クローズアップ現代

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No.39022016年12月5日(月)放送
稲妻が超高層ビルを襲う ~明らかになる“雷クライシス”~

稲妻が超高層ビルを襲う ~明らかになる“雷クライシス”~

避雷針では防げない!? 超高層ビルを襲う雷

今、都市部の超高層ビルで新たなリスクが浮かび上がってきました。

今回、NHKが独自に入手した雷による被害の写真です。
高層ビルの屋上の角に雷が直撃。
コンクリートが地上に落下しました。

都心の一等地に建つ高級ホテルでも…。
高さ200メートル。
屋上の一部が粉砕され、1階まで落下しました。
雷は避雷針ではなく、超高層ビルの外壁などを直撃。
コンクリートの塊などが凶器となって、地上を襲う事態が相次いでいるのです。

今回初めて、高層ビルの雷被害の調査を行った団体です。
メンバーは、大学の研究者や技術者ら10人余り。
建物の被害は、資産価値などに影響するため、これまであまり表に出ることがありませんでした。

ゼネコンなどへの聞き取りや現地調査から被害が明らかになった建物は、全国の少なくとも10棟。
そのうち9棟が、高さ100メートル以上の超高層ビルでした。

雷は、巨大な電流を一気に放出します。
そのエネルギーは、硬いコンクリートも一瞬で粉砕します。

雷対策の専門家
「コンクリートが落ちるということは、通行人に当たったら被害になる。
そういう事故を起こすだけの要因はあるということは事実。」

都市部で建設が相次ぐ超高層ビル。
避雷針を備えていますが、実は、それだけでは被害を完全には防げないのです。

高さ20メートルを超える建物には、避雷針の設置などが法律で義務づけられています。

しかし、高層ビルの場合、離れた場所の雷が横からも襲ってくることが分かってきました。
避雷針だけでは防げず、屋上の角や側壁が被害に遭うのです。

東京都庁も、高さ180メートルの側壁に雷の直撃を受けています。
壁の一部が剥がれ、地上に落下。
幸い、けが人はいませんでした。

国会議事堂も、高さ60メートルを超える頭頂部を直撃。
御影石が、ワイヤーの入ったガラスを突き破り、1階の食堂に落下しました。
しかし、こうした被害を報告する義務はありません。
専門家は、今回明らかになった被害は、氷山の一角だといいます。

静岡大学 客員教授 横山茂さん
「(今回わかっただけでも)それだけある。
考えていかなければならない問題だと思う。」

相次ぐ高層ビルの雷被害 背景に何が?

被害が相次いできた背景には、安全のための基準が守られていない実態があることも分かってきました。

国は平成17年、建築基準法の雷対策の基準を改めました。

この時すでに、ビルの側壁や角の部分に雷対策を行うことを求めていたのです。

実際に対策が取られたビルです。
屋上の周囲には、雷を受け止める金属を取り付けます。

側壁にも雷を受け止める金属の板を張り付け、コンクリートが破壊されるのを防ぎます。
ところが、今回被害が確認された10棟はすべて、こうした対策が取られていませんでした。

しかも、国が雷対策の基準を改正した後に建設された建物も複数含まれていたのです。

調査を行った団体のメンバー、横山茂さんです。

横山さんが問題だと考えているのが、基準を改正する際に国が示した方針です。
新しく建てる場合でも、古い基準の避雷設備でもよいとしていたのです。
横山さんは、このことが対策の必要性をあいまいにしてしまったと考えています。

静岡大学 客員教授 横山茂さん
「安全安心がますます重要になってくる(基準を)無視していいのか。
新しくできる建物はそういうもの(基準)に従ってやるべきだと思う。」

実は危険!? “冬の雷”

ゲスト 妹尾堅一郞さん(雷害リスク低減コンソーシアム 代表)
島川英介記者(社会部)

雷は避雷針で受け止めているものだと思っていたが、そうとも限らない?

