クローズアップ現代

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2017年6月1日(木)
会社が社員にしがみつく!? ~大量離職時代をどう生きる~

会社が社員にしがみつく!? ~大量離職時代をどう生きる~

「社員は会社に骨を埋めて当然」というのはもう過去の話。会社があの手この手を尽くして“社員に辞めないでもらう”「リテンション」(保持)という取り組みが注目されている。入社3年以内の若者の離職率が業界によっては50%を越える今、企業が必死に社員を会社につなぎ止めようとしているのだ。人工知能を用いて離職予備軍を探し出すIT企業や、労働時間の短縮で離職防止に挑む大手企業などの取材を通して、リテンションの最前線を追う。

出演者

  • 安藤至大さん (日本大学准教授)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

バブル超え 売り手市場 会社が社員にしがみつく!?

社員が会社にしがみついていた時代は、もう過去の話。会社が社員にしがみつく、そんな時代が到来しています。

これは、会社を辞めた若者たちであふれる日本最大級の転職フェア。

最新の有効求人倍率は、なんとバブル期超えの1.48倍。売手市場が進み、転職者の数も右肩上がりに増えています。
社員が会社に求めるものも、かつてと比べ、大きく様変わりしています。今の若い世代が何より重視するのは、働く環境。ブラック企業は即アウトです。各企業も働きやすさをアピールしようと必死です。
せっかく採用した社員に辞められてはかなわないと引き止め策を講じる企業も出てきました。なんと、ノー残業に対して手当をつけ、労働環境をよくしようという会社。辞めそうな社員を、AI=人工知能で見つけ出そうという驚きの仕組み。
こうした社員の引き止め策は「リテンション」と呼ばれ、今、人事の最前線で注目されています。
存亡を賭けて、会社が社員にしがみつく!大量離職時代に立ち向かう企業の取り組みを追いました。

バブル超え 売り手市場 社員の意識に変化が!

鎌倉:今日(31日)から、来年(2018年)春に卒業する大学生を対象にした、大手企業の採用面接が解禁されました。人手不足を背景に、売手市場が続く中、人材の獲得競争、激化しています。
今、新入社員が会社に望むことが大きく変わってきています。民間の調査会社によりますと、これまではずっと給料の増加というのが、残業なしや休日の増加を上回っていたんですけれども、これが今年(2017年)初めて逆転しました。つまり、お金よりも、ゆとりを求める若者が増えているんですね。一方で、大卒の新入社員の3年以内の離職率は、30%を超えています。企業の中には、離職者の増加に歯止めがかけられず、人手不足倒産に陥るケースも出てきているんです。

若者はなぜ、会社を辞めるんでしょうか。

“大量離職時代” 若手社員はなぜ辞める?

若者たちは、せっかく就職した会社を、なぜ辞めていくのでしょうか。初めて勤務した会社を辞めた理由を、厚生労働省が調査しました。最も多かったのは、賃金などではなく、なんと労働時間や、休暇への不満。

最近、会社を辞めたという24歳の男性に、実際に話を聞いてみると。前の職場は、大手メーカーの系列会社の営業部。週末の勤務シフトが多い職場だったといいます。
辞めた理由を尋ねると、まさに国の調査結果を裏付ける答えが返ってきました。

会社を辞めた男性(24)
「世間一般的にお休みの日に自分も休んで友達と遊んだりしたいなと思っていまして。休みの日に上司と飲みに行ったりとかありましたね。公私混同はしたくないという部分があったので(辞めた)。」

“大量離職時代” 企業の危機感は

ゲスト 安藤至大さん(日本大学准教授)

労働経済学が専門の安藤至大さんです。
給料よりも、ゆとりや人間関係を重視するという若者がこれほどまで増えているということに驚きだが、若者の意識の変化の背景には何がある?

