クローズアップ現代

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No.39162017年1月12日(木)放送
“この世界の片隅に”時代を超える平和への祈り

“この世界の片隅に”時代を超える平和への祈り

2016年邦画第1位 「この世界の片隅に」

異例のヒットを続ける映画「この世界の片隅に」は、これまでにない形で共感の輪が広がっていきました。
原作漫画にほれ込んだ監督が、映画を企画したのは6年前。
資金ゼロからのスタートでした。
しかし、映画化に賛同した多くの一般の人々が制作費を出資したことで軌道に乗り、映画はようやく完成しました。
大がかりなプロモーションもありませんでしたが、SNSなどを通じて評判が幾重にも広がり、動員数は100万人に達しようとしています。
アニメ作品が、キネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得したのは「となりのトトロ」以来、実に28年ぶりという快挙でした。

「この世界の片隅に」 なぜ心を打つのか

映画は、70年以上前の広島が舞台です。

東洋一の軍港といわれた呉に嫁いだ主人公、すず。
戦争が暮らしに影を落としていく中、日々、小さな喜びを見い出しながら、日常を懸命に生きています。
すずたちが直面する激しい空襲や原爆投下。
しかし映画は、厳しい戦時下でも人間性を失わない人々の等身大の姿を描き出していきます。

戦後、日本の漫画・アニメ界をけん引してきた、ちばてつやさんです。
戦争を描いた、これまでの作品とまったく違う表現方法を獲得していると感じたといいます。

漫画家 ちばてつやさん
「(映画は)いつ爆弾が降ってくるような、そういう非常に緊迫した状態なのに、そこでちょっと冗談言って笑ったりね。
『こういう生き方をすれば、みんな人間は幸せになれるんだよ』という大事なメッセージも入っていると思う。」

映画の原作は、広島出身の、こうの史代さんの漫画です。
こうのさんは、以前から戦争の悲劇が死者の数だけではかられがちなことに違和感を抱いてきました。
戦時下に、確かにあったはずの人々の生のきらめきや悲しみを作品に込めたかったといいます。

原作者 こうの史代さん
「昔の人は愚かだったから戦争をしてしまった、そしてこんな生活にっていう感じで片づけられる気がするんですけど、本当は、われわれの見たことのある祖父母は、決してバカな人ではありませんでしたよね。
彼らが彼らなりに工夫して、幸せに生きようとしたということを、この作品で追いかけて、つかみたいと思ったんです。」

映画監督 片渕須直さん
「当時のものです。」

映画を監督した片渕須直さんは、時代考証をさらに重ね、原作の世界にさらなるリアリティーを加えていきました。
70年前の毎日の天気から、店の品ぞろえの変化。
空襲警報の発令時刻に至るまで、すべて調べ上げました。

この作品を特徴づけるのは、繰り返し描かれる食事のシーン。

空腹を紛らわすため、玄米に多くの水分を吸わせるなどして、かさ増しした「楠公飯(なんこうめし)」と呼ばれる料理。

片渕さんは実際に料理を作り、味を確かめ、作品に投影させていきました。
徹底した時代考証によって、生き生きと表現される戦時下の暮らし。

そうした豊かな日常を突然、断ち切る戦争。
映画を見た人々は、その事実の重さを突きつけられるのです。

映画監督 片渕須直さん
「『この世界の片隅に』という題名なんですよ。
描けるのは、片隅にいる、さらにその片隅にいる、小さなところにいる、すずさんからの目線だけなんですね。
たまたま人生の一時期が戦争中だったというだけの、われわれと全く変わらない人たちであるはずなんですね。
そこから、そういう時代を見つめ直す新しい感触みたいなものがつかめていくのでは。」

主人公、すずを演じた、のんさんは登場人物一人一人がたまらなく、いとおしいと語ります。
時代は違っても、そこにある人々の喜びや悲しみ。
のんさんは、戦争の時代と自分の生きる時代を重ねて考えるようになったといいます。

