クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2018年12月3日(月)
相次ぐ“がん見落とし” 助かる命を失わないために

相次ぐ“がん見落とし” 助かる命を失わないために

X線やCT、MRI…体の中を見る医療技術の進歩はがんの早期発見を可能にした。しかしその陰で、「見落とし」が相次いでいる。専門医が画像を見ていなかったケースや、主治医が報告を読んでいなかったケースなど。死亡した患者もいることから、「重大な課題」とする医学会。再発防止を進める医療現場を取材すると、簡単に解決出来ない現実も見えてきた。私たち、検査を受ける側が出来ることを含め、助かる命を失わないための方策を考える。

出演者

  • 中山富雄さん (国立がん研究センター/医師)
  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

なぜ?相次ぐ“がん見落とし” “受け止めきれない”家族の思い

もし、あなたの「がん」が見落とされてしまったら…。
愛知県に住むこの女性。父親が、がんの診断を見落とされるという事態に直面しました。父親の鈴木隆夫さん(仮名)・49歳。働き盛りの中で肺がんを患い、入退院を繰り返しながら、闘病を続けています。診断を受けたのは、去年(2017年)8月。既に、最も進行したステージ4の状態でした。がんは、骨盤やけい椎にも転移していました。この時、医師から思いもしない事実を告げられました。

『がん見落とし』被害者の娘
「まず『見落としがありました』と。」

病院から渡された文書です。「約6か月、診断が遅れたと考える」。エックス線でがんが写っていたにもかかわらず、半年間放置されていたのです。

「『(がんが)レントゲンには写っていたんです』と。なんとも受け止めきれないような気持ちもありました。」

一体、何があったのか?
去年1月、鎖骨を骨折し、病院に入院した隆夫さん。上半身の状態を調べる「エックス線検査」を行いました。
その時の画像です。右の肺の上部に、がんと疑われる白いかげが写っていました。しかし、病院が詳しい検査をすることはなく、がんと診断されませんでした。

半年後、せきや胸の痛みを訴え、再び病院を訪れた隆夫さん。その時、初めてがんと分かりました。既に骨盤などに転移し、手術では取り除けない状態になっていました。
病院側は、最初の検査の時点でがんがどこまで進行していたかは分からないとしながらも、「根本的な治療が可能だったかもしれない」と説明したといいます。

『がん見落とし』被害者の娘
「いちばん父がつらいだろうなって思うんですよね。いちばん生きていたいって思うのは父だし、いちばん、初期であってほしいって思っていたのが父だと思うので。父のことを考えると、やっぱり“見落とし”って、あってはならないなって思います。」

現場を取材!見えてきた原因

検査画像にがんが写っているにもかかわらず、医師がそれを見落とす。今、全国の医療機関でそうしたケースが相次いでいます。

横浜市立大学附属病院
「患者様、ご家族のみなさまに深くおわびを申し上げます。大変に申し訳ございませんでした。」

千葉大学医学部附属病院
「誠に申し訳ございませんでした。」

今年(2018年)、がんの見落としを公表した医療機関は、少なくとも8つ。その多くが、名だたる大病院でした。見落とされた患者は、あわせて31人に上っています。

40代男性
「自分の大切な人、家族がそういう形になったら、ちょっと許せないですよね。」

30代女性
「どうして見つけてもらえなかったんだろうっていう、『なぜ?』っていうところが大きくなる。」

40代女性
「ちょっと信じがたいというか、根底から信頼が崩れてしまう。」

一体なぜ、がんが見落とされてしまうのか?
見落としを公表した病院の1つ、千葉大学病院を取材することにしました。この病院では、がんの疑いのある患者9人の検査結果を見落としていました。患者は30~80代までの男女。このうち、肺がんと腎臓がんの2人が亡くなりました。

千葉大学医学部附属病院 山本修一院長
「この問題に関しては、患者さん、ご家族、千葉大学病院に通院していただいている患者のみなさんに、大変ご心配をおかけしたことを、本当に申し訳なく思っています。」

この病院で亡くなった患者の1人、腎臓がんの60代の女性。当初は腸の病気で病院を受診し、CT検査を受けました。実はこの時、画像検査の専門医が腎臓にがんの疑いを見つけていました。ところが、その報告書が主治医に伝わらず、4年以上、治療が行われなかったのです。重大な情報伝達のミスでした。

この病院で起きた9件の見落とし。そのうち6件が、同様のミスでした。患者が病院でCTやMRIの検査を受けた場合、その報告書は電子カルテの中に記載されます。主治医はカルテのこのボタンを押して確認する仕組みになっていました。

