クローズアップ現代

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2017年7月18日(火)
なぜ続く“いじめ自殺” ~子どもの命を救うために~

なぜ続く“いじめ自殺” ~子どもの命を救うために~

茨城県取手市で女子中学生が自殺した問題。市の教育委員会は、5月、「いじめ」はなかったという判断を一転、遺族に謝罪した。“いじめ自殺”の調査をめぐる「初動の誤り」は全国で起きていて、いじめはなかったとする学校側の判断が覆されている。4年前施行された法律では、遺族に寄り添い、徹底して調査を行うことを求めているが、教育現場に浸透していない実態が浮き彫りとなっている。取手市の事例から、いじめを巡る教育現場の課題に迫る。

出演者

  • 尾木直樹さん (教育評論家)
  • 白河真梨奈 (NHK記者)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

なぜ悲劇は繰り返される “いじめ自殺”の深層

15歳でみずから命を絶った中学3年の女子生徒。1年半たって、ようやくいじめがあったことが認められました。日本で初めてのいじめを防止するための法律ができたにもかかわらず、子どもの自殺が相次いでいます。

みずから命を絶った中学3年の女子生徒。取手市の教育委員会は、いじめを疑わせる多くの証拠がありながら、当初「いじめはなかった」と判断していました。

茨城県 取手市教育委員会
「いじめがあったことの認識をしっかり持つことも不十分だった。本当に申し訳ございませんでした。」

どうすれば根本的な解決につながるのか。第三者によるチェックで早期にいじめを見抜く取り組みに乗り出した自治体もあります。

大津市 越直美市長
「学校の中の、その閉鎖的な組織から離れて、違う見方をするのはすごく大事。」

学校でいじめが見過ごされ、子どもがみずからの命を絶つ負の連鎖をどう食い止めるのか考えます。

法律ができたのに なぜ 相次ぐ“いじめ自殺”

鎌倉:昨年度、いじめの疑いで14人の子どもがみずから命を絶ちました。いじめを防ぐための法律が作られたにもかかわらず、この10年で最も多い数となっています。
その法律とは、「いじめ防止対策推進法」です。大津市で中学2年の男子生徒が自殺するなど、全国でいじめを巡る問題が相次いだことをきっかけに、教育現場の対応が問題となり、4年前にこの法律は作られました。

この法律では、改めていじめの定義を明確に定めました。本人が「いじめられた」と感じたら、「いじめ」とすることにしました。そして、万が一、自殺などの重大な被害が起きてしまった場合には、徹底調査をして、真相を究明することが求められています。しかし、この法律が作られたにもかかわらず、なぜ、その趣旨は生かされていないのか。なぜいじめが認定されないのか。茨城県取手市の女子生徒が自殺した問題から見えてきました。

なぜ いじめと認めない 当事者が語る深層

使い込まれた鍵盤。毎日、何時間も練習に励んできました。
中島菜保子さん。将来の夢はピアニストになることでした。しかし、一昨年(2015年)11月、みずから命を絶ちました。当時中学3年生、15歳でした。菜保子さんが亡くなって5日後、部屋から日記が見つかります。「いじめられたくない」。「ぼっちはいやだ」。学校でいじめられていたことをうかがわせる内容でした。

奈保子さんの母親 中島淳子さん
「娘がそういう状況だったってことを気づいてあげられなかったから、苦しくなった。」

法律では生徒が自殺した場合、遺族の意向を踏まえ、学校などが調査することになっています。両親の求めで調査が行われましたが、4か月後、いじめはなかったと判断されました。両親の疑念にもかかわらず、その後も1年以上いじめと認めなかった教育委員会。文部科学省から指導を受け、一転、遺族に謝罪しました。

茨城県 取手市教育委員会 矢作進教育長
「いじめがあったことの認識をしっかり持つことも不十分だった。当時の審議自体が適切でなかった。心からおわびを申しあげたい。本当に申し訳ございません。」

奈保子さんの父親 中島孝宜さん
「教育委員会とか学校の姿勢には、もう甚だ不信感しか抱かない。怒りだけ。」

 

リポート:千明英樹(水戸局)

なぜ、調査でいじめは認定されなかったのか。当初、両親はどんないじめがあったのか日記の記述をもとに生徒に聞き取りをしてほしいと求めました。
教育委員会が生徒への聞き取りで実際に使った調査用紙です。

その質問項目の1つ。「菜保子さんが学校生活で悩んでいるようだったのですが分かることはありますか」。調査用紙には「いじめ」や「自殺」という具体的な文言は使われていませんでした。
調査に問題はなかったのか。当時の責任者に直接ただしたところ、子どもたちを動揺させないための配慮だったと答えました。

