クローズアップ現代

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2018年1月10日(水)
羽生善治×井山裕太 前人未到の世界を語る

羽生善治×井山裕太 前人未到の世界を語る

史上初の永世七冠を獲得した将棋の羽生善治さんと2度の七冠を達成した囲碁の井山裕太さん。2人が到達した「前人未到の世界」とは?「独創的な一手」や深い「大局観」を生み出す秘密はどこにあるのか?そして、2人が目指しているという「真理」とは?国民栄誉賞の受賞が決まった羽生さんと井山さんへのダブルインタビューで徹底的に迫る。

出演者

  • 羽生善治さん (プロ棋士・永世七冠)
  • 井山裕太さん (プロ棋士・七冠)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

羽生善治×井山裕太 前人未到の世界を語る

永世七冠と2度の七冠。
30年近く将棋界のトップを走り、前人未到の偉業を達成した、羽生善治さん。

囲碁界で史上初の快挙を20代の若さで成し遂げた、井山裕太さん。

そろって国民栄誉賞の受賞が決定。2人からは意外な言葉が。

囲碁 棋士 井山裕太さん
「囲碁のことを全然わかっていない。」

将棋 棋士 羽生善治さん
「これから先どうなっていくのか、想像がつかない。」

将棋と囲碁頂点を極めた者だけに見える世界とは。そして、その先に何があるのか。ダブルインタビューで迫ります。

羽生善治×井山裕太 前人未到の世界を語る

ゲスト 羽生善治さん(プロ棋士・永世七冠)
ゲスト 井山裕太さん(プロ棋士・七冠)

羽生善治永世七冠にお越しいただきました。おめでとうございます。

羽生さん:どうもありがとうございます。

「これから先どうなるのか、想像がつかない」とおっしゃっていたが、その心境は?

羽生さん:もちろん非常にうれしいという気持ちもありましたし、同時に、まだまだ棋士の生活はこれから続いていくので、これから先、自分がどういう道を歩んでいくだろうということも思ったりしました。
(また新たな棋士人生が始まったという感覚?)
そうですね。まあ、1つの大きな節目になりましたので、また新たなスタートを切るという気持ちで、今はいます。

井山さんですけれども、今、中国で行われている親善試合に参加しているため、先週インタビューしました。

お正月はどう過ごした?

井山さん:久々に少しゆっくりできる時間があったので、家族とちょっと旅行に行ったり、少しゆっくりできました。

お正月の間、碁石は触られた?

井山さん:いや、旅行先では全く触ってないです。ただ、今はスマホと携帯電話等で画面上で囲碁に触れることはできますので、そういう意味では、全く何もしていなかったわけではないんですけども。
常に、その辺りアンテナを張ってないと、どんどん遅れていくっていう、そういう感覚もあるので、毎日少しずつでもとは思ってはいます。

羽生さんは、お正月をどう過ごした?

羽生さん:まあ比較的ゆっくりというか、のんびりはしていました。時々、将棋のことは考えていましたけれども、普通のお正月という感じで過ごしていました。

お2人は、お互いのことを意識して、深い関心を抱いていらっしゃるそうです。今日(10日)は、羽生さんから井山さん、井山さんから羽生さんへの質問も交えながら、お2人の神髄に迫りたいと思います。まずは、お2人がどうやって、この厳しい勝負の世界で頂点を極められたのか、秘蔵映像をもとにひもときます。

2度の七冠 井山裕太 “創造的な囲碁を”

前人未到の2度の七冠を達成した、囲碁の井山裕太さん。最大の持ち味は、常識にとらわれない独創的な打ち手です。そのルーツは、幼少期にありました。

小学1年生の時に、プロ棋士に弟子入りした井山さん。稽古場までは、電車で1時間以上も離れていました。インターネットを利用して、自宅にいながら、師匠と1,000局以上対局を重ねたのです。
師匠から繰り返し伝えられた言葉があります。

「打ちたい所に打ちなさい」

その言葉を胸に刻み、井山さんは独創的な囲碁のスタイルを身につけていきました。

「負けました。」

プロ入りすると、最年少記録を次々塗り替え、20歳で初タイトルを獲得。そして26歳で、囲碁界で初めての七冠制覇を成し遂げます。しかし、その直後、壁にぶつかります。王者としての重圧からか、持ち味の独創的な打ち手が影をひそめてしまったのです。半年後には、タイトルの1つを奪われてしまいます。

