クローズアップ現代

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2017年10月25日(水)
体臭気にしすぎ!? 相次ぐにおいトラブル

体臭気にしすぎ!? 相次ぐにおいトラブル

近年、清潔志向が強くなったことなどにより、体臭に敏感になる風潮が広がっている。企業の社員たちに体臭ケアを指導するセミナーも人気。「体臭が気になって人付き合いがうまくいかない」と悩む若者も珍しくないという。一方、においケアなどの目的で使う商品の「香り」をめぐって、トラブルになるケースも。「柔軟剤などの香りをかいで、頭痛などの身体症状を感じた」と訴える人もいる。私たちは、においとどう付き合っていけばよいのか?

出演者

  • 坂井信之さん (東北大学教授)
  • 坂部貢さん (医師・東海大学教授)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

体臭気にしすぎ!? 相次ぐにおいトラブル

においに敏感と言われる日本人。その傾向、ますます強まっているようです。

この夏、ユニークな機器が相次いで開発され、大きな話題を呼んでいます。
こちらは、北九州のベンチャー企業が開発した犬型ロボット。強いにおいを嗅ぐと、気絶して知らせます。

更に、大手メーカーが開発したこちらの機器は、汗のにおいなどの強さを数値化。ケアが必要か教えてくれるといいます。

「悪くはないでしょうか。嫁に自慢してきます。」

あのアイドルグループの握手会では、においを巡って騒動が起きました。メンバーの1人が、ツイッターで体臭ケアをしようとファンに呼びかけたところ、1万人以上がリツイート。賛否を巡る議論が白熱しました。

SKE 松村香織さん
「ちゃんとスプレーした?」

ファン
「したよ!」

SKE 松村香織さん
「よかった。使ってくれたなら。」

ファン
「かおたんのために。おぬしが言うことは絶対!」

SKE 松村香織さん
「私も結構、軽い気持ちでツイッターの方に書いたら、あんなに大きくなると思ってなかったので。」

一方、体臭の対策に使うスプレーや柔軟剤などの化学物質で「体調が悪くなった」と訴える人も。

「(人工的な)いいにおいが嫌なの、嫌い。怖いです。」

においを巡る深刻な悩み。私たちは、どう向き合えばいいのか、徹底的に考えます。

鎌倉:こちらは、現在販売されている、におい関連グッズの一部です。おなじみの商品いろいろありますが、最近では、消臭機能がついたスーツ、それから下着も売り出されているんですね。
世界の中でも日本は、においに敏感だと言われていまして、最近は「スメルハラスメント」という言葉も出てきました。においで他人に不快な思いをさせることを指します。今回、実施したアンケートでも、においを気にするエピソードが多く寄せられました。例えば「取引先から体臭へのクレームがあった」「口臭が心配で会話できない」などの声がある一方で、「体臭を許せないのは、不寛容社会のあらわれだ」。そんな意見もありました。

きれい好きで潔癖とされる私たちの社会で今、何が起きているんでしょうか。

体臭気にしすぎ!? “過敏社会”で何が

化粧品会社が開催している「においケアセミナー」です。

最近、社員ににおい教育を徹底してほしいという企業などからの要望が増えているといいます。

「ここで、においサンプルを、眠気覚ましといってはなんですが。」

参加者が嗅いでいるのは、体臭のサンプル。まずは、どんなにおいが不快感を与えがちなのか知ってもらおうというのです。

参加者
「あーこれきつい!これダメだ!」

首筋など、においが出やすい場所のケアのしかたを、この会社の商品を使って実践します。

参加者 40代
「電車の中とかって他の方のにおいとかも鼻に入ってくるので、自分なんじゃないかって、常に心配はしています。」

このセミナーを行う化粧品会社が「職場の嫌だと感じるにおい」についてアンケートを行ったところ、「タバコ」や「香水」を抑えて、「体臭」が1位に挙げられました。
こちらは、においケアセミナーに参加したメガネ販売会社です。

社員に、体臭や口臭などの対策を義務づけています。きっかけは、従業員のにおいに対する客からのクレーム。「スメルハラスメント」になりかねないと、対策を講じることにしました。特に注意を促しているのが、40歳以上の社員です。接客担当の矢倉諭さんも、家族に指摘されて以来、自身の体臭が気になるようになりました。

接客担当 矢倉諭さん(45)
「自分では分からない、においがかなり出ていると思うので、同僚の人にチェックしていただいたりというのはやっているつもりです。」

汗をかいたらこまめにシートで拭き、ランチやおやつのあとには、必ず歯を磨きます。こうしたケアを徹底するため、この会社では、店長への昇進試験や人事評価にも、においの項目を導入することにしました。

