クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2017年11月13日(月)
突然あなたも被害者に!? “ネットリンチ”の恐怖

突然あなたも被害者に!? “ネットリンチ”の恐怖

ネットでの炎上をきっかけに、ひぼう中傷のターゲットにされ、失業や廃業、最悪の場合、自殺にまで追い込まれるような“ネットリンチ”の被害が深刻化しています。今回、番組ではネットリンチにつながりかねない炎上ケース、1000件以上を分析。その結果、ターゲットとなっているのは意外な人々であることが明らかに…。また、個人情報特定の恐るべき手口も明らかに。身を守る方法を被害者とともに考えます。

出演者

  • スマイリーキクチさん (タレント)
  • 唐澤貴洋さん (弁護士)
  • 蔵重龍 (NHK記者)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“ネットリンチ”の恐怖 突然あなたも被害者に…

僕は、ある日突然、殺人犯にされた。

タレント スマイリーキクチさん
「僕はウィキペディアにずっと殺人事件の犯人と書かれていた。」

きっかけはネットに書き込まれた、うその投稿。僕が女子高校生を殺し、コンクリート詰めにしたというものだった。その理由は、犯行グループと同じ足立区出身で、年齢も近かったということだけ。
お笑い芸人の仕事も激減。執ような嫌がらせ、「ネットリンチ」は18年たった今も続いている。

スマイリーキクチさん
「殺害予告とかプリントアウトして。
この付箋が全部、殺害予告でした。」

東名高速道路で夫婦が亡くなった事故。実はこの裏にもネットリンチの被害者がいた。名字が同じで住所が近かったという理由で逮捕された、男の父親だとデマを流されたこの男性。自宅や会社に嫌がらせの電話が殺到。一時、休業に追い込まれたという。

容疑者の父親と間違えられた男性
「誰か襲いに来るんじゃないだろうか。
あとは恐怖しかないですよね。」

ネット上の人権侵害はこの10年でおよそ7倍に増加。ネットリンチの末に亡くなった人もいる。

亡くなった男性の友人
「命を落とすようなことでは全くない。」

スマイリーキクチさん
「つらい思いを思い出させてしまって申し訳ない。」

仕事に支障を来している人も大勢いた。

ネットリンチを受けている弁護士
「私は100万回以上、殺害予告をされている。」

裁く権利もない匿名の集団が、無関係の人を悪者扱いし罵倒するネットリンチ。こんなことが許されていいのだろうか。

ゲストスマイリーキクチさん(タレント・ネットリンチ被害者)

ネット上で激しい批判にさらされ、実生活にも支障を来すネットリンチ。今日は、その実態と対策を徹底的に考えていきたいと思います。長年、脅迫を受け続けた経験のあるスマイリーさん、18年たっても続いてるんですか?

スマイリーさん:やはりネットに書き込みはまだ残っているので、今年(2017年)3月も、やはり殺害予告が起きてしまい、出演を取りやめることになってしまったので、今回この放送を見てくださる方が、ネットとのつきあい方、接し方について考えていただけたらと思います。

田中:今回、NHKでは去年(2016年)の6月から先月(10月)までの炎上の事例、1,100件余りを徹底分析しました。さらに、特設サイトで意見や情報を募集。200件以上の情報が寄せられました。そこから見えてきたのは、ネットリンチの恐怖の実態です。まず最初はこちら、「多くの一般の人がターゲットにされている」。これまで政治家や芸能人など有名人が多いと思われていましたが、そうではなかったんです。先月、突然ネットリンチの被害に遭ったのも、全く非難されるいわれのない40代男性でした。

“ネットリンチ”の恐怖 突然あなたも被害者に…

福岡県で建設会社を経営する、石橋秀文さんです。先月半ば、突然会社に電話が殺到するようになりました。

石橋秀文さん
「夜中の2時とか3時とか4時にも着信がある状態で、だいたい(1日に)100件を超える電話がかかってきている状態。」

その前日、東名高速で夫婦が亡くなった事故で逮捕された容疑者。名字が同じで、たまたま住所が近かった石橋さんがその父親だというデマが、インターネット上に流れたのです。慌てて検索すると、デマはツイッター・掲示板など、すでに多くのサイトに拡散していました。

石橋秀文さん
「(電話に対して)うちの身内でもないという話をするんですけど、『うそをつくな』『とぼけるな』の一点張り。『極道なめんな』とか『若いもん連れて行く』とかいう電話もあった。」

恐怖を感じた石橋さんは、会社を一時休業せざるをえませんでした。デマが拡散したきっかけの1つが、「まとめサイト」です。容疑者逮捕の翌日に公開されました。ツイッターや掲示板の情報から、容疑者の父親が石橋さんではないかと報じています。さらに、住所や電話番号、会社の地図まで掲載されてしまっていました。

本当にひどいデマだと思うが、このまとめサイトは今回の責任をどう考えている?

