クローズアップ現代

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No.38862016年11月2日(水)放送
まん延する“隠れブラック企業”~密着 特別対策班~

まん延する“隠れブラック企業”~密着 特別対策班~

蔓延(まんえん)する “隠れブラック企業”

長時間労働の問題が今、改めて注目されています。
表向きは休暇の取得や残業の制限を呼びかけるホワイト企業に見える会社が、実際は長時間残業が当たり前だったという実態です。
そういった企業を「隠れブラック企業」と呼ぶ専門家もいます。

密着 特別対策班 “隠れブラック企業”の実態

企業の過重労働を摘発する労働局の特別チーム、通称「かとく」。
東京と大阪に置かれ、大企業をターゲットにしています。

去年(2015年)12月、和食のファミリーレストランなどを経営する、飲食大手のサトレストランシステムズに強制捜査に入りました。
長時間労働が現場にまん延している疑いがあったためです。
会社は、実働8時間・完全週休2日をうたい、時短勤務の推進を掲げていました。
この制度が守られていれば、過重労働など起こり得ないと、社長も自信を持っていました。

サトレストランシステムズ 重里欣孝社長
「ブラック企業と言われている会社もたくさんありますけれども、業態もしっかり、安全問題もきちっと、労務環境もきちっと整える。
ズルはあかん。」

しかし、長時間労働が隠れて行われているという内部告発などをきっかけに、「かとく」が捜査に乗り出したのです。

全従業員、およそ1万人分の勤務記録を押収。
一枚一枚を徹底的に分析し、記録が実態と合っているかどうか照らし合わせていきました。

「こちらが残業時間申請の書類。」

「かとく」が注目したのは、去年まで使われていた、手書きの残業時間の報告用紙です。

社員Aさんの場合、去年2月中に残業の報告があった15日間は、いずれもぴったり2時間。
月合計でも、30時間にとどまっていました。
これが正しいか調べるために「かとく」が照合したのが、デジタル入力されている出退勤の記録でした。

「1日8時間を超える労働時間の集計で、この月で68時間。」

それによると、Aさんの残業時間は、合計68時間38分。
実際の出退勤が記録されているにもかかわらず、手書きの報告を正式のものとしていたのです。
「かとく」は、さらにデジタルの記録そのものの信ぴょう性も疑いました。

「これなんかは出勤の記録は明らかにおかしいですよね。」

社員Bさんの勤務記録です。
出勤時間の打刻が最も忙しいはずのランチ営業の最中になっていました。
Bさんの行動が勤務記録どおりかを確かめるために「かとく」が調べたのが、交通系のICカードです。

去年5月のある日、店舗の最寄り駅の改札を通ったのは、朝7時30分。

その直後の7時36分に、Bさんが店舗の入り口の鍵を開けた記録も残っていました。
しかし、勤務記録に残っていた出勤時間は12時15分。
鍵を開けた時間と勤務開始時間の間には、4時間39分の空白が見つかったのです。

ほかにも残業時間を短く見せるために、記録に手を加えていたと思われる痕跡が随所に見られました。
さらに「かとく」は、従業員32人から事情聴取。
その結果、残業時間の改ざんは本社からの指示ではなく、店舗ごとに現場の判断で慣例として行われていたことが分かったのです。

なぜ、こうした事態が現場で常態化していたのか。
元社員の男性が取材に応じました。
男性が働いていた店舗では、パートやアルバイトが足りない時間を、店長を含む正社員が日常的に穴埋めしていました。

元社員(20代・男性)
「シフトを見て(店が)回りそうにないなと思うと、気を利かせて早めに行ったりとかして、店をどれだけ回せるかということしか考えられなくなっちゃって、毎日残業はしていたんですけれど、社員なので仕方がないって思っていた部分はあります。」

毎日の残業が当たり前だったにもかかわらず、給料には反映されていませんでした。
疑問を感じながらも受け入れざるを得なかったといいます。

元社員(20代・男性)
「給料明細で出るのと、自分の働いている体感が違うので、店長に聞いたら残業時間は『俺がいじっている』と言われて。
『会社の指示じゃないから恨むなら、俺個人を恨んでくれ』と言われて。
普段お世話になっているので、あんまり強く言えなくて、飲食業なので、そういうものというか、しょうがないというか諦めもあったので。」

「かとく」は、今年(2016年)9月、会社と店長ら5人を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。
この会社のように本社が管理できず、現場で残業隠しが常態化している企業は少なくないと「かとく」は指摘します。