「口臭の対策をしています。衣類の方に、においがないというものを人事の評価の項目として取り入れています。」

努力の結果、矢倉さんは先月(9月)店長に抜擢されました。体臭のケアは手間ですが、時代のニーズなら取り組まざるを得ないと感じています。

接客担当 矢倉諭さん(45)
「大変な部分はありますけど、こちらの方が気を遣って、ケアしていかなければと認識しています。」

若い世代の中には、体臭に敏感なあまり、恋や友人関係の悩みを抱える人も珍しくないといいます。

著述家で大学でも教べんを執る、湯山玲子さん。若者の行動や心理を調べるため、定期的に話を聞いています。

著述家・日本大学非常勤講師 湯山玲子さん
「他人のにおいって、どこまでが許容できますか。」

「私の許容できる範囲のにおいがすごく狭いので、なかなかいい人に巡り会わない。」

この女性は、相手の体臭が気になり、恋が冷めてしまうことが多いといいます。

「(においが)ダメだって思ったら、その人がいい人でも尊敬できても、一緒にいられない。」

こちらは、他人のにおいでイライラしがちだという男性陣。気持ちをコントロールできない事にもどかしさを感じています。

「縄張りみたいなものが侵される感じが。そのために精いっぱいiPodとかで音楽で領域を作っているのに、においは音と違って防げないから。」

著述家・日本大学非常勤講師 湯山玲子さん
「体臭がする人に関しては、まず興味というか、違うということを、すぐに敵意だったりとか、自分の領域を侵犯するよくないものと思って排除する心理が自動的に働くような気がします。」

体臭に敏感になっている現代社会。番組で行ったアンケートからも、さまざまなトラブルが起きていることが明らかになってきました。

“会社の上司のにおいがつらく、さとられないように席を離してもらいました。”

“自身のにおいが原因で、いじめられました。体臭を気にするようになり、休職しました。”

こちらは、体臭の悩みについて、相談や治療を行うクリニック。

患者は増え続けていますが、実はその7割は、それほど体臭が強くない人たちだといいます。この日も20代の男性が訪ねてきました。

患者
「自分のにおいは特殊といいますか、他の人がくしゃみとか、せきとか、自分のにおいのせいでしている気がして、非常に(学校に)行きづらい。」

においが原因で、人づきあいに積極的になれなくなったという男性。医師は、体臭をはかる目安になる耳あかを調べるなどして、処置が必要か判断します。

五味常明医師
「ワキガというにおいがあるんですけど、そのにおいは、あなたはほとんどないんですよ。なぜ分かるかというと、そういう人の場合、だいたい耳あかが軟らかい。」

必要以上に自分の体臭を気にしていたことが分かりました。

五味常明医師
「においって見えないものですから、不安なんですね。それで悩んでくる方も多いですね。スメルハラスメントで周囲を迷惑にしている害よりも、自分がにおっているんだと悩んで、それで消極的になって、人間関係を築けない、そういう人たちが増える害の方が大きいんじゃないかと思います。」

体臭気にしすぎ!? “過敏”の背景は?

ゲスト 坂井信之さん(東北大学教授)

医師の五味さんによりますと、体臭が強い体質の方でも、多くのケースで、治療によって改善できるということです。
においが人間の心理にどう影響するかを研究している坂井さん。
体臭が気になるという人が増えている背景は?

坂井さん:まずは、社会背景が変わっているのが原因の1つだと思います。昔は、日本の中でも臭かったんですが、今、もういろいろ消臭が進んで、においのする家庭というのが、ほとんどなくなったというのが原因だと思うんですね。ですから、外へ出て初めて汗臭いにおいに出会うと「臭い」というふうな反応をしてしまうんだと思います。例えば、加齢臭というのがあると思うんですが、あの加齢臭も嗅いだことのない人は、何のにおいか分からないまま「臭い」としか言わないんですけれども、おばあちゃんと一緒に住んでいたような経験がある子は「おばあちゃんのにおいだ」「懐かしい」という感じで、ポジティブに受け取る場合も多いんですね。

同じにおいでも、体験によって変わってくるということなんですね。

鎌倉:それにしても、VTRで、においがダメだと恋も冷めてしまうという女性がいらっしゃいましたけれども、そんなににおいって、人の行動だとか心理を左右するものなんですか?

