クローズアップ現代

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No.39412017年2月27日(月)放送
19のいのち  ~障害者殺傷事件・16万アクセスが語るもの~

19のいのち ~障害者殺傷事件・16万アクセスが語るもの~

“19のいのち” 広がる反響 障害者殺傷事件

障害者は、不幸を作ることしかできない。
こう供述した元施設職員の男は、先週の金曜、19人を殺害した罪などで起訴されました。
この事件で亡くなった方々について、警察はその名前を公表していません。
そしてNHKも、これまで年齢と性別だけをお伝えしてきました。
しかし、このままでは、突然奪われた命の重み、そして、事件がもたらしたものの大きさは伝えられないのではないかと考え、先月(1月)「19のいのち」というウェブサイトを開設しました。

これまでに16万件を超すアクセスがあり、「一人ひとりが確かに生きていたというぬくもりを感じて、胸が熱くなりました」など、多くの方から、メッセージが寄せられています。
人々の心を動かす19人の方の人生とは、どういうものだったのでしょうか。

“19のいのち” 犠牲者の生きた証しをたどる

今回、私たちは遺族の了解が得られた人については、イラストで在りし日の姿を描きました。

70歳の女性です。
兄に教えてもらった歌を、よく口ずさんでいたといいます。

イラストのもとになった写真。
兄と2人、いつも仲よく手をつないでいました。
サイトでは、亡くなった方が好きだった物も描きました。

55歳の女性。
散歩の途中で草や葉を手に取り、くるくる回しながら、うれしそうに眺めていました。

パンが大好きだったという26歳の女性。
母親が私たちに、短いメッセージを寄せてくれました。

“お願いがあります。
娘は一生懸命、生きていました。
これを、のせて頂きたい。”

自ら描いた、亡き娘の姿です。
事件から7か月。
複雑な胸の内を言葉にできない遺族も少なくありません。

そうした中、元職員が取材に応じてくれました。

担当していたのは、55歳の男性です。
感情表現が豊かで、しぐさや表情で気持ちを伝えたといいます。

元施設職員 中川尚也さん
「(被告は)『コミュニケーションがとれない人を刺した』と。
正直、うそつくなよ、あの人は(コミュニケーション)とれる。」

中川尚也さんは、足が不自由だった男性のために、特別な靴をプレゼントしていました。

元施設職員 中川尚也さん
「慣れると歩きやすかったみたいで、本当に気に入って履いていたみたいで、ぼろぼろになっても『これを履くんだ』と。」

元施設職員 中川尚也さん
「よく歩いたな。」

その靴を履いた男性と一緒に、よく散歩に出かけました。
いつも行っていたのは、甘い缶コーヒーを買える自動販売機。

元施設職員 中川尚也さん
「みんな100円、握りしめて行くみたいな。
コーヒー(の自動販売機)なくなっていますね。
ここにあったんですよ。
ここで飲んでいたんですよ。」

自動販売機は、もうありませんでした。

元施設職員 中川尚也さん
「なくなっちゃったというのは、ちょっと、さみしいですね。
一生懸命歩いてきて飲むコーヒーなので、やっぱりおいしかったんでしょうね。
僕らは(一緒に)いたものとして、しっかり覚えています。
どんなことがあっても忘れない。
忘れるはずがない。」

“19のいのち” 犠牲者の生きた証しをたどる

ゲスト 森達也さん(映画監督)

