クローズアップ現代

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2018年11月5日(月)
シリーズ アメリカ中間選挙① 知られざる トランプ流SNS戦略

シリーズ アメリカ中間選挙① 知られざる トランプ流SNS戦略

トランプ政権の2年を問う“天下分け目”となるアメリカ中間選挙。スキャンダルの暴露やメディアとの対立が続きながらも、支持率が堅持されているのは一体なぜなのか?舞台裏を探ると、SNSを駆使した驚くべきトランプ流の情報戦略が明らかになった。個人情報を徹底分析しターゲットとなる有権者を絞り込み、大量の政治広告を送りつける手法。開発者などからは、分断や不寛容を拡大する恐れが指摘され始めている。トランプ流の選挙戦略に密着、揺れ動くアメリカ社会を浮き彫りにする。

出演者

  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

カメラが撮った!トランプ流戦略 SNSを駆使 驚きの情報戦

アメリカ トランプ大統領
「必ず投票してほしい。これは私への審判なのだ。負ければこの国は行き詰まってしまう。」

あす(6日)投票が行われる、アメリカ中間選挙。トランプ大統領のこの2年を、アメリカ国民はどう評価するのか。その結果は、2年後の大統領選挙にも影響を及ぼす大事な戦いです。
今回、私たちは、トランプ大統領率いる共和党の選挙戦略の現場にカメラを入れました。そこで見たのは、フェイスブックやツイッターなど、SNSを駆使した知られざる情報戦略。有権者一人一人の好みや性格などを分析し、送る情報やタイミングを細かく変えていました。

「有権者たちに、さらに大量に送りましょう。」

ミネソタ州 共和党幹部
「そうしよう。」

ロシア疑惑や暴露本、脱税疑惑まで、数々のスキャンダルが相次ぎ、メディアとも激しく対立してきたトランプ大統領。

トランプ大統領
「フェイクニュース!」

それでも支持率は4割前後を維持。共和党支持者に限れば、9割近くに上ります。

その背景に、トランプ流の緻密なSNS戦略があることが、今回、見えてきたのです。

元大統領副補佐官 セバスチャン・ゴルカ氏
「年齢やテクノロジーに疎いといったことは関係ありません。あなたたちはSNS戦士になれ!」

「大手メディアのうそに反論するため、SNSは中間選挙で極めて重要なのだ。」

反トランプのグループ
「団結しよう。」

トランプ支持者
「トランプこそがあなたの大統領だ。」

トランプ大統領就任から2年。アメリカでは、社会の分断や対立が進んでいます。SNS戦略が広がると、分断がさらに深まり、民主主義が機能しなくなるのではないか。みずから戦略に関わった技術者が、そのおそれを口にしました。

SNS戦略会社 元社員
「誰もが予測できなかった事態になっています。無害だと思われていたSNSによって、民主主義が損なわれるかもしれないのです。」

武田:選挙は本来、多様な意見を持つ人々が議論を重ねて、最終的に一定の結論を導くという民主主義の基盤となるプロセスです。しかし、アメリカではここ最近、選挙を重ねるたびに人々の分断が深まる様相を見せています。なぜこんなことになっているのか。その一端には、人々の感情に訴えるSNSを駆使した選挙戦略がありました。その内実に迫ります。

驚きのトランプ流 情報戦略 一人一人を分析 SNSで何を?

激戦区の一つ、ミネソタ州。長年、民主党の牙城でしたが、共和党が下院の議席を巡って勢いを増しています。取材を進めると、SNS上にトランプ大統領と一緒に写った写真を掲載し、盛んに発信している女性がいました。

リポート:濱本こずえ(国際部)

訪ねたのはメアリー・ティミオンさん、54歳です。長年、介護施設で働いてきたメアリーさん。これまで政治への関心はほとんどありませんでした。移民の保護を進める州の政策に疑問を感じることもありましたが、差別的だと批判されるのを恐れて発言を控えてきました。

メアリー・ティミオンさん
「私が毎日働いて納めた税金が、不法な移民たちのために使われることに不満を感じます。でもそうした気持ちは、これまで胸にしまい込んできました。」

