クローズアップ現代

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2017年12月5日(火)
追いつめられる留学生 ~ベトナム人犯罪“急増”の裏側で~

追いつめられる留学生 ~ベトナム人犯罪“急増”の裏側で~

ベトナム人による万引きが急増している。来日外国人の犯罪件数でも中国を抜いて最多となった。背景にあるのは、ここ10年で20倍以上に増えたベトナム人留学生たちの“窮状”だ。昼は日本語学校に通い、夜は仕事へ。宅配便の仕分けや新聞配達など、夜間早朝の厳しい労働現場も少なくない。一部では、多額の借金を返すためやむなく犯罪に手を染めるケースまで。追いつめられるベトナム人留学生の実態に迫る。

12月5日放送の「追いつめられる留学生 ~ベトナム人犯罪”急増”の裏側で~」についてのおわび

番組では、ここ数年、ベトナムで日本語学校への留学をあっせんする業者が乱立し、留学生から1年分の授業料など100万円を超える現金を受取る仕組みができていることをお伝えしました。この仕組みを説明する画面の直前に挿入した建物の外観の映像のうち、ベトナムのVIET-SSE社は次の点でこの仕組みに該当せず、編集が不適切でした。VIET-SSE社は新設の会社ではなく10年前に設立されており、日本語学校への授業料等の納付金は、留学生が直接日本語学校に支払うシステムを取っているとのことでした。関係者および視聴者に誤解を与えかねない表現となっていたことをおわびいたします。

出演者

  • 出井康博さん (ジャーナリスト)
  • 市川不二子 (NHK記者)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

急増 ベトナム人犯罪 いったいなぜ?

商品を次々とバッグに入れる大胆な手口。外国人による組織的な犯行です。

今、日本で国別の犯罪検挙件数が最も多いのが、ベトナム。中国を上回っています。実は、検挙されたベトナム人のおよそ半数が、日本語学校などに通う留学生です。

服役中のベトナム人元留学生
「とても後悔しています。もう取り返しがつきません。」

一体、何が起きているのか?
取材から見えてきたのは、多額の借金返済のために限界を超えて働く、ベトナム人留学生の姿。そして中には、教育よりも利益を優先する悪質な日本語学校も…。

「一番優先しないといけないのは学費。留学生はビジネスを支える一番大事な源。」

犯罪急増の裏側にある、ベトナム人留学生の知られざる現実に迫ります。

田中:去年(2016年)万引きなどの犯罪で検挙されたベトナム人留学生は1,208人。これは、5年前の8倍以上に上っています。背景には、留学生そのものの数が急増している実態があります。アルバイトをしながら日本語学校などに通うベトナム人留学生の数は、この5年でおよそ28倍の7万5,000人。外国人留学生の中で最多です。経済成長が進む中国からの留学生を抜き、去年初めてトップになりました。

まずは、ベトナム人留学生が急増している現場を取材しました。

え、こんなに! 急増 ベトナム人留学生

神戸市にある日本語学校です。およそ140人が通っています。

この2、3年で受け入れる留学生は大きく様変わりしました。

日本語学校 理事長 西崎悦子さん
「第1期生です。ほとんど中国人です。(今は)もう中国人はいません。」

今、学生の99%はベトナム人。授業をのぞくと、居眠りする学生の姿が見られました。

日本語学校 職員
「11番ですね。」

日本語学校 職員
「わかりました。」

休んだ学生には、職員が必ず連絡します。

日本語学校 職員
「たぶん寝坊だと思います。」

授業が終わった午後6時。学校の近くの駅に、次々とバスが集まってきました。

「どちらに行かれますか?」

ベトナム人留学生
「仕事です。」

「アルバイト?」

ベトナム人留学生
「そうです。バスに乗って行きます。眠い。」

留学生によると、仲間の多くは夜間のアルバイトをしているといいます。この学校には、今、倉庫の仕分けや食品加工などの求人が殺到しています。法律で、週28時間までアルバイトが認められている留学生。人手不足に悩む現場を支えているのです。

