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2017年10月18日(水)
シリーズ 習近平の中国② 加速する“創新(イノベーション)”経済

シリーズ 習近平の中国② 加速する“創新(イノベーション)”経済

権力集中を強める習近平国家主席のもと、変貌する中国の姿を伝えるシリーズ。2夜目は、新たな成長モデルを模索する中国経済の最前線。キーワードは高付加価値の産業創出を目指す“創新”経済。「皆が起業し、技術革新を起こそう」という掛け声のもと、IT技術を生かしたイノベーションが生活を一変させている。“創新”は、一時の勢いを失いつつある中国経済の起爆剤となるのか?中国企業の開発力を取り込もうとする日本企業の姿とともに伝える。

出演者

  • 馬淑萍さん (国務院発展研究センター)
  • 鎌倉千秋 (キャスター)

習近平の中国 経済構造が激変!?

軍事力を強化し、大国としての存在感を高める中国。

中国 習近平国家主席
「中華民族の偉大なる復興を実現しよう。」

軍事、外交、経済。習近平国家主席は、これまでにない強大な国を目指し、突き進んでいます。今後5年の中国の行方を決める共産党大会が、今日(18日)開幕。2期目を迎える「習近平の中国」をシリーズでお伝えします。
第2回は、創新・イノベーションによって大きく変貌する中国の経済です。

スマホ1つで支払いできる電子決済。現金を持たない生活が当たり前になろうとしています。

買い物客
「もう半年くらい、現金は持たずに出かけている。」

誰でも簡単に映画のような映像を撮影できる、最新鋭のカメラ。中国発の新しい製品やサービスが次々に生み出されています。

ベンチャー企業 CEO
「はっきり言って、これまでの中国はパクりだらけ。今は新しいことを試し、改良することを進んでやる。」

世界の工場から創新国家へ。大きくかじを切り始めた中国。日本の企業にもビジネスチャンスはあるのか。習近平の中国経済の最前線に迫ります。

“権力”固める習政権 経済の切り札とは…

鎌倉:5年に1度の共産党大会が始まりました。今、習近平氏がこれまでの業績を総括する演説を行っています。

中国 習近平国家主席
「我が国の経済は急成長の段階から、高品質なものを生み出す段階に移行し、今まさに転換期にいる。途切れさせることなく、我が国の革新力と競争力を高めなければならない。」

鎌倉:2期目を迎える習近平氏。その基盤を支えているのが、かつてほどの勢いはないものの、依然、堅調な経済です。その経済、大きな構造変化が起きておりまして、習近平政権もそれを後押ししています。
「大衆創業、万衆創新」。草の根からビジネスを起こして、人民誰もが創新・イノベーションを進めていこうというスローガンです。その実験の場として今、さまざまなサービスが展開されている上海を取材してきました。

加速する“創新経済” ライフスタイルも激変!?

創業、新たなサービスが次々に生まれる上海。学生のアイデアが一大ビジネスになっています。

鎌倉:見てください。いろんな種類の自転車が並んでいます。これ全部、シェア自転車なんですよ。

このシェア自転車、アプリを登録すれば、いつでも簡単に借りることができます。

鎌倉:ここでQRコードを読み込むんですね。
今、鍵開けてます。借りられました!たったこれだけなんですよ。簡単!

実は、決められた駐輪場以外でも、どこでも乗り捨て可能なんです。今では、さまざまな企業が参入し、こうしたサービスは海外にも展開されるようになりました。人々の生活スタイルまで変える可能性がある、新たなサービスはほかにも…。
例えば、電子決済です。

QRコードをスマホで読み取り、アプリで料金を支払うと、銀行口座からすぐに引き落とされる仕組みです。クレジットカードのような煩雑な手続きも要らない、このサービス。中国全土に広がり、市場や屋台といった場所でも現金が不要になっています。