ところが今回、初めて積極的に選挙戦に関わるようになりました。先月(10月)上旬、SNSに流れてきたある動画を見て、「自分の気持ちを言い当てている」と感じたのです。

“彼は国境管理をないがしろにする、異常なやつだ。”

移民の受け入れに前向きな民主党候補を攻撃する動画。メアリーさんの不満と重なる内容でした。

メアリー・ティミオンさん
「この候補の考え方は間違っています。この動画をみんなに広めたくなりました。このことはニュースでもっと取り上げるべきです。」

SNSの動画を見るうちに、民主党の候補者に怒りを感じるようになったメアリーさん。今回初めて中間選挙に足を運び、共和党に票を投じる決意をしました。

有権者一人一人の感情に訴えかける、SNSの政治広告。そこには、緻密な戦略が隠されています。
今回、私たちは、共和党のSNS戦略を担う団体の一つを取材することができました。代表のマット・ブレイナード氏です。全米15の州にスタッフを配置。有権者を分析し、SNS広告を制作しています。
今回の中間選挙で使用しているというデータを、個人を特定しない条件で見せてくれました。行政の公開情報やデータ会社から買い取った、有権者1億8,000万人分の個人情報です。電話番号や年齢、趣味の情報など、1人当たり最大で500項目もそろっています。

データの分析から、それぞれの有権者に合わせた政治広告を作り、一人一人のフェイスブックなどに流します。
例えば、埋もれている支持者を掘り起こすときに、「ピックアップトラックを所有している白人男性」に注目します。一体なぜなのか。データを分析すると、彼らは「ハンティングが趣味」で、「銃規制には反対」。そして「愛国心が強い」傾向があることが分かりました。

こうした人たちへの広告に使うのは、トランプ大統領の反対派が暴徒化し、兵士を慰霊する像を破壊したというニュースです。兵士を侮辱したとして愛国心に訴え、人々の怒りをあおるのです。それによって、共和党への投票を促そうというねらいです。

SNS戦略を担う団体 代表 マット・ブレイナード氏 
「有権者に訴えかけ、やる気を起こさせるのです。」

「そこにつけこむのですね。」

「『つけこむ』という言い方は心外です。そこには『事実ではないものを作り出そうとしている』という意味があります。私たちは、何が問題なのかを明らかにしているだけです。」

支持を広げるには、真正面から政策を掲げるよりも、人々の感情に訴えることが重要だ。共和党の関係者はそう考えています。先月上旬、女性スキャンダルが政界を騒がしていたことに、この陣営では注目。対立する民主党候補が過去に女性に暴力を振るったという広告を、SNS上で流し始めたのです。

ミネソタ州 共和党幹部
「我々のSNSサイトへの反応が、広告を流してから(1週間で)1,500人も増えましたよ。」

「いいね。有権者たちに、さらに大量に送りましょう。」

ミネソタ州 共和党幹部
「そうしよう。」

政治に関心がなかったメアリーさんも、このSNS広告に共感したのです。先月初め、自分でも共和党の支援活動を始めました。

メアリー・ティミオンさん
「キッチンから生放送しています。リンさん、こんにちは。」

共和党への支持を呼びかけるため、フェイスブックのグループを立ち上げたのです。登録者はひと月足らずで3,000人を超え、今も続々と増えています。

メアリー・ティミオンさん
「SNSはとても前向きな場なので、自分と同じ考えの人と出会えますし、みんなで盛り上がっています。」

「楽しいでしょ?」

今回の中間選挙でSNSやインターネットの政治広告に使われた金額は、4年前の24倍と、爆発的に増えています。

ニューヨーク大学の研究チームは、誰が、どんなSNSの政治広告を出したのか分析しました。すると、最も多くの広告を出していたのは、共和党でも民主党でもなく、トランプ大統領本人だったのです。

こうしたSNS戦略が進むと、有権者をいかに引き付けるかが優先され、肝心の政策論争が必要とされなくなるのではないかと専門家は懸念しています。

ニューヨーク大学 専任講師 デーモン・マッコイ氏
「政治家は有権者一人一人を狙い撃ちして、どう投票を左右できるかばかりを考えるようになるでしょう。この手法を放っておけば、今後の社会の行く末はとても恐ろしいものになるかもしれません。」