ところが、カルテに記載されたことが主治医に直接連絡されないため、見落とされるケースがあったのです。

千葉大学医学部附属病院 山本修一院長
「そういう問題意識が病院の中では共有されていなかった。私たちの体制が不備であったことのひと言に尽きると思います。」

取材を進めると、もう1つ別の原因があることも分かってきました。そもそも、専門の医師が患者の画像を見ていないケースもあったのです。
画像を見る専門医は、「放射線診断医」と呼ばれています。この病院には5人の診断医がいました。これに対し、年間に行われるCT検査は4万件以上。実は、その検査全体の3分の1しか見ることができていませんでした。

撮影した画像を全て見られないのはなぜか。別の病院で取材すると、背景に、急速な技術の進歩があることが見えてきました。患者の全身を写した大量の画像を調べるのが診断医です。

放射線診断医
「この方だと、1,663枚です。患者さんによっては少ないのもある。少なくても100枚か200枚あるので。」

「“活動性炎症や悪性腫瘍、認めず”。」

大量のデータを見なければならないため、この病院では、少しでも時間を節約しようと音声入力で報告書を作成していました。

「“S状結腸遠位側に進行がん”。」

40年前には、4~5分で2枚程度しか撮影できなかったCT画像。ところが今では、4~5秒で200枚の画像を撮影でき、画質も鮮明になりました。全身を簡単に撮影できるようになったことで、思わぬがんも見つけられるようになりました。

「この人は肝臓から撮影が始まったが、そのときに肺の一部も撮影されて、肺がんが偶然に見つかった。」

その反面、見落としを防ぐには、より丁寧なチェックが必要になっているのです。
がんの見落としが起きた千葉大学病院。画像のデータが膨大になる中、放射線診断医が不足し、十分にチェックできなかったとしています。

千葉大学医学部附属病院 山本修一院長
「CTの機械がすごく進歩してきて、技術革新に対して我々の診療体制がそれに追いついていない。そのギャップがこういう問題につながってきたんじゃないかと。」

ゲスト中山富雄さん(国立がん研究センター・医師)

武田:がんが画像に写っていたにもかかわらず放置されてしまう、これは患者にとってはたまらないことだと思うんですけれども、どんな声を聞きましたか?

本多ひろみ記者(社会部):今回、がんを見落とされた複数の患者や、その家族などからお話を伺いました。まず感じたのが、強い怒りと失望感です。治療が遅れて亡くなった50代の男性患者は、家族に対して、これからもっと仕事や家族との楽しい時間を過ごせるはずだったのに、それが奪われてしまって本当に悔しいと話しながら亡くなったそうです。また、多くの人が、まさかこのようなことが起きるとは想像もしていなかったと話してくださいました。

武田:国立がん研究センターで、がんの早期発見に取り組んでいる中山さん。技術が進み、がんがより見つかりやすくなっているにもかかわらず、それを生かしきれていない事態が起きているということですね。とても残念なことだと思うんですけれども、どうお感じですか?

中山さん:せっかく見つかっているのに、病院の中で伝達ミスが起きている。非常に嘆かわしい状態が起きていると思います。医者の立場からしますと、非常に画像技術が進歩してよくなってきたんですけれども、あまりにも情報量が多くなりすぎて、こういう見逃しにつながっているということかと思います。CTは非常に細かくいろいろなことが見つかるんですけれども、全部チェックしなければこういうことにつながるんですが、やはり命がかかっていることなので、ケアレスミスというのは許されないというふうに感じます。

田中:がんの見落としはなぜ起きてしまうのか。まず、私たちが大きな病院でCTなどの検査を受けると、多くの場合、放射線診断医がその画像をチェックして主治医に報告をします。ところが、この検査の報告書を主治医が見ていないというケースがあったんです。

武田:なぜ、主治医が報告書を見ていないということが起きるんでしょうか?

中山さん:検査をオーダーするというのは、主治医が何かを見たかったということですよね。だからそれを自分で確認するという作業は必ず必要なはずなので、ちょっと信じられないというところはあるんですけれども。やはり主治医が非常に忙しくなってしまったということで、大病院に患者さんが集中するし、検査の量もすごく多くなって、それをこなせていないというところがあります。また、放射線診断科の方も、レポートが非常に長文になってしまって、どこに大事な情報があるのか分かりにくい、伝わりにくいということがあるのかなと思います。

武田:外来に患者さんが来る時には、当然こういった情報というのはチェックするものじゃないかと思うんですけれども?

