クローズアップ現代

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No.39292017年2月6日(月)放送
フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ

フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ

ウソ?真実? 混迷するアメリカ

去年(2016年)のアメリカ大統領選挙では、「フェイクニュース」と呼ばれる偽の情報がインターネット上にあふれ、人々を惑わせた。

“ローマ法王もトランプ氏を支持”

“クリントン氏を捜査するFBI捜査官が無理心中”

フェイクニュースをきっかけに銃撃事件まで。
クリントン氏が児童売春組織に関与しているという偽のニュースを信じた男が、拠点とされたレストランを襲撃した。
フェイクニュースは、なぜ、どのようにして生まれるのか。
社会はどこへ向かうのか。
特集シリーズで迫る。

“トランプの時代” 真実はどこへ

ゲスト デーブ・スペクターさん(放送プロデューサー)
ゲスト 池上彰さん(ジャーナリスト)

フェイクニュースによって今、アメリカが大変な混乱に陥っているように見えるが?

デーブさん:しゃれで済ませられないですね。
特に去年から、実際に選挙に影響を与えたわけですから、結果までかどうかは別として、恐ろしいと思うんですよ。
前だったら、おもしろくて見てたようなものを作って、パロディーとか、それだったらよかったんですけども、今回のものは違いますね、悪意です。

池上さん:だって、デーブ・スペクターさんが言っていることは冗談だなと思っていた人が多かったのに、本当だと思う人が出てきたんじゃないですか。

デーブさん:今日、僕が呼ばれて、果たして説得力があるかどうか。

池上さんは、これだけフェイクニュースがまん延して、それが社会を動かすまでになっている、この状況をどう見る?

池上さん:去年の英語圏のいわゆる流行語として選ばれたのが「ポスト・トゥルース」。
要するに、人は真実ではなくて、とにかく感情的に心が揺さぶられれば、それでいいと。
真実は二の次だというようなことが広がっている、これが去年の流行語に選ばれた。
もはや、そういう時代になっているのかということですよ。

今回、アメリカ大統領選のさなかにフェイクニュースを発信し続けたサイトの制作者が取材に応じました。
そのサイトの名前は皮肉にも、「リアル・トゥルー・ニュース(本当の真実のニュース)」というんです。

偽のニュースサイト 発信者を直撃

面会の場所に指定されたのは、地元の人でにぎわう、バー。

フェイクニュースを作っているという男性だ。
このバーから発信しているのだという。
マルコ・チャコンさん。
ふだんは金融機関の重役を務めているという。
チャコンさんが仕事の合間を縫って、運営するサイト「リアル・トゥルー・ニュース」。
友達にジョークを楽しんでもらう目的で、3年前に開設した。
これまでに書いた数百本の記事すべてが、フェイクニュースだ。
今では、1本の記事に2万回以上のアクセスがあるという。

フェイクニュース制作者 マルコ・チャコンさん
「ニュースの見出しだけ見て読みもしないで拡散する人が結構いるんだ。
こうしてフェイクニュースが広がっていくんだ。」

例えば、「秘密の世論調査でトランプ氏がリード」という去年8月の記事。
メディアは隠しているが、トランプ氏が圧倒的に有利だと、明らかな、うそを伝えた。
当時、大手メディアは、クリントン氏がトランプ氏をリードしていると報じていた。
ところが、このフェイクニュースは数万アクセスを記録した。

フェイクニュース制作者 マルコ・チャコンさん
「明らかにバカみたいな、トランプ氏有利の記事を載せたら、保守層は半信半疑で揺れ動くだろ。
それを狙ったんだよ。」

チャコンさんのフェイクニュースは、手の込んだものになっていく。
選挙戦を通して、若者からの支持の伸び悩みが課題となっていたクリントン氏。

そこでチャコンさんは、クリントン氏が非公開の講演で「若者は負け犬だ」と発言したという、うそのニュースを流したのだ。
このフェイクニュースを大手メディアがニュース番組で引用し、報道。
その後、うそが明らかとなり謝罪する事態にまで発展した。
今も新たなフェイクニュースを発信し続けるチャコンさん。
うそを真に受ける社会に問題があると語る。