坂井さん:そうですね。特に男女関係ですと、うちの学生もアンケートをとると、好きになる条件は見た目。でも、嫌いになる条件というのは、圧倒的ににおいなんですね。

鎌倉:嫌いになると、においがダメになる?

坂井さん:においがダメだと嫌いになる。そういう両方の関係があるんです。

人間関係とにおい、どう考えたらいい?

坂井さん:それはちょっと難しい問題なので、まず実験を見ていただきましょう。

この実験は、ボトルの中にりんごを入れます。そのボトルに黄色いシールを貼り付けるんですね。中身はりんごです。このにおいを嗅いで、何のにおいがしたかと解答していただくと、半分の人は「バナナ」と答えるんですね。

鎌倉:においって、そんなにあやふやなんですか?

坂井さん:においというのは、においを嗅いで、そのもので判断が難しいので、見た目ですとか、あるいはそれを出している人だとか、物、このイメージがそこへ結び付くわけです。
(この場合だと、黄色だから「バナナ」?)
そうなるわけですね。ですから、誰かからにおいがすると、そのにおいそのものというよりは、その人との人間関係がそこへ圧縮されて出てくるというような感じですね。
(人間関係がいいと、同じにおいでも、いいにおいに感じる?)
そうなると思います。

体臭に敏感になる人が増える中で、その対策のために香りをつける商品の市場が今、拡大しています。ところが、その香りが新たな問題となっているケースもあるんです。

あふれる“香り” トラブルの種にも

夏の厳しい暑さで知られる、埼玉県熊谷市。市役所の入り口に涼やかなミントの香りを漂わせるための機器を設置していました。訪れた人に快適に過ごしてもらおうと若手が考えたアイデアでした。ところが、市民からは意外な反応が寄せられました。香りが苦手だという人からの批判的な意見が相次ぎ、撤去を余儀なくされたのです。

熊谷市役所 柴田忠徳さん
「われわれ事業として、よかれと思ってやったことなんですけど、不快に思われた方がいたということは大変残念。」

香りが原因で家庭内トラブルが起きることも。
夫と娘2人と暮らす、この女性。

あることを巡って、毎日のように夫婦ゲンカになってしまうといいます。夫婦の普段のやり取りを記録してもらうと…。


「くさっ!ツーン。」


「いい香りでしょ?」

夫は、数年前から体臭を気にして、香りのあるスプレーやシャンプーを使うようになりました。


「シュッ、シュッってしたの?」


「汗びっしょりだから。」


「いいよ、そんなの付けなくて!」


「(スプレー)持って行くのを忘れたから買ったんだ!」


「買わなくていいのに。舌がしびれる!」

妻は、スプレーなどの香りで不快になるだけでなく、舌のしびれなどを感じることもあるといいます。


「主人がこうやって香りにこだわるようになったのも、私と娘が主人のことを汗臭いとかって言っちゃったのがきっかけなのかな。今になってみたら、からかい過ぎたかなと思うんですけど。気にしないでって言っても、もう聞いてくれないんですね。」

香りがつらい “化学物質過敏症”

更に、「香りの中に含まれる化学物質によって生活に支障を来す」という人たちまで現れています。高田ひろ子さんも、その1人です。

人混みを歩く時は、お手製のマスクが欠かせません。なんと5枚重ねです。

高田ひろ子さん
「すれ違う人とかの柔軟剤みたいなにおいがしたりすると、しんどくなると嫌なので。」

ふだんの買い物でも不便を強いられています。香りの強い商品を置く店には入れないことが多いのです。

高田ひろ子さん
「やっぱりダメです。入り口でダメです。」

夫は、選んだ商品で妻の症状が出ないかを確認してから支払いをします。


「体に大丈夫な、においなのかどうなのかっていうのは、こちらでは、さっぱりわからない。こちらが考える以上の問題なので、本人じゃないと分からない部分があると思います。」

高田さんは、専門医から「化学物質過敏症」と診断されました。苦手な香りに出くわすと、頭痛や激しいどうきなど、重篤な症状に襲われます。ここ数年は、以前よりも症状が悪化し薬の数が増えました。

高田ひろ子さん
「初期のころは、その人から逃げるとか、その場所から逃げていたら、30分もすれば体が元に戻っていたんですけど、ちょっと起き上がれなかったり、めまいがして、ずっと寝ていたりということがあるようになったので、本当に(香りが)怖いっていうのが本音です。」

今では、中古で買った本も外で干さないと読めません。他の家でついた香料が残っているからです。

症状が出ない無香料の洗剤です。
これ以外では洗濯する事ができないといいます。今年(2017年)6月には、10年勤めた会社も退職。香りに悩んで、職を失うことになるとは思いもよりませんでした。

