クローズアップ現代

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No.39212017年1月23日(月)放送
いまなぜ? 官僚“天下り”問題ふたたび

いまなぜ? 官僚“天下り”問題ふたたび

文科省“天下り”問題 新事実が明らかに

文部科学省の天下りが問題になっています。
国家公務員が利害関係のある企業や団体に、天下りをすることは厳しく規制されています。

法律で禁じられているのは、例えば省庁が直接再就職をあっせんしたり、または本人が在職中に就職活動をすることなどですが、今回のケースでは、国のこの再就職等監視委員会は、両方に当てはまるとして、違法だと認定しました。
そもそも、天下りは監督権限を持つ省庁と企業などが癒着して、不正につながりかねません。
これまでにも、防衛施設庁や国土交通省などで逮捕者が出るなど、大きな問題となってきました。
さらに今、高齢者の中高年の方々の再就職が難しい時代に、国家公務員という特権を利用しての天下りには、批判も集まっています。
今回、NHKが入手した資料からは、文部科学省が組織的に天下りを隠そうとしていた実態が見えてきました。

文科省“天下り”問題 独占入手!隠蔽の実態は

文部科学省 吉田大輔元高等教育局長
「みなさんこんにちは、高等教育局長の吉田でございます。」

文部科学省の元高等教育局長、吉田大輔氏です。

吉田元局長は一昨年(2015年)8月、文科省を退職。
2か月もたたないうちに、早稲田大学に教授として再就職しました。
その期間の短さを不自然に感じた監視委員会。
文科省が吉田元局長の在職中に、再就職のあっせんをしたのではないかと調査に乗り出しました。

今回、NHKは文科省の人事課が作成した想定問答を入手。
調査をかいくぐるために、吉田元局長や早稲田大学に、うその回答をするよう依頼していました。
まず分かったのは、再就職のあっせんを文科省ではなく、OBによるものと見せかけようとしていた実態です。

実際は、文科省が吉田元局長の再就職を早稲田大学に直接、依頼していました。
しかし、早稲田大学用の想定問答では、事実とは全く異なることが書かれていました。

想定される質問
“早稲田大学はどのような経緯で吉田氏を採用したのか?”

早稲田大学の想定回答
“早稲田大学の人事戦略上、高等教育行政に詳しい人材を求めたいと考え、以前、早稲田大学に在職していたA氏に、平成27年4月ごろに依頼。
その後、早稲田大学の選考過程を経て、吉田氏を採用することとなった。”

文科省は、法律に触れていないと見せかけるため、かつて早稲田大学に在職していたOBのA氏を通して、再就職の依頼があったように装ったのです。
監視委員会が疑念を持った短期間での再就職については、大学の都合に見せかけようとしました。

実際は、吉田元局長の在職中から文科省があっせんを進めていたため、退職から、わずか2か月後の10月1日に再就職しました。
しかし…。

想定される質問
“通常、早稲田大学の教員の採用にかかる手続きはどのくらいの期間がかかるか?”

早稲田大学の想定回答
“通常、教員の採用日は10月1日付が多いため、今回、吉田氏については10月1日付採用に間に合うように手続きを進めた。”

短期間で就職が決まったのは、大学の人事制度に合わせて採用を急いだからだという理屈に仕立て上げました。
そして、うそがばれないよう、徹底した口裏合わせを行っていたことも分かりました。

想定問答は、大学や吉田元局長だけでなく、実際には、再就職には関わっていなかったOB用にも作られ、うその証言を依頼していました。

想定される質問
“A氏はなぜ吉田氏に連絡をしたのか?
また、いつ連絡したのか?”

