クローズアップ現代

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2018年9月11日(火)
“日の丸ジェット” 世界の壁に挑む

“日の丸ジェット” 世界の壁に挑む

半世紀ぶりの国産旅客機として製造業の現場から期待を集める「MRJ(三菱リージョナルジェット)」。7月、世界最大規模の航空ショーで航空関係者を前に初飛行を行い、開発の順調さをアピールした。ただ、5度にわたる納期の延期で、この2年間は、受注を獲得できず、営業は苦戦が続く。競争がし烈な航空産業界で新参の“日の丸ジェット”は世界を相手にどう戦っていくのか? 今後の戦略と量産化に向けた課題を探る。

出演者

  • 渋武容さん (東京大学特任教授)
  • ココリコ・遠藤章造さん (タレント)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

半世紀ぶり“日の丸ジェット” カメラ潜入!開発の舞台裏

ゲストお笑いコンビ・ココリコ 遠藤章造さん (タレント)

武田:東京オリンピックの聖火を運んだ、戦後初の国産旅客機YS11。それから半世紀ぶりに開発が進んでいるのがこちら、「MRJ」です。飛行機が大好きなココリコの遠藤さん。どんな思いがありますか?

遠藤さん:純国産で50年間つくっていないので、本当に楽しみにしているんですけども、日本の技術を世界に知らしめてもらいたいというような、本当に期待している飛行機ですね。

武田:さあ、その日の丸ジェット、世界を相手にどう戦っていくのでしょうか。

半世紀ぶりに開発が進められている、“日の丸ジェット”。ふだん立ち入りが禁止されている開発現場。初めてカメラでの取材が許されました。

開発は今、最終段階。急旋回や急加速など、極限状態で安全に飛行できるのか、試験を繰り返しています。機体の耐久性を確認するために、マイナス40度の極寒に耐えられるか、50度の酷暑に耐えられるかといった試験も行われています。

開発の責任者、アレクサンダー・ベラミーさんです。ライバルのカナダ・ボンバルディアでの経験を買われて2年前に招かれ、開発に携わっています。

プログラム推進本部 アレクサンダー・ベラミー本部長
「ワクワクする。」

ベラミーさんや経験豊富な外国人技術者の力で、現場は大きく前進してきたのです。

プログラム推進本部 アレクサンダー・ベラミー本部長
「ここまで来られたことは誇りです。日本もこの進展を誇るべき。」

国産旅客機・MRJの開発がスタートしたのは10年前。「日本人の手で純国産のジェット機をつくりたい」。掲げたのは“自前主義”。当初、開発スタッフのほとんどは日本人でした。しかし、開発は思うように進みませんでした。

「こちらの棚すべてが、安全性証明に必要な書類です。」

立ちはだかったのが、“型式証明”でした。型式証明とは、航空機の安全性を証明するものです。主翼の強度や、エンジンの性能などを測定。こうしたテストを繰り返して、400分野、2,500項目にわたって安全性を証明しなければ型式証明は取得できません。
しかし、ノウハウを持たない日本のメーカーにとって、それは簡単なことではありませんでした。当初、2013年の初納入を目指していたMRJ。スケジュールは5度の延期を余儀なくされ、7年も遅れることになったのです。

三菱重工 宮永俊一社長
「パートナーの方々には心配と迷惑をかけ、大変申し訳ない。」

待ったなしの状況に追い込まれたプロジェクト。自前主義の方針を大きく転換し、経験がある外国人を登用することにしたのです。
小型機の型式証明を取得した経験があるベラミーさんは、外国人技術者たちのノウハウを結集。さまざまな改革に乗り出しました。型式証明の取得では、機内で火災や水漏れが起きた時でも飛び続けることが求められます。当初の設計では、飛行を制御するための重要な装置が集中して配置されていました。しかしこの設計では、火災などを起こした場合、ほかの設備に影響を及ぼし、安全性を損なうおそれがあるため、型式証明を取得できません。
こうした問題を解決するためにベラミーさんが進めたのが、組織改革です。それまで縦割りだった組織を見直し、横の連携で問題対処にあたれるようにしました。開発や製造など、各部門から集めて作られたプロジェクトチームによって、短期間で設計を変更。重要設備を離して配置し直し、安全性の基準をクリアできたのです。

