クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2017年6月13日(火)
おひとりさま上等!“没イチ”という生き方

おひとりさま上等!“没イチ”という生き方

配偶者を亡くし単身となった人たちが自らを“バツイチ”ならぬ“没イチ”と呼ぶ動きが広がっている。死別の悲しみから一歩踏み出し、新たな生き方を切り開いて行こうというのだ。こうした動きに企業も注目。“おひとりさま専用旅”や“高齢者専門の結婚相談”など没イチを意識したビジネス参入も拡大している。平均寿命が延び“人生百年”とも言われる今、誰もが“没イチ”を長く生きる時代がそこまで迫っている。

出演者

  • 小谷みどりさん (第一生命経済研究所 主席研究員)
  • 垣添忠生さん (日本対がん協会 会長)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

老後を生き抜く術 “没イチ”という生き方

バツイチならぬ、「没イチ」という言葉をご存じでしょうか。長い老後を生き抜くための今、注目のキーワードです。

複数での参加は厳禁という、大人気のおひとりさまツアー。今、このツアーへの参加が目立つのが没イチの皆さん。伴侶と死別して独り身になった人たちです。

自らを没イチと呼ぶことで暗いイメージを払拭し、新たな人生を前向きに生きようとしています。実は、中高年向けの婚活ビジネスでも、没イチは注目の的なんです。
どんなご夫婦も最後はみんな、おひとりさま。没イチになった心境とは?そして楽しむ秘けつは?一緒に考えます。

死別の悲しみを越えて “没イチ”という生き方

配偶者と死別した人が笑顔になると評判の集まりがあります。「没イチの会」。

立教大学で死生学を教える小谷みどりさんの呼びかけで結成され、定期的に交流会を開いています。同じ境遇の人同士、話しづらかった心の内も隠さずに打ち明けられるといいます。

「うちなんか、がんでしょ。もう『頑張れ』なんて言えなかった。『もう楽になろうよ』って、そういう気持ちばっかりですよ、最後は。」

互いの趣味を披露し合ったり、時には若者向けのディスコに一緒に繰り出したり。暗さは全くありません。
6年前に妻と死別したメンバーの三橋建一さん。この会に出会う前は、自宅でふさぎこむ日が続いていたといいます。三橋さんは、妻の朋代さんを6年前、がんで亡くしました。

三橋建一さん
「今年が七回忌です。」

自動車会社のエンジニアで、毎日深夜まで働きづめだった三橋さん。妻、朋代さんは、笑顔で家庭を支え、2人の子どもを育て上げました。妻を亡くした喪失感は大きく、朋代さんが使っていたものに、これまで何一つ手を付けられないできました。寝室も当時のままです。

三橋建一さん
「今だって、特に朝夕なんていうのは、シーンと静かで物音ひとつしない中で、ポンと一人だけいるんですけど、その時いつも思うのは、俺生きてるのかな。」

1人で住むには広すぎる家。言い知れない孤独感に襲われる日々。

三橋建一さん
「腑抜けましたよね。支えてくれるものがなくなったなって。家にいてもいられないし、どこに行くといっても、もう仕事もないし。目的も何もないんですよね。どうしても居場所がほしい。」

そんなある日、目に留まったのが、中高年向けの大学の募集でした。50歳以上のシニアが学び直し、再チャレンジをするためのセカンドステージ大学。ここで、あの没イチの仲間たちと出会ったのです。

『没イチの会』 参加者
「(妻は)東南アジアが好きで、年に2、3回は東南アジアに行ってて。発病して、そのあと帰ってきて、1か月で亡くなっちゃったんですけどね。」

没イチの会の仲間の話に耳を傾けるうちに、三橋さんの心も次第に和らいでいきました。

三橋建一さん
「ちょうど今年の8月で満6年になるんです。7年目に入る。がんで亡くなりましてね。まさか死ぬとは思わなかったですよね、間際までね。必ず生き返ると思ってた。真夏に突然体調を崩して、そうなると、もう、あれよあれよ、一気に悪化しちゃう。」

行き場のない思いを、ようやく仲間と分かち合うことができました。
最近、三橋さんにある変化が起こりました。先延ばしにしていた、妻の遺品の片づけを始めようという気持ちが芽生えたのです。亡くなってから6年。初めて手にする妻の手帳です。

三橋建一さん
「2005年の手帳ですね。初めて見た、僕。びっしり書いてありますね。まずかったかな。」

“5月15日 血圧が下がり、朝から口がもつれ、頭も痛い。どういうことなのか。”

三橋建一さん
「嫌だね。」

「見る気になれなかった?」

三橋建一さん
「見ようという気になりませんでしたね。これはもう本人の物だからね。死んでも本人の物は読んじゃいけないと思ってましたから。でも読んじゃったね、今ね。」

直視することの難しかった妻の死。
それと静かに向き合いながら、三橋さんは新しい生活に踏み出そうとしています。

おひとりさま上等! “没イチ”という生き方

ゲスト 小谷みどりさん(第一生命経済研究所 主席研究員)
ゲスト 垣添忠生さん(日本対がん協会 会長)

没イチの会の呼びかけ人でもある、小谷みどりさん。
没イチという言葉に、どういった考えを込めている?

