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2017年10月30日(月)
“プルトニウム大国”日本 ~世界で広がる懸念~

“プルトニウム大国”日本 ~世界で広がる懸念~

核兵器の材料になることから国際的に厳しく管理されているプルトニウム。日本は、原発で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出し、資源として再利用する「核燃料サイクル」を核兵器保有国以外で唯一、推進している。保有量は現在、約47トン。原爆に換算して約6000発分に相当し、いま、日米原子力協定で日本がプルトニウムを取り出すことに同意したアメリカから懸念の声が上がっている。プルトニウムが増加の一途を辿って「核テロ」のリスクを高めるとともに、他国が日本を前例にプルトニウム保有に乗り出すことを警戒しているのだ。来月5日にはトランプ大統領が来日するなど緊密な関係を維持する日米。両国の間にある知られざる課題に迫る。

出演者

  • 鈴木達治郎さん (長崎大学教授/元原子力委員会委員長代理)
  • 内山太介 (NHK記者)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

“プルトニウム大国”日本 海外から懸念が…

先月(9月)、厳重な警戒の中、福井県の高浜原発に到着した輸送船。運ばれてきたのは、核物質・プルトニウムが入った燃料です。今年(2017年)再稼働した4号機で使われる計画です。
実は今、日本が抱える大量のプルトニウムが海外から問題視されています。使用済み核燃料から取り出されたプルトニウムの量はおよそ47トン。原爆の材料にもなり、6,000発分に相当します。これに対して、同盟国のアメリカの中から懸念の声が上がっています。プルトニウムを取り出す技術を持ちたいという国が他にも出てくるのではないか。

アメリカ下院議員
「北東アジアの核拡散につながりかねない。これは問題だ。」

海外からの懸念が高まる中、プルトニウムをどうしていくのか。日本の原子力政策の知られざる課題に迫ります。

鎌倉:核兵器の材料にもなるプルトニウム。日本は原発の燃料として、平和利用することを国策として進めています。その前提となるのが、戦後、アメリカとの間で結んだ日米原子力協定。この協定は、日本の原子力政策の根幹となっているものです。日本はアメリカから燃料や設備の提供を受け、さらに、原発から出た使用済みの核燃料からプルトニウムを取り出して再利用するということも、核兵器を持たない国の中で、ヨーロッパの国々とともに例外的に認められてきました。協定は1988年に改定され、その有効期間は30年。来年(2018年)の7月となっています。アメリカのトランプ政権は、この協定を延長する方針ですが、アメリカの中からは、たまり続ける日本のプルトニウムに厳しい声が上がっています。

日本のプルトニウム47トン アメリカからも懸念が…

先月、アメリカのワシントンで開かれたシンポジウム。外交政策に関わった元政府高官から、日本に対して厳しい意見が相次ぎました。

国務省 元次官補
「アメリカは日本が保有しているプルトニウムに関して、当然ながら懸念を抱いている。」

国家安全保障会議 元上級部長
「核兵器にも転用できるプルトニウムをどう利用するのか、日本政府と話し合う必要がある。」

懸念されたのは、減らす見通しの立たないまま日本にプルトニウムがたまっている現状でした。

行き詰まりの中で…

なぜ、こうした事態に陥ってしまったのか。行き詰まりを見せる原子力政策の現状があります。
日米原子力協定をもとに日本が掲げてきた政策です。原発で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出し、再利用しようとしてきました。その柱となるのが、「高速炉」という次世代の原発です。しかしその開発は実験段階の施設「もんじゅ」の廃炉で進んでいません。一方で国は、たまったプルトニウムを普通の原発でも消費しようと考えています。しかし、福島の原発事故の影響などで、これもほとんど進んでいません。その結果、47トンものプルトニウムを抱えることになったのです。

その上、プルトニウムが逆に増えかねない事態も進行しています。プルトニウムを生み出す青森県六ヶ所村の工場が、本格稼働に向けて国の審査を受けているのです。工場が稼働すれば、新たに年間最大8トンのプルトニウムが生み出されます。たまり続けるプルトニウム。日米原子力協定の改定に携わった官僚にとっても、こうした事態は想定外でした。文部科学省の元事務次官の坂田東一さんです。

