クローズアップ現代

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2018年9月12日(水)
大坂なおみ 快挙の舞台裏

大坂なおみ 快挙の舞台裏

テニスの四大大会最終戦、全米オープンの女子シングルスで初優勝を果たした大坂なおみ選手、20歳。四大大会のシングルスで日本選手が優勝するのは、男女を通じて初めての快挙だ。番組では、大坂選手の初優勝のターニングポイントとなった試合をNHKの独自映像を交えて徹底分析。現地で大会を見てきたテニスプレーヤーの伊達公子さんとともに大坂選手の急成長の秘密に迫る。

出演者

  • 伊達公子さん (テニスプレーヤー)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

大坂なおみ 知られざる舞台裏 “悪夢がよみがえった”ピンチ

ゲスト 伊達公子さん(テニスプレーヤー)

渋谷の繁華街でアイスを味わう、女子テニス・大坂なおみ選手。2年前の映像です。
全米オープンで大坂選手の活躍を見てきた伊達公子さん。快挙を引き寄せたポイントはある試合にあったといいます。

伊達さん:私が注目したのは4回戦です。あのピンチを乗り越えたから優勝できたんです。

優勝への分かれ目だった4回戦。これまでの大坂選手なら負けてもおかしくない展開になりました。対戦相手は、アリーナ・サバリエンカ選手。パワーテニスが持ち味の強豪です。第1セットを取ったあとの第2セット。攻めに出たサバリエンカ選手にブレークされます。ミスを連発し、ゲームを奪われていく大坂選手。この大会で初めてセットを落とします。
勝敗が決まる最終セット。いらだちが募ります。このセットも先にブレークを許してしまいました。

大坂なおみ選手
「もし負けたらどんな気分になるかと、少しネガティブに考えてしまった。悪夢がよみがえった。」

大坂選手の言う悪夢。それを身近で見てきた、プロテニスプレーヤーの尾﨑里紗選手です。プライベートでも食事を共にするなど、交流を深めてきました。

プロテニスプレーヤー 尾﨑里紗選手
「昔のなおみだったら、メンタルも回復できず、負けていたかもしれない。ミスが続いてしまうと連続失点が多く、気持ち的には浮き沈みが激しかった。」

2年前の全米オープン。大坂選手は、あと2ポイントで勝利するところまで迫りました。ところが、ミスを連発し、5ゲームを立て続けに失い、大逆転負けを喫したのです。
今回も同じように崩れるのか。のど元に手を当て、自分に何かを言い聞かせる大坂選手。ブレークされた直後の第4ゲーム。相手のミスを誘い、ブレークバック。流れを呼び戻しました。

大坂なおみ選手
「とにかく難局を切り抜けようと、出来る限りミスなくプレーしようとした。」

プロテニスプレーヤー 尾﨑里紗選手
「今回メンタルの部分で切り替えをしっかりして、自分を信じてできていたので、崩れかけてもしっかり自分で立て直して、ファイナルセットで戦えた。」

大坂なおみ 知られざる舞台裏 弱点克服に秘策があった!

ピンチでも耐えられるようになった大坂選手。そこには、信頼できるコーチとの出会いがありました。
今シーズンから大坂選手のチームに加わった、サーシャ・バジンコーチ。あのセリーナ・ウィリアムズ選手のヒッティングパートナーを務めるなど、数々の女子テニスプレーヤーを支えてきました。

