クローズアップ現代

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2018年7月30日(月)
“いじめ自殺”遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~

“いじめ自殺”遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~

“いじめ”を受けた子どもの自殺が相次ぐ中、その背景や真相を究明する調査が様々な壁にぶつかっている。先月、神戸市で、いじめに関わる一次資料を市の教育委員会担当者が隠蔽していたことが発覚。一方、調査を担当する全国の「第三者委員会」では、遺族との信頼関係を築けず報告書の完成に至らないなど、調査が長引く事態が各地で起きていることも分かってきた。当事者の生の声を取材し、どうすれば、いじめの真相を明らかにし、再発防止につなげられるのか考える。

出演者

  • 尾木直樹さん (教育評論家)
  • 横山巌さん (日本弁護士連合会子どもの権利委員会、文部科学省いじめ防止対策協議会委員)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

いじめ 親に立ちはだかるカベ “今さら出せない…” 隠蔽の実態

いじめを受け、みずから命を絶った14歳の少女。その母親と教育委員会のやり取りです。

少女の母親
「のけものにされたり悪口言われたり、毎日のように孤立させられて、心身の苦痛を感じないはずがないですよね。」

「娘はいじめを受けていた」と訴える母親。しかし…。

教育委員会 担当者
「学校としていじめがあったと報告を上げるときは、必ず指導をしたということが必要。(いじめたとされる生徒)は何も指導されていない。問題行動(いじめ)としてあげられない。」

少女の母親
「だから(いじめに)含まれていない。」

教育委員会 担当者
「そういうことかな。指導して初めて、加害・被害があって問題(いじめ)となる。」

担当者は、学校が指導していない以上、いじめは認められないと繰り返しました。
しかし…。

「誠に申し訳ございませんでした。」

その教育委員会が、いじめはあったと認め、先月(6月)、実態が記されたメモの隠蔽を謝罪しました。
NHKが独自に入手したメモです。亡くなった少女の友人が、いじめの状況を教師に報告していました。少女は仲間はずれに遭い、学年の中心的なグループから嫌がらせを受けていたと克明に記されています。

少女の母親です。

少女の母親
「娘の自画像です。小さいころから暇さえあれば絵を描いていて。」

神戸市の中学校に通っていた少女は、おととし(2016年)、自宅近くの川でみずから命を絶ちました。亡くなる前、学校を休みがちになっていた娘に、母親は何度もその理由を尋ねてきたといいます。

少女の母親
「分からなかった。何回も聞いたし、何か悩みがあるんだったら本当に教えてほしかったんですけど、『何もない』『大丈夫』『友達はいる』としか答えてくれなかった。」

母親は娘が亡くなったあと、いじめを受けていたと確信するようになりました。それはなぜか。母親はみずから、同級生や教師、のべ50人に聞き取りを行ってきました。

“顔面凶器と言われていた。”

“消しゴムのカスを投げられていた。”

母親は証言をもとに、繰り返し教育委員会や学校にただしてきました。

少女の母親
「みんなが『いじめがあった』と教えてくれた。そういった生徒が10人以上いるのに、なんであがってこないのでしょう。」

しかし担当者は、明確に答えようとはしませんでした。

教育委員会 担当者
「よく分からないですよね、実態は。周りの子も『大きな話ではなかった』という感覚だったのかなと。」

聞き取りを始めて4か月後、母親は隠蔽されたメモの存在を知ります。教育委員会に提示するよう求めましたが、回答は「記録として残していない」というものでした。

少女の母親
「生徒たちが事件直後に必死の思いで語ってくれた貴重な証言であるはずなのに、なかったことにされようとしている。すごく不安を覚えました。」

隠蔽されていたメモは、学校に保管され続けていました。教育委員会が存在を否定していることを知った教師が、新しく着任した校長に「メモはある」と伝えます。校長は、教育委員会の部長や課長に報告。しかし、具体的な対応はありませんでした。
さらにその7か月後、母親の再三の訴えを受けて、校長は改めて教育委員会の別の幹部に「メモはある」と報告。教育委員会はようやく確認に動き、メモの隠蔽を認めたのです。少女が亡くなってから、1年半余りがたっていました。

神戸市教育委員会 長田淳教育長
「組織としての体をなしていない。きわめて不適正で、決して許されるものではなく、誠に申し訳なく思っております。」

隠蔽の裏で何があったのか。「メモはない」と伝えた教育委員会の担当者は…。

“今さら出すことはできない。”

“メモを今開示すれば事務処理が煩雑になる。”

“先生、腹くくってください。”

