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2017年4月6日(木)
新証言 自衛隊“日報問題”

新証言 自衛隊“日報問題”

先月、明らかになった自衛隊の“日報問題”。防衛省が「破棄した」としていた南スーダンのPKO部隊の「日報」が、陸上自衛隊に保管されていたにも関わらず、公表されなかった上、データが消去されていたことが判明した。現地の治安情勢など、貴重な情報が記された「日報」。今回の問題はなぜ起きたのか。防衛省幹部への独自取材から、真相に迫る。

出演者

  • 五百旗頭真さん (前防衛大学校長)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

新証言で迫る 自衛隊“日報問題”

南スーダンに派遣されたPKO部隊が日々の活動状況を記した日報。
激しい戦闘が起きたことなどを伝える重要な資料を陸上自衛隊が破棄したことにし、隠蔽されていた疑いが浮上している。
NHKは今回防衛省・自衛隊の複数の幹部から新たな証言や資料を入手。
「日報を破棄した」とする説明に内部では疑問の声が相次いでいたことが分かった。
また陸上自衛隊が保管していた事実そのものを、組織ぐるみで隠そうとしていた疑いも見えてきた。
日報問題の真相に迫る。

新証言で迫る 自衛隊“日報問題”

NHKのスクープから明らかになった、自衛隊の日報問題。
全容解明に向けた異例の調査が本格化しています。
そもそも日報とはどういうもので、何が書いてあったのか。
この問題の経緯について、鎌倉さんです。

鎌倉:こちらが問題となった日報です。
自衛隊がPKO活動に当たる南スーダンで、去年(2016年)の7月、治安情勢が急激に悪化した時の状況が記されています。
例えば、7月8日には、30発以上の発砲音を確認。
9日には、戦闘が生起した模様。
およそ150人の死傷者が発生という記述が見られまして、急速に悪化する治安情勢に、自衛隊の部隊が危機感を強めていたことが分かります。
この日報なんですが、去年の10月に情報公開請求が出されましたが、防衛省は12月、陸上自衛隊がすでに破棄したとして不開示にしました。
実はその後、1月の時点で、防衛省は陸上自衛隊に保管されていることを把握していましたが、このことは伏せられたまま2月、陸上自衛隊とは別の組織で保管されていたと発表しました。
陸上自衛隊には保管されていないという説明を繰り返していたのです。

こうした一連の経緯の詳細が、新たな証言から見えてきました。

自衛隊“日報問題” 新証言で経緯明らかに

今年(2017年)2月。
情報公開請求から4か月たって、ようやく開示された日報。
この時の説明では、見つかったのは陸上自衛隊ではなく、別の組織でした。

稲田朋美防衛大臣
「統合幕僚監部において、日報が電子データとして見つかったとの報告を受けています。
(陸上自衛隊の)日報はすでに廃棄されて存在しない旨を確認していた。」

日報は、南スーダンの部隊がデータとして送信し、陸上自衛隊が内容を確認。
ほかに、各自衛隊を運用する統合幕僚監部も見ることができます。
陸上自衛隊では、この日報のデータが破棄されたとしていたのです。
今回、自衛隊幹部の新たな証言から、この説明について、内部で疑問の声が上がっていたことが分かりました。

音声:自衛隊幹部
「普通の現場を踏んで、いろいろな所で仕事をしてくれば、こういう文書がないはずはない。
陸上自衛隊には無いというのは、普通に考えてありえない。
『これは持っているよな』『持っていないはずがない』って。
なぜそういうふうに説明してのか、理解ができない。」

なぜ陸上自衛隊に保管されていたことを公表しなかったのか。
日報が存在することは、今年1月の時点で、陸上自衛隊のトップも把握。
公表に向けて準備を進めていました。
今回の取材で、存在しないとしていた従来の説明を訂正し、謝罪まで考えていたことが分かりました。

自衛隊幹部(取材メモより)
“陸上自衛隊内部では、保管されているなら『出そう』というスタンスだった。
管理が不十分で申し訳なかったと説明しようとしていた。”

しかし、統合幕僚監部に報告した後、事態は大きく変わります。
防衛省・自衛隊は、自衛官の「制服組」と、防衛官僚の「背広組」に分かれています。
この時、報告を受けたのは、統合幕僚監部に所属する背広組でした。
背広組が伝えた言葉は。

背広組(防衛省幹部への取材メモより)
“今さら、あるとは言えない。”

