クローズアップ現代

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2017年7月20日(木)
知られざる“虐待入院” ~全国調査・子どもたちがなぜ~

知られざる“虐待入院” ~全国調査・子どもたちがなぜ~

親からの虐待が原因で入院した子どもが、元気になった後も施設などに入れず、入院を続ける“虐待入院”。NHKの取材では、こうしたケースが全国の病院で相次いでいることが明らかになった。子どもたちはなぜ退院できないのか。“虐待入院”が子どもたちの心身にどのような影響を及ぼすのか。知られざる実態に迫り、“虐待入院”を減らすために何が求められているのかを考える。

出演者

  • 奥山眞紀子さん (国立成育医療研究センター こころの診療部部長)
  • 村堀 等 (NHK記者)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

初めて明らかに “虐待入院”の実態

増え続ける児童虐待。その陰で国も把握していない深刻な事態が広がっています。

親から育児を放棄された赤ちゃん。栄養不足の状態で病院へ運び込まれました。治療が終わったあとも親元にも帰れず、施設にも入れないまま半年近く病院で過ごしています。虐待された子どもが、治療の必要がなくなってからも入院を続けざるをえない、「虐待入院」です。

医師
「(虐待で)居場所がなくなった子どもが、さらに居場所がないことで苦しめられる。異常事態だ。」

今回NHKは、全国の医療機関で初めて行われた調査結果を入手。こうした子どもが少なくとも356人に上ることが分かりました。明らかになった虐待入院。社会と隔絶した病室で長期間過ごすことで、心身への影響が懸念されています。こうした入院は中学生以上にまで及び、学校に行けなかった子どももいます。

虐待から逃れたはずの子どもたちが、なぜ再び苦しまなければならないのか。知られざる虐待入院の実態に迫ります。

全国で児童虐待が深刻さを増しています。去年(2016年)3月までの1年間の虐待相談対応件数は、およそ10万件。これは10年前のおよそ3倍に上っているんです。そうした中で、さらにに子どもたちを苦しめている事態が明らかになりました。それが「虐待入院」です。虐待を受け病院で治療を受けた子どもは、入院の必要がなくなれば、本来、親元に戻るか、施設や里親などで養育を受けます。ところが元気になっても行き先がなく、そのまま入院を強いられるケースがあるんです。私たちはこの不必要な入院を「虐待入院」と呼ぶことにしました。

田中:今回、小児科医のグループが全国454の医療機関に行った調査で、去年までの2年間でこの虐待入院を経験した子どもが全国に356人いたことが初めて分かりました。虐待入院の日数が1か月もの長期に及ぶケースがおよそ3割。最長で9か月近くも入院を続けた子どももいました。また虐待入院を経験した年齢については、生後間もない乳児から中学生以上の幅広い層に広がっていました。

虐待入院はなぜ起こるのでしょうか。

“虐待入院” 知られざる実態

埼玉県立小児医療センターの虐待対応チームです。この病院には、親から虐待を受けて傷ついた子どもが数多く運ばれてきます。

「(こういった骨折は)局所に打撃が加わった場合に起こる。蹴られたとか殴られたとか。」

暴行を受け肋骨が折れた子ども、育児放棄で皮膚が変色してしまった子など、命に関わるケースも少なくありません。

「医学的には保護が必要な虐待である。けっこう重症。」

救急で運び込まれてきた赤ちゃんです。呼吸が弱った状態で、病院は親の虐待を疑いました。その後、治療を終え入院の必要はなくなりましたが、2週間近く退院できずにいます。
通常、治療が終わると、児童相談所の判断で子どもを親元に戻すか施設に預けることになります。しかしどちらにも行けない場合、病院にとどまらざるをえず、虐待入院となるのです。この病院では無理やり退院させるわけにもいかず、回復したあとも経過を見守るという名目で入院を続けさせています。

「ステーブルというのは“安定している”という意味です。もうほとんど何もやることがない状況。」

入院が長引くことで、過去には他の患者に影響が出たケースもありました。治療の必要がない子どもを長期間受け入れたため、ベッドに空きがなくなり、救急の受け入れ要請を断らざるをえなかったこともあったといいます。

埼玉県立小児医療センター 鍵本聖一医師
「いま満床なので、よその病院をあたってくれ』ということはありました。集中治療とか救急とか難病とか、そういうお子さんをしっかりみなくちゃいけないというミッションがある。これは何とかしなくてはならないところだと思います。」

知られざる“虐待入院” 背景に何が

虐待入院はなぜ生まれるのか。今回の医療機関への全国調査では、「退院できるのに児相が放置している」など「児童相談所の対応に原因がある」という回答が数多く寄せられました。

 

リポート:野田綾(ネットワーク報道部)

愛知県の児童相談所です。実情を知ってもらいたいと、今回取材に応じました。昨年度の虐待の相談件数は450件。5年前の2倍に上ります。親元に戻せない子どもの受け入れ先を決めるのは児童相談所です。しかし、空きがある施設や里親をすぐに見つけることはできません。愛知県内の施設の入所率を示した資料です。県内43か所の施設の多くが80%を超えています。全く空きがない施設も少なくありません。

