クローズアップ現代

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No.38882016年11月8日(火)放送
我が町のレガシー?お荷物?~モダニズム建築 騒動記~

我が町のレガシー?お荷物?~モダニズム建築 騒動記~

我が町のレガシー? モダニズム建築騒動記

こうした数々の個性的な建築。
日本のモダニズム建築と呼ばれる建物です。

有名なものですと、国立代々木競技場。
丹下健三による名建築ですよね。

そして、観覧車のような不思議な建物。
宮崎県にある、旧都城市民会館。

更に、ロボットの頭のようにも見えますが、日光市にある、今市文化会館などです。

日本のモダニズム建築は、主に1950年代から70年代、高度経済成長期に作られたものです。
従来の建築様式にとらわれない独創的なデザインが特徴で、国内に2,000以上あるといわれています。
日本では、あまり知られていないんですが、世界では日本のモダニズム建築が高く評価されているんです。
ところが近年、こうした建物の老朽化が進み、保存か解体かを巡ってさまざまな議論が巻き起こっています。

世界で大人気!だが… ユニーク過ぎる建築

リポート:中川理恵(NHK高松)

東京・銀座。
今、世界中から観光客が、ひっきりなしに訪れる建物があります。
外国人を中心に熱狂的なファンが目指す先にあるものは?

何やら、子どもが積み上げたブロックみたいな、中銀カプセルビル。
実は、海外のドラマや映画にも頻繁に登場する、有名な建築です。

外国人観光客
「建築界のポップスターのような存在で、気に入っています。」

外国人観光客
「この建物は、建築の持つ可能性を広げたと思います。」

積み重なったカプセルのような部屋は、丸ごと自在に組み替えられる設計になっているそうです。
更に、若者たちが見学に殺到するというカプセルの中身とは…。

案内人
「一応まだ残っているんです。
ライティングデスクがあって。」

そこにあるのは、半世紀前の日本人を夢中にさせた未来。
広さ四畳半の空間に、カラーテレビや録音デッキなど、1970年代当時の最新機器がぎっしり詰まっています。

発売当時のキャッチコピーは、エリートたちの夢の隠れ家(が)でした。

熱烈に希望して、最近移り住んできたデザイナーの男性です。
建物の写真を一目見て、そのエネルギーのとりこになりました。

最近入居した住人
「今だったらこんなもの作れないと思いますし、発案もしないだろうし、それが建ってしまったというのは、当時の勢いだとか、元気な時代背景を感じますね。」

しかし、建設から半世紀。
カプセルの多くは老朽化し、実は8割が使われていません。
屋根が腐食して、入り込んだ雨で天井が崩落したカプセル。

更に、カプセルを建物に固定している箇所も劣化が激しく、放置すれば、部屋ごと落下する危険性さえ指摘されています。

2年前に行った耐震診断では、現在の耐震基準を満たさないという結果が出ました。
建物を取り壊すべきという意見も出る中、このまま残してほしいという根強い声にオーナーは戸惑っています。

中銀ビルディング 営業部 部長 遠藤泰彦さん
「ちょびちょびお金かけるよりも、建て替えたほうがいいというのが、私の意見ですけど。
いろんな思いあって、お買いになって、お持ちいただいたという経緯がありますので。」

モダニズム建築が広がったのは、東京五輪を成功させ、日本が自信を取り戻し始めた高度経済成長の時代。
焼け野原に次々建物が建ち、暮らしが豊かになっていく中、人々は建築に未来への夢を託しました。
このころ、丹下健三をはじめとする若き気鋭の建築家たちが続々登場。
常識にとらわれない、見たこともない建物を競って生み出し、世界を驚かせました。

丹下健三
「四角い豆腐の箱のような、そういう(建物)は、どうも面白くない。
日本の古来の中から、バイタルな(生命力のある)ものを引っ張り出したい。」

そうして日本各地に広がったモダニズム建築。
しかし現在、次々と取り壊しが進んでいます。

高松市に、取り壊し問題に揺れる名建築があります。
丹下健三がデザインした体育館。
宙に浮いた船のような斬新な形です。
世界遺産の選定に影響力を持つ国際団体も視察し、その独創性を高く評価しました。

国際的な建築評価団体 会長
「表現豊かでモダンで、とても日本らしい建築です。
日本のモダニズム建築として、ぜひ残すべきです。」

しかし、4年前に県が改修を検討したところ、ワイヤーでつる特殊な工法で作られた屋根の補修が極めて難しいと分かりました。
改修に必要な費用は、およそ16億円。
当初の想定を大きく上回りました。

香川県 保健体育課 木虎淳さん
「つり屋根構造という特殊な構造ですので、そこまで経費をかけて改修するのは難しい。」

結局、県はやむなく改修を断念。
取り壊しにも、保存にも踏み切れない状態が続いています。

世界で大人気!だが… ユニーク過ぎる建築

ゲスト 津田大介さん(ジャーナリスト)
ゲスト 米山勇さん(建築史家・江戸東京博物館研究員)

保存か解体かで、だいぶ揺れているようだが、こうした事態については知っていた?