安藤さん:まず、心身の健康被害の問題、また低い処遇、このようなブラック企業という問題に最近、注目がとても集まりました。これを受けて、危険な職場にはあまり近づかないでおこうという意識があると思います。また、やはり大きいのは、売手市場だということですね。条件がよい仕事を選べるという環境になった、それが一番大きい要因かと思います。また、社内に上の世代がたくさんいて、なかなか昇進、出世が難しいと。頑張って働いても、長期的に報われないんじゃないかという心配がある時、意識も当然に変化してくる、そういうことだと思います。

企業はなぜ、若者を引き止められなくなっているのか?

安藤さん:企業が人手不足に直面するのは、今が初めてじゃないんですよね。最近、失業率が3%を割り込んで2.8%になった。これが大きなニュースとなりましたが、例えば1960年、この時には失業率1%でした。とても人手不足だったんですね。そのために、1回雇って育てた人間が辞めてしまったら困るということで、さまざまな引き止め策が導入されました。例えば年功賃金というのも、実質的には後払い賃金ですし、また退職金制度、こういうものを組み合わせて、辞めたら損になる仕組みを考えてきたんですが、これまでのそういう離職抑制策というのが、機能しづらい時代になったんだと思います。

鎌倉:そんな会社と社員のギャップを埋めるため、今、注目されている考え方があります。それが、冒頭でも出てきた「リテンション」なんです。リテンションというのは、もともとマーケティングの用語で、顧客を引き止める戦略を意味する言葉でした。それが近年は、人事の分野において、社員を辞めさせないための戦略として使われているんです。
社員を会社にどう引き止めるか、働き方改革を通じて、このリテンションの取り組みを行っている企業を取材しました。

“ノー残業手当”で社員を引き止めろ

年商560億円の大手紳士服販売チェーンです。この春、117人を新たに採用しました。

この会社の悩みは、若い社員の離職です。入社後、3年以内に離職する割合が一時は3割を超えていたのです。新人の育成にかかる費用は、年間およそ500万円。稼ぎ手になる前に辞められると、会社にとっては大きな痛手です。

紳士服チェーン 竹内愛二朗執行役員
「損失も大きいと思う、会社としても。長く一緒に働けることを目指して、我々も採用しているので。」

そこで会社では、3年前から本格的な引き止め対策に乗り出しました。転勤が限られる新しい社員制度を設けたほか、業務の削減にも取り組みました。そして、極め付きが…。

治山正史社長
「4月1日から、ノー残業手当を導入しました。」

なんと、残業の少ない社員に手当として最大毎月1万5,000円を支払うというものです。定時で仕事を切り上げるムードを高める狙いもあります。ノー残業を奨励する異例の取り組み。果たして、現場の働き方や意識は変わるのでしょうか。

宮原正志店長
「現状はですね、岡山大元店、1人当たりの残業がやや多くなっています。」

主力店の店長を務める、宮原正志さんです。ノー残業を実現するには、所定勤務の時間内に効率よく働くことが重要だと考えていました。

宮原正志店長
「シール付いているところまでが10メートル。10秒かかるところを8秒で歩く練習。」

本社の指導によって徹底したのは、店内を歩くスピードの高速化です。

宮原正志店長
「ちょうど8秒です。今ので2秒短縮。」

残業を減らして手当ももらえる、この取り組み。若手の引き止めに効果は?

若手社員
「単純にうれいしいですね、早く帰れて。」

若手社員
「プライベートの時間も増えるし、もらえる給料も増えるし、良いことずくめだと思います。」

しかし、この取り組み、もう1つ壁がありました。残業もいとわないベテラン社員が、店の稼ぎ頭なのです。
宮原店長と同期入社の栢野晃二さん。店の売り上げの3割を稼ぎ出す、屈指のエース販売員です。時には遅くまで客の好みに合わせて商品を準備したり、閉店間際の客にも率先して対応。その結果、残業時間も最も多くなっています。栢野さんの模範的な働きぶりには大いに助けられている宮原店長。それでも心を鬼にして、会社の方針を徹底しなければなりません。この日、店長は栢野さんに一緒に残業を減らしてほしいと持ちかけました。

