クローズアップ現代

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No.39232017年1月25日(水)放送
これって“過剰”? ニッポンのサービスが変わる

これって“過剰”? ニッポンのサービスが変わる

“過剰”サービス見直します 老舗デパート&ホテルの挑戦

リポート:長野幸代(経済部)

1月2日の東京都心。
街のあちこちに出来ていたのは、長い行列。
新年早々、初売りの福袋を買いに来たお客さんたちです。
初売りが行われる元日や2日は、一年で最も稼げる日。
この日だけで10億円以上を売り上げる店もあるほどです。

そんな大切な日にシャッターを下ろし、営業を休んでいたデパートがありました。

「こちらが2階になります。
1月2日、店舗休業しておりますので、真っ暗な状態になっております。」

売り上げ日本一を誇る、このデパート。
ライバルと違って元日、2日と2連休なんですって。

翌3日。
出勤してきた、社員たちの様子は。

社員
「お正月、何してたの?」

社員
「お正月はゆっくりお墓参り。」

社員
「ご家族で?
ツルツルになったね。」

家族や友達と正月休みを満喫して、すっかり元気。
でも一体なんで、稼ぎどきに休むことにしたんでしょうか?
デパート業界は、低価格が売りの衣料品専門店や品ぞろえが豊富なネット通販などに押されています。
売上高はピーク時より4割近く減少しました。
ライバルに対抗しようと、これまで初売りを前倒ししたり、夜遅くまで店を開けたり、営業時間を延ばす戦略を取ってきましたが、事態は改善しませんでした。
現場の従業員も疲弊していました。

伊勢丹新宿本店 婦人営業部 原怜子セールスマネージャー
「(大みそかは)夜10時、11時まで残って、(正月の)朝も7時、8時に来るので、疲れが顔に残っていたりした。」

何とかしなくては。
トップが決断に踏み切ります。
正月を休み、営業時間も短くする。
社員が万全の状態でお客さんに向き合い、サービスの質を上げることにしたのです。

三越伊勢丹ホールディングス 大西洋社長
「今までと同じやり方をしていたら、生き残っていけない。
どれだけ、おもてなしが精度高くできるかにかかってくる。
そのためにはスタイリスト(店員)が、最高の環境で、最高の体調で接客するのが、ものすごく重要。」

「開店いたします。」

そして迎えた他社より遅い、初売りの日。
社員が考え出したのは、単にモノを売るだけでなく、体験を通して季節を味わえる企画でした。


「特に買いたいものがなくても、いろんなものがあるから、来たら楽しい気分になれる。」


「こういう体験ができて新鮮です。」

伊勢丹新宿本店 鶴見喜一営業統括部長
「気持ちに余裕ができているので、いいアイデアが出てきたり、改善策が現場から出てきている。」

社員の柔軟な接客も評判となりました。
ウエディングドレスに憧れる5歳の女の子に、本物のティアラを試着させてあげたのです。
ネット通販にはまねできない、デパートならではの体験にお客さんが感動したとツイート。
1万件以上リツイートされ、大反響を呼びました。
また、販売員は朝晩の交代制でしたが、営業時間を短くしたことで一日中、同じ販売員が常連客を迎えられる態勢が整いました。

伊勢丹新宿本店 婦人営業部 原怜子セールスマネージャー
「ゆっくりと見ていただける環境にしているので、(お客さんの)滞在時間が前より長くなっているんじゃないか。」

こうして工夫を重ねた結果、年明けからの売り上げは営業日が1日減ったにもかかわらず、以前とほぼ同じ。
正月休んだ分を取り返しました。

三越伊勢丹ホールディングス 大西洋社長
「働く人がハッピーで、モチベーションが高くないと、企業の成長はない。
特に我々は小売業なので、その事がお客様にダイレクトに伝わりますので。
お客様にも喜んでいただいて、生産性も上がって、企業業績も上がるようになればいい。」

従業員の負担を減らしつつ、サービスの質も高めるための工夫は、日本を代表するホテルでも始まっています。
24時間365日、常にこまやかなおもてなしを提供し、国内外のお客さんから高い評価を受けてきた、この老舗ホテル。
最近は、海外の高級ホテルの東京進出が相次ぎ、さらなるサービス改革を迫られています。
伝統あるサービスの何を変え、どこに力を注ぐのか。
真剣な議論が重ねられています。