プログラム推進本部 アレクサンダー・ベラミー本部長
「今、チームにはさまざまな国から経験あるスタッフが集い、すばらしい職場となっています。」

こうしてMRJの開発は一気に進み、型式証明取得のめどが立ちました。日本や欧米の航空会社から、これまで400機余りを受注。最初の1機は、2年後に引き渡しとなる見込みです。

三菱重工 宮永俊一社長
「“何でも自前、すぐ三菱重工で”と言い出しかねないときに、“知らないことは知らない”と学びにいくことは徹底しないといけない。」

開発が進んだことで、下請け企業にも期待が広がっています。その一社、愛知県にある金属加工メーカーです。

旭精機工業 山口央社長
「主翼の中の骨格、骨組みを担当している。」

20億円以上を投じて、2年前にMRJのための新たな工場をつくりました。早ければ来年(2019年)の春、量産化が始まる見通しとなり、工場をようやく稼働させることができそうです。

旭精機工業 山口央社長
「(MRJは)伸びていくはずの事業だと思っている。初引き渡し以降、拡大していくだろうと楽しみにしている。」



武田:国産の旅客機に乗れる日がようやく近づいてきていると。

遠藤さん:いよいよって感じですよね。日本の産業として定着してもらいたいなと思います。

武田:ただ単につくるだけではなくて。

遠藤さん:はい。やっぱり日本の技術ってすごいと思いますからね。

“ものづくり立国”の挑戦

ゲスト渋武容さん (東京大学 特任教授)

田中:MRJ1機当たりの部品点数は、およそ100万点。自動車は3万点といわれていますので、その波及効果は桁違いです。航空機産業は、実に裾野が広いんです。製造する中小企業は、全国におよそ500社。次世代産業として、2020年には売上高、年間2兆円という目標を政府も掲げています。
また、航空機は最新鋭の技術の塊。日本から革新的な技術が生まれることが期待できます。航空機産業から生まれた先端技術、例えば自動車のブレーキが利かなくなることを防ぐABS=アンチロック・ブレーキ・システムや、新幹線の騒音を和らげる形状にも応用されています。

武田:実にいろいろな技術が生まれる可能性が。

遠藤さん:やっぱり飛行機ってすごいですね。

武田:航空産業を研究している渋武容さん。日本に旅客機のメーカーが生まれる、このことの意味とは何なのでしょうか?

渋武さん:今ありましたとおり、航空産業というのはいろいろな技術とか経済の波及を生んでくることは可能なんですけれども、その中で今回、市場の声を聞きながらどういう飛行機をつくって、いろんな関係の方々、国際的な関係も含めて取りまとめていくか。それによって新しい飛行機、新しい技術を生んでいくかというところに価値があると思います。

武田:自分でその飛行機をいわば企画してつくっていくということに、これまでにはない新たな産業の可能性があるということですね。

渋武さん:そうですね。

遠藤さん:日本の技術ってすごいと思うのに、何でここまで、この50年も飛行機がつくられてこなかったんですか?

渋武さん:YS11があってから50年たったという話なんですけれども、YS11があって、航空機をつくる知見ができてから、いろんな組み合わせをという話があったそうですけれども、う余曲折しながら国際共同開発という形でかじを切って、それで今、ボーイング767、777、787、ああいったところに参画していくという形で技術力はちゃんと生かしてきたと。

武田:例えば787、ドリームライナーとか、その中には日本の技術は入っているけれど、ということなんですよね?

渋武さん:はい、そうですね。

武田:1機まるまるつくるということではなかった?

渋武さん:そういうことになります。

なぜ遅れ?何が問題?

田中:2008年に始まった開発は、当初2013年に初号機の納入を目指していました。しかし、安全性の証明に思った以上に時間がかかり、5度のスケジュールの延期を余儀なくされたんです。その安全性の証明ですが、まず設計。次に部品。さらに、それが集まったパーツ。そして機体と証明を進めていて、今は社内の飛行試験の段階です。間もなく国の飛行試験へと進み、初号機納入に向けた最終段階を迎えようとしています。

武田:やはり乗り越えなければいけないハードルがたくさんあって、一口に航空機メーカーをつくると言うのは簡単だけれども、やはり難しさがある。これを乗り越えることは、日本の産業界にどんなインパクトがあるのでしょうか?