今までの説明と矛盾するため、公表しないという方針を伝えたのです。
さらに背広組は、防衛省の上層部にも伝え、対応を協議した疑いが出てきています。
陸上自衛隊は、日報の存在の公表を見送ることになりました。
この判断の背景には、制服組と背広組の関係があるという証言が取材で得られました。

自衛隊幹部(取材メモより)
“背広組に「今さら言えない」と言われたら、どうしようもない。”

現場で任務に当たる制服組と呼ばれる自衛官と、背広組と呼ばれる防衛官僚。
背広組は、予算の配分や防衛政策を担うため、制服組は、その意向に重きを置かざるを得ないといいます。

音声:自衛隊幹部
「予算であれば防衛省の中で、各自衛隊の配分というか、そういう所も、ものすごく絶大な力を持っているのは背広なので、背広組の人が言った力というのは、各自衛隊に及ぼす影響はとても大きい。」

日報が陸上自衛隊に保管されていながら、それを公表しなかった防衛省。
この後、徹底したつじつま合わせを行っていた実態も分かってきました。
2月、陸上自衛隊の日報が本当に破棄されたのか、野党から詳細な経緯を説明するよう求められました。

稲田朋美防衛大臣
「日報については随時発生し、短期に目的を終える文書として、紙・電子媒体を問わず廃棄した。」

民進党 後藤祐一議員
「この日報がどうやって削除されたのか、このあたりは第三者を入れて調査すべき。」

この直後、陸上自衛隊は複数のコンピューターに残されていた日報のデータを消去しました。
さらに、国会などからの追及が強まる中で、外部から問い合わせがあった場合の対応マニュアルを作成していたことも新たに分かりました。
マニュアルには、これまで防衛省が繰り返してきた説明が記されていました。

対応マニュアルより
“探索を行ったところ、陸上自衛隊では、すでに破棄されていることを確認した。”

あくまで破棄されたという説明を貫こうとしていたのです。
なぜ、ここまでしたのか。
今回の日報に記された、南スーダンのPKO派遣。
この1年、国会で大きく注目されていました。
駆け付け警護など、新たな任務を付与する際に、現地の治安情勢が焦点となりました。
防衛省・自衛隊の幹部は、日報の問題が国会の議論に影響することを避けようとしたのではないかと証言しました。

音声:自衛隊幹部
「駆け付け警護、国の中で与野党が割れて、国民を巻き込んでの、いろいろな議論があって、迷惑はかけたくないというのが、われわれ現場隊員ですとか、防衛省の中にいる人たちとか、みんなそういう思いはあると思います。」

防衛省幹部(取材メモより)
“「陸上自衛隊にも日報があった」といえない背景には大臣答弁が大変になるという事情もあると思う。”

防衛省への信頼を揺るがしかねない今回の問題。
南スーダンに派遣された隊員は、今回の防衛省上層部の判断は現場の感覚ともかい離しているといいます。

音声:派遣隊員
「派遣された自衛隊が何をしているのか、もっと深く知ってほしい気持ちは当然ある。
(日報を)見せられる形で出すのが、国民に対して、理解をしてもらえるという意味で一番良かっただろうと。
なぜそういう手段をとらなかったのか、率直に疑問に思います。
国民がいての僕たちだと思っていますので、国民からの信頼を得られる組織でいたいと思います。」

自衛隊“日報問題” その背景は

ゲスト 五百旗頭真さん(前防衛大学校長)

鎌倉:新たな証言から明らかになった2つの事実です。
防衛省が、日報は陸上自衛隊では破棄したとしたことに対して、内部から持っていないはずがないと、その説明に疑問の声が出ていたということ。
そして、日報のデータの存在が分かった後も、陸上自衛隊には日報は一切残っていないとする、対応マニュアルを作成していたことです。

防衛大学校の学校長も務められた五百旗頭さん、新たな取材で、防衛省が組織ぐるみで隠そうとしたというような疑いが深まっているわけですけれども、これ、どうご覧になりましたか?