サーシャ・バジンコーチ
「大坂選手には圧力をかけるわけではないが、ベストを尽くしたい。タイトルを取りたいと、もちろん思っている。」

大坂なおみ選手
「同じ。」

バジンコーチと取り組んだのが、ミスをしない“我慢のテニス”です。

サーシャ・バジンコーチ
「ボールを右、左、真ん中に入れて、僕を走らせてね。」

パワーに頼りがちで、自滅することもあった大坂選手。全力で打つのではなく、コントロールを重視したストロークを強化していきました。

サーシャ・バジンコーチ
「なおみはミスが多いから負ける。すべて全力で打たなくてもいいと教えてきた。」

さらにバジンコーチは、精神面のもろさも克服できるよう指導していきました。

サーシャ・バジンコーチ
「ネガティブな気持ちはやめよう。ポジティブにいこう。」

大坂なおみ選手
「落ち込んでいるわ。」

サーシャ・バジンコーチ
「なおみ、ネガティブな気持ちは捨てて。」

サーシャ・バジンコーチ
「相手のことを気にしないで。」

大坂なおみ選手
「気になるわ。」

サーシャ・バジンコーチ
「自分のできることに集中しよう。」

バジンコーチとの二人三脚が、この4回戦で実を結びます。“我慢のテニス”で相手のミスを誘います。さらに、大坂選手は力強いサーブでポイントを重ねます。このサーブこそ、大坂選手が進化させ続けてきた最大の武器でした。
大坂選手が16歳の時に通っていたテニスクラブです。何人ものトップ選手を育ててきた、代表のハロルド・ソロモンさん。アスリートとして恵まれた体を持つ大坂選手に、大きな可能性を見いだしたといいます。

テニスクラブ 代表 ハロルド・ソロモンさん
「初めて見た日に、この子は世界トップ10に入る選手になると思いました。力強いサーブとフォアハンドという武器があったからです。しかし決められるのは2回に1回だけで、体幹と脚力を強化する必要がありました。」

180センチの長身から、最速200キロのサーブを繰り出す大坂選手。このサーブを安定して打てるよう、大坂選手は徹底した筋力トレーニングを積みました。さらにバジンコーチから、全力でなくても十分速いサーブが打てると指導を受け、コントロールに磨きをかけました。
全米オープンの4回戦。このサーブは、自己ベストより抑えた時速188キロ。高い精度でコースを突き、相手を追い詰めます。“我慢のテニス”で長いラリーに持ち込んだ大坂選手。これまでの自分の殻を破ってつかんだ、大きな勝利でした。

大坂なおみ選手
「この展開でもし負けたら自分が許せなくなると思ってプレーしていました。勝ったときは本当にうれしかったです。すべてのポイントを取りにいかなければならない。たとえ足の骨が折れても、ボールにくらいつこうと思っていました。」

大坂なおみ 驚異の成長! 伊達公子さん 徹底分析

鎌倉:大坂選手、とにかくこの1年の成長が目覚ましいんですね。世界ランキングが2桁になったのは2年前でした。そのあとは、しばらく50位前後を行ったり来たりしていたんですけれども、今年(2018年)の3月にツアー初優勝を飾ります。わずかその半年後には、この四大大会を制するまでに急成長しているわけなんですよね。世界ランキングも、今回の優勝で一気に7位に上がりまして、トップ10入りを果たしました。

武田:伊達さんは、3年前に1度対戦して、その時は勝ったことがあるということですけれども、やはりその時から変わりましたか?

伊達さん:大きく変わっていますね。比べるのが、もう例えに出すのがおかしいんじゃないかっていうぐらい。彼女は何よりも、テニスがパワーだけに頼らなくなったということが一番大きく言えると思うんですけれども。当時はやっぱり、今年の4月、5月、私、全部見てきましたけれども、まだ全然パワーに頼っていたんですけれども、そのパワーだけに頼らないテニスができるということが大きいと思います。

武田:それで本当に急成長してきた?

伊達さん:このUSオープンに入ってから、やっぱり少し我慢をするということ。パワーの中にも100%で狙いに行く時と、そのメリハリがすごくできるようになったというのが、大きな違いかなと。

武田:我慢をするという力がついてきたということなんですね。

鎌倉:その大坂選手が磨いた“我慢のテニス”というのが、実はデータにも表われているんですね。今回の全米オープンで大坂選手は、自分のサービスゲームを奪われそうになるブレークポイントを33回迎えているんですけれども、そのうち29回はこれを逃れています。率にしますと、87.8%なんですね。一方で、決勝を戦ったセリーナ・ウィリアムズ選手を見てみますと、29回中18回、これは率にしますと、62%。つまり、大坂選手の方が、よりピンチでの強さが光っていたということなんですよ。
さらに、大坂選手の1試合平均の単純なミスの回数は17.4回でした。これはベスト8に進出した選手の中で最も少ないんですよ。自身の去年(2017年)の全米オープンの時と比べても、そのミスの回数がおよそ半分に減っているんですよ。

武田:VTRではフィジカル面の強化もお伝えしましたけれども、こういったデータは、やはりフィジカル面の強化もつながっているんでしょうか?