大阪労働局 過重労働撲滅特別対策班
前村充 主査
「労働時間の実態を組織的にちゃんと管理できていない会社が、私どもの仕事を通じて見ていますと、決して少なくはない。
しっかりと組織として現場の末端まで浸透していくようにしていくことが重要だと。」

長時間労働の果てに… 壊される体と心

リポート:竹内はるか

隠れブラック企業の問題が深刻なのは、長時間労働が社員の心身の健康を確実にむしばんでいくからです。

過労死の件数は平成14年以降、さまざまな対策が打たれたにもかかわらず、年間200件前後で一向に減る兆しがありません。
長時間労働は当たり前だと思って働いた結果、気付かないうちに健康を害した人がいます。

自動車部品の販売会社で、営業職として働いていた40代の男性です。
残業続きだった6年前突然、体が動かなくなり、うつ病と診断されました。
今も薬を飲み続けています。

元自動車部品販売会社 勤務(40代・男性)
「なるはずがないと思っていた、自分は。
そんな病気には絶対にならない、うつ病になるとは思っていませんでしたので。」

当時、大口の取引先を任され、売り上げを増やしたい一心で残業を重ねました。

元自動車部品販売会社 勤務(40代・男性)
「ほとんど寝てなかったです。
家に帰るのは、ご飯を食べるのと、シャワーを浴びるのだけで、もう行かなくてはという形で、無理やり体を動かしていた状況でした。」

労働基準監督署の調査で分かった、男性の労働時間です。
発症前、半年間の時間外労働は平均で月165時間にも上りました。
過労死の発生ラインとされる80時間を大きく上回っていたのです。
会社の業績を伸ばし、役に立ちたいという思いが男性を仕事に駆り立てていったといいます。

元自動車部品販売会社 勤務(40代・男性)
「『自分しか俺しか、この仕事はできないんだ』というのが。
『自分は休んじゃいけない』『自分がやらなきゃいけない』。
自分がどれだけ残業しているのか、全然気にすることもなく、本当にそこ(会社のため)だけしか見えていなかった。
がむしゃらにやっていたような形です。」

男性は働くことが難しくなり、6年余り治療に専念してきました。
自分は大丈夫だと思い込み、働き過ぎたことを悔やんでいます。

元自動車部品販売会社 勤務(40代・男性)
「本当に言いたいのは、気が付いてほしい、今働いている人に。
自分は平気だと思っている人は病気になります。
今でも自分で何で気付かなかったんだろうと、もう後悔しかないですね。」

蔓延する “隠れブラック企業”

ゲスト 渥美由喜さん(東レ経営研究所 主任研究員)
西村敏(NHK大阪)

今回「かとく」に書類送検された、サトレストランシステムズ 会社の経営陣は、隠れブラック企業ともいえる実態を把握していたのか、していなかったのか?

西村記者:「かとく」の調べでは、社長や経営陣の明確な指示は確認できていません。

一方で、今回の取材で、こうした長時間労働が起きた背景には、次の2つの要素があると感じました。
1つ目が、経営陣が現場の労働実体を適切に把握できていなかったこと。
2つ目が、現場の社員側も、仲間やお客様のためと自分たちの判断で長時間労働を受け入れてしまった雰囲気があったことです。
ただ、経営陣の指示がなかったにせよ、会社全体としては、こうした現場の社員の責任感や働きぶりをあてにしていたという面があったのではないかと感じました。

NHKの取材に対し、会社は「このような事態が二度と起きないように、再発防止を徹底していきたい」とコメントしています。
その上で、過去2年分の未払い残業代を支払い、労務管理体制の変更や業務の削減などに取り組んでいくとしています。

長時間労働を強いて、さらに残業代も支払わない「ブラック企業」という言葉は、だいぶ浸透してきた。今回問題になっているのは、隠れブラック企業。なぜ、こういう企業が出てきている?

渥美さん:2008年のリーマンショック以降、次々とブラック企業の問題が明らかになる中で、企業はコンプライアンスの推進をして、また時短への取り組みを徹底するなど、制度的には整えて、表ではホワイト企業を目指す対策を講じてきました。

ただ一方で、経済状況は改善せず、さらに売り上げを上げるために長時間労働に拍車がかかる。
そんな中で、そもそも制度と労働実態とのギャップが大きく広がってきて、現場ではコストカット、人件費を抑制しないといけない。
そこで残業代を隠して、いわゆる“隠れブラック企業”という実態が、多くの企業に広がってきました。
(制度は整えるが、実際は業務量も変わらず、コストカットは進んでいく 結局、現場が背負っていって、隠れていくということ?)

