クローズアップ現代

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2018年4月16日(月)
シリーズ働き方改革 残業80時間超・現場で何が

シリーズ働き方改革 残業80時間超・現場で何が

日本の社会全体で取り組みが加速する「働き方改革」。長時間労働を是正するためには何が必要かを「クロ現+」ではシリーズで考えていく。初回は、“過労死ライン”とされる時間外80時間超えが、相当数に上る「医療」や「教育」の現場に注目。「患者や子どもたちのために」と際限なく膨れ上がった仕事量、使命の達成と労働時間の縮減というジレンマのなか、持続可能な「働き方」は定着させられるのか、模索の現場から手がかりを探る。

出演者

  • 鎌田實さん (医師)
  • 藤原和博さん (教育評論家)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“待ったなし”働き方改革 あなたの職場は?

今、私たちの働き方が大きく変わろうとしています。

“本日はノー残業デーです。皆さん、今日も1日お仕事お疲れさまでした。”

日本中で、働き方改革が加速しているのです。

「16時退社でライフも充実。プレミアムエブリデー!」

働き方改革のアイデアを出し合うイベントには、大企業が殺到。

「今日、絶対残業でしょ。事前申請して。」

残業を減らしながら、会社の業績を伸ばす道はあるのか。労働時間削減の波は、医師や教師にも。働き方改革が医療や教育の質の低下につながらないのか、懸念も出ています。

中学校校長
「先生方の長時間勤務の解消を、保護者や地域の皆さん、一緒に考えましょう。」

どうすれば、働く人の健康を守りながら仕事の充実を図ることができるのか。シリーズでお伝えしていきます。

残業80時間超 医師や教師たちが…

働き方を見直す動きは今、日本社会の課題となっています。NHKでも、5年前に長時間労働による過労死で、1人の記者・佐戸未和さんが命を失いました。私たちは、この事を重く受け止め、働き方改革に取り組んでいます。番組でも、働き方の課題を取り上げていき、長時間労働の見直しについて考えていきます。
今日は、私たちが命を預ける医療や子どもたちの将来を託す教育の現場についてです。実は、長時間労働が常態化しているとされ、改革の大きな焦点の1つとされているんです。

田中:国が行った直近の実態調査では、「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業を行った人の割合は、医師では4割。中でも20~30代の若い医師では、6割近くに上りました。
一方の教育現場では、小学校で3割、中学校では6割近くの教師が、月80時間以上、時間外労働を行っている実態が分かりました。長時間労働による過労死も相次いでいて、対策は待ったなしです。

まずは、私たちの命を守る医療の現場。これまでにない取り組みを始めた医療機関を取材しました。

過労死に揺れる病院 医師の“働き方改革”は

患者の受け入れを制限するという、異例の決断に踏み切った病院があります。90万人の医療の中核を担う、新潟市民病院です。

新潟市民病院 片柳憲雄院長
「長時間労働を防ぐには、患者さんを、申し訳ないが少し制限して。」

背景には、消化器外科に勤めていた研修医の自殺が過労死と認定されたことがあります。研修医だった37歳の女性。長時間労働が原因で、うつ病を発症したとみられています。

遺族
「今では後悔しかない。結果的にこうなってしまい、非常に残念。」

女性を追い詰めた長時間労働とは、一体どのようなものだったのか。NHKは今回、病院の内部資料を独自に入手しました。この病院では、休日や時間外の労働を、医師が手書きで自己申告していました。しかし、別の記録を確認したところ、かけ離れた勤務実態が浮かび上がりました。
例えばこの日。女性が申告していた時間外労働は、午後5時~8時まで。しかし実際には、午後11時56分まで電子カルテを入力していた記録が残っていました。調査した労働基準監督署は、女性がこの時間まで働いていたと認定しました。
女性がこの病院で働き始めた4月~7月までの時間外労働です。黄色は女性が自己申告した時間。一方青は労基署が認定した時間です。多い月で自己申告の3倍近く。4か月連続で過労死ラインとされる80時間を超えていました。

当時の働き方について、現場の医師が、匿名を条件に取材に応じました。

“時間外労働を記録する紙は自分ではんこを押して出すだけ。すべて自己申告、自己管理だった。今までは時間の概念はなかった。”

女性の業務が特に集中していた、ある1週間の記録です。週の初め、朝7時半から働いたあと、宿直として翌朝まで急患などに対応。そのまま手術を3件担当し、午後11時まで働きました。次の日以降も早朝に出勤し、手術や診察を担当。日曜日から月曜日にかけては再び宿直を任され、連続38時間働いていました。

