クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2018年6月25日(月)
あなたが“夢の発明”の主役!? DIYバイオ最前線

あなたが“夢の発明”の主役!? DIYバイオ最前線

遺伝子の改変など、最先端のバイオテクノロジーの研究を市民が行う“DIYバイオ”が、欧米を中心に急速に広がっている。遺伝子解析のコストが大幅に下がったことなどから、日曜大工感覚で気軽にできるようになったのだ。裾野の広がりは、新薬の開発などイノベーションにつながると期待される一方で、生命倫理に関わる実験をする人が現れるなど心配な事例も。大衆化するバイオテクノロジー。その最前線をお伝えする。

出演者

  • 岩崎秀雄さん (早稲田大学教授)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

あなたも発明家に!? 身近になるバイオ技術

ステーキの味がするトマト?

ビールが光る??

開発しているのは、市民たち。今、高度なバイオテクノロジーを使って、発明に手軽に挑む動きが世界で広がっています。
愛犬の遺伝子を操作して病を治そうとする人も。

愛犬家
「遺伝子を変えるコストがずいぶん安くなったので、これまでできなかったこともできるようになったんです。」

遺伝子組み換えに、ゲノム編集。技術がオープンになり、費用も格段に安くなったことから、趣味として楽しむ人たちが増えているのです。

中学生(13)
「遺伝子改変はブロック遊びのようなものさ。」

世界を変える発明が生まれるかもしれない。ビジネスの面から、早くも期待が集まっています。

投資会社 役員
「非常に大きな産業になると思っています。バイオにおけるアップルやマイクロソフトみたいな会社が、今、もうすでに生まれているのかもしれません。」

バイオ技術を「Do It Yourself=手作り」で。その先に、どんな世界が待っているのでしょうか。

会社員が熱中!DIYバイオ 自分の手で“発明”に挑む

都内で定期的にミーティングを行う、一風変わった趣味のサークルがあります。

メンバーは、生物好きの高校生や会社員など、およそ40人。挑んでいるのは…。

「自宅で肉を培養する方法を、そんなことをやっています。」

自分たちで動物の細胞を培養し、人工の食用肉を作ろうというのです。世界の研究者たちが取り組んできた、この技術。

その味は?

科学ジャーナリスト
「本物の肉みたい。」

牛の筋肉から取った幹細胞を、再生医療の技術を使って増やします。生き物を殺すことなく、食肉を作り出せる画期的な技術です。
これを自宅で実践しようというのが、サークルの目的です。メンバーの1人、外資系のコンサルティング会社に勤める、杉崎麻友さんです。

杉崎麻友さん
「ここのスペースが私の実験スペースで、ここの中で今、細胞を培養しているところです。」

リビングで鶏肉の細胞を培養。毎日その成長を見守るのが何よりの楽しみです。

杉崎麻友さん
「細長い線みたいなところが生きた細胞です。がんばって、のびのび育とうと、生きようとしているのが、けなげでかわいい。」

培養に使う器具は、ネットで買い集めたり、自分で作ったものです。例えばこの扇風機、細胞を取り出す、遠心分離機の代わりです。

SFの世界を実現するような気分を味わえるのが魅力だといいます。

杉崎麻友さん
「単純に未来のあることをやってみたいなとか、未来を実現するために、そういう活動をしてみたいなって。」

今、こうしたバイオテクノロジーを、趣味として楽しむ人が増えています。日曜大工のように気軽に楽しめることから、Do It Yourself、「DIYバイオ」と呼ばれています。

この世にない植物を! バイオ技術で“新発明”続々

DIYバイオが、世界で最も進んでいるのがアメリカです。ニューヨークで会社経営をするこの男性も、5年ほど前からDIYバイオの魅力に取りつかれたといいます。

セバスチャン・コチョバさん
「僕の実験室へようこそ。」

趣味で自宅に作った、この実験室。

ここで、この世に存在しない植物を、次々と生み出してきたといいます。

セバスチャン・コチョバさん
「牛肉にもっとも多いタンパク質のミオグロビンです。私はこれをトマトに入れました。」

変わった形のこのトマト。牛肉の遺伝子が組み込まれていて、ステーキの味がするといいます。

今、取り組んでいるのが、自然界には存在しない青いバラ。貝が持つ遺伝子をバラに組み込もうとしています。駆使するのは、遺伝子改変の技術です。
生物の情報が詰まった遺伝子。一つ一つの複雑な配列が、色や形など、その生物の特徴を決めます。男性は、コンピューターで遺伝子の構造を解析。特定の遺伝子を探し出します。そして、それを切断。そこに、全く別の性質を持つ遺伝子を外から組み込むことで、自然界に存在しない植物を生み出すのです。
部屋から持ち出さない限り、アメリカでは個人が行っても違法ではありません。この技術を、男性は全てインターネットで学んだといいます。

