クローズアップ現代

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2017年4月19日(水)
坂本龍一 分断された世界で

坂本龍一 分断された世界で

NYを拠点に活動し世界の音楽シーンに影響を与え続ける音楽家の坂本龍一さん(65)が、先月29日、8年ぶりにソロアルバムを発表した。「async」=「同期しない」というタイトル、自然の音や雑踏の音など、それぞれ固有の響きとリズムを持った音を取り込み、一つの音楽の中に共存させた作品だ。これまでもNY同時多発テロや福島第一原発の事故などと向き合い、社会に向けたメッセージを発してきた坂本さんが、今回のアルバム「async」にどのような思いを込めたのか、NYのスタジオでの仕事の様子や日本での活動の様子なども交えつつ、武田真一キャスターがロングインタビュー。 坂本龍一が、今の時代に何を伝えようとしているのかを解き明かす。

出演者

  • 坂本龍一さん (音楽家)
  • 武田真一 (キャスター)

坂本龍一 “音楽の常識”を超えて

8年ぶりの最新作を発表した、音楽家・坂本龍一さん。
ニューヨークのプライベートスタジオです。

今、音楽の常識を超えた挑戦を始めています。
スマートフォンで、街や自然の音を録音。
身の回りにある何気ない音から音楽を生み出そうというのです。
坂本さんは、常に時代の最先端の音楽に挑んできました。
日本の音楽シーンを変えたYMO。
テクノポップと呼ばれる新たなジャンルを確立しました。

日本人として初のアカデミー賞作曲賞を受賞。
映画音楽で世界的な評価を確かなものにしました。
そして先月(3月)、新たな境地を切り開くソロアルバムを発表。
「async(アシンク)=同期しない」と名付けられた異色の音楽です。
30年近くアメリカに暮らし、音楽家という枠を越え、時代にメッセージを発してきた坂本さん。
3年前には、がんを患い、ようやく復帰を果たしました。
新たな音楽には、どんな思いが込められているのか。
先日、帰国した坂本龍一さんにじっくりと話を聞きました。

坂本龍一さんが、YMO=イエロー・マジック・オーケストラに参加し、世界中の注目を集めていた1978年。
私は、小学校5年生でした。
坂本さんの生み出す音楽は私にとって、いつの時代も社会に対するメッセージに聞こえました。
先月、発表されたアルバム「async」。
ばらばらで同期しない、一見、調和しない音楽を試みた作品ですが、そこにはどんなメッセージが込められているのでしょうか。
アルバムに添えられた文章に、その手がかりとなる言葉があります。

“一つのテンポにみなが合わせるのでなく、それぞれの音/パートが固有のテンポをもつ音楽を作ること。”

その意味するところは…。

坂本龍一 “音楽の常識”を超えて

ゲスト 坂本龍一さん(音楽家)

今回のアルバムを私も聴かせていただいたが、明確なメロディーやテンポというものがない。
音楽なのか?音なのか?
ずっと聴いていると、ひとつのまとまった音、音楽のようにも聞こえるし。
私は音楽というよりも風景みたいに感じたんですが、坂本さんは、どういうことで今回の作品をお作りになったんですか?

坂本さん:普通、99%の音楽というのは、同期を目指す音楽なんですよね、同期してる音楽なんですよね。
人間のどうも人間の中のネイチャーとして、そういうものがあるらしいんで、ほっとくと同期しちゃうんですね。
同期することに快感を覚える動物らしいんですよ、人間というのは。
僕はあえて今回は、その同期しない音楽というのを作ってみようと思って、同期してない音楽、いわば誰もしゃべってない言葉をしゃべるみたいなことなんですよね。

♪:walker
枯れ葉を踏みしめる音や、動物の鳴き声などを重ね合わせた曲。
ニューヨークや東京などで、身の回りのさまざまな音を探し求めた。

一つ一つの同期しない音というのを、改めて耳を澄ませて集めてみて、何か感じたこととかあるんですか?