中山さん:大抵は前日に、予習という形で、ゆっくり落ち着いて全部の情報を把握するんですけれども、何か不測の事態が生じて、そういうことができなかったということが事故につながってるのではないかなというふうに想像します。

武田:その背景には、多忙ということもあるということなんですね。

中山さん:そうですね。

本多記者:また、取材の中でもう1つ感じたのが、主治医が縦割りになっているのではないかという点です。主治医の多くは、消化器や呼吸器など専門が分かれています。取材した見落としたケースの中には、専門の臓器の検査結果だけに目を通して、他の臓器の結果を見落としてしまったというケースがありました。このように、専門外の臓器に目が向きにくいことも、見落としが起きる要因の1つではないかと感じました。

武田:こうした縦割りの弊害というのは、実際にお感じになりますか?

中山さん:やはり、自分の専門臓器以外のことについては興味・関心がないといいますか、書かれていてもあまり目が向かないというのが実情だと思います。

武田:それならばなおのこと、主治医に、たとえ専門でなくても自分の体の異常については気づいてほしい、チェックしてほしいというのが患者さんとしての思いだと思うんですけれども、それはどうなんでしょうか?

中山さん:非常に専門性が高くなりすぎてしまったので、全部のことを1人のお医者さんに診てもらうというのは、かなり無理があります。病院の方としては専門家を複数養成して、主治医というのは、自分の専門以外のところはその専門の人にパスを出して、うまく対応してもらうということです。それが例えば呼吸器であったり、循環器であったり、あるいは放射線専門科医ということなので、その辺の専門性を生かしきれてるのかというところに問題があるかと思います。

武田:でもその前提となるのは、やはり主治医が、上がってくる画像の情報をちゃんと把握するということが前提ですね。

中山さん:全部見て、それで自分の専門以外のところは専門の人に尋ねる、コンサルトするということだと思います。

田中:ただ、ここで問題になるのは、膨大な画像を見る体制が十分でないということなんです。特に日本では、いびつな状況になっています。

こちらはCTの台数の国際比較なんですが、人口比で見ますと、日本は最も多いことが分かります。一方、放射線診断医を含む放射線科医の数は、日本は主な先進国など、調査対象となった26か国中、最下位。つまり、CT大国なのに専門員は少ないんです。

武田:こうしたがんの見落としを防ぐために、医療現場はどんな対策をとろうとしているんでしょうか。そして、患者にできることはないんでしょうか。

どう防ぐ?“がん見落とし” 対策は?患者にできることは?

大学病院 医療安全担当 医師
「(がんの見落としは)ある限られた病院の問題ではないということは明らかです。」

先月(11月)開かれた、医療の安全を話し合う学会です。医療機関の抜本的な改革が必要だという声が相次ぎました。

医師
「ちゃんと(報告書を)読んだかというところまでチェックする、こういうシステムが必要かと思っています。」

「主治医がすごく忙しいと思うので、注意してねっていうだけでは全然対策になっていない。」

がんの見落としが起きた、千葉大学医学部附属病院。検査報告書の確認ミスを防ぐための模索が始まっています。

まず行ったのは、全ての電子カルテの中から、主治医が読んでいない報告書を探していくことです。その結果…。

技術職員
「(今年1月以降に)3日以上開封された痕跡が見当たらないものが、600件ほどある状態。」

診療科ごとに読まれていない件数をまとめ、病院内に周知します。多かった科には直接電話をして注意を促します。

技術職員
「未開封の一覧が非常に多いので、直接ご確認いただけますでしょうか。」

担当するのは医師ではなく、電子カルテのシステムを管理する技術職員。今後はシステムそのものを改善し、医師だけに頼らない仕組みづくりを目指しています。

千葉大学医学部附属病院 山本修一院長
「一朝一夕ですべてをがらっと変えるということは、容易なことではないと認識しています。病院・職員、一丸となって対策に取り組んでいるところでございます。」

大量の画像を丁寧にチェックするための体制づくりも、各地で始まっています。注目されているのが、育児などで一旦現場を離れた“潜在医師”です。
福岡県に住む放射線診断医。自宅に画像診断の専用端末を用意してもらい、関東の病院から送られてくる画像をチェックしています。

