クローズアップ現代

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2018年2月8日(木)
ピョンチャン五輪 極限への挑戦 スピードスケート 小平奈緒

ピョンチャン五輪 極限への挑戦 スピードスケート 小平奈緒

ピョンチャン五輪の圧倒的金メダル候補、スピードスケート女子の小平奈緒選手(31)。500mでワールドカップ15連勝、さらに1000mでは世界新記録を樹立し、2種目で金メダルの大本命とされている。しかし、小平選手が自ら「金メダル」という言葉を口にすることは決してない。追求するのは「究極の滑り」のみ。そのために、最新のスポーツ科学や日本の伝統文化など、スケートの常識を超えた手法を練習に取り入れてきた。独占取材で、その強さの秘密を解き明かす。

出演者

  • 清水宏保さん (長野五輪スピードスケート男子500m金メダリスト)
  • 武田真一 (キャスター)

スピードスケート金へ 小平奈緒 独占取材

限界を超えて、その先へ。圧倒的強さでピョンチャンオリンピックに臨むスピードスケート、小平奈緒選手。ワールドカップの500mで、無敵の15連勝。1,000mでは…。

「ニューワールドレコード!」ワールドカップ(去年12月)

12月に世界新記録をたたき出しました。金メダルへのオッズは、大本命の1.2。2種目で金メダル最有力といわれています。しかし、自らメダルという言葉を口にすることはありません。

スピードスケート 小平奈緒選手
「ただひたすらやりたい滑りを磨く。究極の滑りを磨く。」

究極の滑りをすれば結果はついてくる。100分の1秒を争う極限の世界で、ひたすら理想を追い求めてきた小平選手。他の追随を許さない強さの秘密を独占取材で解き明かします。

スピードスケートの会場です。今月(2月)4日に、この決戦の地に入った小平選手。金メダルという大きな期待がかかる中でも、短い時間に集中して調整するという自分のペースを崩しません。ただひたすら究極の滑りを目指す。まるで求道者のような姿。しかし、そこに至るまでには知られざる苦悩の日々がありました。

スピードスケート金へ 小平奈緒 驚異の進化

ピョンチャンオリンピックに向けたPR撮影を頼まれた小平選手。

人前に出るのはちょっと苦手。

スピードスケート 小平奈緒選手
「いくぜ、ピョンチャン。」

「もう気持ち張ってもらって。」

「いいと思います。最高です。」

スピードスケート 小平奈緒選手
「いや、恥ずかしいですよね。」

しかし、ひとたび氷の上に立てば、むき出しの闘志で他を圧倒します。
500mのレースは、400mのリンクを1周余り。女子は37秒前後で駆け抜けます。
この日の相手は、オリンピック2連覇中の韓国のエース。
第1カーブでぐんぐん加速。バックストレートでも伸びやかな滑り。第2カーブも高い技術でスピードを維持します。ライバルに大差をつけての勝利。ここ2シーズン、出場したワールドカップ15戦で全勝を果たしています。

スピードスケート 小平奈緒選手
「勝つことよりも、自分の実力をしっかりと着実に上げることが大切になってくると思うので、0.1秒でも速い自分が、そこにあればいいのかなと思っています。」

今回、オリンピックに向けた小平選手の特別な取材が許されました。結城匡啓コーチ。小平選手を18歳の時から教え、大学の教授として、データに基づいた指導に定評があります。2人は、ピョンチャンに向けた緻密な計画を練り上げてきました。
1日1日の練習メニューや目標タイム、体をケアするポイントに至るまでレース当日から逆算して設定しています。

初めて明かされた小平選手のデータ。そこから驚くべき事実が浮かび上がってきました。

結城匡啓コーチ
「重心の軌跡なんですよね、上から見たときの。」

小平選手が滑った軌跡とそのスピードの推移を示したグラフです。3年前の小平選手。トップスピードに達するのはバックストレートを滑ったあとの第2カーブの入り口でした。それが、今シーズン。第1カーブ。回りきったこの地点。なんとレース前半でトップスピードに到達していたのです。3年前と比べると、およそ100mも手前です。抜群のカーブワークでトップスピードまで加速し、バックストレートでも速いスピードを保つ滑り。
小平選手は、どのように進化を遂げたのでしょうか。

