クローズアップ現代

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No.38822016年10月26日(水)放送
“老化”を止めたい女性たち~広がる卵子凍結の衝撃~

“老化”を止めたい女性たち~広がる卵子凍結の衝撃~

女性の新たな選択肢? 広がる卵子凍結

“仕事に打ち込みたい”“でも、いつか子供も欲しい”。
そんな願いを抱く女性たちの間で関心が高まっているのが、卵子の凍結です。

アパレル企業の社長、栗本京さん、40歳。
来月(11月)卵子を凍結する予定です。

来月卵子を凍結 栗本京さん(40)
「仕事が第一優先。
仕事が落ち着いたら子供を作ろうと思っていたら、この年になってしまって、もう後がないから焦る。
もう残された道は卵子凍結。」

27歳で結婚し、2年後流産を経験した栗本さん。
つらい体験を乗り越えようと仕事に没頭してきました。
37歳で離婚しましたが、いつか子どもを産みたいという思いは、今も変わっていません。

来月卵子を凍結 栗本京さん(40)
「子供が欲しいという夢をかなえるために、できる限りのことをやりたい。」

卵子凍結のことをオープンにしている栗本さん。
同僚たちの多くが、人生の選択肢の1つだと考えています。

「聞いてどう思われました?」

社員(30)
「ずっと社長がお子さん欲しいの話は知っていたので、そういう手段があるのであれば、すごくいいなって思った。」

「(卵子凍結は)ポピュラー?」

社員(29)
「ポピュラーといえるか、そんなに珍しいことではない。」

社員(33)
「本当に時代に合ったことだと思う。
全然抵抗はない。」

“卵子の老化” 30代半ばから加速

卵子は30代半ばを過ぎたころから急速に老化します。
これは40歳の女性の受精卵。
3つのうち2つは、途中で細胞分裂がストップ。
卵子が老化したため、受精の後、成長できないケースが増えるのです。

体外受精の出産率は、35歳で18.1%。
40歳になると8.1%。
45歳では0.8%まで下がります。
少しでも若いころの卵子を保存しておきたい。
その願いをかなえるのが卵子の凍結なのです。

実態はどこまで進んでいるのか。
独自に調査した結果、少なくとも44の医療機関で、1,005人が卵子を凍結。
すでに、凍結した卵子を使って出産した女性が12人いることも初めて明らかになりました。

凍結した卵子で出産 全国で12人も

出産した女性の1人が取材に応じてくれました。
40代半ばの女性。
凍結した卵子を使って生まれた子どもは、元気に保育園に通っています。

「じょうず。」

女性は看護師として働き、夜勤もこなす忙しい毎日。
凍結を決断したのは、パートナーがいないまま迎えた30代最後の年でした。

凍結した卵子で出産した女性(40代半ば)
「好きな人もいなかったから、とりあえず39歳で、卵の老化をストップできた。
追い詰められていた気持ちが解放された。」

転機が訪れたのは40歳過ぎ。
友人の紹介で知り合った男性と結婚。
しかし自然に妊娠することはできず、不妊治療も試みましたが、子どもを授かることはかないませんでした。
そこで、結婚前に凍結していた卵子を使ったところ、1回で妊娠。

40代前半で出産。
しかし女性は、凍結した卵子を使ったことを夫が理解してくれるのか不安で言い出せませんでした。
夫にようやく打ち明けられたのは、子どもが2歳になった時でした。

凍結した卵子で出産した女性(40代半ば)
「(夫は)『私の卵には変わりないのだから』『よくやったね』という感じ。
川の字で寝ている時に平和だと思う。
一番好きな人との間に子供を授かって、今、本当によかったと思う。」

卵子凍結に密着 リスクは?費用は?

卵子の凍結で、体への負担はないのか。
そして、費用は。

卵子を凍結する予定の女性が取材に応じてくれました。
女性は40歳、独身。
大手金融機関で総合職として働いています。
この日、訪れたのは不妊治療を行うクリニック。
人生の選択肢の1つとして、女性は将来のために決断しました。

これから卵子を凍結する女性(40)
「年齢が例えば45歳になった時に、『45歳の卵子じゃなくて、40歳の卵子があるんです』。
将来もし不妊になっていたら、『使える手段あります』とは言える。
保険ですかね。
保険、隠し球。」