小谷さん:私自身、6年前に夫が亡くなったんですけれども、配偶者の関係を聞かれる選択肢が未婚、既婚、離死別っていう。
(離死別?)
離婚と死別を一緒にされているという選択肢に、すごく違和感を感じたんですね。離婚する方は4組に1組しかいない。でも、死別するカップルは、すべてのカップルがどちらかが死別するわけです。だけど、その死別をした人に対して、かわいそうという世間の目って、すごくあるんですね。そういう世間の受け止め方を変えたかったんですね。
(没イチという言葉で?)
バツイチって、みんなが言えるように、同じく、私は没イチですって言ってもらえるような世の中にしたかったです。

没イチの会では、どんなことを語り合っている?

小谷さん:例えば、亡くなった方の仏壇に、いつまでごはんを供えるかとか、毎日ごはんを変えるの大変だけど、なんかいいアドバイスない?とか、それから亡くなった配偶者がいつまで夢に出てきたかとか、そういう同じ境遇の人だからこそしゃべれる話題というのがあるんですね。

そして10年前、奥様をがんで亡くし、その体験を著書にもまとめられている、医師の垣添忠生さん。
垣添さんは、奥様の死というものをどういうふうに乗り越えてこられたんですか?

垣添さん:私は40年間結婚していて、子どもはいませんでした。妻の余命が3か月というのを知った時、覚悟はしていましたけど、実際に亡くなってみると、もう対話ができないということで、本当につらい、死ねないから生きているというような、そんなつらい日々を送りましたよ。特に最初の3か月は、ひたすら酒に溺れて、それから家にいると涙に暮れるというような状態でしたが、1年がかりでだんだんと体を鍛えたり、全く新しいことをして立ち直るというようなことをやってきました。
(それは自然と、そういう力は時とともに出てきた?)
私は1人で立ち直ろうと思っていましたので、いわゆる自分でグリーフワークというのをやった。
(グリーフワーク?)
自ら悲しみに向き合って、それに立ち向かうということでしょうか。

田中:今年(2017年)は、団塊の世代が70代に突入する年です。今後、本格的な超高齢社会を迎える中、配偶者と死別する人の数は増え続けています。こちらは、65歳以上で配偶者と死別した人のグラフです。ここ25年で1.5倍に増加しました。

3世代同居が一般的だったかつてと違いまして、核家族化が進んだ今、配偶者との死別が即、1人暮らしの没イチに結び付くケースが増えると見られます。また、配偶者との死別後の生活に、男性と女性では違いがあることが、小谷さんの最新調査で分かってきました。まず、外出する時間が増えたと回答した人の割合は、女性が50%と、男性よりも高い傾向にありました。一方、誰とも一日中、話さないことがとても増えた人の割合は、男性が高い傾向にありました。また、現在の幸福度について10点満点で尋ねた結果、最も多かった回答は、女性が8点、男性は5点でした。

女性の方が、死別後の生活はアクティブで、幸せを感じる度合いも高いということだが?

小谷さん:世話をしなきゃいけない夫がいなくなれば、女性は自由になりますからアクティブになりますよね。一方、男性は自分が先に死ぬと思い込んでいるんですね。妻に先立たれると、妻だけが頼りっていう人が多いので、もう路頭に迷ってしまう。

垣添さんは、がんの専門医として、配偶者を亡くした方を数多くご覧になってきたと思うが、一般的に立ち直るまでの期間は、どのくらいかかる?