囲碁 棋士 井山裕太さん(2016年11月)
「もう少し(七冠を)続けたかった気持ちもありますけど、いまの実力では、これが精いっぱいだったかなと思います。」

そんな井山さんが、新たな境地を切り開いたきっかけは、AI・人工知能との出会いでした。人間のセオリーに縛られずに繰り出される型破りな手の数々。衝撃を受けた井山さんは、本来の独創性を取り戻していきます。
そして、去年(2017年)10月。再び、七冠制覇を目指して挑んだ名人戦の第五局。井山さんの一手に観戦者がどよめきました。

石田芳夫九段
「これを捨てて、どうのこうのって、あんまり見ないんだよ。」

金秀俊八段
「普通の人がやったらムチャクチャ。井山さんだからうまくいくけど。」

対局中盤のこの時、黒の井山さんは窮地に追い込まれていました。左上の17の石が白に取られる寸前だったのです。

囲碁は、白と黒が囲った陣地の広さを競うゲーム。いかに相手の石を取り、自分の陣地を広げるかが重要です。この局面で、多くの棋士たちが予想したのは、黒の石を守る、この手。

しかし、井山さんが打ったのは、盤の中央でした。

左上の黒石を守らず、新たな場所で戦いを始めたのです。たとえ多少の損をしても、先手に回れば、黒の陣地は白よりも広げられる。常識にとらわれない独創的な一手が勝利を呼び込みました。
「打ちたい所に打つ」。自分らしさを発揮して、再びつかんだ栄光でした。

永世七冠 羽生善治 “大局観”の将棋とは

一方の羽生さんがプロデビューしたのは15歳の時。史上3人目の中学生棋士として注目を集めました。わずか18歳で、現役の名人経験者全員を打ち破る快挙を達成。どんな不利な形勢からでも逆転に持ち込む一手は、「羽生マジック」と恐れられました。その強さの秘密は、いち早く導入したデータベース。

先人たちの膨大な対局記録を徹底的に分析。あらゆる戦法を頭にたたき込んでいったのです。羽生さんは、変幻自在の指し手で、タイトルを次々と獲得していきます。そして25歳の若さで、史上初の七冠を制覇。金字塔を打ち立てます。
タイトルを何度も制すると得られる永世の称号。その七冠に王手をかけたのは、9年前。そこに強敵が立ちはだかります。自分よりも1回り以上も若い、渡辺明竜王です。

初戦から3連勝した羽生さんでしたが…。

将棋 棋士 羽生善治さん(2008年)
「負けました。」

そこからまさかの4連敗。将棋史上まれに見る逆転負けを喫しました。実は、30代に入ってから羽生さんは、手を読む速さや記憶力が衰え、苦戦を強いられる場面が多くなっていたといいます。
その中で羽生さんを支えたのは、ほかの棋士を上回る対局経験。トップクラスの棋士たちと、年平均60局の実戦をこなし、勝負の流れを読む力、大局観を研ぎ澄ましていきました。
そして去年。47歳にして、7年ぶりに渡辺竜王への挑戦権を獲得します。

将棋 棋士 羽生善治さん
「次がいつあるか、ないかもしれないですし、もしかしたら、最後のチャンスかもしれない。」

渡辺明竜王(当時)
「負けました。」

前人未到の快挙を支えた大局観。その神髄をご本人に伺います。

羽生善治×井山裕太 前人未到の世界を語る

「最後のチャンスかもしれない」とおっしゃっていたが、やはりプレッシャーはあった?

羽生さん:そうですね。7年ぶりの挑戦ということもありますし、20代の時とかと違って、毎年毎年チャンスがやって来るっていう感覚もないので、この1回を大切にしたいという気持ちは非常に強かったですね。

そのプレッシャーをどうはね返して、偉業を達成されたのか?

羽生さん:やっぱり一番思っていたのは、結果はともかくとして、悔いが残らない対局をしたいということを強く思って。だから、例えばプレッシャーに負けてしまって、手がひるんでしまうとか、自分らしさを見失ってしまうとか、そういうことで、後から振り返った時に悔いが残る将棋は指したくない。やるだけのことはやって、駄目ならもうそれでしょうがないという感じで割り切って指していました。

そうした中で、年齢とともに磨いてこられたのが、大局観。これはどういう境地なのか?

