クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2017年6月12日(月)
“新たな”アスベスト被害 ~調査報告・公営住宅2万戸超~

“新たな”アスベスト被害 ~調査報告・公営住宅2万戸超~

“静かな時限爆弾”と呼ばれ、数十年の潜伏期間を経て中皮腫や肺がんを引き起こすアスベスト。これまで労災認定などの対象となった人は2万人を超える。今回、NHKが患者の支援団体やNPOの協力を得て調査したところ、全国各地にある公営住宅に暮らしていた人たちが、アスベストのリスクにさらされていたことが判明、こうした住宅の戸数は2万戸超、住んでいた人の数は推計で23万人あまりとされる。被害を防ぐにはどうしたらよいのか、専門家の知見を通して考える。

番組内でご紹介した、かつてアスベストが使用されていた公営住宅の情報について、今回、NHKと共同調査を行った「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」のホームページで詳細が紹介されています。
https://sites.google.com/site/tatemonosekimen/
(クリックするとNHKサイトを離れます)

出演者

  • 森達也さん (映画監督)
  • 名取雄司さん (中皮腫・じん肺・アスベストセンター所長/医師)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

スクープ “新たな”アスベスト被害

数十年後に、がんなどを引き起こす静かな時限爆弾。恐れていた事態が私たちの身近な場所で起ころうとしています。

大手機械メーカー・クボタの工場周辺で、アスベストによる住民の深刻な健康被害が判明し、死者数300人を超えた「クボタショック」から12年。今、全く異なる形での被害が明らかになってきました。
天井に吹きつけられたアスベスト。かねてから危険性が指摘されていましたが、住んでいた人が、がんを発症する可能性が現実味を帯びてきました。

アスベストの被害者
「ずきんと痛くなるのがしょっちゅう。」

昭和31年から各地の住宅で広く使用されてきたアスベスト。実際に発症するまでに数十年かかるため、これから被害が広がるおそれがあります。対策が取られるまでに危険性のあった住宅はどのくらいあるのか。NHKは、記録が残されている公営住宅を専門家と調査。アスベストが使われていた住宅は全国で2万2,000戸に上ることが分かりました。

アスベストの専門家
「相当程度の方が曝露(ばくろ)を受けた(吸い込んだ)。アスベストによって病気になる方が出てくる可能性は否定できない。」

身近な場所に潜んでいたアスベストによる被害。独自の調査による報告です。

アスベストの新たなリスク。今回、私たちはその実態を把握し、健康被害の早期発見につなげるために、お伝えしようと考えました。

鎌倉:アスベストが使用されるようになったのは、高度経済成長期の昭和31年。耐熱性、防音性に優れ、費用対効果がいいことから、建築資材として広く流通していきました。そのアスベストの健康被害が社会問題化したのが、平成17年のいわゆる「クボタショック」。アスベスト製造工場の労働者が数多くなくなっていたことに加え、周辺住民およそ300人も死亡していたことが分かり、大きな衝撃を与えました。その翌年に、アスベストの製造・使用は、全面的に禁止されています。
今回明らかになったのは、こういった工場ではなく、みずからが暮らす住宅で長年アスベストを吸い込んだことによって、がんを発症したと見られる人の存在です。住宅で吸い込んだ人たちは、数十年という潜伏期間を経て、今、まさに発症の時期にさしかかっているんです。

住宅で“がん”に… “新たな”アスベスト被害

横浜市に住む斉藤和子さん、53歳です。一昨年(2015年)突然、原因不明の激しいせきに襲われるようになりました。病院で精密検査を受けたところ、アスベストが原因のがん、「中皮腫」と診断されました。

斉藤和子さん
「とにかくその時はびっくり。まさか、という思いしか無かったです。」

アスベストを吸い込むと、気管を通って肺に運ばれ、肺を覆う胸膜という薄い膜に刺さります。長い間刺激を受け続けることで胸膜に腫瘍が発生。拡大しながら肺の機能を低下させます。発症後の進行は早く、治療が難しいとされています。

医師
「わずかですけど(腫瘍が)大きくなってきている。」

斉藤和子さん
「最初より大きくなった。」

一体どこでアスベストを吸い込んだのか。斉藤さんは、アスベストの調査・研究を続けているNPOに相談しました。

このNPOには専門の医師や研究者たちが所属しています。平成17年のクボタショックではアスベストによる健康被害を明らかにし、国の救済制度の設立につなげました。NPOが斉藤さんのこれまでの生活環境を調べた結果、以前暮らしていた県営住宅に原因がある可能性が浮かび上がりました。