妹尾さん:限らないですね。
避雷針という言い方をするから、ついついそこへ全部避けてくれると思ってしまうんですが、あれは一種の“誘雷針”、つまり雷を誘うようになっているんです。
ところが、雷は必ずしも誘われなくて、僕らの言葉では「ミスショットをする」と言うんですけども。

横へ回ってしまうようなことがたくさんあるんです。
(上にではなくて、横から来てしまうことがある?)
横から入る。
ですので、避雷針だけで「防雷」ができているとは考えない方がいいです。
それもワン・オブ・ゼムなんですが、もっと総合的な対策を打たなきゃいけません。

雷は、夏のイメージが強いが、冬もある?

妹尾さん:我々は雷について、一種の独特の思い込みがありまして、例えば「落雷」といいますよね。
雷は落ちるものだと思っているんだけれども、実は、上る雷もあるんです。
それから、夏だけかと思いきや、冬の雷もたくさんあります。
(特に日本海側で多くなっている?)
これは、世界でも極めて珍しいんです。
新潟ですけど、庄内地方から能登半島にかけては、世界でも有数の「冬季雷」の産地といいますか、珍しい所です。

これまでに人的被害というのは出ていない?

島川記者:報告義務がありませんので、今のところ、そういった被害の確認はされていませんが、専門家はいつ起きてもおかしくないというふうに指摘しているんです。

この背景にありますのが、都市の高層化です。
国内の高さ60メートルを超える超高層ビルの数、現在、都市部を中心に2,500棟。
現在も増え続けているわけです。
さらに、民間の気象会社の観測では、関東や東海をはじめとして、都市で数時間に2,000〜3,000もの落雷が観測されています。
こんなことも実際に観測されているわけですね。
もちろん地震や津波、水害といった災害への備え、これも重要ですけども、現在進む都市の高層化、これが落雷、雷のリスクを顕在化させてきたということもいえると思うんです。

しかも、国が雷対策の基準を改めたのが11年前なのにもかかわらず、実際はそうなってこなかった これはなぜ?

島川記者:当初、国は新しい基準への、いわば経過期間というような意味合いもあって、古い基準でも構わないという方針を示していたわけなんです。
ただ、その後も方針の見直しは行われずに、その間、ご紹介したように被害が相次いできたわけですから、やはり一連の対応には問題があったと言わざるを得ないというふうに思います。
その一方で、業界側にも課題があるというふうに思います。
建築の関係者によりますと、新しい基準を採用しますと、建物によっては数百万円から1,000万円以上のコストがかかるということがあります。
さらに、デザイン的にも制約があります。
こうしたことから、新しい基準ではなくて、古い基準を採用する例が多いということなんです。

今後の対応について、今回の取材結果を踏まえて、国土交通省に確認をしたということだが?

島川記者:国土交通省は、「今回明らかになった被害状況を詳しく調べた上で、必要な対策につなげられるよう検討していきたい」とコメントしています。
やはり安全を最優先と考えた対策を求められると思います。

ここまで、都市部の高層化が雷のリスクを高めているという現状を見てきたんですが、もう1つ見過ごせないのが、高度に電子化した社会が、雷リスクを高めている現実です。
もはや私たちの生活になくてはならないスマホやパソコン、さらに医療機器などが危険にさらされているんです。

透析の機器が突然… その時 何が?

長野県安曇野市。
地域の医療を支える病院です。

この病院では、およそ80人の患者が人工透析の治療を受けています。
今年(2016年)8月、その透析の機器が突如、動かなくなる事態に陥りました。

柏原クリニック 臨床工学技士 保居啓一さん
「約10台、画面が真っ暗な状態で復帰しませんでした。
さすがに予想していなかったので、大変慌てました。」

当時、病院の周辺では、激しい雨とともに落雷が頻発。
地域一帯が停電しました。
病院では、すぐに非常用の発電機が作動。

ところが、透析の機器から異常を知らせるアラームが鳴り続け、作動しなかったのです。

柏原クリニック 臨床工学技士 保居啓一さん
「実際に装置が止まると、ポンプも止まってしまうので、血液が固まってしまう。
それだけ患者さんは血液を失うので、非常に恐ろしい話だなと。」

幸い、患者の入れ代わるタイミングで、治療中の人はいませんでした。
時間帯によっては、深刻な事態につながりかねない出来事でした。

いのちを脅かす “雷サージ”の脅威

一体、何が起きたのか。
病院は、駆けつけたメーカーの担当者から、周囲に落ちた雷の異常な電流が原因ではないかと説明を受けたといいます。

雷がもたらす異常な電流。
それは「雷サージ」と呼ばれています。

雷が落ちると、その周りには強い電磁波が発生します。
周囲の電気ケーブルなどには異常な電流が流れます。
これが雷サージです。
建物に侵入した異常な電流が電子機器に影響を与えてしまうのです。