羽生さん:大局観は、簡単に言うと、大ざっぱにざっくり見るっていうことで、大体の方向性を決めるとか、今までの総括を簡単にするとか、非常にアバウトな、大ざっぱにその状況を見ると、判断するということです。

手を読むとか、そういった能力は若い頃の方が優れている?

羽生さん:そうですね。なので、100手読んで正しい手を選ぶよりも、10手とか5手とか、その短い手数で正しい手を選べるという、そういう方向性に変わっていく。だから、足し算で記憶をして計算をして足し算をするのではなくて、余分なものをそぎ落としていって、引き算の思考の中で質を上げるという作業を心がけています。

羽生さんを目標にしているという井山さんからも、実は質問を預かってきていますので、ご覧ください。

井山さん:長い年月をトップで走り続けてこられたわけですけれども、それだけ長く勝ち続けるために、ご自身でどういうことを意識してやってこられたのかなということはお聞きしてみたいです。

羽生さん:将棋の方も囲碁の方もタイトル戦があって、1年中対局をやっているので、技術的なところも非常に大事なんですけど、1年間フルに高いパフォーマンスを保ち続けるということが、非常に大事になってくると思うんです。遠征が続いていく中で、健康面とか体調面とかが長く続けるのには非常に大事なんじゃないかなっていうふうには思っています。以前、井山さんに言ったことがあるんですけど、朝起きてどこにいるか分からなくなった時にはちょっと気を付けた方がいいですよってことを。というのは、あちこち行くんですよ。例えば札幌行って福岡行って大阪行って、ずっと続いていくと、だんだん自分がどこにいるか分からなくなってくるんですね。たぶん井山さん、まだそんなことないと思うんですけど、だんだんその生活が長く続いてくると、遠征先でぱっと起きた時に自分がどこにいるのか分からなくなる瞬間があるんで。そうなった時は、少し休養とかリフレッシュとかが必要になるんじゃないかなと思います。

年齢による衰えは感じる?

羽生さん:1つの対局をするという点では、それほど違いはないんですけれども、1年間で数多くの長時間の対局をやっていくという面では厳しくなってきている。あるいはその間隔が詰まって、例えば中1日とかで長い時間の対局をするっていうのは、以前に比べるとちょっと厳しくなっています。

そんな羽生さんが井山さんに聞いてみたいということを聞いてきました。

羽生さんからの質問で『独創的なひらめきは一体どこから来るのか』ということだが?

井山さん:自分ではそんなに特別なことをやろうと思ってやっているわけではそんなになくって、自分の感覚であったりっていうのを信じてやっているっていうところなので、本当に「打ちたい手を打っている」というか、そういうところなんですけど。
どうしても自分も長年囲碁をやってきて、少しずつ知識が増えていく中で、やっぱりどうしても、こういうところはこういうもんだっていう、そういう考えっていうか、そういうのが以前よりはどんどん固まってきてるとは思うんですけども、なるべくそういうことは取っ払って。
対局中っていうのは誰も助けてくれないので、やはり自分自身の感覚であったり、判断であったりっていうのを信じるしかないので、そこは大切にしているというか自分を信じることですね。

AIからヒントを得ることもある?

井山さん:最初は少し戸惑う部分もやっぱりあったんですけれども、AIはこういうところはこうするべきだとかっていう感覚は当然ながらないでしょうし、ある意味すごく自由ですね。自分自身、まだまだ棋士としてこれからですけれども、囲碁の真理というんですかね、囲碁のことをどれだけ分かってるかって言われると、本当にまあ全然分かっていないというのが正直なところで、そういう意味でAIがこれだけ強くなってきて、いろいろな手を見せてくれて、改めて、AIの登場によって囲碁の難しさとか深さというか、そういう物を感じているところなんですけども、ある意味ちょっとおもしろくなってきたという風にも感じていまして。

井山さんは、「AIの登場で囲碁が面白くなってきた」ということだが、羽生さんは、どう思われる?

羽生さん:将棋の世界も全く同じですね。ここ2〜3年、本当にその影響を強く受けていて、昔からあったんですけど、それまでは、コンピューターの世界はコンピューターの世界、人間の世界は人間の世界で完全に分離されてたんですけど、完全に最近はそれが一緒になって、融合して、新しい発想とかアイデアを、AIの発想やアイデアを人間が取り入れていく時代に今、入っています。
(将棋においても?)
そうです。

それから井山さんは、「リスクを冒しても打ちたい手を打つという姿勢を貫くことで強くなった」とおっしゃっていたが、これは羽生さんと共通する部分があるのでは?