垣添さん:やっぱり長く結婚生活をしていた伴侶を失われるということは、強い精神的な衝撃を受けますから、大体少なくとも1年くらいは苦しい状況でして、だんだんと戻ってくると。中には、多少軽いうつの傾向があるような方は、それが2年、3年と長く続くという方があります。それから、極端な場合には自死される方もあるということで、なかなか大きな問題です。
(そうならないためには?)
ふだんから人とのつながり、特に社会とのつながりをしっかり作っておくということが大事だと思います。
(それは、例えば定年になる前とか?)
定年になる前から、定年になって会社とのつながりが切れてしまうと、本当に孤立してしまう方が多いものですからね。
(ふだんから、地域とのつながりとか?)
そうです。それからボランティアをやるとか、やっぱり社会とつながっていくということがとても大事だと思います。
(そのことが立ち直るための期間を短くもするし、その後の生活を豊かにもすると?)
そのとおりだと思います。

増え続ける没イチの人たち。中には、没イチになったことを前向きに捉えて、新たな楽しみ方を見つけた人たちもいます。

“没イチ”に大人気 おひとりさまツアー

今、没イチの人たちにちょっと不思議な日帰りバスツアーが人気です。その名も、集合場所確認ツアー。参加者の向かう先は、人気の観光名所、東京都庁ではなく、その駐車場の入り口!?実はこれ、初めての一人旅のための準備なんです。本格的な旅に出る際、集合場所に迷わず行けるようにするためのもの。ターミナル駅や空港など、主な集合場所をひたすら下見し続ける予習ツアーです。

添乗員
「(駅からここまで)途中に階段、エスカレーター、一切上り下りしません。これがポイントなんです。途中階段使ったら変だなと思ってください。いいですか?」

参加者の大半は、この下見ツアーを経て、一人旅専用ツアーに参加します。バスの中では、1人で2席を使用でき、初対面の相手に気を遣う必要はありません。さらにホテルも1人で1部屋利用を徹底。多くのツアーが夫婦や友人など、複数での参加を前提にする中、没イチの気持ちにも細やかに対応してくれると大人気です。

旅行会社 支店長 松村貴夫さん
「死別したお客様、やっぱり社会と関わりを持ちたいとか、会話を持ちたいとかっていうお客様のために知り合い参加をお断りして、なるべくツアーの中で、和気あいあいとお話をしていただけるコミュニティーを形成していただける仕掛け。」

さて、話を集合場所確認ツアーに戻しましょう。参加者の7割は女性。没イチが増えています。人気の秘密は、合間に設けられた自由時間です。長い1人暮らしの中で遠ざかっていた新たな人との出会い。そのまたとないチャンスです。

「お二人はお友達なんですか?」

ツアー参加者
「違う違う。ここで隣の席だったの、初対面。」

不安気だった没イチの女性たちも、同じ立場の人と言葉を交わすうち、徐々に自信を取り戻します。

60代 夫と死別
「こういう企画があればまた自信を持って来れる。飛行機乗って行けるよね。」

70代 夫と死別
「これから一人でやらなきゃいけないなってこともあるかしらね。独り立ちしなくちゃいけませんものね。」

参加者同士すっかり打ち解け、まるで学生時代の修学旅行のような盛り上がり。どこか明るい解放感が漂う、新しい旅立ちです。

「一番良い時かもしれない、今が。」

おひとりさま化が進む社会を研究してきた、上野千鶴子さん。没イチをもっと前向きに捉えてほしいといいます。

社会学者 上野千鶴子さん
「没イチがマイナスなんてことはちっともないですよ。おひとりさまの暮らしを支える最強の都市インフラは、私はコンビにだと思ってるんですけどね。男の人に家事能力がなくても、食生活を守っていくってすごく大事ですから、ちゃんと生きていける。妻のほうは“配偶者ロス”をお感じになる方もいらっしゃいますが、大体3年ぐらいで回復なさって、とても人生を謳歌なさる。こういうことも、いろんな研究から明らかになっております。」

田中:没イチの人たちの間では、今、婚活も盛んになっています。こちらは、大手結婚相談所が中高年の人向けに始めた、新しい相談サービスです。没イチの会員数がここ2年で2倍以上に増加しています。

ただ、没イチの人たちのパートナー探しは一筋縄ではいきません。まずは、子どもの反対。親の再婚への抵抗感だけでなく、結婚すると相続財産の取り分が変わるため、子どもから賛同を得られないケースがあるといいます。そして、介護の問題です。義理の親や配偶者を介護した経験がある人は、苦労や悲しい経験を繰り返したくないと、再婚をためらうこともあるそうです。ほかにも、配偶者の思い出の品や、仏壇、位はいを処分することができないので、同居は望まないとか、結婚をすると、遺族年金がなくなるといった悩みもあるようです。そこで再婚して同居ではなくて、同居を前提としない恋人のようなパートナー関係を望む人も多いということです。

