クローズアップ現代

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2017年7月27日(木)
密着・電通“働き方改革”はなるか?

密着・電通“働き方改革”はなるか?

過労が原因で若手社員が自殺したことを受けて、長時間労働が蔓延する働き方を強く批判された電通。事件を受けていま、働き方の見直しが始まっている。はたして電通は変われるのか?番組では電通の山本敏博社長に独占インタビューで問う。さらに、電通社内の働き方改革の現場に密着、「つかんだ案件を何がなんでも実行する」というこれまでの電通マインドに代わって「労働時間」や「効率化」などの意識を浸透するための取り組みが社員にどのように受け止められているかを取材、日本社会が直面する働き方改革を実現する上でいまなにが必要なのか、その答えを探る。

出演者

  • 髙城幸司さん (経営コンサルタント)
  • 芦名佑介さん (元電通社員)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

密着・電通 “働き方改革”はなるか?

“24時間戦えますか”

覚えていますか?かつて大ヒットした、このキャッチフレーズ。制作したのは、大手広告会社・電通。数々の広告で、身を粉にして働く日本のサラリーマンの姿を表現してきました。社員にも顧客からの要求に献身的に応えることを求め、日本の広告企業のトップを走り続けてきました。しかし、電通は今日(27日)山本敏博社長が会見を開き、働き方を抜本的に見直す考えを示しました。

電通 山本敏博社長
「心からおわび申し上げます。二度と労務問題を繰り返さない。」

きっかけとなったのは、一昨年(2015年)新入社員の高橋まつりさんが過労によって自殺し、大きな社会問題になったことでした。果たして働き方改革は進むのか。NHKは、その取り組みの現場に密着。柱になっているのは、今まで徹底されてこなかった労働時間への意識です。午後10時には全館消灯を実施。残業時間の削減を進めようとしています。しかし、一部の社員からは…。

電通 現役社員
「人によっては22時以降もメールをしていたり、ファミレスだったり喫茶店だったり、外で仕事をしている人もいるので。」

多くの企業にとって、電通の働き方改革は試金石となるのか。その試行錯誤を追いました。

鎌倉:電通では、過去にも過労が原因で社員が亡くなるケースが相次いでいました。そうした中で、一昨年、新入社員だった高橋まつりさんが、自らの命を絶ちました。遺族の弁護士によりますと、残業は多いときで月100時間を超え、仕事のストレスで、うつ病も発症していたと見られます。まつりさんの母親、幸美さんは、“娘は二度と帰ってくることはありません。死をむだにしないためにも、影響力のある電通が改革を実現してほしい”と話しています。

“電通ショック”とも呼ばれ、多くの企業にも衝撃が走った今回の事態をどう受け止めているのか。今年(2017年)1月に就任した山本敏博社長が、NHKの単独インタビューに応じました。

“電通ショック” 山本社長に聞く

電通 山本敏博社長
「振り返ってみれば、人の時間というものが有限、希少なものという認識が非常に希薄であったと思います。社員の健康を守るとか、あるいは法令を守ることに関していうと、一刻の猶予も許されない。トップ企業の電通がこういう問題を起こしてしまったことについては、その責任の重さは極めて重く痛感しています。」

鎌倉:電通の違法残業事件について、厚生労働省は強制捜査を行い、検察庁は法人としての電通を略式起訴し、罰金刑を求めました。しかし、裁判所は今月(7月)12日、公開の法廷で審理するという、極めて異例の決定をしました。

電通は今日、社長が記者会見を開き、改革の道筋を初めて示しました。私たちは、すでに一部で始まっている改革の現場に、カメラを入れました。

密着・電通 “働き方改革”はなるか?

事件を受け、全社をあげて進めている働き方の見直し。取材のカメラが入ったのは、これまで長時間労働が課題となり、改革のモデル部署に選ばれている営業局です。この部署の一員、渡邉雄平さん。入社15年目の36歳です。大口の顧客を複数抱え、数年前までは、仕事が佳境を迎えると会社で寝泊まりすることも普通だったと言います。