セバスチャン・コチョバさん
「生き物の遺伝子を書き換える偉大な力を与えられた気分です。完全にハマりました。もっといろんなことを知りたいし、新しい技術にも挑戦したい。」

技術の進歩と低コスト DIYバイオを後押し

DIYバイオが急速に広がった理由。それは2000年代に入り、生物学がより手軽になったことです。テクノロジーが進歩して、早く、安くできるようになった遺伝情報の解読。例えば、ヒトの遺伝情報の解読にかかるコストは、この17年で8万分の1にまで下がりました。

遺伝子を扱う人が増えることで、実験に使う器具の価格も下がりました。遺伝子改変ができる、このキット。159ドル出せば、誰でも買えます。

こうしたことが、DIYバイオを楽しむ人々のすそ野を広げてきたのです。

中学生(13)
「遺伝子改変はブロック遊びのようなものさ。好きなように変えられて、いろんなことを学べるんだ。」

過熱するDIYバイオ 自分の体を使って…

そして去年(2017年)ついに、こんな人まで現れました。

「私たちは死ぬまで同じ遺伝子である必要はないのです。」

筋肉の成長を促す遺伝子を自分に注入。その様子をインターネットで公開したのです。実験の目的は何なのか。本人を直撃しました。
カリフォルニア州に住む、ジョサイア・ザイナーさん、37歳です。

生物化学の博士号を持っていて、遺伝子改変の実験器具を製造・販売しています。

ジョサイア・ザイナーさん
「ここが注射したところです。」

自分の体を使った遺伝子実験は、今のところ、特に法律で規制されていません。半年以上たった今、目立った効果や副作用は確認できないといいます。
なぜ実験をしたか尋ねると…。

ジョサイア・ザイナーさん
「僕だってバカじゃない。本当に筋肉をつけたければ、ジムに通えばいいのはわかっているよ。人の遺伝子が、いかに簡単に操作できるか、世の中に伝えたかったんだ。」

以前からザイナーさんは、治療法がない難病に苦しむ人たちが多くいることに胸を痛めてきました。

筋ジストロフィーの患者
「筋ジストロフィーは、私の体の筋肉をむしばんでいきます。お医者さんには、さじを投げられました。」

ジョサイア・ザイナーさん
「彼女は遺伝子を変えて、健康な筋肉を取り戻せないかと考えているんだ。」

こうした患者の中には、遺伝子治療に希望を託す人も少なくありません。患者が自分の体を使って治療法を探すこともできると、ザイナーさんは知らせたかったといいます。

ジョサイア・ザイナーさん
「科学の力を使って病気の治療法を自分自身で探すことができるかもしれない。自分の遺伝子を組み換えることで、なりたい自分になれる。それが今の時代に実現するとしたら、すごいことじゃないか。」

過熱するDIYバイオ 危うさはないのか?

過熱するDIYバイオ。アメリカの医学会は、人体の遺伝子改変など、行き過ぎた実験には懸念を示しています。

米国遺伝子細胞治療学会 ヘレン・ヘスロプ会長
「専門的な裏付けのないまま、個人がやみくもに実験を行うことはリスクを伴います。予想できない副作用を引き起こす可能性があるからです。」

あなたが“発明”の主役!? 身近になるバイオ技術

ゲスト 岩崎秀雄さん(早稲田大学教授)

武田:DIYバイオに詳しい岩崎さん。
高度なバイオテクノロジーが、ここまで草の根に広がっているのは驚きだったんですけれども、なぜこういうことになっているんでしょう?

岩崎さん:いくつか理由があるんですけども、1つは、VTRの中にもありましたように、生命の情報である遺伝子の情報というのを、解読技術が非常に発達して、それから非常に安く大量のデータが取れるようになったということと、それからそれを改変しようとする時に必要なDNAを合成する技術が、すごく、これもまた安くなったということがあると思います。それからあとはインターネットのことなんですけれども、インターネットの発達によって、大学とかにいなくても自分で学習ができる環境ができたり、それをシェアしたり、あるいは自分たちで作ったものを仲間で共有するとか、そういったことができるようになったというのが、かなり大きなポイントかなと思います。

武田:普通の人たちが趣味でやっているということも、ちょっとびっくりしたんですけれども、人体実験までやっている人は大丈夫なんでしょうか?これは、どう捉えたらいいんでしょうか?