OB・A氏の想定回答
“吉田氏は自分(A氏)にとって、後輩にあたり、在職時からの知り合いであった。
報道発表で吉田氏の退職を知り、退職後、電話で声をかけた。”

こうした隠蔽工作を入念に行い、監視委員会の調査をくぐり抜けようとしたのです。
さらに取材を進めると、文科省は監視委員会の調査の当日も隠蔽を確実なものにするため、動いていたことが分かりました。

再就職した吉田元局長への調査が早稲田大学で行われたのは、去年(2016年)8月。
この日、文科省の人事課職員が大学に出向こうとしていたことが、当時の記録に残っていました。

人事課職員
“監視委員会にばれないよう、吉田先生のところに行きます。
調査の状況を確認させて下さい。”

監視委員会の聞き取り内容を確認し、この後、聞き取りが予定されていたほかの関係者にその結果を伝え、答えが食い違わないようにしたと見られます。
聞き取り後の吉田元局長と人事課職員のやり取りの記録も残っていました。

文部科学省 吉田大輔元高等教育局長
“とりあえずこれまでのところ、決定的なミスはないように思います。”

文科省人事課担当職員
“対応で不自然なところはなかったと思います。
本当にありがとうございました。”

しかし、監視委員会は説明に矛盾を見つけ、調査を継続。
今回の発覚にいたりました。

松野博一文科相
「文部科学省、文部科学行政に対する信頼を著しく損ねたことを、心よりおわび申し上げます。」

文科省“天下り”問題 OBによる仲介も!

今回の調査では、今のような明らかに違法なケースが、去年までの4年間で10件あったとしています。
さらに、違法の可能性があるケースが28件あるとしています。
実は、これらのケースでは文部科学省が、ある特定の省庁のOBを仲介役にして、再就職のあっせんを行っていました。
こうした行為が実質的な違反行為に当たると、監視委員会は認定をしたのです。

組織ぐるみの“天下り” “仲介者”を直撃

OBによる天下り仲介の実態とは、どのようなものか。
私たちは、その当事者に直接問いました。

文科省の人事課に10年以上在籍していた、このOB。
自ら設立した団体の理事長を務めています。
省庁による再就職のあっせんが厳しく規制された直後から、再就職の仲介をしてきたといいます。

文部科学省 人事課 OB
「新しい仕組みのなかで、国の関与が不可ということになったなかで、私としては、ご縁のあるところから人材について相談を受けるような場合に、いわば手助けというんでしょうか、人助けのような気持ちで、退職者を紹介するというようなことがありました。」

監視委員会が問題視したのは、OBを介して、実質的に文科省が天下りのあっせんを行っていた点です。
文科省はOBに対して、退職予定者の情報を提供。
OBは、その情報を天下りを受け入れる意向を示す大学や企業などに紹介していました。
これに対しOBは、仲介はあくまでもボランティアで違法性はないと主張しました。

文部科学省 人事課 OB
「文科省から『こうしてくれ』と具体の指示を受けてやったことでもありません。
私なりの意識でやったことです。」

「本当にボランティアで?」

文部科学省 人事課 OB
「そういうことです。」

しかし、文科省の幹部の中でもこの構図に対して懸念の声が上がっていました。

文部科学省 幹部(取材メモより)
“得体(えたい)の知れない組織。
これが表に出たら相当やばいなと思ったことがある。”

かつて、公務員制度改革に関わった元官僚の原英史さんです。
今回の件を受け、天下りの規制をさらに強化する必要があると考えています。

元官僚 原英史さん
「OBを使ってのう回とか、今のルールだけで、必ずしも取り締まりきれていない。
取り締まりをしっかりやることと、ルールの改善・強化を必要であればやっていく。
その2つに尽きるんじゃないかと思います。」

文科省“天下り”問題 内部資料を独占入手

ゲスト 中野雅至さん(神戸学院大学教授)

この想定問答集、本当に周到に準備されていたが?

大河内記者:文科省の人事課が作成したこの想定問答ですけれども、国の監視委員会の調査に対して、どうすればその目をごまかすことができるのか、早稲田大学などとのやり取りを重ねて、何度も書き直した、非常に手の込んだものだったんです。
架空の筋書きを作って、それに沿った形で、あたかも元局長が正規の手続きを経て採用されたかのように記されていまして、取材した私たちも、ここまで用意するのかと正直驚きました。

文部科学省のOBが再就職のあっせんに対して、罪の意識はなかったのか?