渡邉雄平さん
「机の上に横になって、こういう所にいちばん体が冷えないとわかったので、ここで一旦休憩をとって。こういう感じで、こうやって休んでましたね。」

大阪万博でパビリオンのプロデュースなどを担ったことをきっかけに、大きなイベントの運営など広告以外の分野にも進出。オリンピックでもロサンゼルス大会以降、放映権やマーケティングの権利を獲得するなど、ビジネスの範囲を拡大し続けてきました。それに伴って、長時間の残業が常態化。数年前には、法律の基準を超える残業が、1か月平均で1,500件を超えていました。大学時代、砲丸投げで体を鍛えた渡邉さん。顧客のためなら、徹夜もいとわず働くことが当たり前だと考えていました。

渡邉雄平さん
「気がつけば朝が近かったりとか、終わった日は築地(市場)が開き始めているので、みんなで海鮮丼食べて『今回良くできたな』とか『結構きつかったな』という話をしていた。」

果たして、そうした働き方を変えることはできるのか。まず進めたのが、残業時間の削減です。

電通 営業局 舟橋由高部長
「レッドカード、イエローカードの付箋なんですけど、規定の残業時間をオーバーした社員には、分かりやすく、みんなが見られるようにつける。」

残業が半月で30時間を超える社員にはイエローカード。定時の午後5時半に退社することが義務づけられます。月に40時間を超えるとレッドカードで残業禁止。それ以降の業務は、部長に引き継ぐことになります。長時間働く社員を部署全体でフォローすることで、残業時間を減らそうというのです。

電通 営業局 舟橋由高部長
「いかに限られた時間の中で、最大のパフォーマンスを発揮するか。部員一人一人が残業のペースの早い人間を助けていく意識とか文化が生まれてくる。」

残業が制限される中、渡邉さんの仕事の進め方も大きく変わりました。出社時間は、これまでより2時間早い午前7時半。早朝出社した社員のために会社が用意した無料の朝食をとってデスクに向かいます。午前中に集中して仕事をすることで、早めに帰宅し、家族と過ごす時間も確保できるようになったと言います。一方、今まで培ってきた企画書やプレゼンのやり方の見直しも進められています。

渡邉雄平さん
「これは(過去の)競合の企画書。」

100ページにも及ぶキャンペーンの提案書。去年(2016年)までは競合他社に勝つために膨大な時間を割いて、細かな出来栄えにこだわってきました。

渡邉雄平さん
「先輩に『デザインは細部に宿る』みたいなことを口酸っぱく言われたことがある。フォントの種類とか、人によっては(文字を)何ポイントにするか全部決めてやる人もいますし、考え始めるときりがないところはある。」

今、使っているのは、社内共有のシンプルなひな形。時間を優先するためにこだわり過ぎるのをやめました。

渡邉雄平さん
「ゼロから自分でやるよりかは、スタートが早くなる。1時間、2時間の短縮になる。」

この日の退社時間は、午後6時半。残業時間が大幅に減った一方で、顧客の要望にこれまでどおり応えていけるのか不安も感じています。

渡邉雄平さん
「ちょっと最初は正直、消化しきれないというか、できるのかなと、いいのかなという思いがあった。やっぱり負けたら終わりみたいなところもあったりするので、現場としては、いい企画も作りたいし、勝ちたいっていう思いでやっているので、その中でやり方を変えるっていうことをとにかく一個一個、模索している感じではありますね。」

鎌倉:今日、発表された改革案では、再来年(2019年)までに労働時間を全体で2割減らすことを掲げています。そのために緊急に社員、契約社員を増員することや、効率的な働き方を評価の対象にするといったものがあります。その上で、現在の利益の水準を維持するとしています。しかし、一部の社員からは、疑問の声も上がっています。

電通“働き方改革” 現場から不安の声が

現役の若手社員です。顧客との関係で、会社を出てからも、仕事をせざるをえないときがあると言います。

電通 現役社員
「(顧客から)いまだに結構、無茶な要望とかが納期の近くにあったり、22時以降に上司がSNSだったり使って、ちょっとした修正指示だったり、連絡が入ることが多くなっている。人によってはファミレスだったり喫茶店だったり、外で仕事をしている人もいるので、私の場合は家に帰ってメールが来るので、それを返したり、資料の修正があったら対応したり、自宅でやっている。」