茨城県 取手市教育委員会 矢作進教育長
「あまりそのことがはっきり分かるような調査ができないというところに(生徒たちへの)配慮があったために、質問がぼやけてしまったり、もうちょっと突っ込んで調査もしなくてはならなかったと思う。」

しかし実際には、生徒たちは菜保子さんに対するさまざまな嫌がらせを目撃していました。

友人
「バスケのチーム決めで奈保子さんをはぶっちゃったり、グーパーで決めるとなっていたが、奈保子さんだけ違うのを出させてみんな同じのを出して、奈保子さんだけを1人にして。」

友人
「2学期ぐらいになってから『くさや』と呼ばれるようになって、なんで『くさや』なの?って聞いたら『くさいから』と(言っていた生徒が)笑いながら答えてて。」

さらに、生徒の一部はこうした実態を学校側に伝えていたといいます。

友人
「(同学年の子が)奈保子さんをよく無視したりとか、悪口をよく言ったりとか、そういうことを(先生に)話した。」

友人
「先生と話して、いじめがあったとか言った。そのときは『わかった』とか『そうなんだ』とか言ってくれた。」

こうした証言があったのに、なぜ学校は菜保子さんへのいじめを認めなかったのか。
菜保子さんを傷つける呼び方について、後日、聞き取りした際、生徒たちは「意味が分からずに使っていた」などと回答。学校はそれ以上調査しませんでした。いじめを想像させる証言や出来事が複数ありながら、深く調べなかった学校や教育委員会。その理由を、調査に当たった複数の関係者に問いました。

取材メモより
“生徒にいじめの疑いをかけるということは非常に重たいかなと。いじめの疑いがあるとすると、生徒は『自分たちがやったことで亡くなったのか』と思うじゃないですか。何かあったときにも、生徒たちを決して犯人扱いしないのが原則なんです。目の前で見てないかぎりは。もし万が一間違ったら大変じゃないですか。”

生徒たちへの配慮から、突っ込んだ調査ができなかったという学校と教育委員会。実はいじめと認めなかった理由はそれだけではありませんでした。学校関係者は、いじめを認めるとそれが自殺の原因と認めることになりかねないと、ちゅうちょがあったといいます。

取材メモより
“(いじめの)疑いを認めるということは、自死につながったいじめがあったということを認めることと捉えられてしまう。”

結局、いじめはなかったものとされたのです。

「日記・証言が出てきて、なぜいじめの疑いという判断に至らないのか?」

茨城県 取手市教育委員会 矢作進教育長
「教育委員会として(いじめを)なしにしたいとか隠ぺいしたいとか、そういう思いはなかった。そうとられるような話になってしまうので、今後そういうことがないようにしていきたいと思う。」

奈保子さんの母親 中島淳子さん
「誰ひとり、先生方で寄り添ってくれた人はいない。先生が違う人格になってしまって、いろんな意味で傷つけられた。ずっと傷つけられてきた。」

なぜ いじめと認めない 浮かび上がる要因

ゲスト尾木直樹さん(教育評論家)
白河真梨奈(NHK記者)

なぜ学校側は、いじめがあったと認めようとしなかった?

白河記者:大きな要因の1つは、学校や教育委員会の子どもたちに対する過度な配慮です。VTRにありましたように、もちろん、学校現場ですから子どもを犯人視することはできません。また子どもたちの今後の学校生活に対しても、一定の配慮が必要なことは分かります。しかし、行き過ぎた配慮から一歩踏み込んだ調査ができないとなりますと、これは事実の解明の妨げになってしまいます。

自殺といじめの因果関係を認めることを、ちゅうちょしてしまうのはなぜ?

尾木さん:これは端的に言いますと、自殺の事件が起きた夜だとか、その日に担任が駆けつけたりすると、「申し訳ありませんでした」「私が気がつかなかった」って、まずおわびされることが多いんですよね。ところがあくる日になると、ころっと変わってしまうと。先ほど、お母さんがおっしゃってましたけど、「先生方の人格が変わってしまった」とおっしゃってるでしょ。そこにある大きな原因というのが、担任(自分)が責任を取るのは取れるけれども、でもこれは校長にも迷惑がかかるし、教育長にも迷惑かかると。結局は損害賠償とか係争になったときには、大変な金額の損害賠償も関わってくるということを、どんどん入れ知恵されてくると、先生方の口が固くなってしまって、悩みながらも本当のことが言えない、そういう状況に追い詰められてるというのが真相じゃないかなと思いますね。
(その自殺の真相の究明よりも、子どもたちへの配慮や、責任を追及されないということが優先されてしまうという状況になると。)
大きな問題になっちゃうというのが怖いんだと思いますね。

“いじめ自殺” 真相究明なぜ進まない

ただ、この法律では徹底した調査をするということになっているはずでは?