高田ひろ子さん
「自分の努力だけでは、どうにもできない場面というのが、どうしても生きていく中である。まさか自分がこんなことで退職することになるなんて。すごくショックでしたね。」

“化学物質過敏症” どう対処するか

ゲスト 坂部貢さん(医師・東海大学教授)

鎌倉:におい対策のために使う香りによって、かえって不快な思いをしたり、身体症状が出ることを指す「香害」という言葉も使われ始めているんですね。この夏、初めて設置された電話相談「香害110番」にも重い症状を訴える声が多数寄せられました。例えば「化学物質過敏症の診断を受けてから生き地獄の毎日です。家族も私もボロボロになってしまい、自殺まで考えるようになった」という50代の女性や、「香りで吐き気、めまい、頭痛、咳といった症状が出る。一生香りに苦しめられるのかと絶望している」という30代の女性の声。それから、番組で行ったアンケートには「私は柔軟剤の新製品を楽しみたいのに、息子は化学薬品系の香りが嫌で、じんましんが出ると、ケンカになっている」、こんな声もあったんですね。

においが体に及ぼす影響を医学的に研究されている、坂部さん。
においと化学物質過敏症には、どういう関係がある?

坂部さん:まず、化学物質過敏症というのは、一般の方だと全く症状が出ないような、気にならないような空気中の化学物質にも非常に感受性が高くて反応が出てしまって、めまいとか頭痛とか、そういったものが出現する状態というふうに定義されています。その中で約8割ぐらいの方が、においにも非常に過敏に反応してしまうということがあるわけですね。ただ、空気中の化学物質は無数にありますので、なぜそういったにおいに反応して症状が出てくるのかというのは、なかなかメカニズムはまだ分かってないところが多いです。

深刻な症状の方がいる事を考えると、行政が何らかの規制をするというようなことは考えられないのか?

坂部さん:行政もこの問題を十分理解していまして、今、環境省とか厚生労働省でそういった研究推進委員会とか、あるいは研究班をつくって研究はしているんですが、なかなか対象が複雑なものですから、そのメカニズムといいますか、行政のアウトカムまで達してないというのが現状です。

においで体調を崩すということは、心理面にも何か影響がある?

坂井さん:あくまでも一般論なんですけれども、においに対してポジティブ、ネガティブというようなラベルづけをすると、ネガティブなにおいを嗅いでいると、脳の「扁桃体」と呼ばれる、体をコントロールする脳の場所に情報がたくさん集まってくるんですね。それで例えば心拍が上がったり、手に汗をかいたり、そういう身体症状が出てくることは考えられることです。
(そのネガティブポジティブというのは、その人の体験にも左右される?)
そうですね。記憶ですとか、あるいはそのにおいから何を連想するか、そういうところを全部含んでいると思いますね。

鎌倉:こういった現状、メーカー側はどう見ているのかなんですが、特に数年前から柔軟剤の香りで症状を訴える人が増えていることについて、石鹸や洗剤の製造者などでつくる日本石鹸洗剤工業会に話を聞きました。「香りに関する問題について、因果関係は不明ですが、困っている人がいることを真摯にとらえ、対応をはかっています。実態調査の結果、約2割の人が、目安の2倍の量の柔軟剤を使っていることが分かり、目安通りの使用と周囲への配慮を呼びかけています」ということでした。

においとどうつきあっていけばいい?

坂部さん:やはり、自分にとってよいにおいが、必ずしも他人にとってよいにおいとは限らないということですね。そういったにおいに対して非常に感受性が高くて、いろんな症状出る方もいるんだということを、やはりわれわれ、生活の中で配慮していかないといけないと考えます。
(メーカーに対しては?)
メーカーも、今、一部の商品では、もう既に始めておりますけれども、やはり使用量を守って、そういった感受性の高い人もいるということを十分認識するような注意を喚起することが必要かと思います。

坂井さんはどう思う?

坂井さん:体臭をポジティブに感じるか、ネガティブに感じるかは、そのにおいを取り巻く人間関係ですとか、いろんなものがファクターとしてあるので、やはり体臭に寛容になるためには、人間関係も寛容になる必要があるんじゃないかと思いますね。

自分にとってのいいにおいは他人の迷惑になっているかもしれません。体臭に不寛容になりすぎますと、生きづらさを感じる人も出てきます。なかなか難しい問題ですけれども、互いに配慮し合うことから始めるしかなさそうです。