クローズアップ現代

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2017年11月14日(火)
「全員、正社員にします」 脱・非正規のチャンス!?

「全員、正社員にします」 脱・非正規のチャンス!?

パートや契約社員などを“正社員化”する動きが広がっている。育児や介護などの事情を抱える人のために、短時間勤務を導入したり、転勤なしという条件で採用を進めるなど、正社員のあり方も大きく変わりつつある。背景にあるのは、深刻な人手不足だ。今年6月、正社員の有効求人倍率は初めて1倍を突破。中小企業では業績が黒字でも破綻する「人手不足倒産」も相次いでいる。“正社員化”の流れで、今後の雇用事情はどう変わるのか?

出演者

  • 阿部正浩さん (中央大学教授)
  • 谷出正直さん (採用コンサルタント)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

「全員、正社員にします」 脱非正規のチャンス!?

これまで非正規だった人たちに大事件が。大手クレジット会社の決断とは。

「新しい人事制度によって、全て総合職になりました。」

「総合職?」

「正社員です。」

この会社では、パートタイムなどの非正社員をすべて正社員にしたんです。

正社員になった男性
「願ってもなかったことなので、非常にうれしく思います。」

こうした動きは、ほかの企業にも広がっています。正社員化を進めることで、人材を確保するのが主な狙いです。
背景にあるのは、空前の人手不足。有効求人倍率は高度成長期並みに上昇。正社員の倍率も初めて1倍を超えました。

今や企業と労働者の立場は逆転?学生のもとを企業の採用担当者が訪ねる「逆求人」という就活スタイルも出てきました。

学生
「皆さんがこの社長についていこうと?」

採用担当者
「そうです。」

さらに、超売り手市場の中、これまで企業が注目していなかった人材を積極的に採用しようという動きも広がっています。

「これ成人式です。大手・有名な企業に就職できたらいい。」

大きなうねりとなりつつある正社員化の流れ。チャンスは広がるのか、徹底的に探ります。

鎌倉:いまや働く人の4割近くにまで増えている非正規雇用の人たちを正社員化していこうという動き、大手企業を中心に広がっています。例えば、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングでは、およそ1万人。百貨店の高島屋は3,200人。松坂屋などを展開するJ・フロントリテイリングは1,600人。ほかにも日本航空日本生命、スターバックスなど、さまざまな企業が正社員化に踏み切っているんです。

実際に正社員化した企業では何が起こっているのか。パートや契約社員を全て正社員化した企業を取材しました。

「全員、正社員にします」 脱非正規のチャンス!?

パートタイムなど、2,000人以上を正社員にしたクレジットカード会社です。

皆さん、正社員になったことで何が変わったのでしょうか。

パート→正社員
「雇用の期間が無く働ける。不安が減った。」

パート→正社員
「今まで時給制で働いていたので、安定して非常にうれしい。」

正社員になったことで、新たにボーナスが支給されるほか、年金など、福利厚生も充実。昇進、昇格など、キャリアアップの道も開かれました。
これまでパートタイムの事務スタッフだった麻生陽子さんも、このたび正社員になりました。

この日の出勤は、午前9時半。職場では、もう仕事が始まっています。まさか遅刻…?

麻生陽子さん
「実は私、短時間勤務を取っていまして、保育園の時間に合わせて遅く出勤して、皆さんより早く帰れる制度を取っています。」

育児のため、パート時代は働く時間を5時間半に抑えてきた麻生さん。正社員になっても時間はそのまま。さらに、ボーナスも支給され、収入は大幅にアップ。仕事も家庭も、かつてより充実しています。

麻生陽子さん
「正社員になれてうれしい。仕事の内容的には特に変更はなく働いているので、その辺は大丈夫です。」

この会社では、短時間勤務のほか、週休3日制や在宅勤務制度も導入。有給休暇も1時間単位で取れるようにしました。多様で柔軟な働き方ができる正社員像を、新たに作り出したのです。
一方、こうした福利厚生の充実やボーナスの支払いなどで、人件費は年間数億円上がりました。それでも正社員化を進めたのは、ある危機感を感じたからです。去年(2016年)全社員を対象にアンケート調査をしたところ、非正社員の中に不満がくすぶっていることが分かりました。「一定の時期を過ぎると給料も上がらない」。中には、転職をにおわせる記述もありました。国の試算によると、2030年には、労働の核になる世代の人口が500万人以上減少。人材の確保は、ますます難しくなると見られています。この会社では、今いる人材のモチベーションを高め、今後も働き続けてもらうことが不可欠だと考えたのです。

クレディセゾン 戦略人事部長 松本憲太郎さん
「この先は(人材確保が)難しくなる。人手不足、人がいないのを前提に、社員を会社の資産ととらえて、いかに最大化するか。」

「全員、正社員にします」 脱非正規のチャンス!?