NPOは、実際に斉藤さんが暮らしていた部屋を訪れ、調査しました。天井は特別なコーティングが施され、アスベストを封じ込める対策が取られていました。この県営住宅には今も1,000人が暮らしていますが、ほかの部屋でも同じような処置が施されています。
しかし、県の管理台帳を確認したところ、対策が行われたのは平成元年。それまではアスベストがむき出しの状態だったことが分かりました。斉藤さんは、その部屋で20年余り暮らしていたのです。さらにNPOは天井に吹きつけられていたアスベストを分析。使われていたのは、アスベストの中でも極めて発がん性が高いものでした。

NPOアスベストセンター 外山尚紀さん
「一日中、居ることになるので、曝露(吸い込む)の可能性は高い。この下に暮らしていた方が中皮腫になったのであれば、まずこれが原因。」

斉藤さんが暮らしていたころの写真からも、天井のむき出しのアスベストが確認できました。子ども部屋にある2段ベッドに上っては天井を触っていたといいます。

斉藤和子さん
「天井に手が届けば子どもはいじって遊ぶじゃないですか。ましてその天井がふかふかして押せばあとがつくような所だったので、つついてあとをつけて遊んだり。むしれば綿菓子のようにふわふわしてくるので、むしったりして遊んでた。」

自分と同じころに暮らしていた、ほかの住民にも被害が出るのではないか。そうした思いが日に日に強くなっているといいます。

斉藤和子さん
「私だけじゃなくみんなが、同じように吸い込んだ人がそういうもの(アスベスト)を抱えて、またいずれどこかで誰かが病気になるんだと思うと、とにかく何かしてほしいと思います。」

独自調査 アスベスト被害 公営住宅2万戸超?

リポート:橋本剛(社会部)

アスベストが建物の資材として使われたのは、昭和31年から使用が全面的に禁止される平成18年までの51年間でした。その間に280万棟以上の建物が作られましたが、実際に、どの建物に使われていたのかはほとんど分かっていません。そこでNHKは、自治体に台帳などの記録がある公営住宅に対象を絞り、調査を行いました。NPOや患者の支援団体と共に聞き取り調査や情報開示請求をして、アスベストが使われていた公営住宅を特定しました。その結果をまとめた地図です。

棒グラフはアスベストが使用された戸数を表しています。微量のアスベストを含む建材を使用したUR・都市再生機構などの住宅も合わせると、少なくとも2万2,000戸に上ることが分かりました。この住宅に住んでいた人のうち、アスベストを吸い込んだ可能性がある人はどれほどいるのか。公害などのリスク評価の専門家に分析を依頼しました。アスベストがむき出しの状態にあった期間や1世帯当たりの平均の人数、居住年数をもとに計算してもらいました。その結果、公営住宅でアスベストを吸い込んだ可能性がある住民はおよそ23万8,000人に上ることが明らかになりました。

東京工業大学 村山武彦教授
「確率的に、アスベストによって病気になる方が出てくる可能性は否定できない。吹きつけのアスベストが1960年代の後半から10年程度かなり集中的に使われているので、その時期から考えて2030年から2040年くらい、そのあたりまで影響に注意しておく必要がある。」

23万人超に広がりも? “新たな”アスベスト被害

ようやく明らかになり始めた公営住宅でのアスベストの被害。これまで中皮腫を発症した人も、それが原因だった可能性が浮上しています。70代のこの男性は、5年前、妻を中皮腫で亡くしました。

NHKが入手した、当時の住宅の図面を見てもらいました。斜めの線が天井にアスベストが吹きつけられていたことを示しています。男性は今、みずからも健康被害の不安を抱えながら暮らしています。

70代の男性
「いつなるか分からない。私自身も同じ年数、そこに居るわけですから。子どもたちも心配しています、妻を見ているから。かかった時はおしまいだなと。」

“新たな”アスベスト被害 “がん”との因果関係は

ゲスト:名取雄司さん(NPOアスベストセンター所長・医師)
ゲスト:森達也さん(映画監督・明治大学特任教授)