「何がオークラと思っていただけるか。
やはり挨拶、凛(りん)とした待機姿勢、スマートな身のこなし、これだけは外せない。」

「過去から持ってきている、やり方というのはあるけれども、それにとらわれずに、1回ゼロにしてでもいいぐらい。」

細部まで検討した末に、ようやく実現できたのが、こちら。

「私どものレストランでは、テーブルクロスを外して、ランチョンマットを使ったセットになっている。」

交換やクリーニングに手間がかかっていたテーブルクロスを一部で廃止。
お客さんの待ち時間も短縮できました。

毎回、器に盛りつけていたジャムを瓶詰めに変更。
手間が省けた上、持ち帰ってもらうことも可能になりました。

フロントで社員が行っていた外貨の両替も機械化し、ほかのフロント業務をより迅速に進められるようになりました。

ホテルオークラ東京 宿泊統括部 川崎秀司部長
「直接、対面でのやりとりでないので、ぬくもり感に欠けるのではないか、社内でも賛否両論ありましたけれど、(外貨両替機を)導入いたしました。」

こうした工夫を数多く重ねた結果、従業員がお客さん一人ひとりのニーズにこまやかに対応する余裕が生まれました。
お客さんからの評価も高まっているといいます。

ホテルオークラ東京 清原當博会長
「顧客満足の徹底的な追及、それにお応えするだけの技量の蓄積。
これは止めてはならない。
おもてなし満足の深さとは、どういうことなのかをしっかり図式化して、変えられるものと、変えられないもの、変えていいものと、変えていけないもの、これを明確にしていくことが重要。」

それ必要ですか? ニッポンの“過剰”サービス

ゲスト 厚切りジェイソンさん(IT企業役員・米出身タレント)
ゲスト 伊藤元重さん(学習院大学教授)

サービスの見直しが始まっているが、やっぱり日本のサービスは、ちょっとやり過ぎ?

厚切りジェイソンさん:やり過ぎるところもありますけど、こうやって社員の負担を減らしながら、サービスの品質、クオリティーを上げることも、実は因果関係がちょっとあるところもあると思いますね。
(両立できていた?)
両立できていました。
というか、それだから、その品質も上がっていったと思います。
アメリカですと、お正月じゃなくてクリスマスなんですけど、働かないのは当たり前で、365日間ずっと開いてる店でさえ、唯一クリスマスは閉店するのは当たり前。
日本人は働き過ぎですよね。
本当に正月に出かけないといけないとか、そういうニーズがあるのかとかを確認しないまま、みんなそういうサービスを出しますというのは、ちょっとやり過ぎかなと。

どうして日本のサービスはこうなってしまった?

伊藤さん:同質競争というんですか、日本はもともとそういう社会ではあると思うんです。
(同質競争?)
人と違って、人がやってることを自分はもっとよくありたいというのが、どうも行き過ぎて、こういう形になってしまっていると。
もう1つはこの25年、もうけが停滞していて、人も余っていたものですから、やっぱり安い労働力を使い捨てした方がうまくいくという間違った考え方を持った経営者がたくさんいたということになると思います。

視聴者の方に「これはいらないんじゃないの?」と思うサービスを聞きました。
厚切りジェイソンさんが日本で体感した過剰サービスはある?

厚切りジェイソンさん:例えば、この中だと「居酒屋での元気すぎる、かけ声」。
(いいじゃないですか?)
いやいや、驚きます。
「いらっしゃいませ!」と、なんの攻撃ですか?
(攻撃と思ってしまう?)
普通に入っていますから、そこまで声をかけなくてもいいんじゃないですかと。
もう入っているんだから。
ちょっとアメリカでは有名な話で、日本のレストランに入ると攻撃される、怖いと。

じゃあ、どうすれば企業側はお客さんが本当に求めているものを把握できるのか。
どうやら企業側もなかなか苦労をしているようなんです。

客は何を求めている? “過剰”サービス見直し

こちらのトレーニングジム。
以前は、お客さんに熱心に声をかけていました。

「(正月は)ここ閉まっていたじゃないですか?」

答えるのがかなりつらそうですよね。
サービスのコンサルタントによると、こうした接客は。

コンサルタント 松井拓己さん
「お客様の事前期待にあってなかったら、サービスとすら呼んでもらえない。
余計なお世話とか、迷惑行為になってしまう。」

そこで、集中して体を鍛えたい人には声かけなどはせず、見守ることに。

逆に、ゆっくり体を動かしたい人には、タイムなどの目標を設定することを控えるようにしました。

穴吹エンタープライズ 指定管理者事業部 三村和馬部長
「お客様に喜んでいただけるサービスに集中させる。
フルサービスを提供しても顧客満足にはつながらない。」

客は何を求めている? “過剰”サービス見直し

一人ひとりが何を求めてるかというのをちゃんと把握しないとだめ?