そういう、一見するとホワイトだけれども実態はブラックに近いという企業を「おしろい企業」というふうに名付けています。
制度を整えて、おしろいで厚塗りするようなことだけではだめで、現場でマネージメントや業務改善する、働く人の意識も変えるというところをやっていかないと、この問題は解決しないと思います。

「かとく」という専門チームは去年、東京と大阪に出来たばかりだが、このように社名を公開・公表して摘発することの狙いはどこにある?

西村記者:去年4月に発足してから、これまでに大手企業など、5社を摘発してきているんです。
また、電通にも臨検監督という抜き打ち調査にも入っています。
「かとく」に刑事事件として摘発され、企業名まで公表されるということは、企業の経営に与える影響も少なくありません。
そうした面で、長時間労働の問題を深刻に受け止めて、社会全体に対策を広げるという意味で抑止効果という面もあると思います。

隠れブラックというのは、もちろん企業側に大きく問題があるわけだが、働く側の残業に対する意識というのは今どういう状況なのか、調査をしている中でどう感じる?

渥美さん:働く人の中にも、実は長時間労働をしたいという人たちもいます。

私は、そういう社員を大きく4つのタイプに分けています。
まず、自分がいないと職場が回らない、過剰に責任感があるタイプ。
2つ目に、仕事が苦にならない、仕事以外には生きがいがない、仕事中毒型。
3つ目に、昇進や評価が気になって、大いなる野望、過剰野心を持っているタイプ。
4つ目に、ローンや生活費を稼ぐために、長時間労働をして残業代を稼ぎたいというタイプがあります。
サービス残業するタイプというのは、この上の3つが多くて、そういう人たちは、そもそも自分は会社に恩をきせていると思って長時間労働をするんですけれども、自分自身の健康を悪化させてしまい、はなはだしい場合は過労死、過労自殺と。
(こういう長時間労働をする社員が職場に何人かいることで、職場自体も長時間労働化していく?)
その通りです。
私は、そういう周りを巻き込む人たちを「滅びの美学」と言っています。
若いころに、自分が長時間労働をして評価をされていたという人が管理職になると、部下にもそういう働き方を強いて、当たり前という人たちが横行しています。
(日本の企業文化自体が、こういう労働をした上で出世してきて、そういう人たちがトップに立って、そういう価値観で成り立っている これを変えていくには、相当なパワーがいる?)
評価の軸を真逆にしないといけないですね。

では、どうやったら社会として、この問題を解決していけるのでしょうか。

夜10時の電通本社です。
一斉に電気が消えていきました。
長時間労働の是正に向けて、夜10時以降の残業を原則禁止にしました。
電通以外でも、さまざまな模索が始まっています。

脱“長時間労働” ある企業の試み

大阪に本社を置く、大手住宅メーカーです。

午後8時50分、流れてきたのは「蛍の光」。
次々と社員たちが退社していきます。

10分後、すべての照明が強制的に消されました。
この企業が残業時間を減らそうと強制消灯を始めたのは、12年前。
ところが想定外のことが起きました。
暗闇の中で隠れて残業したり、翌朝早く出勤して、勤務記録を付けずに働いたりする社員が続出。

結果的に形を変えたサービス残業が横行し、労働基準監督署の指導まで入りました。

大和ハウス工業 能村盛隆人事部長
「(消灯するなど)物理的なものをやると、どうしても隠れてしまうといいますか、本来はすべて表に出して時間を出さない限り、手の打ちようがないんですけれども、それが隠れてしまって火を吹いた。
非常にショックではありました。」

社員に隠れた残業をさせてはならない。

まず取り組んだのが、残業時間の見える化です。
残業が必要な時は、そのつど、事前に申請。
上司が部下の残業を把握できるようにしました。
業務の進捗を確認し、仕事がない時には早く帰るよう促します。

上司
「今日残業なしでいいの?」

部下
「今日は残業なしで。」

上司
「金曜だし早く帰ってください。」

部下
「お先に失礼します。」

業務量を減らすことに加え、仕事の効率を上げる取り組みも始めました。

1日一定の時間、集中して仕事をするための「がんばるタイム」。
この間、周囲は電話を取り次ぐことも、話しかけることもせず、本人が目の前の仕事に集中できるようにします。
残業を減らすことが、ボーナスなどの評価につながる仕組みも作りました。

