だった。


“あの、カワウソ3匹買いませんか?”

店のオーナー
“えっ3匹もどこで仕入れたの?”


“友達のところで生まれたのをもらったんです。今度店に持って行きます。”

応対した店のオーナーはピーンときたという。これは密輸の売り込みだ。

カワウソカフェ兼販売店オーナー 長安良明さん
「ブリード(繁殖)が難しい。国内ブリードとかブリーダーが分からないのは密輸だと思っているので。」

オーナーが通報すると警視庁が行動を起こした。捕まえれば、密輸組織の黒幕に迫れるかもしれない。3日後、警察官が裏で待ち構える中、電話の男が訪ねてきた。

カワウソカフェ兼販売店オーナー 長安良明さん
「入り口から若い男性1人が段ボールを持って、『カワウソです』ということで。」

店のオーナーは、その一部始終を録音していた。

(当時の会話の録音)

長安さん
「これどこからとか、分かる?国によって持ってる病気が違うのよ。予防接種とかやってないよね?」


「そうですね。タイ…ですね。」

長安さん
「すごいね。タイからまだ入ってくるんだ。」


「そうですね。」

長安さん
「女子大生とかさ、捕まってあれしてたからさ。じゃあ、持ってくるかって最近(密輸を)やり始めた感じか?」


「そうですね。僕自体もそんなに関与してなかったので。」

長安さん
「(密輸を)ガッツリやるか、みたいな感じだった?」


「はははは。」

この直後、控えていた警察官が店に踏み込んだ。逮捕の後、この22歳の男の携帯から衝撃の事実が分かった。着信履歴に残された電話番号が、過去にオレオレ詐欺のグループが使用していた番号と一致したのだ。警視庁の担当捜査官は…。

警視庁 生活環境課 福原秀一郎警部
「電話番号、携帯番号等をいろいろ調べていくと、特殊詐欺グループに関与していた人物たち、あるいは金の密輸入に関わっていた人間たち。一般に我々が言う『やくざ』の組織が介在しているのは間違いない。」

先月(12月)逮捕された男の裁判が開かれた。弁護士から黒幕について問われると、男はその存在を認めた上でこう答えた。

“怖くて言えません。”

私たちは、執行猶予中の本人に直接尋ねてみた。

取材班
「××さんですね。」


「はい。」

取材班
「お気持ちだけでも、お伺いさせていただくことはできないでしょうか?」


「二度としません。以上です。」

追跡!カワウソ密輸事件 ついに黒幕に迫る!

武田:黒幕はどういう人なのか、どこまで分かっているんですか?

鎌倉:それが結局、22歳の男は裁判で最後までこの黒幕については明かさなかったんですよね。

武田:石井さんはどういう人だというふうに見立てていらっしゃいますか?

石井さん:僕は、反社会勢力、いわゆる暴力団、もしくはそれに類するグループだと思っています。ただ、実行犯というか、運び屋というのは、先ほどのVTRにありましたように、女子大生であるだとかそういった人たち。僕は麻薬の密輸事件も取材していて、全くこれと同じ構図なんですね。昔取材したものですと、マレーシアから日本に麻薬を運ぶことをやっていた人たちなんですけれども、じゃあなんで普通の人たちが運ぶのかというところが問題なんですが、やっぱり普通の人じゃないんですね。どういうことかというと、女子大生であっても、いわゆる社会に居場所がない、学校に居場所がない、そういった人たちがインターネットの世界だとかをフラフラとさまよってしまっている。そういった人たちというのは、今その瞬間の利益というものにものすごく飛びつきやすいんですよね。先のことまで考えて、ここに行ったらどうなるかということを考えますけれども、そうじゃない。本当に今その瞬間を必死になって生きている人たちというのを、やくざというのはうまくリクルートしてしまう。

武田:それはやっぱり黒幕の側はこういった人たちをいつも探しているんですか?

石井さん:常に探していますね。

武田:目をつけている?

石井さん:常にです。

武田:どうやって目をつけるんですか?

石井さん:インターネットであるだとか、あるいは自分が手のかかっている大学生に探させたりですとか、それを介してにおいを嗅ぎつけたり、そういうことですね。

鎌倉:警視庁の担当者が一般の人がこういったことに手を染めるもう一つの理由として、「動物密輸特有の心理的ハードルの低さ」というものも指摘していたんです。

警視庁 生活環境課 福原秀一郎警部
「密輸を表現する言葉として、銃器、薬物、ワシントン(条約の動物)と言うんですけど、銃器だと撃たれるイメージが、覚醒剤だと狂うイメージがある。動物はもう、かわいさしかないわけですよね。誘われた人間も罪悪感がないので、動物ですので、つい(話に)乗ってしまう。簡単なアルバイト程度の認識で持ってきてしまうというところ。」

鎌倉:カワウソの密輸は、仮に捕まったとしても、銃だとか、覚醒剤に比べて重い罪に問われないということも、一般の人が手を染めてしまう理由の一つだというふうに指摘されていましたよね。

武田:ただ、先ほどのお話にもありましたように、カワウソが死んでしまう場合もある。それもかわいそうですし、ましてや一般の人がこういった闇社会とつながる接点に、私たちがかわいいと思っているカワウソがなってしまっている。この事実はやっぱりしっかり重く受け止めなければいけませんね。

石井さん:やっぱりそこもきちんと受け止めるということと、あと、なぜカワウソを手に入れたいかというと、僕はすごく“非社会”の人たちというのが増えてきていると思うんですね。どういうことかといいますと、やはり社会の中で、自分の居場所がない人というのは、インターネットとかそういったところで人に褒めてもらう。分かりやすく言うと「いいね」をしてもらうことで自己肯定感を得ていこう、そういうふうに考えます。かわいいペットを出せば出すほど、やはりみんなから「いいね」をしてもらえる。そうすると、社会の居場所はないんだけれども、自分の居場所ができる。だから、お金はないんだけれども、100万円を出して買う。でも、やはりやくざというのは、そこに目をつけ込んで、それによって膨大な利益を得ていく。こういったような構図があるんじゃないかなというふうには思っています。

武田:今の社会の中で、私たちが、つながりが希薄になっていたり、社会からこぼれ落ちる人、取り残される人、そういった人たちの心理が利用されているということなんですか?

石井さん:僕は、カワウソが悪いわけでもないし、飼う人が悪いわけでもないと思うんですね。でも、やはりカワウソを飼わないと自分のアイデンティティーが保てない人がいる。そういった中でやはりこういったビジネスがなりたってしまっている。僕たちはそこのところに対して、自分たちの認識も含めて、いろいろ変えていかなければならないんじゃないかなと思っています。

武田:カワウソ、確かにかわいいですけれども、その裏には、そういった今の社会の大きな闇が横たわっていると。

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