伊達さん:“我慢のテニス”をするために、ただ我慢をしようと思ってできるものではなくて、やっぱりそこに行き着くまでに彼女が努力してきたことが、しっかりと成果、体の動きというものにも出てきていて、彼女は7キロ減量しているんですね。先ほどの映像にも出ていましたけれども、見ていただいたら、ぜんぜん体つきが変わっているんですけれども、すごくフィットして、筋肉量が落とせないので、筋肉量は当然ですけれどもアップさせながら、体脂肪だけを落とした中で7キロ減量していますので、すごく体の切れが出てきたという中で我慢ができるようになったということがいえると思います。

武田:特に下半身の強化が強調されていましたけれども、実際のプレーにはどういうふうに影響しているんでしょうか?

伊達さん:1つには、フットワークがすごくよくなっているんですね。

武田:サービスの安定にもつながったという話でしたけれども、それだけではなく?

伊達さん:体幹もぶれずに打てるようになっているんですけれども、リターンの時とかに彼女の癖として、リターンでボールを捉える時に、ちょっと詰まって、ここの脇が閉じてしまってパワーがロスしてしまう傾向があったんです。

まだまだ今も修正中ではあるんですけれども、一番いいのは、大きなスタンスが取れるようになって、ここで一番パワーが生きるところで捉えられるようになったというのが一番。

武田:このスタンスを取れるようになったのが、下半身の強化ということになるわけですね。

伊達さん:つながっていますね。後ろに下げられた時にも、細かいステップを混ぜながら、スタンスが小さくならずに、大きいままで捉えられるということができていますね。

武田:さて、4回戦を突破して、その後も勝ち続けた大坂選手は決勝へ。伊達さんは、ある1つのプレーが勝利のカギになったといいます。

大坂なおみ 知られざる舞台裏 “あのプレーがカギだった”

決勝の相手は、大坂選手が小さいころから憧れてきた、セリーナ・ウィリアムズ選手。セリーナ選手の手の内を知るバジンコーチ。大坂選手に「これまでと変わらないプレーができれば勝機はある」と話していました。
第1セット、大坂選手は磨いてきたラリーに持ち込みます。セリーナ選手のスピードとパワーのあるショットに落ち着いて対応。主導権を握ります。このセットミスでポイントを奪われた数は、大坂選手の5に対して、セリーナ選手は13。第1セットは大坂選手が圧倒します。

大坂なおみ選手
「持久力に自信があったので、ロングラリーでの我慢比べなら負けないと思っていた。」

第2セット。セリーナ選手が巻き返します。パワーとテクニックに翻弄された大坂選手。この試合、初めてブレークされ、1ー3とリードされます。

大坂なおみ選手
「このままだと彼女を勢いづけてしまうことになりそうだった。セリーナからブレークし返すことが求められた。この試合で一番集中した。」

これまでなら崩れてもおかしくない大坂選手。伊達さんが注目したプレーを迎えます。直後の第5ゲーム。見事なリターンエース。

武田:これ、私も鳥肌が立ったプレーなんですけれども、これがカギですか?

伊達さん:勢いがセリーナにつき始めていたところですので、ブレークされて、相手のサービスゲームですね、その時にファーストポイントってすごく大事なんですけれども、その時にしっかりと気持ちの切り替えをした中でファーストポイントに入れた。この心の準備が、すごく彼女にとって大きかった1ポイントにつながりました。

武田:準備ができていたということですね。

大坂なおみ 知られざる舞台裏 “自分のことだけに集中しよう”

次第にいらだちを募らせるセリーナ選手。

セリーナ・ウィリアムズ選手
「うそつきはあなただ。あなたは泥棒だ。」

会場全体が異様な雰囲気に包まれていきました。バジンコーチは、大坂選手の集中力が途切れてしまわないか不安を感じていました。

サーシャ・バジンコーチ
「私の気持ちは穏やかではなかった。このような事態に対する準備を全く想定していなかった。」

ところが大坂選手は、審判とセリーナ選手のやり取りに背を向け、一人、心を落ち着かせようとしていました。

大坂なおみ選手
「セリーナは偉大なチャンピオン。どのような状況からでも逆転してくる力がある。とにかく自分のことだけに集中しようと心がけた。この後にチャンスが訪れたら、絶対に逃してはいけないと思っていた。」

大坂選手は自分を見失いませんでした。磨いてきた“我慢のテニス”。さらに、得意のサーブを左右に打ち分けます。そして―。心と技術をコントロールし、勝機を見極めた大坂選手。世界最高の舞台で大きな花を咲かせました。

大坂なおみ 快挙の舞台裏 伊達公子さん 徹底分析

武田:異様な雰囲気の中、伊達さんもそこにいらっしゃったわけですけれども、大坂選手の様子、どういうふうにお感じになりました?