女優 のんさん
「ごはんを食べて幸せに感じたり、毎日生きていく中で感じることとか、自分がどう思うかっていうのは、今の人たちと、現代の生きている人たちと変わらない部分があるんじゃないかと考えてて。
ごはんを作ることって楽しいんだとか、食べることが幸せなんだとか、洗濯するのが、とても誇らしいとか思えるようになって。」

40代 男性
「すずさんのいた時代と、今、自分たちが住んでいる、この平成の時代がつながっている感じ、地続きな感じが、肌に感じる、胸に来る。」

20代 男性
「戦中だけど戦中の話ではない、リアリティーを感じて、私たちがそれを今現在、何とつなげられるのか。」

20代 女性
「昔あった戦争で亡くなられた方たちって、本当に今の私と何も変わらない命を持った人たちだったんだな。」

そして映画は、戦争の深い傷あとから人々が日常を取り戻していく姿で締めくくられます。

“この世界の片隅に” 日常のきらめきを描く

ゲスト 大林千茱萸さん(映画作家・料理家)
ゲスト 渋谷天外さん(松竹新喜劇代表)

大林さんは、映画のパンフレットに寄稿もされていて、「普通の暮らしの中に、普遍的な宝がある」と書いています。
この反響の広がりを、どのように思う?

大林さん:20代、30代、40代と、本当にいろんな方たちがさまざまな視点から言っているんだけれども、「自分から地続きである」とか、「70年ちょっと前のお話なのにそんなに昔のことに感じられない」とか、みんなが他人事じゃなく、この映画を自分事として見られたんだなというものを、まずは一番、大きく感じたところです。
あと、監督もおっしゃっていましたけれども、「片隅の、そのさらに片隅の」というのが、物語のアプローチを変えるだけで、こんなにまだやれることがたくさんあったんだなという発見が、皆さんにも伝わったんじゃないだろうかと思うんですね。
というのは、例えば今、映画は実写ではあるけれども、CGやいろんな合成でどんどんリアルになっています。
銃声であるとか、撃たれた感触であるとか、血の吹き方であるとか、とてもリアルで、その場に自分がいるようなことだけれども、そちらから描くのではなく、その中心を描くのではなく、周りに、片隅の片隅にいる人たちを丁寧に描くことで、どんどん循環していくというか、つながっていった中で中心が見えてくるという、このやり方が本当にすばらしかったし、皆さんのふに落ちたといいますか、共感につながったんじゃないかなと、すごく思います。

渋谷さんは「そりゃ、今せにゃいけん、けんかかね」という、せりふで映画に出演されているが、台本を読んだ第一印象はどのようなものだった?

渋谷さん:もうちょっと、せりふがほしかったですけどね。
でも、台本読んで、出来上がっていく途中に、あれ?これって、淡々と普通の市井の人たちの生活を描いているだけじゃないかと。
その中に、いつのまにか戦争っていうものが、すーっと忍び寄ってくる、それはちょっと言い過ぎかな?
薄い墨でさーっとかけられていくように体に戦争が踏み込んでいく。
戦争が襲ってくる時はこんな感じなのかと。
日常にすーっと入り込んでいく、そんな怖さがありましたね。

この作品は、もんぺの作り方や雑草を使ったレシピといった徹底した時代考証に裏付けされることによって、当時の暮らしが肌感覚で伝わってくるというものがあるが?

大林さん:肌感覚と、まさにそういうふうに思いまして、映画を見た後に、すぐ外に出て、思わず草とかを見てしまうんですね。
自分で「あっ、これはなんていう草の名前なんだ」と。
すずさんじゃないけど、「これはナズナかしら、これ、カタバミかしら?これ、食べられるのかしら?」って、皮膚感覚とかで見てしまったりとか。
確かに、食事のシーンがすごくいっぱい出てきて、私たちは生まれてから死ぬまで、全員が共通していることって、どんなに職業が違っていても、食べることっていうのが全部共通している。
われわれ人間が生きていくことで共通していくことを考えると、根源的なことにすごく立ち返るし、今よりきっと物はない、食材はないし、調味料もないけれども、すごく工夫されていることが、映画の中から時代考証を経て、すごくリアルに感じられたので、自然を慈しむ感情とかも、映画を見たことによって、またふつふつと湧き上がってきました。

日常の喜怒哀楽が描かれながらも、主人公は空襲や原爆で家族を亡くすなど、戦争で多くを奪われます。
日常が描かれているからこそ、その重みを感じられたが?