渋武さん:おっしゃるとおり、安全性の証明であるとか、そういったところをやっていくためには、今までになかった経験・能力を身につけていく必要があるわけですけれども。それを例えば「とりまとめ能力」と申しましょうか、インテグレーション、そういったものを、各国の技能者とか各国のパートナーと組みながら、きちっとした複雑なシステムを実現していくということは、これからのより複雑化していく日本のものづくり、そういったものにも十分生かせるきっかけになるんじゃないかと思っております。

武田:日本の産業界は、そういった部分で少し国際的な競争力課題があるということなんでしょうか?

渋武さん:やはり、より複雑化していって、特にソフトウエアであるとかいろいろな安全性開発保証、そういったものをやっていく時に、今までなかった組み合わせをちゃんと実現していくための取り組みが必要じゃないかと思います。

遠藤さん:大変なんですよね、飛行機つくるのってね。

武田:チームワークをちゃんとつくっていかなければいけないということですね。

強豪ライバルに挑む

田中:世界の航空業界に新規参入するMRJですが、果たして通用するのでしょうか。こちらが業界の構図です。100席以上の航空機では、ボーイングとエアバスの2大メーカーがシェアの98%を占めています。一方、MRJが参入することになる100席以下の小型機では、ブラジルのエンブラエルとカナダのボンバルディアがシェアの8割以上を占めています。この強豪の中にMRJは割って入らなくてはならないんですね。

武田:この夏、MRJは世界の航空関係者が集まる国際航空ショーに参加しました。小型旅客機市場でどう戦うのか、ショーの舞台裏に迫りました。

運命の航空ショーにカメラ密着

イギリスで開かれた世界最大規模の航空ショー。世界中から航空関係者8万人が参加。メーカー各社は最新鋭の機体を披露し、新たな受注を狙います。

今回、初めてデモフライトを公開するMRJ。真っ先に納入することにしている全日空の塗装が施されています。

MRJの営業チームです。航空ショーを起死回生のチャンスにしたいと、意気込んでいました。

アジア営業チーム 空閑克己主席チーム統括
「これがMRJです。」

アジアの顧客を担当する、空閑克己さんです。

アジア営業チーム 空閑克己主席チーム統括
「燃費を20%向上させました。」

MRJの特徴をアピールし、新たな受注獲得を目指します。

アジア営業チーム 空閑克己主席チーム統括
「われわれは挑戦者、新しい機体なので、飛ぶところを一生懸命アピールして追いつきたいと考えている。」

迎えた、初フライト。

場内アナウンス
“MRJの離陸です。”

初めて世界に羽ばたく姿を披露するMRJ。左右に翼を振り、そして急上昇。高い操作性や安全性をアピールしました。各国の航空会社や部品メーカーの人たちが、その様子を見守っていました。

「MRJが好きになりました。スムーズで燃費もいい飛行機です。」

「音が静かなのに驚きました。燃費がよくて騒音も小さいので、最高ですね。」

アジア営業チーム 空閑克己主席チーム統括
「非常に注目してもらっているのがわかる。ありがたい。」

手応えを得た空閑さんたち。会場の外でも積極的に営業を仕掛けます。開発を進める三菱航空機の社長も同行して、トップセールスを試みました。
この日、訪ねたのは、インドの大手航空会社会長の邸宅で開かれたパーティー。国土が広いインドでは、小型機が活躍する地方路線が爆発的に増えていくと狙いを定めています。タイミングを見計らい、会長に歩み寄った空閑さん。まだ知名度の低いMRJを直接売り込みます。

アジア営業チーム 空閑克己主席チーム統括
「デモフライトに成功しました。」

インドの大手航空会社 会長
「何人乗りですか?」

「70人と90人です。」

短い時間でしたが、MRJの存在を伝えることができました。

アジア営業チーム 空閑克己主席チーム統括
「時間はかかると思うが、少しずつ商談の形になるようにもっていきたい。」

4日間にわたってデモフライトを予定していたMRJ。しかし、予期していなかった事態に見舞われます。けん引していた作業車が衝突する事故が起きたのです。ぶつけられたのは、気象レーダーや地上との位置を計測するアンテナなどが入っている重要なパーツです。

「ぶつかった場所、壊れた場所によっては、すごく時間がかかる場合、すぐ直せる場合とある。細かいところは微妙なので話せない。」

一方で、ライバルたちは大きな成果を上げていました。小型機最大手、ブラジルのエンブラエル。これまで世界で2,000機を超える販売実績があります。

今回アピールした新機種は、MRJとほぼ同じ規模の小型機。高い燃費性能も打ち出しています。MRJがデモフライトを見合わせたこの日、エンブラエルの会見に世界の注目が集まりました。