お一人お一人が立ち上がってくる様子が、少しずつ見えてくるような感じがしました。

森さん:記号化にあらがうというのは、報道にとって、とても大事なことですよね。
ましてや、この事件はきっと、皆さんもその分、同じだと思うんですけど、非常に早く店じまいしちゃったんです。
(店じまいというと?)
つまり、事件が発生してから、あっという間に報道が収束してしまった。
これには1つ理由があって、リオのオリンピックなんですよ。
10日後にオリンピックが始まっていますから、あっという間にメディアは、その体制に変わっちゃったんですよね。
これは、メディアの責任、問題ですね。
やっぱり、もう1つは名前が出なかった、写真も出なかった。
でも考えたら、名前や写真だって、やっぱり記号でしかないんですよ。
だから、どういう方々か分かりません。
でもこういう形で、これが伝わることで、いろいろこちらも考えられるわけですけれど、逆にいえば、なぜ今、僕たちが、ここに、これほどに強い視線を向けているのか、興味を持っているのか、反響が強いのか、実はここに、この事件の本質が、あとで少し話しますけれど、見え隠れしているんじゃないかなという気はします。

松井記者は、今回の事件をずっと取材してきました。
その中には、どう伝えるべきか、どう伝えなければいけないのかという葛藤があったと思うが?

松井記者:本当に私たちも悩みながら、議論しながら、取材をしてきたという形です。
ご遺族の思いというのは、本当にそれぞれさまざまで、あのような形で大切な家族を、障害があるという理由だけで奪われたと。
そういう状況の中で、とても語れないという方もおられますし、これまで家族に障害があることを、特に周りに伝えてこなかったがゆえに、伝えることができないという方、そもそも、こうしたマスコミの取材に、もう、とにかくそっとしておいてほしいと、いろんな思いがあると感じています。
取材を重ねれば重ねるほど、19人それぞれに豊かな個性と、掛けがえのない日常があったことが本当に見えてきて、被告が言ったような不幸しか作らないという存在では、決してなかったと強く感じています。
ご遺族の思いもある中で、どうすれば亡くなった方たちの姿と、この事件の実像というものを伝えることができるのか、今も悩みながら取材しているという状況です。

この事件を受け止める側にも、本当にいろいろな思いがあるというのは、今回のサイトを通じても、よく分かります。
こうした声もあります。

*「文章を読み、涙が止まりませんでした。大切な19の命。犯人は許せない」などの声。
一方で、20代の女性の声なんですが、「私は、障害者を差別していないけれど、区別しています。できれば、あまりかかわりたくない。何の役にも立たない人という考えはぬぐえません。私以外にも、こういう考えの人はいるのではないか。」
実際に、こうした率直な意見も、サイトに届いているんです。
こうしたことを、私たちはどう受け止めたらよいのか。
東京大学の准教授で、ご自身も実際に障害のある、熊谷晋一郎さんに今回、聞きました。

東京大学 准教授 熊谷晋一郎さん
「こういう事件の後に、自分の中にある加害者性みたいなものに、そちらの意見は、なかなか分かち合われるチャンスが少ない。
『けしからん』というふうに、一蹴されかねない発言。
寄せられた意見は、それぞれ矛盾はしている。
鋭い対立や意味内容としての矛盾をしていたりすることもあるんですが、無理に議論によってまとめていくのではなく、ただ並べていくということが、この事件に応答する、“誰をも排除しない社会”を目指す方向だ。」

このサイトで、まさに双方の意見、それぞれの意見が出ていることの意味をどう捉える?

森さん:結局、僕たちは矛盾しているんですよ。
差別心は誰もがあるし、例えば、それこそ障害者が身内にいたとしたら、もしかしたら楽になった方がいいかなと思った瞬間は、きっと誰にでもあると思う。
誰も、それを責められないですよ。
でも、それを押し殺して、ずっとこの社会の中で生きてきたわけで、そうした矛盾が、この事件によって、わりと一気に噴出したかなという感じがします。
書き込みの中でも、あるいは世間一般の意見でも、加害者は、犯人は要するに、役に立たない障害者は、社会の役に立たないからこそ価値がないという論理を使ったわけで、それに対抗して、いや、障害者は役に立つと、こんなにも自分にとって意味があるんだと。
よく分かります、よく分かるけど、でも同時に役に立たなくてもいいんです。
だからもう、役に立つかどうかで、その段階で、それは加害者の掲げた論理にはまってしまうわけで。
僕だって役に立ってないですよ、全然。
でも、こうやって生きているわけで。
いろんな人がいます。
だから、まずはそうした障害者だろうが、健常者だろうが、外国人だろうが、みんないろんな人がいる、それが社会なんだという、そこには別に、役に立つかどうかの価値など、どうでもいいんだという、その意識をまず持った方がいいと思う。