津田さん:ツイッターは、建築家とか建築好きの人が交流とか、情報交換をしていて、建築クラスターと言われているんですけれども、結構、彼らは発信力があって、例えばVTRに出てきた「中銀カプセルタワーで新しい入居者、募集したよ」とか、この「香川のこの問題どうするんだ?」とか、そういうことがかなり定期的にあがってきて、反響もあるんですよね。
そういうのもあって、僕も知っていました。

今、まさに世界で高く評価されている日本のモダニズム建築 なぜ評価されている?

米山さん:世界でも、まれな完成度と独創性だと思います。
日本は、明治という時代にヨーロッパの建築を輸入して、いつか世界の水準に並ぼうということを夢にみてきたわけですけど、それが敗戦でゼロになって、そこからはい上がるっていう、その課題の中で、例えば丹下さんの代々木体育館などはオリンピックの会場ですから、世界中が注目するわけです。
その会場として、「これはもう最高のものを作りたい」「最高のものを作らなければ、もう後がない」という切実さがあったんじゃないでしょうか。
それが、すばらしい完成度につながっているんじゃないかと思います。

日本であまり知られていないのは、なぜ?

米山さん:やっぱり歴史が浅い。
モダニズムの建物というのは、大体50年代から70年代のもので、まだ歴史が浅いということ。
それと関連して、モダニズムって、どう楽しんでいいかというのがちょっと分かりにくい。
どう楽しめばいいのかなって、みんなが悩んでいるような感じがします。

一方で気になるのが安全性の問題 NHKが行ったアンケートでも不安を訴える声は非常に多く寄せられている 保存か解体かを考える上で避けられないのが、やはり耐震性だが?

津田さん:不動産業界や建築業界の人に取材すると、モダニズム建築に限らず、高度経済成長期に建てられた建物が今、マンションとかも含めて一斉に大幅改修、もしくは建て直しという時期にきているそうなんです。
例えば、それも建ててから10年ごとに、こまめに補修や改修をしておけば、結構長持ちするらしいんですけれども、こういったモダニズム建築ってアート作品みたいなところもあって、建築家に著作権もあるんですよね。
そうするとモダニズム建築の場合、建物の形が変わっちゃうのは、大幅改修とかがやりたくても建築家に拒否されるという事例もあって、なかなか手が入れづらいということも聞いたことがあるので、それが改修コストを結果として上げているところもあるのかなと思います。

やはりモダニズム建築というのは、改修が難しい面もある?

米山さん:モダニズムの非常に重要な理念として、機能主義というのがあるんですね。
これはつまり、機能とか構造といった建築の骨格が前面に出るということなんですけど、逆に言うと部分的に補修するというのは難しい。
どこかだけを直したいっていうのはなかなかできずに、結局は全面改修になるというケースが多い。
それが保存、あるいは改修を困難にしている理由の1つだと思います。

一例として、熊本県の宇土市役所があるが、熊本地震で大きく崩れた これもモダニズム建築だが?

米山さん:その範ちゅうに入りますよね。
あの建物の場合は、修理を予定していたんです。
ところが実際に修理をする前に地震に見舞われて壊れてしまったということで、実際のところ、そういうモダニズムは予断を許さないということです。
直ちに修理をしなきゃいけないものがあるということは事実だと思います。

今まさに、次々と解体されている建物もある?

米山さん:私たちの身の回りはモダニズム建築であふれているんです。
そういったものは専門家が評価するんじゃなくて、やっぱり自分でいいなと思ったら、それを埋もれさせないでどんどん評価するとか、広めていくっていうことを普通の人がみんなでやってほしいと思います。
それがモダニズム建築の保存につながること、埋もれさせないということです。

津田さん:そういう意味では、ネットは非常に可能性はあると思いますね。

今まさに、我が町のモダニズム建築を何とか残したいと、さまざまな模索が始まっています。

何とかして残したい 我が町のユニーク建築

取り壊しが迫った建物を、コスト削減の工夫で守った例があります。
愛媛県鬼北町。
築60年の庁舎です。

会議場の屋根は、当時、最先端だった、柱を使わない特殊な構造。

壁一面の色ガラスは、庁舎とは思えない鮮やかさです。
モダンなデザインが人気を呼び、町民がスポーツなどで気軽に集える場所として長年、親しまれてきました。

鬼北町 総務財政課 善家直邦さん
「学校の遠足、写生大会、造形大会。
当時のみなさんにとっても、ものすごく町のシンボルとして、目新しいといいますか、革新的といいますか、そういった建物だったんじゃないかなと思います。」