小西里奈医師
「腹部の方にひとつ、腫瘍と疑わしきものがありましたね。」

この日は、すい臓にがんの疑いを見つけ、病院に報告しました。

「すい臓の方に、何か腫りゅうらしきものがありまして、すいがんの方が考えやすいかなと思います。」

交通の便が良い、都心のオフィスビル。その一室に、今年8月、画像診断センターがつくられました。子育てなどで遠くの病院に通えない放射線診断医、30人が登録。可能な時に働いています。関東にある5つの病院で撮影された画像を、一括してチェックしています。

亀田総合病院 放射線科 町田洋一部長
「いろんな人たちの力を借りないと、とてもじゃないけど質の高い医療を皆さんにというのは無理だと思うんですよね。いろんな形態の先生方に集まっていただくことで、最終的に大きな集合体がひとつできあがるわけですよね。」

都内にあるベンチャー企業では、患者の膨大な画像をAIで解析しようという研究も始まっています。

エルピクセル 島原佑基代表取締役
「肺がんの候補となるようなものを集めて学習させるという過程を経て、AIを開発している。」

今、行っているのは、CT画像に写る肺がんのさまざまな形を覚えさせること。膨大な画像の中から、がんの疑いのあるものを見つけだすのです。この研究には大学病院も参加し、2年後の実用化をめざしています。

東京大学医学部附属病院 林直人特任教授
「ルーチン(定型的)に見なきゃいけない所は、AIが得意だと思うんですよ。そうじゃない部分は人間がやるというのが、僕はいちばんいいと思っています。」

田中:さらに、患者も参加して見落としを防ごうという取り組みも始まっています。去年までの5年間で、6人のがんの見落としが起きた慈恵医大病院。

医師
「結果をお持ち帰りいただいてよろしいですか。」

田中:これまで患者に渡すことがほとんどなかった画像診断の報告書を、直接手渡すことにしました。こうすることで、患者は自分の検査結果を把握するとともに、気になることを医師に聞きやすくなると考えたからです。

患者
「安心感だと思いますね。データとか患者側でもらえるのはいいことだと思います。」

医師
「患者にも、情報共有の一員として積極的に発言してもらうことで、僕らの見落としを防ぐメリットは十分あると思います。」

田中:この病院で患者に渡している画像診断報告書を、お借りしてきました。「検査部位」にはどの範囲を撮影しているかが、そして「画像結果」という欄には、どこに何が見つかったかや、気をつけるべきことなどが書かれています。

私たちはどうすれば?

武田:こうした画像診断報告書を患者さんに手渡すという取り組み、どうご覧になりますか?

中山さん:血液検査も必ず渡す時代になってきていますから、それと同じような流れだと思います。

武田:ただ、ちょっとこれは書いてあることが難しいなという気もするんですけれども。

中山さん:医師用に書いてあるので、やはり患者さん用に見てもらうということを想定して、放射線診断科医もレポートを書かないといけないと思います。

武田:こういったものを手渡されて、患者側としては、どういうふうにお医者さんにアプローチして聞けばいいのでしょうか?

中山さん:今、話していることは何の検査のことなのかということと、それから、説明してることは、ここのこういうところですねということを、お互いに指さし確認をするということが必要だと思います。
例えば、電子カルテというのは患者さんの側にも向いているものですので、電子カルテで説明しているのなら、お互いに医師と患者さんが指さし確認をして、ここのことを説明してるということを、お互いに確認し合いながらやるということが大事かなと。

武田:それは、やってもいいんですね。

中山さん:いいと思います。

武田:あと、検査する前には、検査項目のリストを患者さんに手渡されると聞いたんですけれども、それも材料にできるんですよね。

中山:その一覧表でもし漏れがあるとしたら、お医者さんの方で説明していない、あるいは見ていないという可能性があるから、それもやはり指さし確認が必要かと思います。

武田:それもちゃんと持っていくということですね。

中山さん:はい、大事です。

武田:ただ、それでも医師には聞きづらい、がんを見落とされたんじゃないかと不安な方は、どこに相談に行けばいいのでしょうか?

中山さん:お医者さんに相談するのは非常にハードルが高いので、例えば病院内だと「患者相談窓口」ですとか、がん診療連携拠点病院ですと「がん患者相談室」というのがあります。ここはお医者さんはいなくて、看護師さんとかソーシャルワーカーといった、主に女性がおられるところですので、話しやすいと思いますから、できるだけそういうところを活用していただきたいと思います。

武田:まず患者としては、いろいろなところに相談ができるということですね。私もこれからは「検査結果どうですか?」と聞いてみようと思います。