このサイトは立ち上げて1か月なんですが、本当に多くの意見が今も届いています。
その中には、まさに自分の在り方や生き方を見つめ直す、きっかけになったという人たちもいます。

“19のいのち” 向き合う人々

福岡県に住む、40代の女性のメッセージです。

40代 女性(福岡県)
“重度の知的障害・自閉症の18歳の息子がいます。
息子との毎日は、産み育てる母としての私の存在意義を問い続ける日々でした。”

中本由美子さんです。

息子の大智さん。
料理の手伝いもしてくれる、優しい性格です。
しかし、気持ちがうまく伝えられないと、激しい行動を取ってしまいます。

中本由美子さん
「イライラしてる時とか、通りすがりにバンと。
穴が開くのが、楽しくなってるところもある。
感覚遊び的なところとストレス発散。」

由美子さんは、大智さんが落ち着かなくなると、車に乗せ、外に連れ出しました。
向かうのは、ひと気のない山の中の公園。
ほかの人に迷惑をかけないためです。

中本由美子さん
「ずっとここをうろうろ歩いて回っているだけ。
人のいないところ。
誰にも気兼ねしなくていいし、謝らなくていい。
すごく気が楽。
気が休まる場所。」

自宅で大智さんと暮らしたいと努力を続けてきた由美子さん。
しかし、ある出来事が起きました。
大智さんが、隣の家に向かって食器を投げてしまったのです。
このままでは、ほかの人に、けがをさせてしまいかねない。
由美子さんは、大智さんを医療施設へ入所させるしかないと考えました。

中本由美子さん
「日々なんとかして、いい方向にと思いながら暮らしていた。
なんとかできなかったことは、すごく悔しいし、うしろめたい。」

由美子さんは月に2回、大智さんのもとを訪れます。
今、意思を伝えるための訓練に、一緒に取り組んでいます。
大智さんの懸命な姿が、由美子さんの支えです。

由美子さんのメッセージ
“障害者は身をもって、生きることのすばらしさや、大切さを教えてくれる。
そんな彼らに「存在価値がない」などということは、決して言えない。”

“19のいのち”と向き合う ゆっくり歩いて行く

19人のエピソードが生きる励みになっている、そんなメッセージも届きました。

寄せられたメッセージ
“葉っぱで遊んだり、缶コーヒーを飲んだり、本当に小さなことで、人は幸せになれると思います。”

兵庫県に住む、石川圭太さんです。

石川圭太さん
「一人ひとりの個性に親近感が湧いて、気付いたら見てた感じ。」


学習塾の講師として、休日や深夜も仕事に打ち込んでいた石川さん。
しかし2年前、不慮の出来事が襲います。
33歳の時、出勤途中の駅で突然、倒れたのです。
急性の脳出血で、右半身にまひが残っています。
買い物をするにも、以前の倍以上の時間がかかるようになりました。

石川圭太さん
「周りに置いていかれている感じですね。
物理的にもそうですけど、精神的にも。
普通の人とは違う世界に来ちゃったなという。」

以前のような生き方は、もう取り戻せないのか。
もどかしさにさいなまれる中で出会ったのが、19人の掛けがえのない日常でした。

石川圭太さん
「(以前は)効率重視で、せっかちな性格してたんですね。
だから、字なんて、書く時間がもったいないと。
1秒でも書く時間にかけると損だって。
(今は)別に損してても、ゆっくり歩いていけば、いいんじゃないかと思いました。」