愛知県 尾張福祉センター長 前田清さん
「受け皿そのものがまだまだ不足しているところがあって、われわれは当然考えて動いてはいくが、目いっぱいで空きがないところは交渉しても空くまで待つしかない。」

さらに虐待入院を増やす要因となっていると見られるのが、児童相談所の人手不足です。急増する虐待の相談に対し、児童福祉司の数が追いついていないのです。

この相談所の福祉司は13人。1人が年間およそ50件の案件を抱えています。親との面談や関係機関との調整にも時間がかかるため、結果的に年に数件、2週間程度の虐待入院が生じてしまう現状があるといいます。

愛知県 尾張福祉センター長 前田清さん
「親とのアポイントだとかいろんなことで、しかも1人だけじゃなくて複数の関係者と会ったりするのを考えると、医療機関からしたらかなり長期のあいだ必要のない子を入院させておかざるをえない状況が生じる。」

一方で、子どもを受け入れる施設側にも入所を断らざるをえない事情がありました。埼玉県の児童養護施設です。現在2歳半から18歳の子どもたち80人が暮らしています。ここでは空きがあったとしてもすぐには受け入れることができないといいます。その背景には、厚生労働省が進めている方針があります。施設に対し、かつてのように大人数ではなく、小規模で家庭的な雰囲気の中で子どもを育てるよう要請しています。年齢構成や子どもどうしの相性なども考慮するため、条件に合わなければ入所を断ることがあるといいます。

児童養護施設 施設長 藤井美憲さん
「本来は入所する子どもを選んではいけないことになっているが、受け入れる条件が整わないと難しいところがある。本当は受けたいけど条件や状況からいって難しいというケースが受けられない。それがすごくもどかしい。」

“虐待入院” 知られざる実態

ゲスト奥山眞紀子さん(国立成育医療研究センター 部長)
村堀等(NHK記者)

虐待入院で子どもが追い詰められている現状をどう受け止めた?

奥山さん:それぞれにそれぞれの理由があるということは分かるんですけれども、やはり子どもの身になってみると非常に心の痛む問題だと思うんですね。ヨーロッパで作られた「病院のこども憲章」というのがあるんですけれども、そこの1条では「子どもにとってはどうしても必要な時だけ入院をする」ということ。第2条では「親もしくは親代わりになる人にいつでも会える」ということが書かれているんですね。非常に重要なポイントになることであって、それが守られていないというのは子どもにとって非常に心が痛む問題だと思います。
(緊急避難として、一時的に受け入れるということもありうるのでは?)
緊急避難的にということになれば、医療が必要で、最短の期間、医療機関に預かるということはあってもいいとは思います。

田中:ここで虐待入院の構造を改めて整理します。虐待された子どもを保護する責任を負うのは児童相談所です。退院できるようになっても家庭に帰すこともできない子どもは、本来、施設や里親などの養育先を探すのですが、これが見つからない場合、病院以外に行き場がなくなり虐待入院が起きてしまうんです。

施設の現状は?

村堀記者:都市部では施設不足が深刻なんです。特に東京では都内に7か所ある保護施設のほとんどが定員いっぱいの状態が続いていて、首都圏や大阪・名古屋なども厳しい状況です。一方で子どもが少ない地方では施設の空きがまだまだある状況で、今回の虐待入院の調査でも地域差が見られました。
(そうした地方の空きを利用するというわけにはいかない?)
都市部から自治体をまたいで子どもを預けるということは可能なんです。しかし、遠くの施設だと児童相談所の職員が定期的に子どもに面会に訪れることが難しいとして、あえて近くの施設で空きが出るのを待つというケースも少なくないんです。また地方の施設側も、地元の子どものために空きを確保しておきたいとして受け入れを制限するケースもあり、簡単には施設に入れない状況になっています。

児童相談所が「親や関係機関との調整に時間がかかることが入院の長期化の理由になっている」と説明していたが、本当にやむをえないことなのか?

村堀記者:施設に空きがないという地域では、数日程度の虐待入院が出るというのはしかたがないという面もあります。しかし児童相談所への取材では、たとえ都市部でも、長くても2週間程度あれば施設を見つけることができるという声が多く聞かれました。こうした点から、1か月以上に及ぶ長期の虐待入院は大きな問題だと思います。中には児童相談所が病院に具体的な説明を何もしないまま、5か月間にも及ぶ虐待入院が続いたケースもあります。本来生活する場所ではない病院での虐待入院は避けるべきで、手間がかかるからといった児童相談所側の理由で空きのある施設を探さないのは怠慢だと言われてもしかたがないと思います。

何よりも懸念されるのは、虐待入院が続くことによる子どもたちへの影響です。

“虐待入院” 子どもたちへの影響は

関東地方の病院で虐待入院を続けている赤ちゃんです。成長が遅れていたことから、十分に食事が与えられない育児放棄の疑いがあり、保護されました。赤ちゃんは治療を受け、退院できるまでに回復しました。ところが受け入れ先の乳児院や里親が見つからず、入院は半年近くに及んでいます。病院のスタッフが赤ちゃんの世話をできるのは、業務の合間だけです。食事や入浴など、限られた時間以外はほとんど1人で過ごしています。担当の医師は、虐待入院が長期に及ぶことで発育に影響が出ることを懸念しています。

担当医の手記
“1人で座ることもできず心と体の発達の遅れが心配です。子どもが健全に成長するには、病院では不足していることが大きいと思います。”

“虐待入院” 知られざる実態

虐待入院が子どもたちに与える影響、どういうものがある?