蔵重龍デスク(NHKネット炎上分析チーム):私たちもこのまとめサイトに取材を試みたんですけれども、すでにサイトが閉鎖されていて、コンタクトを取ることができませんでした。
こうしたまとめサイトなんですが、もともと「まとめブログ」などとも呼ばれていて、個人や、比較的、少人数が運営していることが多いんですけれども、中には不確かな情報やデマを広げていると指摘され、これまでも問題視されてきたんですね。そうしたデマを拡散するリスクについて、別のまとめサイトを取材しました。

“ネットリンチ”の恐怖 デマはこうして広がった

月間のページビューが億単位に上るというまとめサイト。一方で、問題があるという指摘も受けています。都内のマンションにあるオフィスを訪ねました。
管理人はゲームブロガーをしていたといいます。10人ほどのスタッフを雇い、ゲームからニュースまで、1日30~40本の記事を掲載しています。サイトの収入源は広告。アクセスが増えるほど多くの収入が得られ、現在は月間700万円近くに上るとしています。
記事を書く際にまずのぞくのは、ツイッターのトレンド・ランキングです。

まとめサイト 管理人 Jin115さん
「今、日本ではやっているもの、各地ではやっているものとかある。それを見てニュースを探している状態です。
aiboとかですかね、はやっているんで。」

この日、目を付けたのは、大手電機メーカーが犬型ロボットを発売するという話題。テーマを決めたら、ニュースサイトやツイッターなどから関連する記事やつぶやきを探して貼り付けます。次に、テーマに対するネットの反応を同じくツイッターなどから集め、貼り付けます。サイトとしてのコメントを書き込めば完成だといいます。直接の取材をすることはありません。1つのまとめの記事は、早いもので5分、長くても1時間程度で完成するといいます。

Jin115さん
「本当かどうかを確認して、おそらく問題ないだろうと。」

「今、問題ないと判断されたのは、何を見て?」

Jin115さん
「ヤフーニュースに出ているのと、そのほかにもいろんなサイトがaiboを取り上げている。日経新聞だとか。なので、たぶん問題ないでしょうと。」

間違った情報を載せ拡散させてしまう危険性はないのか、問いただしました。

Jin115さん
「話題だけが先行しちゃって、うそニュースが流れたりもする。そういうのにはだまされないように気をつけている。過去数回、間違えちゃったこともある。ちゃんとおわびをして訂正をしている。ネットで話題になったことは基本的に取り上げているので、明らかなうそでない限りは取り上げちゃうこともある。」

“ネットリンチ”の恐怖 突然あなたも被害者に…

ゲスト唐澤貴洋さん(弁護士・ネットリンチ被害者)

蔵重デスク:このまとめサイト、「過去に何度か間違った情報を載せたことはあった」としています。こうしたまとめサイトは、そもそも無断で記事を転載しているということで、法律的には問題点もあるというふうに指摘されているんです。

唐澤さんは、依頼人に対するひぼう中傷の書き込みを削除するように、あるネット掲示板に依頼したことがきっかけで、親族のお墓にスプレーをかけられたり、職場にカッターナイフを送りつけられるなどの嫌がらせが5年間も続いたということなんですね。今でも毎日のように殺害予告が書き込まれているということですが、一般の人の情報がこうしてさらされてしまう、こういった実態というのは頻繁に起きているんですか?

唐澤さん:
これについては、事件や事故が起こると、常にその事件関係者のまとめサイトが作られています。この中では、一般の人で全く関係のない人についての情報がまとめられて、事件関係者と誤認されている事態が生じています。これは一般の人でも常にある危険性、標的にされる危険性があるというところです。

誰もが被害者になりうる?

スマイリーさん:それはありますね。やはり何か気に食わないっていうだけで、じゃあネットにさらしてやるとか、例えばそれを車だったり、違法で駐車してたら、勝手に写真を載せて、SNSで「違法駐車だ」とさらすこともあったりとか、全く関係ない人でも、違法駐車だって言われてさらされたり、痴漢のえん罪にもされるので、本当にいつ被害に遭うかは、これは分からないですね。

なぜ、例えば殺害予告などのこうした卑劣な行為を行ってしまうのか、実は唐澤さんに対する加害者の1人に話を聞くことができました。

唐澤さんへのネットリンチに加担したことのある男性です。

ネットリンチに加担した男性
「殺害予告をすることで盛り上がったりしているところがありました。誰かと一緒になって盛り上がれる一体感というのが、その時、社会では得られなかったものだった。ネットだと、ネットリンチによって得られるものがあって。」

男性はこのネットリンチに関係して、検挙されました。

ネットリンチに加担した男性
「今になって思うのは、自分たちは悪いことをしているとは思っていなくて、異常だったと思います。」

こうした人たちによるデマやひぼう中傷への対策、どうすればよい?

唐澤さん:これについては、大きく3つの方法があります。

まず1つ目ですが、これは常に有効な方法ではありませんけれども、「ネットリンチに遭った自分のアカウントをすぐに閉鎖する」。これはなぜかといいますと、ネットリンチでは、常にネットリンチのネタを探しているところがありますので、アカウント上に載っている情報が、さらなるネットリンチを呼びかねないというところで、アカウントを閉鎖するというのが考えられます。
続いて、「削除依頼をする」。これはネットリンチの規模にもよるんですけれども、小規模のネットリンチでは、記事を削除してもらうようにサイト管理者に請求することも有効です。
続いて3番目、「告訴する」。これは、その書き込みの内容にもよりますが、違法性が強い場合は、逮捕も含めた厳格な警察の対応が現実的に行われています。

スマイリーさんは、実際に警察に訴えた経験もある?

スマイリーさん:はい。まず、冷静になる気持ちで証拠を集める。嫌がらせの電話などは必ず録音して、そして警察に行く前にネットの捜査ができる刑事さんがいるか事前に尋ねて、日時を決めて警察に行くほうが、捜査してくださる可能性は高いですね。

田中:このネットリンチの分析から見えてきた恐怖。2つ目は「個人情報が簡単に特定され、さらされてしまう」という点です。かつて、特定を行ったことがあるという人物を取材。すると、個人情報を特定されやすいSNSの落とし穴が見えてきました。

個人情報が瞬く間に…

過去に数十件の個人情報を特定したことがあるという、20代の男性です。

かつて個人情報を特定していた男性
「(攻撃するかどうかは)自分が思う道徳に反するかどうか。(個人情報を)さらすのは明確に攻撃なので、攻撃してもいい理由がある人(がターゲット)って感じ。」

番組が用意したアカウントで、個人情報をどのように特定したのか聞きました。このアカウントはいわゆる「カギつき」。友人以外は見ることができない設定で、個人情報は表に出ていません。

かつて個人情報を特定していた男性
「このアカウントは直接見られないので、ここにリプライを送っている、リプライ検索をします。」

アカウント名のあとに、あることばを入れて、名前を実名で呼びかけている友だちを探すといいます。

かつて個人情報を特定していた男性
「呼びかけていればヒットするはずなので。検索すると『○○君』と呼びかけてるので、これで名前が分かる。」

本人がアカウントを非公開にしている場合、友人も非公開にしていると、第三者がそのやり取りを見ることはできません。ところが、公開にしている友人が送ったツイートはオープンになってしまいます。この仕組みを使ったものです。

名前の特定まで2分。そのほか誕生日、出身校も次々特定。一切特別なツールは使っていません。

かつて個人情報を特定していた男性
「15分ぐらいで分かっちゃうと、手ごたえがなかった感じ。電車に乗っている時とかに暇つぶしに調べたり。パズルが解けたみたいな感じで快感。楽しい感じです。」

罪悪感はなかったのか、問いただすと…。

「自分が特定した人がネットリンチに遭う可能性はあるわけですよね?」

かつて個人情報を特定していた男性
「そうなり得る可能性はあるので、そうなってもいいと思う人しか特定しない。」

田中:男性は取材に対し、「一度情報をネット上にさらしてしまうと元に戻すのは難しいので、基本的にはやるべきではない」と話し、現在はそうした行為を行っていないとしています。

個人情報を特定してさらすという行為は、罪に問えない?

唐澤さん:これについては、住所や電話番号を特定したうえでインターネット上に投稿する行為、これは今のところ刑事責任を問うのは難しいとされています。しかし今、民事上は違法です。しかし、民事上は違法とはいっても、民事責任を問うためには裁判等の法的手続きを取らなければいけないため、被害者にとっては大変な負担となっています。

そもそも誰が投稿したのかを突き止めることは可能?

唐澤さん:法的には、発信者を特定することは可能とされています。しかし、この法律の運用において、実際に裁判を起こさなければ発信者が特定できなかったり、技術的に発信者が特定できないというケースが存在しています。こういった問題に対応していくためには、プロバイダーにおいて自主的に発信者情報を裁判で開示するといったことや、通信ログ・記録の保存形式や保存期間を、規制という形で、しっかりした形で保存しなさいと、被害者救済の観点からの法律が作られていくべきだと考えています。

深刻化するこのネットリンチの被害ですが、中には命を失う事態も起きているんですよね。

スマイリーさん:私が取材してきました。

仕事・命まで奪われて

スマイリーさんがこの日訪れたのは、ネットリンチの末に命を落としたという、ある男性の地元です。「公共サービスへの不満から、料金を支払わなかった」とブログにつづった男性が世間からの大バッシングを受け失踪。その後、遺体で発見されました。

亡くなった男性の友人
「命を落とすようなことでは全くない。時間が全て解決してくれると私は思っていました。」

スマイリーキクチさん
「つらい思いを思い出させてしまって申し訳ない。」

こうした声を聞いて、どう感じた?

スマイリーさん:最初、ネットのバッシングで始まり、次に自宅や職場に脅迫の電話など手紙が相当な数で来たそうです。次にメディアが追いかけ回し、謝罪をしたんですが、どうしても許せないという人たちが本当に追い詰めて、最後、衰弱されてしまいました。本当にことばは人を殺すんだなというのを痛感させられました。

番組にメッセージも来ています。

蔵重デスク:ここで投稿をいくつか紹介したいと思います。
まず、ネットリンチの被害を受けたとおっしゃる方です。

30代女性
“住所や本名を特定され、外出先で盗撮もされました。引っ越しを余儀なくされ、移動はすべてタクシーです。”

一方で、ネットリンチに加担してしまったという方からの投稿も来ています。

30代女性
“あるツイートに無意識に『いいね』した。そのツイートには批判的な内容も含まれており、自分が知らぬ間に加担者になっていた。”

田中:私たちが行ったネットリンチの分析から見えてきた実態。3つ目は、「加害者は“ゆがんだ正義感”から暴走している」という点です。

“ゆがんだ正義” ネットリンチ加担の理由

訪ねたのは、ネットリンチの加害者について研究している山口真一さん。

蔵重デスク
「よっぽどひどいことをしてしまう場合も当然あると思うんですけれども、そうではなくて、ちょっとした子どものいたずらみたいなものでも、ものすごく炎上してバッシングされるケースがあった。」

国際大学 講師 山口真一さん
「この1億総発信時代、インターネットのみんなに発信できるようになった結果、一部のものすごく正義感を振りかざす人が強いバッシングを与えてしまう。」

例えば、2年前のオリンピックエンブレム問題。渦中に立たされたデザイナーのバッシングでは、「多くの人が書き込んでいるから私も」という「便乗型」や、「書き込みが楽しい」という動機を抑え、「間違ったことが許せない」とする「正義感型」が6割以上に及んだことが明らかになったといいます。

国際大学 講師 山口真一さん
「ネットリンチでは、あたかもみんなが裁判官。自分たち一人一人の正義の軸ですごくバッシングを与えて、相手が悪いんだったら何でもしていい。いろんな考えを持っている人が、自分の軸で裁いているのが今のインターネットの現状といえます。」

“ネットリンチ”の恐怖 身を守るには?

ゆがんだ正義感の暴走、これをどう食い止めればよい?

スマイリーさん:僕はやられた側の意見で言うと、これは「ゆがんだ正義感」ではないと思います。正義感がある人は、本来、匿名でことばの集団リンチはしないと思います。よく「言論の自由」を主張する人はいるんですけれども、本来、言論の自由というのを履き違えてまして、デマとかひぼう中傷も自由だと。それは「言論の無法」なんですね。必ず言論の責任があって、その先に言論の自由があると、そういう意識を持ってネットに書き込むということが必要だと思います。

ネットリンチの恐怖の実態を見てきたんですけれども、こうしたことをどうやって防げばよい?

唐澤さん:まず人々が、ネットリンチ、私的制裁は違法であるという認識を強く持つべきだと考えています。ネットリンチについて許容している現在の法律は一切ありません。こういった認識を、ネットリテラシー教育等で広めていく必要があると思います。そして、加害者の責任を容易に被害者が問えるように、被害者救済の観点から法整備をすべきだと考えています。

これは社会問題であると、まずは広く共通認識を持つことが必要?

スマイリーさん:そうですね。まず教育、そして司法、そして一人一人、個々で被害者にも加害者にもなりうる、そういうツールを僕らが使ってるんだという意識をやはり高めていかないと、これから情報に飲み込まれると思いました。

言われなきひぼう中傷にある日突然さらされる、そんな事態に誰もが陥るおそれがあります。一方、安易な「いいね」や拡散によって、誰もがネットリンチに加担しうることも分かりました。ネットで飛び交うことばや情報にどう向き合うか、今、問われています。

■関連サイト
「“ネット炎上” 追跡500日」