日本語学校 理事長 西崎悦子さん
「店長とか社長が『人が不足しています』と。(留学生を)雇いたいというお店もいっぱい出てきて、直接学校に来られる。」

東京・江戸川区にある、ドライアイスの加工工場です。

今年(2017年)ベトナム人留学生を、初めてアルバイトとして採用しました。国内で働くベトナム人留学生はおよそ7万人。日本にとって欠かせない労働力になっています。

現場責任者 伊藤勇人さん
「募集をかけても日本人のアルバイトは来ない。(留学生は)うちの戦力として、頑張ってもらっている。本当に助かっている。」

日本の労働現場で欠かせない存在になっている、ベトナム人留学生。しかしなぜ、一部留学生は犯罪に手を染めてしまうのでしょうか。

ベトナム人犯罪 急増の裏側 追いつめられる留学生

刑務所に服役している、20代のベトナム人の元留学生。去年12月、スーパーで化粧品など196点を万引き。執行猶予の期間中に再び万引きし、1年6か月の実刑判決を受けました。犯罪に手を染めたきっかけは、2年前、日本語学校への留学のために、ベトナムで作った多額の借金だったといいます。

服役中のベトナム人元留学生
「ベトナムの業者に155万円を支払いました。(そのため)銀行と家族の友達からお金を借りました。」

今、ベトナムで何が起きているのか。ここ数年、日本への留学ブームが過熱。留学生は、毎年およそ1万人ずつ増加しています。日本語を身につければ、高収入の仕事に就けると考えられています。
それに伴って乱立しているのが、留学あっせん業者。取材を進めると、ある仕組みが浮かび上がってきました。
あっせん業者は、提携先の日本語学校を留学生に紹介。留学生から1年分の授業料や書類作成費、手数料など100万円を超える現金を受け取ります。平均月収が2万円程度のベトナムでは大金。多くの人が借金をして支払います。業者は、日本語学校に授業料などを送金し、留学生を送り出します。そして、1人当たり10万円ほどの紹介料まで受け取るのです。
ハノイ市で留学のあっせんに関わっていた業者です。多額の利益を目当てに留学生の激しい奪い合いが起きているといいます。

元留学あっせん業者
「誰もが留学をあっせんできるので、この業界は競争が激しいです。客をつかまえるためには何でもやります。」

業者は、留学生を掘り起こすため、貧しい農村部にまで進出。中には、日本の実情を知らない若者を言葉巧みに勧誘する業者もいます。

声:若者を勧誘する業者
「私の姪(めい)は、日本の地方都市で一年働いただけで借金をすべて返しました。現在は両親に家を建ててあげています。」

服役中の元留学生も、大金を稼げるという言葉を信じて、日本への留学を決めました。

服役中のベトナム人元留学生
「頑張れば、月25〜30万円は稼げると聞きました。」

しかし、日本で待っていたのは過酷な現実でした。広さ20畳ほどの部屋に15人で生活。借金に加えて、家賃や2年目の学費も重くのしかかり、夜通し働かざるを得なかったといいます。

服役中のベトナム人元留学生
「弁当工場と野菜工場、ラーメン工場で働きました。夜7時から朝7時まで仕事。学校は朝9時から勉強。でも時々工場が忙しいと、帰りたいと言っても『ダメ、仕事が終わってない』だから帰れない。学校の勉強もできない。でも、しかたがない。今はお金がない。」

親に相談しても、逆に「借金を返すお金を送ってくれないか」とせがまれ、次第に追い込まれていきました。そして、日本にいるベトナム人から、高い金利で新たに借金。返済が滞ると、万引きをするよう脅されたというのです。

服役中のベトナム人元留学生
「『明日までに金を返せなければ、親に危害を加える』と脅されました。その後、彼らは品物の写真を送ってきました。『この品物をスーパーマーケットで盗んでこい』と言うのです。」

元留学生は指示に従い、万引き。その場で逮捕されました。

服役中のベトナム人元留学生
「そのとき私は理性を失っていました。とても後悔しています。今となっては取り返しがつきません。」

ベトナム人犯罪 急増の裏側 追いつめられる留学生

ゲスト 出井康博さん(ジャーナリスト)

長年、外国人労働者の問題を取材してきた出井さん。
もちろん、ほとんどの留学生が犯罪とは無縁だと思うが、犯罪に至らなくても、こうして留学生が追いつめられるケースは多い?

出井さん:多いですね。多くの留学生が、今ビデオで紹介されたような状況に置かれています。まず、多額の借金を背負って日本に来る、しかも次の年の学費を稼ぐために、また仕事に明け暮れると、もうこれは国際社会から見れば、人身売買と言われてもしかたのないような制度が今、起きているというふうに言えるんじゃないでしょうか。
(そういった厳しい状況に置かれて、犯罪に巻き込まれてしまう?)
そうですね。

労働時間の制限がある、そしてまた現実は厳しいということも現地では知られているとは思うが、なぜ借金をしてまで日本に来ようという若者が増えている?