渋谷さん:結局、普遍的なものを、この映画は描いていると思うんです。
私が今、在籍しております松竹新喜劇というお芝居は喜劇なんですけれども、いわゆる普遍的な人間の営みの中での笑いだとか、涙とかいうのを私たちは演じています。
それと同じように、今のこの現代がそのまま時代劇になったというか、みんなが紛争して、いつのまにか戦争にすーっと巻き込まれていった、というのが、この映画を見た時の感触ではありましたね。
普通の人が戦争に行って、普通の人が普通の生活をしていく。
いかにも、「はい、今から戦争が始まりますよ」じゃなくて、すーっと入っていく。
それが、失礼な言い方ですけど、おもしろい映画の裏にある、とっても怖いところが描かれていると思います。

この映画のパンフレットをご覧いただきたいんですけれども、映画のエンドロールにも流れる、映画に出資した7,000人の方の一部が紹介されています。
映画に寄せる人々の思いです。

「この世界の片隅に」 現代に響くメッセージ

映画「この世界の片隅に」は、一般の人々が制作に参加する、これまでにない方法で制作されました。
インターネットを通じて、一般の人から小口の制作資金を募る「クラウドファンディング」。
原作に心を打たれた人や作品の舞台となった広島の人たちなど、これまでに7,000人が出資。
その額は7,000万円を超えています。
この出資がなければ、作品は生まれなかったといいます。

配給会社 太田和宏社長
「応援したいという共感が、どんどん増幅して広がっていった。」

映画に1万800円出資した、塗本悟史さんです。
祖母の戦争体験を後世に残したいと呼びかけに応じました。

塗本さんの祖母の夙子(あさこ)さんは、映画の舞台となった呉で戦争を体験しました。
生前、当時の話をよく聞かせてくれたといいます。

塗本悟史さん
「『(祖母は)米軍機から機銃掃射を受けて、本当に人の顔が見えるようだった』と。
『それはすごく恐ろしくて、ノイローゼになって、外にも行けなくなったから疎開したんだ』と。」

2,000人もの市民の命が奪われた、呉への空襲。
祖母も友人を亡くしました。
映画を見て初めて、祖母が戦時下を生き抜いたことの重さを感じたという塗本さん。
将来、この映画を通じて、祖母の体験を1歳の娘につなぐことができると考えています。

塗本悟史さん
「今ある暮らしだったり家族というものが、突然失われてしまうかもしれない。
これは本当に災害だったり病気も同じだと思う。
映画の主人公も私の祖母も、すごくよく笑う人たちなので、(私たちも)本当に、にこにこしながら、ずっと暮らしていけたらいいなと。」

映画が描く “新たなヒロシマ”

映画の舞台となった広島。
原爆の記憶の風化に直面する、この街の人々にも映画は大きなインパクトを与えています。

原爆資料館で被爆者の体験を語り継ぐ活動をしている、渡部公友さん。
被爆者が次々にこの世を去り、危機感を抱いてきました。
映画は、世代を越えて伝えることの可能性を示してくれたと感じています。

被爆者体験伝承者 渡部公友さん
「日常を丹念に描くということ、これが非常に、臨場感を膨らませているというか、みるものに訴える力が、心にしみいる。
これからの伝承活動にとって、有益になっていくんじゃないか。」

映画が、戦争を知らない若い世代の心を深く捉えたことに驚かされたという人もいます。
被爆二世の友川千寿美さんです。
友川さんは、原爆の実態を若い世代に伝えるために、ドキュメンタリーフィルムの上映に力を入れてきました。
しかし、原爆の被害を直接訴える映像は敬遠され、こうした映画の上映の機会もほとんどなくなりました。