厚切りジェイソンさん:僕だったら、頑張って走っていたら、声をかけないでほしいですね。
(でも、それはお客さんのことを思っているんですよ。)
なんかたぶん、ルールブックに頼り過ぎていると思います。
ルールが全部決まっていて、お客さんがいれば声をかけること。
それをちょっと考えてほしいですね。
(ルールの方がちょっと上回ってしまっている?)
上回りますね。
しかも、コストも考えていないですね。
こういうようなことを全部やると、すごいコストがかかるんですけど、本当に必要なのかということですよね。

これからサービスをいいものにしていくことと、コストを考えながら、生産性も上げていくには、どうすればいい?

伊藤さん:1つは、サービスの分野はどんどん変わっていくんですよ。
スポーツジムで声をかけた方は5年前に、あれ、やってたじゃないと思うわけですね。
常に状況に合わせていいものにしていくと、変化をやれるような経営になっているかどうかということが、すごく大事だと思います。
それからもう1つは、やっぱりマニュアルの問題なんでしょうね。
だから結局マニュアルというのは、短期間でいろいろなことができるんだけど、結果的には変化についていけないと。
有名な話で、あるハンバーガーチェーンで「100個くれ」というようなお客さんが来て。
当然、どっかに持って帰るんだと思うんですけれども、店員さんはなんて聞いたかというと、店員さんは「ここでお食べになるか、お待ちになるか」と。
だから考えていないですよね。

マニュアルどおりにしてしまったということですよね。
でも、そうせざるを得ない店側の事情というのもあるんです。
マニュアルがあると便利だとか、そういった事情もなきにしもあらずだが、そうしていると生き残れない?

伊藤さん:やっぱり、現場がどれだけお客さんのことを考えて、自分で行動するかと。
まさに、厚切りジェイソンさんがおっしゃった、頭を使うということですね。

厚切りジェイソンさん:考えましょう。

もう1つ、ヒントとなりそうなのが、そうしたお客さんとサービスを提供する側の関係性を表しているのが、「お客様は神様」という言葉です。
じゃあ神様であるお客様の求めなら、なんでも応えればそれでいいのでしょうか。

「お客様は神様」!? 客の要望 どこまで応える

サービスの質を高めるために、お客さんとの関係を思い切って見直したという人がいます。
京都でレストランを営む、シェフの前田元さんです。
以前、勤めていた店では、お客さんの要望にはすべて応えるようにと命じられていました。

たばこや胃薬を買ってきて、店の前まで車を回してといった食事と直接関係ないリクエストを受けた場合も断ることはできませんでした。

レストラン MOTOI 前田元シェフ
「お客様は神様、お金を落としていただいて、何でもお客さんの要望に応えましょう。」

前田さんがとらわれていた「お客様は神様」という言葉。
実は、もともと全く違う意味でした。
歌手の三波春夫さんが、ステージ上で無の境地になるために使ったのが最初だったそうです。

歌手 三波春夫さん
「雑念を打ち払って、あたかも神様の前に立つような、お客様方を神様と見て、私は舞台に立つわけでございます。」

三波春夫さんの長女 三波美夕紀さん
「父が生きているときから、『お客様は神様です』という言葉に対する誤用というのはあったので、ずーっとなんですね。
違う使われ方がしているんだな。」

その後、独立したシェフの前田さんは、たとえお客さんからのお願いでも、食事に関するもの以外は丁重に断ることにしました。
従業員は最高の空間で、最高の料理を提供することに専念できるようになったと喜び、常連客との関係も良好なんだそうです。


「すごく心地よくさせていただいて、おいしいものをいただけて、本当に幸せです。」

レストラン MOTOI 前田元シェフ
「お客様に“NO”と言うことで、自分たちのプライドだったり、この仕事に対しての誇りをしっかり持てるようになってきた。
お客様は神様ではなくて、お客様はお客様なんです。」

この客との関係を巡って揺れているのが、異物混入問題に悩まされてきた食品業界です。
1匹の虫の混入で数十万個の商品を回収し、経営を揺るがす事態に陥ることもあります。

発端となるのは、ネット上での消費者からの指摘。
情報が拡散し、企業イメージが悪化するのを恐れて、虫などが混入していない商品まで大量に回収してきたのです。

エルテス 安達亮介執行役員
「ひとつの(異物混入の)投稿で何百億、何千億というお金が動いてしまう。」

そうした中、お客さんとの対話を深めることで過剰な回収を防ごうとしている企業があります。

弁当用のミートボールを製造している千葉県のメーカーです。
異物が混入しているのではないかという声が年間200件ほど届きます。

「中から3センチぐらいの透明なビニールのようなものが出てきましたということで。」

ビニールかもしれないと問い合わせがあった、この物質を調べてみると…。

「顕微鏡で確認して、植物片であることが確認できてます。
形状からも、玉ねぎ片ではないか。」

実は指摘の半数はこうした心配のないもの。
さらに、実際に虫などが混入していた場合でも回収の判断は慎重に行います。

回収する判断の目安を示した業界団体の手引書です。
体に危害を与える病原菌などが混入した場合は、リスクのある商品すべてを回収しなければならないとしています。
一方、虫などは通常危害発生の可能性がないため、回収の必要はなく、当事者と問題を解決すればいいとされているのです。
このメーカーでは、必要のない回収を行えば、最終的にはコストに跳ね返り、お客さんにも迷惑をかけてしまうと考えています。