伊達さん:同じ選手という立場で、あのシチュエーションを想像すると、私の場合、解説で解説ブースに入っていましたので、そのまま空気感が分かったわけではないんですけれども、でも選手ということで想像するに、あの状況を全て飲み込むということは簡単ではなかったはずなんですよね。けれども、彼女は冷静さを見失わずに、しっかりと自分のやるべきことにフォーカスができていたということは、経験がそれほどあるわけではないんですけれども、すばらしかったなと思いますね。

武田:やはりここが一番、まさに我慢の真骨頂。

伊達さん:そうですね。ただボールをラリーの中で我慢するということではなく、やっぱり試合の流れ。先ほどのブレークされたりするなど、1つの試合の中にいろんなことを考えて、判断をしてやらなければいけないことがたくさんあるんですけれども、そこを彼女は冷静さを見失わなかったですね。

鎌倉:伊達さんが見た大坂選手の強さの秘けつ、それが“見極める力”ということなんですね。以前は、持ち前のパワーに頼って、全て100%の力で打っていたんですけれども、今大会は60〜70%に抑えてプレーする場面と、100%で攻めて勝負をかける場面を“見極める力”がついていた、それが強さの秘けつだったということなんですね。
そんな力をつけた大坂選手が、さらに今後成長するためのカギを、今夜は伊達さんに挙げていただきました。それが、まず技術面ではこちらです。ネットプレーとショットのバリエーション。精神面ではこちら、“追求心”ということです。

武田:まず、技術面の伸びしろ、これはどういうことですか?

伊達さん:彼女は今のところ、とにかく我慢はしていますけれども、プレーの中で攻めることばかりなんですね。ですけれども、これからたくさん研究をされます、トップの選手たちから。その時に、まだスライスを打ったりということができないんですね。

武田:ショットのバリエーションということでいうと。

伊達さん:こういうものもまだ吸収する段階ですので、これから彼女がたくさんそういうショットを覚えていくと、プレーにまたさらに幅が出てくるんですね。攻める力はあるので、攻めにいった時にネットプレーを最後に決めるというところで、これもまだまだ成長できるポイントになります。

武田:そしてメンタルの面では“追求心”とありますが、これはどういうことなんでしょうか?

伊達さん:やっぱり、1つタイトルを取りましたけれども、彼女の最終的なゴールは1つ取ることではないと思います。これからナンバー1になる可能性も十分考えられるので、そのためには、彼女がこの“追求心”というものを忘れなければ、必ずや2度目のタイトル、そしてもっと連続して取れること、そしてナンバー1、そしてもしかしたら、大坂なおみの時代が来る可能性も考えられるのかなと思います。

武田:若くして頂点を極めた選手が、その後、燃え尽きてしまうということも、女子のプレーヤーはこれまでもたくさんありましたよね。

伊達さん:燃え尽きる場合と、そしてプレッシャーに勝てなくなってしまうということも考えられるので、まだまだ彼女はそういうタイプではないと思っていますし、ないとは思うんですけれども、こればっかりは、また今週も試合がありますし、彼女がどんな成長をこれからしていくのか、非常に楽しみです。

武田:さらなる四大大会のタイトル、そして東京オリンピックの金メダル、期待できますかね?

伊達さん:2年後ということを考えると、まだ今が成長段階なので、2年後は今よりもさらに強くなって、一番彼女が脂が乗ってきて、いい時にオリンピックを迎えられるんじゃないかなと思います。

武田:楽しみですね。

伊達さん:でも、本当に彼女自身が、夢を実現させるという強い気持ちが、これを実現に導いてくれたんじゃないかなというふうに思います。

武田:日本選手初の頂点。私たちが待ちに待った風景を、20歳の若者が見せてくれました。もう一度見たい!何度でも見たい!物語はまだ始まったばかりです。カモン・なおみ!