「時間当たりの生産性が高いという部分を評価項目でちゃんと見ますよと。
これで賞与の支給率が決まりますので、かなりインパクトあると思います。」

例えば、1人当たりの利益が120万円のA支店と、100万円のB支店では、これまではA支店の方が高い評価になりました。

新しい制度では、1時間当たりの利益も評価基準に加えられました。
A支店の社員の1か月の労働時間が200時間、B支店が160時間だった場合、B支店の評価も高くなり、賞与に反映されるようにしたのです。
こうした取り組みを続けた結果、売り上げを伸ばしながら、残業時間は、この2年で13%減りました。
長時間労働は当たり前という風潮を根本から変えていかなければ、企業自体にも影響を与えかねないと、この会社は考えています。

大和ハウス工業 能村盛隆人事部長
「長時間労働を突き詰めて考えると、まずは社員がつぶれていく、壊れていく。
社員が壊れていくということは、会社が壊れていく。
会社が壊れていくということは、最終的には国が壊れていく。
今までの(対策の)やり方が、すべてだという思いはありません。
完成形でもありませんし、解決しているわけではなくて、“じゃあどうするか”ということを各社員の意識の部分。
腹落ちするように意識に訴えかけていきたい。」

脱“長時間労働” ある企業の試み

この企業の制度は非常に先進的だが、ただ、制度があっても水面下に隠れてしまうのではないか、残業がはびこってしまうのではないか、その辺りの対策はどうしている?

西村記者:住宅メーカーでは、10年以上前から残業時間の把握に努めているんですが、それでも抜け道で働いてしまう社員が出てしまう不安もあるため、こちらの対策も行っています。
勤務時間外は、パソコンの電源が入らなくなっているか。
(パソコンが勤務時間外は使えない?)
上司の承認がないと、使えなくなっています。
また、仕事の一部を外部委託して仕事量を削減したり、さらに、隠れて残業をしていないか、全国の事業所を抜き打ち調査するなどして、社員の意識改革にも取り組んでいます。

何重にも対策は作っているということも見えてきたが、ただ、業界でこの1社が取り組んだとしても、夜電話をかけた時に受注してくれる会社があれば、そちらに流れてしまうのではないか?

渥美さん:電通の過労自殺事件を受けて、広告業界の労働組合が業界全体として時短を推進していくという声明を出しています。
そもそも、1社が長時間労働を削減したとしても、他者に発注がいくという状況が起きてしまうと、こういう労働慣行は改まらないので、業界全体として取り組む必要があると思います。

先ほどのVTRの中で、「長時間労働によって人が壊れる。人が壊れれば、会社が壊れる。会社が壊れれば、最終的には社会が壊れていく」という表現があった 長時間労働によって過労死が起きてしまうようなことは本当になくしていかなければいけない 
どんなことが必要だと考える?

渥美さん:制度を整えて、表面的にホワイトに見える「おしろい企業」じゃなくて、体質改善して「美白企業」を目指すべきだと思います。
人口減少社会は、人の奪い合いです。
これからは、働きがいのある職場に人が集まって、そういう職場でいいサービス、いい商品が生まれる、お客さんの支持も得られる、業績が上がって、そういう好循環を、ラストチャンスですので、特に大企業、人気業界は他山の石として、ぜひ体質改善をしていただきたいと思います。

今後、労働人口が減っていくのは、もう変えられない事実だから、今こそ考え方を変えていく、そのラストチャンスが来ているということですね。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

まだ就活生ではないが、調べる際にブラックかどうか見分けがつくのか?

“隠れブラック企業”は大企業や人気業界に多いです。ワークライフバランスに関しては中小企業よりも大企業の方が進んでいると感じている人も多いと思いますが、制度が整っていても実態がともなっていないことが少なくありません。そんな企業を選ばないためには、会社が公表している制度だけを見るのではなく、インターネット上の社員の口コミや実際に働いている人の声を聞き、内実を見極める必要があります
Q2

なぜ記録をごまかしてまで働かせないといけないのでしょうか。

働く現場に長時間労働がまん延する理由はいくつかありますが、最も大きな問題のひとつが深刻な人手不足です。そのしわ寄せが現場に仕事量としてのしかかっています。一方で、社会の長時間労働への風当たりが強まり、企業は現場に対して時短を求めます。終わらない仕事と会社の制度のはざまで、仕方なく記録をごまかすという人が少なくないと、取材を通して感じました。
Q3

なぜ長時間労働になってしまうのでしょうか?

そもそも残業代がなくては生活が成り立たないという視聴者のみなさんからの声も数多くありました。残業をしなくても生活できる水準まで基本給を上げることが不可欠ですが、リーマンショック後の経済情勢の中で、企業はベースアップに慎重な姿勢を見せており、なかなか先の見通しが立たない状況です。

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