鎌倉:VTRでご紹介したアスベストが吹きつけられていた公営住宅の地図です。32の都道府県にわたっていますが、表示されていない県でも、記録が残っていないために把握できていないところもあります。ここでアスベストを吸った可能性のある人は、専門家の試算で最大で23万8,000人。もちろん全員に必ず症状が出るわけではありませんが、リスクを正しく把握することが被害を減らすことにつながります。
では、どの時期に住んでいた人がアスベストを吸い込んだ可能性があるのか。

まず、平成18年の全面禁止以降は対策が取られたため、現在は危険性のある公営住宅はないとされています。ですので、昭和31年の使用開始から、平成18年の全面禁止までのこの期間で、除去などの対策が取られていなかった公営住宅に暮らしていた人が、吸い込んだ可能性があります。

住宅のアスベストによる健康被害のリスク、どの程度のことと受け止めればよい?

名取さん:建物のアスベストの吹きつけのある建物の濃度というのは、大体リットルでいうと、0.数本とか、20本とか。
(普通の住宅の空気1リットル当たり?)
そうですね、吹きつけがある場合ですけれども、それが実際、例えば仕事で建築とか造船とか、そういうアスベストをきるとか、そういう場合だと、リットル3,000本とかそのぐらいですから、濃度的には非常に低めとはいいます。ただ逆に、小さいときから住んでいたり、それから長時間いるとか、そういうこともありますので、一概にそうはいえないというようなところがありますね。低いとはいいにくい。

今回、NHKは公営住宅の数を調べたが、公営住宅以外の民間の住宅や、住宅以外の建物でも使われている可能性は当然ある?

名取さん:当然、使われているんですけれども、その中で本当に今回のように数がはっきりと出たというのは、この調査が初めてに近いだろうと思います。

木造住宅にはアスベストは使われていない?

名取さん:吹きつけのアスベストは使われてないですね。

この問題をどう見た?

森さん:アスベストが日本で使われ始めた昭和31年、これは水俣病が公式発見された年でもあるんですよね。水俣病っていうのは、僕のジャンルに引きつけますけど、日本のドキュメンタリー映画、テレビもそうですね、非常に大きなジャンル・アイコンなんです。その理由は、疾病の属性そのものではなくて、これに対しての社会、行政の対応、これが非常に普遍的なんですね。日本の負のダイナミズムを表してます。ですから、同じような時期に、つまりこれ高度経済成長なんですよ。高度経済成長のひずみとして生まれたものが水俣病であり、そしてもしかしたらアスベストもそうであるのなら、規模的にも300人亡くなってますから、これはもう労働災害のレベルじゃないですね。公害といっていいと思います。
(クボタショックのときは住民300人だったが、今後どう広がるか分からないという意味でも、やはり災害と?)
これはもう立派な公害ですね。

鎌倉:では、住宅でアスベストを吸い込むリスク、なぜ実態の把握が進んでこなかったのか。その責任の所在はどこにあるんでしょうか。

昭和63年に当時の厚生省と環境庁が、公営住宅のアスベストの対策を求める通知を出しましたが、これは強制力はありませんでした。平成18年にようやく国土交通省によって、除去などの対策が義務づけられました。その間、多くの住民がアスベストを吸い込む危険にさらされていたわけです。
今回、関係する省庁に取材したところ、それぞれこのような回答がありました。

いずれも除去などの対策に重点を置いていて、それ以前のリスクを今どう捉えているのか、明確な回答はありませんでした。

“新たな”アスベスト被害 国の責任は

住宅のアスベストのリスクに関しての行政の回答、どう見た?

名取さん:もう少し積極的な回答があるとありがたいなというのが率直な感じでしょうかね。

鎌倉:今、番組をご覧になっている方、自分が住んでいた公営住宅は該当するのか、調べたいという方もいらっしゃると思います。こちら、今回NHKと協力して調査に当たった、患者と家族の会のホームページです。

団地名・アスベストの使用箇所・期間などの情報が載っていて、確認することができます。さらに患者と家族の会では、明日(13日)、明後日(14日)の2日間、臨時の電話相談窓口を設けています。思い当たる方、疑問のある方は、すぐに連絡してほしいとのことです。

住宅でのアスベスト被害、住民たち自身は何ができるんでしょうか。そのヒントとなりうるケースを見ていきます。

住宅でのアスベスト被害 どう身をまもる?