“19のいのち”と向き合う ある親子の覚悟

「19のいのち」を見て、ある覚悟を決めたというメッセージを寄せた人もいます。

大竹康介さん
「本日はモンキー・パンチの原作の、人気アニメ、ルパン三世のテーマ。」

大竹恵子さんと徹郎さんです。

ピアノが得意な、息子の康介さん。
自閉症と知的障害があります。
障害について、周囲に理解してもらおうと、恵子さんは努力を重ねてきました。
康介さんは毎日、障害者の支援施設に通っています。

以前は、バスの中で大きな音を出したり、運賃を払えなかったりするなど、周囲が理解しにくい行動もありました。
そこで恵子さんは、康介さんの障害の特性や接し方を文書にまとめました。

母 恵子さん
「(周りが)気をつけること、本人に気をつけさせることなどをまとめて、バス会社に提出して、分かってもらおうと。」

バス会社の運転手の間に、理解が広がったといいます。

バス運転手
「最初のうちは、ハラハラする場面もあったんですけど、今は一般のお客さんと同じ感じで、乗り降りされてます。」

地域の人との関わりも積極的に増やしています。

司書
「4冊抜いてください。」

恵子さんが図書館に掛け合い、康介さんは、本の整理をするボランティアとして働いています。

司書
「皆さん最初は『あれ?』って思ったかもしれないんですが、今はわりと普通に接して下さってるんじゃないかな。
地域にいろんな人がいるってことを、ちょっとずつ分かってもらえてる。」

恵子さんが、サイトに寄せたメッセージです。

恵子さんのメッセージ
“社会を変えるなんて、途方もなく難しい。
だけど地道にコツコツ、互いに分かり合える努力を続ける。
これは諦めない、障害者の親の覚悟だ。
「19のいのち」が気付かせてくれた。”

“19のいのち”と向き合う 障害者殺傷事件

障害のある方と社会との関わり方というのは、本当に考えさせられますね。

森さん:電車の中で、よく独り言を言っている人がいるじゃないですか。
大体それを見ると、あっ、ちょっと危ないから向こうに行こうとか、車両を移ったりするけれども、ああいう方って、普通に話しかけると、普通に答えてくれる場合がほとんどなんですよ、もちろん個人差はありますけど。
だから、そんな線引きじゃないです。
いろんな人がいます。
もちろん、無理やり同じとは思わないこと。
違います。
でも、違って当たり前なんです。
みんな違うんだから。
そういう意識をもっと社会が持てば、ずいぶん変わるんじゃないですかね。

伝える側も問われることが、本当にたくさんあるが?

松井記者:私自身、障害のある人を取り巻く環境というのは、時代とともに少しずつ改善してきたと思っていました。
しかしそれが、いかに表面的なところしか捉えていなかったかということを気付かされました。
私たちの中にもあるかもしれない、他者を区別したり、排除したりする意識。
これまで、きちんと目を向けてこなかったことを悔やんでいます。
私たちは、これからも多くの意見に耳を傾け、考え、そして伝え続けていきたいなと思っています。

今回のことは、もしかすると、事件が起きて、半年以上たった今だからこそ、何か、じっくりと一人ひとりの心が考える時なのかもしれないと思います。

森さん:逆に、あれだけ急速に終わってしまったからこそ、これでいいんだろうかという、えぐられたからこそ、こういう意識がより強く立ち上がってきたから、とてもいい試みじゃないかなと思います。
(そのためにも、まずは知るということから始めていく。)
大前提です。
もっと身近に知るべきです。
身の回りにいなければ、メディアがどんどん報道すべきです。
(そのことのいろんな本質をできるだけ、私たちも近づいていく努力をしていくということですね。)
はい、そういうことです。

最後に、私たちが本当にはっとさせられた、30代の女性の方の声をご紹介します。

30代 女性
“障害がある人と無い人、見守る人と目を背ける人、犯人と私、その違いとは一体何なのか?
違うことを受け入れる心を私は持っているのか?
19の魂に『あなたは一体どういう人として生きていくのか?』と、問いかけられている気がします。”

■関連リンク
「19のいのち -障害者殺傷事件-」

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

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