柏原クリニック 院長 水上悦子さん
「全然、雷のことは考えてなかった。
大勢の命を預かっていることを前提にして考えれば、ぞっとします。」

メーカーはNHKの取材に、雷サージの可能性も含め、詳しい原因は調査中だと答えています。

防災体制ゆるがす? 新たな雷の脅威

雷サージの脅威は、自治体の防災体制にも及んでいます。

「避難勧告を発令します。」

津波や大雨などの危険が迫る時に避難を呼びかける、防災行政無線。
住民の命を支える、この設備が雷サージによって、故障するケースが相次いでいるのです。

被害を受けた件数は、平成24年度全国で240件以上に上ることが分かりました。
必要な情報が住民に伝わらない恐れも出ています。
台風の接近が相次いだ、今年8月。
前橋市では、小学校に設置している防災行政無線が、半月にわたり使えなくなっていました。
内部の機器が雷サージで壊れていましたが、そのことに気付かず、放置されていたのです。
今、前橋市では、市内に85か所ある防災行政無線で雷サージの対策の検討を始めています。

前橋市 危機管理室 副主幹 小平冬人さん
「住民に防災情報を知らせるという防災行政無線の本旨からもよくない。
今後どのような形で(雷対策を)把握していくのか、検討していかなければならない課題。」

いのちを脅かす “雷サージ”の脅威

「雷サージ」によって、防災行政無線の被害が1年間で240件 これは問題だが?

島川記者:これは人命に関わる事態ですから、早急な対策が必要だと思います。
さらに、被害をまとめた団体によりますと、実際の被害の件数、推計を含めると倍近くに上る可能性もあるというふうに指摘もしているんです。
さらに、機器の補修メーカーによりますと、自治体の中には、津波の避難訓練を行っている際に防災行政無線が鳴らず、初めて「雷サージ(ライサージ)」が原因で壊れていることが分かったというケースもあったということなんです。

今、私たちの身近なところに電子機器があふれている これはリスクがあらゆる所にあると考えられる?

妹尾さん:情報社会ですよね。
それから、センサーがこれから何百兆個埋め込まれる。
それから、コンピューターがすべてを制御するような時代に入ってきているわけですけれども、それってネットワークですから、全部そこを雷が伝って入ってくる。
そういう社会になってしまったわけですね。
「誘雷社会」と僕らは呼んでいるんですけれども、それはリスクを高めるわけです。
そうすると、どうなるか。
今、見たような、例えば病院の機器だとか、安全の対策機器だとか、要するにリスクに対する対策をすること自体がリスクにさらされるという状況に入ってきてしまっているんですね。
(リスクの時に働かなくてはいけないものが、働いてくれないと?)
そうすると、これは生活だけではなくて、ビジネスも大変です。
「瞬停」と呼ぶんですけど、瞬間停電になるんですね。
これは0.002秒とか、そういう単位なんですけども、それだけで、例えば半導体の工場がそれにさらされたら、一挙に数億円あっという間になくなってしまう。
(その一瞬で?)
一瞬でです。
本当にそういう時代に今、産業も生活もいろんなものが入ってきたということでしょうね。

では、この雷サージの被害を防ぐためには一体どうしたらいいんでしょうか。

“雷サージ”を防げ いのちを守る対策

東京・練馬区にある総合病院です。
2年前、雷サージで医療機器につながるブレーカーが壊れました。
電子カルテや空調設備などが6時間にわたり使えなくなる事態となりました。

そこで去年(2015年)、ブレーカーに「避雷器」と呼ばれる特殊な装置を取り付けました。
避雷器は、雷サージによる異常な電流を外に逃がすことができます。

避雷器を使った実験。
電球は、雷から守らなければならない機器類の代わりです。

雷に見立てた強い電流を流すと…。
避雷器が設置されていると電球は消えません。
避雷器は、雷の異常な電流だけを外に逃がすため、通常の電源が流れ続けるのです。
この病院で、避雷器の設置にかかったコストは200万円。
法律で設置の義務はありませんが、再び被害に遭わないためには必要だと考えています。