宮原正志店長
「お店で発生している時間外(残業)を全体として減らしていく方向で、今回の取り組みは捉えていきたい。」

栢野晃二主任
「そこで売り上げがダウンする可能性がありますよね。」

宮原正志店長
「僕もそう思います。お客様には迷惑はかけられませんから、お客様第一で動かないといけない。」

栢野さんは、自分の残業が減ることで、店の売り上げも下がるのではないかと心配していました。退勤時刻が来ると…。

宮原正志店長
「時間なので終わってください。」

栢野さんは、定時で帰ることにしました。

栢野晃二主任
「会社が決めたことでもあるのですけど、店長が声かけすると、帰らないといけないと思います。」

残業代は、去年(2016年)の同じ時期より3割減ったという栢野さん。しかし、浮いた時間で運動を始め、健康的になったと前向きに捉え始めています。

栢野晃二主任
「メリハリでしょうね。しっかり働いて、しっかり休む。会社がよく言っている言葉でもありますので、それを実践していきたいと思います。」

しかし、1人だけ残業をほとんど減らせなかった人が。自身もノー残業手当制度の対象となっている、宮原店長です。

「(社員が)帰った後も仕事するのですか?」

宮原正志店長
「もう少しだけ残りをやって帰ります。」

早く帰らせた部下の仕事の一部を肩代わりしていたのです。若手もベテランも満足いくための模索が続いています。

宮原正志店長
「会社としての方向性に持っていくためにも責任がありますので、(社員が)帰る時間が早かったら、次の日の出勤の顔を見たら、元気そうで良かったかなと思いますね。」

“リテンション” 社員引き止め策の課題は

鎌倉:この紳士服チェーンでは、VTRでの取り組みの結果、平均残業時間が去年に比べて14.3%減少しました。このほかにも、転勤への配慮だったり、業務の削減に3年前から取り組んだ結果、新卒3年以内の離職率11ポイント改善したそうです。また、残業を減らしたことによる売り上げへの影響は、今のところ出ていないということなんです。

成果が出ている一方で、中堅社員のモチベーションに影響が出ていたり、あるいは上司が仕事を肩代わりするといった課題も見えてきたが?

安藤さん:まず、部下であったり、若い人の代わりに上司や管理職が仕事を抱え込みすぎて、健康被害を起こさないように、そのためにも、労働時間の把握と管理、これを徹底することが、これから求められると思います。また、加えて、現役バリバリの中堅社員、この人たちが自分は働きたいと、また残業代も生活のために欲しいと、仮に思っていたとすると、逆にモチベーションを低下させてしまうという悪影響も考えられます。しかし、若い人が実際に働きやすい環境であるとか、帰りやすい環境を作るためには、この中堅以上の人たちの働き方というのもとても大事ですよね。中堅以上の人たちがバリバリ働いている中、若い人たちだけが自分だけ帰るってなかなか難しいので、やっぱり雰囲気作りであるとか、カルチャーを変えていく、このようなためのショック療法なのかなと感じました。

俺も苦労してきたんだから、お前たちも頑張れと、つい言ってしまいたくなると思うんですけど、そういう雰囲気は作らないようにしなきゃいけないということですね。
一方で、果たして、こんなことで若手が育つんだろうかとか、企業全体の業績はどうなってしまうんだろうという声もあると思うが?

安藤さん:これまで、ハードワークの中で仕事を覚えてきた、成果を上げてきたという世代の人にとっては、たぶん、かなり心配な現象であるだろうと、そういうふうにも理解します。しかしながら、やはりこれから働く人も多様になります。高齢の方も、女性ももっと活躍しないといけない。そういう背景の中では、いかに、より効率的に仕事を覚えるのか、または、そのための支援、仕組み作り、このあたりを会社はきちっと考えていかないといけないと思います。

いろんな人が、それぞれの事情に応じて働けるようになって、なおかつ業績も上げられるようにならないと、これからの時代、会社としても生き残っていけないということなんですね。

鎌倉:社員のリテンションには、辞めそうな社員の働きぶりや配置に目を配って、そのモチベーションを高めてもらうことが欠かせません。その課題に、人工知能=AIを活用して取り組もうという動きが広がり始めています。