これから卵子を凍結する女性(40)
「よろしくお願いします。」

凍結までの8日間、仕事の合間を縫って連日通い、ホルモン注射を打ちます。

「卵の成熟を促すお注射ですね。」

通常、卵子が育つのは月に1つだけ。
しかし、ホルモン注射によって本来、育たないはずの卵子も成長させることができます。
こうして、できるだけ多くの卵子を採るのです。
手術前日の夜、ホルモン注射を繰り返し行ってきた女性の卵巣は通常の倍以上の大きさに腫れていました。

これから卵子を凍結する女性(40)
「今もこの辺、全体が重い。」

「膨れている感じですか?」

これから卵子を凍結する女性(40)
「膨れているのかな。
なんかズシーンという感じ。
もう立っているのがつらい。」

体への負担だけではありません。
女性は手術の前納金として、多額の費用を払っていました。

「35万円。」

これから卵子を凍結する女性(40)
「まずはその金額をお支払いいただいて、過不足があればそこから差額で。」

「お願いします。」

手術当日。

「消毒します。」

ストロー状の特殊な針を膣から貫通させ、卵巣まで刺し込み、卵子を1つずつ吸い出していきます。
全身麻酔をしていても、針が刺さるたびに体がこわばります。
手術時間は、およそ30分。
女性の卵巣から19個の卵子が採り出されました。

医師
「大丈夫ですか、今痛みとか。」

卵子を凍結した女性(40)
「痛いは痛いです。」

医師
「今日は採卵数も多かったので、今日一日は動かない方が、無理しない方が。
少量の出血があってもおかしくない。
痛みがひどくあるようなら、すぐ連絡していただく。」

そして、さらなる経済的な負担が。

前納金の35万円では足りず、保存費用などで63万円が上乗せされ、結局98万円を支払うことに。
卵子を凍結した女性は今、40歳。
できるだけ早く子供を作りたいと考えています。

卵子を凍結した女性(40)
「卵子の時は止めました。
でも解凍はいつするんですかという話は同じなので、解凍しておしまいじゃなくて、その後に育児があって、その子供の人生どこまで、みられるかを考えるべきなので、そうしたらやっぱり40歳。
早くなければ子供がかわいそうだし、私自身もいつまで生きられるか、わからないということになる。」

“老化”を止めたい女性たち 卵子凍結の衝撃

ゲスト 中塚幹也さん(岡山大学大学院教授)
ゲスト 陣内貴美子さん(元バドミントン選手)

揺れる女性の気持ち そして、初めて実態というのが見えてきた この数字をどう見る?

中塚さん:我々も、そういう相談を受ける機会はすごく増えてきています。
NHKの今回の調査は、それを数値として出したということでは貴重だと思いますし、それから、いかに今の社会が子どもを産みにくくなっているか、あるいは女性が産みにくいと思っているかということの反映だと思います。

医学的には推奨されてはいないとはいっても、卵子を凍結する女性たちが増えていることをどう感じる?

陣内さん:37歳で結婚して、39歳から、実は不妊治療をしたんです。
その中に卵子凍結というのは頭になかったんです。
だけど、年齢を重ねていく間に、どんどんどんどん数字に対してすごく敏感になってきてしまって、「あっ、これだけの成功率なんだ」とか、「時間がない」とか思ってしまうと、こういう卵子凍結があると。
今、1,005人ぐらいの方がなさっているけれども、そうなると、私も飛びついてしまうんじゃないかっていう気持ちにはなりました。
ただ、体にかかる負担というのも実際は大きいんだなっていうのも思いました。

私自身も40歳を過ぎて2人目をと思ったんですけれども、結局よくある話ですが、初期で流産をして、数年前にこのことを知っていれば、もしかするとという揺れる、すごく複雑な気持ちをまさに思い出しました。

体外受精の場合、出産できる確率というのは、30代半ばを過ぎたころから急速に下がるというデータがあるが、これは卵子を凍結した場合で見ると、出産できる可能性というのは、どれくらい?

中塚さん:凍結卵子を用いる場合は、自然妊娠ということはできないので、体外受精を行うということが前提になります。
その場合、受精卵よりも未受精の卵子の場合は、凍結で解凍した時にやや壊れやすいということもありますので、実際に、この数字よりはもうちょっと下がってしまうということになると思います。
40代の女性であれば、大体お1人お子さんを持つためには40個から50個ぐらい卵子が必要ですので、そうすると、先ほどのような、ああいう卵子を採るような手術を場合によっては、もう10回近くやらなければいけないということになってしまうと思います。

そうなると体への負担、リスクというのも決して少なくない?

