クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.39222017年1月24日(火)放送
韓国 過熱する“少女像”問題 ~初めて語った元慰安婦~

韓国 過熱する“少女像”問題 ~初めて語った元慰安婦~

韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦

一昨年(2015年)の末、日韓両政府で合意に達した慰安婦問題。
日本政府は、責任を痛感し、心からおわびと反省の気持ちを表明するとともに、元慰安婦の支援事業のために10億円を拠出し、最終的かつ不可逆的に解決されることが確認されました。
日韓関係の最大の懸案となってきた、この問題、その経緯を振り返ります。

1965年の日韓国交正常化の際に結んだ協定によって、日本政府は、法的には解決済みと主張してきました。
しかし韓国では、元慰安婦が訴訟を起こすなど、反発が根強くありました。

日本政府による謝罪や償いの事業などを経ても、両国の隔たりが埋まらずにきた中で、ようやくまとまったのが、この2015年、今回の合意でした。

元慰安婦への支援事業として、1人当たりおよそ1,000万円が支給されることになりましたが、合意成立時に生存していた46人のうち、7割に及ぶ、34人が受け入れの意向を示し、すでに31人への支給が完了しています。
しかし、韓国ではこうした元慰安婦たちの声が伝えられないまま、日韓合意の破棄を求める世論が強まっているのです。
支給を受けた元慰安婦たちは、この事態をどう受け止めているのか。
これまでメディアの取材に応えてこなかった女性や家族が、初めて語りました。

韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦

身元を特定されないことを条件に、メディアの取材に初めて応じた元慰安婦の女性です。

元慰安婦
「おはようございます。」

「(日本語を)覚えているんですね。」

太平洋戦争中、東南アジアの戦地に送られたという、この女性。

元慰安婦の家族
「日本から1億ウォン(約1,000万円)を受け取ったと話したよね?」

元慰安婦
「誰が1億ウォンをもらったの?」

元慰安婦の家族
「このように話していても何が何だか分からないのです。」

日韓合意によって、支援金を受け取った女性。
90歳を超え、認知症の症状が出始めたため、直近の記憶が不鮮明になっていました。
家族は、これまで本人から何らかの補償を受けたいという意思を確認していたため、合意を受け入れました。

元慰安婦の家族
「(母は)日本が謝罪して補償してくれるなら、それ以上は望まないと言っていました。
しっかりしている時にもらっていれば、本人も気持ちを伝えることができたはずなのに、今は(お金をもらった意味さえ)分かっていません。」

今の韓国社会の中で、日韓合意を受け入れたことを表だって言うことは難しいといいます。

元慰安婦の家族
「母も事実を明らかにすれば、『あの人は慰安婦だったらしいよ』と周囲から白い目で見られ、子孫までも不名誉になってしまうから隠してきたのです。
そのため、お金を受け取っても、堂々とそう言えないのが、つらいです。
心の中にしまい悩んでいます。」

戦後、韓国社会からも差別を受け、厳しい生活を強いられてきた元慰安婦たち。
口を閉ざす背景には、日本からの支援を受けたことで、厳しい世論にさらされた過去があります。
1995年に日本政府が発足させたアジア女性基金。
総理大臣のおわびの手紙とともに、民間からの募金などを原資に、元慰安婦に償い金を支払いました。
ところが韓国では、支給を受けた一部の元慰安婦たちが痛烈な批判にさらされました。
「日本政府による賠償ではない金は受け取るべきではない」と、一部の市民団体やメディアが猛反発したのです。

一昨年、両国がぎりぎりの妥協点を探って結ばれた日韓合意。

岸田外相
「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として、あらためて心からおわびと反省の気持ちを表明します。」

合意を受けて、韓国政府が設置する財団に、日本政府が10億円を拠出。
元慰安婦たちへの現金支給が始まりました。

合意の直後、韓国の世論調査では日韓合意を評価する人が43%に上りました。

しかし今、日韓合意を破棄し、10億円の返還を求める声が強まっています。
そうした中、今回取材に応じた元慰安婦や家族の中には、日韓合意を前に進め、少女像を撤去すべきだという人もいました。
90代の元慰安婦の家族です。
母親は寝たきりのため、代わりに答えてくれました。
母親は当時、受けた傷が今も心と体に刻まれ、苦しんでいるといいます。