さらに、全体の業務量が変わらなければ、状況は改善しないと訴える社員もいます。

電通 現役社員
「働ける時間は確実に短くなっている中で、そこにまだ残っている仕事の量は、そこまで減り方が追いついていない。どこかで限界が来るんじゃないか。」

電通“働き方改革” 山本社長に聞く

こうした現場の声をどう受け止めるのか。山本社長に問いました。

鎌倉
「ファミレスで残業をしている、そういう社員の姿も、実は取材を通じて見えてきているんです。この実態はご存じでしたでしょうか?」

電通 山本敏博社長
「その実態は知らないです。そういうことが起こりうるかもしれない、という認識はしています。ただ、非合理的でもやらないといけない状態に、うちの会社はあるので、それはやっているが、そうでなくて、もっと合理的に時間と健康をコントロールできる状態になったならば、少なくとも全館消灯、全員強制退去のような非合理的なことはなくなっていくと思います。」

鎌倉
「どう対処していけばいいのか、経営者としては、どうしていくんでしょうか?」

電通 山本敏博社長
「時間を短くしても従来と同じだけの量と質、あるいは凌駕(りょうが)するようにできるようにしていくことにたどり着かないと、事業が縮小していくということなので、会社にいる人間にとって、自分の会社が日々、縮小していくことに、自分の時間を減らしていくことが健全な働き方として、あり得るのかというと、私はあり得ないと思います。健康であるうえに、さらに良いコンディションで仕事ができる。それが社員にとっても仕事にとっても、結果としてはお客さんにとっても一番いいこと。そのことが実現できるような環境を整えることが責任だと思っています。」

電通“働き方改革” どうみる?

ゲスト 髙城幸司さん(経営コンサルタント)
ゲスト 芦名佑介さん(元電通社員)

過労死をどう防ぐかや働き方改革は多くの企業、そして私たちNHKも直面し取り組んでいる課題です。電通の元社員だった芦名さん、電通のかつての働き方はどういうものだったのか?

芦名さん:電通には“鬼十則”という仕事のモットーみたいなものがあって、例えば自分から仕事を取りにいくとか、絶対に自分が仕事をつかんだら放すなとか、目的・目標を達成しろって、強い文化があったと思うんです。ただ、その文化に社員自身も、だから俺たちは強いんだ、だから俺たちは負けるわけがないといって、自分たちを鼓舞する意味でも、自分たちの自負として持っていた、そういう会社だったと思います。
(今、電通が取り組んでいることをどう見る?)
根本、本質的な働き方改革っていうことよりも、とにかく残業を減らすということに今、注力してるのかなと思います。

髙城さんは、電通の取り組みをどう見る?

髙城さん:まだ現段階において、評価する時期ではないんではないかと思っています。まず働き方改革のゴールというのは、生産性の向上なんですよね。こちらをご覧いただきたいんですけれども、働き方改革には、大きく3つの改革があると思っております。

まず1つ目なんですが、こちらにあるように、残業時間をまず削減するということですね。これが今、電通がやっているステージだと思いますけれども、その次に、実際に今やっている業務を見直していくことによって、さらに効率化を図る第2段階に入っていきます。そして、最終的には、その働き方を前提にして、少ない時間で利益を生み出していけるようなビジネスモデルを第3段階で作っていくということです。実際に業界においては、例えば製造業のようなところで、世界で戦っている会社においては、もう、すでに第2段階、第3段階に進んでいるところであったりとか、人の足りない外食産業においては、どんどん進んだ形でやっている業界も十分あると思うんです。

労働時間を減らして、事業も縮小させない、想像性も確保する。これは両立できるのか?

髙城さん:キーになるのは、マネージメントだと思います。まず2つあるんですけども、1つ目が“エンゲージメント”と呼ばれるんですけども、管理職と従業員、社員の方々どうしのコミュニケーションの量をきっちりすることによって、風通しをしっかりしていくということが1つ。もう1つが、収益性を上げるためのコア業務ということに注力をするように、きっちりと指導していく、これによって成果が出ていくんじゃないかと、私は思っております。

電通に今、必要なことは?