看護助手から、34歳で念願の医師となった女性。仕事に追われる様子を、家族は心配しながら見守っていました。

遺族
「夜中にも頻繁に呼び出しがあって、また出かけて、帰ってきて、2時間後にまた呼び出し。ずっと働いているなと気にかけていて。」

さらに取材を進めると、女性は、労基署が認定した時間よりも長く病院にとどまっていたことが分かりました。赤は病院に滞在していた時間。病院に出入りする際に使う、カードの記録から割り出しました。すべての月で、労基署が認定した時間を大きく上回っていたのです。

この時間、女性は病院で何をしていたのか。過労死の原因を調べた弁護士です。女性は手術の訓練や、症例の学習をしていたとみています。

遺族代理人 齋藤裕弁護士
「高い職業意識の中で、修行もやる、仕事も一生懸命やる。かなり異常な長時間、働いているんだなと思いました。」

医師の“働き方改革” 長時間労働の見直しは

女性の死をきっかけに、医師の長時間労働の見直しを迫られた新潟市民病院。医師の人手を増やすことは難しいため、軽症の患者の受け入れを制限し、症状が重い患者の治療に専念することにしました。医師たちの時間外労働の実態をチェックする、対策室も新たに設けました。

病院の事務職員
「救急の先生は?」

病院の事務職員
「救急の先生、まだ1件も連絡とってない。」

病院の事務職員
「19の週って、(医師との)面談いけそうですか。」

病院の事務職員
「最終週になんとかという状況です。」

しかし、亡くなった女性が行っていたとされる、手術の訓練や症例の学習に充てる時間を労働とみるかどうかは、見方が分かれています。病院側はあくまでも「自己研さんである」として労働時間には含まれないとしています。

新潟市民病院 片柳憲雄院長
「労働でなくても“自己研さん”という形でいろいろ勉強してきたので、全部(労働時間として)がちがちに決められると、(医療の)質的にも落ちる可能性があると危惧している。」

一方、弁護士は、患者のために費やした時間は自己研さんではなく、時間外労働として認めるべきだと訴えています。

遺族代理人 齋藤裕弁護士
「患者のために尽くすという意識は非常に尊いもの。だから患者の命が救われている部分もあることは否定できない。ただ、精神論だけでやってきたことで今回の事件が起こったとはいえる。」

医師の“働き方改革” 医療現場の苦悩

ゲスト 鎌田實さん (医師)

長年、地域医療を担ってきた鎌田さん。連続で38時間に及ぶ勤務の実態、改めてその過酷さに胸が潰れるような思いがするんですけれども、こういったことというのは、ほかでも起きていることなんでしょうか?

鎌田さん:本当に残念なことなんですけども、地方の病院なんかでは、1日働いて、そのまま当直に入って、翌朝、明けることができず、内科医だと外来をやって回診をする、外科医だったら外来をやって、その後、午後は手術をするというようなことで、結構ありえる状況です。

今回、問題が起きたのは、地域の中核の医療機関なわけですけれども、なぜ、そこでこのように業務が積み重なっていくんでしょうか?

鎌田さん:1つは、応召義務という、医療界には「患者さんを断ってはいけない」というルールがあって、できるだけ、とにかく受け入れようという思いがあって、中核病院の場合には、高度医療化をして、設備を整えて、患者さんたちが集まりやすいような環境を作っていて、住民の人も、たぶん軽いだろうなと思いながら、いい病院行ったほうが安心だなという思いがあって、そういう思いの中で、集中しやすい状況というのが作られてるんじゃないか。それで過酷な仕事形態ができてしまう。もう1つは、やはり地方の病院では医師の数が足りないために、明らかに起きてる。もう1つは、医師そのものが、自分のスキルアップのために勉強したいとか、経験を積みたいとか、いろんなテクニックを学びたいということで、「一生懸命やりたい」という思いが強いところがありますね。

それで業務が過酷になってしまう。構造的な問題ですね。

鎌田さん:(それは)あると思います。

田中:国も動き始めています。厚生労働省は医師の業務負担を減らすために、入院時の説明や、診断書の入力などを、医師に代わって看護師に担ってもらおうという業務移管の取り組みや、当直明けの勤務負担の軽減、また、できるだけ複数の医師で、チームとして対応していくなど、個々にかかる負担を少しでも減らそうという議論を始めています。
また、病院側でもさまざまな取り組みが始まっています。聖路加国際病院では、一部の科で土曜の診察を廃止し、医師の休暇の確保に乗り出しました。また、東邦大学大森病院では、地域の開業医と連携し、当直を担ってもらう取り組みを進めようとしています。

もう1つの焦点が、先ほどもおっしゃった、医師1人1人が自分の技量を高めようとする「自己研さん」だと思うんですけれども、これは「業務」なのか「自分のため」なのか、どう線を引いていくべきなのでしょうか?