元慰安婦の家族
「やはり(日本側が)本人に直接会って『申し訳なかった』と、ひと言でも謝罪してくれたら、死ぬときに気持ちが和らぐと思うのですが、ここまで時間がかかってしまった以上、(お金を)もらったことで終わりにしてほしい。
(お金を)受け取ったのだから(少女像は)撤去しなければならないと思います。」

今の中国東北部、旧満州に連れて行かれたという別の元慰安婦です。
自分たちの思いと裏腹に、世論が日韓合意の破棄に傾くことに、やりきれない思いを抱えています。

元慰安婦
「私の人生は苦労ばかりで悲しかった。
思い出すと涙が出ます。
慰安婦が苦労してきたことを世間の人たちは分かっていないのに、あのようなこと(少女像をめぐる騒動)をやっています。
(日本からもらったお金を)返すべきだと言ってますが、私は返したくありません。
本当に胸が痛みます。」

韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦

ゲスト 奥薗秀樹さん(静岡県立大学 国際関係学研究科 准教授)

自分の思いが、韓国社会に分かってもらえていないという声 なぜ、韓国でこういった方の声が届かない?

奥薗さん:改めて、一人一人の元慰安婦の方々にそれぞれの思いがあって、決して十把一からげにはできないと思うんですが、そうした中で7割を超える方々が、この合意を受け入れてくださったということは重く受け止めるべきだとは思います。
ただ、問題はそうした事実が今の韓国の社会的状況の中であまり報道されない。
そして、決して多数ではない反対の声だけがクローズアップされていくと。
その結果、その当事者を無視した合意であるというイメージが出来上がって、それが一人歩きをしてしまうと。
合意そのものに対する理解も一向に深まらずに、日本国内にもそれが伝えられて、日本でも韓国に対する反発だけが高まっていくという悪循環に陥っているような気がします。

7割の方が日韓合意を受け入れて、現金の支給を受けている これを重く受け止めるべきだということだが、その意味合いはどういうこと?

奥薗さん:元慰安婦の方々の年齢を考えると、ほとんど90歳前後。
これは時間との戦いという側面が一層強くなっているというふうに改めて感じます。
そうした中、100%満足できるわけではないんだけれども、自分たちのせいで日韓関係がいつまでもぎくしゃくすることが忍びないとか、あるいは死ぬ前にけじめをつけたいとか、あるいは子どもや孫のために何がしか残して死ねるのならばもらいたいといったような思いが非常に強くなっているんだと思いますね。

当事者の方の思いや時間との戦いがある中で、韓国側の世論の行く先はどこなのか?

奥薗さん:これは、日本側は法的にはもう解決済みなんだけれども、それを踏まえた上で、当事者の人々を実質的にどう救済するかということを重視する立場なんですが、韓国側はちょっと考え方が変わっておりまして、それは、日本が国としての責任、国家賠償といったようなものをきちんと果たすということが、正義にかなうんだと。
それは韓国から見た時の正義にこだわって、それを求めるというところに重点を置いているというのが韓国側の考え方だと思います。
(韓国側が考える正義の名において、当事者の方の声が置き去りにされている状況が起きてしまっていると?)
正直に申し上げまして、そういった状況が起きていると考えざるを得ないと思います。

まさに、当事者の思いとは異なる形で少女像が設置されているわけなんですけれども、改めてその動きを振り返りたいと思います。

そもそも日韓合意よりも前、2011年にソウルの日本大使館の前に、民間団体が少女像を設置しました。
これについて韓国政府は、この合意の際に適切に解決されるよう努力するとしていました。
そうした中で先月(12月)、さらにプサンの日本総領事館の前にも新たな少女像が設置されました。
こういった動きを韓国政府が食い止められない状況が続いているわけなんです。
日韓両政府で合意したにもかかわらず、なぜ、韓国社会で世論が先鋭化しているのか。
その背景を探ります。