白河記者:法律では、自殺などの重大な被害が出た場合は、まず学校が調査をして、その背景にいじめが疑われるときには、第三者委員会を設置して、詳細な調査を行うことになっています。

ところが、今回のように学校の調査でいじめの疑いを認めないことによって、真相が究明されずに、遺族を長期間、苦しめるケースが相次いでいるんです。
一方で、第三者委員会の調査が終わったケースというのが、全国で14件あります。
この14件のうち、当初、学校や教育委員会がいじめを認めずに、第三者委員会がその後、一転していじめを認めたケースが、全国で5件あります。これは実に3分の1に上っていて、学校による調査が一部では機能していないことが見えてきました。

“いじめ自殺” 法律があるのになぜ

教育現場には法律の趣旨は浸透しているのか?学校の先生は知っているのか?

尾木さん:これは僕も浸透してると思い込んでたんですけれども、そもそもいじめ問題がクローズアップされてきたのは今から37、8年前からなんですよね。何十年もたってくると、慣れが出てきてるってことが1つ、すごく思いますよね。
だけれども、実際に法律化とか、文科省は一生懸命取り組んできて、蓄積がされてますから、どんどんいいガイドラインだとか、法律まで作ってきたわけですよね。ところが、これが実際に行われているのかっていうのは、形の上ではホームページとかいろんなところで行われているんです。だけども実態が空洞化して、さぼってるわけではないんでしょうけれども、行われていないという、そういう状況になってるということが言えます。
(『慣れが出てきている』というのは?)
やっぱり、いじめって、自殺事件が起きたときは大変な衝撃が走ったんですよね。それからいろんな整備がされたり、メディアも一生懸命報道してくださったりして、1996、7年には、ぐーんといい方向にいくんです。ところがそのあと、今度は校内暴力、いろんなこともあるんですけれども、どんどん慣れてきてしまった。「いじめ」という言語そのものにも。だから受け止め方が、僕なんか何十年もやってると、ああ、こんなに前進してきたとか、ここに重点を置かないといけないとか見えるんですけども、現場の先生方や教育委員会の方も、年齢の若い人も入ってきますから、そこの「重み」が見えなくなってるんじゃないかと、そんな気がします。

鎌倉:4年前に作られたいじめ防止対策推進法。その大きな柱、もう1つが、被害を出さないためにいじめを早期に発見して、必要な対策を取ることです。この法律が出来たきっかけとなった大津市では、新たな取り組みを始めています。そのキーワードは、第三者的な視点です。

第三者の目で“いじめ”早期発見

授業を行う教師とは別に、もう1人生徒の様子を観察する教師が。担任は持たずに、第三者的立場でいじめを早期に発見することを専門にしています。いじめ事件をきっかけに、4年前から大津市内すべての小中学校に配置されました。この学校では、いじめ専門の教師は2人。いじめの手がかりをつかむ手段は、生徒を観察するだけではありません。誰もいない教室からも兆しが見いだせるといいます。

「見るのはどんなところですか?」

いじめ対策専門の教師 北脇泰江さん
「写真が気になります、私は。(写真に)画びょうを刺した跡とか、傷つけた跡があったりとかするので。個人名が書いてあるところに、塗りつぶしたり、いたずらがないかなと。」

午前中の休み時間に、いじめ専門の教師が急きょ保健室に向かいました。廊下でうずくまって泣いていた生徒が運び込まれたのです。いじめの疑いはないか、丁寧に事情を聞き取ります。

いじめ対策専門の教師
「今日してきたのは『ふざけて』やと思う?それともやっつけようと思って?」

いじめ対策専門の教師 北脇泰江さん
「いつもは仲ようしてんのにな?」

ふだん親しい友達とふざけ合っているうちに、手を出されたというのです。この出来事を受けていじめ専門の教師が緊急の会議を呼びかけました。

いじめ対策専門の教師 北脇泰江さん
「何か手を打たんとあかんと思うんです。」

今後、いじめに発展しかねないケースだと判断。手を出した生徒に謝らせたうえで注意深く見守っていくことにしました。

いじめ対策専門の教師 北脇泰江さん
「(相手の生徒からは)あまり深い『やってやろう』という意図は感じられない。両者の関係がきちっと修復されているか、(今後も)見守りが必要。」