文部科学省 元事務次官 坂田東一さん
「この写真は1986年の6月に撮られた写真。」

原子力協定を改定した際、ワシントンの日本大使館でアメリカとの交渉の最前線にいた坂田さん。あくまで「プルトニウムを適切に利用する」と説明していたといいます。

文部科学省 元事務次官 坂田東一さん
「振り返れば、自分たちが思い描いていたよりもなかなかうまく進められなかった現実がある。これは認めざるをえない。アメリカ側に説明をしなくてはいけないかもしれない。少なくとも求められたら、ちゃんとしなくてはいけないかもしれない。」

海外でも懸念の声が…

たまり続けるプルトニウム。今、アメリカでは日本に政策の見直しを求める動きが出ています。かつて国防総省で安全保障政策に関わった、ヘンリー・ソコルスキーさんです。日本がプルトニウムを大量に持ち続けると、国際社会にあつれきが生じると懸念しています。
ソコルスキーさんの懸念は、国連総会でも表面化していました。中国の大使が「日本が核開発に乗り出す可能性がある」と主張したのです。

中国 軍縮大使(当時)
「日本はごく短期間で核兵器を保有できる状況にある。」

日本 軍縮大使(当時)
「専守防衛を基本方針とする日本は、他国への軍事的脅威にはならない。」

ソコルスキーさんは、日本に核武装をする意思がなくても、国際社会から疑念を招きかねないと指摘します。

元国防総省 ヘンリー・ソコルスキーさん
「プルトニウムを最大年間8トン生み出す六ヶ所村の工場が運転を開始すれば、近隣諸国の不安が高まります。これは地域の安全保障の問題です。」

ソコルスキーさんは、連邦議会の議員などに日本の問題を訴える活動を行っています。この日、面会したのは、外交委員会で要職を務める下院議員。原子力協定の30年の有効期間が来年に迫る中、日本にプルトニウムについて働きかけるべきだと語りました。

民主党 ブラッド・シャーマン下院議員
「アメリカ連邦議会の議員の多くは、今後使い切れないほどのプルトニウムを何トンも作ることがないよう、日本に警告しています。協定更新のタイミングは日本と議論をするいい機会だと思います。」

元国防総省 ヘンリー・ソコルスキーさん
「『トランプ政権にぜひ問題提起してほしい』と議員に求めていくことが大切だと感じています。」

朝鮮半島に影響?

さらに、別の懸念も。日本のプルトニウム問題が、朝鮮半島情勢に影響を与えかねないというのです。オバマ政権で、核不拡散に取り組んだ元政府高官が取材に応じました。

国家安全保障会議 元上級部長 ジョン・ウルフソルさん
「日本がプルトニウムを取り出していることを口実に、韓国も同じことをしたいと考えているのです。これはアメリカにとって非常に難しい政治的な問題です。」

一昨年(2015年)韓国はアメリカとの原子力協定を改定しました。これにより、平和利用目的でプルトニウムを取り出す研究が初めて認められました。
韓国がアメリカと交渉を行った背景には、日本と同等の技術を持ちたいという考えがあったとみられています。北朝鮮が核・ミサイル開発を続ける中、韓国が将来核開発につなげるのではないかと、アメリカの一部から問題視されたのです。
議会では、「日本の原子力政策が朝鮮半島情勢に影響を与えかねない」と表立って指摘されたこともありました。

民主党 上院議員
「朝鮮半島を非核化するというアメリカの構想は頓挫してしまうだろう。この方向が進むと危険が増すことを、日本は理解しているのか。」

元高官は、米韓の協定によって韓国が実際にプルトニウムを保有することはないとしながらも、今後、日本を前例としてプルトニウムの利用を求める動きが強まることに警戒しています。

国家安全保障会議 元上級部長 ジョン・ウルフソルさん
「今、韓国で起きつつある議論は、北朝鮮に対して抑止力を発揮するために核開発は必要だというものです。日本は将来の原子力に関する意思決定において、この点も考慮に入れるべきだと思います。」

“プルトニウム大国”日本 知られざる実情

ゲスト鈴木達治郎さん(長崎大学 教授)
内山太介(科学文化部)

鎌倉:アメリカ国内で高まる懸念。トランプ政権は、どう動こうとしているのか。NHKの取材に対し、政府高官は、「日米同盟を重視し、協定を自動的に延長する考えを示す一方、プルトニウムをどう消費していくのか説明を求めていく」としています。