「最後に現金を使ったのはいつ?」

買い物客
「忘れたなぁ。半年か1年前…。」

店主
「お釣りの手間も、偽札の心配もない。」

鎌倉:現金を使わない社会。ついには、こんなものまで登場しました。無人コンビニです。

利用者は商品を手に取り、自分で会計。支払いは、もちろん電子決済です。支払いせずに商品を持ち出そうとすると…。

「会計を済ませるか、商品を戻して下さい。」

鎌倉:払わないと外にも出られないわけなんですね。しっかり盗難対策もされているんですね。

“世界の工場”は過去!? 加速する“創新経済”

中国社会で新たなサービスが次々と生まれる背景には、習政権が推し進める経済の構造改革があります。習近平氏が共産党トップに就任した5年前。かつて2桁成長していた経済は減速し続けていました。

製造業を中心とした、それまでの成長モデルは、人件費の上昇などで限界に。さらに、国有企業も過剰生産や人員整理が進まないことが成長の足かせとなってきました。そうした中、次なる成長エンジンとして期待しているのが、新たなサービスや技術革新なのです。

中国 李克強首相
「我が国の発展には、改革とイノベーション以外に活路はない。大衆創業、万衆創新。」

シリコンバレーはもう古い? 中国発イノベーションが席けん

創新・イノベーションに向けて、突き進む中国。そのシンボルとなる街があります。広東省の深せんです。市民の平均年齢は32.5歳。起業を目指す若者たちが、中国全土から集まってきています。拠点を構えるハイテク企業の数は8,000社以上。街の経済規模は、この10年で3倍以上に拡大しました。
この映像を撮影しているカメラも、ここ深せんから生まれました。

それが、撮影用のドローン。地元のベンチャー企業が開発しました。今では、民間用ドローンで世界シェア7割を占め、次々と新たな商品を生み出しています。最新モデルは、コントローラーさえ要りません。手のひらをカメラが認識。手の動きだけで操縦することができます。

世界に先駆けるイノベーションの背景に何があるのか。幹部が取材に応じました。強みとして真っ先に挙げたのは、製品開発のスピードです。この看板モデルは、4年前の発売開始から毎月のように機能を更新し続けています。

世界最大手のドローンメーカー DJI 徐華濱副社長(37)
「最新モデルには、障害物を検知する機能があり、何かにぶつかることはない。商品サイクルや技術革新が早い分野で、今、多くの中国企業が台頭している。我々が次から次へと新商品を打ち出すのは、競争に勝つための戦略。迅速に新商品を市場に投入することで、トップに走り続けられる。」

こうした圧倒的な開発スピードは「深せん速度」と呼ばれ、この地域で培われてきました。深せんは、およそ40年前、改革開放で中国初の経済特区に指定。外国企業の製品を組み立てる世界の工場として出発しました。今では、スマートフォンなど、高度なIT機器の生産や最新技術の研究拠点としても発展。電子部品を扱うメーカー、研究開発を担う技術者、そして、それらを支える資金が1か所に集まっていることで、世界に類を見ない開発スピードを可能にしているのです。
中国の民間企業を研究している日本人の専門家です。深せんのスピードは、世界でも突出していると指摘します。

東京大学 社会科学研究所 伊藤亜聖准教授
「過去30年にわたる製造業の蓄積が歴史的には大事。サプライチェーンがあるだけではなくて、研究開発の時間やコストを削減する産業構造がある。下請けをやりたくない。自分たちで新しい製品を開発して、世界に売り込みたいという方々が出てきている。」

この深せん速度によって、今、中国発のさまざまな技術革新が起きています。
360度撮影された、この映像。

実は、自撮り棒を使って撮られたものです。カメラが棒を認識し、画面から自動で消去しています。この製品を開発した劉靖康さん、26歳です。

3年前に起業し、今では社員200人以上を抱えています。

このカメラは、スマホに取り付けるだけで360度撮影が可能です。SNSで話題を呼び、世界中で大ヒットしています。

Insta360 劉靖康CEO(26)
「世界各国のユーザーが、私たちの製品を使っている。インド、中国、日本が一番多い。」

今では、世界170か国以上で販売。年間3億円を売り上げるまでに成長しました。こうしたベンチャー企業への投資を国が後押し。この企業にも、日本円で30億円近い投資が集まっています。