坂本さん:音は同じ必然性で同じ重要性を持って、いつもこういう、ごーっという音も通りの音も、同じ同等のなんていうのかな存在理由があって存在しているわけですね。
それは、人間が勝手にこれはいいとか悪いとかを決めて、僕もそうですけど、決めている。
それはやめて、一度大きく耳を開いて公平に音を聴くほうがいい。
(一つ一つの音に改めて耳を澄ますことで音の存在感、みんな無意味に存在してるわけじゃないと?)
そう。

身近な音から音楽を生み出す。
それを象徴する場面がありました。
東日本大震災以来、坂本さんが支援している被災地の子どもたちで作るオーケストラの合宿です。

オーケストラ団員
「携帯を準備してください。」

境遇も年齢も異なる子どもたち。
坂本さんは、ある試みを行いました。
使うのは、携帯電話の着信音です。

坂本龍一さん
「こっち見てください。
どうやってやろうかな。
わあっと拍手があって、何か演奏してくれるかなと、お客さんは静かにして待っています。
そういう緊張の一瞬のときに、“うっかり誰かの携帯が鳴った”という設定にします。
びっくりして、自分が鳴ったのかもと慌てる人も出てくるかもしれません。
面白いね。」

子どもたちが鳴らす、ばらばらな着信音を坂本さんがピアノで一つの音楽にまとめていきます。

これがまさに、今回の作品にも通じる?

坂本さん:そうですね。
非同期の、でも一つの音楽にしようというね。
ちょっとうまくいかなかったんで。
でも、この時はおもしろかったですよ。
今までやったことがなかったので、本当に子どもたちもびっくりしたし、戸惑って何をやったらいいのか分からないという感じもあったと思いますけど。
僕たちは24時間ほとんど音に囲まれて生きていますけども、生存にあまり必要のない音は無視しているわけですよ。
本当は、こっちも音が鳴ってるのにそれは聴こえてこないって、そういうこともよくあるんですよ、人間ってね。
視覚でもよくありますけど。
脳が見たいと思っているものだけ見ちゃう。
それは突き詰めれば人間が持っている脳っていうフィルターがかかって世界を見ている、認識している。
いかにふだん、自分というものが固定化されたフィルターによって、そういう知覚を、聴覚や視覚や、それから考えるということまで含めて、フィルターという、おりに閉じ込められているかということが見えてくるわけですよね。

♪:garden
オーケストラのようなパートはバラバラのテンポで演奏されている。
天国につながつ庭をイメージして、“garden”と名付けた。

坂本龍一 最新作 分断された世界で

今のお話をお伺いして、私がふだんテレビの仕事をしていて感じることなんですけれども、今、ネット上とかにさまざまな意見や声が本当に充満してますよね。
しかも、世の中の意見というものがすごく極端に分かれていたり、分断していたりと、まさに、情報や意見の海のような状況になっていると思うんです。
そういう状況みたいなものを、例えば音になぞらえて、今回のアルバムの一つの発想みたいなものになっているのかなという気もしたんですけれども、そういうことはないんですか?

坂本さん:それは考えたことがなかったですけど、そうも言えますね。
結局、そういう非常に数の多い意見とか、無尽蔵ともいっていいような情報の中で、一人一人やっていることっていうのは、自分が関心のある情報だけを選択して得ているわけですよね。
だから、その似たような関心を持ったグループというのが、似たような情報を得てお互いに意見交換していって、どんどんどんどんそういう、たこつぼ化といいますか、違う関心のグループはこっちいって、そこの間のコミュニケーションはあまりなかったり、あるいはコミュニケーションといっても、お互いに反発し合うようなコミュニケーションだったり、そういうことが世界的に起きているのは、非常に不幸だなと思いますね。

さまざまな異なる意見や価値観を認めない風潮が広がっている。
30年近く、音楽活動の拠点としてきたニューヨークで、坂本さんはそう感じています。
新しいアルバムの制作中、トランプ政権が誕生。
異なる考え方を拒絶するかのような言動に衝撃が走りました。

トランプ大統領
「黙れ、質問は許さないぞ。」

坂本さんは、アメリカでずっとお住まいになって、今のアメリカをどんなふうにご覧になっているんですか?

坂本さん:大統領選挙の結果が明るみになった後の、あの真っ赤なアメリカの地図ね。
(共和党が選挙で獲得した地図ですね。)
あれを見ると、アメリカ全体が変わってしまったかのような印象を受けるし、僕もあの真っ赤な地図を見て落ち込んだんですけど、不寛容という空気は広がっていると思いますね。

ただ、そういうアメリカに住んでいて、自分はどうなんだろうというふうに当然考えますけども、見方を変えると、いくら大統領になっても、きちんと反対意見を述べる有名人から普通の人まで、まだ半分近くいるというのはアメリカのまだ少し健康なところで。
翻ってわが国を見ると、いかがなものかという気はして、じくじたる思いもしますけどね。

実は私もちょっと心に引っ掛かることがあって、例えば日本で、音楽の場に政治を持ち込むことが冷ややかに見られるような空気ってあるのではないかと。
僕が聴いてきたフォークとかパンクとか、ロックもそうですけれども、ある種、社会に対する異議申し立てというような役割があったと思うんですけれども、今のその音楽シーンの中にはどうなんでしょう、そういう自ら発言することに対するアレルギーみたいなものがあるんでしょうか?