母親は、メモが最初から示されていれば、これほど苦しまず、原因究明ももっと早くできたのではないかと考えています。

少女の母親
「最初に隠されてしまったことで、知る機会を、みんなの記憶も曖昧になってきて、大事な最初の機会を失ってしまった。逃してしまった。とても許しがたい。」

“いじめ自殺”なくならない隠蔽 なぜ?遠い真相解明

武田:なぜ、わが子の命が失われたのか。少しでもその手がかりを知りたいという保護者の切実な願いを踏みにじるような、教育委員会の対応。過去にもたびたび繰り返されてきたことが、まだなくならないことに強い憤りを感じます。

鎌倉:今、子どもたちは夏休み中ですが、1年の中でも夏休みが明ける前後に、子どもたちの自殺が集中しています。

武田:1人もいじめで命を絶つ子どもが出ないために、どうしたらいいのか。越えるべき課題はまだ残されています。

鎌倉:それが、いじめの真相解明と、再発防止のために調査を行う組織、「第三者委員会」の在り方です。全国でいじめを巡る問題が相次いだことをきっかけに、5年前、法律が制定され、各地で組織されるようになりました。大学教授や弁護士、医師などの専門家が、第三者の視点で詳細な調査を行うことになっています。
ところが、この第三者委員会が機能不全に陥っているケースがあることが、NHKの取材で明らかになりました。これまでに設置された、いわゆる第三者委員会は少なくとも69件で、そのうち13件で遺族から調査のやり直しや委員の交代を求められ、真相解明に長い時間がかかっているというのです。(一般社団法人ここから未来 武田さち子さんの資料をもとに取材)一体何が起きているのでしょうか。

募る親の不信感 なぜ課題が?第三者委員会

おととし8月、みずから命を絶った葛西りまさん。当時13歳。手踊りが大好きな中学2年生でした。りまさんは、スマートフォンに遺書を残していました。

“突然でごめんなさい。ストレスでもう生きていけそうにないです。”

“もう、二度といじめたりしないでください。”

“本当に13年間ありがとうございました。いつか、来世ででもりまが幸せな生活をおくれる人になれるまで、さようなら。また、会おうね。”

父親の剛さんです。なぜ、娘は亡くならなければならなかったのか。その真相を知りたいと思い続けてきました。

りまさんの父親 葛西剛さん
「本当にいつでも帰ってきていいように、毎日ごはんも準備していますし、新しい服なども買っていますし。ただ、周りでは卒業式だったり入学式だったり、記念するべき日が来るたびに、なぜ、りまはいないんだという現実を突きつけられて、もうこんな季節なのかと。」

りまさんが亡くなってまもなく、大学教授や医師などからなる第三者委員会が立ち上がりました。第三者委員会はまず、全校生徒にアンケートを実施。さらに遺族から、りまさんのSNSの記録などを提供してもらい、生徒や保護者など、のべ100人に聞き取りを行いました。そして7か月後、報告書の原案を遺族に提示しました。しかし、父親の剛さんは、そこにあった初めて見る言葉にがく然としたといいます。りまさんが、「思春期のうつ」であったと推測されると書かれていたのです。

りまさんの父親 葛西剛さん
「今まで私たちが聞いたことがない言葉。“思春期のうつ”だと。いじめという単純なものではないと書かれていて。」

不信感を募らせた剛さんは、第三者委員会に、思春期のうつと判断した根拠を求めました。しかし、納得できる説明はされませんでした。

りまさんの父親 葛西剛さん
「(娘と)会ったこともない、診断したこともない方に、勝手にうつにされているのです。許せるはずがありません。私たちとしては二度殺された思いです。」

第三者委員会の会長として調査にあたった、社会学が専門の大学教授・櫛引素夫さんです。委員の多くは、初めての経験で、何をどこまで行えばいいのか手探りだったといいます。

前『第三者委員会』会長 櫛引素夫さん
「実際には、本当に手探りで全て私たちは進めておりました。」

いじめの調査に関する文部科学省のガイドラインには「遺族に寄り添うこと」、そして「丁寧に説明すること」などが書かれています。しかし、具体的なことは現場の判断に任され、遺族が求める説明を尽くせなかったといいます。

前『第三者委員会』会長 櫛引素夫さん
「結果的にご遺族の悲しみ・苦しみを強めたなら、寄り添っていない。いじめを防ぐための視点、志と、詳細調査を進める志。もう1つ、傷ついているご遺族に寄り添って一緒に悼み、一緒に泣く。その3つの心が必要だということを、僕は実感しました。でも3つの心を、1つの体、1つの心で持ち合わせることは、極めて難しかった。」

りまさんが亡くなって、もうすぐ2年。第三者委員会はメンバーを入れ替え、今も調査が続いています。

りまさんの父親 葛西剛さん
「待っている時間ですら、相当苦痛を強いられる状況。私たちのような家族は二度と出てほしくないと、それは強く望んでいます。」

遠い真相解明 いま現場で何が?