11年前、この庁舎は耐震診断の結果を受け、大規模な補強工事を迫られました。

しかし当初の計画は、庁舎の外壁に筋交いを加える方法で、費用は5億6,000万円。
町の年間予算の1割近い、ばく大な金額でした。

鬼北町 総務財政課 善家直邦さん
「モダニズム建築物だからということだけで、多額の費用を投じて保存しなければならない、改修しなければならないという観点ではさすがに今の町の財政では、取り組むことはできない。」

町の人に愛されてきた庁舎。
何とか補強費用を抑えることはできないか。

町は、外壁を補強する当初の案ではなく、屋内の壁を厚くする代案を検討。
そうすれば工期は大幅に短縮し、予算も抑えられる見込みでした。
しかし、そうすると改修中は庁舎内で業務ができなくなるという大問題が持ち上がりました。

それでも町は、庁舎の向かいのスーパーに役場を臨時移転し、工事を決行。

その結果、改修コストを2億円近く抑えることに成功したのです。

鬼北町 総務財政課 善家直邦さん
「再びよみがえったこの庁舎が、地元の町の宝として、それもまた誇りに思っていただければ、ありがたいと思います。」

使われなくなった建物を、全く新しい用途で生かそうとする試みも始まっています。

鳥取県倉吉市の旧明倫小学校。
国内に残る最も古い円形校舎ですが、11年前から使われなくなり、取り壊しの危機にさらされてきました。

特徴は、らせん階段を取り囲むように配置された教室。
廊下を作らずに済み、大勢の利用者を受け入れられる広い空間です。

ベビーブームの時代。
児童の増加に備えて、全国各地に建てられた円形校舎。
田舎町に突如現れた近未来的な建物に、子どもたちは胸を弾ませました。

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「休み時間になると、ほとんどの子どもたちは外に出て、ベランダで並んでしゃべってたり、追いかけっこする子もいますし。」

卒業生の稲嶋正彦さんです。
3億円以上かかるという校舎の再生に挑もうとしています。

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「いまだに『明倫小学校の円形校舎』『小学校の円形校舎』ですから、あるのが普通というか、ない姿を想像できない。」

稲嶋さんは、地元のアニメメーカー社長、赤井さんに相談を持ち掛けました。
著名な漫画家を輩出し、アニメ産業で全国に知られる鳥取県。
その強みを生かせないかと考えたのです。

ガイナックス米子 社長 赤井孝美さん
「小学校の名残がすごい。」

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「この扇形というか。」

ガイナックス米子 社長 赤井孝美さん
「これ独特ですよね。」

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「この形をどう生かすかですよね。」

ガイナックス米子 社長 赤井孝美さん
「例えばこういうスペース。
ジオラマみたいにする。」

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「なんとなく絵は見えますね。」

赤井社長のひと言が大きなヒントになりました。

アドバイスを受けた稲嶋さんが向かった先、そこは国内最大のフィギュアの祭典でした。

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「あんまり(居心地は)良くないですね。
田舎ものには、つらい空間です。」

年間300億円の市場規模を誇るフィギュア業界。
円形校舎をフィギュアの博物館にすれば、その収益で校舎を維持できるかもしれない。
稲嶋さん、何とか集客につながるヒントを見つけようと、懸命に情報を収集します。

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「(御社のフィギュアを)飾らせていただきたいと思っていますので、よろしくお願いします。」

果たして、フィギュア博物館という、とっぴな構想は地元に受け入れられるのか。
この日、稲嶋さんは地域の人たちにアイデアを説明することにしました。

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「日本や海外、特にアジアにフィギュアとかアニメとかファンがたくさんいらっしゃいますので、そういうところも狙っていこうと。」

ところが、全く耳慣れない計画に、住民からは不安の声が上がりました。

明倫地区住民
「どのような方向性を持って、事業が進められているのか、ちょっとわかりにくい。」

新事業の収支計算は透明性を持って行い、地域に迷惑をかけない。
稲嶋さんは、地元のシンボルを守る覚悟を繰り返し訴えました。

明倫小学校 卒業生 稲嶋正彦さん
「しっかり直して、みなさんが自由に入れるように、みなさんに胸はって、鍛冶町には円形校舎があるって、言ってもらえるような所にしたいと思いますので、よろしくお願いします。」

なぜ残す?誰が残す? 我が町のユニーク建築

円形校舎のフィギュア博物館はその後、地元の人や企業から2,000万円以上の資金が集まり、改修に向けた第一歩が始まっている これをどう見た?