坂本さん:海外はないと思いますよ。
日本は、なぜかありますね。
なんか年々強くなっていく感じがしますけど。
原発事故の後に、1年、2年弱ぐらいはすごくみんなも声を上げようというような雰囲気があったと思うんですけど、ただ、3・11の後、6年以上経過して、だいぶ空気もまた変わってきたかなというね。
なんか言いづらい、声を上げにくいような雰囲気もだんだん多くなってきた気がしますよ。
僕は、それはもう無視して言いたいことは言ってますけど。
やっぱり言いたいことが言えない社会というのは、よくないと僕は思いますね。
本当にばらばらですから、2,000人いれば2,000人の受け取り方があっていいと思っているんですね。
それはだから、それぞれの固有のテンポを持っているということ。
それは、人間社会というのはそういうものでいいと思っていて、みんな同じである必要はないですから。

♪:solari
映画「ソラリス」にインスピレーションを受けた曲。
水面(みなも)の揺れや、もやがかった世界を表現している。

坂本龍一 “いのち”と向き合う

8年ぶりとなった今回のアルバム。
その間、坂本さんは人生の大きな岐路に立たされました。
がん闘病のために音楽活動を休止したのです。

坂本龍一さん
「唾液の出が悪くてね。
病気以前の半分ぐらいかな。
すごくのどが渇いちゃう。
夜寝ていても2、3回は起きてしまう。
水などで補給しないとだめなんだよ。
だから人と話すときはあまりよくないけど、1人のときはガムをかんでいることが多い。」

これまでの人生で、最も死を間近に感じたという坂本さん。
再び活動を始めるにあたって、今の自分にしかできない音楽を追求したいと考えました。

坂本さん:それは深くいろいろなことを考えざるを得ないですよね。
やっぱりショックでしたよ。
もう限られた時間だから。
10ある中で1つ、2つ、本当にやりたいことだけやろうということは大きく変わりました。

♪:fullmoon
今回のアルバムで坂本さんが最も愛着がある曲。
かつて音楽を担当した、映画「シェルタリング・スカイ」のせりふを引用。
人生には思うほど時間は残されていないと語りかける。

“How many more times will you watch the full moon rise?
Perhaps 20.
And yet it all seems limitless.
(あと何回、満月を眺めるか?
せいぜい20回。
だが人は無限の機会があると思う。)”

あそこで語られている、「人生というのは限りがある。あと月を何回見る、20回程度じゃないか」というような。
今、いろんな活動もされていますけれど、坂本さんもそういう思いはあるんですか?

坂本さん:満月を20回も見ます?
(見ようと思いました。)
思いますよね。
見てないって思わず反省しちゃいますよね。
日本とか、ニューヨークの都会の中で、満月ってそんな何回もわれわれ見ないですよね。

今回のアルバムというのは、坂本さんの最後のアルバムになるかもしれないという発言をされていますが?

坂本さん:いつ死ぬか分かんないもんね、人は。

これからの音楽家として、あるいは1人の坂本龍一としての人生、どういうふうに命を燃やし尽くそうというふうに考えていらっしゃいますか?

坂本さん:もう本当に、人間の人生というのは毎日毎日残り少なくなっていくわけだから、やっぱり強く思うのは、自分にうそ偽りなく、自分にうそ偽りのない音楽を作りたいし、僕も音楽家だから。
ひいては、自分にうそ偽りなく生きていきたいですね、できることならね。
(思いを込めて、残りの人生の月を数えながら。)
月もちゃんと毎日眺めて、忘れないで。

坂本龍一 分断された世界で

一つのテンポにみなが合わせるのでなく、それぞれの音/パートが固有のテンポをもつ音楽を作ること。
お話を伺って、坂本さんは、音を私たち人間の姿と重ねているように感じました。
ばらばらな音が一つの音楽になるように、一人一人の個性や思いを尊重し合うこと。
分断ではなく、共に生きること。
改めて、今、その大切さに気付かされました。