ゲスト 阿部正浩さん(中央大学教授)
ゲスト 谷出正直さん(採用コンサルタント)

企業の人材戦略に詳しい、阿部正浩さん。これまで、非正規雇用を増やしてきた企業が、ここに来て、正社員化を推し進めているのは、なぜ?

阿部さん:今、景気がよくなって、企業の採用意欲が高まっています。ただ、企業の多くは今でも新卒を中心とした若年層を採用しようとしています。その結果、労働市場、売手市場になっているわけですけれども、その中で、企業が人手を確保しようとしていくと、正社員で進めて、人手を確保しようという企業が増えているということだろうと思います。
(若年層が減っているということもある?)
もちろん、そうですね。

鎌倉:そういった正社員化を進める企業の多くでは、多様な働き方を実現するために、さまざまな制度を導入しています。例えば、すでに2,100人を正社員化している、家具販売大手のイケア。フルタイムのほかに、2つのパターンの短時間勤務を設け、生活スタイルに合わせて選べるようにしました。それから、総合スーパーなどを展開するイオンリテールでは、地域限定正社員制度を導入。転勤を理由に、正社員になるのをためらっていた人材を採用しようという狙いなんですね。このほかにも、週休3日や在宅勤務の充実など、人材をつなぎ止めるための模索が行われています。

残業も転勤も当たり前という、これまでの正社員の姿から、多様な働き方ができる正社員というふうに変わってきている?

阿部さん:以前は、時間や場所にとらわれず、元気にバリバリ働く、そういった労働者を企業は採用しようとしていましたけれども、先ほど言ったように、なかなか人が採用できなくなっている。そういった人たちが採用できなくなってきて、時間や場所に制約があっても、働いてもらいたいっていう会社が増えていると。ただ、その結果、短時間勤務の人たちが増えて、シフトをどういうふうに組んでいくかとか、あるいは転勤ができない人たちを、どう配置転換していくか、そういった労務コストが増えています。ただ、それでも、そういった多様な人材を雇っていかないと、人手を確保できないという企業が増えてきて、多様な人材を活用しようというふうにしているんだろうと思います。

採用コンサルタントの谷出正直さん。
正社員化の動きは、どのぐらい広がっている?

谷出さん:全体的に広がってはいるんですけども、2つに分かれていまして、動きがあまりない業界というのが、銀行ですとか、マスコミとか、メーカーとか、いわゆる採用がしやすい業界というのは動きが少なくて、反対に、人手不足が続いている業界ですね。流通業ですとか、サービス業とか、小売り業、そういったところは、もともとやっぱり採用がしにくい、離職率が高いというところがありますので、正社員にして囲い込んでいこうと、そういう動きがありますね。

若干の温度差はあるということですね。正社員になると、さまざまなメリットがある一方で、これまでにはない責任も生じます。新たに正社員になった人の中には、戸惑いを感じるケースもあるようです。

「全員、正社員にします」 脱非正規のチャンス!?

クレジットカード会社に勤める、川島千枝さんです。

パートタイムから正社員になりました。これまでの担当は、顧客向けのダイレクトメールの校正。キャンペーン情報などが記された文章をチェックしてきました。

川島千枝さん
「足りない文章はないか、説明文が足りなくないか。PC会員のお客様に対するメールは、全て英数字を半角にして統一させて配信するので直す。」

正社員になった今、メールの校正に加え、新たな業務も担当してほしいと、上司から打診されています。それは、ダイレクトメールがどれだけの効果を生んだのか、顧客の反応を検証し、分析する仕事です。上司は、正社員になったことを機に、より難易度の高い仕事も任せたいと考えていました。

川島さんの上司 吉田学さん
「一からの勉強になるんで大変だと思うけど。」

川島千枝さん
「家庭のことも大事にしたいと思っているので。」

2つの仕事をきちんとこなしていけるのか。残業が増えるのではないか。川島さんは、なかなか自信を持てずにいました。

川島千枝さん
「正社員に上がるからには、より高いレベルのことが求められる。業務の幅も広がっていくと不安。」

どうすれば川島さんのような人たちが抱える不安を解消できるのか。管理職などが集まり、話し合いが行われました。

「面談というか、日々確認を毎週でもやらないといけない。」

川島さんの上司 吉田学さん
「個々のライフステージで担える役割を、変化に、多様性に企業側が対応する。」

一人ひとりの事情に配慮しつつ、仕事のキャリアアップも支援する。両立への模索は始まったばかりです。

川島さんの上司 吉田学さん
「活躍もしてほしいし、プラス先にも行ってほしい。でもそれで押し潰されないようにするというのが、現場でちゃんとやっていかなきゃいけない。」

「全員、正社員にします」 脱非正規のチャンス!?

