クローズアップ現代

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2018年9月4日(火)
追跡!ネット広告の“闇”

追跡!ネット広告の“闇”

急成長を遂げ、年間1兆5千億円を突破したネット広告市場。この巨大市場に不正の闇が広がっていることが分かってきた。4月に取り上げた海賊版サイト「漫画村」では、広告が実際には見られていないにも関わらず、大企業が広告費をだまし取られる“裏広告”の実態が明らかに。その後も取材を続けると、次から次へと新たな手法が浮き彫りになってきた。 被害は企業だけでなく、国や自治体にも広がり、税金がだまし取られていた可能性も浮上してきた。番組では、サイトに残された手がかりから、不正に関わると見られる業者を複数特定。個人か?それとも組織的な行為か?謎に包まれたネット広告の「闇」に迫る。

出演者

  • 中川淳一郎さん (ネットニュース編集者・元博報堂社員)
  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

追跡!ネット広告の闇 国も企業もターゲットに

仕事が終わり、ほっと一息。思わずのぞいたアダルトサイト。その裏で、こんな事態が起きていたことが分かりました。動画を見ている間に、裏で全く別のサイトが立ち上がり、見てもいないのに見たことにされている。実はこれ、ネット広告で不正に稼ごうという手口に巻き込まれている可能性があるんです。

街頭インタビュー
「ええっ、(不正な手口に巻き込まれるとは)ヤバかった。」

街頭インタビュー
「そんな仕掛けがあると思わなかったので、本当にびっくりしか言いようがない。」

スマホやパソコンでインターネットを利用すると目にする、さまざまな広告。今回、NHKの取材で明らかになったのは、一部のアダルトサイトの動画を見ると、その裏で見るつもりのない「まとめサイト」に勝手に飛ばされるという仕掛けです。しかも、その「まとめサイト」は表に表示されません。なのに広告を見たとカウントされる。広告主は何も知らずにむだな費用を支払ってしまう。アクセス数の多いアダルトサイトを踏み台にした、いわば「飛ばし裏広告」です。

ネット広告調査会社
「この手法は、アドフラウド(広告費の不正な横取り)というもの。広告主からみると、広告投資の無駄打ちになっている。」

NHKの調べで、この「飛ばし裏広告」の被害に遭っていたと見られる広告主は200以上に上ることが分かりました。中には、大手自動車メーカーや生命保険会社、警備会社などの社名が。そしてなんと自治体の名も。さらに、総務省や法務省という中央省庁まで。私たちの税金もターゲットになっていたのです。
今や1兆5,000億円を超えるネット広告市場。ばく大な広告費を狙った闇が、ひそかに広がっています。不正を行っているのは一体何者なのか。取材班はネット広告の闇の全貌を明らかにしようと、追跡取材を始めました。

追跡!ネット広告の闇 あなたの税金も標的に

取材班がまず当たったのは、冒頭のアダルトサイトの裏で飛ばされていた「まとめサイト」。そこで見つけた広告の一つ。うなぎや和牛の写真が…。鹿児島にある自治体のふるさと納税の広告でした。

鹿児島県の大隅半島の付け根に位置する曽於市。少子高齢化が進む中、税収を増やそうと、市は和牛などの特産品を使ったふるさと納税に力を入れています。
ネット広告で不正が行われていることを知っているのか。市に疑問をぶつけました。

記者
「今回取材でちょっと一つ見ていただきたい広告があって。これ曽於市さんのですね。これもそうですね。これは曽於市さんの広告で間違いない?」

曽於市 職員
「そうですね。」

記者
「アダルトサイトにアクセスすると、(裏で)このサイトにアクセスが飛ぶような仕掛けがされていて、基本的にはこっちのサイトに表示された(曽於市の)広告っていうのは、ほとんど見られない状態で、要は税金が無駄遣いされているような状況になっている。」

曽於市 職員
「いま初めてそういった使われ方をするって、初めて見たので。」

曽於市 職員
「自分たちの知らないところで、こういう被害というか。やっぱり憤りを感じますね。」

市はネット広告について、大手広告代理店と契約。配信先は一任していたといいます。その代理店は、電通九州。ネットを含めた広告費として、今年度3,000万円を支払うことになっています。
その4日後。電通九州の担当者が説明に訪れました。

電通九州 担当者
「曽於市さんと、まだお話ができていないので、少しお待ちいただいていいですか。」

市に対し、経緯については調査中だが、不正な「まとめサイト」にこの広告を配信していたことは把握していなかったと説明したということです。

追跡!ネット広告の闇 電通・ヤフーを直撃

市からふるさと納税の広告を一手に引き受けていた広告代理店が、配信先を把握していないとは一体どういうことなのか。電通グループのネット広告部門のトップが取材に応じました。