ゲスト尾木直樹さん(教育評論家)
ゲスト横山巌さん(日本弁護士連合会子どもの権利委員会・文部科学省いじめ防止対策協議会委員)

武田:遺族が第三者委員会に不信感を募らせた今回のケースですが、まず会長がいじめを防ぐための視点、詳細に調査を進める志、遺族に寄り添う心、その狭間で手探りの状態で調査を進めなければならなかったと言っていましたが、これはどう受け止められますか?

尾木さん:本当に一生懸命おやりになっていたんだなというのは、表現からも表情からも、よく分かりました。あれだけ思っておられるのに、それが実現できなかったというのは、やはり一番大事なのは、その亡くなった子どもの気持ちになってみるとか。それから、全校の子どもたちにアンケートも取っておられるわけですよね。そのアンケートの結果について、生存している元気な子どもたちの叫びとか苦しみというのを、どう受け止めていくのか。そこがあれば、僕は委員会の中の合意形成みたいなものは自動的にできてくると思うんです。そして、会長1人が背負うのではなくて、委員5人とか6人、全員が一本の窓口だと思うんです。個人的な責任というのか、それで動いてしまうべきではないというのを、すごく思いましたね。

武田:そういった体制ができていれば、ご遺族の方々とのそごはなかったと思うのですが。

尾木さん:基本的に、委員会の役割というのは事実をどう解明していくのかということですから。ご遺族にもあたって、「こういう点はどうだったんですか」というふうに聞き取り調査をするのは当然ですから、そういうことをやっていけば、お焼香するだけではなくて、いろんな中身について踏み込んでいくということをやっていくほうが、逆にご遺族の信頼は勝ち取ることができると思います。

武田:もうひと方、弁護士で文部科学省の委員としていじめ問題に取り組む横山さん。第三者委員会がわれわれの取材で、各地で壁にぶつかっているという現実も見えてきたわけですけれども、なぜこんなことになっているのでしょうか?

横山さん:まず、ご遺族との信頼関係が構築できていないというケースが多いのではないかというふうに思っています。
ポイントとしては、僕は2つ考えたのですが、まず事実の徹底的な解明というのが十分なされたかどうか。ご遺族の立場からすると、何があったのかということを知りたいというのが、第一だと思うんですね。その点がどうだったかというのがまず1つ。2つ目は、文科省の指針でも出ていますが、「寄り添い」がしっかりできていたのかというところがあると思います。
その寄り添うというのは、僕は3つ考えられると思うんですけれども、1つは委員会のほうで収集した情報を、どれだけ開示がしっかりできているか。ご遺族のほうのご意見、あるいはご意向をどれだけ聞くことができるか、何度も何度もそこは繰り返すことが必要だと。
あと最後は、亡くなった子どもの視点から、その事案をしっかりと見ていってくれているのかどうかというところが、すごく大きいと思います。検証的に大人があとから見て「これはこうだった」ということではなく、そのときの子どもの立ち位置、例えば高校生、中学生であれば学校生活がすべてですよね。その中で追い込まれていった、その子どもの視点で問題を捉えていくことができているかどうかという点が、すごく大きなところではないかなと思っています。

鎌倉:番組では、全国の第三者委員会の経験者を対象にアンケートを実施し、98人から回答を得ました。

“遺族の信頼を得て、これを維持し続けながら調査をするのは容易ではない。”

“調査手段が限られている。強制力がなく、任意の協力に頼るしかないが、非協力的な相手が多い。”

“第三者委員会としては、公平・中立な立場で調査・検討するつもりだったが、その表現が、ご遺族にとっては、不信感や配慮不足と受け取られたと思われる。”

鎌倉:中には、第三者委員会が真相に迫れなくなっていると訴えるケースもあります。

いじめ調査 当事者の告白 “遺族が気の毒すぎる”