業務が変わったり、責任が重くなる。正社員になるということは、そういうことでもあるが?

谷出さん:やはり、もともと企業の期待として、アルバイトやパートというのは、時間、1時間当たりいくらで作業をやってもらうという期待を持っていましたけど、やはり正社員となると、仕事への成果ですとか、生産性というところを求めますので、それに見合う働き方をしてほしいというところが、こういう動きになっているんじゃないかなと思いますね。

だとすると、企業の側も、正社員になる人をサポートしないといけない?

谷出さん:正社員にしますよということだけで変わるかといったら、やはり変わらないので、やはりそこに対する教育ですとか、上司のマネージメントというのは、当然必要になってくると思いますね。

鎌倉:何とか正社員としてつなぎ止めたい。その背景には、こんな驚くべき事態もあるんですね。「人手不足倒産」。どういうことか。例えば、業績が好調で店舗を増やしても、人手が確保できないために、営業ができずに行き詰まって倒産するようなケース、実は年々増えているんです。人手不足倒産の件数は、特に今年(2017年)に入って、大きく増加。4年前のおよそ3倍になっています。

こうした中、企業が熱い視線を送っているのが、こんな人たちです。

「正社員にします」 “元ヤンキー”も

都内の雑居ビルで、ある若者たちを対象に、企業で働くための研修が行われていました。集まっていたのは、いずれも地方出身の就職希望者。

中学や高校を卒業後、地元で働いたり、フリーターをしたりしていたといいます。半年間、泊まり込みで行う、この研修。その名も「ヤンキーインターン」。中には、本当にやんちゃをしていた人も。

「一年半前はこれだったのに、今はこれ。暴走族でバイクに乗ったり、“おとしまえ”だろとか。」

山口県からやって来た、坂元涼さんです。

坂元涼さん
「これ成人式です。」

定時制高校を卒業した後、建設会社に就職。しかし、労働環境と賃金に不満があり、3年で退職したといいます。

坂元涼さん
「(地元では)手取りで12万円とか、1か月休みないとかも普通にありました。それが自分が今までしてきたことなので、しょうがないと思っている自分もいたんで、けどそれじゃ納得いかなかった。自分の人生変えようと思って。」

ヤンキーインターンの参加者には、意欲が高く、肝が据わった若者が多いといいます。

ハッシャダイ 取締役 橋本茂人さん
「彼らは本当にポテンシャルを秘めていて、多くの企業の力を借りて、(就職先を)広げていきたい。」

このヤンキーインターンで特に力を入れているのが、営業研修です。多くの企業で営業人材が不足しているからです。

「こんにちは。お忙しいところすみません。名刺のほうお渡ししますので、ご検討してください。」

最近は、研修生に向けて、採用説明会を開かせてほしいという企業からの申し込みが相次いでいます。

IT企業 経営者
「気持ちをくむということを得意とした営業の方を探しています。」

この日もIT系の中小企業の社長が、会社の説明にやって来ました。

「質問ある方お願いします。」

「どういった志を持って行動につなげているのか。」

研修に参加し、さらに意欲を上げる若者たち。この1年間で100人近くが採用されています。

IT企業 経営者
「地頭のいいガッツのある方がいたらハッピーだと思って。私もこんなに質問いただくことは普段ないですから、逆にびっくりしました。」

「正社員にします」 “既卒・第二新卒”も

さらに、これまで敬遠されがちだったほかの人材にも注目が集まっています。大学卒業後、すぐに仕事を辞めた第二新卒や、仕事に就けなかった既卒の若者です。常に1,200の企業から求人があるという、こちらの人材紹介会社。

若者たち一人ひとりとじっくりと面接し、どんな仕事が向いているか、適性を見極めます。

利用者
「こういう考え方、こういう気持ちで臨んだほうがいいとすごい教えてくれる。自分にもっとスキルつくと思えるようになった。」

こうした取り組みの結果、次々と就職が決まり、定着率も9割を超えるといいます。1年前に千葉の建設会社を紹介され、就職を決めた小寺克儀さんです。

担当業務は、送電や通信のための鉄塔の設計。大学の専門とは、全く違う分野です。

「順調にいけてますか?」

小寺克儀さん
「とてもとても。覚えることが日々多いので。」

設計部長
「この業界(育つのに)結構時間がかかるんですけれど、それよりはペース早く来ている。いいと思います。」

大学卒業後、一度は就職したものの、過労で倒れ、半年余りで退職したといいます。その後は、なかなか仕事が決まらず、気持ちが落ち込んでいました。再び正社員として働くことを諦めかけていましたが…。