電通デジタル 山口修治代表取締役
「ひとつひとつの広告が、どんな瞬間に誰に配信されるのか、制御することができないという仕組みになっています。(不正なサイトは)どんどん生まれていると思うんですけれど、生まれたそばから、それを検知して排除していくということができません。」

では、今回明らかになった問題をどう捉えているのか。

電通デジタル 山口修治代表取締役
「個別の案件に関しては、お答えできないと思いますけれど、我々として、至らない部分があったというところがあるのであれば、そこは謙虚に受けとめて、それをリカバリーする。実際に行動していかないといけないと思います。」

ネット広告は、広告代理店が直接サイトに配信するのではなく、ネット広告専門の配信事業者が行います。今回、曽於市の広告はIT大手のヤフーが配信を担っていました。取材班は、ヤフーにも今回の経緯について説明を求めました。

記者
「実際にこういう現象が起きるというのを録画したものです。これは御社が配信している広告という理解でいいのでしょうか?」

ヤフー 宮澤弦常務
「はい、そうですね。当社が配信している広告。本当に大変申し訳ないと思います。本当にできることであれば、私自身(広告主)一社一社に出向いて謝りたいぐらいだと思います。」

しかし、その一方で…。

記者
「今回の手口はどういったものだと認識されていますか?」

ヤフー 宮澤弦常務
「結構、こっちが厳しくすると、その裏をかくようなやり方というのが次々に出てくる。一社だけの努力でも、どうにもならないところもあるかなというふうに思っています。」

電通もヤフーも、複雑で実像がつかめないと口をそろえるネット広告の不正。一体どういうことなのか。

追跡!ネット広告の闇 不正のカラクリとは

ゲスト 中川淳一郎さん(ネットニュース編集者・元博報堂社員)

武田:取材に当たった田辺記者。どういうことなんでしょうか?

田辺幹夫記者(ネットワーク報道部):ネット広告をいろんなサイトに配信して表示する仕組み「アドネットワーク」というのが鍵なんです。自動車の広告を例に説明します。まず、広告主の自動車メーカーは、どのような層に車を売りたいか、ターゲットを広告代理店に伝えます。例えば40代で家族がいる男性などです。広告代理店は広告配信事業者に対して、そうした男性が閲覧しそうなサイトに広告を配信するように依頼します。依頼を受けた配信事業者が使うのが、先ほどの「アドネットワーク」というシステムです。

この「アドネットワーク」には無数のウェブサイトにつながっていて、配信事業者がターゲットを車に関心のある40代の男性などと設定すると、そうした男性が実際に閲覧しているサイトを自動的に選んで、車の広告を表示する仕組みになっています。

武田:自動的に選ぶんですね。

田辺記者:この際、配信先のサイトの運営者に広告料が入ります。アクセス数が増えれば増えるほど収入も増えます。今回の手法は、アクセス数の多いアダルトサイトから裏の「まとめサイト」へ強制的に飛ばすことで不正に広告料を稼ごうとしていると見られます。配信先のウェブサイトは極めて膨大な数なので、広告代理店も配信事業者も、なかなか全てをチェックしきれないというのが実情なんです。

田中:こうした被害、実際どのくらい広がっているのかといいますと、こちらをご覧ください。これは今回、NHKの取材で明らかになった手口「飛ばし裏広告」で実際に配信されていた広告です。200以上あります。

誰もが知っている大手企業の広告、業種もいろいろです。この中でいくつかの広告主に取材しましたところ、皆一様に、初めてこの事実を知ったと驚いていました。ネット広告の業界団体であります「日本インタラクティブ広告協会」は、今回の「飛ばし裏広告」のような手口を「アドフラウド」と呼んでいまして、不正な広告費詐取の手法、あるいは不当に横取りする行為と定義しています。ネット広告を巡る不正はある調査会社の推計では、全体の9.1%で行われているとされていまして、決して無視できない数字だと指摘しています。

武田:大手広告代理店の元社員で、現在はネットニュースのサイト運営に当たっている中川さん。
ネット広告費の不正は「アドネットワーク」の仕組みが鍵だということでしたが、中川さんはどう捉えていらっしゃいますでしょうか?

中川さん:2008年ごろからアドネットワークって爆発的に普及したんですけれども、その前までは個別のサイトに載せてくれとお願いするような状況だったんですね。

武田:従来のテレビや新聞に載せるようにということですね。

中川さん:そうです。ところが、一気にたくさんのサイトに広告を出せて、しかも見てほしいターゲットにドンピシャでささるようになったと。これはすばらしいことなんですよ。ところが、本来出したいと思っていなかったような、ちょっと反社会的なサイトだったりとかにも出してしまうという弊害が出てきてしまったんですね。

武田:広告主の側が、そういったシステムの進化についていっていないということもあるんじゃないですか?