出井さん:これは単純に出稼ぎということですね。ベトナムの場合、なかなか出稼ぎ先っていうのは限られているわけですけれども、その中で条件がいいのは日本だと。日本には技能実習生として行くパターン、もしくは留学生ということなんですが、実習生の場合、仕事が変われない。しかも上限があって3年まで、もしくは5年までしか働けないという条件がある。一方で留学生の場合は、日本語学校から大学に進学すると、結構長い期間いれますので、そういう理由によって、実習生ではなく、留学生として出稼ぎにやって来る若者が増えているという状態です。

田中:日本にやって来る留学生の増加を後押ししているのが、9年前、日本政府が打ち出した「留学生30万人計画」です。世界から優秀な人材を集めるため、在留資格の要件を緩和するなどして、2020年までに留学生を30万人にまで増やす計画です。それに伴って、留学生の受け入れ先となる日本語学校も急増しています。その数は全国で643校に上り、過去最高を更新しています。しかし、この日本語学校の経営者が摘発される事件も相次いで起きているんです。栃木では、学校の理事長が別に経営する人材派遣会社を通じて、留学生にアルバイトをあっせん。違法な長時間労働をさせた上で、あっせん先の企業から多額の手数料を受け取っていました。一体なぜ、悪質な日本語学校が増えているのか。実態を取材しました。

“悪質”日本語学校の闇 追いつめられる留学生

日本語学校で職員として働くベトナム人から内情を聞くことができました。一部の学校では、教育よりも利益を優先する風潮が広がっているといいます。

日本語学校で働くベトナム人
「学校の立場から見ると、一番優先しないといけないのは学費。だから学費を払えば(授業中)寝ても大丈夫。」

留学生として来日するためには、学費の支払い能力などを証明する書類を提出し、入国管理局の審査を受ける必要があります。しかし、そうした書類も、金を払えば簡単に偽造できるといいます。

日本語学校で働くベトナム人
「ほとんど80パーセント、ねつ造です。ベトナムでは、お金を払ったら、どんな書類でも、ねつ造できる。偽造業者に作ってもらった(と聞いた)。」

「あなたの学校は(偽造に)気づかない?」

日本語学校で働くベトナム人
「気づいています。ベトナムのこの地域では、この収入はありえないと、すぐにわかる。でも学生がほしいから(黙認する)。留学生はビジネスを支える一番大事な源。」

多額の借金を背負わせるベトナムのあっせん業者。それを承知で受け入れる一部の日本語学校。そのはざまで、留学生は追いつめられています。
去年、日本語学校に入学した男性です。

125万円の借金を返すため、生活費を切り詰めています。狭いアパートで3人暮らし。週28時間の上限を超えてアルバイトをせざるを得ないといいます。

「週28時間の制限は知っていますか?」

ベトナム人留学生
「生活費のために28時間だけ働くつもりでした。しかし全然足りなかった。自分で稼ぐしかないのです。」

急増する日本語学校 教育より労働者集め?

市川不二子(NHK記者)

田中:NHKが調べたところ、日本語学校全体のおよそ3割、200校以上がこの5年間に新設されたことが分かりました。

取材に当たった市川記者。
日本語学校急増の裏には、どんな実態があるんでしょうか?

市川記者:新設された日本語学校を調べたところ、建設業者や人材派遣業者、それに介護事業者といった業種からの参入が相次いでいることが分かりました。ある日本語学校の校長は、「学校を経営する介護事業の会社の労働力として活用するために開校した」と話していました。取材からは、日本語学校をいわば労働力の受け皿として利用しようという動きが、一部で広がっている実態が見えてきました。

田中:こういった状況を国はどう見ているんでしょうか?

市川記者:授業時間や教員の数などの基準を満たしていれば、ほかの業種から参入しても問題はないとしています。しかし法務省は、留学生が法律の上限を超えて、長時間働くことがないよう、学校側に周知の徹底を求めるなど、対策を進めています。また、借金返済のために上限を超えるアルバイトをしなくても、授業料が支払えるのかどうか、留学生が提出する書類の審査を厳格化しているんです。ただ、留学生が急増する中で、海外で作成された全ての書類をチェックするのは難しく、実体がつかみにくいのが実情なんです。

書類の偽造について取材されたそうだが、実態は?