小寺克儀さん
「(面接で)『来なさい』と話をいただいた。その時はうれしくて。こんな条件で正社員として採用していただけるのが、本当に驚きでした。」

この会社の社長、平岡和博さんです。

小寺さんのような人材に対して、以前はマイナスの先入観がありましたが、採用してみて考えを改めました。

那須エンジニアリング 社長 平岡和博さん
「周りの人から自分自身は挫折したみたいな、マイナスなイメージで言われている背景もありますけど、逆にそれをバネにして業務に取り組んだ。1人でも2人でも採用すれば、その方々にとっても、会社にとってもプラスになる。」

「全員、正社員にします」 脱非正規のチャンス!?

学歴や新卒一括採用にこだわってきた、これまでの企業の価値観が変わってきている?

谷出さん:2013年度卒の新卒採用から、経団連が、卒業しても3年以内の人は、既卒として新卒採用と一緒に採用してくださいねというのを指針として出したんですね。そこから、だんだん年齢に対する感覚が、企業としても受け入れられるようになってきまして、ここに今、人手不足、売手市場というところがつながり、より既卒であったり、第二新卒であったりというところも、企業としても採用するという動きになってきました。

いわゆる第二新卒の方のように、離職経験がある方は、その後、定着していける?

谷出さん:やはり、そこが一番不安で、また辞めてしまうんじゃないかというふうに、企業さんも思いがちなんですけど、やはり一度失敗したという経験ですとか、やっぱりその経験をバネにして、次は成功させるぞという、経験値というところを買って、第二新卒に期待しているという感じですね。

鎌倉:さまざまな人材を正社員に登用していく流れがある一方で、業種によっては、まだまだ非正規雇用によって事業が支えられているという現実もあります。5年前の法改正で、契約社員などの非正規で5年勤めると、無期雇用の権利を得られるというルール、これに該当する人たちが、来年(2018年)4月から出てきます。正社員化を推し進めると期待する声もあるんですが、製造業の一部などでは、期限が迫ったパートや契約社員を一度雇い止めにして、半年間の空白期間を挟んで、再び、有期雇用、つまり非正規の形で雇い直すという実態があることが分かり、国も調査に乗り出しています。

非正規として固定化されている人たちもいて、また正社員になれなかった40歳前後の就職氷河期世代の人たちもいる。こういった人たちも、再チャレンジできる?

阿部さん:以前なら、経験がないというだけで門前払いしていたケースでも、人材を個別に見て採用しようという企業も増えていると思います。ただ、先ほど、正社員になると責任が重たくなるという話がありましたけれども、その責任を受け入れられるかどうか、労働者側としては結構、重要なポイントになるかなと。実際のところ、責任が重たいので非正規のままでいいやという、そういう人たちもいるのも事実ですし、そういった人たちを活用しようという企業があるのも事実です。

AIの導入で、将来はなくなる仕事も出てくるのではないかという予測もあるが、将来の仕事の在り方は、どうなっていく?

阿部さん:そういうふうに言われていますけれども、労働力人口が減っていきますので、それをAIやロボットが補うということもあるんだろうと思うんですね。ただ、AIやロボットができない仕事があって、それは人手に頼るので、今後も多様な人材を生かして、あの会社に行きたいと思わせるような経営をやっていかないと、人手確保というのはできないのかなというふうには思います。

人材を求める側、職を求める側、それぞれどう考えていけばいい?

谷出さん:やはり企業は人なりということで、採用や雇用というのは今後も続いていきますので、まず企業としては、やはり社員が働きたいと思うような会社を作っていこうと。社員が誇りに思うですとか、生き生き働けるような会社を作ると。求職者、将来の社員も、会社を作る一員として、当事者意識を持って、いい会社を作っていくんだという、そういう思いで取り組んでもらいたいなというふうに思いますね。

正社員になるということは、一緒に会社を作るということでもあるということなんですね。
この正社員化の動き、好景気や人手不足の中で、一時的なもので終わるのか。それとも、これを機会に働く人を大切にして、働き方の選択肢も広がることになっていくのか。今後も目を凝らしていきたいと思います。