中塚さん:例えば、卵を採るような手術の時に、卵巣から出血するだとか、それによって、場合によっては、卵巣を取ってしまえば、将来に不妊になってしまうとか、それから麻酔の事故だとか、血栓症で脳梗塞を起こしてしまう、そういう命につながるようなことも起こってくることがあります。
それから、もう1つは高齢妊娠になってしまいますので、高齢で妊娠することで、妊娠中に血圧が上がってくるだとか、あるいは糖尿病になるなど、医療的にも医学的にも、すごくハイリスク、母子にいろんな危険があるというようなこともあります。
(子供への影響というのも気になるが?)
新しい技術なので、生まれてすぐはお子さんに何か大きな異常が出るということはないと、だんだん分かってきておりますけれども、ただ、その子どもが将来、大人になってから何か異常はないのかというところは、これから明らかにしていかないといけないということになるんです。

こうしたリスクもある、この技術が、実は必ずしも出産につながらないとして、卵子の凍結に警鐘を鳴らす医師もいます。

“出産にはつながらない” 警鐘を鳴らす医師

6年前、都内でいち早く卵子の凍結を始めたクリニックです。
しかし今は、卵子の凍結を中止しています。
当初、想定していたのは、仕事を優先したい20代や30代前半の女性。
出産する時期を決めた上で来ると考えていましたが…。

卵子凍結を“中止” 原利夫院長
「実際は予想した方々はいらっしゃいませんでした。
ほとんどの方が独身の女性、40歳を前にしてパートナーもいない。
駆け込み寺のように集まってきたというのが事実。」

ここで卵子を凍結した女性の平均年齢は38歳。
32人のうち、出産に至ったのは、わずかに1人だけです。
このクリニックでは卵子の保管期間は、高齢出産のリスクを考慮して45歳まで。
期限を迎えた4人の卵子は破棄せざるを得ませんでした。
出産の希望を持たせたあげく、結果に結び付かないことが凍結を中止した理由でした。

卵子凍結を“中止” 原利夫院長
「はしごだけかけて、はしご外してしまう。
希望だけ与えて現実は厳しい。
夢だけを与えるというのは、医療としては違う。」

“老化”を止めたい女性たち 卵子凍結の衝撃

視聴者の方より:「女性の社会進出が進み、仕事が一段落ついたころには出産適齢期を逃す。選択肢として必要」「気持ちはわかるけど、高齢出産した経験上、育児も体力勝負、早く産んだ方がいいと思う」

陣内さん:両方、分かる気がします。
本当に自分が欲しいと思った時のタイミングだとか、年齢だとかいろんなことがありますよね。
その中で、自分の置かれている仕事の立場だとか、そういう時に、なかなか私は言えなくて、影に隠れてというか、やっていたんです。
そうすると早く欲しいんだけれども、そういうタイミングがなかったとか、でも、そんなことをいろいろ考えると、両方分かる気がします。

NHKの調査で今回、卵子を凍結した女性が1,005人にも上ることが分かったんですが、そのうち妊娠を試みようと解凍した人が85人でした。
つまり、ほとんどの女性が卵子を凍結したままでいるのです。

卵子凍結から5年 ある女性の選択

卵子の凍結で、出産への道が開かれるとは限りません。

5年前に卵子を凍結した女性(30代後半)
「こんばんは。
よろしくお願いします。」

30代後半の、この女性。
卵子を凍結したのは5年前のことです。

当時、私たちは卵子を凍結した直後の女性を取材。
女性は、将来の出産を楽しみにして、卵子の写真を大切に保管していました。

「産める時期と仕事の時期が重なって、リミットが迫っているので。」

「この写真はどんな存在?」

「お守りですね。」

しかし、女性は今も独身のまま。

「卵子の写真持っていたかと。」

5年前に卵子を凍結した女性(30代後半)
「どっかいったかな、あるけど。
それが撮りたい?
捨ててはないのであります、あるかな。」

5年前に卵子を凍結した女性(30代後半)
「ちょっと分からないかも。
分かんないです、ごめんなさい。」

卵子を凍結して、ひとまず老化は止められたと安心した女性。
将来の結婚よりも、目の前のキャリアアップを優先しているうちに5年が過ぎました。
この日も帰宅後は、仕事で使う英会話のレッスンに励んでいました。
30代後半になった女性は卵子を凍結したことで、むしろ婚期が遅れたかもしれないと感じ始めています。