大河内記者:まさにその点が、今後の焦点の一つになると思います。
このOBを使った再就職をあっせんする仕組みなんですけれども、これは文科省の中でも、一部の限られた人しか知らなかったものなんです。
しかし、取材した職員の中には「これが表に出るとまずいことになる」と答えた人もいました。
この問題を受けて、文科省は省内に調査チームを設置して、この組織的な天下りが一体どれぐらい行われていたのか、また、OBを使った天下りをどのように捉えていたのか、3月いっぱいをめどに調査をして、明らかにすることにしています。

平成20年に改正された国家公務員法が施行されて、天下りをあっせんすることは厳しく規制されたが、また繰り返された これはなぜだと思う?

中野さん:平成20年度以降、官僚バッシングという、官僚に対する非常に厳しい空気がありました。
相当、役所も萎縮していまして、その当時、天下りに対して規制を強くしようという気持ちがありました。
その当時、長期不況の真っただ中でしたから、それが全く雰囲気が変わって、世間の関心も、どちらかというと内政や行政改革、そういうところに興味があったんですが、最近は、景気がよくなって、世間の関心も外交とかに移ってきていて、気が緩んできたというのがあると思います。
(ただ、気の緩みだけでは決して許されるものではないが?)
決して許されるものではないですけど、そういう、たがの緩み方が今回の文部科学省は相当露骨だったんだと思います。

10年前に厳しく規制されたはずの天下りの問題というのが、どうしてなくならないのか。
今回、NHKでは省庁に聞き取り調査を行ったんです。
そうしますと、その背景というものが見えてきました。

緊急調査“天下り” ほかの省庁は…

NHKによる、聞き取り調査。
違法な天下りを行っていると答えた省庁はありませんでしたが、再就職の規制を巡ってはさまざまな指摘が寄せられました。

消費者庁
“消費者庁は多様な職員で構成され、人の出入りが激しい。
四六時中、規制について説明が必要で、その点は難しい。”

総務省
“個人による再就職の約束などは把握しづらく、職員すべてをチェックするには、まだ工夫が必要。”

いまなぜ? “天下り”の背景は

さらに、元省庁幹部への取材から、中央省庁ならではの問題も見えてきました。
事務次官を頂点とする官僚組織。
年次が上がると、徐々にポストが少なくなるため、次官以外の人が定年より前に退職するケースが出てきます。
さらに、行政改革で退職後に働ける関連団体の数も減っているといいます。

環境省 元幹部への取材メモ
“退職した人が優秀ならどこでも行き先があるので、普通に再就職先を探せばいい。
問題は、優秀ではなく、行き場がない人であり、定年まで勤めるのが難しい今の役所のピラミッド構造では、どこかで面倒を見てあげないといけない。”

文科省の元幹部の寺脇研さんです。
再就職に不安を抱く公務員は少なくないといいます。

文部科学省 元幹部 京都造形芸術大学 寺脇研教授
「30年以上その役所の中にいて、一個人になるというのは、お恥ずかしいながら、やっぱり、とても不安です。
自分に何かセールスポイントがあって、やっていけば、できるけれども、必ずしも、すべての人間がそうじゃないし、むしろ、そういう方が少ないぐらい。」

さらに、天下りを受け入れる側にも事情があります。
ある私立大学の関係者は、大学側に省庁との関係を強めたいという思惑が年々強まっているといいます。

私立大学の関係者
「今、大学はいろいろ経営も厳しくて、地方の小さな大学とか短大とかがつぶれていくとか、統合されてしまうことになって、いろいろな資金は文科省が作るけれど、選ばれて資金を優先的に回してもらうためにどうすればいいか。
いかなる手を使ってでも、有利になるようなことをします。
そのひとつが天下りだろうなと思います。」

公務員制度に詳しい、同志社大学教授の太田肇さんです。
天下りを受け入れる側への規制も必要だと提言しています。

同志社大学 太田肇教授
「贈収賄の場合ですと、例えば贈賄側の企業に対して、一定期間、入札の指名停止といったような制裁があります。
ところが天下りに対しては、そういうのがないですから、(大学への)補助金を一部カットするとか、厳しい処分が科される可能性があると分かれば、それは大きな抑止力になると思います。」

いまなぜ? “天下り”の背景は

今回、NHKが独自に行った聞き取り調査では、「再就職への規制が始まり、定年ギリギリまで勤める職員が増えたので人事が詰まり、停滞している部分がある」という回答もあった 中野さん、こうした回答を率直にどう思う?