津田さん:このモダニズム建築という伝統あるカルチャーと、アニメという新しいカルチャーで掛け合わせることで、新たな価値を作るという意味ではすごくいいと思うんですが、ただ、新しいものって、どうしても拒否反応があるんですよね。
住民の方がどう考えるかというところで、全国で今、花盛りの地域アートプロジェクトでも起きていることで、例えば成功している大地の芸術祭は、10年ぐらい住民への説明会を2,000回以上やって、定着してきたということがあるので、主催者の方がどれだけビジョンを持って、丁寧に住民とコミュニケーションできるかということが鍵かなとも思います。

こうしたモダニズム建築が再生したケースというのは、ほかにもある?

米山さん:例えば、自由学園明日館というアメリカのフランク・ロイド・ライトの設計ですけど、もともと学校として建てられたものですけれども、今は結婚式場として積極的に使われています。
それから比較的多いのは、邸宅を美術館にするケースです。
原美術館、あるいは東京都庭園美術館といったものが挙げられます。
(用途を変えて再生する?)
そうですね。
それは、すごく有効だと思います。
私は、モダニズムというのは、使い手が価値を生み出すものだと思っています。
それまでの歴史的な様式建築というのは、どちらかと言うと、作り手が上位にいて、完成したものを「さあ、大事に使ってください」という感じだったと思うんですけど、モダニズムは機能が大事で、使うことによって、その建物の価値が初めて生きる。
要するに、機械が使い手によって機能するのと同じように、住み手がいて、建物の価値を生み出していくっていう、それが大事だと思うので、今後、使いにくくなったら、こうすれば残せるんじゃないかということがあれば、積極的にそういうのを話し合って、どんどん自由にアレンジしちゃって、僕はいいと思います。

津田さん:僕も使い手が重要だと思っていまして、やっぱりそれって、建物に使い手の記憶が宿っているっていうことだと思うんですね。
それを住民が意識した上で、残すのか取り壊すのかを決めることが重要で、ただ1つだけ確実に言えるのは、拙速にコストがかかるから取り壊してしまうと、元に戻せないということなんですよね。
例えば、原爆ドームも残すか残さないか戦後、議論があったんですけど、永久保存に決まったのは1966年。
そこまで、いろんな議論があった上で残そうということを決めたので、その意味で言うと、香川県の、いわゆる県立体育館のように、とりあえずペンディングしておくと。
ペンディングした時に、住民が「この建物に宿っている、我々の記憶って何だっけ?」「これって、やっぱりどうしても残したいものか」っていうことをちゃんと意識して、議論して、長い時間をかけて決めて、「じゃあ残そう」「じゃあ壊そう」っていうことを決めるのが大事。
今は昔と違って、税金だけじゃなくて、クラウドファンディングみたいに、ネットで集めることもできるようになりましたから、そういうことも含めて、住民の方が向き合うことが大事かなと思います。

形にとらわれずに、誰がどう使っていくのか、私たち自身が考えていく必要がありそうですね。

津田さん:これを考えることは、五輪のレガシーをどう残すのかっていうケーススタディーになると思います。

質問
コーナー

Q1

そもそも「モダニズム建築」って、どういうものなの?

例えば東京駅や迎賓館などの近代建築に見られるような派手な装飾を排除し、建物の形状や空間自体を自由に表現したのが「モダニズム建築」です。よく出される例えとしては、同じ形状のシャツに様々なプリント=“装飾”を施して個性を出すのが「近代建築」であれば、柄は無地だけど半袖・長袖・タンクトップなど様々な“形状”で個性を出すのが「モダニズム建築」です。有名なものは国立代々木競技場、広島平和記念資料館、東京カテドラル聖マリア大聖堂などがあります。
Q2

中銀カプセルタワーには、どんな人が住んでるの?

約35人の方が、住居として使用されています。カプセルを借りたい人と貸したい人のマッチングが開始されて、入居する人が増えてきました。銀座周辺に職場があるビジネスマンやIT企業社員、デザイナーなどが暮らしています。住人の話によれば、カプセルは何もしなければ「夏はサウナ、冬は冷蔵庫」になります。さらに竣工当時のエアコンもすでに使えず、給湯設備の故障のためシャワーはあってもお湯が出ません。それでも彼らは共用のシャワールームや近場のスポーツジムの風呂を使い、工夫しながら生活しています。

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