映画会社 友川千寿美さん
「これは真実だから、ということで、すごく直接的な表現がある届けかたをするのは、逆(効果)になるときもあるなと。」

戦争がもたらした過酷な現実を、どうすれば次の世代に伝えることができるのか。
友川さんが作品の中で強く印象に残ったというシーンがあります。

絵を描くのが好きな主人公、すず。

たまたま戦艦のスケッチをしていた、すずはある日、スパイの疑いで憲兵に捕まります。
すずのぼんやりした人柄を知る家族は憲兵が去った後、大笑いして、いつもの日常に戻るのです。

映画会社 友川千寿美さん
「けっして暗いだけの時間を過ごしていたわけではない。
その当時でも家族みんなが、涙を流しながら大笑いするような、そういう風景があった時代。
素敵なシーンですよね。
こういう戦争、平和、原爆についての伝えかたがやっとできた作品、という印象でした。
二度とこういうことがあってはいけないという人々の思いを、私たちで断ち切ってはいけない。」

戦時下の日常に光を当てた「この世界の片隅に」。
そのメッセージが時代を越え、人々の心を打ち抜いています。

40代 男性
「ある日突然、大事なものを失うという日常における戦争というのを感じました。」

30代 女性
「大きな運命というか、とてもすごい強い力に翻弄される人々。
その苦しみだったり、悲しみだったり、今回の空襲のあとのシーンと、震災のあとの私たちの体験が、何かすごい重なって見えた瞬間があって。」

10代 男性
「いつの時代も、みんなが笑って生活することは、一番すてきなことだし、みんなが幸せなことだから。」

“ありがとう。
この世界の片隅に、うちを見つけてくれて。”

“この世界の片隅に” 7,000人の思い

ネット上には、自分もクラウドファンディングに参加したかったという声が多かった 本来は受け手の人たちが能動的に映画に関わるというところに新しさを感じるが?

大林さん:皆さんが一人一人でできることは、もしかしたら小さなことかもしれないけれども、この片隅の小さな人たちが、自分の思いを、数じゃない思いをどんどんできることが広がって、寄せ集まっていくことでこれだけ広がったという。
参加していくことが、この映画の実現に結び付いたというのは、いろんな映画だけではなく、いろんな私たちの生活に関しても、すごく希望につながったんじゃないか、すごく多様性があるなと、皆さんの声を聞いても思います。

戦争や震災など、大事なことをどう伝えていくのか、多くの人たちがそこに可能性を感じているように思うが?

大林さん:私は見ながら、まさしく、終わらない映画だなとすごく思いました。
皆さんが、これからずっと語り継いでいくんだろうと。
そして、できれば、このまま70年、80年と語り継いで、これが古典になっていくぐらい、戦争がない日々が笑って、みんながおいしくごはんを食べられる日々がつつましく、穏やかに進んでいったらいいなという思いで見ました。

渋谷さんは、「この世界の片隅に」というタイトルに何を感じた?

渋谷さん:初めは監督もおっしゃっていたように、そういうことだったんだろうけれども、僕が台本を頂いた時に、「今現在、この時間、この世界の片隅に同じようなことが行われている。つまり今、どこかで戦争が行われている」という捉え方をさせていただいた題名でした。

視聴者の方より:「公園で元気に遊ぶ子どもたちがとてもいとおしく、輝いて見えるようになりました(50代・男性)」「今、目の前の仕事を一生懸命やろう、目の前の人を大切にしようと改めて思います(30代・女性)」
30年、40年先もずっと残る作品になりそうですね。

渋谷さん:残さなければいけないですよね。

大林さん:伝えていきたい。

※クラウドファンディングで7,000人、7,000万円から支援があったという表現は
第1弾クラウドファインディングで支援した3,374人、3,912万円(パイロット版制作)
第2弾クラウドファインディングで支援した3,296人、3,121万円(監督の海外渡航)
を合算した概数です。

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