出井さん:この書類の中には、留学生が銀行の預金残高だとか、親の年収の証明書も出さなければいけないという決まりがあるんですけれども、私が取材を通じて入手したものを見ると、ほとんど数字が同じなんですね。
(いろんな留学生の数字が同じ?)
しかも、普通に考えて、ありえないほどの金額が書いてあるわけですね。

それをなぜ見抜けない?

出井さん:それは、偽造とはいえないんですね。というのは、銀行の証明書であれ、また向こうの行政機関が出した証明書であれ、本物のはんこが押してあるんですよね。結局、賄賂を払えば、そういった書類が簡単に作れてしまうと、それに対して日本の側も、なかなかそれが偽物だとは言えない。本物なわけなので、偽物だと言えないということですね。

国は、労働時間の制限があることを周知するという対策を打ち出しているが、こういった対策は十分だと言える?

出井さん:いえ。それは、もう今、来ている留学生たち、これはベトナムに限らずなんですけれども、28時間しか働けないということを分かってきています。分かっているんだけれども、それだけじゃ借金を返せないということで、その上限を超えて働いてしまうというのが現状だと思います。

国は、その労働時間の制限に関して、新しい対策の検討も進めている?

出井さん:この28時間という制限を延ばして、35時間、また40時間に増やしていこうという議論も一部あるわけですけれども、これは、私は本末転倒も著しいことだと思います。結局、日本人が嫌がる仕事にベトナム人を使いたいということなんですが、そうじゃない、根本のところを改めるべきだと思います。

国の対策が後手に回る中で、日本で苦しむベトナムの若者たちに手を差し伸べようという取り組みも民間で始まっています。

急増 ベトナム人留学生 孤立と犯罪を防ぐ

福島県郡山市。ここで、ベトナム人留学生などの支援のため、NPO法人を立ち上げた人がいます。岡部文吾さん。本名は、ファム・ニャット・ブン。

8歳のときに、難民として日本へやって来たベトナム人です。

岡部文吾さん
「ここを、彼らを保護するシェルターとして使う予定です。」

岡部さんは今、古い空き家を借りて、困窮する留学生などが一時的に避難できる施設を作ろうとしています。誰にも相談できず、孤立していく若者たちが犯罪に走るのを食い止めようというのです。

岡部文吾さん
「『誰か助けてください』って言ったときに、誰が助けてくれるんですか?いないんですよ、本当に。悪いことしたらダメです。でもやっぱり耐えられなくて、そういう道に走る子も実際はいます。そういう子を、ただ非難するのではなく、どうしたら救えるか。」

この日訪れたのは、まもなく帰国する若者たちの送別会。

日本での生活の実情を聞くためです。夢を抱いてやって来た若者たちの心に、日本への失望が刻まれることを、岡部さんは危惧しています。

帰国するベトナム人
「大変なことがけっこうあったんですよね。みんな帰りたいんですよ。だけど、帰れなかったんですよね。」

岡部文吾さん
「自分が今まで受けた苦しみとか、同じ経験をしてほしくない。日本を嫌いになってほしくない。」

急増 ベトナム人留学生 孤立と犯罪を防ぐ

留学生たちのセーフティーネットを作ろうという、こうした取り組みをどう見た?

出井さん:非常に貴重な取り組みだと思います。というのは、とりわけ留学生に関しては、なかなかこういう助けてくれる組織はないというのがあります。私自身、取材して感じるんですけれども、日本で暮らしていくうちに、日本のことを嫌いになっていく留学生、また外国人労働者にたくさん出会ってきました。その意味でも貴重な取り組みだと思います。

日本で働く外国人は、私たちの暮らしに欠かせない存在になっているが、どう向き合っていえばいい?

出井さん:私たちが、出稼ぎ目的の留学生や外国人労働者に無関心でいることはできるんですね。しかし、無関係ではいられない状況があると思います。もう彼らが私たちの暮らしの最底辺の部分を支えてくれているんだと。そのために、きちんとした制度を作っていくべきじゃないでしょうか。
(どういう制度が必要?)
例えば、お隣の韓国は、雇用許可制というものを作って、労働者としてきちんと受け入れる、国自体が受け入れの枠を決めて、受け入れるという制度を作っています。日本にとっても参考になる取り組みじゃないでしょうか。

この問題の本質は、ベトナム人の留学生が人手不足を補う労働力となっている実態だと思います。外国人労働者とどう向き合うのか。現実を直視した議論が今、必要だと思います。