Insta360 劉靖康CEO(26)
「これまで中国は、工業製品の製造で発展してきた。しかし、これからの中国は『製造』から『創造』へ、高度な技術を発展させていく。中国発の僕たちの会社も、いつか日本のソニーやリコーのように、世界で輝くような会社にしていきたい。」

“創新経済”の陰で 中国経済が抱える問題

ゲスト 馬淑萍さん(国務院発展研究センター)

鎌倉:ご覧いただいたように、中国で起きているイノベーションは、私たちの予想を上回るスピードで加速しています。政府は近い将来、こうした新しい分野の産業について、経済全体に占める割合をGDPの15%程度にまで引き上げたいとしています。一方で、依然大きな課題として残されているのは、国有企業の改革や人件費の上昇などの問題です。

中国経済や創新企業の動向にも詳しい、経済学者の馬淑萍さんです。

中国経済が抱える課題、そして習政権がイノベーションを進める狙いを聞きました。

国務院発展研究センター 馬淑萍さん
「(国有企業で)過剰生産が起きているのは、似たり寄ったりな製品ばかり作っているためだ。しかも、その結果として、中国は製造業の技術力があがってこなかった。これまで中国は、恵まれた市場に頼って発展してきたが、今は多様なニーズに応えなければいけないし、独自の技術、イノベーションが必要だ。だから中国政府は、“創新”を強調している。」

果たして、新たなサービスや技術革新だけで、中国経済を立て直すことはできるのでしょうか?

国務院発展研究センター 馬淑萍さん
「新しい技術やイノベーションは必要ですが、それと同時に、既存の産業の構造改革も行なわなければいけない。新しい産業が古い産業に完全にとって代わることはできないが、今、中国はその転換期を迎えている。社会や産業の構造を大きく見直さなければならない。そういう段階に来ている。」

鎌倉:中国経済の成長の鍵を握るイノベーション。この勢いをどう取り込んでいくのか。日本企業の模索も始まっています。

世界最大のゲーム市場狙え 日本企業の模索

渡辺壮太郎(国際部)
「私は今、上海市中心部にいますが、こちらの通路、左手にある広告もスマートフォンゲーム。右手にある広告もスマートフォンゲームの広告です。」

中国で今、爆発的に拡大しているのは、ゲーム市場。その規模は2兆7,000億円。去年(2016年)アメリカを抜いて世界最大となりました。
その市場に進出した日本の大手IT企業DeNA。

現地法人の社員450人のうち、1人を除く全員が中国人です。

社員
「これは視覚的に映えるね。」

かつて、この企業では、日本で作ったゲームを中国で展開していましたが、言葉の壁もあり、常に新しいものを求める中国のスピードに応えることができませんでした。そこで、クリエーターを全て中国人に切り替えたところ、開発スピードが格段に向上。会社の規模は、10倍になりました。

DeNA China 任宜CEO
「技術もそうだし、ユーザー理解も、こちらのほうがより分かっている。変えていくスピードとか、そういうところは中国のほうが強くなり始めていると、すごく感じる。」

“創新経済”の舞台裏 日本企業の人材争奪戦

市場だけではありません。今、中国各地では、ゲームクリエーターを育成する専門学校が相次いで設立。最先端の技術を持つ、若手クリエーターが次々に育っています。

学生
「ゲームのソフト開発をどんどん学びたい。将来、クリエーターになるのが夢。」

人材の争奪戦も、しれつさを増しています。
鍵となる人材。自ら育成することで、世界でのシェア拡大を図ろうとする日本企業も現れています。ソニーが先月(9月)世界に先駆けて発表した最新鋭のゲームソフト。