羽生さん:でも、やっぱりそこは井山さんならではの発想の柔軟性とか、大胆さみたいなものがそういう手を打たせているんだなっていうふうに思いました。やっぱり経験を積んでくると、どうしても常識的な手が多くなってしまうってところがあるので、そこを突き抜けて考えている井山さんは、さすがすばらしいなと思いました。
(羽生さんも、そこは心がけていきたいと思っている?)
そうですね。そこが一番難しいところで、目標としてそういう姿勢でありたいと思っています。

田中:頂点を極めたお2人は、これから先どんな記録や目標に向かっていくのか。
羽生さんは、獲得したタイトルの総数が現在、通算99期。100期が目前です。また、公式戦での勝ち数は、現在1,391勝で歴代2位。歴代1位の大山康晴さんの1,433勝を見据えています。

そして、井山さんが次なる目標にしているのは、世界一への挑戦です。今、囲碁は国際化が進み、75の国と地域、およそ4,000万人にまで広がっています。かつては主要な国際タイトルを独占するなど、世界最強とうたわれた日本ですが、中国や韓国のプロ棋士が台頭し、頂点に立つことは簡単ではなくなっているんです。

“世界の頂点へ” 囲碁七冠 井山裕太

この10年あまり、世界一の座から遠ざかっている日本勢。立ちはだかってきたのは、中国や韓国の若手棋士たちです。特に中国では、碁の才能を買われた子どもたちが国内各地から集められ、徹底した英才教育を受けています。子どもたちは学校にも通わず、1日10時間を超える修練に明け暮れています。
日本の囲碁を再び世界の頂点へ。

去年11月、井山さんはついにチャンスをつかみ取ります。世界ナンバーワンの中国の棋士に勝利し、世界大会の決勝に駒を進めたのです。決戦は来月(2月)。井山さんの今の境地は果たして…。

羽生善治×井山裕太 前人未到の世界を語る

井山さん:よくも悪くも、自分なりの手というものを残していきたいというか、打っていきたいという思いは常にありまして、やっぱりそれで世界とも勝負したいという思いはありますので、世界のトップ棋士たちも、やっぱりその人ならではの手というか、その人にしかなかなか打てない手というか、そういうものを持っているなというふうに感じるので、自分なりの手で勝負していけたらなという思いはありますね。

その上で、勝ち負けが全てなのか、それとも、それを超える何かがあるのか、聞きました。

井山さん:囲碁っていうのは、どこに打ってもいいゲームで、本当に2人で対局相手と1局の碁を作り上げていくというか、そういうところは、勝負とは別にそういう部分もあるというふうに思うので、特にレベルの高い人同士がやると、お互いを高め合っていい作品ができるということもあるとは思うので。
もちろん勝ち負けも大事ですけども、そういったところを、何て言うんですかね、表現するということも大きなものですし、プロとしては見ていただく方に何か感じてもらえるような、そういう碁であったり、そういう手を打てたらなという意識は、やっぱりありますね。

もちろん勝負というものは、本当に重いものだと思うが、羽生さんは、勝負を超えて、なぜ将棋を指す?

羽生さん:内容も大事だと思っています。それは負けた時の言い訳にしてはいけないと思うんですけれども、そのプロセスとか個性とか、そういうことに棋士としての存在価値とか意義があるんじゃないかなというふうに思っています。

名だたるタイトルを獲得し、前人未到の「永世七冠」を達成された。これから何を求めて進んでいかれる?

羽生さん:やっぱり対局をしていく中で、毎回毎回何かしらの発見とか進歩とかを感じられたらいいなというふうにいつも思っています。それは指している自分だけではなくて、見ているファンの人たちにもそういうことが伝わっていく、伝えることができたら、やる意味というか、そういうものが非常に深くなるんじゃないかなというふうに思っています。

これからやり続けていくというのは、難しい面もあると思うが?

羽生さん:そういう意味では、先は分からないですけれども、まあ1年1年、一生懸命頑張って、自分の限界に挑戦したいというふうに思っています。

お2人に共通していること、リスクを恐れず、常に新たな一手を探求する姿勢だと思いました。その姿勢があるからこそ、頂点を極められたお2人だと思いました。