「2つの数字を発表します。今日までに300機を受注しました。総額は150億ドル(1兆6,500億円)です。…失礼、153億ドル(1兆6,830億円)でした。3億ドル(330億円)忘れていました。」

デモフライトの機会を逃すと、ライバルに大きく水をあけられる。技術スタッフは総出で壊れたパーツの修理に取りかかります。なんとか修理が間に合ったMRJ。再びデモフライトを披露することができました。
新規の受注を目指す営業チーム。以前からMRJの購入に前向きな姿勢を示している、スイスの航空会社との商談に臨みました。

スイスの航空会社 イネブニトCEO
「事故は悪夢のようでしたが、傷が浅くてよかったですね。」

ヨーロッパの主要都市を結ぶ路線で小型機を飛ばしているこの会社。今後新しい小型機を導入することを検討しています。

「まだ購入の計画はありますよね?」

スイスの航空会社 イネブニトCEO
「もちろんです。モーゼスレイク(アメリカ)で飛行試験を続けているんですよね。」

「続けています。」

スイスの航空会社 イネブニトCEO
「完成が楽しみです。ジェット機の購入は結婚と似ています。メンテナンスなど、長く続く関係だからです。」

世界にどう挑む

武田:MRJの航空ショーでのデビュー、どうご覧になりました?

遠藤さん:MRJも全然負けていないと思うんですけれども、ライバル会社もやりますね。あの塗装とかインパクトありますしね。

武田:サメですからね。

遠藤さん:なんとかこっちも頑張ってもらいたいですけどね。頭ゴンとぶつかったりとか不運はありましたけれども、やっぱりエンジンの静かさだったりとか燃費のよさとか、そういう技術は見せてもらいたいですけどね。

田中:世界の市場でどう勝負するか。三菱航空機では次のようなシナリオを描いています。第一に2020年の初納入を遅れないようにする。これは必須ですよね。

渋武さん:そうですね。ちゃんと手順を考えて2020年という形で出していますので、まとめてきっちりやって頂ければというふうに思っております。

武田:これ実現できますか?

渋武さん:はい、その形でいろいろな関係の方々が、それぞれ手分けしてもう一回きちんとした作業を組み直してやってらっしゃるというふうに聞いております。

田中:そしてシナリオの2つ目に、今の90人乗りに加え、他社がつくっていない70人乗りの開発を進めるということなんです。アメリカの国内線で需要があると見込んでいます。
そして3つ目は、安定した量産体制をつくり、20年後を見据え、アジア市場で大量受注を目指すということです。

武田:こうしたシナリオなんですけれども、MRJはこれで本当に勝ち残れるのでしょうか?

渋武さん:旅客機というのはつくって渡すだけではなくて、その後、先ほど「結婚」という話もございましたけれども、20年ぐらいずっと続けて安全性を保ち続けることが必要になります。それを、新しく投入した飛行機が市場とちゃんと対応しながら、これからきちっと立派な飛行機に育っていき、日本が完成機の技術を持った設計や販売ができる国という知見をためていくと。そういったことができれば、また次の展開というふうなことが可能になると思っております。

武田:その次の展開のためには、さらにはどんなことが今必要なんですか?

渋武さん:駅伝にも例えられますけれども、こういったところの競争と国際協調をきっちりやっていくためには、やはり産学官、力を合わせて人材教育。あとはちゃんとシームレスに研究開発から実用化まで含めた技術開発、そういったところをやっていくための対等に競争できる環境整備、そういったところまで、日本全体としての取り組みが求められるというふうに思います。

武田:もう今から次の世代の人材を育てていかないといけない?

渋武さん:はい。各国伺ったことがありますけれども、ものすごい努力をされておりますので、日本としてもそこを競争していくために、きっちりやっていく必要があるかなと思います。

武田:改めて、課題も含めてMRJの未来、どんなことを期待されていますか?

遠藤さん:自動車は世界にどんどん国産の車って出ていると思うので、同じように日本の飛行機が世界でどんどん活躍してもらいたいし、僕らも乗りたいですから。

武田:そうですよね。そういう日が一日も早く、ちゃんと予定どおり来るということが大事ですよね。

遠藤さん:はい。

武田:このMRJの翼には、日本に新たなものづくり産業を興すという夢が乗せられています。世界のしれつな競争の中で、その実現に向けた正念場を今まさに迎えています。