30年前のNHKの番組です。海外でアスベストの危険性が指摘され、日本でも、ようやく規制の動きが出始めていたころ、いち早く行動した住民がいました。当時、アスベストが使われていた川越市の教職員住宅で暮らしていた、内田秀人さん。アスベストの深刻な被害が今ほど知られていませんでしたが、ほかの住民と共に市に危険性を訴えました。その結果、年に1回の健康診断を無料で受けられるようになりました。

内田秀人さん
「病気になった場合の保障は川越市が見なければまずいだろうと。」

健康診断では体内にアスベストが入り込んでいないかを調べるほか、肺や胸膜のレントゲン検査も行います。1人1万5,000円程度の費用は全額、市が負担します。内田さんは10年前の健康診断で、体内から微量のアスベストが検出されました。

内田秀人さん
「一回“アスベスト小体”があって。」

経過を見守る必要があると診断されましたが、その後は検出されていません。

内田秀人さん
「いつか(病気が)出るのかなということを抱えながらいるんですが、(健康診断を)受けると今年も大丈夫だったかと、ほっとはします。」

12年前のクボタショックをきっかけにアスベストへの意識を高めた人がいます。神奈川県藤沢市に住む赤堀葉子さんです。クボタショックの翌年、長男が通っていた市の保育園でアスベストが除去されず、天井裏で散乱していたことが発覚。当時5歳の長男も吸い込んでいた可能性のあることが分かりました。

赤堀葉子さん
「恐ろしい、怖い。絶対に発病してしまう、苦しんでしまうって、悩んで泣いた日がしばらく続きました。」

赤堀さんたちが藤沢市に対応を求めた結果、専門家と保護者による検証委員会が設置されました。委員会は保育園で飛び散ったアスベストの量を推計。過去の事例と照らし合わせることで子どもの発症するリスクを数値化しました。

赤堀さんの長男については1年につき10のマイナス6乗程度。つまり、発症するのは100万人に1人という結果でした。赤堀さんの不安はいくぶん和らいだといいます。

赤堀葉子さん
「いざ数字で見ると誰にでも分かる。冷静になれました、当時よりは。」

赤堀さんは今、高校生になった長男にもアスベストのリスクを正しく理解してほしいと考えています。

赤堀葉子さん
「100万分の1とかのレベルでリスクがありますよと出た。」

長男 赤堀創亮さん
「これは絶対忘れちゃいけないと思っていて、この情報にプラスして自分でしっかり調べて、将来どうなっていくのか考えたい。」

“新たな”アスベスト被害 国の責任は

こうして住民が上げた声、行政はどういうふうに受け止めるべきだと考える?

森さん:先ほど挙げた、日本の組織共同体の負のダイナミズム、これもう少し詳しく説明をすれば、要するに日本人って組織共同体の従属度が高いんですね。高いということは、もちろんこれで功を奏す場合もありますけれど、組織防衛、この本能が突出してしまう場合がある。組織の中の一員としてみんなが行動をしてしまう、その結果として事態に全然対応できなくなってしまう。こうした事例はたくさんあります。だからそうしたことは、これ別に行政だけを責めてもしかたがない。日本社会全般にあることですから、その意識をまずはみんなが持つことと、同時に、もちろん行政を責めてもしかたないけれど、でもやはりアスベストは至る所にあるわけで、住宅にも使われてたわけですから、予想はできたはずなんですよ。だから、やっぱりそれはしっかりと意識してほしいんだけど、これをまた日本社会の今の嫌な部分で、私が、じゃあ責任持ってこれを所管しましょうというようなことになったときに、『じゃあ、お前は責任を取れ』とかね、『誰が悪いんだ』と、こういう話になる可能性もあるからみんなが手が出ないと、その可能性もありますね。

住民はどう行動していけばよい?

名取さん:やはり住宅ではないかと思った方は、なかなか身近にすごい専門家がいるわけではないので、まずぜひ、明日から始まるいろんな相談とか、そういうものを使っていただいて、そういう形で、今日少し明らかになってきたその住民の被害がはっきりと出てくればですね、それによってさらに研究も進んで行政も動いていくと、そういう形になるんじゃないかと思いますね。

実態の把握には、住民の皆さんの協力も必要だということですね。心当たりのある方は、ぜひ、まずはホームページを確認していただきたいと思います。今回分かったアスベストの問題は公営住宅に関してのみで、民間の住宅やほかの建物については全容をつかめていません。一刻も早い実態の把握が求められています。

■中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
https://sites.google.com/site/tatemonosekimen/
(クリックするとNHKサイトを離れます)