芦名さん:ルールを作るっていうことは、もう今、やっていると思うんですけれども、これからは、そのルールの1個先にある文化を作っていく必要があるのかなというふうにすごく思います。例えば、どういうことかっていうと、無理だったら無理っていう、もちろん、クライアントがある広告代理店なので、クライアントから要望が来ても、それは無理だって断っても許される文化だったりとか、部下が上司に物を言うっていうことも許される文化だったりとか、もっと言えば、電通が下請けの制作会社に発注をして、ただ、その仕事量が多かったら、ちょっと厳しいですって言うことが許されるっていう、そういう文化を作っていければいいんじゃないかなというふうに思います。

この働き方改革に取り組み始めた企業の中には、1つの会社だけで進めるには、困難な壁も見えてきました。

クライアント次第? “働き方改革”の壁とは

インターネット上の広告を専門に扱う代理店です。市場の急速な拡大に伴い業務も増加、対策を迫られてきました。この会社では、3年前から会議を15分以内に終わらせるために立ったままで行っています。

さらに、すべての職場で夜9時に消灯を実施。それ以降の残業を原則禁止にしました。しかし、消灯後も仕事を続ける社員たち。実はこの会社、残業できなくなると困るという社員の強い要望を受け、去年(2016年)、消灯後も残業を認めました。なぜ、こうした事態が起きるのか。広告の大きさや掲載するサイトなどをリアルタイムで変更できるインターネット広告。メール1本で依頼ができるため、同じ広告主からの発注が頻繁に入ります。

広告代理店 社員
「これは15時くらい。12時22分。10時57分なので、バラバラです。」

担当者は、そのたびに広告主に対し、閲覧回数などの報告書を30分近くかけて作っています。仕事が終わる間際に変更を求められれば、残業してでも対応しなければならないと言います。

広告代理店 社員
「基本的にお客様が第一。広告主様が主体となっていて、広告費をいただいている立場なので、どんどん忙しさは募っていく、終わりはない。」

もはや1つの会社だけでは解決できない事態にどう対処するのか。今、業界全体で見直そうと、代理店と広告主である企業の間で協議が始まっています。これまでは電話一本で発注や追加の変更を求められることもありました。そこで、納期などをあらかじめ決める契約書を交わすことで無理な発注をなくそうとしています。

広告代理店側
「実はルールがあってないところがあるので、そこは整備しないといけない。個社がやるんじゃなくて、業界として後ろを押していくスタイルにしたい。」

広告主側
「今まではお互いがずるずるしてきたので、お互いがお互いで、ある意味、厳しく時間というものを含めた物差し、新しく作るだろうことを共有化することによって話し合える場ができるので、そこの所が大事。」

どう乗り越える? “働き方改革”の壁

一企業だけで解決できない業務の見直し、どうやって進めていけばいいのか?

髙城さん:業界のリードカンパニーが率先、垂範していく必要があるんではないかと思っております。それはまさに電通だと思うんですけれども、例えば、ヤマト運輸が配達時間の見直しというものを行ったと思うんです。業界のリードカンパニーが実践したことによって、全体の流れが変わったと思うんです。ですから、こういった形で、各業界のリードカンパニーが、以降、働き方改革を引っ張っていく必要があるのではないかと思います。
(そう見ても電通の責任は重いですね)
そうですね。

働き方改革が、いかに効率よく業績を上げるかということだけに修練していくことに少し危惧を感じるが、働き手の立場ではどうか?

芦名さん:生産性を求める、効率化を求めるっていうのは、もちろんそれは経営側の話なんで、その個人はちょっと違うんじゃないかなと思います。昔の日本であれば、日本が稼ぐこと、会社が稼ぐこと、家族が稼ぐこと、それが幸せだったんですけど、今は稼ぐことが、すべての幸せではないので、もうちょっと個人個人の幸せっていうところに、生産性ではなく幸せってところにフォーカスして、努めていければいいんじゃないかなと思います。

働き方改革をするには、企業も労働者も根本的に考え方を変える必要があると思うが、今の日本でできるのか?

髙城さん:これまで何回も待ったなしと言われてきたことですけども、今回に関しては、企業も個人も十分分かってると思います。ポイントは2つあると思うんで、1つは、やっぱり少子高齢化ということです。働き手が減ってきているということです。もう1つ、やっぱりグローバル化をしていかなくてはいけない。この2点を実現するためには、働き方改革は、本当に待ったなしだと思います。
(人手不足の解消には、働きやすい職場を作らないといけないし、海外で活躍できるようになるには、外国の基準、日本だけのガラパゴス的な基準では通用しない?)
そうですね。

高橋まつりさんの母、幸美さんは“命より大切な仕事はない”と、繰り返し訴えています。過労死や過労自殺で労災認定された人は、ここ数年、毎年200人前後に上っています。働き方改革は、まさに日本の企業、社会にとって待ったなしです。