こうしたさまざまな問題や不安、そして、亡き人への思いを抱えながら、今までの人生を思い切ってリセットし、新しい人生を生き直す人もいます。

人生をリセット “没イチ”として生き直す

夫の死をきっかけに専業主婦を卒業した女性がいます。斉藤恵さん、54歳です。

東京のマンションを売り払って、故郷の岩手に引っ越し、女性向けのサロンを起業したのです。足裏をさすったり、ハーブティーをふるまったりして、ストレスを和らげてもらいます。

斉藤恵さん
「(昔は)主人がいて、子どもたちがいて、『斉藤さんの奥さん』『何々君のママ』っていう、人格がないような気がしていた。今は自分の考え方ひとつで、ちゃんと生きていける自信がつきました。」

夫にがんが見つかったのは7年前。斉藤さんは痛みに苦しむ夫の体を毎日さすり、闘病を支えました。

斉藤恵さん
「夫の足をさすってあげると『気持ちいいよ、ありがとう』と言ってくれる。やっぱり、足をさすってあげるだけでも、こんなに気持ちが伝わる。」

夫は念願だった息子の結婚式を見届け、まもなく亡くなりました。
ところが夫の死後、斉藤さんは思わぬ問題に直面します。葬儀や墓を巡って夫の親族と意見が食い違い、関係がぎくしゃくしてしまったのです。悩んだ末、斉藤さんは親族との関係に区切りをつける姻族関係終了届を提出することにしました。いわゆる死後離婚です。亡くなった伴侶の親族との関係を解消する死後離婚は、親族とのすれ違いに悩む女性を中心に、ここ数年増えています。

斉藤恵さん
「これで身も心も、実質的に縁が切れた。すごく自分が自由になれた気がしました。」

1人になった斉藤さんを支えたのは、夫に施していた足もみでした。ほかの誰かの役に立ちたいと、専門学校でさらに技術を磨き、サロンの開設にこぎ着けたのです。過去のつながりを清算して、自分の力で新たな人生を切り開きたい。斉藤さんの決意です。

斉藤恵さん
「自分がきちんと前向きに生きていけば、いつでも主人がそばにいて、見守ってくれている。その気持ちは、確かに支えになっています。」

おひとりさま上等! “没イチ”という生き方

夫への思いがありながら、死後離婚に踏み切る、こうした選択をする方が出ている背景には、どんなことがある?

小谷さん:従来は、女性が結婚するということは、家に入る、嫁になるという考え方がありましたから、夫が早くして亡くなっても、妻は嫁として、しゅうとめの介護をするということが一般的にありました。ところが、昨今は結婚するということは、夫婦共に平等なパートナーシップを築くことだっていう考え方が浸透していますから、夫が亡くなったあとは、夫方の親戚とはつきあいたくないっていう方も増えてきています。
(そうすることで、1人の人生をまた生き直す契機にする?)
誰々の嫁とか、誰々の妻という生き方ではない、新たな生き方ができるっていうことだと思います。

人生百年と言われる超高齢社会を迎えているが、長い老後を没イチとして生きていくために、何が大切なこと?

垣添さん:私、VTRにありましたけれども、再婚する気持ちはないんですね。妻の思い出が深く心に根ざしてますから。ただ、もし再婚されるとしたら、やっぱり相手に何かを求めるというような功利的な考え方は捨てるべきだと思いますね。つまり、料理をしてもらうだとか、あるいは自分の最期をみとってもらうとか、そういうことは考えられないほうが、いいんじゃないかなと思います。私自身は、長くがんと関わってきましたから、がんの患者さんや家族、あるいはサバイバーを支援するような、そういう社会貢献をずっと続けていきたい、生きてるかぎり、そうやっていきたいと思います。長く生きる過程をご自分の楽しみだけではなくて、やっぱり社会とのつながりでの観点からも捉えていただきたいというふうに思います。

自分が何かに貢献していくということによって、没イチの人生を豊かにするということですね。
小谷さんは、没イチという生き方、何が大切だと思う?

小谷さん:没イチの人って、自分が孤独だって思いがちなんですけれども、同性、異性関わらず、心を通わせられる人がいるということはとても大事なことだと思います。生きがいにもつながります。認知症の予防にもなると思います。そういう意味で一歩外に出る勇気を持つっていうことは、とても大事なんではないかなと思います。
(悲しみを乗り越えるのはつらいが、一歩乗り越えて、自分らしく生きると?)
新しく、心を通わせられる人がいるというのは、とても大事なことだと思います。

没イチというのは、新たな自立。1人になった人生を自分らしく生き直す機会にもなるんですね。没イチを楽しむ人が増えれば、社会全体も元気になっていくのではないかと期待したいと思います。