五百旗頭さん:新たな取材を含めて、示された一連の経緯の中で、私は3つポイントがあったと思うんですね。

1つは、陸上自衛隊幹部の方で、去年12月に、すでに文書データは破棄されていて存在しないというふうに答えたと。
この時に、電子媒体の存在ということを意識せずに、文書媒体だけのお話で済ませたのはどういうわけなのか、非常に気になるところですが、ともあれ、存在しないというふうに言ったのが1番目のポイント。
2番目が1月下旬になりますけれども、統幕の背広の幹部の方から、陸幕の方はさっきのVTRにもありましたように、ごめんなさいと言って、誤って直そうとしたけれども、今さら誤った過去との整合性を失っちゃいけないという観点から、それを貫くようにというふうにした、それが非常に大きなポイントだと思うんですね。
それを受けて、陸上自衛隊では、日報の電子データを含めて、全部削除するという行動を行ったというのが、2月中旬ですけれども、この経緯を見ていますと、私はかつて福田内閣の時に、防衛省改革会議の委員をやって、当時いくつかあった不祥事の分析と教訓というのをやったんですが、その中で、例えば海上自衛官の公開データが消されてしまったというふうなことを扱って、その時の反省としては、問題があった時に隠そうとするのではなくて、できるだけ早い段階で間違ってましたというふうにやるのが危機管理だと、あるべき姿だというふうに考えていたんですが、そういう教訓が失われちゃったのかなというのが大変気になる点です。

そして、もう1つのポイントとして、誰が今回の判断を下したのかという点です。

鎌倉:その防衛省という組織なんですけれども、ご覧のように、防衛大臣の下に予算や政策を担う背広組と、実際に任務に当たる制服組がいます。
取材では、背広組が日報が「今さらあると言えない」と言ったことについて、制服組が従った構図が見えていました。
一方で、最初に日報を破棄したとしていたのは制服組です。
さらに制服組は、実際にデータを消去していました。
誰が最終的に意思決定をしたのか分かっておらず、まさにこれが、今回の調査の焦点となっているんです。

そもそも、この背広組と制服組の役割と関係がどうなっているのか また、それが今回の問題にどう影響したのか この点について、どう考える?

五百旗頭さん:もともと制服は、制服グループだけで幕僚を構成して、そして部隊があると。
それに対して、背広の方は内局と呼ばれて背広で固まって、それが全体的にシビリアン・コントロールを行うという建て前でやっていたんですが、だんだん、それが無理があるということで、一種、融合体制みたいにしたんです。
そういう背広のグループの中にも制服の人が入ってくるし、統幕のように、制服が主流のところにも背広が入ってというふうに、入れ子になって一緒に仕事をするというふうに進んでいるんです。
この問題ですが、制服の人というのは、大変、武人タイプの一生懸命任務を達成しようと頑張る人が多いんですね。
それは現場には向いているが、しかし政治向き、国会でどういう議論になってとか、官邸とどうかとか、そういうことについては不慣れな人が多いと、ピントが合わない。
そのために、背広の人がそのあたり、政治面については中心的に判断して、指導するという形を取っているんです。
その中で、このたび意外なのは、背広の統幕の中にいる幹部の人が過去との誤った整合性のために、出さないようにというふうに改める機会を失うような判断をしたと。
これがちょっと不思議なことで、もちろん背広の人ならみんな政治的センスがあるわけじゃないんですね。
そういう時に、組織の在り方の問題とともに、どういう役職の人にどういう人が居合わせて動くかということも、どこの組織でも重要な問題なんですが、そのあたりが大変気がかりな点です。

日報のような形で自衛隊の活動記録を残すことの重要性については、どう思う?

五百旗頭さん:これはとっても大事で、1年未満で破棄というような、そもそもの基準が間違っていると思います。
これは、やはり非常に大事な、PKOを外部でやる、あるいは災害支援をやる、これは大変な、例外的な、重要な活動なんです。
国民の負託を受けてやる自衛隊が、それについて、現場で記録をする、それを大事に保存するということを忘れちゃいけないと思います。

鎌倉:今まさにそのお話にありました、自衛隊の記録を残すことの重要性についてなんですが、今回、別の専門家にも取材しましたところ、国民の知る権利の観点から、やはり重大な問題だと指摘していました。

自衛隊“日報問題” “民主主義の否定にも”

今回の問題、率直に大きなポイントとして、どこが問題だと考える?