開発を担ったのは、中国のクリエーターたちです。

中国のクリエーター
「世界中の人たちに遊んでもらえるように、どんどん開発していく。」

中国から世界的なヒット商品を生み出そうという、チャイナ・ヒーロー・プロジェクト。中国全土のゲーム制作会社から10社を選抜。彼らにゲーム開発のノウハウを提供します。さらに、投資家との仲介を行い、資金調達もサポート。こうして開発されたゲームソフトを世界中で販売しようというのです。
このメーカーは、世界での競争を勝ち抜くためには、中国人クリエーターの育成が不可欠だといいます。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント上海 添田武人社長
「“メイド イン チャイナ”、『中国で作られた』という言葉はある。一方で、“クリエーテッド イン チャイナ”、『中国で創造されたもの』今までなかった。それを中国のユーザーに届け、世界のユーザーに届けることができるのか。日本企業にとって、大きなチャレンジである。」

このプロジェクトを指揮する、梶原健史さんです。

立ち上げたきっかけは、斬新な発想や高度な技術を持つ、中国人の若者の存在を知ったことです。

特に目を引いたのが、このゲーム。1人の若者が作ったもので、プロ並みのクオリティーだと評判を呼び、動画の再生回数が280万回を超えました。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント上海 梶原健史さん
「たまたま彼の動画が出てきて、『なんだこれは!』って、何回も見返した。早く会いたいと思った。今すぐ会いたいと思った。」

こうして梶原さんがプロジェクトに引き入れたのが楊冰さん、27歳です。

楊冰さん(27)
「これまで、ただの一般人だった。これでゲームクリエーターになれる。世界中の人々を楽しませたい。」

楊さんのようなクリエーターが世界で通用する商品を作るため、開発資金を得る手助けもします。

この日、梶原さんは楊さんの作品を投資家に披露しました。楊さんの手がける作品が、将来、必ずヒットすると見込んだ投資家は、日本円でおよそ6,800万円を出資することを決めました。

投資家
「楊さんは、とても優秀なクリエーターだ。欧米のゲームに匹敵するいいものができる。」

ソニー・インタラクティブエンタテインメント上海 梶原健史さん
「だいぶ良くできている。短期間で良いものを見せてくれた。良いと思う。」

世界での競争に負けないために、中国の若手クリエーターたちが手がける優れたソフトで、ブランド価値を高めることが重要だと考えています。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント上海 梶原健史さん
「我々が思っている以上に、中国で作られたものは、もっともっと良いものがたくさんある。それをしっかり見つけて、ビジネスチャンスにしていくことが、これから必要だ。」

加速する“創新経済” 日本のビジネスチャンス?

中国のイノベーションの勢いを取り込む日本企業の動きは今、広がりを見せています。再び、経済学者の馬淑萍さんに聞きました。
今後、日本は中国の企業とどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

国務院発展研究センター 馬淑萍さん
「ともに学び、利益を勝ち取るということは、日本と中国の企業が協力する上での大原則だ。企業はそれぞれの強みを最大限に発揮すべきだ。たとえば、インターネットの分野では、中国はビッグデータが得意。日本は技術を応用することに長けている。両国が力をあわせれば、良い製品や技術を生み出すことができる。その道のりは困難かもしれないが、大きな方向性が一致していればいい。日本は慎重で、中国はスピードが速い。こういう点をお互いに補えばいいと思う。本当に可能だ。」

急速に変貌する中国 どう向き合うか

鎌倉:2日間にわたって中国からお伝えしてきました。イノベーションによって経済成長を維持させる一方、格差、腐敗といった課題を権力を集中させ、乗り越えようとする習近平氏。しかし、国内では抑圧される人々が生まれ、体外的にはあつれきも生じています。中国の光と影にどう向き合っていくのか。急速に変化する、その行方を見極めることが大切だと、改めて感じました。