いじめへの対応は、学校の中だけではありません。
大津市では、学校の外からもいじめに対して目を光らせる仕組みがあります。市長が指揮を執る「いじめ対策推進室」です。いじめ事件をきっかけに、4年前、設置されました。ここには弁護士や臨床心理士など、専門的な知識を持った4人の相談員が常駐しています。

通常、ほかの自治体では、いじめの問題が起きると教育委員会に報告が上がります。しかし大津市では、教育機関だけの対応では不十分だとして、いじめ対策推進室にも問題を報告する仕組みを作りました。第三者の目で学校をチェックしようというのです。学校を介さずに、生徒や保護者が直接相談することもできます。
ここに寄せられる相談は月に10件ほど。相談員が対応したあるケースです。友達に、たたかれるなどのいじめをきっかけに登校できなくなった子ども。どうすれば学校に戻ることができるのか。相談員が子どものもとを訪れました。丁寧に話を聞くと、仲のよい友人がそばにいれば安心することが分かりました。そのことを学校に伝え、席替えが実現したことで、学校に通えるようになったといいます。

相談員
「学校以外のところで気軽に子どもが相談できるところ、いろんなところで子どもを受け止めて支援する必要があるんじゃないか。」

市長の下にある対策室が教育現場に介入する異例の取り組み。大津市の模索が続いています。

大津市 越直美市長
「学校の中の閉鎖的な組織から離れて、違う見方をすることが大事。いじめが、いつでもどこにでもあるものだという気持ちをもって常に見ていかないといけない。」

いじめ 第三者入れる取り組みは

尾木さんは、大津の事件では実態解明をする第三者委員会の委員でもあったが、この取り組みを今どう評価している?

尾木さん:僕は高く評価していいと思うんですよね。だからやっぱり、先生方はいじめに気付いてほしいんですけれども、ただ、今のいじめというのは、SNSだとかLINEだとか、いろんなもので見えにくくなっていて、しかも昨日までいじめられてた子が逆にいじめてしまうというように流動化したりとか、透明化・流動化というのが非常に激しくて、それも日常的に行われてるから、だからこういう第三者の人たちが入ってきて、やっぱり多角的な目で見てもらって助けるってことは、非常に重要だと思います。

鎌倉:大津のように、第三者の目を生かしていじめを防ごうという取り組み、ほかの地域でも始まっています。例えば岐阜県可児市では、常設の第三者機関が、学校を定期的に見回ったり、直接、子どもや保護者から相談を受け付けたりしています。また千葉県柏市では、いじめに関する情報を子どもたちが教育委員会に直接匿名で携帯電話から通報できるアプリを市内の公立中学校に導入しています。

こうした取り組みを全国にもっと広げていくには、どんな課題がある?

尾木さん:やっぱり大津みたいに、ずっと入っていくのは、なかなかちゅうちょされる首長さん、市長さんもおられるんですね。それはやっぱり、教育委員会は独自性をずっと保ってきましたから、そこへあまりにも介入しすぎてはいけないんじゃないかと。それからもう1つ、正直なところ、あまり責任を持ちすぎて重荷になるのも嫌だなというふうに思われる首長さんも少なくはないような感じがしてますね。ただ、これは命が第一ですから、そんな縄張りのことを言ってないで、やっぱりやってほしいなと思いますね。

いじめ 子どもの命を守るために

いじめの被害、自殺、こういった問題を食い止めるために、いじめそのものをなくすために、私たちには何ができるのか?

尾木さん:やっぱり一番重要なのは、担任の先生方なんですよね。先生方がやっぱり、ぱっと心が動いて、『あっ、あの子は笑ってるけれどもつらいんだな』っていうような、ぱっと気付ける、そういう感性、人間性豊かな教師になってほしいと思うんです。ところが今、労働問題なんかでも、11時間半も1日働いてるとか、もう完全に無理なんです。だからやっぱり、社会的な支援というのも、いろんな形でPTAも、それからメディアも、社会的な支援で学校をバックアップしているというメッセージを出すことも重要で、もう本当にスポットでもいいから、『いじめをなくしましょう』というのでも、テレビなんかでも流してもらえると僕はうれしいなと思います。
(社会全体が当事者として学校をサポートしないといけないと?)
そうですね。そしてやっぱり人権が尊重される、誰もが安心・安全な学校を作っていくという、そこの一点で、みんな力を出してもらえればうれしいと思います。
(いじめをなくすことはできますか?)
これはできます。世界の動き見てますと。必ずできます。

いじめをなくし、子どもの命を守ることは、待ったなしの課題です。子どもを学校任せにするだけではなく、私たちも当事者として、社会全体で支える段階にさしかかっています。