大泉生協病院 事務長 松本浩明さん
「設備にまわす金を捻出するのは苦しい状況がありますけれども、未然に防ぐ手立てを取るということは必要だと思う。」

“雷サージ”を防げ 京都・清水寺では

雷サージの対策は、こんな所でも。
京都の清水寺です。
国宝の本堂をはじめ数多くの貴重な文化財があります。

寺では、雷サージによって火災の発生を知らせる火災報知器が故障する事態が相次ぎました。
そこで、火災報知器などにつながる、すべてのケーブルに避雷器を設置しました。
その数150個。
2,000万円に上りました。

清水寺 設備担当 足立敏明さん
「文化財ですから、新しくすればいいとは違う。
こういうもの(避雷器)で保護するのは、絶対に大事。」

“雷クライシス” どう備えるか

対策するにはコストがかかる 病院など、命に関わる施設でも今、行政の支援は受けられない状態?

島川記者:今のところ、これはないのが現状です。
大きな病院では進んでいますけれども、中小の病院では費用面がありますから、なかなか進んでいない現状があります。
起きてから保険で対処できるということもありますけれども、命に関わる部分については、補助の制度や、より効果的・効率的な対策の検討が必要な時期に来ているのだと思います。

企業などでも、大切なデータやリスクを管理する機器を守るために、対策が大切?

妹尾さん:本当にそうですね。
ここで考えなければいけないのは、今まで雷は天災だと思われていたんだけど、実は大きく人災だっていう、このタイミングなんです。

ここでご紹介したいのは、天災から人災へ雷被害が移っているということなんです。
これは2つの意味がありまして、1つ目は、高層ビルだとか、それから情報機器だとか、これは全部、人が作ってきたものですよね。
ところが人が作ってきたものが、実は雷被害を増やしているという意味合い、これは1つの人災です。
もう1つは、防ごうと思えば防げるのに防がないという人災です。
例えば今、島川記者がおっしゃったように、病院だとか公共施設は、本当は対策を打とうと思えば打てるはずなんです。
それから、被害が出てからでは遅いんですが、どうしても自分だけは大丈夫だろうと思ってしまう、こういうような状況が生まれていますから、命も文化財もなくなったらおしまいですから、そういう意味では、人が社会のリスクとして、これに対策を打つべきではないかなと思っております。

視聴者の方より:「雷のことを軽く思っている人が多い。」「自然の力を甘く見ないことです。」

妹尾さん:防げるものを防ぐ社会にしていかなければいけないなと思います。
その意味では今、一番関心があるのは2020年の東京オリンピック・パラリンピックなんです。
開催は8月ですから、雷が一番多発しそうな時期なんです。
ですので、例えば競技施設、それからテロ対策など、いろんなものに、実は雷対策を背後にきちんと置かなければいけない、そういうことが課題としてあります。

まだまだ先と思ってはいけないですね。

妹尾さん:いけないですね、今からです。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

高層ビルへの雷の被害、避雷針だけは防げないの?タワーマンションも危険ですか?

雷の直撃は避雷針だけは防げない場合があります。雷の放電現象は複雑で、ビルの屋上の角や側壁にも落雷することがあります。一概にタワーマンションが危険だとは言えませんが、もし屋上の角や側壁への対策をしていない場合、直撃してコンクリートなどが破壊されるおそれもあります。どのような対策をとっているのかは、施工会社などで確認できると思います。
Q2

電子機器を使っている所は「雷サージ」の対策を当然しているものだと思っていました…。 対策はどの程度行われているのでしょうか?

「雷サージ」は、避雷器を設置すること防ぐことができると言われていますが、設置に関する法的な義務はなく対策は思うように進んでいません。一方で、「雷サージ」のリスクを認識して事前に対策をとる企業もあります。企業の重要情報が保存されているコンピューターサーバーに避雷器を設置する取り組みや、鉄道会社などでは100億円というコストをかけて対策を進めているところもあります。一般家庭でも避雷器の設置を行うことができますので、工務店や電気設備の会社に相談してみるのもいいかもしれません。

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