過熱する“少女像”問題 韓国社会で何が

「パク・クネは退陣しろ。」

去年(2016年)秋から韓国社会で続く、パク・クネ大統領への大規模な抗議デモです。
政権のスキャンダルが次々と明らかになる中、国民の怒りが噴出。
大統領を職務停止に追い込み、これまでの政策すべてを否定する勢いです。

少女像を設置した学生グループ マ・ヒジンさん
「私たちは少女像を守る会です。」


こうした政治的な空気の中で、プサンの日本総領事館前に少女像は設置されました。
像を設置した学生グループの中心メンバーです。

少女像を設置した学生グループ マ・ヒジンさん
「日韓合意に成果があったとは思えません。
被害者は日本政府に金や慰めを求めているのではなく、この問題の事実を歴史的・法的に認めることを求めています。」

学生グループが少女像の設置を試みたのは、先月28日。

「少女像を守ろう。
日韓合意は全面無効だ。」

この時、地元自治体は公道に像を設置することは違法だとして撤去しました。
ところが、この動きがメディアで伝えられると韓国中から自治体に対し、抗議が殺到したのです。

“少女像、撤去反対。”

“親日派の売国奴なのか?”


自治体のウェブサイトには、少女像の撤去を批判する書き込みがあふれ、苦情の電話も鳴り続けました。
地元自治体は撤去から、わずか2日後に少女像が再び設置されるのを黙認せざるを得ませんでした。

「ニュースで撤去されたと知ったときは残念でしたが、再び設置されて、うれしいです。」

日韓合意に対する、韓国の世論は大きく変化。
1年前、4割を超えていた肯定的な評価が25%にまで減少。
破棄すべきと答えた人は、59%に上ったのです。

少女像が新たに設置されたことに対し、日本政府は大使を一時帰国させるなど、対抗措置を講じました。

菅官房長官
「慰安婦問題が最終的で不可逆的に解決される。
日韓両政府が合意を責任を持って実施することが極めて重要。
(韓国側に)ありとあらゆる機会等を通じて求めていきたい。」

韓国政府は、国家間の合意と世論とのはざまで対応に苦慮しています。

韓国 ユン・ビョンセ外相
「外国公館の前に造形物を設置するのは、国際関係や儀礼上、望ましくないのが一般的だ。」

一方、大統領選挙を視野に入れる野党各党は、世論に迎合する動きを強めています。

共に民主党(最大野党) ムン・ジェイン議員
「(日韓)両国の間で誠意ある合意が行われたのか疑わしい。
とにかく少女像が日本総領事館の前にあることに意義がある。」

少女像の設置を巡って激しく揺れる韓国社会。
この日、日本と良好な関係を維持すべきだという男性が現れました。

「もう憎しみ合うのはやめましょう。」

これに対し、学生グループのメンバーは非難を浴びせました。

少女像を設置した学生グループ マ・ヒジンさん
「少女像の横に立たないでください。
恥ずかしくないんですか。」

こうした中、韓国のメディアの中には過熱する世論に対し、冷静さを呼びかける論調も広がっています。

“韓国だけが、日本との関係において、過去から一歩も抜け出せないでいる。”

社説を書いた、主筆です。
今の韓国社会では、被害者としての歴史を強調し、極端な意見に結び付ける動きが広がっていると警鐘を鳴らしています。

韓国経済新聞 主筆 チョン・ギュジェさん
「選挙戦を控えた政治的混乱の中、極端な主張が数多くなされ、それがそのまま報道されています。
この点をよく理解せずに対応を誤れば、さらに深刻な問題になりかねないのです。」

日本政府から拠出された10億円をもとに、元慰安婦への支援事業を行っている韓国の財団です。
世論に左右されることなく、元慰安婦の気持ちに寄り添うことが何より大切だとしています。

和解・癒やし財団 理事 チン・チャンスさん
「厳しい世論がある中で34人が受け入れました。
(元慰安婦は)満足はしていないものの、ありがたいと思っています。
韓日両政府が協力し、最終的かつ不可逆的に解決するための努力を続けなければなりません。」

過熱する“少女像”問題 韓国社会で何が

現地から最新状況を、ソウル支局の池畑支局長に伝えてもらいます。
少女像の問題を巡る動き、現状はどうなっていますか?