小平奈緒金メダルへ 進化の原点とは

その原点は4年前にありました。日本のエースとして出場した、ソチオリンピック。

スピードスケート 小平奈緒選手(当時27歳)
「ソチで一番高いところからの景色を見渡したいなと。」

金メダルをとると力強く宣言。
持ち味は、空気抵抗を抑えるために磨いてきた深い前傾姿勢のフォーム。しかし、メダルには届かず、結果は5位。目の当たりにしたのが、大会を席けんしたオランダ勢の姿。

実況
「オランダ、表彰台独占!」

金メダル8個を含む、スピードスケート全体の7割ものメダルを獲得しました。

スピードスケート 小平奈緒選手
「悔しいのと、ベストを尽くしたというところで、何が足りなかったんだろう。オランダに行って、世界を見てきたい。本物を見てきたいって思いましたね。」

五輪へ挑む 小平奈緒 “究極の滑り”への模索

ソチオリンピックの2か月後。小平選手はさらなる成長を期して単身、オランダに渡りました。指導を仰いだ、コーチのマリアンヌ・ティメルさんです。

マリアンヌ・ティメルさん
「これはオリンピックのメダルです。」

長野とトリノで3つの金メダルを獲得した、オランダの英雄です。ティメルさんが、まず小平選手に伝えたのが…。

マリアンヌ・ティメルさん
「私は『BOZE KAT』の絵を見せました。」

オランダ語で怒った猫という意味の「BOZE KAT(ボーズカット)」。ティメルさんが気付いたのは、小平選手のフォームがオランダの選手と比べ、前かがみになり過ぎていることでした。

マリアンヌ・ティメルさん
「ここまで前かがみなのは良くない。」

そこで、もっと上体を起こしたほうがいいと、怒った猫に例えたのです。これが小平選手の元のフォーム。

上体を起こすと、足の可動域が広がり、足を大きく回すことができるようになります。こうすることで氷を長く押すことができ、スピードアップにつながるというのです。

スピードスケート 小平奈緒選手
「とにかくソチまでは、低さだったり、風の抵抗(の軽減)だったりっていうのを目指してきたので、本当に、えって思ったんですけど。」

「大きく動かせ、大きく動かせ。」

小平選手は、戸惑いながらもオランダ流の方法をフォームに取り入れようと、練習を重ねます。しかし、すぐに結果にはつながりません。オランダでは、なかなか自己ベストを更新することもできませんでした。

スピードスケート 小平奈緒選手
「本当にぼろぼろだったんですけど、感覚的にいいものが得られなくて、すごく苦しんだというか、自分の感覚にすっと入ってこなかったというのは、正直ありました。」

そんな時、オリンピックで結果を残してきたティメルさんが伝えたのは、王者としての心構えでした。

マリアンヌ・ティメルさん
「周りの人はいろいろなことを言うかもしれない。大事なのは、決して振り回されない、自分の強い気持ちだ。」

自分自身でとことん考え、納得する滑りを追求すること。そして、それを貫く強い気持ちが大事だというメッセージでした。

スピードスケート 小平奈緒選手
「自分が選んだ道だから、失敗も成功だと思うっていう風に思ったときに、自分が行動に移すことそのものが、正しい自分の人生の道なのかなって。」

帰国した小平選手。オランダで学んだボーズカットを下地に、究極のフォームを模索し始めました。これまでスケートに持ち込まれることのなかった、さまざまな理論を取り入れます。

スピードスケート 小平奈緒選手
「ちょっと、いいページ見つけちゃいました。」

最新のスポーツ科学による分析。体に動作解析の装置を取り付け、フォームのどこに課題があるのか調べます。

結城匡啓コーチ
「こういう瞬間のときに、少し傾いてしまうところに課題がありまして。」

明らかになった肉体的なウイークポイント。カーブを回る時、骨盤が斜めに傾いていたのです。骨盤が傾くと、右足が浮いて氷から離れるため、氷を強く押すことができません。そこで、小平選手と結城コーチがたどりついたのは、ヒップロックという理論でした。1枚の骨盤を左右別々に考えるという、この理論。骨盤周辺の筋肉を片方ずつ意識して鍛えます。左右別々に骨盤をコントロールすることで、傾かないよう軸を安定させ、カーブでも氷を強く押せるというのです。