奥山さん:赤ちゃんの場合ですと、例えば家庭にいれば適切な言葉かけがあり、それからいろいろなおもちゃと一緒に遊んだり、それから環境の変化もありますよね。そういう刺激というのが発達に非常に重要なわけですけれども、病院という中では非常に限られた空間で刺激の少ない生活になりますので、発達に影響を及ぼす危険性というのは非常に危惧されると思うんですね。それからもう1つは、子どもはやはり1対1の人間関係の中で守られるということを通して、「人を信頼する」という能力を身につけていくんですけれども、それがなかなかできない。いろいろな人が関わるけれども、「この人は」という1対1の人間関係ができないということが、後にいろいろな影響を及ぼす危険性というのがあると思います。
(例えばどんな影響が?)
やはり困った時に人を頼れないとか、どうしても引きこもってしまうとか、誰にでもベタベタするんだけれどもなかなか本当の関係性が作れないといったような問題が起きてくるということもありますし、将来的に人間関係がうまく作れない状態になるという危険性もあると思います。
(それは数か月こういう状況にあったとしても?)
赤ちゃんにとっての数か月は非常に長いですし、まして乳児期の数か月は非常に長いものだと思います。

田中:今回の調査では病院に子どもたちが長期間いることの、もう1つのリスクも浮かび上がってきました。入院中に親などから再び虐待を受けたと疑われる子どもが少なくとも16人いたことが分かったんです。

例えば親が子どもに面会したあとに新たに骨折が見つかったケースですとか、点滴に異物が混入されたりするケースがありました。親が子どもの入院先を知っていれば、施設と比べて出入りが自由な病院では、こうしたことが起こる可能性があるんです。

虐待入院を国はどう捉えている?

村堀記者:厚生労働省の担当者は、全く想定外の事態だと話しています。厚生労働省は虐待で保護をした子どもを入院させる場合、その期間を最小限にするべきだとガイドラインで定めているんですけれども、今回のような事態が起こることまでは想定していませんでした。また今回虐待入院が明らかになった356人の中には、児童相談所の判断ではなく、病院自らが虐待の疑いがあると判断してそのまま病院で保護をするというケースもありました。今も虐待入院が続いている子どもたちがいるのは事実です。国はまず実態を詳しく把握した上で、虐待入院が長期化するのを防ぐため受け入れ施設を探すまでの期間を具体的に定める必要があると思います。

受け入れる場所は具体的にどう増やしていけばよい?

奥山さん:日本はこれまで施設に頼り過ぎてきたという面があります。海外に比べて家庭環境、里親さんというのが非常に少ない状況にあるんですね。ですから、これからは代替養育として里親さんをできるだけ増やしていって、子どもを受け入れられるようにしていくというのが重要な点だと思うんです。
(そのためにはどんなことが必要に?)
里親さんとチームを組んで一緒に子育てを支援する。そして、もともと子育てに興味のある方と、一緒に育てようという形で里親さんを増やすこともやる。それから研修をしたり支援をしたり、子どもの自立を手伝ったりという、包括的に里親を支援するようないわゆる「フォスタリング期間」と呼ばれるような期間が必要になってくるんだろうと思います。

こうした入院に至るような虐待を防ぐための取り組み、どう進めていくべき?

奥山さん:やはり地域での子育て、あるいは子どもへの支援家庭への支援というのが非常に重要になってくると思います。例えば家庭で家事援助が必要であるとか、親が育て方に非常に不安を持っていて、どこかで親子で通っていろいろと支援を受けられるところとか、あるいは子育てに煮詰まった時にショートステイをする、そういう社会資源をつなぎ合わせながらソーシャルワークをしながら、支援をしていく体制ですね。
(今はそれは見守っているだけという状況?)
そうですね。今はなかなか、そういう虐待をしない家族になる支援というより、見守っているということが多いんではないかと思います。
(そこから一歩踏み出して、虐待をしないような家庭にするために周りが助けてあげるということをもっとするべきだと?)
もちろん、ですからそういう公的な子育て支援だけではなくて、民間もあるいは地域の方々も協力しながら、みんなで一緒に支援をしていく体制が必要なんだろうと思っています。

最後に、番組に寄せられたある女性の声を紹介したいと思います。

4か月“虐待入院”した女性
“入院して救われたと思っていました。しかし、そばにいてくれる人も遊んでくれる人も、ゆっくり話を聞いてくれる人もいませんでした。本当に本当にさびしかったです。”

こうした子どもを救うために、一刻も早く動き出す時だと思います。