なぜこのプルトニウムがたまってしまったのか。科学文化部の内山デスクとおさらいしたいと思います。

内山デスク:国は、日本はエネルギー資源に乏しいとして、原発で使い終わった核燃料を工場で「再処理」といわれる化学処理をして、プルトニウムを取り出しています。
これはすべてプルトニウムを取り出すことにしています。これを次世代の「高速炉」という原発で再利用することにしていて、本来は高速増殖炉もんじゅで利用することで、使い終わった核燃料を再処理して使い続けるという流れを「核燃料サイクル」と言っていました。

ところが去年(2016年)12月、この高速炉のもんじゅが、相次ぐトラブルなどで廃炉が決まりました。一方で、電力事業者は普通の原発でプルトニウムを再利用することにしていて、平成27年度までに原発16~18基で使う計画だったのですが、福島の事故後、再稼働した原発で再利用が行われているのは3基にとどまっています。
このように、プルトニウムの利用がなかなか進まない中で、さらに青森県六ヶ所村にある再処理工場が、来年度以降、本格稼働すれば、年間最大で8トンのプルトニウムが出てくるということなんです。

日本のプルトニウムが海外から持たれている懸念とは?

鈴木さん:実は私が政府の原子力委員をやっているときに、政府高官から、やはり間接的に、非公式に伝えられた懸念があるんですが、そこでは大きく3つ言われました。まず第1に核テロリズムの危険性。第2が核武装への懸念。
3番目がちょっと難しいんですが、いわゆる「プルトニウム競争」。これは日本が前例になって、使用済み燃料を再処理する権利を他の国も主張しだすと、それに対してアメリカは、日本が前例でありますから認めざるをえないんではないかと。そうするとこの地域、例えば今、VTRにもありましたけれども、韓国が使用済み燃料の再処理を求めています。そうすると韓国もプルトニウムを生産する。それから中国も平和利用と称して核燃料サイクルを進めようとしていますので、北東アジアでプルトニウム生産競争が起きるのではないかという懸念を持っています。

こうした懸念がある中で、六ヶ所村の再処理工場でさらにプルトニウムを生産するという計画が進められているが、国はどう説明している?

内山デスク:原子力政策を所管する経済産業省は、プルトニウムの需給バランスを見ながら、六ヶ所村の再処理して取り出されるプルトニウムの量を責任を持ってチェックするとしています。

経済産業省 資源エネルギー庁 日下部聡長官
「経産大臣がプルトニウムバランスの観点から(工場の)生産の計画について関与していくことになっているので、アメリカ・世界に対しても説明していくことだと思っている。
サイクルの問題、プルトニウムバランスの問題、課題があるとするならば、それに対して解決できるだけの方策を英知を絞ってやっていく。」

アメリカの懸念

この日本側の説明に、アメリカは納得するのか?

鈴木さん:これまでは再処理事業は民間の事業でしたので、国がなかなか強制的に調整するということはできなかったんですけども、去年から、国の管理事業になりましたので、国が関与する法的な担保ができたということは一歩前進だと思いますね。先ほどVTRにありましたように、これまでは生産されたプルトニウムを消費の方に増やしていくという考え方だったんですが、消費に合わせて生産を調整するという新しい考え方ですね。これは2014年のエネルギー基本計画の中でも、プルトニウムバランスで国際情勢を考えて柔軟に進めていくという政策が入ってますので、それをしっかりと公約するというのが大事じゃないかと思います。それでも実際にはプルトニウムの量が減らないと、なかなかアメリカは納得しないと私は思います。そのためには、やはり核燃料サイクルの見直しが必要なのではないかと考えています。

鎌倉:プルトニウムを利用する核燃料サイクル。世界では各国が計画を進めてきました。しかし、経済性や安全性の観点から、アメリカ、イギリス、ドイツなどは断念しました。一方、ロシアや日本などは、さまざまな思惑を抱えて今も推進しています。

ロシア 核燃料サイクルの実態

世界で最も核燃料サイクルの研究が進んでいるとされるロシア。

「あれがベロヤルスク原子力発電所だ。」

その要とされる施設の取材が、今回、特別に許されました。世界最先端の高速炉BNー800です。去年から本格稼働をしています。

各国が核燃料サイクルの開発を断念する中、ロシアが続けるのは、将来にわたってエネルギーを確保していくねらいがありました。ロシアでは、原発で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出し、燃料として高速炉で使っています。ゆくゆくは高速炉から出る使用済みの核燃料も再利用して、半永久的にエネルギーを生み出すことを目指しているのです。