スピードスケート 小平奈緒選手
「ヒップロックっていうキーワードにシンプルにまとまってきて、自分の感覚の中に、シンプルにはまるものになってきたのかな。」

結城匡啓コーチ
「これだけたくさんの筋群のコントロールができて初めて股関節が安定するということになりますので、そこに目を向ければいいんだっていうことがはっきりしました。」

一方の足を固定し、もう片方の足だけを動かすトレーニング。骨盤周辺の筋肉を片方ずつ鍛え上げます。

10種類以上もある、骨盤に特化した地道なトレーニングを繰り返します。トレーニングで身につけた感覚を、氷の上で確かめる小平選手。安定し、スピードに乗って回れるようカーブワークを磨いていきました。

小平選手の試行錯誤は日本の伝統文化にも及びました。取り入れたのは、歯が1本のげた。大きさは半分ほどの特注品です。

リンクに上がる前にげたを履き、骨盤回りの筋肉をピンポイントで刺激します。自らの肉体に潜む、あらゆる可能性を探り、究極のフォームを目指します。

スピードスケート 小平奈緒選手
「それ(げた)で眠っていたものをシンプルに呼び起こすことができるようになったのかなと。日本の昔の人から学ぶことっていうのは、すごくたくさんあるんじゃないかなと思って。」

ピョンチャン五輪へ “求道者”小平奈緒

そして迎えたオリンピックシーズン。その初戦。骨盤を水平にし、安定させた力強いカーブワーク。バックストレートでもスピードを落としません。小平選手が築き上げたフォーム。4年前のソチオリンピックと比較すると、上体が上がり頭の位置が高くなっています。

スピードスケート 小平奈緒選手
「同じ体格ではないのに、オランダ人と同じポジションでやってもオランダ人には勝てないというのがあって、自己流のフォームに改善できたのかなと。」

2年間のオランダ修行では更新できなかった日本記録も、およそ3年ぶりに更新。その後も記録を塗り替え続けています。圧倒的な強さを身につけながら、金メダル獲得を決して口にしない小平選手。その意識は、自ら求めてきた究極の滑り、その一点に向けられています。

スピードスケート 小平奈緒選手
「学びを積み上げてきた人が強いのであって、スケートはそんなに単純ではないのかなと。今までの経験だったり、学びを通して、オリンピックという舞台で自分をどう表現できるか、自分自身すごく楽しみたいなと思ってます。」

スピードスケート金へ 小平奈緒 極限への挑戦

ゲスト 清水宏保さん(長野五輪スピードスケート男子500m金メダリスト)

小平選手は1,500メートル、1,000メートル、そして500メートルの3種目に出場します。
長野オリンピック男子500メートルで金メダルを獲得された清水宏保さん。
ずばり、小平選手の金メダルの可能性は?

清水さん:非常に高いと思います。特に500メートル、1,000メートルは非常に期待できると思いますね。
(1,500メートルは?)
氷に慣れる、そして雰囲気に慣れるという意味では、非常にいい1,500メートルになると思います。

小平選手は、レースの前半でトップスピードに到達するようになった。清水さんもロケットスタートが得意とされてきたが、これは、女子としてはやはりすごいこと?

清水さん:なかなか過去の女子選手ではいないタイプだと思いますね。僕も加藤条治選手もそうなんですけれども、最初の200メートルでトップスピードに乗った時、そして決まったと思う時は、もう勝利を確信している、そんな話で盛り上がったことありますね。それが女子ではなかなかできなかったものが、小平選手、今できている、男子の領域スピードに入っているんではないかと思いますよね。

小平選手のカーブの攻め方も変わってきていて、黒が以前の小平選手のライン取り。そして最近は、赤のライン取りになってきている。これは、どういうふうに変わってきている?