鎌田さん:自分が主治医として診ている患者さんの治療方針を決めるために調べたりすることや、その患者さんのためのカンファレンスが行われることなんかは、明らかな「業務」ですよね。それ以外のものって、非常に微妙なんですよね。ここをできるだけ病院としては明確にしておく必要があるけども、結局、最後のところまでラインをなかなか引きにくいので、そこで、直属の上司と相談して、「このぐらいしっかりやれよ」って言われると終わっちゃうので、そうじゃなくて、ラインとは別個のところに相談役のメンターだとか、あるいは、同じ数年上の先輩と一緒に相談ができるような体制作りをしている病院も長野県内にはあって、このままではいけないなということで。ただ、先ほどもお話したように、医療界ってどんどん仕事が広がる方向があるので、それに対して歯止めをどうやって明確にしていくかというのが、今、問われているところだと思います。

この医師の問題と同じように、長時間労働による過労死が相次いでいるのは、実は学校の教師です。これまでの働き方をどう見直そうとしているんでしょうか。模索する現場を取材しました。

ルポ・教師の長時間労働 “働き方改革”は進むか

およそ500人の生徒が通う、大阪市立東中学校です。新学期、保護者に対してある手紙を出すことにしました。

「教育委員会との連名で。」

学校に求められる役割が拡大する中で、教師の残業が過労死ラインを上回っているとして、今後の働き方改革への理解を求めたのです。

大阪市立東中学校 黒田光校長
「反応がどうかなというのは、これから見ていかないといけない。ことある機会に私の方から説明をしないといけない。」

背景には、増え続ける仕事への危機感があります。

「おはようございます。」

この学校の所定勤務は朝8時半~夕方5時まで。しかし、多くの教師が朝7時過ぎには出勤します。

「行ってきます。」

7時40分。校区の巡回に出ました。警察から、不審者がいるとの情報が入ったためです。

西垣一範教諭
「はい、おいで。あのな、今なんか(信号)赤やんけ。」

地域住民から登校時のマナーが悪いと指摘され、通学路で指導することもあります。
午前の授業を終え、昼休み。昼食を僅か2分で済ませると…。

西垣一範教諭
「何してん?」

声をかけながら生徒を見守ります。いじめやトラブルは休み時間に起こることが少なくないからです。

西垣一範教諭
「何気ない話から、今どんなことで悩んでいるのか、そんなことも休み時間によく分かる。職員室にずっといるということはできない。」

放課後の部活動。国の学習指導要領では「学校教育の一環」とされていますが、行われるのは、ほとんどが土日を含めた勤務時間外です。

この学校では、すべての教師が部活動の顧問をしています。サッカー同好会は、去年(2017年)設立されました。

松下崇裕教諭
「地域や保護者からサッカー部を作ってほしいと要望がずっとあった地域で、教室では学べないことでも、クラブでは学べることも非常に多くあると思う。」

夕方。授業の準備など、教師のいわば本業にようやく取りかかります。しかし、その最中にも…。

「もしもし、東中学校でございます。」

保護者や地域からかかってくる電話に対応しなくてはいけません。
6時半。緊急の会議が開かれることになりました。休み時間中、いじめにつながりかねない行為が3件見つかり、指導方針を話し合うことになったのです。

「きちんと本人が考えないといけないことだから、これから連絡またとって。」

難波千枝教諭
「今日あったことなんですけど。」

会議のあと、関係した生徒の保護者全員に連絡を取りました。
保護者とのやり取りで、ある生徒が以前から、からかわれていたことが分かりました。いじめにつながれば、その後の生徒の人生に関わるだけに、おろそかにはできません。

難波千枝教諭
「その日のうち。鉄則です。先にこっちの仕事があるから(生徒)指導はあとで、にはならないので。何かあった時は、また今日帰れないみたいな感じになります。」

深夜になっても仕事が終わらず、授業の準備などを自宅に持ち帰ることも少なくないといいます。
負担を少しでも減らせないか。大阪市では、夜間の電話対応を自動音声に切り替えることを検討しています。さらに市では、部活指導専門の職員を外部から雇用する予定です。教育の質を落とすことなく、長時間労働をなくすことはできるのか。教師たちの模索が続いています。