中川さん:日々、コンピューターの世界って、ネット広告の世界って進化していて、みんな開発してくるんですよ、新しい商品を。そこにたぶん追いついていけないと思っていますね、広告主の側が。

武田:電通やヤフーのような巨大な企業でも状況把握できていないようでしたけれども、こういった企業の責任をどうお感じですか?

中川さん:もちろん責任はあるし、先ほども、電通の方もヤフーの方もおわびをしていました。ところが、これを見ると分かるんですけれども、ここに電通がいて、ヤフーがいて、さらに「アドネットワーク」があると。プレーヤーの数が本当に多いんですね。

昔ながらのテレビ広告とかだったら、広告主、広告代理店、テレビ局といけたのに、今プレーヤーが多くて一体誰が悪いことをしているかが分からなくて、結局、責任の分散システムが出来てしまっているということなんですよ。

武田:田辺記者、鹿児島県曽於市は結局、広告に投入された税金というのはどうなったんですか?

田辺記者:曽於市ですが、私たちの取材のあと、不正な「まとめサイト」をブラックリストに載せて、ネット広告の配信を止めました。もともと支払いは年度末でしたので、税金が不当に支払われるのを未然に防ぐことができたということです。さらに、不正な「まとめサイト」には、VTR冒頭にも出ていたように、総務省ですとか法務省といった中央省庁の広告まで出ていましたが、こちらもすぐに広告を止めて、調査を現在、進めているということなんです。

武田:大企業も把握しきれない複雑な仕組みを使って不正を行い、収入を得ているのはどういった人、あるいは組織なんでしょうか。意外な事実が浮かび上がってきました。

追跡!ネット広告の闇 不正の核心に迫れ

鹿児島県曽於市のふるさと納税の広告が配信されていた不正な「まとめサイト」。その運営者は何者か、徹底的に調べました。サイト上では、運営者は事務局とだけ書かれ、手がかりがありません。そこで取材班はネット空間に残された膨大な情報から、サイトの運営者を探ることにしました。見つかったのが、このサイトの過去のページ。そこには会社名と住所が表示されていたのです。

福井県の海沿いにある小さな町。訪ねてみると、ごく普通の一軒家でした。

記者
「ごめんください。」

出てきたのは、70代の男性。

もともとは、この会社の代表をしていましたが、今は息子が後を継ぎ、別の所で仕事をしているといいます。父親に教えられた事務所に向かうと、看板のない一室で息子が1人。取材を申し込むと、「話すことはありません」と拒否されました。そこで、会社の役員を務める母親に連絡を取りました。

記者
「サイトを拝見して、●●さんの名前が出ていたんです、そのサイトに。」

母親
「それは間違いないです。(サイト運営)していることは間違いないです。」

しかし、問題の手法について尋ねると…。

母親
「実際に法に触れていないかどうか、私も詳細まではわかりませんので。」

記者
「広告主は憤りを感じていて。」

母親
「そういった苦情は現時点では全くありませんので。」

母親によれば、会社はもともと原発関連の土木工事を請け負っていましたが、本業の経営不振がきっかけで去年(2017年)インターネット事業を始めたといいます。

母親
「原子力発電所のほうも再稼働とか難しいこともいろいろありますのでね。そんなところでネット関係のことで(息子が)知り合った方がいて、大阪やら東京やら、いろいろ研修に行きましたので。」

記者
「そういった研修でインターネットの知識を得て事業を始めた?」

母親
「そうですね。」

不正な「まとめサイト」を運営していたのは、原発の町でネット事業を始めたばかりの家族経営の会社でした。果たして、この1社だけで大がかりな不正の仕掛けを作れるのか。調べを進めると、あのアダルトサイトから飛ばされる不正な「まとめサイト」は確認できただけで19ありました。それらのサイトの運営に関わっていると見られる業者は、都内のほか、愛知、福岡など全国各地に散らばっていました。ところが、SNSなどの分析から、これらのサイト運営者はほとんどが互いにつながりを持っていることが判明。私たちは複数の運営者を直撃取材しました。そして、このうちの1社の代表に話を聞きました。その男性は40代。話をしてみると、ネットにはそれほど詳しくなく、さまざまな仕事に携わってきたことが分かりました。

記者
「アダルトサイトから飛ばす仕掛けは、あなたが開発した?」

男性
「いいえ。配信事業者の紹介で仕掛けを設定してもらった。」

ならば…。

記者
「システムを提供している会社を知っている?」

男性
「ああ、そうですね。そこが大本です。」

記者
「その会社はどこですか?」

男性
「絶対、言えない。」

「飛ばし裏広告」のシステムを提供している会社はどこなのか。私たちは専門家に協力を依頼しました。アダルトサイトに仕組まれていた「まとめサイト」に飛ばす仕掛けの中身を解析してもらいます。

日本ハッカー協会 杉浦隆幸代表
「このプログラムを提供している会社を調べることができまして、●●(A社)という会社名ですね。」

A社は都内に本社がある、従業員30人ほどのIT企業でした。A社は「同じ名前のシステムは当社のものだが、サイトに仕掛けていたかは言えない。仮にそうだとしても不正ではないと考える」としました。
取材班が調べたところ、このシステムはおよそ1,000のアダルトサイトなどに仕掛けられていたと見られます。一体どうなっているのか。

追跡!ネット広告の闇 不正のカラクリとは

武田:田辺記者、不正の構図はどこまで分かってきたんでしょうか?