清水さん:アウトインアウトのコース取り、カーブワークに関してですね、アウトから入って、イン攻めて、アウトに膨らんでいく。コース全体としては遠回りな軌跡なんですけれども、やはりカーブワークをより直線的に滑ることによって、減速を防いでいくっていうことですよね。よく車運転される方でも、交差点を曲がる時に、イン・インって小さく回っていくよりも、外側から入って内側攻めて、外側行くと、滑らかに出口の加速につながっていくということになりますから。

こうした滑りを可能にしたのが、骨盤周りの筋力トレーニングということ?

清水さん:そういった外側から入ってしまうと、絶対外側に回ってしまうんですけれども、そういった筋力を強化して、骨盤を調整していくことによってサスペンションの役割をしていく。なかなか今までできなかったことを、技術や肉体を鍛えていったことではないのかなと思います。以前、「アナトミー・トレインっていう言葉知ってる?」という話をしたら、すぐ「あっ、分かりました」っていう言葉が返ってきたことがあります。それは解剖学に出てくる文言なんですけれども、それだけ小平選手は解剖学の勉強もしているんではないかなと思いますよね。

韓国のリンクでは、昨日(7日)本番を想定した練習のレースが行われました。オリンピック記録を上回る好タイムを出したということだが、まずスタートをどう見た?

清水さん:スタートは非常によかったんですけれども、つなぎが今まで以上に非常にうまくなってます。
(つなぎ?)
走り出して滑り出すまでの時間が短くなっている。非常にこの加速につなげる筋力、そして技術が今、磨かれているんではないかのかなと感じますよね。

昨日は、「まだ記録は伸ばせる」とも語っているが?

清水さん:まだまだキレという意味では、のばせれるのかなという感じはしますし、またギア比がまだ上げられる、そんな雰囲気すら感じますよね。

4年前と今回では、小平選手の発言にも大きな変化があります。

今回は「ただひたすら究極の滑りを磨く」。金メダルという言葉は決して口にしないということだが、精神面での成長は?

清水さん:4年前と比べて、まずまなざしが非常に変わっています。そして4年前の時は金メダルとれる実力がなかったんだけれども、やはり口にしなければいけない、口頭として出さなければいけないという部分があったんですけれども、今は非常に強いまなざしで、非常に目が違いますよね。そういった意味では、金メダルを狙える、そして、それプラス、金メダルだけではなく、技術を究極に追い求める、スピードを追い求めるといって、2つの目標設定を持っているんですよね。やはり勝つだけではなく、そこに最高のスピードと技術を追い求めることで、プレッシャーを分散させている、そんなイメージすら感じますよね。

そして、最大のライバルは?

清水さん:やはり韓国のイ・サンファ選手ですね。

韓国のイ・サンファ選手が、非常に追い上げてきてるんです。小平選手との距離を縮めてきています。また今回は、韓国、母国開催ということで、非常にこの脅威的なものを感じるんですけれども、ただ、今の小平選手に関しては、いろんな細かい部分まで、解剖学も勉強しながら鍛えていっておりますし、ふだん使わない、ろっ間筋だったり、あばら骨の間の筋肉も使いこなしながらうまく滑っているので、アドバンテージはかなりあると思いますね。

ただ、やはりメダルへのプレッシャーは強いと思うが、経験者としてどう感じる?

清水さん:正直、金メダル候補大本命という状況の中でくると、正直プレッシャーはあると思います。ただ、今の小平選手は、プレッシャーをはねのけさせれる実力も備わってるので、やはり自分の実力がどこまで通用するんだろうという意味で、非常にワクワクしながら滑っている、そんな風景すら、光景すら見受けられますよね。

最期に、ほかの選手については?

清水さん:やはり高木美帆選手ですよね。女子の3種目、そしてチームパシュートもあります。この高木美帆選手が中心となった他種目でもメダル期待できますよね。

学びを積み上げてきた人が強い。小平選手の言葉に、揺るぎない自信を感じます。究極の滑り、楽しみにしたいと思います。ピョンチャンオリンピック、いよいよ明日(9日)開幕です。