5年前に卵子を凍結した女性(30代後半)
「需要もそんなになくなってくる。
そうやって思っちゃっている自分がいます。」

「4年前の自分に言うとしたら、何をアドバイスしますか?」

5年前に卵子を凍結した女性(30代後半)
「凍結じゃない通常の努力をしたほうがいいと思います。」

卵子凍結 殺到する女性たち

それでも、卵子凍結の希望者は後を絶ちません。
クリニックが開く、このセミナー。
毎回、すぐに予約でいっぱいになる人気ぶりです。

卵子凍結セミナーを主催 船曳美也子医師
「卵子凍結というのは、将来妊娠するため、自分の卵子を使って妊娠するためにする。」

日本産科婦人科学会は、「女性の体へのリスクがあり、卵子凍結を推奨しない」としています。
しかし、このクリニックでは、さまざまなリスクを知った上で選択するかどうかは女性に委ねられるべきだと希望者を受け入れています。

37歳会社員(恋人なし)
「実際、今パートナーも明確にいない。
全く将来が見えないなかで、せめて自分の卵子だけでも置いておきたい。」

35歳会社員(恋人あり)
「一応おつきあいしている人はいる。
結婚は話には出ているけど、具体的にいつ結婚するかは決まっていない。
自分の卵を残しておけるというのは、自分の将来設計をするうえでも保険になる。」

現実には、なかなか出産に結び付いていない卵子の凍結。
その一方で、女性のニーズは高まり続けています。

“老化”を止めたい女性たち 卵子凍結の衝撃

中塚さんご自身も、卵子凍結にまつわる調査を継続的にされているが?

中塚さん:この場合は女性と当事者になるんですけれども、その中でも期待感とともに、肯定感はすごく上がってきていて、今、6割以上というふうになっています。
一方、医療機関は、倫理的に問題があるのではないかということがあって、肯定的と考える方は2割ぐらいで、大きなギャップがあるということになっています。
医療機関は、数年前の調査ではもっと高かったんですけれど、実際に行われてくるということで、いろんな問題が明らかになってきて、下がってきているという状況があります。

子どもはいらないという選択もあり、仕事を優先するという選択もあり、それぞれの選択が尊重されるべきだが、少なくとも、女性が選択を背負ってしまうような社会であってはならないと思うが?

陣内さん:子どもを持ちたい、そういう気持ちをもっとオープンにできる社会であってほしいなと思うんですよね。
私は、本当に子どもが欲しくてしかたがなかったんですけども、それを内緒にしながら、自分で不妊治療をしていたんです。
だけど、それをもっと「私は子どもが欲しいんです」と。
だから会社の方だとか、いろんな環境だとか、もっとオープンにできる社会になってほしいなと。
そうすると、もっと自分1人だけで悩まずにオープンになれるんじゃないかな、前向きになれるんじゃないかなって思います。

これだけ女性の社会進出が進んでいる中で、どういう社会であるべき?

中塚さん:卵子凍結の成功率、妊娠にいかに結び付くか、あるいは安全性というような医療界の議論だけではなくて、やはりその子どもが大きくなってから、あるいは女性のライフプランにどのような影響を与えるかというような社会的な議論が必要だと思います。
それから、こういうふうな選択肢を持つ以外にも、そういうことをしなくてもキャリアを続けていける、子どもを持っても、あるいは妊娠をしても続けていける社会の仕組み作りが大事だと思います。

個人の問題、個人の選択ではなく、社会全体で温かく見守ってほしいですね。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

卵子の凍結をすると、出産できる可能性はどれくらいありますか?

まず、凍結した卵子を使って自然妊娠することはできません。顕微鏡を使って体外受精をするしかありませんが、体外受精の出産率は、日本産科婦人科学会2014年統計によると、30歳で20.6%、35歳で18.1%、40歳で8.8%、45歳で0.8%です。また、ゲストの岡山大学中塚幹也さんにお話しを伺ったところ、10個に1個程度は凍結することで壊れてしまうので、出産率は、上記の数字をさらに下回るということです。
Q2

卵子の凍結には、どんなリスクがありますか?

日本産科婦人科学会によると ①卵巣出血、腹腔内感染症、卵巣過剰刺激症候群 などの健康被害を発生させる可能性がある ②胎児の発育に及ぼす影響は未だ不明な点が多い ③妊娠できる可能性は未だ低く、出産が保証できない ④高齢出産につながるため、母子ともに医学的リスクが上昇する などの問題があるということです。そのため同学会では卵子凍結を基本的に「推奨しない」としています。

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