“辞めそうな社員”を人工知能であぶり出せ

オンラインゲームのユーザーたちの行動分析を行っている、この会社。

そのノウハウを生かして開発したのが、AIで社員が離職する確率を予測するプログラム。もとになるのは、発注主の企業から得た出退勤時刻や打刻忘れなどの勤務データです。膨大なデータをもとに、人間ではできない分析をAIが行います。まず、辞めた社員たちの勤務時間の推移をパターン化していきます。こちらは、今働いている社員たちの毎日の勤務時間の推移。オレンジ色の部分が所定勤務の範囲。それを超える部分が残業です。例えば、この緑色のグラフの社員、ほぼ毎日残業をしています。そして、なぜか特定の曜日だけは、残業せずに所定勤務内で帰っています。

これは辞める兆候なのか?過去に辞めてしまった社員たちのパターンや傾向と照合してみます。似たパターンがありました。重なりが大きいほど、辞める確率が高くなるといいます。あくまでも、可能性を割り出すプログラムですが、的中率は90%とされています。辞めそうな気配を察知された社員は、このあと集中的にリテンションされます。

“リテンション”最前線 人工知能で“配置転換”

リポート:渕上偉織(NHK岡山)

業務とのミスマッチで社員が辞めるのを防ぐ取り組みもあります。大手人材コンサルティング会社が開発したのは、辞めそうな社員の適正な配置転換をAIが提案するというものです。このシステムには、過去活躍した社員がどういうタイプで、どういう部署に配置されたのか、その成功パターンが記憶されています。このAIに、辞めそうな社員のタイプを入力します。すると、AIがこの社員とよく似たタイプが成功したケースを見つけ出します。例えば、経理部で辞めそうになっている社員がいて、同じようなタイプの社員が広報部で成功していたとします。すると、AIが広報部への配置転換を提案するという具合です。このシステム、今年度中の本格導入を目指して実証実験中です。

“大量離職時代” 会社が社員にすがりつく!?

ただ、社員の働きぶりを観察したり、配置を考えるというのは、そもそもは身近な上司がしっかり観察してやるべきことなのでは?

安藤さん:上司も昔と違って、プレイングマネージャーとして自分も現場でバリバリ働かないといけないということもありますし、また、問題となるのは、上司になるような人というのは、やはり下積み経験を積んで、またそこで結果を出して成果を上げた人なんですね。そのためにも能力があって、意欲も高くて、体力もある、このような人の可能性が高いわけです。そうすると、普通の人である部下の気持ちが分からない、望んでいるものが分からないという可能性があります。その点を埋めるのが過去のデータであったり、客観的な指標を用いることで、自分が気付かない、自分とは異なるタイプの部下が何を求めているのか、また離職の可能性があるのかないのか、このあたりが理解できるようになっているのかなと感じました。
(こういったAIを使ったようなシステムというのは今、広がっている?)
さまざまな企業で、こういう取り組みが進んでいると聞いています。

ここまで、リテンションを会社側の目線で見てきたが、一方で、労働者にとっては、働き方の選択肢が広がっていって、今いい状態なのか、あるいはどこかに落とし穴があるのか?

安藤さん:まず、働きやすい職場を見つけやすいと、そういう環境を得られるという点ではいいことだと思います。しかしながら、昔であったら、長期雇用を前提として、会社側も主体的に労働者を育ててくれた、このような環境にあったわけですが、最近はどちらかというと、会社側もそこまで長期的な視野に立てないという観点で、労働者が自分で自分のキャリアをどう築いていくのか、これに向き合わないといけない時代だとも思うんですね。その面では、とても厳しい時代に直面しているかなとも感じます。
(自分でキャリアを形成する、相談は、どこにすればいい?)
会社の中ではなく、会社の外の知り合い、先輩に聞くか、またはプロの人材サービスに相談する、このような取り組みも必要かもしれません。

そういった個人個人のキャリアを作ることを支援していくということも、これから社会の仕組みとして作っていくことは必要ですね。
このリテンションの動きから見えてきたのは、少子高齢化で働き手が少なくなる時代に社員一人一人の働き方や、やりがい、つまり生き方そのものを企業も私たちも見直していくことが求められているということだと思いました。