「正直な話、昔に比べて余裕がない。もっとゆっくりノートも見たいし。」

「意識して早く帰る、時間内に終わらせる努力というのはしていかなければいけない。」

「われわれが休みを取ることで、生徒にしわ寄せがいくようではいけない。」

今後、保護者を巻き込んだ議論も進めていく予定です。

大阪市立東中学校 黒田光校長
「今の仕事全体をどう短縮させるのかということは、子どもに関わる教育活動を、どこを削るのかということになってくるので、(保護者に)ご理解をいただきながら、中学校の先生方の労働環境、労働時間の短縮を改善していくことに努めていきたい。」

残業80時間超 教師の長時間労働の実態

ゲスト 藤原和博さん(元区立中学校 校長)

田中:教師たちが長時間労働に陥ってしまう背景には何があるのか。その1つが、こうした法律の規定です。「教師の仕事は勤務時間を規定することが難しく、時間管理はなじまない」「時間外や休日勤務手当は支給されない」「その代わり、月給の4%が手当として支給される」。こうした制度は、1960年代から続いています。

民間出身で初めて公立中学校で校長を務めた藤原さん。こうした制度になっているとはいえ、学校の先生はあまりにも忙しすぎると思うんですけれども、どういうふうに仕事を積み重ねているのでしょうか?

藤原さん:その理由、3つほど挙げたいと思うんですが、1つは、学習指導だけじゃなくて、生徒指導、生活指導、習慣を作っていくことまで日本の先生は仕事にしているということ。先ほどありました、いじめの問題も当然ですが、見回りとかも、小学校だと「雑巾はどういうふうに絞るか」から「給食はどこで食べるか」など。それから中学・高校では、なんといっても部活ですね。そして最後に、事務量が非常に増えているということがあります。もう上から文書が非常に多く下りてきて、アンケートをたくさん書かなきゃならない。それから「レッテル付きの教育」っていうんですが、消費者庁ができれば消費者教育だったり、例えば情報教育・IT教育・環境教育・福祉ボランティア教育もやりなさいということで、どんどん積み上がってくる。本当は何かをやめて、何か新しくしなきゃいけないんだけど、全部積み上がっていっちゃってるというところがありますね。

教師の“働き方改革” どう進める?

国は、こうした先生たちがやらなければいけないことに対して、例えばこういった外部のパワーを活用してはどうかというようなことも考えているようなんです。これはどうですか?

藤原さん:外部のパワーについて、小学校の英語とか、プログラミング教育、これは生きると思います。外の力を借りざるをえない。問題は、部活なんですね。これはやっぱり先生たちが人生かけてやってるというところもあったり、やりがいがあってやってるという部分があるのと、それから、やんちゃな子なんかは、バスケット部とかサッカー部で、授業では自分はスターになれないんだけど、スポーツでスターになれるっていう、そういう教育的な部分があるので、なかなか、外に出してスポーツとしてやればいいじゃないというふうにはならないんですね。そこが難しいです。

学校の教育と結び付けてやらざるをえない部分があるんですね。こういった外部のパワーも入れつつも、その運用にはやっぱりちょっと工夫が必要だと。

藤原さん:とにかく今50代の教員が35%いまして、あと10年するとベテランがいなくなってしまう。ですから今のような部活の指導はなかなかできないでしょうから、もう外の力を借りざるをえないと思います。

医師・教師の“働き方改革” 私たちは?

医療や教育を維持していくために、私たちに何ができるのでしょうか?

鎌田さん:時間だけで働き方改革をやると、医療崩壊が起きるんじゃないかと、多くの医師たちは心配をしています。そして医師は大変疲れているっていうことを理解していただいて、コンビニ受診なんかといって、夜中に安易なかぜぐらいのことでかかるようなことはぜひやめてもらえるとありがたいなという声が多かったですね。

藤原さん:僕はサラリーマンや公務員の方に、ぜひ働き方改革で、早く帰ってきてもらったり、それから土曜日、特に、学校のサポートをしてもらえるといいなと思います。学校支援地域本部が今、地域学校共同本部というふうになっていますので、そこに参加してくれると、地域社会と学校が盛り上がると思います。

働き方を見直す中で、医療や教育を当たり前に受けられると思ってきた私たちの常識を、変えていかなければならないところまできていると思いました。命を預ける大切な仕事を社会全体でどう支えていくのか、考えていかなくてはならないと思います。