中野さん:こういうことは確かにあると思います。
ただ、辞める方にしても、公務員、民間限らず、自力で転職できるかというとなかなか難しいと思うんです。
やっぱり日本の労働市場は、全体的に流動性が低くて、転職が一般的ではないので、役所から民間といわれてもなかなか行けない。
私自身、実は公募で大学教員になったんですけど、何度も書類を送って、やっとなったぐらいですから、やっぱりそれはみんな同じだと思います。
ただ、公務員の難しいところは、だからといって、組織の力でいくと天下りにつながっていく。
税金のむだづかいにつながる。
ここをどう、しゅん別するかですね。
能力本意なのはいいんだけれども、やはり組織が関わりだすと、まずいということだと思います。
そこの線引きというか、何がどうかということを決めることが難しいですよね。

国は今後、ほかの省庁についても調査をするとしているが、具体的な今後の見通しは?

大河内記者:政府は、すでにすべての省庁に対して、同様の事例がないか調査するよう指示しました。
そして、疑わしい事例があった場合は、監視委員会が重ねて調査するとしています。
官僚の天下りの問題なんですけれども、民間の人たちの再就職というのが今、これだけ厳しい状況にありますので、やはり厳しく指摘されてしかるべきことだと思います。
国民に疑念を持たれることがないように、省庁は速やかに、かつ徹底した調査を行って、その結果をしっかりと公表する必要があると思います。

視聴者の方より:「公務員人事制度自体変えないと天下りはなくならない」
今後、どうすればいいのか?

中野さん:人事システムを変えるのは、なかなか難しいです。
早期退職勧奨システムがあって、60歳前に辞めてしまうという事例が非常に多い。
それは変えていく必要があるんですけれども、最近、役所の人事も変わってきていまして、例えば、昔は同期横並びで昇進したんですが、それが崩れてきたり、辞める年齢もだんだん高くなってきています。
そこは変わってきています。
能力で再就職する人も出てきていますので、そこらへんの変化を見た方がいいと思います。
変化を見ながら、片一方で天下りのような、今回の組織が介在したような税金のむだづかいとか、こういうものをどう止めていくか。
天下りは構造問題という観点を持ちながら、一方で、能力本位のものは認めていくと。
そういう2つのバランスのいい視点が必要だと思います。

今後、再発防止に何が必要?

中野さん:今回、全省庁調査を早くやるということで、これはすごくよかったと思います。
問題は、項目だと思うんですね。
どういう項目を調査するか。
これまでも情報公開というのは、相当してきていまして、役所も改善措置は取っていますので、それはいいと思います。
問題はどういう項目、これまでにないような項目をどれだけ挙げていくかということです。
例えば、あっせんといっても実態はなかなか分かりません。
今回も調査をしましたけど、なかなかそこは把握できないところがあるので、限りなく、あっせんしたような形に近いんじゃないかと。
特定のポストに、特定の人が何代も続けて行っているとか、こういう事例がどれぐらいあるのか、特定の官庁や特定の企業、こういう特定のものをどれだけ暴き出せるか。
これは調査項目だと思います。
また、これまでにないような調査項目をしっかり出してほしい。
これが1点目の求めるところです。
2つ目が、監視委員会の機能強化。
今回のこの天下りシステムは、事前規制というのを全部取っ払って、基本的能力本位であれば、天下ってもいいと、再就職はしてもいいというシステムなんですね。
ただ、そのシステムを機能するためには、しっかりとした監視システムがいるわけです。
何か悪いことをやれば一罰百戒で、バシッと取り締まると。
このシステムの中心は監視委員会だと思います。
この監視委員会がどれだけ立件しているか。
これを見ると、やっぱり過去、非常に少ないですね。
この前あったのは、去年の消費者庁。
さらにたどると国土交通省になるんですけれども、件数が非常に少ない。
特に必要がある以外は、なかなか調査をしない。
情報提供に頼っている部分がありますから、この組織を何とか強化して、天下りの防止に努めていかないと。
ただ、今のシステムの下においては、この組織はやっぱり肝だと思います。
自己規制の中心ですから、ここをもう少し権限を強化するなり、何らかの形で機能強化に努めていかない限り、難しいと思います。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

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