石井食品 石井健太郎会長
「テレビや新聞で『この商品は危険だから全部(製造元に)送ってください』というやり方は、相当不親切、誠実さがない。」

このメーカーでは、お客さんの不安を拭うため、あらゆる手を尽くしています。

まず、製造過程で異物が混入していないことをX線などの検査機器で何度もチェックします。

さらに万一混入が発生した場合は、生産過程をたどって、いつ、どの工場の、どのロットで製造されたのかを特定。
ほかの商品にも混入があるかどうかを確認し、お客さんに速やかに回答できる体制を整えました。

丁寧な説明で、不安が解消されたお客さんからは、よりファンになったなどと、励ましの声が届くまでになっています。

石井食品 石井健太郎会長
「(異物混入が)起こったときに『ごめんなさい』と言うだけじゃなくて、普段からどういう努力をしているかが、お客さんとの信頼関係になっていく。」

まだまだよくなる? ニッポンのサービス

日本ではお客様は神様だった?

厚切りジェイソンさん:その表現、よく聞きますけれども、結局、誤解だったんですね、それは。
(間違えていたという。)
間違いの意味で使われていたんですけれども、なんでもやってあげるという気持ちは逆に、その会社や、そのサービスを出しているところの専門性のあるところ以外に、時間を使ってしまうということで、サービス悪化につながると逆効果だと思います。
自分の強みのあるところだけ力を入れるのが一番いいと思います。
その価値をその分売れるという。

ここまで見てみると、私たち消費者側の意識も、ちょっと考え直さなきゃいけない部分もありそうだが?

伊藤さん:消費者は神様って、本当に神様になっちゃって、よく店で大声でどなったり、こういうのが許されるような雰囲気というのは、やっぱりよくないですよね。
ですから、そこは消費者の方が考えなきゃいけないと思いますし、やっぱり売る側も考えなきゃいけないと。
これはやっぱり人間と人間の関係なんですよ。
特にサービスということになると、人間のふれあいが非常に重要で、マーケティングで有名な言葉があるんですけど、マーケティングというのは自分の売っているもののサービスをもっと売るための手練手管じゃない。
自分が、売る側が何が大事かという価値をしっかり認識して、それをお客さんに伝える。
残念ながら今、お客様が神様になっちゃって、売る方もお客様を人間として見ていない。
マニュアルの対象になっちゃっているわけです。
でも、本当にお客様が人間として何を求めているかということが分かれば、そこからいろんな、新しい、もとより意味のあるサービスが出てくると思います。

これから日本のサービスがよりよい本当のサービスに近づくために、消費者側として、どうすればいい?

伊藤さん:私が1つ期待していることがあって、高齢化もあるんですけど、人手不足で、こういうむだなサービスをやっていると、企業としても成り立たなくなっているんですね。
だから、そういうところでみんなが立ち止まって、考えると思うんです。
ですから、そういう中で本当に違うところは何かということを、みんな考え始めると、そこから意味のあるサービスが生まれてくると。
一生懸命、サービスをやろうとすること自身は、日本の私はいい伝統だと思いますから、それを本当の方向に向けてほしいですよね。

本当に必要なサービスを探すことのは難しいが?

厚切りジェイソンさん:難しいですね。
そのお客さんも、本当に何が必要なのかを自分でも分からない場合が多いんです。
だから、僕だったら企業として実際にお客さんが何をやっているのかをデータとして集めて、それを分析する必要があると思います。
(何を求めてるか、見えるような形に?)
例えば、こういうことを言ってますけど、実際に店に入る時はこういうような所に行きます、こういうようなものを使います、こういうような使い方を、サービスを使っていますということですよね。
実際にやっていることが見えたら、それをやることに力を入れると。

伊藤さん:それを「見える化」というんですよね。
本当のサービスの産業化というのは、そういう見える化をみんなしっかりやるというところが大前提だと思います。

徹底的にコミュニケーションを密に取って深めていくということですよね。
これから東京オリンピック・パラリンピックもありますし、本当に日本のサービスを、より本物にしていかないといけないですね。

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