フェイクニュース制作者 マルコ・チャコンさん
「何が正しいかなんて彼らは気にしないんだ。
この流れを止める方法はない。
そういう時代なんだ。」

信じたいものだけ信じる危うさ

フェイクニュースが広がる背景には、SNSを通して、自分が興味のある情報だけを受け取ろうとする人たちの増加がある。

東部・ニュージャージー州で非正規の仕事をしている、ジンジャー・ベルさん。
ふだん、テレビや新聞は全く見ない。
常に持ち歩くスマートフォンが唯一の情報源になっている。

ジンジャー・ベルさん
「SNSで情報を得ることが習慣になりすぎて、いつもチェックしてしまいます。
他の人たちも同じじゃないんでしょうか。」

ベルさんのスマートフォンに入ってくるのは、関心があるリベラルな政治や環境問題のニュースがほとんど。

ジンジャー・ベルさん
「トランプ大統領が国境に壁を作ると、自然が破壊され、動物たちが追いやられる、そういう記事です。」


もともとフェイスブックを通じて、さまざまな立場の知人と情報のやり取りをしていたベルさん。

しかし、自分の考えと異なる意見や見たくないニュースに煩わしさを感じるようになり、SNSの設定を変えて、情報が入らないようにした。
今、ベルさんは自分が好む情報だけを受け取るようにしている。

ジンジャー・ベルさん
「フェイスブックの情報しか見ないので、自分と違う意見を知る機会はほとんどありません。」

SNSに詳しい専門家は、同じ考えの人から流れてくる情報ばかりに触れていると、フェイクニュースが紛れ込んでも疑いを持たなくなると指摘する。

インディアナ大学 フィリッポ・メンツァー教授
「例えばあなたが友人に拡散すると、『信頼している人から来た』ということで、相手は信じやすくなります。
私たちはフェイクニュースの被害者にも加害者にもなりうるのです。」

フェイクニュース広がる アメリカ社会の現実

ゲスト 藤代裕之さん(法政大学准教授)

取材に当たった藪内記者がニューヨークにいます。
フェイクニュースによって、アメリカ社会は、どう変わってしまっている?

薮内潤也記者(アメリカ総局)
「ひと言で言いますと、フェイクニュースによって、社会の分断がより深まっていると感じます。
フェイクニュースは今も、日々、作られていまして、最近も『オバマ前大統領が任期が終わるのに、ホワイトハウスから離れるのを拒否すると述べた』などといった、うその情報が広まりました。
私も、どんな意図でフェイクニュースを作っているのかと、身構えて取材に臨んだんですが、実際には軽い気持ちで作られているという、その落差に驚きました。
アメリカでは今、多くの人が真実が何かよりも、自分が信じたい情報を信じるようになっています。
それぞれが自分の殻に閉じこもり、多様な意見が耳に入らなくなる、そんな状況に危うさを感じます。」

アメリカ大統領選の時に盛んに発信されたのが、政治的意図を持ったフェイクニュースです。
プロパガンダによって、多くの人に影響を及ぼしたり、移民に対する差別や排斥に利用されたりもしているということだが、フェイクニュースがこのようにして、まん延することは、社会にどういう作用がある?

池上さん:権力者というのは、何とか世論操作をしたいという思いがあって、例えば、事実を自分の都合のいいように解釈をちょっと変えることは、これまでやっていたんですけど、トランプ政権の場合はそもそも、うそを平然と言うと。

例えば、大統領就任式に集まった人の数が実際よりずっと少ないのを多いと言ってみたりして、それはおかしいじゃないかって指摘されたら、それは「オルタナティブ・ファクト」、もう1つの別の事実だと。
それって普通の言葉で言えば、うそなんですけど、うそと言わないで、オルタナティブ・ファクトと言い張るという、まさに今、トランプ政権のもとでこういう事態になっているということですよ。

実は今日、日本時間の9時過ぎに、トランプ大統領が「私に否定的な世論調査は、すべてフェイクニュースだ」というツイートをしました。

池上さん:なるほど。
つまり、とにかく私に否定的なものは、すべてフェイクだと言い張るという。
これは大変分かりやすいツイートですね。

今、私たちは一体どんな時代を生きているのか?

藤代さん:ニュースの流れが根本的に変わってしまったということを、まず自覚していく必要があると思います。
発信者と、拡散する人というのは別にいるんです。
だからこそトランプ政権は、人々の拡散を力にして、オルタナティブ・ファクトを伝えることもできるようになっているという仕組み、インターネットの仕組みが、実はあるんです。

フェイクニュースの意図はいろいろありますけれども、やはり拡散されることで大きな影響力を持つんです。
アメリカ人を対象にした調査で、フェイクニュースを拡散させてしまったことがある人の割合は23%、5人に1人に上っている アメリカ人は、なぜフェイクニュースを拡散してしまう?

デーブさん:1つには、メールで来るものをよく転送したりして、よく見ないで送るんですよ。
知り合いの好みのニュースとかのものだったら、送っちゃうんですよ。
あとで自分でも見たら、これはうそっぽいなと思うのが遅いんですけど、そういうところもあるんですよ。
つまり、慌ただしくて、ネットのユーザー、スマートフォンもそうですけど、とにかく錯そうしている。
回転ずし状態で、好きなものをいっぱい取って、慌てて取るんですよ。
ですから、冷静に見ていないんです。
前だったら、媒体の数がとても少なかったんですよ。
今は、もう数え切れない。
どんどん新しいものが出来て、それはちゃんとした媒体かどうか確認せずに見ていると。
もう1つ情けないのは、訂正。
以前であれば、ちゃんとしたニュース媒体だったら「間違えました」と。
今は違います。
更新、アップデートですよ。
間違ったことを平気で許される許容範囲が大きくなったことも、また問題です。

拡散させてしまう理由のもう1つが、情報の受け手の状態を表す「フィルターバブル」という言葉があります。
これは、インターネット上で、さまざまな友人、あるいは情報とつながっているようでも、実は利用者というのは、見えないバブル=泡に覆われていて、偏った情報に囲まれて、真実が見えなくなってしまう状態にあると。
これが、フェイクニュースとどう関連する?

藤代さん:いろんな情報が世の中にありますよね。
しかし、インターネットというのは、「アルゴリズム」というプログラミングの仕組みで、自分が「いいね」をしたり、見ているものばかりが表示されるようになるんです。
かつ、例えばそれに「いいね」がつく、シェアされてくる。
そして、シェアするというのがあると、それが正しいのかなと思い込んでしまう。
それが、フィルターバブルだということなんです。

いつのまにか、我々はフィルターバブルの中で情報を得ているという状況にある?

池上さん:結局、検索をしても、自分の見たいものだけを調べていく、見たいものだけを見る、信じたいものだけを信じるというふうに、ある種の、たこつぼ状況にみんな陥っているんじゃないか。
インターネットが始まった時は、あらゆる情報を見ることができる、夢のように語られたんですが、今は、みんな信じたいことだけを見るということによって、本当に、個々にバラバラに分断されていると思います。

こういった状況の中で、さらに新しい情報に基づいたニュースがフェイクニュースによって、事実が塗り替えられてしまうという深刻な事態も起きています。

衝撃 ウソが事実をねじ曲げる

先月(1月)、1人のジャーナリストがツイッターを通じて助けを求めた。

ペーター・バンダーマンさんのツイッターより
“事実がウソに塗り替えられてしまう。
どうすればいいのか、誰か教えて下さい。”


投稿したのは、ドイツの地方新聞紙のベテラン記者、ペーター・バンダーマンさん。
去年の大みそか、バンダーマンさんは年越しを祝う人々の取材に向かった。

ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん
「この広場に、よる11時半ごろから未明にかけて、1,000人ぐらいの人が集まっていました。」

バンダーマンさんが撮影した動画。
花火や爆竹を鳴らして年越しを祝う市民たちに交じって、中東などからの移民が楽しむ姿も映っていた。
その夜、別の場所では、ぼや騒ぎも。
工事中の教会のネットに、花火の火がついたというものだ。

ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん
「花火をあげて大騒ぎをするのは、毎年のことです。
火は10分ほどで消えました。
教会そのものに影響はありませんでした。」

バンダーマンさんはインターネットに、年越しの様子の記事と動画を掲載。
ぼや騒ぎはあったものの、例年と変わらない光景だったと伝えた。
しかし、数時間後想像もしていなかった事態が。
自らの記事が異なる形で、オーストリアのニュースサイトに引用されていたのだ。
その記事には、シリア人が「アッラーは偉大なり」と叫び、教会に火がつくと、無関係な事柄を組み合わせ、彼らが放火したかのように描かれていた。

ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん
「大したこととは思いませんでした。
よくある移民排斥のプロパガンダだと思ったのです。」

しかし2日後、移民やイスラム教徒に排他的とされる、ブライトバートのロンドン支局も引用記事を掲載した。
タイトルは「1,000人の暴徒が警察を襲撃。ドイツ最古の教会に放火」。
移民たちが、イスラミックステートなどの過激派組織と関連しているかのような描写もあった。
バンダーマンさんが取材した事実とは異なる2つの記事は世界中に拡散。
分析ソフトを使って検証すると、オーストリアの記事は、ヨーロッパを中心にSNSで2万5,000件ものシェアなどがあった。
また、各国に読者を持つブライトバートでも2万件以上の反応があり、少なくとも世界28か国に広がっていった。

バンダーマンさんのもとには、誤った記事を信じた人たちから1,000通を超える非難のメッセージが届いた。
なぜ、移民の放火事件を隠していたのか。
絞首台の画像まで送りつけられてきた。

ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん
「私の記事が悪用され、移民への憎しみや、暴力を辞さない態度が人々の間に広がってしまいました。
正しい事実を伝えなければならないと思いました。」

社内で対応を協議した、バンダーマンさん。
反論記事を書いて、誤った情報を正していけば、事態は収まると考えた。
反論記事に書いたのは、移民が集まっていた広場と、ぼや騒ぎが起きた教会は別の場所であること。
「アッラーは偉大なり」という言葉は、イスラム教徒が日常的に使う言葉であることなど、詳細に説明する記事を掲載した。
しかし、この反論記事に対する書き込みやシェアなどは国内を中心に、わずか500件余り。
世界に拡散された誤った情報を打ち消すことはできなかった。
事実をねじ曲げた記事は今も、さまざまな形で引用され続けている。

ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん
「自分の目で見て取材をしたのは私です。
フェイクニュースは移民への怒りをあおり、拡散しました。
事実はどこかへ、いってしまったのです。」

拡散するフェイクニュース 世界を覆う“危機”

シリア人が教会に放火をしたという、このフェイクニュースを拡散させた、アメリカの保守系サイト「ブライトバート」なんですけれども、経営責任者だったのが、スティーブ・バノン氏。
この人は現在、政権運営全般にわたって、トランプ大統領に助言する上級顧問の役にあるということなんです。

デーブさん:確信犯ですね。
本来ならば、とんでもない人を閣僚に入れたんです。
トランプ大統領ならば、まだ何とか我慢しても、こういう人たちが背景にいるというのは、もう歩くヘイトスピーチに近いんですよね。
今は、いろんなカモフラージュを使って、例えば「オルト・ライト」とか、いろんな表現を使っているんですけれども、基本的にやっていることは本当はとんでもないんです。

池上さん:今回、トランプ政権がイスラム圏の7万人を一時入国を拒否しましたね。
その大統領令の下書きを書いたのが、この人だと言われています。

事実が塗り替えられて、民族間、あるいは宗教間の負の感情を湧き起こさせられるとしたら、それは本当に問題になります。
では、既存メディアは何ができる?

池上さん:これは本当に難しいことですよね。
つまり、これまで通りのやり方では、だめだということです。
ニューヨークタイムズも、それこそフェイクニュースだと、ずっと非難され続けました。
ニューヨークタイムズも初期のころは、こういうことを述べた、でも、それは事実と違うという言い方をしていたんですが、最近は態度を変えまして、トランプ大統領がこういう、うそをついたというのを見出しに書くようになったんです。
真っ向から対決するようになった。
そうしたら、去年の10月から12月までの3か月間に、ニューヨークタイムズの電子版の購読者が、27万6,000人増えたんです。
つまり、きちんと反論すると、それを見てくれる人もまたいるということです。

デーブさん:最終的に、メディアリテラシーですよ。
見る側が判断できないならば、見る側の問題になるんです。

先ほど、正しい情報を出したとしても、それがフェイクニュースの拡散のスピードに全く追いつかない現状もありました。
一方で、ニューヨークタイムズをもう一回読もうという人も増えている 今、どういう状況にある?

藤代さん:やっぱり拡散部分というのが、社会に大きな影響を与えるようになってきているわけですよね。
そこを担っているネット企業が情報に責任を持つ、そういうことも非常に重要になってくるんじゃないでしょうか。

つまり、こういう情報を出しているインターネット企業に、どれぐらい責任があるのかと。

池上さん:あるいは、その情報をそもそも全部出している、いわゆる「プラットホーム」というんですけど、それぞれインターネット企業、情報を乗せている企業の責任ということも問われてくる。

まさに、リテラシーの問題というのもありましたけれども、インターネットの問題はどうなのかということも考えていかなければいけないと。

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