一人一人を分析 “怒り”を刺激 トランプ流SNS戦略

武田:一人一人の思想やライフスタイルについてのデータを利用して、感情を揺さぶるという手法は、ビジネスやマーケティングの世界で広がっています。それがいまや政治の世界にも入り込み、人々の投票行動に影響を及ぼそうとしていることが浮かび上がってきました。

鎌倉:アメリカのSNSで最も政治広告が流されている、フェイスブック。例えば皆さん、流れてきた投稿に何か反応するときに、こちらにあるような笑顔や、ちょっと悲しい顔、あるいは怒った顔、こういった顔マークを選びますよね。

実は、2年前の大統領選挙以降、急激に押される回数が伸びているものがありました。それが、「怒り」の感情だったのです。

武田:VTRに出てきた女性も、自分の不満と重なるSNSの政治広告に影響を受けていました。怒りの感情をいかに刺激するかが、SNSを使った選挙戦略の重要な鍵と考えられています。

どうなる 社会の“分断”

鎌倉:もう一つ注目していただきたいのが、こちらのグラフィックです。これは、前回の大統領選挙中、アメリカの有権者たちのツイッターでのやり取りを可視化したものです。

この一つ一つの細かな点、これは、ツイッターの利用者を示しています。間に伸びている線、これは返信したり、リツイートをしたりする、そのやり取りを示したものです。青は民主党を支持するもので、赤は共和党を支持するものです。こうやって見ますと、赤と青がお互いほとんど交わっていないのが分かりますか?

武田:共和党を支持する人たちと、民主党を支持する人たちの間のやり取りがほとんどない、少ないということが分かりますね。

鎌倉:さらに注目は、赤のほうが色が濃くなって、集まっているように見えます。これは同じ共和党の支持者どうしが、より頻繁にやり取りをしていることを示しています。

武田:SNSの空間の中では、人々の分断が深まっていることがはっきりと分かります。
この前回の大統領選挙で、SNS戦略に深く関わった人物が、今、社会の分断を深める危うさを訴え始めています。

投票行動に影響?社会に何を? 個人情報を使ったSNS戦略

前回の大統領選挙で、大方の予想に反して民主党のクリントン候補に勝利したトランプ大統領。トランプ陣営のキャンペーンを後押しした会社が、今年(2018年)3月、フェイスブックの個人情報を不正に取得していたとして摘発されました。

この会社でSNS戦略に深く関わっていた人物が、この手法の危うさを訴えたいと、私たちの取材に応じました。
クリストファー・ワイリー氏。ワイリー氏は、フェイスブックのデータから分類した、有権者一人一人の心理的特徴を選挙に活用することに着目しました。そして、このSNSの手法を駆使すると、有権者の投票行動がどう変わるのか、実験を繰り返していたというのです。

SNS戦略会社 元社員 クリストファー・ワイリー氏
「人々の精神的なもろさを利用するのです。本当の情報だけでなく、いわくつきの情報も見るように仕向けました。すると人々は、次第にゆがんだ世界観を持つようになったのです。」

ワイリー氏がいた会社に個人情報を取得され、標的にされた人がいます。デービッド・キャロルさんです。熱烈な民主党員で、投票を呼びかける活動などを続けてきましたが、前回の大統領選挙では、その気持ちが全く起きなかったといいます。
当時、キャロルさんのもとには、クリントン候補をひぼう中傷する大量の動画が届いていました。次第に、動画に紛れ込んだ偽の情報まで信じるようになっていったといいます。

民主党支持者 デービッド・キャロルさん
「クリントン氏については、あらゆるスキャンダルの情報まで私は受け入れてしまいました。本来持つべきだった熱意を持てなかったのです。」

その後、キャロルさんは、フェイスブックの個人情報がトランプ陣営に使われた疑いがあると、ニュースで知りました。調べると、政治的な関心に沿って、クリントン候補に否定的な広告が繰り返し送りつけられていた可能性があったのです。中間選挙を前にキャロルさんは、SNSの情報を信じ過ぎることの危険性を、自分が教えている大学の学生たちに伝えています。

デービッド・キャロルさん
「今はSNS広告によって社会が分断されてしまい、さまざまな意見を持つ人々が議論して社会を活性化するという、そのやり方がわからなくなってしまったのです。」

トランプ大統領のSNS戦略の構築に関わっていたワイリー氏。今年の中間選挙では、自分の想定を大きく超えた事態に発展してしまっていると感じています。例えばこの広告は、黒人の権利が不当に侵されているとして、民主党を支持するマイノリティーを分断するねらいがあるといいます。

こうした広告は、選挙の結果に影響を及ぼすだけでなく、その後の社会に深い傷も残してしまうとワイリー氏は懸念しています。

SNS戦略会社 元社員 クリストファー・ワイリー氏
「自分も含めて、誰もが予測できなかった事態になっています。無害だと思われていたSNSによって、民主主義が損なわれるかもしれないのです。私は本当に後悔しています。だからこそ、人々に警鐘を鳴らしたいのです。」

驚きの選挙戦で何が? SNS戦略で社会は?

鎌倉:こうしたSNS戦略の危うさを表す、別の分析があります。最近、アメリカの研究者たちが、ツイッター上で、うそ=フェイクニュースがどのように拡散するのかを分析しました。すると、うその情報は、事実よりも1.7倍多くリツイートされ、また6倍速く拡散していくという、驚くべきデータが現れたのです。こうした状況の中、フェイスブックやツイッターは、政治広告に利用される個人情報の取り扱いを厳格化しています。悪質な政治広告などを排除する方策も取り始めたとしています。

武田:SNSの政治広告が増え、多様な意見や活発な議論という民主主義の柱が揺らぐ中で、トランプ大統領から名指しで批判されている大手メディアは、この現状とどう向き合おうとしているのでしょうか。ニューヨークタイムズの編集長に話を聞きました。

どうなる?アメリカ社会

ニューヨーク・タイムズ 編集長 ディーン・バケイ氏
「これが有名なペンダゴンペーパーです。」

ニューヨーク・タイムズの紙面作りを統括し、みずからもピュリツァー賞を受賞した、編集長のディーン・バケイ氏です。

ディーン・バケイ氏
「この国はとても分断が進んだと思います。民主党支持者はトランプ大統領の存在を危惧していて、反対にトランプ大統領が権力を失うのではないかと心配する人もいます。そして、無党派層は混乱しています。政治家は現在の分断した状況にうまくつけ込み、時には分断がさらに広がるように有権者に働きかけているのです。」

河野憲治総局長(アメリカ総局)
「(SNSがある中で)トランプ大統領の支持者にも記事は伝わっていますか?」

ディーン・バケイ氏
「大統領が事実を誇張したり、うそをついたりしたと報じても、トランプ大統領にはあまり影響がありません。大統領みずからが強く否定するうえ、支持者たちも大統領の言動をそれでもいいと受け止めているからです。ネットでは自分が信じたいと思う情報ばかりをえり好みできるので、今のような事態が以前より悪化していると言えるでしょう。今、求められているのは、しっかりと真実を伝え続け、公平性を保つこと。立場が違ってもお互い関心を持てるような話題を見つけることで、議論の土台を作っていく。そうすることで分断を修復することができるのではないかと私は考えています。」

あす投票 中間選挙

武田:分断が進むアメリカ社会。あす投票が行われる中間選挙の行方はどうなるのでしょうか。最新の情勢です。

鎌倉:まず、上院です。共和党が「優勢」「やや優勢」を合わせると、半数の50となり、多数派を維持する可能性が高くなっています。そして下院ですが、当初は民主党が優勢と見られてきましたが、ここにきて共和党が猛烈に追い上げ、接戦となっています。勝敗はまだ見えていません。

今回の選挙は、2年後の大統領選挙での再選を目指すトランプ大統領にとって重要な戦いとなっており、選挙戦最終盤では、大統領みずから、各地を精力的に遊説して支持を訴えています。対する民主党は、トランプ大統領に批判的な女性や若者の票を取り込もうとしています。

武田:果たしてアメリカ社会の分断は深まるのか、それとも融和を取り戻せるのでしょうか。