岩崎さん:あれは、かなりグレーゾーンで、本当にリスキーなこともありますので、あまりまねしない方がいいと思いますし、安易に人に勧めるべきものではないと思います。ただ一方で、彼らが目指しているビジョンの1つというのは、バイオテクノロジーという技術を、どういうふうに、新たに僕たちが捉え直して、それでどういう未来を作っていくかということの1つのビジョンであるということですね。それの表明として、いろんなものが作られたり、一種のデモンストレーションとして、こういうものが出てきているという側面はあると思います。

武田:どういう未来をつくるのかということを、こういう活動を通して表現している、一種の表現活動?

岩崎さん:実際にアーティストやデザイナーも、こういう動きに多く関与したりとかしています。

田中:このDIYバイオですけれども、代表的なものとしては、遺伝子を改変するものと、細胞を培養するものがあります。VTRで詳しく見てきたもの以外でも、例えば遺伝子改変では、光るビールや植物を作っている人もいます。これはクラゲやホタルの遺伝子を組み込んだものです。

さらにアメリカには、犬の遺伝病を遺伝子改変で治療できないかと取り組む愛犬家もいます。もう1つの細胞培養では、バクテリアを利用した薄いシートも作られています。石油を原料とするものに代わる環境に優しい新素材として、注目を集めています。

武田:バイオの研究といいますと、企業や研究機関がやるものだと思っていたんですけれども、組織にとらわれない個人だからこそ出てくる発想って、やっぱりあるんですか?

岩崎さん:あると思います。例えば企業だと、やはりプロダクトとして売れるものを作らなければいけないし、大学だと論文を書かなければいけないと、そういったいろんな制約があると思いますので、そこを打ち破って、自由な発想でやることで何か新しいものが生まれたりとか、もしくは自分にとって有益なものを作るという回路が開かれるというのがあると思います。

武田:ある種、家庭菜園や昆虫採集の延長のように楽しみながら?

岩崎さん:新しい命との関わりという延長ということもあると思いますね。

武田:それが新しい発想が出てくる可能性があるということなんですね。

田中:実は、このDIYバイオを体験できる場所が出来始めています。

東京・渋谷にあるこちらのビル。

その一角に基本的なバイオ実験に必要な設備が揃う実験室がありました。

田中:たくさんのフラスコが並んでいます。

ここでは毎週、初心者向けの講習会や、植物の細胞を培養する実験などが行われています。リケジョじゃない私も気軽に体験できました。

バイオクラブ マネージャー 石塚千晃さん
「いい感じです。」

田中:楽しい!

バイオクラブ マネージャー 石塚千晃さん
「バイオはとても楽しいものなんだということを発見できるような場所になったらいいかなと思う。」

田中:こうした街角の実験室に集まる多様な人たちが、新しい時代を開くのではないかと注目されています。

“夢の発明”をみんなの力で… DIYバイオの可能性

アメリカでは、DIYバイオを楽しむための団体が、すでに50以上あります。こうした人々が資金を出し合い、共同で実験室を運営しています。
カリフォルニアにある、この施設。

月100ドルの会費を払えば誰もが自由に、本格的な機器を使うことができます。学校帰りという15歳の高校生もいました。

高校生(15)
「人工血液を作っています。ユーチューブで作っている動画をみて、もっといい方法があるかもしれないと始めたんです。」

ほかにも、会社員や主婦などが気軽に立ち寄ります。
こうした場所から、世界を変えるDIYバイオが生まれるのではないかと、期待されています。

DIYバイオを推奨 デレク・ジャコビーさん
「これは革命です。もっと多くの人に、この革命に参加してもらわなくてはなりません。」

共同実験室の普及を後押ししてきたのは、科学を開放し、政府や企業にはできない新しい変革を起こそうという「オープンサイエンス」の動きでした。

DIYバイオを推奨 デレク・ジャコビーさん
「情報をオープンにして、誰もが利用できるようにすることが重要です。世の中の問題を解決する生物学を、みんなで作るのです。」

オープンサイエンスが実を結び始めているケースがあります。病の治療に欠かせない薬を、市民の手で製造しようというものです。
研究を始めたのは、IT関係の仕事をする、アンソニー・ディ・フランコさん。

13年前から糖尿病を患っています。毎日打つインスリンの費用に悩まされてきました。

アンソニー・ディ・フランコさん
「月500から600ドルは払っています。アメリカでは保健に入っているか、金持ちでないとインスリンを買うことができません。インスリンを買えず、亡くなる人までいるんです。」