田辺記者:関係を整理します。アダルトサイトにはある仕掛けがされていて、不正な「まとめサイト」に自動的に飛ばされるようになっていました。飛ばされる先の不正なサイトの数は、確認できただけで19。運営者は全部で7人いました。そのサイトが使っていた飛ばしのシステムを分析すると、浮かび上がってきたのが、このA社です。

武田:このアダルトサイトと不正な「まとめサイト」をつなぐ役割をしていたのが、このA社だったということなんでしょうか?

田辺記者:私たちはその可能性があると考えてA社を取材しましたが、A社は飛ばしのシステムの名前が自社の持つシステムと同じであるとは認めましたが、不正に当たることは一切やっていない、そして、それ以上は答えられないとしました。

武田:一方、今回の手口で、この「まとめサイト」の運営者は、どのぐらいもうけたんですか?

田辺記者:今回、私たちが確認したある「まとめサイト」を、これを例に試算してみますと、このサイトのアクセス数は、民間の調査会社「シミラーウエブ」の推計で、今年(2018年)7月の1か月間で3,000万ページビューありました。1ページに15枚の広告が掲載されていたので、1枚当たり0.01円という一般的な相場で単純計算しますと、このサイトの運営者にはひと月に450万円の広告収入が入っていたということになります。

田中:こうした不正をどうすれば防げるのか。
こちらは不正なネット広告を調査・監視するアメリカの企業「IAS」です。日本にも支社があります。

こちらはIASが「ボット」と呼ばれる、人間ではなく、機械がページを閲覧して、広告費を水増しする不正な手口が行われている様子を可視化したものです。

このボットの活動が活発になればなるほど、赤から黄色に変わります。時間を見ますと、夜間にこのボットが活発に動いていることが分かります。こうした監視システムを利用している企業は増えています。例えば日本ですと「ネスレ日本」。調査会社とともに週に1回チェックして、自社の広告に不正が見つかりましたら、そのサイトへの広告の配信を止めています。また、ネット広告の業界団体も、不正なサイトとの取り引きを停止するなど、対策を進めようとしています。しかし、不正の手口もどんどん新しいものが出てきていまして、いたちごっこが続いているという状況ですね。

武田:中川さん、そうした不正の被害を防ぐために、まず広告主は、どんな意識を持ったらいいんでしょうか?

中川さん:先ほど市役所の方もすごい戸惑っていて、まさかこんなことになっているとはと。でも、デジタルの広告って、とにかく分からないと言っている場合ではないと思うんですね、進化し過ぎて。あと理系の脳みそも必要で、数字をどう読むかというところの勉強までしなければいけない。

武田:例えばどんな数字なんでしょうか?

中川さん:ここのサイトに出した方がよりクリックされる率が高いから、こっちにお金をいっぱい投入しましょうとか、そこの分析までしなければいけないんですよね。

武田:やっぱりそこまで考えないと、うかつに手を出せないということですね。

中川さん:だからこそ、代理店に丸投げして知らなかったというのはダメだし、代理店の側も、きちんとまともなサイトに配信しているよというところまでチェックが必要かなと。

武田:ネット広告で不正がまん延している状況が続きますと、私たち消費者、あるいはユーザーにはどんな影響があるんでしょう。

中川さん:まずは、広告料金というのが、販売価格に乗っているわけなんですよね。

武田:あまり意識していませんけどね。

中川さん:でも、そうなんですよ。あと、変なサイトばっかり増えてしまった場合、いい情報を取れなくなるので、そういういいサイトが残るためにも、適切な広告運用が必要なので、対岸の火事とか、業界のゴタゴタと思わずに、自分事と捉えていただければと思います。

武田:こういった不正にお金が使われるということになると、我々が結局、損するし。

中川さん:いい情報を取れるサイトにお金が回ってこなくなって閉鎖せざるを得ないなんてこともありえますので、自分ごとなんですね。

武田:そうなると、結局は消費者の損失になるということなんですね。
私たち消費者にもはね返ってくる、このネット広告の不正。今回見えてきたのは、まだ実はほんの一部です。私たちは、この問題をこれからも追い続けていきます。