名古屋大学 元教授 春名幹男さん
「民主主義にとって必要なのは、国民が十分な情報を得て判断する。
それによって国民が態度を決めると。
(日報は)国民共有の資源ですので、大切に扱って、国民が利用できるようにしなければいけない。
こういうものだと思うんです。
その辺の認識がどこかへ吹っ飛んでしまったんじゃないかと。
このまま放置すれば、(防衛省・自衛隊への)信頼は失われていくだろう。
そうならないためには、やはり省内、防衛省内、自衛隊の中で、情報公開はなぜ重要なのかという認識をですね、はっきりと末端に至るまで徹底すべき。」

鎌倉:さらに今回は、ほかの専門家にも、問題の背景を聞きました。
そこには、政治に対する過度な配慮を指摘する声もありました。

自衛隊“日報問題” “大臣答弁への過度な配慮か”

元防衛大臣 森本敏さん
「大臣の答弁は思いですから、しっかりと検証をし、事実関係を明らかにし、再びそういうことがないように改善点を明らかにしながら答弁をしないと、単に『答弁を訂正しました』ではすまない。
(防衛省幹部が)責任を問われるような事態にも発展しかねないので、できればそれを避けたいという気持ちが働いたことも自然の成り行きとして考えられると思います。
これは国民に対して、むしろ組織の規律だとか、ありようについて、疑義を招くということになるので、決してやってはいけない。」

自衛隊“日報問題” “国会議論への過度な配慮か”

元防衛官僚 柳澤協二さん
「(官僚としては)与党に説明してわかっていただく、野党に説明してわかってもらうというのは、これは大変な、政治的なエネルギーが必要になること。
やはりそれを避けたいという発想が働くのは理解できないではない。
国会でいろいろ議論されているわけですから、それに悪影響を及ぼすような話をしてはいけないという空気感が、組織の中にあったことは当然あったんだろう。
しかし(陸上自衛隊の)日報を出すなという指示があるわけはないので、指示がないのにそうしなければいけないと思ってしまっている。
その方が実は日本の政治のあり方として、もっと大きな問題なんだろう。」

自衛隊“日報問題” 調査の注目点は

今、特別防衛監察が行われているが、五百旗頭さんは今後、解明すべきポイントは?

五百旗頭さん:先ほどの3点からいいますと、特に、このうちの第1と第2です。
なぜ文章が破棄されたからといって、電子媒体のことを無視して、無いというふうに言ったのか、その時の認識、事実認識がどうだったのか。
それから、補佐体制です。
こういうふうなのは、ちょっと調べろといったら分かるはずのことだったと思うんですが、そういうのはどうなっていたのか、それから、今さら言えないといったときの2番目の重要なポイントですが、そこで1人で考えたのか、あるいはやっぱり補佐体制があって、その中で考えたのか。
そして上層部、幹部の間でどういうやり取りがあったのか、つまり組織として間違えそうな時には互いにチェックし合って支え合う、補佐し合うということができなきゃいけないんですが、それがどうなっていたか。
そういうようなことを具体的に、しかし全体像をぜひともしっかりと解明していただきたいと思います。

自衛隊の活動というのは、国民の信頼が欠かせないと思うが、今回の問題を受けて、防衛省、そして自衛隊のあり方はどうあるべき?

五百旗頭さん:大変大事なところだと思うんですが、東日本大震災の時には、自衛隊は非常に力強い活動をして、たくさんの救出活動をやっただけじゃなくて、そのやり方が非常に人間味のある、温かみのある、丁寧な姿勢でやったということで、被災者、国民の信頼、共感というのを勝ち得たと思うんです。
それは非常に大事で、豊かな人間性、大事です。
でも、事実に基づいて合理的な判断ができるということがしっかりしてないと、特にこれから国際環境が厳しく、安全保障問題が重大化する中で、ちょっとした思い込みで、勘違いしてやっちゃった、それが是正されない組織だとすると、また国民の信頼を高めることは難しくなっていく。
そういうことを考えますと、事実に基づく合理的、大局的判断を間違わない、森本さんや柳澤さんもおっしゃってたように、大臣、重いし、それから政治、国会、野党、大変です。
大変だから、ほおかぶりしたらいいんじゃなくて、できるだけ早く実態に基づいた的確な判断、これを行うということが非常に大事。
最終的には、やっぱり民主主義社会というのは、作戦行動中は不用意に出すのはセキュリティーの問題がありますから、必ずしも出さなくていい、出せないと言えばいい。
だけど、作戦が終わり、一定時間がたてば、これは関係した、あるいは連帯のある人だけじゃなくて、国民全体の、いわば貴重な文化財になる、財産になる、それに返すというのが、民主主義社会のいいところだと思いますので、ぜひしっかりやっていただきたいと思います。

遠く離れた南スーダンで、自衛隊が過酷な状況で活動していたことを今回の日報で、私たちは知ることができました。
その大切な資料の公表を巡って、一体誰が、どういう判断をしたのか。
今後の特別防衛監察における、真相究明の行方を注視していきたいと思います。