糖尿病の治療に欠かせないインスリンは、一般的に微生物を利用して製造します。人間の体内でも作られるインスリン。それを生み出す遺伝子を、微生物に組み込みます。その微生物を増殖させて精製するのです。
インスリンの製造技術は大企業が独占しており、価格が下がらない要因になっています。自分たちで安く製造する方法を探し、世界中に公開したいと考えたディ・フランコさん。3年前、ネットで呼びかけたところ、寄付や協力の申し出が相次ぎました。技術者や元大学院生など、さまざまな経歴を持った人が知識や人脈を生かしながら研究に当たっています。数年以内には、各国の安全基準をクリアして、技術を公開したいと考えています。

アンソニー・ディ・フランコさん
「誰でも作れる手軽な技術を生み出すのが、私たちのモチベーションです。人類はこれまで、必要なものは何でも自分自身で作ってきました。それはこれからも変わりません。明るい未来を作る最善の方法なんです。」

世界を変える発明が!? DIYバイオの未来図

田中:こうした市民が自由に使えるDIYバイオの実験室。今では世界中に作られています。アメリカの研究機関の調査によりますと、DIYバイオを運営する団体は、アメリカ以外にもヨーロッパに55、アジアには22など、世界に168あります。こうした動きの中から、今、社会に貢献する共同プロジェクトやイノベーションが、次々に生まれています。

武田:テクノロジーを市民に開放することで、これまでにないイノベーションを生み出そうということなんですね。

岩崎さん:そうですね。そういった側面ももちろんありますし、それから、そもそも僕たち自身が生命で、衣食住とか、生活のあらゆる面にバイオテクノロジーが関係してくるので、それを僕たちがどういうふうに受け止めて、どういう社会を作っていくのかということを考えるという意味で、こういう動きというのは重要なんじゃないかなと思います。

武田:企業や研究機関だけに独占させるのではなくて。

岩崎さん:そうですね。実際に食品偽装を暴いたという例があるんですね、自分たちの手で。そういったのもいい例かなと思います。

武田:ただ一方で、多くの人にオープンにすることで、例えば生態系への影響ですとか、出来たものの安全性、また、テロリストが生物兵器を作ってしまうんじゃないかというような懸念を抱く人もいると思いますけれども。

岩崎さん:そこは非常に重要な点だと思います。実際に、先進国でこういったことをやろうと思う時には、遺伝子の組み換え技術や、あと生殖細胞をどう扱うかとか、あるいは病原菌を扱うということに関して規制があります。なのでこのルールをちゃんと順守することというのが非常に大事だし、そういったルールがどうやって出来ていったのかというのを、経緯を学ぶということが非常に重要だと思います。

武田:先生は、こういったリスクについて、どういうふうにお考えなんですか?

岩崎さん:こういったリスクは、いろいろな面がありまして、安全面とか、倫理面とか、文化面とか、いくつかのものがあるんですけれども、大事なものは情報だと思っていて、こういったオープンにいろんな情報が出てくるということは、逆にフェイクであるとか、信ぴょう性のない情報がどんどん出てくる可能性もあるわけです。そこにどういうふうに対応するかが非常に重要ということになってきますね。

武田:文化っていうのは、ちなみにどういうことでしょう?

岩崎さん:文化は、例えば僕たちが漠然と不安になるということ自体がそうなんですけれども、例えば生命の操作ということ自体に、ある種の宗教とかは、ちょっと嫌だなと思ったりするとかいうことも含まれます。

武田:文化面でのあつれきも生じる?

岩崎さん:それも考えなければいけないと思いますね。

武田:そうしますと、オープンであるということと、そうしたリスクを減らしていくということ、どう両立させていけばいいんでしょうか?

岩崎さん:今、言った通りなんですけれども、特に情報のところですね、多くの変なものが紛れ込んでくるというリスクを避けるためにも、このせっかく作っているオープンなオープン・サイエンスでシェアする文化というものを、むしろどんどん積極的に利用して、そこで議論を深めていくということが、実際にものづくりと一緒にタイアップして連動することが、この文化がどう根づくかということに、すごく重要なところだと思います。

武田:研究をどう進めるかだけではなくて、それをどう使いこなすか、リスクも含めてオープンにするということですか?

岩崎さん:リスクについてもオープンに議論するということが、とても重要です。

武田:そうしていけば、いろんな人が情報の真偽であったり、あるいは研究の成果が本当にそれが有益なものかということを、多くの人でチェックすることができる?

岩崎さん:そこに未来を託したいなと思います。

武田:熱を帯びるDIYバイオ。多くの人がオープンに参加することで、これまでにないアイデアが生まれる期待を感じます。一方で、それが安全で、本当に人々の暮らしを豊かなものにするために、議論をオープンに高めていくことも必要だと思いました。