しかし、一世代前の高速炉では、危険性のあるナトリウムや放射性物質が漏れる事故を27回も起こしています。それでもロシアは、国家プロジェクトとして20年でおよそ8,000億円を投じ、核燃料サイクルの研究を進めているのです。

原子炉研究所 アレクサンドル・ツゾフ所長
「原子炉の技術は何十年もかけて発展するものだ。今、高速炉開発に資金を投じても、すぐ経済的に見合うとは思っていない。これは今世紀ではなく22世紀に向けた投資なのだ。」

核燃料サイクル 日本の実情

核燃料サイクルの実現を目指す日本。実は、その政策を見直そうとしたことがありました。その事情を知る経済産業省の元官僚・伊原智人さんです。現在はバイオ燃料の会社を経営しています。
伊原さんは民主党政権のころ、国家戦略室でエネルギー政策の立案に携わっていました。福島第一原発の事故を受け、伊原さんは核燃料サイクルの凍結を具体的に検討したといいます。

伊原智人さん
「このタイミングでもう一度意義を考え直して、立ち止まるかやめるかという大きなタイミングではないかと。」

しかし、検討の結果、核燃料サイクルの凍結は困難である事情が浮かび上がってきました。

青森県 三村知事
「約束と違うことが起こってはいけない。私ども、ごみ捨て場ではないんだ。」

原発で使い終わった核燃料は、「再利用する」という前提で青森県にある再処理工場に保管してもらっています。しかし、核燃料サイクルをやめるとなると、その前提が崩れ、使用済みの核燃料は各地の原発に返さざるをえません。そうすると、いずれ貯蔵スペースがいっぱいになり、原発の運転ができなくなってしまうのです。長年進めてきた核燃料サイクル。いったん始めた政策をやめることの難しさに直面しました。これまでどおり、核燃料サイクルは続けられることになりました。

伊原智人さん
「(核燃料サイクルを)見直すと言った瞬間に『原発に議論が飛ぶ』と感じる方々が、『パンドラの箱は開けたくない』という力も大きい。」

“プルトニウム大国”日本 核燃料サイクルの行方は

鎌倉:政府が今も核燃料サイクルを堅持する理由について、資源エネルギー庁の日下部長官は、「資源の少ない日本にとってプルトニウムを有効利用することが最適な政策だ」と説明しています。

プルトニウムを利用する核燃料サイクル、どう考えていけばよい?

鈴木さん:まず第1に、先ほど説明がありましたが、今、日本では法律で使用済み燃料は全部再処理しなければいけないんです。そうしますと、どうしてもプルトニウムは増えていきますので、再処理が必要ない使用済み燃料はごみとして、そのまま捨てる、いわゆる「直接処分」といわれる選択肢を日本でも作ることが必要ではないかと。
その次に、そうはいっても、すぐに処分場ができるわけではありませんので、「中間貯蔵」と呼ばれている、使用済み燃料の貯蔵容量をできるだけたくさん確保する。先ほどのVTRでもありましたが、今は青森県に運んでいっていただいていますけれども、それがどこに戻されても大丈夫なように、あるいは将来、今後増えていったときに、再処理ができなくても困らないように中間貯蔵を確保すると。こういう柔軟な核燃料サイクルが必要だと、私は思っています。

中間貯蔵施設に置きっぱなしになるのではという懸念もあるが?

鈴木さん:中間貯蔵は必ずそのあとどうするかということを聞かれますので、それが今だと再処理しか選択肢がありませんので、私は柔軟に選べるように、必要なければごみとして捨てる、必要な場合は再処理すると、そういう柔軟なサイクル政策に変えていく必要があると思ってます。

今後、この問題をどう見ていけばよい?

内山デスク:この問題は、国内問題にあるだけではないんですね。日米原子力協定に基づくアメリカとの関係、さらには北東アジアを中心とした国際情勢にも影響を与えます。それにもかかわらず、これまで多くが語られてきませんでした。先が見通せない核燃料サイクルをどうするのかということもありますし、この問題、専門家だけでなく、私たちも将来のエネルギーをどうするかという広い視点に立って考えていく必要があると思います。

核燃料サイクルの行方が不透明な中で、このプルトニウムが大量にたまっていることに不安を感じます。これまでのように進めていってよいのかどうかも含めて、今、改めて考えるときにきていると思いました。そして私たち自身も、関心を持って見ていくべきだと思います。