今回のアンケートに、「中立的な立場で調査できなかった」と書いた第三者委員会の経験者がいます。ある中学生の自殺の背景や、いじめの有無について調査した男性です。

『第三者委員会』経験者
「真実を突き止めることができなくなるのではという不安はあります。」

難しかったのは、遺族にどこまで踏み込んで聞いたらいいのかという点でした。ある委員が、「自殺の背景を知るために遺族にも聞き取るべきだ」と意見したときのことです。

委員
「どうして子どもは亡くなったのか、事実確認をするためにも、亡くなった子どものことや家庭での様子を保護者にも聞いたほうがいい。」

すると、別の委員が…。

委員
「それでは、遺族が気の毒すぎる。」

結局、聞き取りは実施されなかったというのです。
男性は、何があったのか知るためにも、いじめたとされる生徒だけでなく、亡くなった子の遺族にも等しく聞き取るべきだったと振り返っています。

『第三者委員会』経験者
「人の悲しみに土足で入るようなことはしない方がいい。でも圧倒的に悲痛な思いに対して寄り添って、心情に流される。それで足並みがそろわないのは、非常に不幸なことだと思います。」

遠い真相解明 文部科学省は…

第三者委員会が問題に直面していることについて、文部科学省に問いました。

文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課 生徒指導室長 松林高樹さん
「第三者委員会で保護者の方々との信頼関係の構築に、大変苦労されているという例が多いことは承知しております。今後、引き続き教育現場におけるいじめ防止対策の改善すべき点がないか、よく注視しまして、結論を出していくことをしてまいりたいと思っております。」

遠い真相解明 いま何が必要か?

武田:事実を明らかにしていくためには、被害者のほうにも踏み込んで調査をしなければならない。こういった場面もあるんですね。

尾木さん:それはありますよね。特に学校の子どもたちの聞き取りをして、遺族のお話を聞いてみると、こういうわけだったのかとか、もうちょっと膨らんでくるんです。それは大津のときも重要だったなと僕は思います。

武田:結論として、被害者側の方の思いと違う結論になることもありえますよね?

横山さん:それはありえると思います。しかしながら、委員との間でしっかりと信頼関係ができていて、ちゃんと話を聞いたうえでの結論ということになれば、納得していただけるケースも多いのではないかと思います。

武田:やはり大事なのは信頼関係ということですね。

横山さん:そう思います。

鎌倉:では、どうすれば第三者委員会の調査結果を、さらにその先の再発防止につなげることができるのか。具体的な取り組みにつなげているのが、ゲストのお2人が調査に関わった、大津市のケースです。
第三者委員会の調査では、「いじめの早期発見に力を入れること」「職員が問題を1人で抱え込まないようにすること」などの対策が提言されました。それを受けて、いじめの早期発見のために、担任を持たない専門の教師を市内すべての小中学校に配置。さらに、いじめの芽があれば、教師が集まって情報共有の場を持つようになっています。

武田:二度と命が失われないために、いじめを巡るこうした調査と再発防止策は、どうあるべきなのでしょうか?

横山さん:やはり具体的な事案を通して、そこから具体的な再発防止などの提言を出すということが大事だと思います。第三者委員会は責任追及の場ではないんだということを徹底するということ。あとは、いじめの予防ということも非常に大事ではないのかなと。いじめはどこでも、誰でも、いつでも起きることなんだということ。それから子どもたちに対して、いじめは人権侵害なんだということ、そこを徹底的に伝えていくということが大事ではないでしょうか。

武田:その材料として、やはりこうした調査は重要だということですね?

横山さん:具体的な調査を通じて、大事なことだと思います。

夏休み明けに不安な子ども そして大人たちへ…

武田:番組にはいじめに悩む子どもや保護者に向けて、さまざまなご意見が寄せられています。

40代 女性 長崎
“学校だけでも100%味方でいてもらいたい。それだけでも心が救われる。”

19歳以下 男性 岡山
“学校に行かないことも選択肢。『逃げてもいいんだよ』と伝えたい。”

武田:尾木さん、夏休み明けに向けて不安を抱える子どもや保護者もいらっしゃると思いますけれども、最後にメッセージをお願いします。

尾木さん:先ほどもありましたけれども、学校に行かないのも選択肢の1つ、自分の命を守るということは、うんと大事にしてほしいということです。それからもう1つ大事なことは、保護者の皆さんは、しっかり「あなたの味方だよ」というのを、言葉と態度で示してほしい。そして、必ずこれは解決していくと、学校とも協力しながらね、そういう展望をきちんと出してほしいと思います。そして子どもたちが、「あっ、味方がたくさんいるんだ」と、つらくても学校に行かなくて済むように、守ってほしいなと思います。

武田:二度と悲劇を繰り返さないために、いじめに苦しんできた子どもたちの思いに、今度こそ私たちは応えていかなくてはならないと思います。