池畑修平支局長(ソウル支局)
「私は、毎週抗議デモが行われている、ソウル中心部の広場にいます。
パク大統領は、少女像を含む、慰安婦問題の任期中の解決を外交上の大きな実績としたい考えでした。
しかし、一連の事件で足元をすくわれ、強硬な市民団体を説き伏せるだけの、いわば政治的な体力というものがないのが実情です。

それでも大統領の職務を代行しているファン首相は昨日(23日)、少し時間はかかるものの、必ず克服できるよう努力すると強調しました。
世論を左右するメディアの間でも、元慰安婦たちを置き去りにした合意破棄の主張は、無責任だと批判する論調が増えつつあります。」

その冷静な対応を呼びかける動きもあるということなんですけれども、そういった声がどの程度、韓国全体に届いているんでしょうか?

池畑修平支局長(ソウル支局)
「まだ楽観はできません。
と言いますのも、与党も野党も今年(2017年)前半にはパク大統領の弾劾が確定して、選挙が前倒しされる可能性があるという読みのもと、日本との関係改善よりも大衆の支持獲得に必死です。
その結果、各党・各候補とも慰安婦問題で日本をたたく、ポピュリズムに走ってしまっています。
この流れを変えるには、まず、韓国の政治家たちがこうした外交問題を選挙に利用するのを自制することが不可欠だと思います。」

プサンの日本総領事館前に設置された少女像が撤去されない状況に対して、日本政府は、韓国駐在の長嶺大使らを一時帰国させました。

日本国内の世論調査では、これを評価するという声が50%に上っています。
大使の帰任については、現段階では当面、見送る方向となっている状況です。
この問題、なかなか出口が見えない状況で、韓国は大統領選挙を控えている 合意の履行はどうなっていくのか?

奥薗さん:残念ですけれども、見通しは明るくないと言わざるを得ないと思います。
それは、パク・クネ大統領のスキャンダルがはじける中で、大統領選挙がいつあるか分からないという状況になってしまいましたので、有力候補といわれている人たちが、選挙戦略を立てられない状況になっています。
その結果、すぐにでも戦って勝てるように、今からフルスロットルで行かざるを得ないという状況に置かれてしまっているんです。
(強硬だというのは、つまり、いつが大統領選挙か分からないけど、今からパク・クネ大統領ではないキャンペーンを打っていくということをせざるを得ないと?)
そうですね。
パク・クネ大統領を否定して、その上で自分は国民の側に立っているということを強くアピールして、そのためには国民の心に響きやすい、そういう主張をする方向に走りがちになってしまうと。
その結果、国際合意よりも国民感情という方向に傾きがちになってしまいます。
パク・クネ大統領がそういう状況に陥っている中で、この慰安婦問題というのが、大統領選挙を念頭に置いた時に非常に有効で手っ取り早い、格好の材料と化してしまっているということが残念ながら言えるんだろうと思います。

現在、元慰安婦の方々の平均年齢は、およそ90歳で、今年1年余りでも7人の方が亡くなっている そういった方々にとっては、今回の合意が問題の解決を見届ける最後のチャンスだとも言われている どうしたら、この合意を進めていけるのか?

奥薗さん:非常に厳しいんですけれども、この対立が解けずに問題が宙にういて、事実上、その問題が放置されることになって、慰安婦の方々が皆さん亡くなってしまうような、そういうことだけは、当事者不在の最悪のシナリオで、避けるべきだというふうに思っています。
そのためには、韓国にすべて投げてしまうのではなく、日本側は冷静さを取り戻して、合意を前提にして何ができるのか。
もう一度、当事者に寄り添う原点を忘れずに考えてみる必要があると思います。

当事者にも多様な声があって、それを置き去りにしない、そして、冷静に対応することが求められていると。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス